BIOHAZARD
TemptFate

第十章 天空からの一撃



ネイシーは夢を見ていた。

夢の中での自分は、自分の腕の中で消えようとしている命を、涙を流しながら必死に呼び戻そうとしていた。

「アディス死んじゃだめ!」

「ご・・めん。もう・・・無理・みたい」

「そんなこと言わないで・・・」

必死の呼びかけても、アディスの命の灯火は徐々に消えていくのがひしひしと感じられ、ネイシーはどうしようもなかった。

「はや・・・くにげ・・・て」

「あなたも一緒に・・・」

それでもネイシーは諦めようとしなかった。
その時、突然激しくアディスは咳き込み、口から血を吐いた。

「アディス!」

暫く咳き込んでいたが徐々に落ち着いていった。
するとなぜかアディスの容態が少し良くなり、先ほどよりもしっかりと言葉を発せられるようになった。

「君にし・死なれたら、俺が仕事をい・引退した意味が無くなる」
「え?」
「俺は君に一目ぼれしたんだよ」

ネイシーは驚いた。まさか、自分だったとわと。
ネイシーはそれを聞いて、ますますアディスと共に脱出しなければならないと感じてしまった。

「だから、逃げて。お・俺のために」

ネイシーは尚も首を振った。
できるわけが無かった、自分を命を懸けて守ってくれた者を、そして自分を心から愛してくれているものをおいて行けるはずも無かった。

「いいから行くんだ!」

アディスの突然の怒鳴り声にネイシーは驚いた。そして、すべてを受け入れた。
私は、このアディスのためにも生き残らなければならないと。

「わかった。私生き延びるわ。あなたのために」
「ありがとう」

そう言うと、アディスは蛍雪をネイシーに渡した。

「この刀を持って行って。きっと役に立つから」
「わかったわ」
「き・君をま・守り抜くことができ・・・てよか・・・た」

アディスは静かに目を閉じ、二度と目を開かなかった。

そこでネイシーは夢から覚めた。
目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「・・・嫌な夢」

ネイシーはベッドから降りると、キッチンへ向かった。
キッチンの冷蔵庫に入っていた二リットル容器に入っているミネラルウォーターを一本とるとふたを開けてコップに移すと、それを一気にのどに流し込んだ。
冷たい水を一気に飲んで気持ちを落ち着かせると、しばらくボーっとしていた。
すると、後ろから声をかけられた。

「ネイシー?」

クレアだった。

「どうしたの?クレア」
「こっちのセリフよ。どうしたの?」
「嫌な夢見ちゃって・・・」
「私も・・・ちょっとだけ話に付き合ってくれない?」
「いいわ・・・!」

ネイシーは殺気を放つ者がこちらに近づいてきていることに気がついて素早く臨戦態勢をとった。
ネイシーの様子の変化を察したのか、クレアも臨戦態勢をとっていた。

「・・・誰かがこっちに向かってくる・・・すごい殺気を放ってるわね」
「みんなに知らせなきゃ」

二人は残りのメンバーを起こすために急いでその場を後にした。

(・・・悪夢の次は誰かと戦闘なんて・・・ホント最悪・・・ )

心の中で悪態をつきながらクレアと共にメンバーを起こしに向かった。

その頃、ハンターとウェスカーと部隊唯一の女性隊員は屋敷正面の右翼側に移動し、素早く壁面に移動し身をかがめながら手近な窓に移動した。
ハンターは窓から中を覗き込み、人影やセンサーの有無を確認するとコンパスのような道具を取り出して窓の鍵のある部分の近くにその道具を使って円形に窓ガラスを切り抜いて、その穴から手を通して鍵を解除した。

「私がまず入って中を確認します。合図をしますので二人はその後に」
「了解だ」
「了解」

ハンターは音を立てないように中に入ると素早く左右を確認した。
誰もいないことを確認すると外にいる仲間に合図を送った。
ウェスカーと女性隊員がハンター同様に音も無く侵入する。

「ところで彼女は新顔ですか?初めて見ましたが」

ハンターは今更ながらそのことを聞いた。
それは無理も無かった、彼はこの作戦が始まってからある一つのことしか考えていなかったからである。

「手短に言う、彼女の名前はエイダ・ウォン。最近我々の部隊に入ったから君が知らなくても無理はない」
「そうですか・・・」

それだけ聞くと、ハンターは任務に集中することにした。
部屋の奥に見えるドアに近づくと、ドア越しに外の気配を探るが、特に人の気配を感じなかったのでハンターはドアノブに手をかけるとゆっくりと回してドアを押し、手鏡を使って左右を確認した後ドアを開けて外に出た。
素早く銃を左右へ走らせて危険が無いかを確認した後中の二人に合図を送った。

「クリア」

ウェスカーに続いてエイダが部屋から出てきた。
その後三人はお互いの死角をカバーしながらホールを目指した。



「・・・ン・・レオ・・・・ン起きて・・・レオン!」

クレアの声で眠りから覚めたレオンは訝しげな視線を送るが、クレアの緊迫した表情を見て気を引き締めた。

「どうした?」
「敵襲よ、ネイシーがそう言ったの」

レオンは素早く起き上がると、枕の下に置いておいたデザートイーグルを取り出し、次に枕もとの棚から予備弾薬を取り出した。
クレアの手にはすでにベレッタM93Rが握られていた。

「・・・まさかここが襲われるとわな」
「ネイシーのおかげね」

ネイシーの第六感ともいうべき感覚はセンサー並みの正確さを誇っている。
これまでにも何度かアンブレラの暗殺部隊に襲われても生き残れたのはネイシーの感覚によるものが大きい。
二人は静かに部屋を出ると、階下のホールを見下ろした。
ホールに誰もいないのを確認すると、二人は足音を立てないようにしながら遊戯室へと向かった。
その途中でクレア達はクリスとシーバスに出くわした。
シーバスは昼間の捻挫が響いているのか、足を引きずるようにして歩いていた。

「敵襲だ」
「ええ、ネイシーに言われて今レオンを起こしてきたところ」
「あいかわらず鋭いな」
「兄さんもネイシーに聞いたんでしょ?」
「おいおい夕食の後に苦労して仕掛けたものがあるだろ?あれの警報で気づいたんだ」
「ああ、あれね」
「二人とも、今は話していいときじゃない」

レオンに言われて、二人は喋るのをやめて目的地である遊戯室へと向かった。
遊戯室のまえで一定のリズムのノックをすると、鍵が開けられたので四人は急いで中に入った。
中では残りのメンバーがあらかじめ遊戯室に保管していた銃器で武装していた。

「これで全員揃ったな」

クリスが周りを見ていった。

「知ってのとおりここが襲撃された。しかし、我々はここで死ぬわけにはいかない。全員敵戦力を殲滅せよ。ただし、可能なら捕虜を確保してほしい、情報が得られるかもしれないからな、以上だ。レベッカ、敵の位置は?」
「敵はスリーマンセルで二チームに分かれて行動しているようです。一つは屋敷の左翼の執務室前の廊下を、もう一チームは左翼の食堂前の廊下を移動中。このペースだと、二チームともいまから五分後にホールに到達します」

屋敷の各所には隠しカメラが設置してあり、人の動きに反応する仕組みになっている。
このカメラはメンバーが留守のときと寝静まる夜中にのみ作動するようになっている。
このカメラは登録してあるメンバーの以外の人物がカメラの前に立つとすぐさまレベッカとクリスのパソコンに異常を知らせる仕組みになっている。
ちなみにこのカメラもジャックの父親からの支給品で、食後にメンバーが総出で設置したものである。

「今までみたいに交代で見張りをしなくて良くなった矢先にこれかよ・・・」
「ぼやくのは後だ、アークとシーバスはここでナカムラとシェリーの護衛を、レベッカは引き続き敵の位置を監視、残りのメンバーで敵の殲滅に向かうぞ」
『了解』
「シーバス、キツイかもしれんが頼む」
「ああ、この足でも護衛ぐらいなら何とかなる」

それだけ言うと、クリスは他のメンバーと共に外に出た。
それを確認すると、アークは扉に鍵をかけた。
遊戯室から出たメンバーは中央の階段を挟むようにして配置についた。
配置についてから約五分後、ホールの左右の扉が開く音が聞こえ、薄っすらだが人影らしきものが見えた。
人影はホール中央に固まると、三人が先に階段に登り、後の三人が援護する布陣をとった。

「今だ!」

全員がクリスの合図で立ち上がり、フラッシュライトで侵入者を照らした。

「動くな!動けば撃つ!」

階段の真ん中付近にいた三人は銃を左右に走らせながらその場に止まり、下の三人は銃を降ろしたままたたずんでいた。

「クリス、どうして私たちの侵入に気づいた?」
「ウェスカー!」

下にいた三人のうちの一人、ウェスカーがサングラスをかけなおしながら質問した。
クリスはウェスカーへと銃を向け残りのメンバーは他の敵を警戒した。
レオンは他の敵の顔を見ている中で、一人見覚えのある人物がいるのに気づいた。

「!」
「・・・」

エイダとレオンは暫し見詰め合うが、すぐに目をそらした。
ウェスカーが沈黙を破った。

「久しぶりだなクリス」
「久しぶりだな」
「なぜ気がついたんだ?」
「こっちには優秀な人材が揃ってるんでね」
「なるほど」

二人は暫し睨みあった。
そしてクリスが一瞬ウェスカーから目をそらした瞬間にウェスカーは高速の動きで胸に吊るしてグレネードのピンを引き抜くとクリス達に目掛けてほうり投げた。

「!伏せろ!」

クリスの声を合図に全員が咄嗟に伏せるが、クリスは伏せずに立ったままでいた。

「クリス!」

クリスはクレアの声を無視すると、銃をグレネードに向けると即座に発砲した。
クリスの持っていたM4A1から放たれた5.56ミリ弾は一直線にグレネード飛んで行くと、そのまま信管を撃ち抜いた。
着弾と同時にすさまじい爆発がおき、クリスは咄嗟に伏せたものの衝撃波で壁まで吹き飛ばされてしまった。

「ぐはっ!」
「クリス!」

クレアは慌ててクリスに駆け寄って傷の具合を見た。
幸いにも破片が刺さっている様子は無かったので、ショック性の物だというものがわかったのか一安心した。
残りのメンバーは急いで階下の敵の様子を見たが、そこに敵の姿は無かった。
ネイシーは咄嗟にレベッカに連絡を取った。

「敵は今どこ?」
『一階の食堂前に二人、執務室に四人います』
「敵は六人だけ?あと、ウェスカーはどっちいる?」
『敵は六人で、ウェスカーは執務室にいます』
「了解、引き続き監視を行って」
『了解』
「クリス、大丈夫?」

クリスは体の各部を軽く動かしてみた。
多少の痛みがあるものの、行動に支障を来たすほどではないようだった。

「大丈夫だ、今から二班に分かれて敵を追うぞ!ネイシーとカルロスとジャックと俺で執務室の四人を、レオンとクレアとバリーにジルの四人で食堂の二人を頼む!」

『了解!』
「行くぞ!」

メンバーはそれぞれのチームに別れて行動を開始した。



執務室の中でウェスカーは次なる作戦を立てていた。

「・・・我々の動きはどうやら筒抜けらしい、どこかにカメラが仕掛けてあるな・・・」

ウェスカーの他にはエイダと沈黙を守る重武装の兵士二名がドア付近に立っていた。

「ウェスカー、そろそろ奴らを投入しては?」

エイダの提案にウェスカーは苦笑を浮かべた。

「今奴らを投入したら我々も危ない、まだあのシステムには欠陥があるしな」

ウェスカーが次の言葉を発しようとしたとき今まで黙っていた二人の兵士が何かに反応して臨戦態勢をとった。

「・・・来たか」
「どうします?」
「迎撃するのみだ、お前ら二人で派手に暴れて奴らを釘付けにしろ私とエイダで後ろに回りこむ」

指示を受けると同時に二人は廊下に出て行った。

数秒後、激しい銃声が鳴り響いてきた。

「しかし、どうやって後ろに?」
「見ていればわかる、とりあえずカメラを何とかしよう」

そういうとウェスカーは懐に手を入れると無線機を取り出した。

「こちらウェスカー、応答願う」
『こちらGQ、どうした?』
「ゴッドハンマーを我々のいる場所に撃ち込んでもらいたいのです」
『・・・なぜだ?』
「こちらの動きが読まれています、恐らく監視カメラでしょう。破壊しようにも探すだけの時間が無いので、ハンマーの使用をお願いしたい、こちらの無線機は対策がなされているがやつ等のには対策はされてないでしょうし」
『わかった、五分待て』
「了解」

そういうとウェスカーは通信機の電源を切った。
エイダは会話を聞いて驚くと同時にあきれていた。

「まさかゴッドハンマーまで使うなんて・・・」
「奴らを倒すにはこれぐらいせねばな」

ゴッドハンマーとは、アンブレラ社の所有しているスパイ衛星に搭載されている衛星兵器で、この兵器は人や建築物を破壊するものではなく、強力なECM(電磁波)を指定座標地域にピンポイントで撃ち込むことで、敵基地の電子機器類すべてを破壊するという特殊兵器である。
通信後ウェスカーとエイダはその場で待機していた。
銃撃はまだ続いていた。
数分後通信機が鳴った。

『三十秒後に発射する、部下にもそう伝えてくれ』
「了解」

ウェスカーは通信を終えると、通信機のチャンネルを変えた。

「私だ、ハンマーが撃たれる注意せよ」
『リョウカイ』

次にハンターの方にも連絡を入れた。
最初に聞こえたのはすさまじい銃声だった。

『こちらハンター!ただいま交戦中!』

ハンターの怒声が通信機から響いた。

「私だ、もうすぐゴッドハンマーが撃たれる。注意せよ」
『!了解!』

数十秒後、屋敷の周辺が一瞬だけ明るくなった。

その一瞬の後に屋敷のありとあらゆる電子機器が沈黙した。
その異変がまっさきに現れたのが遊戯室に待機していたレベッカのパソコンだった。

「!パソコンが!」
「どうした!」
「パソコンが急にシャットダウンしたの!原因は不明!」
「なに!直せないのか!」

レベッカは必死にパソコンの復旧を図るが、奮闘むなしくパソコンが起動することは無かった。

「だめです・・・」
「クソ!こちらアーク!クリス応答しろ!」

応答は無かった、しかもノイズすら聞こえてこないことにアークは不審に思い、通信機を良く見ると電源のランプが完全に消えていた。

「通信機もイカれてる!」

レベッカとシーバスも自分の通信機を見た。
すると、二人の通信機も完全に機能しなくなっていた。

「どういうこと!」
「ナカムラ!なにか知らないか!」
「わからない、僕は自分たちの研究にしか興味なかったから」

四人が顎に手をやるなどして原因を必死に考えたが、答えは見つかりそうに無かった。
一つだけわかっているのは、敵の行動が把握できなくなったことにより、条件が対等になったことである。
そして、この後誰もが信じがたいことがこの戦闘で起こることになる。







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