第三章 特訓前夜


JUST THE LIMIT

第三章 特訓前夜





武義は普通に走って一時間かかる山道をなんと僅か三十分で走り抜けるという神業を見せた。

「どうでした?」

武義は後ろに座っているマックスに自分の走りの感想を聞いた。

「まぁまぁだな。まだまだカウンタークラッチが遅い」
「う〜ん手厳しい」

そんな会話をよそに、レイニーはかなりぐったりしている様子だった。
彼女は意外にもジェットコースターなどの絶叫系が苦手なのである。
銃を持った凶悪犯に平気で立ち向かっていく勇気がありながら、絶叫系に乗る勇気はないというなんともアンバランスな勇気を持っているのである。

「もう二度と武義の運転はごめんだわ・・・」

レイニーは心の底からそう思っていた。
山道を抜ければあとは平たんな道が続くだけなので、レイニーはようやく安心できるようになった。
ところが、マックスの家の駐車場に止める時に・・・

「あそこですよね?」
「そうだ」

マックスの家は山に囲まれた自然あふれるところに立っており、駐車場のスペースはかなり広く、車が軽く四台は止まれるようになっている。

「りょーかいっ!」

止める段階になって武義はスピードを上げて駐車場に突っ込むと、タイミングを計ってハンドルを思い切りきり、さらにサイドブレーキを引いた。
すると車は奇麗に半回転しながら駐車スペースに収まった。
サイドターンという技を披露した武義はこの後マックスには褒められたものの、降りた瞬間レイニーの渾身の回し蹴りを顔面に受けることになる。

「い・イタイ・・・」
「いきなりなんてことすんのよ!」

そんなこんなで三人は家へと向かった。
マックスの家は二階建の北欧風の造りの家でかなり立派な作りになっており、山の一部を削って造られていることもありかなりでかい。
ちなみに、地下にはトレーニングルーム、射撃場、武器庫がある。
三人は車から降りると、まっすぐ家に向かっていった。

「まぁゆっくりしてくれ、今飲み物を出そう」
「ありがとうございます」

家の中は外見通りかなり広い作りになっており、リビングには暖炉やソファーに木製のテーブルがあり、ソファーの向かいには大型の液晶テレビもある。
さらに、壁や暖炉の上には写真やはく製がところ狭しと置いてあった。

「あいかわらずでかいな」
「まぁね〜」

暫くして、マックスがオレンジジュースの入ったビンと人数分のコップを持って戻ってきた。
そして、コップにジュースをついで全員に回した後、武義の対面に腰をおろした。

「さて・・・話してくれるか?日本でなにがあったのか・・・」

マックスの顔は先ほどとうって変わって真剣なものとなり、それにつられてレイニーも顔を引き締めた。
武義はとても辛く、悲しい表情を浮かべながら話し始めた。

「ついこの間のことなんですが・・・」

武義は日本で謎の男に家族を殺されたこと、その男がオーディンと名乗る男によって送られて来たことなどをできる限り詳細に話した。
話し終わって暫くは、その場を沈黙が支配した。
暫くして、痺れを切らしたのか、レイニーが沈黙を破った。

「・・・武義。どうして私たちの所に来たの?」

それは確信を突く質問であった。

「それは・・・」
「復讐するための力を得るため・・・だろ?」

武義は無言で頷いた。
が・・・

「でも・・・それ以上に、弱いままの自分で居たくないんです」

レイニーとマックスは黙って武義の話を聞いている。

「強くなって、自分自身はもちろん、自分の大切な人も守れるようにしたいんです・・・まだ、大切な人は見つかってないけど・・・」
「・・・いないんだ」
「いないんです」

シリアスな空気が一瞬で崩れた。

「ま・まぁ・・・そこはともかく・・・」

武義はマックスの方へ顔を向けた。
マックスはその視線を正面から受け止める。

「僕に、おじさんの技術を教えてください!」

沈黙・・・
長い沈黙が流れた。
そして・・・

「わかった。明日から訓練を始めよう」
「ありがとうございます!」

武義はマックスに深々と頭を下げた。

「私も手伝ってあげる!」
「ありがとう!」

こうして、武義はマックスの元で修業を始めることになった。
修業は次の日からにということになり、その日は久々の再会を祝して小さなパーティーを開くことになった。
マックスは料理がとても得意で、どの料理もプロ顔負けの旨さを誇るため
夢中になって武義は食べた。
しばらくして、三人とも腹が膨れたところで、後片付けをした。
その後は、シャワーを浴びた後、リビングで昔話に話を咲かせながら過ごしていくうちに、いつの間にか時刻は夜中の一時を示していた。

「あ、もうこんな時間」
「夢中になってて気付かなかったなぁ」
「う〜ん、私はもう寝るけど、パパと武義はどうする?」
「俺はまだ起きてるよ」
「俺もだ」

それを聞いて、レイニーは自分の部屋に帰って行った。
暫く二人は何もしゃべらないままもくもくと酒を飲んだりしていた。

「・・・武義」
「なに?」
「久々に俺が酒を作ってやろう」
「いいですね」

そういうと、マックスは棚からシェイカーと数本の酒、冷蔵庫から氷を取り出した。
マックスは趣味でカクテルを作っており、たまにコンクールに出場するほどなのである。

「武義」
「はい」

マックスはシェイカー(映画やドラマでバーテンダーがお酒を混ぜるのに使う銀色の容器のこと)に酒と氷を入れてエア抜きをしてから振り始めた。
ちなみに、よくドラマなどでは両手を使って振っている方がいるが、実際には人それぞれの振り方でいいため型は基本的に決まっていない。

「これから・・・お前はとても辛い経験を多くすることになると思う」
「え・・・」

突然のマックスの言葉に驚く武義。
なぜ、そんなことがわかるのだろうか?

「だから、俺はお前に俺の持つ技術をすべて託してやる」

武義は黙って聞いていた。

「だからお前は前だけ向いて行くんだぞ」

そういうとマックスはグラスに酒をついで武義の前に持って行った。

「ついでに、カクテルの作り方もな」

最後は冗談ぽく話を終えたマックスは酒を武義の前に置いた。
綺麗な青色をしたカクテルだった。

「こいつは最近作ったオリジナルで、名前はスカイブルーだ」

その名の通り、空のように透き通った色をしたカクテルだった。

「いただきます」

武義は一口酒を口に含んだ。
きつい酒を使っているのか、とても強烈な口当たりだが、口当たりがよくてしかも程よく甘い素晴らしい仕上がりになっていた。

「おいしいです」
「それは良かった!」

褒められてうれしいのか、マックスは満面の笑みを浮かべていた。
その後、二人は昔話を少しした後部屋に帰って寝ることにした。
マックスは部屋で一人アルバムを開いていた。
そこには、戦いをともにしてきた仲間の写真から家族の写真など、たくさんの写真が収められていた。
その中にある一枚にマックスは注目していた。
そこには、武義の両親とマックスが仲良く肩を組んでいる写真であった。

「・・・健一郎、伝える時が来たのかもな」

写真の健一郎はマックスと同じ軍服に身をつつんでおり、洋子は白衣に身を包んでいた。
様々な思いを胸に抱きながら、マックスは眠るために電気を消した。
戦いへのカウントダウンは始まったばかり。
しかし、そのカウントダウンは早まるかもしれないし、遅くなるかもしれない。
結果を知るものは誰もいない・・・
しかし、これだけは言える。
時間は遅くも早くもなく、一定のリズムで進んでいくということが・・・



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