第五章・真実


BIOHAZARD
LASTTVICTIM

第五章・真実


大学を出てしばらくゾンビの少ない路地裏を選びながら進んでいたとき、アディスが一つの提案をした。

「一度俺の家に戻らないか?」
「なんで?」
「ネイシーの武器があれだけだとまずくないか?」

二人が銃を持っているのに対して、ネイシーは鉄のハリセン一つだけだからである。

「俺のグロックを渡しとけばいいだろ」
「いいのか?」
「こんだけでも十分さ。」

そういってジャックはネイシーにグロックと予備の弾の入ったマガジンを渡した。

「使い方はここのスライドを引いて初弾を装填して、ここの安全装置をはずしたらあとは狙って撃つだけ。弾を込めるときはグリップにあるこのスイッチを押せばマガジンが出てくるからそれに込めるんだ」
「わかった」

そういってネイシーはジャックから受け取った銃を手に持ち、弾は服の両胸に付いているポケットに分けてして入れておいた。

「ネイシーの両親は無事かな?俺は元々いないし、ジャックの両親は揃って出張中だからいいが」

アディスの質問にネイシーは泣きそうな声で言った。

「わ・私の両親は、携帯で連絡を取ってる最中に襲われて死んだわ」
「ああ、そんな・・・」
「ごめん。いやなこと聞いたね」
「気にしないで」

ジャックは雰囲気を戻そうと、無理やり話題を変えた。

「大体今どの辺だ?」

ジャックの質問に

「大体大学から三キロといった所だな」

ネイシーは気を取り直しながら、新たに浮かんだ疑問を口にした。

「ねぇ、今思ったんだけど。アディスいつもと雰囲気ちがうくない?」
「あ、俺もそれ思ってた。なんで?」

アディスは片手を首の後ろに回しながら言った。

「・・・元々はこんなんだよ」
「そういえば、お前のパソコンについてたシステムはどこで?」

「自分で作ったんだ。元々そういうのを作るのが得意だったから」

その時ジャックに一つの疑問が浮かんだ。

「警察や企業のパソコンからデータを勝手に引き出すのをか?お前、本当は何者なんだ?」
「この町を無事に出れた時話すよ」
「ねぇ、いったいなんの・・・」

アディスはネイシーの言葉を遮り、静かにするよう合図をした。

「敵か?」
「分からん・・・気のせいか?」

その時、どこからともなく水の上を歩いているような音がした。

「・・・上だ!」

三人は同時に上を見た。そこには、全身の皮をはがされたような奴がいた。しかも、両手は鈎爪のようになっており、脳が露出していてしかも目は無かった。

「なんだ・・・」

その言葉を合図にしたかのように、突然そいつは猛スピードで襲い掛かってきた。その先のはジャックがいた。

「なめるな!」

言うが早いか、M4を上に向けて掃射した。空中だったため、そいつは避ける術もなく、すべての弾を全身に受け、血だるまになって地面に衝突し、そのまま動かなくなった。

「気持ち悪いな。そうだ!こいつは頭が飛び出てるからブレインて名前にしよう」
「センス悪」
「ほっとけ!」

二人のコントを無視してアディスが冷静に分析したことを二人に言った。

「恐らく音を感知して襲ってくるんだろう」
「なんでわかるの?」
「目が無いからな。多分そうじゃないかと思ってね。とにか・・・」

アディスが急に壁に手を着いた。しかも、あきらかに体調が悪そうだった。

「どうしたの?顔色が悪いよ?」
「いや、目眩がして、う・・・なんだ体中が痒くなって・・・」

そして、そのまま倒れてしまった。

「アディス!」
「ねぇアディス大丈夫!アディス!」

しかし、アディスからは返事が無くそれどころか容態が悪化しているように見えた。

「まずいな・・・ここじゃ応急処置もできない」
「あ!あそこに薬局がある。あそこなら薬もあるし、なんとかなるかも。」
「よしそこに行こう!」

ジャックはアディスを抱えようとしたがその時、またあの音がした。しかも、今度は同時に多数。

「こんな時に」

ジャックは新しいマガジンに交換した後ネイシーに小声で耳打ちした。

「今すぐにアディスを抱えて、音をできるだけ立てないようにして奥にある角に行って隠れてくれ」
「ジャックはどおするの?」
「まぁ見てなって」

そう言うとリュックから手榴弾を一つ取り出し、ピンを口にくわえ、反対の手には空のマガジンを持った状態で静止した。ネイシーはジャックの意図を悟り、言う通りにした。
しばらくして、ブレインが壁ぎわや路地の角から現われ、最後の一匹はなんとネイシーに隠れるよう指示した角から現れた。

クソ、予定外だ!どうする?

ネイシーもその場で凍り付いてしまった。その時突然、最悪の位置にいたブレインの頭が切り落とされ、そこには二コライと同じ格好をした兵士が血の滴るナイフを持って立っていた。次にその兵士は、アディスを軽々抱え上げるとネイシーと共に角に隠れた。

「今だ」

ジャックは空のマガジンを数メートル先の地面に思いっきり叩きつけた。それを合図に、ブレインたちは一斉に空のマガジンに襲い掛かった。

「かかった!」

そして今度は手榴弾を投げ込み、急いでその場から離れネイシー達のいる角に入った。その瞬間轟音とともに手榴弾が爆発し、衝撃波が路地を駆け抜けていった。路地から顔を出して見てみると、そこには原型を留めていないブレイン達の姿があった。

「ふぅ、助かった・・・」
「こんな狭いところで手榴弾使うなんて。無茶するにも限度があるだろ」

そう言った兵士は今度はアディスを見た。しかし、その顔はしだいに険しくなっていった。

「この人の名前は?」
「アディスです。ちなみに俺はジャックで、こっちはネイシーです。あなたは?」
「ん?あー悪かったな。俺はシーバスっていうんだ、よろしく」

そう言うと視線をアディスに戻し、しばらく体のあちこちを調べた後、ジャックに質問をした。

「この肩の傷は?」

突然の質問にうろたえつつジャックは質問に答えた。

「ここに来る途中、黒ずくめのナイフを持った怪物に襲われた時に負ったものです。」
「もしかしてそいつ、そのナイフでゾンビとかを切った後にこいつを切った?」
「そうです。」

シーバスと名乗った兵士はますます険しい顔つきになった。

「まずいな。恐らくこいつはいまT−ウイルスに感染している」
「T−ウイルスって?」
「俺の雇い主の会社が開発した生物兵器の名称で、こいつに感染するとゾンビ化してしまうんだ」

それを聞き二人は絶句した。

「あんたの会社がこの悲劇を起こした張本人だったのか!」
「俺に怒鳴っても仕方ないだろう。俺はただの兵隊だ。会社のことは知らん。」
「言い争っても仕方がないでしょ今は!早くしないとアディスが・・・」
「そうだ、このままだとアディスもゾンビに・・・」
「大丈夫だ。ワクチンがあの薬局の地下にある。急いで注射すればゾンビにならないで済む」
「本当か!なら急ごう!たまにはついてるな。」

ジャックはアディスを抱えると、急いで薬局に向かった。残りの二人も後に続いた。
薬局に行くまでの道中は運良くゾンビ等に遭遇せずにすんだ。
しかし、それには訳があった。それは、今までそこにいたゾンビがすべて薬局の中になだれ込み、中にいた生存者を襲ってすぐだったためである。

「なんで急ぐとこんな目にいつも会うんだ?」
「災難ってのはないつも最悪のタイミングで起きるものさ。」

壊れた窓から見た中の様子は地獄絵図そのものだった。何体ものゾンビが、一人の死体に群がり腕や頭に食いついていた。

「吐きそう・・・」

ネイシーが思わず顔を背けた。

「俺とジャックの二人で中のゾンビをかたずけて来るから、ネイシーはアディスを守っていてくれ」
「わかった」

そう言うと、シーバスは肩にかけていたM4を両手に持ち、ジャックが後ろに付く形にして二人は静かに入っていった。

「どこからいきます?」
「一番手前のを仕留めよう。そうすれば残りの奴が一斉にこっちに向かって来るはずだから、来たところで同時に掃射すれば楽にかたずくだろう」
「ではそれでいきましょう」

そう言うと、二人は一番手前の死体に群がっているゾンビに狙いを定め、引き金を引いた。
食べるのに集中していたため、立つ間もなくそいつらは倒された。そしてすぐに新しいマガジンを装填すると、予想通りこちらに向かって来たゾンビに掃射を浴びせると、見える範囲のゾンビをすべて倒すことに成功した。

「ホント簡単に終わらせれましたね」
「そうだな」

しかし、ジャックはこの戦闘でM4のマガジンがいま装填してあるだけになった。
ネイシーを呼び、ジャックがアディスを抱え、シーバスとネイシーがジャックを縦から挟む一列隊形で進んで行き、途中何度かゾンビの襲撃を受けつつもなんとか無事に地下に降りることが出来た。

「情報によるとここにワクチンがあるらしい」
「さっそく行きましょう」

シーバスが扉を開け、中の安全を確認した。

「安全のようだ、入ってもいいぞ」

二人はアディスを抱えながら中に入った。中には調合に使う機械などが沢山並んでおり、奥に金庫が置いてあった。

「確か番号は・・・」

そう言うとシーバスはテンキーに五桁の数字を入力した。しばらくして、ロックを示す赤の明かりが、青の解除を示す明かりに変わった。中には、緑色をした液体の入った容器が都合よく四本見つかった。

「さっそく、注射しよう。」

アディスの服の袖をまくり、ワクチンを注射した。効果はすぐに現れ、アディスの顔色が次第に良くなっていった。

「もう大丈夫だ」
「よかった・・・本当に・・・」

ネイシーの目に、涙が浮かんでいた。

「念のため、俺達も打っておこう。そうすれば、ゾンビになる心配がなくなるしね。」
「そうね」
「そうしよう」

そう言って、三人はおのおのでワクチンを注射していった。

「なんで、こんなとこにワクチンが?」
「ここはアンブレラの系列の薬局だからだ」
「緊急用においてあるわけですね」
「そういうこと。ところで、一つ聞きたいんだが」
「なんですか?」
「彼のフルネームって、アディス・スロッターでいいよね?」

二人は驚いた。

「なんで知ってるんですか?」
「俺らの業界じゃ有名人さ。アディスといや、世界一正確かつすばやく情報を集める一流の情報屋だよ」

二人は信じられなかった。アディスがそんなにすごい奴だったとは。

「同姓同名なだけでは?」

しかし、ジャックの考えはすぐに否定れた。

「残念だが、その話は事実なんだ」
「アディス気がついたの?」
「ああ、まだ少し気分は悪いが大丈夫だ」

そう言うと、体を壁に預ける形で座った。

「俺は確かに情報屋をやっていたよ。だが、二年前に引退したんだ」
「その若さで?あれほどの腕を持っているあんたがなぜいきなり引退を?」

シーバスのもっともな質問に、アディスは少し照れながら答えた。

「実は・・・ある女性に一目惚れしてしまってね。そのせいで仕事に集中することができなくなった。それが引退した理由なんだ」

アディス以外の三人は余りに単純すぎる引退理由に目を丸くしていた。

「マジかよ・・・」
「アディスらしいわね・・・」
「どおりであんな家に学生の分際で一人暮らし出来たわけだ。地下の大量の武器についても納得できたよ」

三人とも呆気にとられていたが、ネイシーがそこで重要なことに気がついた。

「誰に一目惚れしたの?」

三人の視線がアディスに集中した。

「それは・・・」

そこで、突然シーバスの無線に連絡が入った。

”こ・・ちら・・作戦・・・室・・・誰か・・・応答・・・”

シーバスが無線の出力を調節すると今度ははっきりと聞こえてきた。

”こちら作戦司令室、誰か応答せよ。”

「こちらB小隊のシーバス軍曹です。どうぞ」

”シーバス軍曹、君のほかに生存者はいるのか?どうぞ”

「三名の一般市民を保護しています。どうぞ」

”よくやった。ところで、君以外に隊員は?どうぞ”

「降下直後にゾンビの襲撃を受け私以外は全滅しました。どうぞ」

”・・・了解した。たったいま本社から連絡があった。これより、五時間後に戦略ミサイルによる滅菌作戦が開始される。どうぞ”

「了解。作戦規定に乗っ取りただちに回収ポイントに向かいます。どうぞ」

”幸運を祈る。オーバー”

そこで無線は切れた。

「よし、最後に残弾確認をしよう。ジャックから順に教えてくれ」
「俺はここに来るまでの戦闘でM4が切れたから、残りは手榴弾が八個とベレッタに今入ってるのを含めて9ミリパラが二十発」
「私は今入ってるのを含めて三十発」
「俺はP90のマガジンが装填分を抜いて三個とイングラムの予備がまだ沢山ある。」
「俺はM4のが今入ってるのを入れてマガジン三個、あとはシグのマガジンが今入ってるのを入れて二個ある。あと、ナイフが一本。結構余裕だな」

その時、シーバスは初めてネイシーの肩にかかっている鉄の物体に気がついた。

「ネイシー肩にかけてるそれはなに?」
「これ?これはハリセンっていうの」
「武器なのか?」
「一応ね。ゾンビもこれで一体倒したし」
「・・・マジかよ」

シーバスは予想外のことに驚いていたが、すぐに気を取り直し、無線の内容を詳しく三人に教えた。

「この町が消えるなんて」
「仕方が無いことだ。被害が広がらないようにするためにも」
「わかってるよ」
「じゃあ行こうか!悪夢から抜け出すために!」

四人は希望を胸に、回収ポイントであるアンブレラビルの屋上に向けて走り出した。その先に、あの悪魔が待ち受けているとも知らずに・・・・。






NEXT
小説トップへ

INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.