第四章 特訓開始!


JUST THE LIMIT

第四章 特訓開始!




朝六時・・・鳥のさえずりが響く中、動きやすい格好となった武義、レイニー、マックスが家の裏手にある簡易訓練場に立っていた。
元軍人だったマックスは引退した今でも体を鍛えれるように簡単な訓練施設を造っていた。

「さて、早速訓練を始める」

『はい!』

マックスの言葉に元気よく答える二人。
簡単な準備運動を済ました後、早速訓練開始となった。
午前中は、家周り(一周500m)を十周したあと腕立て腹筋背筋を各100回行い、次に長さ10m、横幅15センチほどの鉄骨の上を目隠しをした状態で10往復することでバランス感覚を鍛える。
あまり知られていないことだが、銃を撃つにあたってバランス感覚は意外と重要なのである。
ちなみに、武義は普段の不摂生がたたったのか、かなりグロッキー状態となっていた。
午後は地下の射撃場で射撃訓練として、ゆっくりと動く10メートル先にある的を撃つ訓練を行う。10メートル先とはいえ動く標的を撃つのは初めてだったため武義は当てるのに苦労していた。例えゆっくりでも、動く標的に的確当てるのは素人には至難の業である。
3時間ほど撃ち続けた後は格闘技の訓練にはいる。
レイニーを対戦相手として古武術をベースとした近接格闘技をマックスは手とり足とり教えていった。
夜は夜で、ブービートラップの作り方や、サバイバルに役立つ知識(主に薬草や食べれる動植物)についての講義が行われた。
内容は、日々の進捗に合わせてより実践的なものへと変更されていった。


そして、訓練が始まって早3ヶ月が経ち、マックスの教えがいいのか武義はまるでスポンジのように技術を吸収していった。

「すごいね・・・パパ」
「ああ・・・俺も予想外だ」

ここ3カ月の武義の上達ぶりは二人の予想を遥かに上回るものだった。
最初の頃は全く相手にならなかった格闘訓練も、今では気を抜けば負けてしまうまでに上達していた。
そして、訓練開始から半年がたったころついにマックスは自身を最強の座まで昇り詰めさせた技術を武義に教える決心した。


ある朝、マックスは武義にこのことを告げた。

「武義、今から俺が開発し、俺を最強とまで呼ばれる理由となった特殊戦闘術を教える」
「え?」

武義は、マックスが特殊部隊時代に最強と呼ばれていたことは知っていたが、その理由までは知らなかったのである。

「この特殊戦闘術を俺は“ダブルガンソードコンバット”と呼んでいる」
「パパはこの技術によって当時“ソードガンナー”と呼ばれていたの」
「ソードガンナー・・・」

ダブルガンソードコンバット、略してDGSCと呼ばれる技術は当時そのあまりの特殊性から習得は極めて困難であり、使えるのはマックスただ一人であった。

しかし、この技術は遠距離、中距離、近距離全てに対応できるオールレンジ攻撃を可能にするまさに最強の名にふさわしい効果を発揮することができる。
ただ、名前の通りこの技術を扱うには二丁拳銃に専用の銃剣を着けたものを使用するのと、対多数戦闘にも対応できるための技術も必要なためよほどの才能がない限りこの技術は修得が不可能であった。

「いいか武義、この技術は修得がかなり難しい上にかなりのセンスを要求されるため、一子相伝に近い技術だ。現にこの技術を教えて習得できたのは娘のレイニーぐらいだ」

マックスはこう言っているが、実際は八割ほどの完成度であるとレイニーは思っている。

「よし、まずは俺が手本を見せるからそれを見て大体の感じを掴んでくれ」

「了解」

マックスはそう言うと、ジュラルミンケースから現役時代に愛用していたH&K社のUSP45口径モデルに銃剣のついた二丁の拳銃を取りだした。

「おじさん、45口径よりも9パラ(もっともメジャーな拳銃用弾薬のこと)の方が反動も少なくて扱いやすいんじゃないの?」

45口径は威力は高いが反動が強く装填数も比較的少なめのため、反動が少なく比較的多くの弾を装填できる9パラを使うのが一般的である。

「いい質問だ。このDGSCは対多数戦闘も想定していることは説明したな?」
「うんうん」
「対多数戦では一発で一人を倒すもしくは戦闘不能状態にしなければならないんだ。だから、一発でほぼ確実に相手を戦闘不能にできる45口径を採用したわけだ」

その説明に納得する武義だった。
そして、マックスは手本を見せるべく二丁を構えた。
構え方は、腰を落とし、肘を若干曲げた状態で左手の銃をまっすぐ持ち、もう右手の方は排莢口が上に向くように銃を横向けにするという変わった構えだった。
今回は大まかな動きを見るのが目的のため、標的は適当な間隔で植えこまれている高さ2メートルほどの杭十本である。

「いくぞ・・・」

その一言が終わるか終らないかのうちにマックスは急激に動いた。
まず、正面にある杭に左手の銃剣を突き刺し、交差させた右手で素早くポイントして左手にある5メートル先の杭を撃ち、正面の杭を盾にするように動きながら左右の杭に一発ずつ撃ちこんだ後、間合い内の杭には銃剣で切り付け間合い外のには銃撃を加えていった。

「す・すごい・・・」
「そりゃあ、私のパパだもん!」

十本の杭に一撃を加えるのに10秒もかからずに終えてしまっていた。

「本当は動く標的のがいいんだが、まぁこんなもんで勘弁してくれ」

動かない標的とはいえ、一つにつき一秒で全標的に一撃を加えるだけでも相当難易度が高いものである。

「さて、この技術がどんだけ難しいかを理解したな?」

その問いかけに首を縦にふって答える。

「ついて来い」

そう言われ、武義はマックスとレイニーについていくと、地下の射撃場に併設されている武器保管庫についた。

「この中からお前の好きな拳銃を選ぶんだ。それに銃剣を着けたものがお前の相棒になる」

そう言われ、武義は今までの射撃訓等で撃ったことのある銃を思い浮かべた。

「言っておくが、なにも45口径にこだわる必要はない、とにかく自分に合った銃を選べ」

そのアドバイスの元、武義は様々な銃を見て、時に手を触れながら考え、ついに一丁の銃を手にマックスの元に戻った。

「ほう・・・SOCOMか・・・」

H&K社製SOCOM Kk23、この銃はアメリカ合衆国特殊部隊統合軍が対テロリスト戦を想定した強襲用ハンドガンである。
暑熱地域、寒冷地、砂漠等の悪条件下でも性能に支障をきたさない耐久性を持ちかつ状況に応じて様々なオプションを奪着が可能な非常に優れた拳銃である。
使用弾薬は45APC弾である。

「これでいいのか?」
「うん、やっぱり実績のある銃の方が信頼できるしね」
「よし!じゃあすぐにこいつに見合った銃剣を着けてやる、今日の訓練はここまでにしよう。レイニーは武義と一緒に夕飯作ってくれ」

「了解!」

そう言うと、二人は階段を上って地下から出て行った。
マックスは棚から工具と銃剣を取り出して作業を開始した。


そして次の日。

「出来たぞ〜」
「うおおおお!かっこいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「うっさいわボケーーーーー!」

武義はあまりの出来の良さに感極まって大声を上げたものの、そのせいで運悪くレイニーのカンに障ってしまいコンビネーションパンチ+上段回し蹴りをくらって五メートルほど飛んで顔面ダイブをかますことになる。
その後、武義が土下座して謝ったのは言うまでもない。
ソーコムには長さ十五センチほどの銃剣が付いた。

「いいか、銃剣には気をつけろよ?誤って自分の腕とか切るなよ?」
「了解っす!」

一通り銃の取り扱いに説明した後、ついにDGSCの実技訓練へと移る。
コンバットシューティングとナイフコンバットを足して二で割ったような戦闘術に戸惑いながらも武義は少しずつ技術を習得していった。



武義たちが訓練に明け暮れている頃、とある場所にて・・・

「ようやく判明したか・・・」
「申し訳ありません、何分厳重に隠ぺいされていまして」

オーディンの手元にはマックスの家の所在地とその周辺の地域図があった。

「よし・・・人員が整い次第そちらに送る。それまで引き続き監視を続行しろ」
「畏まりました」

そう言うと、報告に来たものは音もなく消えていった。

「なんとしてもフェンリルの復活は防がねば・・・」

フェンリル・・・北欧神話においてオーディンをその強大な口でひとのみにしたと言われている狼の姿をした怪物である。


いよいよ・・・本当の戦いの幕が上がる時が来たのある。

はたして、生き残るのはどちらであろうか・・・




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