第二章 決意とともに


JUST THE LIMIT

第二章 決意とともに



武義は今後の行動計画を立てていた。
両親の復讐を果たすには「力」が必要になってくるが、その「力」を得るためにはどうすればいいのか……
独学という手段もあるが、やはり誰かに教わるのが一番である。
どうすればいいのかと考えていると、その手の教官にぴったりな人物がいることを思い出した。
父の友人で、かつて特殊部隊で最強と言われていた人物を……

「おじさんに会いにアメリカに行こう」

これ以外に方法はないと思った武義の行動は素早かった。
武義はアメリカで何か情報が得られることを期待して犯人の顔写真と毛髪と犯人の持っていた携帯をビニール袋に詰め他の荷物と一緒にバックに詰めた。
なぜ、このようなことをしたのかはわからなかったが、なんとなく日本の警察は信用できなかったのかもしれない。
荷物を詰め終わると、両親に合掌をして別れを告げ、荷物を持って家を出た。
武義は父の車を使って中部国際空港を目指して出発した。
力を手に入れる為に………
そして武義が家を出てから約三十分後に何者かによって家に火が放たれた。
家は全焼、その後の調査で遺体が二体だけ発見されたという。



武義は途中のコンビニでお金をおろしたついでにそこで夜を明かし、朝一でお金を銀行でドルに換えてもらうとすぐさま空港に向かった。
空港に着くとすぐさま受付でアメリカ行きの片道航空券を買い、ターミナルで出発までの時間を過ごしていた。
待つこと三十分、自分の乗る飛行機の搭乗アナウンスが流れるのを聞いて武義は搭乗口に向かった。
武義は自分の席に着くと、窓から外の景色を眺めることにする。
窓からは駐機している飛行機しか見えなかったが、昔から飛行機などが好きだった武義には十分暇つぶしとしての効果はある。
その様子を遠くから見詰める人物がいることを武義はこの時知る由もなかった。
飛行機はその後順調なフライトを遂げ、無事にカンザス空港に到着すると、武義は公衆電話で父の友人に連絡を入れることにした。
ちなみに武義は英語が得意のため日常会話をする分には困らない。
番号を押して待つこと数秒、相手はすぐに出てくれた。

『はい、ローゼンバーグです』
「おじさん?お久しぶりで。武義です」

受話器の向こうの人物、ローゼンバーグは突然の電話に驚いていた。

『武義か!久しぶりだなぁ〜元気だったか?』
「はい、お陰様で。実はいまカンザス空港にいるんですが迎えに来てくれませんか?」
『また急な話だな・・・なにかあったのか?それに健一郎や洋子はどうした?一緒じゃないのか?』

両親の名前を出されて言葉に詰まる武義。
なにかを察したのかローゼンバーグはそれ以上聞くことはしなかった。

「詳しいことは会ったときに……」
『わかった…そうそう迎えの件なんだが、実は娘が空港の近くのショッピングモールに居て今から迎えに行くところなんだ。悪いんだがそこまで来てくれないか?射撃場にいてくれれば向うから』
「わかりました」
『すまんな』
「いえいえ、こちらこそ急に無理を言ってすみません、ではショッピングモールで」
『ああ』

武義は受話器を置くと、荷物を持って空港のタクシー乗り場まで行ってタクシーを捕まえると、目的地であるショッピングモール「ウェルカム」へ向かった。
もちろん日本からついてきた者も……
空港から約一時間ほど走ったところで、目的地であるショッピングモール「ウェルカム」に到着した。
「ウェルカム」は広大な敷地を使った大型ショッピングモールで、中には日用品、食品、車の部品など様々なものが揃っている。
また、ここには射撃場があるので、銃好きの武義はよくここに射撃をしに来ていた。
そのおかげか、ライフル射撃部では常にトップの成績を収めるほどの腕前になっていた。
武義は早速射撃場に向かった。
武義の後姿を見ながら携帯でなにやら会話をしている人物がいた。
日本からついてきた張本人である。

「こちらワイキキ、目標は射撃場に向かう模様……」
『了解、引き続き監視を続行せよ、隙があれば抹殺してもかまわんぞ?』
「それが………信じられないことに目標は飛行機で一睡もしなかったので行動に移れませんでした……」
『わかった……とにかく監視を続行しろ』
「了解」

通信を終えると、再び監視につこうと歩き始めた。



一時間後………

「遅いなぁ〜」

射撃場で標的射撃をしながら時間をつぶしていた武義だったが、いつまでたっても現れないローゼンバーグに苛立ちを覚えていた。

「説明したいこととか聞きたいことがたくさんあるのに………」

そう言いながら二十メートル先の標的に向けて銃を撃つ武義。
銃の種類はFN5.7ピストル、P90と同じ5.7ミリ特殊弾を使用する拳銃である。
武義は的確にヒト型ターゲットの頭部、心臓付近を撃ち抜いていた。
暫くして、撃ち切ったマガジンに弾を補充していた時…

「キャーーーー!」
「!」

近くから悲鳴が聞こえてきた。
急いで武義は他の客とともに悲鳴の聞こえたほうへと向かった。
悲鳴のした場所ではガタイの良い大男が女性の頭に銃を突き付けながら警察官と対峙していた。
警官は銃を男に向けるが、人質がいる為撃てないでいた。

「来るな!お前ら銃を捨てろ!」

大男は警官たちに喚き散らしながらジリジリと武義のいる射撃場へと近づいてきた。

(これ、まずいなぁ……)

もしこのまま男が射撃場についたら間違いなく銃器をより強力なものに変えるだろう。
そうなれば、犠牲者が出る確率が高まってしまう。
武義がそんなことを考えていると・・・
野次馬の陰から小さな影が飛び出してきた。
大男は慌ててその陰に銃を向けるが、繰り出された蹴りによって銃は弾き飛ばされてしまった。
さらにその影はそのまま回転して勢いをのせた回し蹴りを人質を掴んでいる方の腕の上腕に叩き込んだ。

「ぐわっ!」

予想外に強力な蹴りに手を放してしまう犯人。
その隙に人質になっていた女性は脱出を果たした。

「く・くそ!」

自棄になった犯人は自分に蹴りを放った人影に殴りかかるが、逆に腕をからめ取られて関節を極められてしまった。
そこに警察官が駆け込み、犯人に手錠を掛けると犯人を引っ張って行った。

『オーーー!』

周りからは歓声が挙がり、人質を助けたその人物は手を挙げてそれに答えていた。
ところが、よくよく顔を見てみるとその顔には見覚えがあった。

「………あ〜!レイニーじゃないか!」

その声に反応したレイニーは武義の顔を確認すると満面の笑みを浮かべながら武義の方に走り寄ってくると、思いっきり抱きついた。
勢いがあったため少しよろめいてしまったが、なんとか倒れずに済んだ。

「レイニー久しぶりだな!元気だったか?」
「もっちろん!」

元気一杯に答えるレイニー。
そんな二人の元へ一人の屈強な人物が近付いてきた。
はたから見てもはっきりと分かるほどの筋肉を身にまとっており、服は筋肉のせいでパンパンに張っていた。

「パパ!」
「おじさん!」

そう、この人が父の友人であり、かつて特殊部隊で最強と言われていた人物、マックス・ローゼンバーグである。

「どうやら上手くいったようだな。後、武義久しぶりだな」

三人は軽く会話をした後、マックスの車のある駐車場へ移動した。
一方、追跡者はというと……

「オーディン様、目標がマックス・ローゼンバーグと合流しました」
『なんだと!そうか……奴はこれが目的だったか………』
「いかがいたしましょう?」
『気づかれないよう尾行し奴らの所在地を特定せよ』
「了解」

追跡者は通信を終えると、三人の尾行を開始した。
すでに気づかれているとも知らずに………
三人は駐車場に着くと、マックスの車を探した。
車は入口の近くにあったためすぐに見つかった。
車好きだったことがきっかけで武義の父健一郎とマックスは知り合ったため、かなりマックスの趣味が出ていた。
マックスはアメ車よりも日本製の車を好んでいるため、わざわざ日本から車を輸入したのである。
武義とレイニーが後ろに乗り込もうとした瞬間、マックスが武義を呼んだ。

「武義、せっかくだからお前の運転でいかないか?」
「いいですよ」

武義も父に負けず劣らず車が好きであったため快諾した。

「え………じゃああの山道からいくの?」
『もちろん!』

見事に声がハモッタ。

「………」

レイニーの顔から笑みが消えていた。

「仕方ないだろ?尾行を撒くためにも遠回りになる山道の方が都合がいい」
「!」

武義は緊張を極力顔に出さないようにして車に乗り込んだ。

「………いつから気付いてました?」
「お前に会ってすぐだ、おそらく日本からついてきたんだろうな」
「日本からって……そういえば武義、健一郎さんや洋子さんは?」

レイニーの質問に敏感に反応する武義。

「話はあとで聞こう」
「はい………」

武義は車を発進させた。
ちなみに車種は三菱のランサーである。
武義達の車がショッピングモールから出ると同時に追跡者がレンタカーで追いかけてきた。
二時間ほど走ると、景色は一変して都会から大自然に囲まれた山へと変わった。
ここは急カーブが多いことで有名で、しばしば事故が起きていた。

「武義、そろそろ本領発揮と行こう」
「了解♪」

武義は制限速度40kmのところをなんと……100kmで走り始めた。
景色があっという間に後ろに流れていった。
追跡者は自分の存在がばれたことを察したのか、猛スピードで追随してきたが……

「なに!」

なんと武義は急カーブを約90km近いスピードで走り抜けていった。
カーブ手前でサイドブレーキを引き、それと同時に左足でクラッチとブレーキを同時に踏み、さらにハンドルを切ってすぐに戻しながらブレーキからアクセルへと足を移すという作業をまるで水が流れるかのようなスムーズな動きを行うことで次々と急カーブをクリアーしていった。
俗にいう“ドリフト走行”である。
車が横向きになったかと思えば直ぐにまっすぐになり、タイヤは凄まじい煙を上げ、さらに甲高い摩擦音がまるで一つの音楽のようにあたりに響き渡った。

「さすが健一郎の息子だ!」
「まだまだこれからですよ!」
「もうやめて〜!」

歓喜をあげる二人と悲鳴を上げる一人を乗せた車は、ダンスを踊るかのような滑らかさ次々とカーブを猛スピードで駆け抜けていった。



「くそ!追いつけない!」

一方追跡者は予想外のスピードに戸惑っていた。

「なんであいつらはこんなカーブをあんなバカげたスピードで抜けられるんだ!」

追跡者と武義達の車との差は開いていくばかりであった。

「クソッ!」

追跡者はしかたなく無線連絡を入れる為に無線機へと手を伸ばした。
ところが、それによって生じたコンマ二秒の隙がミスにつながった。

「!しまった!うわぁあああーーー!」

車はハンドル操作を誤って山肌へ激突した。
幸い追跡者は直前でサイドブレーキとフットブレーキを同時に作動させ、さらに咄嗟に車の向きを変えて横からぶつかるようにしたため奇跡的に助かった。

「いって〜最悪だ………」

そう言って報告を行った。

「申し訳ありません。取り逃がしました」
『なんだと!……まぁいい。一度帰還しろ』
「了解しました」

そういうと、男は車を捨ててもと来た道を五時間かけて戻って行った。
静かにだが確実に武義は戦いの渦へと飲み込まれていくのであった…………



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