BIOHAZARD
TemptFate

第三章 潜入


アジトでは今夜行われる潜入作戦のための準備が着々と進められていた。

「クリス、シーバス。お前ら今夜使う銃を選んでくれ。潜入する前にチェックしたいから」
『わかった』

二人の声が重なっていた。
出てきた二人はかなり寝不足のようだった。

「お前ら銃選んだ後少し寝ろ」

バリーは二人の顔色を見て忠告した。

「そうだな・・・」
「一通り終わったしな」

そう言うと、二人は武器選びに入った。

「俺はM4とグロック19にイングラムを二丁」

「俺はG36Cとグロッグ19にコルトパイソン」

バリーは二人の持ってきた銃器を受け取り早速銃の整備及び点検に移った。

「シーバス。なんでイングラム二丁なんだ?」
「ラクーンで一回そいつで二丁拳銃やったとき、意外と良かったから」
「こいつで?」

バリーが驚くのも無理はない。このイングラムという銃はマガジン内の弾を僅か一秒半で撃ちつくほどの連射性能があるが、命中率は十メートル先のコークにすら当たらないと言われるほど低いのである。

「意外と使えるんだよ」

バリーの言葉に、シーバスは自信を込めて答えた。

「ならいいがな。まぁとにかく夜まで二人とも寝とけ」

『りょ〜か〜い』

そう言うと、二人は寝室に向かった。
その夜、メンバーは今夜行われる潜入作戦の内容を聞くためにリビングへ集まった。

「ではブリーフィングを始める」

寝たおかげかシーバスとクリスはいつもの状態に戻っていた。

「シーバス達の情報から潜入経路は東西に一個づつ設けられた通風孔のみということが判明した」

そう言うと、シーバスは研究所の簡易見取り図を出した。

「そこでメンバーを二つに分ける。Aチームは俺とレオンとジル。Bチームはカルロス、ネイシー、ジャック、シーバスだ」

そこで説明がシーバスに変わった。

「Aチームは西側の通風孔から。Bチームは東側にある通風孔から潜入してくれ」
「潜入後は各チームの任務を遂行してくれ。Aチームはワクチンのサンプルの確保。Bチームは新型のBOWなどに関する資料がないか探索してくれ。バリーとクレアは任務終了の通信が入った後ヘリで迎えに来てくれ。着陸地点はこちらで確保する。以上、質問は?」

質問が無い事を確認し、クリスは気合を込めて声をだした。

「作戦開始!」
『了解!』

ブリーフィングが終了後すぐにクリス達は研究所に向かった。
一キロ手前のところで移動をトラックから徒歩に変えて研究所を目指した。
そこから慎重にかつ迅速に研究所に向かっていき、約三十分後目的地の研究所に到着した。
そこからはチームごとに別れた。

「こちらAチームクリス、潜入ポイントに到着。Bチームは?」
『こちらBチームカルロス。こちらも到着した。しかし、変だな・・・』
「なんがだ?」
『明かりはついているのに静か過ぎるし、何より見張りがいない。まるで・・・』

そこで突然カルロスの声が途絶え、代わりにくぐもった銃声が響いた。

「どうしたBチーム!応答せよ!」
『こちらカルロス!ゾンビと遭遇した!』
「なに!」

まさか、バイオハザードがここでも?

『どうする?中止するか?』

しばし思案した後

「いや、続行する。各自細心の注意をして潜入してくれ」
『了解』

そこで無線が切れた。
クリスは無線内容を他のメンバーにも話し、研究所には通風孔からではなく手近な窓を破って入る事になった。
すぐ近くにあった窓から中をのぞいた。
中には人の気配は無く窓にはセンサーらしきものも無かったため、ライフルのストックで窓を割って中に入った。
周囲の安全を確認後外にいるジルとレオンに合図を送った。
ジルに続きレオンが中に入り潜入は一応成功した。

「これからサンプルを探す。しかし、何が出るか分からないから慎重に行くぞ」

ジルとレオンもうなずき、ジルはM4A1RISを構え、レオンはM16A2を構えた。
潜入任務と言う事もあり、三人ともサイレンサーを付けていた。

「いくぞ」

クリスを先頭に三人は行動を開始した。
一方カルロス達Bチームは無線終了後、職員の更衣室と見られる部屋から潜入していた。


「サイレンサーもういらんよな?」
「一応つけておいた方がいい」
「しっかし何でゾンビがいるんだ?」
「知らないわよ。」
「静かに。あいつらは音によってくる」

シーバスの言葉で全員が周囲の気配をうかがった。

「よし俺が先頭で行く、シーバスは殿(しんがり)を頼む」
「分かった」

カルロスはドアを静かにあけ外の安全を確認した。

「クリアだ。来ていいぞ」

ジャックが合図を受け出た時、ちょうど右手の廊下の角からゾンビが五体現れた。

「そこか!」

ジャックは咄嗟にレーザーポインターでゾンビの頭をポイントし引き金を引いた。
三〇八口径の特殊強装炸裂弾がゾンビの頭を粉々に粉砕した。残りの四体も次々と二人の手で倒されていった。

「さすがSOPMOD−M14。威力は折り紙つきだぜ」
「それで人撃つなよ」

残りの二人も外に出てきたところで全員で資料室を目指す。

「クリス!」

レオンがクリスの後ろにいたゾンビの頭を撃ち抜いた。

「助かった」
「気にしないで下さい」

その時、レオンのすぐ後ろの扉が突然開き、中からゾンビが現れた。

「しまっ・・・!」

やられると思った瞬間ゾンビの頭に三つの弾痕が刻まれた。

「油断しちゃだめよ」

ジルのライフルから煙が出ていた。

「どうも」
「どういたしまして」
「行こう。あまり長いはできそうにない」

クリス達は再び目的地に向けて歩き出した。
その頃、カルロス達は研究所の二階の通路にある部屋を一つづつ調べながら進んでいた。

「なぁジャック。お前M4しか使わないんじゃなかったのか?」

カルロスはふと思った疑問をぶつけた。

「いや・・・そのなんだ・・・M4よりもこいつのがカッコいいし強力だから・・・」
「まぁ別にいいけど。」

そんな会話をしているうちに最後の部屋にたどり着いた。

「ここで最後か・・・」
「ん?どうやらここが本命らしい。」

ドアの表面には「資料室」と書かれていた。

「そのよう・・・」

その時、中から物音がした。

「おい」
「ああ。俺がドアを開けて先に中に入る、バックアップを頼む」
「わかった」

そう言うと、カルロスはドアノブに手をかけ、一気にドアを開け中の様子を確認した。
しかし、資料室の中に人影はなく、もぬけの殻だった。

「誰もいない」
「おかしいな」

カタ、カタカタ

『!』

全員の視線が音のしたほうに集中した。
目を凝らしてみると棚の角から足が少しだけ出ていた。
生存者の可能性もあったのでネイシーが声をかけた。

「そこにいる人。生きてるなら出てきて。私達はゾンビじゃないわ」

するとその声に反応したのか。棚の陰に隠れていた者がゆっくりと出てきた。

「君達は?」
「俺達はSTARSの人間だ」
「!STARSだって!」

その男は明らかに動揺していた。

「落ち着いて。別にあなたを殺すわけじゃないから」
「何しに来たんだ?」
「ワクチンのサンプルとBOWに関する資料を回収するために来た」

男はそれで納得したのか、首を縦に振っていた。

「・・・本当に殺さないか?」
「殺さないって」

それでようやく男は警戒心を解いた。

「ならいいんだ。私はここの研究員で名前はケンジ・ナカムラだ」
「私はネイシー」
「シーバスだ」
「カルロス」
「ジャックだ」

自己紹介の後、四人はなぜここでバイオハザードが起きたのかケンジに聞いた。

「俺もわからないんだ。資料室で調べ物をしてる最中にいきなり警報がなったんだ。そのすぐ後に悲鳴やら銃声やらが聞こえてきたんだ。俺は怖くてここに隠れてた」

ケンジを見る限り嘘は言っていないようだった。そこで今度はワクチンのサンプルの場所を聞いてみた。

「サンプルは地下二階の奥にある培養室の特殊金庫の中に置いてある」

ケンジが意外とすんなり喋ったので、四人は驚いた。

「いいのか?そんな簡単に喋って」
「金儲けのために人を殺すウイルスを作る会社に嫌気が差していたんだ」

それは紛れもないケンジの本心だった。
それを聞いた四人の中に、ケンジに対する信頼感が急に高まっていった。
カルロスは無線を取り出すと、スイッチを入れた。

「ことらカルロス。応答願う」
『こちらクリス、どうした?』
「資料室の中で、ここの研究員の生存者を見つけた。彼が言うにはサンプルは地下二階の奥にある培養室の金庫に入っているらしい」
『信用できるのか?』
「会社に嫌気がさしてる奴からの情報だ。多分大丈夫だ」
『・・・分かった。今から地下二階に向かう』
「資料を回収しだいそちらと合流する」
『了解』

そこで無線を切った。

「ケンジ、ここにBOWの類はいるか?」
「いない。ここはワクチンの開発が主だったから実験に使う動物以外は・・・」

そこで不自然にケンジの言葉が途切れた。

「どうした?」
「そういえば、ワクチンのBOWに対する効果を調べろってことで本社から送られてきたハンター十体とタイラントが一体地下一階の研究室に冷凍保存されてる」

四人は驚愕した。

「ハンターはともかく。なんでタイラントなんかで実験するんだ!」
「本当はハンターだけで行う予定だったんだが、本社の手違いでタイラントが一体送られてきたんだ。」

ネイシーはそこで一つの疑問が浮かんできた。

「なんでここでそんな実験を?」
「そういえばなんでだろう?本社の研究所の方が専門の機材とかが揃ってるのに」

この時、ネイシーの頭の中に一つの仮説が浮かび上がってきた。

「もしかして、私達がここに潜入する事がばれていたんじゃ」

その言葉に全員が驚いた。
しかし、シーバスがそこでそれを否定した。

「それはないんじゃないか?ここを発見したのは最近なんだし」

そこでカルロスがとんでもない仮説を出した。

「もしかしたらわざと見つけさせたんじゃないのか?」

全員の視線がカルロスに集中した。

「なんのために?」
「俺達を始末するためにさ。そのためにハンターとタイラントを送ったのなら辻褄が合うしな」

そこでケンジが口を開いた。

「でも、研究員を巻き込んでまでそんなことはしないはずだろう?」

そこで四人の顔に影が差した。

「ケンジ・・・お前のいる会社はそういうことを平気でやる所だ」
「なぜ、そういえる?」
「・・・二年前、南アフリカの研究所に潜入した時もここと同じ目に合ったからな。」

ケンジの顔に驚きと動揺が浮かんだ。

「それが証拠だ。俺達を殺すためならどんな事でもするんだよ」

ジャックの言葉がケンジに突き刺さった。

「俺達を簡単に捨てるなんて・・・」

ケンジの声には明らかに怒りが満ちていた。

「アンブレラは許さない、絶対に!」
「俺らと一緒に来るか?」

ジャックの誘いにケンジは即答した。

「ああ、一緒に行くよ」

その時、廊下から足音が複数聞こえてきた。
ゾンビではない、何かの。

「ケンジの話から思うに、ハンターだな」
「そのようね」

そう言うと全員が武器を構えた。

「ネイシーだったっけ?それで戦うの?」

ネイシーの手にある刀を見てケンジは聞いた。

「ええ、私のメインはこれ」

ネイシーの手には「蛍雪」が握られていた。
その時、ドアが吹き飛び、ハンターが三体現れた。

「喰らえ!」

ジャックの先制攻撃によって先頭のハンターの頭が弾けとんだ。
残りの二体が不利と悟ったのか、廊下に後退していった。

「さすがに馬鹿じゃないか」
「私が先に行くわ。バックアップよろしく」
「分かった」

ネイシーは慎重にドアに近づいていった。
ハンターの死体をまたいで外に出た。
その時、左右からハンターが同時攻撃を仕掛ける。

「甘い!」

するとネイシーは向かって左のハンターに突進して行った。
振り下ろされた爪を体を右にひねって回避すると、ひねった勢いで放った横なぎの一撃でハンター頭部を切断し、そのままの勢いで後ろを向き、振り下ろされた爪を刃で受け止めた。
ハンターは力押しでいこうと力を腕に込めようとしたが、背後から頭を撃ちぬかれ絶命した。

「さすがだな」

カルロスは銃をおろしながら言った。

「私なんかまだまだよ」

血を振って落とすと、鞘に仕舞った。
ケンジは信じられないといった顔をしていた。

「まさかハンターを刀で倒すなんて」
「こいつ三年前、ラクーンでリッパーをハリセンで吹き飛ばしてたぞ」
「え!あのリッパーを!」
「嘘のようだが、事実だ」

ケンジはどう反応すればいいのかわからなくなった。

「あいつを怒らせるなよ。タイラントより怖いから」

ジャックの小声での忠告にケンジはうなずいた。

「ああ、そうする。あ、そうだ」

そういうとケンジは一枚のディスクを取り出した。

「この中に、研究当初から完成までのワクチンに関するあらゆる情報が入ってる。もちろんワクチンの生成方法もね」

ケンジ以外の全員が驚いた。

「なんでお前がそんなの持ってるんだ?」

シーバスの質問にケンジはこう答えた。

「秘密」

ジャックはその言葉を聞いたとき、ある人物とケンジが重なって見えた。
かつてジャックとネイシーの親友だった男と・・・
ジャックの思考はカルロスによって止められた。

「秘密はないだろ秘密は」
「ごめんごめん。僕は研究当初から記録係をやっていてね、実験で重要と思われる事を記録していたんだ」
「それで君がその記録ディスクを持ってたわけか」

その言葉を受けて全員が納得した。

「それは君が持っていてくれ。あと、ここにはBOWに関する資料はあるかな?」

シーバスの質問にケンジは即答した。

「ここはあくまでワクチンを開発するところだったからそういのは」
「そうか、俺達の知らないBOWの資料が手に入るかも知れないと思ったが、しかたないケンジのディスクだけでもよしとしよう」
「よし、じゃあクリスに連絡して合流地点を決めよう」

カルロスは再び無線機を取り出した。

「こちらカルロス、クリス応答願う」
『こちらクリス、どうした?』
「BOWの資料はなかったが代わりにワクチンの生成方の書いてあるディスクを入手した」
『本当か!今俺達は・・・』

その時無線越しに何かが砕ける音がした。

「クリス!大丈夫か!」
『くそ!タイラントまでいるなんて!』
「いまどこだ!」
『地下一階の・・・」

そこで無線が途切れた。

「どうした!」
「クリスたちがタイラントに襲われてる。」
「場所は!」
「地下一階にいるらしいんだが、途中で無線が切れて正確には・・・」
「とにかく行きましょう。いけば分かるかも」
「そうだな。行こう!」

五人はクリスたちと合流すべく地下一階へ急いで向かった。

その光景を密かに見ていた人物がいる事に気ずく者は誰もいなかった。






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