BIOHAZARDnew theory
FATE OF EDGE

第二十三章「激闘! ヘブンステアー奪還作戦!」


「はああぁぁっ!」

 バーニアを噴かすレンと、こちらに向かってくるリンドブルムが急激的な勢いで接近する。
 レンは腰間から抜いた大通連をすれ違い様に振るい、リンドブルムの首を斬り裂く。

(なんだこの手ごたえは!?)

 刃から伝わってきた肉とも金属とも違う奇妙な感触に、レンは戸惑う。
 惰性で離れながらもレンは反転し、自分が刻んだリンドブルムの傷口を見た。
 そこからは、透明な体液のような物が噴き出していたが、すでに傷の周辺がふさがりつつあった。

「生物じゃない……だが機械でもない……これは………」

 レンを無視して、リンドブルムはギガスへと襲い掛かる。

「この野郎!」

 フレックは僅かに操縦桿を捻り、衝突ぎりぎりですれ違いながら、翼のレーザーエッジでリンドブルムを斬り裂いた。
 レーザーと鱗がぶつかってスパークが派手に飛び散り、焦げた匂いと共に大量の体液が噴き出す。

『リンドブルム、内部温度及び周辺イオン濃度上昇!』
「これは、まさかママやおじさん達が北極で戦ったっていう、ケイ素系構築生命体!?」

 トモエがTINAと協力して、リンドブルムのデータをサーチしていく。

『内部エネルギー反応!』
「回避!」

 キャサリンの指示と同時に、フレックが操縦桿を倒し、ギガスが急激に傾く。
 その機体をかすめ、リンドブルムの吐いた閃光が過ぎ去っていった。

「内部にレーザー発生体に、エネルギー集積組成! ホントにこれ生物なの!?」
「能書きはいいから、対処法は!」
「え〜と、確かママが言ってたのは、内部のエネルギー集積組成に直接攻撃を……」
「あんな動き回る奴にか?」

 高速で旋回し、ギガスの背後に回ろうとするリンドブルムに、フレックは加速させながら機体を左右に振って狙いを逸らし続ける。

「ちっ、早ぇ!」

 高速で迫るリンドブルムに、フレックは逃れられない事を悟ると、いきなり逆噴射スイッチを入れる。

「きゃあっ!」
「うひゃあ!」
「くおっ!」

 いきなりの急制動にブリッジ内に悲鳴が響く中、フレックはレーダーに目を向ける。

『目標、上方に回避しました!』
「これでもダメか!」
「なんて機動性だ………」
「こんなのに飛び回られたら、そりゃ戦闘機なんてひとたまりもないわね」
『目標旋回! 本艦直上!』
「内部エネルギー反応増大!」
「回避っ!」
「了解!」

 上空から降り注ぐ閃光に、フレックがギガスの巨体を強引にバレルロール。
 今度は真横に強烈なGがかかる中、機体をかすめた閃光の衝撃が加わる。
 かすめた閃光はそのまま海面へと突き刺さり、海水と水蒸気爆発を起こして盛大に水柱が吹き上がる。

「どうする? 逃げてばかりじゃ勝ち目は無いぞ」
「そうでもないわよ」

 アークの言葉をキャサリンが否定した時、外部カメラに、リンドブルムの更に上を取る小さな影が映る。


「あああああぁぁぁぁぁ!!」

 背部バーニアを噴かせながら、レンが一気に降下しながら超大上段からの《雷光斬》をリンドブルムの首筋に叩き込む。
 シリコンで形勢された外皮にイオンコートが施された伝家の妖刀が食い込み、一気に斬り裂いていく。
 斬撃はそのまま斬り抜け、リンドブルムの首から大量の体液が噴出する。

「反転してこちらも攻撃! 両舷リニアレールキャノン、ホーミングクラスター弾装填!」
『イエス、マム!』

 ギガスがその巨体を強引に旋回しつつ反転、レンの攻撃で崩れた体勢を立て直しつつあったリンドブルムを照準に捕らえる。

『クラスター弾散布界、クリア!』
「FIRE!」
『撃っちま〜す♪』

『TINA』の能天気な声と共にギガスの46cmリニアレールキャノンが砲弾を吐き出す。
 高速で迫る砲弾は、リンドブルムの手前でその身を展開、内部にあった小型弾頭を無数に撃ち出した。
 その小型弾頭一つ一つが内部のホーミングシステムで目標を狙う。
が、それにあわせるかのようにリンドブルムの角が突如発光し始める。

『クラスター弾の誘導機能に不良発生!』
「どういう事だ!?」
「目標の角上突起から強度の妨害電波の発生を確認。おそらく生体ECMと思われます」
「対誘導兵器用の能力のようね」

確実に狙っての発射だったにも関わらず、リンドブルムの生体ECMに阻まれ、半数以上が目標を捕らえられず自爆する。
 残った弾頭がリンドブルムの体表に突き刺さり、次々と爆発。
 大量の体組織と体液を吹き飛ばすが、リンドブルムの動きは僅かに衰えただけだった。

「体組織、もう再生が始まってます!」
「あまり散らすな! バイオハザードが広がるかもしれんぞ!」
「ハイパーヒートナパーム投下!」
『イエス、マム!』

 ウイルス感染を危惧するアークに、キャサリンがとんでもない指示を出し、『TINA』が平然と実行。
 投下されたハイパーヒートナパームが海面に広がり、周辺を一気に紅蓮に染めるが、程なくしてそれは消え失せる。

「高温消毒用の装備なんて、気が利いてるわね」
「何考えてんだこれ造った連中………」
「他にも訳のわからない装備が色々あったな……」
「リンドブルム再生率30%を超えました!」
「せっかちね。この程度じゃ効きもしないの?」
「あの動きじゃ、誘導砲弾でも当たらねえな」
「直接攻撃か? だがどうやって………」
『手はある。幾ら動きが速かろうと、2対1だ』

 ギガスの機体上に着陸し、過熱したバーニアの冷却を待っているレンが、リンドブルムの動きを観察しながら通信を入れてくる。

「レン、それ使いこなせそう?」
『大体把握しました。連続稼働時間が短いですが、行けます』
「あんな大型飛行体に生身で戦うのは賛同できかねるが……」
『逆ですよ、アーク課長。相手が無駄に大きければ、むしろ小さい方が利点です』
「じゃあやりましょう。『TINA』、何か有効なコンビネーションは演算できる?」
『少々お待ちを、マム』
「いらねえ。レン、前にやったアレでいこうぜ」
『ああ、ガキの時シャトルでやったアレか』
「覚えてるだろうな?」
『忘れられるか。あの時傷まだ肩に残ってるからな』
「……肩の弾痕ってそんな小さい時のだったの?」
「じゃ、それで行ってみましょ。フォーメション名は?」
『シューティング・スター!』

 バーニアを最大出力で噴かして飛び出したレンと、出力調整をしながら操縦桿を押し込むフレックが同時に叫ぶ。
 それが空の激戦の、本番開始の合図となった。



「撃て! 撃ちまくれ!」
「来るぞ、第七小隊は7時方向に退け! コアラ小隊は前進!」
「動き続けろ! 一発でも食らえばあの世行きだ!」

 パワードスーツ部隊を中心とした混合機動大部隊が、ギガント2に波状攻撃を仕掛け、向こうが攻撃の姿勢に移ると素早く退き、更に別部隊が攻撃部位に集中攻撃を加えて体勢を崩す。
 火力も、装甲も、根幹的な大きさすら違い過ぎる相手に、部隊は一進一退を繰り広げていた。

「右腕だ! 撃たせるな!」
「一斉射でお仕舞いだぞ!」
「ダメだ、火力が足りない……!」

 ギガント2の右手のチェーンガンがこちらに向けられようとした時、甲高いジェットの排気音がギガント2へと向かってくる。
 それが何かも確かめず、ギガント2の右腕がそちらへ向いて弾丸をばら撒く。
 低空からギガント2へと向かってきていたF―22ジェット戦闘機が蜂の巣となって爆散する中、直前にそれから脱出していたパイロットが、パラシュートを開きながらもロケットランチャーを構える。

「食らいやがれ!」

 噴煙を上げて進むロケット弾がギガント2の頭部に命中し、一時的にその動作が鈍る。

「今の内に部隊を再編しろ!」
「遅えぞクリス!」

 空になったロケットランチャーを投げ捨てるパイロット、クリス・レッドフィールドに軽口を叩きながら、スミスが混乱している部隊の再編に取り掛かる。

「指揮に回ってくれ! バリーだけじゃ追いつかねえ!」
「分かった! 今ジルとクレアもこっちに向かってる!」

 カルロスが叫びながら指差す方向、軌道エレベーターから少し離れた海上に浮かぶSTARS所有の大型ホバークラフトの方にクリスはパラシュートを操作し、直前で切り離すとホバークラフト内部へと突入するような勢いで入っていく。

「目標、ECM出力上昇!」
「FCSに影響が出ています!」
「クソ、多芸なこった! ECCMは!」
「ジャミング帯が広がってます! 追いつきません!」
「じゃあFCSを切らせろ! マニュアルで狙うんだ! 体内に電子戦機でも積んでやがるのか!」

 内部の緊急指揮所から車椅子に座ったバリー(※オーバーワークによるギックリ腰)がオペレーターの報告に次々と指示を出す。

「ジルが研修部隊を率いて向かってるはずだ! 正確な位置は!」
「到着まであと30分!」
「目標、ダメージ軽微!」

 指揮所に入りながらオペレーターに指示を出しつつ、クリスがインコムを受け取って周辺状況を映し出す3Dビジョンと現場を映す大型ディスプレイを交互に見て現状を把握していく。

「よくパリから来れたな」
「無断出撃だ。あとで始末書と減俸だな」
「クビの間違いじゃねえのか? 生きて帰れればの話だがよ」
「さあな。来るぞ!」
「第一小隊、左脚部集中砲火!」
「ロング・トム、右腕照準!」

 軽口を叩き合った後、大型ディスプレイに映し出されるギガント2の文字通り一挙手一投足をつぶさに観察しながら、二人は矢継ぎ早に指示を下していく。

「昔を思い出すぜ。相手がデカくて固くて火力が桁ハズレな以外、何も変わってねえ」
「初めてタイラントと戦った時の事を思い出したな。第二、第四小隊、撃て!」

 かつてのBOWとの戦いをダブらせながら、二人は指示の声を休めない。

「155mm弾、八発目着弾! 外部装甲に若干の損傷確認!」
「第二および第五小隊、ロケット弾の追加請求!」
「装甲が厚過ぎる……155mmでも歯が立たないのか」
「ナパーム弾と冷凍弾の波状攻撃は?」
「ダメだ、量が少な過ぎる。ギガスに援護を頼めれば別だが……」

 クリスは上空を映している別の大型ディスプレイに目を移す。
 そこでは壮絶な空中戦を演じているギガスとリンドブルム、その間を高速で飛び回るレンの姿が有った。

「完全に手の内読まれてやがるな……第六、右脚部に集中砲火!」
「だが、勝機はあるはずだ。絶対にな!」


「オオオォォォ!」

 咆哮を上げながら、ムサシが国斬丸を手に突撃する。
 国斬丸の背のイオン・ブースターが吐き出すイオンの残滓を煌かせながら、加速した巨大な刃がギガント2の脚部を斬り裂く。

「ガアアアァァ!」

 ムサシの斬撃による損傷個所を目指し、獣その物の咆哮を上げながらロットの駆るウェアウルフMk2が突進、左腕に大型目標破砕用ドリル《バーニングタスク》を深々と突き刺す。
 同時にドリル表面部にセットされた無数の高出力レーザーが内部に照射され、旋回を続けるドリルと共に表面装甲を穿ち、内部の人工筋肉を焼いていく。

『FIRE!』

 足元を狙おうとしたギガント2の両腕のチェーンガンを、アニーのカオス・メーカーの超高速弾と、スミスの駆るヘラクレスのカドゥケウスが逆に狙い撃って目標をそらす。

「撃てぇ!」

 カルロスの号令の元、STARSの隊員達が五人係で抱えていた巨大なバッテリーと砲身を持つプラズマランチャーを発射。
 かつて米軍が対BOW用兵器と開発していた《パラケルススの魔剣》を小型化した試作兵器が、閃光と共にプラズマの固まりをギガント2に炸裂させる。
 胸部に命中したプラズマに、ギガント2の巨体が揺らぐ。

『総員、上半身に攻撃集中!』

 クリスの号令と共に、無数のロケット弾やミサイルが雨あられと撃ち込まれていく。

「CH!」
『了解!』
『M1A1、プラズマ弾装填! FIRE!』
「了解!」

 スミスとバリーの号令に、ロング・トムとバリー所有の戦車の砲塔が同時にギガント2に向かって火を吹いた。
 戦車砲から放たれたプラズマ弾が閃光と共に大爆発を起こし、ギガント2の巨体が大きく傾いだ所に155mm砲弾が直撃する。

「やった!」
『総員退避! 倒れるぞ!』

 ギガント2の転倒を確信した者達が慌てて離れる中、ギガント2の背部バーニアが発動。

「背部バーニア攻げ…」

 それに気付いたスミスがバーニアを狙おうとするが、ギガント2の腕のチェーンガンがこちらに向けられるのを気づいて退避する。

「持ち応えやがった!」
「胸部装甲が損傷している! そこを狙えば!」

 バーニアの噴射で転倒を免れたギガント2に、再度攻撃を加えようとした者達の前で、ギガント2の内部から人工筋肉が溢れ出し、瞬く間に装甲の破損個所を塞いでいく。
 僅かな間を持って、溢れ出した人工筋肉は破損個所を硬質の生体装甲で覆った。

「な……」
「くそっ、巨大ロボのフリしてしっかりと
BOWでいやがる!」
「足も治ってやがる! なんて回復力だ!」
『攻撃再開! 長引けば不利だ!』

 反撃とばかりに、ギガント2が両腕のチェーンガンを連射しながら、背部バーニアを利用して突撃を開始する。

「くそったれえぇぇ!」
「来るなら来やがれ!」

 半ば絶望的な状況の中、金と銀のパワードスーツが己の得物を構えた。



 地上の激戦の余波が、轟音と振動として伝わってくる地下階に、眩いばかりの電光が迸る。
 青白い電光に照らし出されながら、茜色のライト・パワードスーツがからくもそれをかわす。
 しかし直後に紅蓮の炎が地下通路を埋め尽くすように吹き抜け、ライト・パワードスーツは手にした刀で炎を斬り裂き、その隙間を潜り抜ける。
 だが更にその背後から来た電光が肩をかすめ、その装甲を黒く焦がした。

「外しちゃった♪」

 おどけるような口調で炎雷を繰り出していた者、《嵐》のランが右手に炎、左手に雷光をまといながら進み出る。

「すこしは戦い方を変えたようだな」

 それに対し、パーソナルカスタムのライトパワードスーツ《茜》をまとい、愛刀・日向正宗を手にした柳生十兵衛 宗千華は両足を開き、刀をやや引いた中段に構える。

「この狭い地下通路じゃ、この間みたいなフェイクは使えないわね」
「あれは空蝉の術だ。見様見真似だが、れっきとした忍術」
「サムライなのにニンジャの技使うの? デタラメね」
「ちゃんと忍も連れてきているぞ」

 かすかに何かが空を切る音に、ランは思わず後ろへと雷撃を放つ。
 雷撃は完全に気配を隠して迫ってきた何かを弾き飛ばすが、弾き飛ばされながらもそれは体勢を立て直し、四肢を踏ん張って着地する。

「この犬コロ……!」
「私の愛犬、太刀狛だ。れっきとした忍犬だぞ」
「ペット同伴って訳……でもこっちもいるわよ」

 ランが指を一つ鳴らすと、通路の影やパイプの影から、紅朧と黄輝がぞろぞろと姿を現す。

「この子達がいる限り、ここは全て私の攻撃範囲。外部から閉鎖され、狭いこの空間の中で、どこまで避けられるかしらね?」
「間合いなぞ関係ない。当たらねばな」
「そ」

 ランがいきなり電撃を放つ。
 宗千華へと直進してくると思われた電撃が突如としてその間に割り込んだ黄輝によって遮断、そしてその黄輝の体内イオンレーザーによって屈折し、全く違う方向へと放たれる。
 放たれた電撃はまた違う黄輝に当たり、さらにバイパスされて通路の影へと消える。
 各所で電撃の閃光が通路を照らし出し、そしていきなり宗千華の背後から倍増された電撃が襲ってくる。

「くっ」
「こっちもあるわよ!」

 横へと飛んでかわした宗千華に、ランは今度は業火を解き放つ。
 更に今度は二体の紅朧がその間に立ち、その体内から発火体液を噴出、二体の中間を抜けた業火が更に強烈になって宗千華を襲う。

「ふっ」

 不安定な体勢のまま、宗千華は刀を横薙ぎに振るい、業火を両断。
 続けてアームガンから小柄を射出。正確にランの眉間目掛けて撃ち出された小柄だったが、直前で雷の障壁によって阻まれる。

「やる気は充分みたいね。じゃあ、この間のお礼と一緒に、手加減なしで殺してあげる!!」

 ランが両手に雷光を発しながら、間近に来た黄輝二体をそれぞれの手で掴み、宗千華の方へと突き出す。

「《Demolition Storm(破壊の嵐)!》」

 ランが黄輝二体に直接電撃を叩き込むと、黄輝二体が閃光を発しながら体内で電撃を増幅、乱射された誘導用イオンレーザーで拡散されて発射された電撃の嵐が、通路全てを埋め尽くして宗千華へと迫る。

「くっ!」

 大きく後ろへと飛び退きながら、宗千華は背中のバックパックのトリガーレバーを引いた。
 バックパックからマイクロミサイルが飛び出すと、宗千華の前へと飛んですぐさま爆発、周辺にアルミのチャフを撒き散らすが、通路を被い尽くす電撃の威力を完全に消す事は出来ず、電撃は宗千華へと直撃し、その体を壁へと叩きつける。

「死んだかしら?」
「いや……」

 茜の装甲が焦げ、くすぶる中、宗千華は立ち上がる。

「へえ、頑丈ね。絶縁装甲程度じゃ防げないはずだけど」
「手の内を見せ過ぎた。対処法は幾らでも思いつく」

 その時になって、ランは宗千華が先程立っていた場所の両脇の壁に、それぞれ刀が突き立っている事に気付いた。

「なるほど、雷にはアース。常識ね」
「三代兼定に井上真改、アースとして少し高価だがな」

 バックパックの代刀(良業物に業物)を壁に突き刺して威力を減じさせたとはいえ、紅の装甲は黒ずみ、電子臭を漂わせる。

「じゃあ、逃がしようのない距離なら問題ないわね!」

 右手に炎、左手に雷を宿しつつ、ランが突撃をかける。

(格闘戦に持ち込む?)

 宗千華が迎撃に身構えた時、ランの体が跳び上がる。
 両足を伸ばし、宗千華に向けて、とび蹴りのような姿勢になった途端、ランの両足が開かれ、それがスクリューのような旋回を始める。
 その軌道に沿って濡れる筋が虚空に舞った瞬間、その筋、足から放たれた発火体液が一気に発火する。
 続けざまに足から放たれた電撃と混じり、炎雷の渦が水平に宗千華に叩きつけられる。

(逃げ場は、ある!)

 膨れ上がり、通路を埋め尽くそうとする炎雷の渦に、宗千華は逆に突撃。
 渦の中心がまた閉じきらない内にその中央に身を飛び込ませ、一気に渦を掻い潜る。

「いらっしゃい」

 渦を潜り抜けた瞬間、待ち構えていたランが両手を突き出す。
 直後、両手から放たれた炎雷がほぼゼロ距離で宗千華の頭部を襲った。

「これでおしま…」

 幾らスーツのメット越しとはいえ、相手の頭部を完全に黒焦げにするには充分な攻撃だった事をランは確信していたが、それは直後迸った白刃の煌きで否定される。

「がっ………」

 腹部に灼熱感が走り、ランは体勢を崩しかけるが、とっさに後ろへと跳んだ。
 翻った刃が先程までランのいた空間を凪ぐ中、ランは片手で腹部を押さえて更に後ろへと下がる。
 足が床に触れると同時に、押さえた腹部から血が噴き出す。
 噴き出した血が床に跳ねるのに合わせるように、黒焦げとなったスーツのメット部分のみが床に転がり鈍い反響音を響かせる。
 溢れ出していく己の鮮血にまみれながら、ランは宗千華を睨みつけた。

「浅かったか」

 ゼロ距離の炎雷をメットの着脱でかわしつつ、反撃に転じた宗千華が焦げた前髪を愛刀で無造作に斬り落とす。

「あの距離でかわす!?」
「わざわざこちらの間合いに誘導してくれたのはそちらでは?」

 鍔眼帯に覆われていない左眼でランを見据えつつ、宗千華は右手で刀を持ち、左手で口を被う。
 かすかに聞こえた指笛にランが反応した時、物陰に潜んで隙を窺っていた太刀狛が襲い掛かる。
 間一髪で首筋に牙を突き立てられるのはかわしたが、首筋の肉を食い千切られたランの口から絶叫が迸る。

「ああああぁぁ!!」
「いい耳をしていたようだな。やはり小細工では無理か」

 腹と首筋、双方から溢れ出す鮮血をランが手で押さえる中、宗千華がゆっくりと間合いを詰めていく。

「こ……ろ……す。殺してやる!」

 涙が溢れ出している目でランは宗千華を睨みつける。
 そしてその全身から炎と雷が溢れ出し、ランの体を覆っていく。
 炎がランの衣服を焼き飛ばし、雷が全身を舐める。
 雷に舐められた部分は滑らかな光沢を持った陶器のような皮膚と化し、炎が被った傷口に肉が盛り上がり、傷を塞いでいく。
 背からトンボのような薄い四枚羽根が生えて羽ばたき、羽ばたきと共にその羽根の間で小さな雷が生み出される。
 僅かな時間を持って、ランの姿は硬質の皮膚に炎を点らせ続ける両腕、そして羽ばたきと共に雷を撒き散らす羽根を持った、異形の姿へと変態した。

「自己進化、最高ランクのBOWのみが持つ特性か……」
「私がこの姿になったから、あんたはもう死んじゃうしかないのよ!」

 子供のかんしゃくそのままに叫びながら、ランは両手で手近にいた紅朧と黄輝を掴む。
 それぞれの手が紅朧と黄輝に食い込み、紅朧と黄輝の体が見る間に萎んでいく。
 やがて萎みきって乾物のようになった残骸を炎が包み、瞬時にして焼き尽くしてわずかな灰を床に撒き散らす。

「食ったか。己の下僕を」
「あんたもこうなるのよ!」

 背の羽根を高速で羽ばたかせ、浮かび上がったランが高速で突っ込んでくる。
 羽根の動きに合わせるように周辺に電撃を撒き散らしながら、こちらへと向かってくるランに、宗千華は太刀狛と共にこちらも突撃を開始。

「死んじゃえ!!」

 ランの羽根から、先程よりも遥かに眩い光を放つ強力な雷光が宗千華と太刀狛に迫る。
 瞬時にして一人と一匹はそれぞれ左右へと跳び、壁に垂直に着地。
 更には宗千華は姿勢制御用のバーニアを、太刀狛は登坂用のアーマークローを使って平然と壁を走り始める。

「そんなの!」

 ランは両手を広げると、その手に紅蓮の火球が生じさせ、小型の太陽とも思えるそれを次々と投じてくる。

「ふっ!」

 宗千華は刃を返すと、己に向かってくる火球を斬らずに、高速で火球の周囲を逆刃で旋回し、そのまま後方へと引く。
 逆刃で生じた空圧差に引っ張られる形で火球が軌道を逸らし、宗千華の後方に抜けた後に床や壁に着弾して内部に圧縮されていた業火を周囲に撒き散らす。

「斬るだけだとでも思ったか?」

 間合いに入ると同時に、再度刃を返した宗千華の白刃が繰り出されるが、ランが両手を顔前で交差させ、己の体の周囲を無数の放電で被う。
 ランの体を斬り裂くより早く、放電によって迎撃された刀が、床へと落ちる。
 とっさに手を放して感電を防いだ宗千華はそのままランとすれ違うと、素早く反転しながら床へと着地する。
 即座に宗千華は手首を捻ってアームに内臓されていたモーターを起動、愛刀の柄に繋がれていた絶縁繊維を手繰り寄せて刀を手元へと戻す。
 こちらも反転して宗千華の方を向いたランは、刀を構え直す宗千華に向かって微笑。

「残念ね。この状態の私にはそんな物使えないわよ、たとえ銃弾でもグレネードでも、私の嵐に墜とされるだけ」
「絶対的な攻防一体、余程の研究の成果だろうな。だが絶対などと言う物はそう存在しえる物ではない」
「何を言って…!」

 その時、ランはようやく太刀狛の姿が見えない事に気付く。
 アーマークローでランの真上の天井に潜んでいた太刀狛が、アーマーに仕込まれていた物を真下へと落とす。
 直後にそれは炸裂、内包されていたチャフと粉末火薬を撒き散らす。
 ランの羽根に帯びていた電撃がチャフに誘導されて、宙を待っていた火薬に引火。
 避けようも無い距離で起きた爆発にランが巻きこまれ、離脱した太刀狛の背後で爆発を起こす。

「よくやった」

 足元まで来た太刀狛を撫でてやりながら、宗千華は爆炎から目を離さない。
 だが煙が晴れるよりも早く、新たな炎が煙を吹き飛ばす。

「その程度で私が死ぬと思ったの?」

 全身のあちこちが焼け焦げ、肉が千切れた個所から血なのか体液なのか分からない体液を垂れ流しつつ、ランが歯を剥く。

「炎使いに火遁では効かぬか」
「もう種切れ? じゃあ焼死か感電死、好きな方で死んじゃえ!」

 ランの全身から炎と雷が無数に吹き出し、それを周辺にいる紅朧と黄輝がバイパスしていく。
 荒れ狂う業火を宗千華は斬り裂き、襲いくる雷撃をかわしていく。
 だが次第に攻撃は激しさを増し、とうとう裁ききれなくなった炎がとっさに顔を庇う宗千華を被う。即座に宗千華は炎を突き抜け、ダメージを最小限に止めた。

「! 今どうやって抜けたの!?」
「まだ気付いてないのか? お前の弱点が」
「私の嵐に、弱点なんてないわ!」
「普通の者が相手ならな。だが、私はお前の天敵だ」

 髪のあちこちがくすぶる中、右目を被う鍔眼帯の紐が千切れて床へと落ちる。

「この《鬼ノ眼》の前ではな!」

 宗千華の鍔眼帯の下にあった義眼、空間内全情報探索義眼《鬼ノ眼(オーガアイ)》が発動。
 眼球内の黒目の部分を赤いサークルが回り、その目に映る情報を全て宗千華の脳内へと送り込む。
 気温、大気組成、イオン濃度、風向、赤外線反応、放射線反応、常人なら理解しきれない程の情報量から宗千華は必要な情報だけを選別し、襲いくる攻撃を見定める。

「それが、どうした!」

 ランの手から発火体液が分泌され、放たれ、着火していく状態、そして発火時の温度や燃焼範囲をリアルに見ながら、その中心を正確に宗千華は斬り裂く。

「このっ!」

 発光素子から誘導用のイオンレーザーが射出され、それに羽根からの電撃が誘導されていく。
 すでにその時にはイオンレーザーの軌道上から身をかわし、地球上でもっとも最速を誇る物体の攻撃を避ける。

「これなら!」

 ランの炎雷が紅朧と黄輝をバイパスして迫るが、宗千華の《鬼ノ眼》に紅朧の体内で生成される発火体液と、黄輝の体内の生体発電の様子が映し出される。

「太刀狛!」

 宗千華の号令で、太刀狛がもっとも手近でもっとも発電の電子臭が強い黄輝を鍛えられた鼻で瞬時に判断、電撃をバイパスする前にテクタイト・コーティングが施された牙を突き立てる。
 深くえぐられ、体内の放電スパークを撒き散らしながら床へと落ちる黄輝の骸の隣に、上下に両断され、己自身の発火体液で炎上する紅朧の骸が落ちる。
 バイパスし損ねた電撃がそのまま壁に直撃して壁を打ち砕いて黒く焦がし、業火が一人と一匹の手前で途切れて天井を焦がす。

「お前の攻撃は〈見る〉事も〈嗅ぐ〉事も出来る。分かる攻撃は何も怖くない」
「じゃあ、見えすぎる程にしてあげる!」

 攻撃を完全に阻まれ、憤怒のランの全身から発火体液が滴り落ち、それがランの周囲をまとう電光に導かれて虚空に業火と電撃を網の目のように構築していく。
 瞬く間にそれは激しさを増していき、青白い電光と紅蓮の業火が完全に周囲を染め上げる。

「あとかたもなく消えちゃえ!《Vanishing Tempest(消滅の嵐)》!」

 地下通路の空間全てを埋め尽くし、荒れ狂う炎と雷の嵐がその中にある物全てを飲み込み、消滅させていく。
 時間にして十秒にも満たない時間の間、荒れ狂った嵐がその威力を失い、虚空に消えていく。
 あとには、焼け焦げ、崩落しかけた壁や天井、僅かに燃え残ったパイプの破片等が、陽炎と電子臭を漂わせるだけだった。

「あは、あはははははは、あっはははははは!」

 自分以外の何も残っていない状況に、ランの口から哄笑が漏れる。それは高まっていき、遮る物の無い地下通路に響き渡っていく。
 どこかでダメージに耐え切れず、天井が崩壊した音が響いた時、ランの腹に激痛が走った。

「はは……!?」

 哄笑を続けていたランは最初それが何か分からず、不思議そうな目で激痛が走った個所を見た。
 それは銀色をした、長さ30cm程の太いモリだった。

「何、これ?」

 何が起きたか理解出来ないランがモリに手を伸ばした時、体内に激痛が走る。
 モリの先端部が体内で広がって臓器に突き刺さった事を悟る前に、今度はモリの後端からワイヤーが飛び出し、床へと深く突き刺さる。

「何よ、何なのよ!」

 混乱していく中、ランが電撃をモリに放とうとするが、体内で練り上げる前に電流は全てモリからワイヤーを通じて床へと流れ出していく。

「無駄だ。お前の雷は完全に封じた」

 どこかから響いてくる声に、ランの混乱が頂点に達する。
 だがランの目の前の床の一部が突然跳ね上がり、その下から宗千華と太刀狛が跳び出してくる。

「な………どうやって……」
「この地下通路は下水管の点検路と一部交差している地点がある。ちょっとそこに潜り込んだだけだ」

 跳ね上がった床の一部、綺麗な円状に斬り開けられたそれを見たランが、予想もしてなかった退避方法に歯噛みする。

「こんな物で!」

 ランは己の炎でモリを焼こうとするが、モリは予想以上の強度で融ける様子が無い。

「HIME―DIA(高硬度高耐性人口ダイヤモンド)製だ。そう簡単には融けん。お前の手は全て見せてもらった」
「こんな物をいつの間に!」
「最初から用意していた。お前のような物を相手するためにな」

 背中のバックパックからモリを射出したランチャーを切り離しつつ、宗千華が滑らかな動作で刀を構える。

「私のような? どこでそんな事!」
「私には年の離れた兄がいた」

 どうやっても抜けないモリにランが歯軋りする中、宗千華は隙無く構えたまま独白を始める。

「文武に優れ、十兵衛の名を告ぐのは確実とまで言われた男だったそうだ。だが、私が生まれる前に死んだ。26年前のアンブレラ事件の発覚する少し前、アンブレラの秘密研究所の調査に赴いた時、開発中のBOWとの戦闘に巻き込まれて瀕死の重傷を負ったそうだ」
「それがなに!?」
「兄はその時、T―ウイルスに感染した。己が人でなくなっていく中、最後まで兄は自我を持ち続け、ワクチンが間に合わぬ事を知ると最後の理性で己の首を斬り落としたそうだ」
「はは、そんなの……」
「兄が戦ったBOWは、雷を使ったそうだ。部下を全て失いながらも、兄はそれを倒し、そしてT―ウイルスに感染して自害した。以来、柳生不敗のために同様の相手の対処法は構築してきた」
「そう、確かに私の素体となったBOWは日本で研究されてた事もあったみたいね。じゃあ、兄妹そろって死になさい!」

 憤怒と怨嗟の混じった顔を浮かべるランの全身から発火体液が溢れ出し、周辺を紅蓮に染めていく。

「そろそろそれにも見飽きてきた。決着を付けさせてもらおう」

 宗千華は迫る業火に対し、両足を開きやや腰を落として、両手で持った刀を腰元へと引いて中段に構える。
 業火が宗千華を覆い尽くす瞬間、白刃の煌きが幾重にも走る。
 煌きと共に断ち切られた業火が霧散し、残った炎が宗千華の纏う茜の装甲を照らし出す。

「柳生新陰流、《月光》」
「こ、の……!」
「柳生家十九代目頭首、柳生十兵衛 宗千華。推して参る!」

 宗千華が名乗りを上げると、背後の太刀狛が初めて高い鳴き声で遠吠えを上げる。
 遠吠えが響き渡り、通路のあちこちで反響していく。

「うるさい、うるさいうるさいぃぃ!!!」

 ランが自らの手を口へとあてると、その表面にある発火体液の分泌線を噛み千切り、強引に口腔内に溜める。
 更に口腔内からも大量の発火体液を分泌させつつ、大きく息を吸った。

「がはあぁっ!」

 ランの口腔内から、圧縮された発火体液が吐き出される。それは大気に触れると同時に着火し、巨大なナパーム火球となって宗千華と太刀狛を襲う。
 炸裂したナパーム火球が、宗千華と太刀狛を完全に飲み込み、消失させていく。

「は、あはははは、これでもう」

 ランが勝利を確信した時、今だ太刀狛の遠吠えが周辺に響いている事に気付く。

「そんな! 今完全に…」
「錯覚だ」

 至近距離で響いた宗千華の声と共に、白刃がランを袈裟切りに斬り裂く。

「ああっ!」

 傷口から鮮血を噴き出させつつ、ランが声のした方向を見た時、宗千華の姿が揺らめくように消える。

「な!?」
「柳生新陰流奥義、《月下朧影斬げっかろうえいざん》」

 宗千華の姿が揺らめく度に白刃は振られ、ランの体に傷を刻んでいく。
 ランは反撃に転じようと炎を繰り出すが、それは揺らめく宗千華の残像を打ち抜くだけだった。
 動きのタイミングを故意にずらし、相手に錯覚を起こす《無拍子》と言われる日本古武道の奥義の動きで動き続けながら、宗千華の攻撃はその数を増していき、そして最後は無数とも言える白刃がランを斬り裂く。

「あ………」
「滅」

 最後にはランの前後に同時に宗千華の残像が現れ、横薙ぎと唐竹にランを両断する。
 全身の傷口から血を噴き出し、四つに割られたランの断面に内包していた電撃が走り、体内の発火体液に着火。瞬時にしてその体が火柱となって天井へと炎と雷の残りを吹き上げて燃え上がる。

「ふう………」

 すでにランの骸が形すら判別できないほどに燃え尽きていく中、宗千華は呼気を吐いて愛刀の血糊を払い落とす。

「来世があるのなら、嵐も刃も関係ない静かな人生を送れ」

 それだけ言い残すと、その場に背を向ける。
 そして己の現状を確かめ、あちこちから火傷の痛みが這い上がって来るのに僅かに苦笑を浮かべる。

「また氷室に怒られるか………まあ傷物になった責任は後で水沢に取ってもらおう」

 同意か、太刀狛が一声鳴く中、宗千華は愛刀を鞘へと収める。

「さて、上はまだ片付かないか?」



「くっ!」

 リンドブルムの吐く閃光を、レンがロールスライドでかわすが、Gが全身を襲い、遠のきそうになる意識を強引に引き戻す。
 バーニアの過剰過熱を示すアラームが鳴り響く中、レンはリンドブルムの背後に回りこみ、バーニアの強制停止冷却と同時にその背に降り立つ。

「おおおぉぉぉ!」

 そのままリンドブルムの背を駆け上り、長い鎌首を一気に登ると、その脳天に手にした刀を深々と突き刺した。

「ふんっ!」

 レンは刀を捻り、傷口を拡張して広げると一気に引き抜き、左手を懐に入れるとそこからサムライソウル3を引き抜き、傷口へと向かって連射。
 複合型HM(重金属)AP弾が傷口を更に深め、ヒドラ・エクスプローション弾が拳銃弾とは思えない破壊力で内部を爆破、傷口を穴へと変えていく。
 さすがに頭部への直接攻撃は効いたのか、リンドブルムが大きく体を揺らし、頭を振ってレンを払いのける。

「今だっ!」

 虚空へと放り出されながらレンが叫ぶと、それと入れ違うようにギガスが迫る。

「もらった!」

 フレックがギガスを更に加速させながら、悶えるリンドブルムの鎌首を翼のレーザーエッジですれ違い様に両断する。

「やった!」

 切り飛ばされたリンドブルムの頭部がすっ飛んでいくのを確認したトモエが、ブリッジ内で歓声を上げる。
 しかし、リンドブルムの胴体側の首の断面から膨大な体液を垂れ流しながら、新たな首が生えていく。

「うそっ!?」
「なんだありゃ!」
「冗談きついぜ………」
「なるほど、あれはドラゴンの姿をしているだけの不定形生命体って所かしら?」

 ブリッジ内の者達が予想外の事態に驚く中が、キャサリンだけが冷静に状況を分析する。

『目標組織活性化と思われる温度上昇。頭部完全再生までの予想時間は五分くらい♪』
「対空大型ミサイル光学照準! 発射!」
『イエス・マム!』

 ギガスの側面の発射口が開き、四発の大型ミサイルがリンドブルム向けて放たれる。
 噴煙を上げて大型ミサイルはまだ頭部の再生途中のリンドブルムに迫るが、リンドブルムの体の各所から口から吐いた物よりは弱い閃光が放たれ、ミサイルがことごとく撃墜される。

「そんな、どこからでもレーザー射出可能!? どういう仕組み!?」

 トモエがすさまじい速さでキーボードを叩き、リンドブルムの予想体内組織をシュミレートしていく。

「急速回頭! 再度直接攻撃!」
「了解! 今度はその腹捌いてやる!」

 フレックが操縦桿を倒し、ギガスを旋回させる中、ギガスのセンサーに新たな反応が飛び込む。

『目標内部に動体反応!』
「今度は何だ!」

 アークが叫んだ時、リンドブルムの腹が蠢き、そこから何かが飛び出してくる。

「エイリアン!?」
「最初っからでしょ。まあ似たような物みたいだけど」

 リンドブルムの腹を突き破り、2m程の小型のドラゴンが体が姿を現す。

「子供か!?」
「メスだったのかしら?」
「違います! 多分、分裂体です!」
『内部に高エネルギー反応! 生体ミサイルと推測!』

 トモエと『TINA』が叫んだ時、小ドラゴンが旋回中のギガスへと迫ってくる。

「対空防御!」
『イエス、マム!』
「照準をこっちに回せ!」

 アークがコンソールの照準用トリガーレバーを握りこみ、自分の席のディスプレイに表示される小ドラゴンの動きを見据える。

「そこか」

 僅かな挙動を見逃さず、アークがトリガーを引く。ギガスの対空迎撃用リニアガンから超高速弾が放たれ、小ドラゴン二体が次々と撃ち落される。
 だが残った一体が航空力学を無視した軌道でリニアガンの射程範囲から逃れ、ギガスの下部へと迫る。

「下部機銃を…」
「間に合わねえ…」

 ギガスに激突間近で、突然小ドラゴンが爆散。

『間に合ったか』
「レンか! そっちは大丈夫…」

 フレックが3Dレーダーでレンの位置を見た時、レンが海面に激突直前まで降下している事に気付く。

「レン!」
「早くバーニアを吹かせ!」
『まだだ! あと、3、2、1』

 真上にサムライソウル3を構えたまま、レンの体が海面に触れる寸前、モーションバーニアユニットが再起動、海面に派手な軌跡を残しつつ、水平飛行をしばらくして再度宙へと舞い上がる。

「心臓に悪い事しかしやがらねえ………」
「ホント………」
「何を今更。さて反撃よ」
「……タフな連中だ」

 アークが呆れる中、旋回を終えたギガスが再度リンドブルムへと相対し、その間近にレンが浮上してくる。

「今度は確実に仕留めてやるぜ……」
『その通りだ』

 ギガスの上甲板に着地したレンが、右手で大通連・改を正眼に構え、左手に握ったサムライソウル3を刃の背に添える。

『行くぞフレック!』
「おう!」

 レンに応えつつ、フレックはギガスを更に加速させた。



「フレーム、完全固定!」
「神経接続、確認シーケンス!」
「バイオフルード、充填完了!」
「最終調整は行きながらするわ!」
「カーゴの準備は!」
「すでに出来てます!」
「戦況は!?」
「苦戦してます! やはり、あのサイズの兵器を相手をするには……」
「これしかないわね。すぐに発進!」

 シェリーの声と共に、研究所の一角が開いていき、そこに巨大なコンテナに乗せられた巨体がゆっくりとコンテナ毎起こされていく。
 コンテナの上部が大型のカーゴジェットに接続され、そのカーゴヘリにシェリーと智弘を中心とした科学者達が乗り込んでいく。

「これを戦闘機動させるのは無理よ! 20分も持たないわ!」
「M87星雲の光の戦士より長いじゃない」

 警告する由井博士にシェリーは笑顔で応えながら、ヘリのハッチを閉める。

「『ATLUS』、発進!」

 シェリーの声と共に、巨大なカーゴを牽引したカーゴジェットが飛び立つ。
 星への階段を開くための、最終兵器と共に………




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