BIOHAZARD
TemptFate

第十三章 決着の刻 後編



一方、食堂にいるクリス達は・・・

ここのサクリファイスは、仲間を吸収してはいなかったが、すぐに回復する体に、弱点が見出せないこともあり、かなりの苦戦を強いられていた。

「くそ!どこを撃てばいいんだ!」

「とにかく撃て!」

クリスとバリーの声が重なる。

四人は心臓、頭、肝臓等の致命傷となる急所を的確に撃ち抜いていくが、サクリファイスは倒れるどころか、逆に腕をボウガンにして攻撃をしてくる。

無数の風切り音とともに矢が飛来する。
四人は一斉に床の隠しスペースに身を潜める。

「このままじゃキリがない!」

その時、食堂入り口から大量の弾丸が飛来した。
弾は全てが強装炸裂弾で、サクリファイスの各所から爆発によって生じる閃光が煌いて、ある種の芸術を生み出していた。
クリス達も、正面の入り口付近にいる味方に当たらないように角度をつけて射撃を開始した。
サクリファイスも負けじと攻撃しようとするが、大量の弾丸に成すすべもなく、一瞬にして崩れ去った・・・かにみえた・・・
サクリファイスは持ち前の超回復で一瞬にして回復すると、両手をボウガンに変えて乱射し始めた。

「くそ!」

クリス達は矢をやり過ごすために、身を潜める。

「ビリー!あいつらの弱点は!」
「ICチップさえ破壊できれば奴らは自滅するはずだ!」
「その場所は!」
「前頭葉の中心部だ!ただし!チップの大きさは直径五ミリ程度の極小サイズだ!」
「マジかよ!」
「中心部にかならずあるんだな?」
「ああ!」

直後、レオンは愛銃であるデザートイーグル10インチカスタムを取り出し、スライド部分に近距離狙撃用のダットサイトを装備した。
狙いに集中し、そして!

「終わりだ」

レオンはデザートイーグルを発砲。
弾は空気の壁を切り裂き、真っ直ぐサクリファイスの眉間へと突き進み、着弾した。

「ひぎゃおおぉぉぉおぉぉぉぉぉ・・・・」

チップを破壊されたサクリファイスは、形を保つことができなくなり融解していき、最終的には完全に液状化して床に広がった。
敵の完全撃破を確認したのち、全員が集まった。



そのころネイシーはというと・・・

「ハァハァハァ・・・」

疲労の蓄積により、ホールまであと数十メートル付近で息を必死に整えていた。
傷の回復にも体力を使った代償が来たのである。
先ほどから絶え間なく響いていた銃声は聞こえなくなっているため、彼女は早く事態の詳細を把握する必要があったが、意思に反して体が動かないため急ぎたい気持ちを必死に抑えて体力の回復に努めていた。
暫くして、だいぶ息が落ち着いてきて、体力的にも余裕ができ始めたとき、急に銃声と叫び声がホールの方から響き渡った。



クリス達は、被害の状況を確認するためにホールに集まっていた。
奇跡的に重症はいないものの、銃撃戦での裂傷などが目立っていた。

「うぜぇ相手だったな」
「まったくだ」

カルロスとジャックが同時に愚痴をこぼす。

「まぁまぁ、たお・・・」

レベッカが何かを言おうとしたとき、それは急激に動いた。
小さな風切り音とともに一本の触手のようなものが伸びてきて、レベッカの隣にいたビリーの胸を貫いた。

「え・・・」

ビリーは何が起きたのか把握する前に、うつ伏せに倒れた。

「ビリー!!!」

レベッカは急いでビリーを仰向けにすると、傷の具合の確認に入り、残りのメンバーは触手の元へと銃を向けたると、そこには・・・

「馬鹿な!」

そこには、先ほど倒したはずのサクリファイスが何事もなかったかのように立っていた。

「おかしいぞ!なんで急に現れたんだ!」

そう、クリス達がホールへと来た時はどこにもサクリファイスの姿がなかったのである。
しかし、その疑問はすぐに解決することになった。

「迷彩・・・モードだ・・・」

声のした方を見ると、ビリーが痛みをこらえて声を発していた。

「しゃべっちゃダメ!」
「安心しろ・・・かろうじて急所ははず・・れてる」

しかし、それを差し引いても早急に治療が必要なのに変わりはない。

「レベッカ!急いで治療室に迎え!こいつは俺たちが押さえる!」
「了解!」

レベッカはビリーに肩を貸すと、移動を開始した。

「さぁ・・・行くぞ!」

ここに、館での最後の戦いが幕を開けた。

「くたばれぇええええええええええええええ」

ジャックの雄たけびと同時に全員が銃を掃射する。
一斉に吐き出された弾丸はすべてサクリファイスへと突き刺さり、腕・頭・足などを次々と破壊していくが、破壊された部位の破片は瞬時に液状化してサクリファイスの本体と再び融合していくため、決定打を与えることはできなかった。

「だぁ!うっとーーーしーーーーーーーーーーー!!!!!」

ジャックは愚痴を盛大にもらしながら撃ち続けた。
しかし、サクリファイスも黙って撃たれるわけではなく、両手をボウガンに変えて豪雨の如く撃ち返してきた。

「退避!」

クリスの号令で一斉に食堂に避難した。
それを見たサクリファイスはその後を追って、食堂へと入っていった。
サクリファイスが入ったのを確認すると、クリス達は机をバリケードにして攻撃を再開した。
ちなみに、レベッカとビリーは違う扉からすでに脱出していた。
サクリファイスは銃弾をものともせずにどんどんクリス達に近寄って行った。

「くそ!なんでコアに当たらない!」

実は、サクリファイスには学習機能というものがあり、先のランチャーでの攻撃で頭部にコアを置くのは防御面で不安が残ると学習し、より防御しやすい人間でいう心臓の位置にコアを移動させ、コアを可能な限りの硬度をもたせた金属で囲むことで銃弾を防いでいた。
そんなことは、もちろんメンバーが知るはずがなく、ひたすら頭部を中心に攻撃を行っていた。
無論、何十発もの弾丸が胸に炸裂するも、衝撃吸収力のある素材で覆っていたことで、貫通することなくはじき返されていた。
また、彼らの弾も無限ではなく次々に、弾切れを起こしていき、最終的に全員の装備はハンドガンとナイフのみになってしまった。
しかし、サクリファイスは、弾切れの気配も見せずに乱射している。

「くそ!」

レオンは苦し紛れにデザートイーグルでサクリファイスの胸にダブルタップを仕掛けるという荒業をした。
すると、着弾したところから甲高い金属音が響いた。
サクリファイスが敵の攻撃力低下によって胸部の守りを金属のみにした結果、弱点部位が判明したのである。
しかし、レオンのデザートイーグルをもってしても貫通できない金属を破壊する手段をクリス達は持ち合わせていなかった。

「ちくしょう!!弱点がわかっても破壊できなきゃ意味がねぇ!」

カルロスが正確に胸部を撃ち抜きながら叫んだ。

「諦めるな!」

しかし、さすがにハンドガンでは対処しきれずついに全員の銃の弾が切れてしまった。

「くそ!」

サクリファイスは銃撃が止んだのを見ると、両腕を剣に変えるとゆったりとした歩調でクリス達に近づいていく。
クリス達はナイフを構えるがそんなもので倒せるとは誰も思っていなかったが、諦めきれなかったのである。

「行くぞ!」

まずクリスが突っ込んでいきナイフを胸に突きたてようとするがサクリファイスは剣のリーチを生かして右手の剣で突きを放つ。

「当たるか!」
「俺らもいるぜ!」

クリスは姿勢を低くして突きを避け、ジャックとカルロスが背後から迫る!
しかし、サクリファイスは左手の剣で下から上に向かって振り上げることでクリスに攻撃を仕掛け、ジャック達には背中に棘を生成してけん制した。
クリスは間一髪横に転がって避け、ジャック達は寸前で攻撃をやめた。

「このぉ!」

バリーが椅子を振り上げて頭に叩きつけ、そこで出来た隙をついてレオンとジルがナイフで胸部を突くが・・・
やはり、金属で覆われているため貫くことができなかった。

「くそ!」

二人はすぐに距離を開けた。

「クリスどうしよう・・・」
「俺が聞きたい・・」

クリス達は絶体絶命のピンチを迎えていた。
隙を見て部屋を抜けようとしたジャックはサクリファイスにボーガンを向けられたため断念せざるを得なかった。

「くそ!武器を取りに行こうと思ったのに・・・」

サクリファイスは打つ手のなくなったクリス達に近づいて行った。
そして、サクリファイスとクリス達の距離が五メートルほどになったとき奇跡は起きた。

「伏せて!」

その声に全員が一斉に伏せると、サクリファイスの背後から12.7mm弾がサクリファイスの胸部に着弾した。
12.7mm弾は容赦なくサクリファイスの胸の金属を食い破り、着弾の衝撃でICチップごと上半身を破壊し、サクリファイスの心臓とも言えるICチップを失った体は瞬時に形を失くしていきそのまま蒸発して消えてしまった。

「やったのか?」
「そうみたいね」
「・・・」

クリス達を救った女性はバレットを肩に担ぎながらクリス達のもとに行き一言。

「ただいま♪」
「はははは・・・おかえり!ネイシー!」

死んだ人間が蘇る・・・普通ならあり得ないことである・・・
しかし、死んだ人間が蘇るという非現実に接し続けた彼らはそこまで驚くことはなく、むしろ大いに喜び彼女を迎え入れた。
しかし、この先ネイシーは敵地で史上最大の敵と遭遇することになる。
だがそれはまだ先の話・・・



少し時間を遡り、とある小屋。
ここは、ビリーがスターズを監視するために使っていた小屋である。
その二階にウェスカーとエイダがいた。

「うまく逃げることができたな」
「そうね」

二人はサクリファイスを放った後ここまで逃げてきたのである。

「しかし、サクリファイスのポテンシャルを最大限に使うのはこちらも危険にさらされるのが難点だな」

サクリファイスは順応性や知能が高い優秀なBOWであるが、敵味方の判別をさせるには専用の制御装置を搭載しないと無差別に攻撃をするのである。
ウェスカーの押したスイッチは無差別攻撃を行わせるために制御装置のロックを解除するためのものである。
制御されている間は変身も迷彩モードも使うことができないので、武器がなければ役に立たないのである。
そのため、二人はリミッターを解除したのち退避したのである。

「まぁいい、とにかく脱出しよう」
「そうね」

ウェスカーは無線機の置いてある場所に向かった。

ところが・・・
突然すさまじい勢いで何かがウェスカーとエイダの間を通り抜け、直後無線機が粉々に吹き飛んだ。

『!』

二人はとっさに伏せるが、その後なにもなかったので立ち上がった。

「・・・なんだったんだ?」
「さぁ・・・どうするのよ?無線機」
「・・・歩いて街まで行くぞ」

エイダはそれを聞いた瞬間露骨に嫌な顔をしたが、予備の無線機は置いていないので二人は連絡手段を確保するために街まで行くことになった。
ちなみにここまでは途中までヘリで運ばれてきたため、歩くしか方法がなかったのである。
ちなみに、彼らは知るよしもないが、無線機を破壊したのはビリーが撃ったバレットの12.7mm弾である。
まさかの活躍をしていたビリーは現在、生と死の境を彷徨っているのであった。
しかし、何とか一命は取り留めたが、意識不明のままであった。
主役がすべて舞台に上がり、幕も上がった。
後は、彼らが戦いを始めるだけである・・・







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