BIOHAZARD
TemptFate

第十一章 覚醒



ゴッドハンマーが発射されたのを確認したウェスカーはすぐに行動を起こした。
まず、通信機でSTARSと廊下で撃ち合いをしている部下二人に、合図とともに手榴弾を一秒の間隔をあけて二つ投げるようにと爆発までのカウントをするよう指示したあと、足に付けてあるホルスターから小型のグレネードランチャーを取り出すと、五メートルほど離れた右手の壁に照準を合わせた。
後ろにいたエイダは、机の陰に身を潜めた。

「やれ」
「リョウカイ」
「一コメノバクハツマデ五ビョウ・・・三・二・・・」

ウェスカーは精神を集中させる。

「一!」

通信機からの声が聞こえると同時にウェスカーはトリガーを引いた。
一回目の爆発と同時にグレネードが発射され、二回目の爆発と同時に壁に炸裂した。
爆風がウェスカーを襲うが、当人はグレネードを構えた姿勢のまま微動だにせずその場に立っていた。
ウェスカーはグレネードの薬莢を排出すると、そこに新しい弾を装填した。

「さて・・・行こうか」
「なかなか無茶するわね」
「そうかな?」

ウェスカーとエイダはランチャーによって空いた穴から廊下に出ると、奇襲を行うために廊下を急いで進み始めた。



クリス達は、敵の予想以上の猛攻によって完全に足止めを食ってしまった。
何とか進もうとするが、容赦ない銃撃がそれを阻止した。

「くそ!これじゃ進めねぇ!」

カルロスが自分の持っているM4A1カービンのマガジンを交換しながら叫んだ。
ここで戦闘を開始してすでに三十分が経過していた。
装填を終えたカルロスが、クリスと入れ替わるように銃を構えたと同時に、敵が手榴弾を二個こちらに向けて投げ込んできた。

『グレネード!』

ネイシーとカルロスの声が重なって響くと同時に、カルロスとクリスは身を隠している廊下の少し奥に位置する物置に退避し、ネイシーとジャックはトイレにいたため、ドアを閉めてトイレの奥に身を潜めた。
それから数秒後、手榴弾が爆発してすさまじい爆音が響いた。

「クリス!無事!」

ネイシーは耳につけているインカムで呼びかけるが、返事は返ってこなかった。

「・・・返事がない」
「なに!」

その後何度か通信機で呼びかけているうちに、ジャックがある違和感に気がついた。
最初は何がいつもと違うのかわからなかったが、少しして違和感の正体が通信機のスイッチがオンになっているのを示すランプがついていないことだと気がついた。

「ネイシー・・・スイッチがオフになってる・・・」
「へ?」

思わずまぬけな声を出してしまったネイシーだが、すぐに通信機のスイッチ部分をみた。
すると不思議なことに、スイッチはオンの状態になっていた。
一旦オフにしたのち、再度オンにしてみるが何の変化も起きなかった。

「ねぇ・・・この通信機のバッテリーっていつも使ってないときは充電してあるよね?」
「あたりまえだろ」
「通信機が壊れて使えなくない」
「さっきの爆発のせいか」
「とにかくクリスとカルロスの無事をかく・・・」

最後まで言う前に、すさまじい銃声が廊下から響いてきた。
その音は、クリスとカルロスが使う銃の放つものだった。
二人は顔を向け合うと一瞬苦笑を浮かべると、再度廊下の戦闘に加わった。



「・・・上手くいったな」
「そのようね」

ウェスカーとエイダは迂回に成功し、クリス達の背後をとることに成功した。
ウェスカーは通信機で撃ち合っている兵士に、弾にあたり負傷したふりをして執務室に退避するよう指示した。

「彼らにそのような配慮は・・・」
「わかっている、だが普通の兵士を演じてもらわねばこの作戦は成功しない、それとネイシーとかいう女が視認できたら行動に移す」
「?まとめて葬るのでは?」
「彼女さえ消えれば奴らは始末するのは簡単だ」
「そうね」

二人は陰に身をひそめて時が来るのをまった。
暫くして、クリス達に動きがあった。
どうやら前進するらしい。
二人はP−90のセレクターをフルオートの位置にセットした。
そして、トイレから出てきたネイシーとジャックを視認した瞬間二人は同時に飛び出してトリガーを引いた。



ネイシーとジャックはクリスとカルロスのいるところに移動するべくトイレを出た。
クリス達はネイシー達が撃たれないよう前方の警戒を行った。
そして、クリス達と合流する直前にネイシーの背筋に悪寒が走った。

「ジャック!危ない!」

ネイシーはクリス達のほうにジャックを突き飛ばしながら自らも身を隠すべく曲がり角に向かった。
しかし、ジャックが身を隠すのと同時に背後からすさまじい数の銃弾が放たれた。

「キャァアアアー」

ネイシーの絶叫が響く。
ジャックたちにはすべてがスローモーションのように見えた。
ネイシーの体を何十発もの弾丸が突き抜けていった。

「ネイシーーーーー!」

ジャックはネイシーを自分たちのいるところに必死に引きよせようとするが、銃撃が激しくなかなか思うように引き寄せられないでいた。
ところが、偶然にも銃撃がぴたりとやんだのである。
敵はどうやら全弾撃ちつくしてしまったらしい。
それを逃さずジャックとカルロスはネイシーを自分たちのほうへと引きよせ、クリスはG36Cアサルトカービンを乱射して相手をけん制した。
ネイシーを引き込んだ瞬間今度は反対側のやつらかの銃撃にあったが間一髪のところで間に合った。

「ネイシ・・・」

ジャックたちはネイシーの体を見てショックを隠せないでいた。
ネイシーの体には数十発もの弾に被弾しており、何発かは確実に致命傷となるところにあたっていた。
だれの目からしても助かりようのない傷を負っていた。

「ネイシー!」

ジャックの呼びかけにネイシーはなにも反応を示さなかった。
クリスは首の頸動脈に触り脈拍を調べるが、完全に脈は止まっていた。

「そんな・・・ネイシー・・・」
「ジャック」

カルロスはかける言葉を見つけられないでいた。

「・・・なんだよ・・・俺を置いていくなよ」

ジャックの目は涙であふれていた。

「ジャック・・・ここにいてはまずい、いったん引くぞ」

クリスはジャックの方に手を掛けながら言った。

「くそったれー!」

ジャックは自分のM4A1をウェスカー達のいるほうに1弾倉分乱射すると、ネイシーの遺体を横たえ、クリス達と共に遊戯室に向かった。
クリス達が去って少し経った後、ウェスカー達はネイシーの遺体のある場所に部下を集めた。
作戦が成功したのを全員で確認したあと、ウェスカーはハンターに連絡を入れた。

「こちらウェスカー、そっちはどうだ?」

通信機越しに激しい銃声が聞こえてくる。

『最悪です、なんとか持ちこたえてはいますが・・・』
「五分以内にそちらに応援に行く。それまで持たせろ」
『?そちらはもう決着はついたのですか?』
「詳しいことはあとで話す」

そこで通信機のスイッチを切ると、ウェスカーは部下を引き連れてハンター達のいる食堂へと移動を開始した。



・・・ここは・・・どこ?

ネイシーの意識は精神の深いところにあった。
自分は死んだんだと思っていたが、どうやらまだ完全には死んでいないらしかったがそれも時間の問題だと思っていた。
しかし、諦めようとする一方でもう一つの思いがそれを阻んだ。
それは、アディスの仇をまだとれていないという思いだった。

生きたい、まだ死ぬわけにはいかない!彼との約束を破るわけにはいかない!

そう強く思った瞬間、何もない闇の向こうから声が響いてきた。

「あなたは誰?」
「私はあなたの中に封印されていたもの・・・」

ネイシーはなぜかその声に聞き覚えがあった。
どこで聞いたかを必死に思いだそうとしたが、なかなか思いだせなかった。

「私はあなたの力の源であり、あなたを守る守護神・・・名はフレイヤ」

「え?」

その名前が引き金となった。
今まで封印されてきていた自らの記憶が一気に頭の中に広がった。

「ああっ!」

激しい頭痛に見舞われたがネイシーはそれに必死に耐えていた。
そして、すべてを思い出したときネイシーの中に封印されていた力が解放された。

「わが名はフレイヤ、生きとし生けるものすべてに愛という名の幸福をもたらすもの」

フレイヤ、北欧神話に出てくるアース神族に属する女性神の名をもつ女性がネイシーを抱きしめると同時に同化した。
そして、ネイシーの意識は激戦の繰り広げられている館へと戻ってきた。

「う・・・つぅ・・・」

体を襲うひどい痛みに悶えながらネイシーは両腕を交差させると、精神を集中させた。

「ナルシシズム(自己愛)」

そう呟いた瞬間、ネイシーの体を淡い光が包み込み、みるみる内に傷を回復させていきものの十秒ほどで傷は完全に治癒した。
暫く、そのままの状態で体力を回復させると、ネイシーは立ち上がった。

「体力まではさすがに回復しない・・・か・・・」

ネイシーは傷による痛みは完全に消えたが、疲労までは回復することはできなかった。
しかし、それをぼやくのもつかの間、ネイシーの表情が真剣なものに変わった。
深呼吸を何度か繰り返すことで体を落ち着かせると、ネイシーは仲間たちの元へと急いだ。



食堂では一進一退の攻防が繰り広げられていた。

廊下の曲がり角から執拗に銃撃を加えるレオン達の猛攻にハンターは焦っていた。
すでに手持ちのマシンガンMP5A2のマガジンは今入れてあるのを含めて三本しかなかった。
ただ、もう一人の兵士のほうはM16A2にドラムマガジンを装備しており、そのドラムマガジンはあと予備が二つ有るためなんとかしのげていた。

「くそ!このままじゃ・・・」

その時、不意に銃撃が止んだ。
ハンターは突然やんだことに疑問を持った。

罠か・・・?

ハンターは手鏡を使って廊下の様子をみた。
すると敵の姿はなく、あるのは床に大量に落ちている空薬莢と大量の弾痕のみだった。
ハンターは廊下に出てみるが、反撃はなかった。

「なぜ敵は退いたんだ?」

その時、後ろに気配を感じてとっさに後ろに銃を向けるが、そこにいたのはウェスカー達だった。
合流すると同時にウェスカーは先ほどの戦闘で起きたことを説明した。
その内容にハンターは驚いた。

「STARSのトップガンであるネイシーを倒すとは・・・」
「それなりに苦労はしたがね」
「しかし、隊長の身体能力を発揮すればそんな作戦を立てなくても・・・」
「ほかの隊員、特にクリスがいたから迂闊な行動は命取りになりかねなかったからな」

その後、少しの作戦会議をすると、ウェスカー達は再びSTARS抹殺作戦を開始した。
この戦いの決着がつこうとしていた・・・







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