BIOHAZARDnew theory
FATE OF EDGE

第二十八章「決戦! 天空の死闘!」


 二つの銀弧が、虚空を凪いだ。
 風切り音と共に、互いに僅かな間合いでかわした刃が、僅かに衣服の切れ端を飛ばす。
 レンは即座に手にした大通連・改を引くと、回避しづらい胴体中央部を刺突で狙う。
 対してジンは手にした妙法村正を逆さに構え、レンの刺突の先端を受け流して軌道を変える。
 刺突が伸びきる直前を狙い、ジンが刃を真下から斬り上げるが、レンは片足を軸に体を反転、斬り上げをかわしつつもその左手が懐のホルスターへと伸びている。
 瞬時に抜かれたサムライソウル3から極至近距離で放たれた弾丸を、ジンは驚異的、もしくは異常なまでの反射速度でかわすと、こちらも自らの懐からレイ・ガンを抜いて発射。
 後ろへと倒れこみながらレンが鼻先をかすめる閃光をかわす中、刀を持ったままの右手を振るって袖の中から数枚の呪符を宙に舞わせた。

「オン アビラウンケン! 招鬼顕現!」

 後ろへと倒れながら跳んだレンの左手がサムライソウル3を握ったまま刀印を組み、呪文を唱えると呪符は鳥の姿の式神となって襲い掛かるが、ジンがレイ・ガンを握ったまま左手をかざすと、その場に生じた障壁に阻まれ、式神は砕けた呪符となって散らばっていく。

「さすがだね、兄さん」
「そうでもない。地気が無い場所では、強い式神も呼べん」

 距離を取って体勢を立て直したレンに、ジンが刀を構え直す。

「いいの? そんな事喋っちゃって」
「構わん、どうせお前もその力は使いこなせないのだろう?」
「……なんでバレたかな?」
「今まで、その障壁以外の力をほとんど見せてない。しかも滅多に使わない。能力戦闘の訓練はノウハウが無いから大して積んでない。だから使えない。違うか?」
「それも、経験って奴?」
「ああ。それにその程度の障壁ならば、この大通連の妖気の前には何の障害にもならん」
「は、あはははは……」

 そこまでレンが言った所で、ジンが無邪気に笑う。
 子供のような笑顔でレンを見つつ、ジンの体から殺気が増す。

「すごい、ホントに兄さんはすごいや。もっと教えてよ、戦いの事色々と」
「後は体に教えてやる。敗北という物をな」

 呼気を整え、レンの体からも殺気が増し、研ぎ澄まされていく。

「それは、勘弁してほしいな」
「残念だが、無理だ。お前は罪を犯しすぎた。そしてお前は司法で裁けるような生ぬるい存在ですらない」
「そっか。じゃ、やろうか」

 黒い旋風と白い旋風が、銀弧の煌きと、灼熱の閃光を伴い、再度激突した。



「レン君がジンと? 他に4エレメンツは?」
『こちらには来ていない。通路の隔壁が遮断されている。別経路で向かう』

 宗千華からの通信を聞きながら、シェリーは思考を巡らせる。

「向こうに出てきたって事は、こっちもそろそろね………」
「あった生体研究スペース!」

〈Bio Research Labo〉と書かれたプレートを見つけたトモエが叫ぶと、メンバー達に緊張が走る。

「さて、どこから当たっていくべきかしらね?」
「まず、この奥の一番大きい所は?」
「そこが当たりだったら最悪ね……」

 ちょっとした工場くらいの規模がある研究室に当たりを付けたチームブラボーが、そちらへと向かって進んでいく。
 障害もBOWの襲撃も無く目的の部屋の手前まで進んだ所で、シェリーはサインを送って素早く部隊を扉の左右へと分ける。

「おかしいわね。気配が無さ過ぎるわ………」
「逃げたのでは?」
「ここまでしておいて? そんな弱気な連中だったら苦労しないわ」

 シェリーの言葉に、質問した隊員を含め、皆が首を傾げる。

「さて。まずは行って、見ましょうか!」

 シェリーが拳の一撃で、研究室の扉をぶち破る。
 だがそこに広がっていた物に皆が愕然とした。

「な!?」
「なんだこの規模は!」
「大当たりね………」

 室内に広がっていたのは、おびただしい数のBOW用培養槽だった。
 空の物が多かったが、そのどれもが最近まで使用された痕跡があり、残った物にはSTARS襲撃に使われた新型BOWの培養途中の物が浮かんでいる。

「これって………」
「正真正銘、工場ね」
「ここで作られたのが、本部を襲ってきやがったのか………」

 シェリーが制御システムと思われる大型コンソールを見つけると、それを操作して培養データを眺めていく。

「……なんて事」
「ちょっ、これほとんどオートメーション化されてる!」
「自動化できる程のノウハウを蓄積してたって事ね…………いったいいつから?」

 脇で見ていたトモエが絶句する中、シェリーはその部屋の更に奥に別の部屋がある事に気付いた。

「まだ、何かあるわね」
「これ以上、何が?」

 想像の限界を超える状態に顔を青くしているリンルゥが、その奥へと続く扉の方を見た。

「決まってるわ。もっとやばい物よ」
「……隊長、見ないで爆破するってのはどうでしょうか?」
「オレもその案賛成」
「ボクも………」
「ダメに決まってるでしょ」

 シェリーが平然と奥の扉へと近寄ると、そこに手を伸ばそうとした所で扉が勝手に開いていく。

「……どうぞって事ね」

 意を決して中へと入るシェリーに、他のメンバー達も恐る恐る入っていく。
 室内にも幾つもの培養槽が浮かんでいたが、先程と違って室内は薄暗く、中に何が入っているかまでは分からない。

「これもBOWかな……」

 リンルゥが装備品からライトを取り出して培養槽を照らす。
 そしてそこに入っている物が何か気付いてその場にへたり込んだ。

「どうした!?」
「お、おいこれ見てみろ!」

 他の培養槽を照らしたメンバーが声を上げる。
 それは、瞬く間に広がっていった。

「…………」

 シェリーですら、その中に浮かんでいた物に絶句してしまった。

「お、お父さん…………それにアークおじさん……」

 リンルゥが自分が見てしまった物、レオンやアークそっくりの顔をした、培養槽の内容物を震える手で指差す。

「ちょっ、これはスミスさん!?」
「おい、ジル教官もいるぞ!」
「こっちはクリス課長!?」
「何の冗談だ!」
「冗談じゃないわ………」

 驚愕の声が漏れる中、シェリーの口から振るえる声が響く。

「そう、そういう事。ここは、4エレメンツの開発室なんだわ………」
「待ってママ! じゃあ4エレメンツの実験体って!」
「私達、STARSのクローン体よ。多分ここのは全部失敗作か欠陥作」
「その通りね」

 響いた声に、皆がそちらを振り向く。

「レベッカ!? いえ、レベッカのクローンね」

 そこにいた、かつて共に闘った仲間と同じ顔をした女性に、シェリーが話し掛ける。

「ここではマザーって呼ばれてるわ。ここまで来たご褒美に、聞きたい事が有ったら教えるわよ」

 奥のコンソールデスク越しに話し掛けてくるマザーに、シェリーは鋭い目を向ける。

「なぜ、私達のクローンを」
「簡単よ。あなた達が生み出されたBOWを次々に撃破していったから。すなわち人間の中にBOW調整体を上回る可能性を発見、開発したのよ」
「どこから、私達のサンプルを?」
「色々な所から。みんなガードが固くて、苦労したわ」
「どれだけのクローンを作ったのかしら?」
「さあ? 多過ぎて分からないわ。調整段階で形にならなくて破棄したのもたくさんあったし。ここにあるのも、調整データ取り用のサンプル。もう用済みの物よ」

 轟音と共に、シェリーの拳が手近の培養槽を叩き割る。
 その中に入っていた自分のクローンが外へと飛び出すが、数度蠢いたかと思えばすぐに動かなくなった。

「どこまで、馬鹿にしてくれるのかしら?」
「無論、あなた達に勝つまで。私が育てた子供達がね」

 一気にマザーへと間合いを詰めたシェリーが、その拳をマザーに叩きつける寸前、その拳が止まる。

「あなた………」
「私の役目ももう終わってるわ。ここのシステムを止めたければ、あそこと向こうのコンソールから停止コードを打ち込めばいい。コードは〈WII EDITION〉と〈CHRONICLE〉」
「分かったわ」

 それだけ聞くとシェリーはマザーに背を向ける。

「いいの?」
「その必要は無いわ」
「あ………」

 トモエが問う中、マザーの方を照らしたリンルゥがある事実に気付く。
 マザーの胸から下が、コンソールと一体化している事に………

「彼女も、ここのシステムの一部よ」
「生体コントロールユニット!?」
「そう。私の役目は育てる事。あとは他の子同様、破棄されるだけ」
「でも………」
「信じているから。あの子達が勝つのをね」
「…………」

 皆が黙って、その部屋を後にしていく。
 だが一人だけ残った人物がいた。

「あの、ボクの母さんが、インファ・インティアン、いやエイダ・ウォンがここに来ませんでしたか?」
「私が知っているのは、この部屋の中の事だけ。ただ、少し前にBOW製造プラントに侵入者がいたのは確かよ」
「そ、その人はどこに!」
「ジンが連れて行ったわ。多分生きてると思うけど、どこかまでは知らないわ」
「やっぱりここに母さんが! ありがとう!」

 礼の言葉と共に、リンルゥが皆の後に続いて部屋を出て行く。
 コードが打ち込まれ、システムが停止して一人残ったマザーが薄れていく意識の中、顔に笑みが浮かぶ。

「あれも、可能性の一つなのね………あなた達の可能性とあの子達の可能性、上の方が勝つのよ………さて、本当はどっちかしらね……………?」



「旧STARSのクローンだと?」

 偶然見つけたサブ通信室で、ステーション内の通信網回復を試みるために数名の護衛と共に単独行動していたアークが、シェリーが伝えてきた内容に驚愕する。

『いたわよ、あなたも』
「で、はぶられた訳か。まあレオンにシェリーにサムライじゃオレなんか出る隙はないか………」

 ブツブツと愚痴りながら、簡単に復旧しない通信網にアークがてこずっていた時だった。
 自動ドアの開く音がしたかと思えば、通路の方から何か重い足音が響いてくる。

「……今こっちに向かっているメンバーは誰かいたか」
『いえ、突入部隊で単独行動を取っているのはそこにいるメンバーだけですけど』

『TINA』から返ってきた答えに、アークの手が止まり、そばの銃と腰のグレネードに手が伸びる。

「確か、Jrはもう4エレメンツの一人と交戦していたな………」
「まさか………」

 護衛のメンバーの一人が生唾を飲み込んだ直後、サブ通信室のドアが開く。
 そこに現れたのは、漆黒のプロテクターを体の各所にまとい、同じく漆黒のガントレットを腕に嵌め、そして彼らにとって極めて見覚えのある人物と同じ顔をした男、4エレメンツ、《鋼》のFの姿だった。

「通信システムへの介入要因発見、排除」

 無感情にそう言いながら、Fが腰のホルスターからM500を抜いた。
 同時にアークもP90を片手で向けながら、後ろ手にもう片方の手で何かを投じた。
 飛来してくる物に気付いたFがM500の狙いをそちらに向けた瞬間、その投じられた物、ピンを抜かれていたMW(電磁波)グレネードが炸裂する。

「退避!」

 電磁波の直撃でFの動きが鈍った瞬間、アークの号令でその場にいた者達全員がドアへと駆け出す。
 対策が講じてあったのか、すぐに動き始めたFのそばをアークは通り過ぎながら、用意してあった護身用とは桁違いの出力を誇る超高圧スタンガンを最大出力でFへと押し当てる。

「あんたとマトモに戦う気は更々無いからな」
「すげ……」
「なんて手際のよさ………」

 第七小隊を半壊させた相手をあっさりと煙に巻いたアークに、護衛のメンバー達が舌を巻く。

「油断するな、すぐに追いついてくるぜ」
「レオン長官を瀕死にした相手に、どう戦えば………」
「本隊と合流するぞ。ロートルと普通の特殊部隊員じゃ相手にならん」
「シェリー隊長なら、なんとか………」
『……アーク、悪いけど無理みたい』

 通信機から、シェリーの声が響いてくる。その口調には、明らかな緊張があった。

「まさか、そっちにも!」



「その通りよ」

 アークに応えながら、シェリーは目の前にいる相手を見た。
 全身にシンビオシスアーマー《マクスウェル》をまとった、肉感的な銀髪の女性、4エレメンツ《鏡》のミラを。

「来たわね、おばさん」
「来てあげたわよ、小娘」

 生体装甲をまとった者同士、己の両拳を打ち合わせると構える。

「ママ……」
「隊長……」
「指揮権をフィオに委譲、他のプラント発見及び生存者の探索に移りなさい」
「しかし!」
「知っているでしょう? あなた達の手に負える相手じゃないって………」
「こっちは別に構わないわよ?」

 マクスウェルの有機装甲が盛り上がり、筋力と防御力双方を高めていくミラが余裕を見せるのを、シェリーが舌打ち。

「……私も新必殺技でも開発しとくべきだったかしらね?」
「どうせ、役に立たないわよ!」

 その一言と同時に、ミラがシェリーへと襲い掛かる。
 繰り出された拳を有機装甲が覆い、無数のスパイクが生えた体重の乗った拳をシェリーは両腕を前に合わせてかざし受け止める。
 爆音か破裂音を思わせるような衝撃音が響き渡り、受けの姿勢のままシェリーの体が数m後方へと吹き飛ばされるが、なんとか堪えた。

「こっちの番ね!」

 ガードを解いたシェリーが一足で間合いを詰め、ミラの胴を狙って横蹴りを繰り出す。
 瞬時にミラの胴部分の有機装甲が分厚く強化され、蹴り足を平然と受け止める。

「その程度だったかしらね…!?」

 ミラが余裕を見せようとした瞬間、シェリーの軸足が再度床を強く踏みしめ、止められた足の蹴り足から再度の衝撃が走り、ミラの体を数m横へと吹き飛ばす。

「経験って物が違うのよ、そんな簡単に私を倒せるなんて思わない事ね」

 中国拳法では発勁、光背流では光破断と呼ばれる技を足から放ったシェリーが、お返しのように余裕を見せる。

「すごい……」
「早く行きなさい!」
「り、了解!」

 両者の戦いを唖然と見ていたメンバー達がシェリーの怒声に慌てて走り出す。

「リンルゥ」
「は、はいシェリー隊長!」
「あの場所、近いから寄ってきなさい」
「! 了解!」

 呼び止められたリンルゥが、シェリーの言わんとする事が何かを悟って敬礼すると他のメンバー達の後を追って走る。

「さて、邪魔はいなくなったわね」
「決着を付けるわ、今日、ここで!」

 有機装甲で覆われた足が、同時に繰り出される。
 狙いは同じ、頭部狙いのハイキックを同じく片手を上げてガード、だがそこでマクスウェルから伸びた触手が蹴り足をブロックしたシェリーの腕を絡め取る。
 わざと足を固定させたミラのもう片方の足がシェリーのアゴめがけて跳ね上がる。
 その足の有機装甲に凶悪なスパイクが生えるが、シェリーはためらいなく空いている拳を突き出し、逆に腕を覆うベルセルク2の有機装甲にスパイクを突き刺し、強引に蹴りを止めた。

「い、やあぁ!」

 触手が絡んだままの腕を体ごと振り回し、シェリーが強引な投げでミラの体を壁へと叩きつける。

「がっ!」

 背中からモロに叩きつけられたミラが片腕を伸ばすと、マクスウェルから鋭利なクローが伸びてシェリーの顔面を狙う。
 それが顔面へと届く前にシェリーは上体を後ろへと反らしつつ、クローを蹴り上げて軌道を反らす。
 そこで互いの拘束が外れ、体勢を整える間もなく、ミラが強引にシェリーのボディへとタックルを叩き込む。

「ぐっ!」

 十分な勢いでは無かったが、不安定な体勢でマトモに食らったシェリーが壁へと吹き飛び、叩きつけられる。
 シェリーの体勢が崩れた所に、ミラの体が前転しつつ、高く上がった足が浴びせ蹴りとして振り下ろされる。
 その足からスパイクどころかブレードと言っても差し支えない太さと鋭利さの凶器が生えてシェリーの脳天を狙うが、シェリーの両手が真上へと伸ばされると、そこで拍手を打つように合わされた。

「小技に頼りすぎよ!」

 マクスウェルのブレードを白刃取りで受け止めたシェリーが、それを勢いよく捻ってへし折る。
 ブレードをへし折られて床へと着地したミラに向かって、シェリーが渾身のサイドキックを放つが、マクスウェルが素早く全身を覆い、衝撃を受け止める。

「効かないわね!」

 先程と同じ手を食う前に、ミラの手がシェリーの蹴り足に伸びるが、シェリーがとっさに距離を取ってそれをかわした。

「じゃあ、こういうのは!」

 ミラが着地した体勢のまま、全身に力を入れる。
 するとマクスウェルから無数のトゲとも触手ともつかない物が噴き出し、次々とシェリーを襲う。

「このっ!」

 襲ってくる鋭利な触手をシェリーは次々と打ち払い、叩き落すがそれを掻い潜った一本がシェリーの胸に突き刺さる。

「うっ!」

 ベルセルク2の有機装甲で体自身には軽症で済んだが、それを引き抜きつつシェリーは更に距離を取る。

「小技でも、削ってく事は出来るわね。そして《鏡》の名が示す通り、半端な攻撃は私には効かない」
「まったく厄介な物を………」

 ミラの驚異的な戦闘力と防御力を打破する手段を脳内で模索しつつ、シェリーの拳が再度繰り出された。



「とうとう残った4エレメンツ、フル登場ね………」
『戦況は一進一退の様です、マム』

 キャサリンと『TINA』が戦況を分析する中、智弘が苦戦してるであろう妻の事を思い苦悩する。

「数で勝てる相手じゃないって事は分かってるけど、誰か増援に送れれば……」
『オレが行く! 突破口を開け!』
『無茶言うな親父! この状況でどうする気だ!』

 レッドフィールド親子の怒声の向こうで、無数の銃声と爆発音、押し寄せてくるBOWの咆哮と断末魔の大合唱が響いていた。

「寸断されたわね」
「退路を絶たれてる……突入部隊は戻りたくても戻れない状況に追い込まれた」
「でも、なぜ? それなら4エレメンツを総動員してギガスを占拠すれば済むのに。なぜそこまでオリジナルと4エレメンツを戦わせたがるのかしら?」
『ひょっとして、そちらが目的なのでは?』
「どうして、そこまで?」

 キャサリンがその最終的な疑問に辿り着いた時だった。
 突然、それまで沈黙していたオリンポスのシステムの一部が復旧を始める。

「! システムの把握に成功した?」
『いや、これから突入する所だ』

 チームアルファの現リーダーである宗千華からの返信にキャサリンの顔がこわばる。
 やがて、オリンポスの全ての画面に、一人の白衣姿の老人男性の姿だった。



「! あいつは!」

 映し出された姿を見たアークが、その老人が見覚えのある人物だという事に気付いた。


「まさか………」

 だいぶ昔に見たアンブレラの主要研究員の名簿に、その老人の姿を見かけた事をシェリーが思い出す。
 そして、その人物が死亡扱いとなっていた事を。


「親父、知ってる顔か?」
「ああ、確かネメシスシリーズの開発責任者だ………だがあの北極での戦いで死亡したはず……」

 アンブレラ壊滅作戦で、実際に遭遇した者達からの話をクリスは思い出す。


『初めまして、そして久しぶりだね。STARSの諸君』
『通常通信、ステーション全域に通常電波っで有線、無線双方で流されています』
「………」

『TINA』からの報告を聞きながら、キャサリンは無言でその老人を見ていた。

「回線接続を」
『イエス、マム』

 だがキャサリンは即座に通信を繋げさせると、マイクを手に取った。

「初めまして、元アンブレラ特殊作戦用多目的BOW開発部部長、オーガス・アーデイガン」
『はて、そういえば私はそういう名前だったかな? ここではプロフェッサーと呼ばれている』


「あいつが、4エレメンツの!」
「そう、ボクらを造り出した人さ」

 剣戟を続けながら、レンとジンが睨み合う。


『何せ、北極の水は冷たかったからな。危うく、貴重なデータが失われる所だったよ、この脳維持装置がなければな』

 プロフェッサーが着ていた白衣を開け、その下にある機械を露にする。

「な、なんて事を………」

 STARSでもっともサイボーグに詳しい智弘が絶句する。
 それは、純粋に脳の機能とそのデータバックアップを維持し、それ以外の社会生活は一切行えないような、あまりにも常識外れの改造だった。


「そうか、そういう事か……あの時、オレがあいつの頭を撃ち抜いていれば……!」

 アークが過去の己の失策を悔やむ。

『無駄じゃよ』

が、それを聞いたプロフェッサーが愉快そうな口調で否定。

『あの場での攻撃を食らう事なぞ想定しておった。部分的な脳の損傷があっても、維持装置に退避されてあるデータを元にBOW技術によって再構築した脳に移し変えるだけの事。君らは見た筈だ、ダーウイッシュがどんな攻撃を受けても再生するのを』
「自分自身も改造していたって事か。脳機能の保護優先のみで……」

 あの時にその事に気付かなかった事に、アークは今までの人生最大の失策を感じていた。
 もう、どうやっても直し様の無い過ちを……


『だが、酸素供給を絶たれた上に閉じ込められて海の底だったからな。その状態で研究データと有効的な改良点の保存を最優先させたからの。お陰でこの頭脳の正常起動までも随分とかかりおった』
「そのまま腐ってればよかったのよ」
「あら、科学者って自分の研究第一でしょ? あなただって科学者なんだから」
「一緒にするんじゃないわっ!」

 ミラの言葉に、シェリーの攻撃に苛烈さが増す。


『私を中心とした、アンブレラの研究者達は検討した。なぜ、自分達の造り出したBOWが敗れたのかと。そして一つの結論に辿り着いた。我々は機能を優先させるあまり、素体の戦闘力ばかり上げ、もっと根幹的な事を考慮していなかったという事を。それは、人間のみが持つ、獰猛な闘争本能と冷静な精神の両立、そして経験が生む戦闘技術だという事に!』
「一応、合ってはいると思うわよ」
『そう、そうなのだよ! だから我々は研究した。その全てを持つ、君達STARSを! そして造り出したのだよ。我々の手で、STARSを上回る存在を!』
「それが4エレメンツ、そしてそれを造り出したあなた達がアザトースとやらね」
『万物は根源より生まれる。ゆえにそう名乗ったのだよ』
「言いえて妙ね。ただし、やってる事はただのテロ活動よ」
『構わないのだよ。我々の研究成果が、正しい事さえ証明できれば』
「天才と狂人は紙一重、でも貫通してる人達もいる物ね。そして、そういう人に限って、こういう事に気付かない」
『?』

 キャサリンが言い終えると同時に、向こうから破砕音が響き渡り、通信映像が乱れる。

『チームアルファ、中枢制御室に突入する』



 報告と同時に、宗千華は太刀狛を伴い、ムサシと二人がかりで斬り裂いた扉を潜って中へと突入した。

「! これは………」
「おいこれ!」
「崑崙島で見た、バイオ・パラサイトコンピューター!」

 後に続いたケンド兄妹が、そこに鎮座する巨大な物体に絶句する。
 それは確かに崑崙島を占拠したバイオ・パラサイトコンピューターに似ていたが、中央部の機械ユニットよりも、周囲を覆う透明な生体部分の方が圧倒的に多い。

「それだけではないようだ」

 宗千華はその生体部分に見える物、どう見ても人間の顔のような物を見つめる。
 その顔の目が、こちらを向いたかと思うと笑みを浮かべる。
 しかも、よく見れば顔はあちこちに無数にあり、その目が全てこちらを見ていた。

「ほう、君はランを倒した人物だったな」
「知っていたか」
「4エレメンツの戦闘データは逐次我々に保存されているのだよ。まあランは広範囲無差別攻撃特化タイプじゃったから、君のような対人特化タイプとは相性が悪かったのだろ」

 聞こえてきた声に、メンバー達がその声のする方を見た。
 他でもない、バイオ・パラサイトコンピューターの最上部、そこに完全にバイオ・パラサイトコンピューターと一体化しているプロフェッサーの姿が有った。

「なるほど、つまりこれが《アザトース》か」
「そう、我々がアザトースなのだよ」
「なっ………」
「どういう事………」
「分からないか? こいつらはこれを使って自分達を融合させたんだ。己達の持つ頭脳を、集結させるために」
『!?』

 予想外、そしてあまりにも狂気の沙汰に、宗千華の言葉を聞いた者達全員が絶句する。

「……じゃあ簡単じゃねえか。こいつをぶっ倒せば方はつくだろが!」
「弱点だって分かりきってるんだし!」
「グレネード、冷凍弾!」
『了解!』

 宗千華の指示で、グレネードランチャーを装備したメンバー達が液体窒素内蔵の冷凍弾を装填、アザトースへと向ける。

「撃てっ!」

 連続して冷凍弾が放たれた直後、突然アザトースの周囲の床から無数の触手が噴き出し、更にその触手の間から電撃が発生、それに
触れた冷凍弾が次々と撃ち落されていく。

「こいつは!」
「《嵐》のランの電磁バリア!」

 それが崑崙島で自分達を苦しめた物と同じ事に気付いたケンド兄妹が驚愕する。

「ランがSTARS以外の人間に敗れるというは計算外だったが、戦闘データは蓄積できた。また新たな実験体の課題として生かせる」
「妄言は地獄で吐く事だ。ネット!」
『了解!』

 パワードスーツ部隊が前へと出ると、次々とワイヤーネットを射出、触手へと覆い被せる。
 ワイヤーネットが伝導体と化し、空中放電が全てネット内を伝わっていく。

「一斉射撃!」
『了解!』

 全ての銃口がアザトースへと向けられ、一斉に銃弾が吐き出される。
 拳銃弾、ライフル弾、散弾やグレネード弾など、ありとあらゆる弾丸が、多少はワイヤーネットから漏れた電撃に迎撃されたが、ほとんどが素通りしてアザトースの巨体に食い込んでいく。

「停止」

 宗千華の指示で銃弾の雨が止まる。
 硝煙が晴れていく中、その向こうには異様な光景が広がっていた。
 アザトースの半透明の巨体を、奇妙な光沢を持った肉とも甲殻ともつかない物が覆い尽くし、小口径の弾丸は全てそれによって止めれら、グレネード弾ですらそれの一部を吹き飛ばしただけだった。

「《鏡》のミラの有機装甲か………」
「じゃあ、直接ぶった斬る!」

 言うが早いか、ムサシが双刃を手にアザトースを守る触手の脇から壁を蹴って懐へと飛び込んで双刃を振りかざす。

「光背双刃流…」

 振りかざした双刃が振り下ろされる直前、突如として金属の光沢と異様に鋭利な先端を持った触手が床から飛び出し、ムサシを狙う。

「ちっ!」

 とっさに左手の刀でムサシはその攻撃を受け止めるが、その時にそれが、機械式マニュピレーターのような関節に、鋭利な刃のついた奇妙な物体である事に気付く。
 刃が受け止められると、即座にマニュピレーターが回転、ムサシの刀を弾くと、ひるがえってムサシを狙い突き出される。

「なんだ!?」

 右手の刀でそれを受け流したムサシだったが、同様のマニュピレーター型触手が次々と出てくる。

「は、速ぇ!」

 次々と繰り出される刃の攻撃に、ムサシは完全に防戦一方となっていく。

「ムサシ!」
「退けっ!」
「くそったれぇ!」

 アニーが速射で刃の幾つかを弾いた隙に、ムサシが攻撃から逃れる。

「《鋼》のFのマシーナリー技術と《刃》のジンの戦闘データ。4エレメンツ全ての能力を有している訳か………」
「ありかそんなイカサマ!」
「ずるい!」
「データは有効的に活用する物だ。今までのSTARSとBOWの戦闘データは全て解析済みなのだよ」
「一つ問う」

 異様なまでのアザトースの戦闘力に皆が気圧される中、宗千華が一歩前へと踏み出す。

「BOWの全ての戦闘データと言ったな。その中に、26年前の硫黄島近海、アンブレラ秘密研究所の物も含まれているな?」
「待ちたまえ、今検索する………おお、ミカヅチタイプの事か? あれも謎のサムライによって倒されたらしいの。だが、お陰で電撃使用型のいい改良点が見つかった」
「………」

 その言葉を聞いた宗千華が無言のまま、全身から研ぎ澄まされた剣気が増していく。

「この日向正宗はその時、そのBOWを斬った刀。そしてそのBOWを倒したサムライは私の兄だ」
「……ほう! まさか君も我々との因縁を持つ者だったとは! なら先程の言葉は訂正せねば」
「言ったはずだ。妄言は地獄で吐けと」

 宗千華の手が右目を覆う鍔眼帯へと伸びると、それを結ぶ紐を一気に引き千切った。

「柳生家十九代目当主、柳生十兵衛 宗千華。兄の誇りと、柳生の名に賭け、貴様を斬る!」

 宗千華の右目に埋め込まれた空間内全情報探索義眼《鬼ノ眼(オーガアイ)》が紅い光を放つ中、その名乗りを受けてか背後で控えていた太刀狛が強く、吼える。

「推して参る。誇りを持つ者は続け!」
『オオオォォ!!』

 闘志を取り戻した者達も続いて吼える中、宗千華は愛刀を振りかざした………




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