BIOHAZARD
TemptFate

第七章 協力


キースはここにいるはずのない新型のタイラントを見て困惑した。

「おい、どういうことだ?」
「手違いであいつが送られてきてたそうだ」
「・・・泣けるぜ」

タイラントは階段を降りきり、辺りを見回すとディアス目掛けて突進してきた。
瞬く間に間合いを詰めると、いきなり巨大な爪のついた腕を突き出した。

「ちっ!」

なんとか爪を受けたものの、疲労のために踏ん張りが効かずディアスは吹き飛ばされ、地面を転がっていった。

「がっ!」
「ディアス!」

キースはタイラントの心臓目掛けて両手のP90をフルオートで掃射した。
しかし、弾の当たった箇所は瞬時に回復してしまうためダメージを与える事は出来なかった。
攻撃目標をキースに変えると、今度は腕を振り下ろしてキースを潰そうとした。
キースはバックステップで攻撃を避けた。
腕が振り下ろされた地面が砕けた。
キースはそのまま距離をとり、ディアスに近づいていった。

「大丈夫か!」
「なんとか」

ディアスは頭を振って意識をはっきりさせ、少しの間考えを巡らせた後いきなり後ろにいるクリス達の方を向いて言った。

「すまないんだが、あいつを倒すの手伝ってもらえないか?」
『は?』

ディアスを除く全員の声が重なった。

「あいつを倒すにはあんたらの持ってるワクチンを心臓に打ち込むしか手は無い、だから・・・」
「断ったら?」

クリスの質問にディアスは即答した。

「全滅確定」

キースがタイラントの攻撃を避けながら的確に急所を撃ち抜くがどれもが瞬時に回復していくためダメージを与えられないでいた。さらに、先の戦闘による疲労のために動きに繊細さが欠けていた。

「いいだろう、手伝おう」
「どうも」

それだけ言うと、ディアスもタイラントとの戦闘に入った。
キース目掛けて振り下ろされた腕を寸での所で受け止めると、それに合わせてキースが次々と弾を撃ち込んでいった。
ディアスの提案の後、クリスは急いでナカムラを呼んだ。

「麻酔銃かなんかないか?」
「研究室に実験用動物が脱走した時のための緊急用があるけど」
「あいつを倒すにはワクチンがいるから持ってきてくれ」

そう言ってクリスはナカムラにワクチンを渡した。

「わかった」
「シーバスはケンジの護衛のためについていってくれ」
「了解」

ナカムラとシーバスは麻酔銃を探しに走り出した。

「あいつらが来るまでの時間を稼ぐ!行くぞ!」
『了解!』

全員が一斉に散開しタイラント目掛けて攻撃を開始した。

レオンとジャックの放ったライフル弾が次々とタイラントの胴体に突き刺さった。
着弾と同時にジャックの放った炸裂弾が爆発し体中に穴を開けていった。
タイラントは攻撃目標をジャック達に変更し、身構えた。
しかしその直後、コルトパイソンに持ち替えたクリスの放ったマグナム弾とジルの九ミリホットロード弾、さらにキースの5.7ミリ弾が正確にタイラントの頭に命中し、頭部の半分が吹き飛んだ。

「ガァアアア!」

タイラントが雄たけびを上げた。
直後、ネイシーとディアスは一気に間合いを詰め、両腕を切り飛ばした。

「こ、これは効いたでしょう」
「どうかな?」

見ると、タイラントの体は急激に変化して行き、切られた部分からは新しい腕が生えさらに背中からも二本の腕が生えてきた。
さらに頭が弾け跳び、新たな頭が出てきた。

「・・・いい加減鬱陶しいわね」
「まったくだ」

二人は先程の戦闘でのダメージもあって、技の切れが無くなりつつあった。
するとディアスはサングラスを外した。

「まさかレベル2で戦う羽目になるとわな」
「あら、まだ本気じゃ・・・」

ネイシーは言葉を失った。
そこに立っていたのは三年前に死んだはずの人物だった。

「え?ア、アディス?」

「?俺はディアスだが・・・」

そこでディアスに異変が起きた。

「こんな時に・・・ぐぅうう」

そう言うと頭を抱えて苦しみだした。

「大丈夫か!」

キースは心配して声を掛けた。

「だ、大丈夫だ」

なんだ、今一瞬浮かんだ光景は?

「大丈夫?」
「ああ、だい・・・」

その時、なんの前触れもなくタイラントが先程の倍近い速度で突進してきた。
ディアスは寸でのところで突き出された爪を刀で受け止めた。

「う・・・くぅ・・」

ディアスに爪が徐々に近づいていった。
さらにタイラントは残りの三本の腕でディアスを攻撃しようとした。
しかし、タイラントが腕を振り上げたところで、三本あった腕の内二本は銃によって撃ちぬかれ、一本は切り落とされた。

「グワァアアアアアアアア!」

タイラントは苦痛に声を上げた。

「クリス!」

振り向くとそこにはハンドガン型の麻酔銃を手にしたナカムラと両手にイングラムを手にしているシーバスがいた。

「よし!」

クリスはナカムラに駆け寄ると麻酔銃を受け取った。

「ネイシー!頼むぞ!」
「いくわよ」
「ああ」

二人は同時に垂直に飛び上がった。

『ぁぁああああ!』

二人の気合を込めた声が重なり、二人同時に最上段から渾身の一撃がタイラントの胸に炸裂した。二人はすぐにその場を離れた。

二人が離れた直後、膨大な血を噴き出しながら胸の傷が一気に広がり、心臓が一定のリズムで脈動しているのが見えた。

「終わりだ」

クリスは麻酔銃の引き金を引いた。
放たれた弾は吸い込まれるようにして心臓に当たった。
効果はすぐに現れた。腕の回復が途中で止まり、さらに体中に切り傷のような傷が広がっていき、それが頭部に達したと同時にタイラントは動きを止め、そのままうつ伏せに倒れ動かなくなった。

「た、倒したの?」
「そのようだ」
「アバラは大丈夫?」

誤魔化しきれていなかったことにディアスは苦笑した。
二人は同時にその場で尻餅を着き、荒い呼吸を整えようと深呼吸をした。
一呼吸おいて、ディアスは囁くように言った。

「何とかね」
「そう」

その後二人はしばし無言でたたずんでいた。

「ふ、二人ともぶ、無事か?」

ジャックが二人に駆け寄ってきた。
ジャックはキースから受けた傷以外に目立った負傷はなさそうだったが、かなり疲れているらしく呼吸が荒かった。

「大丈夫だ」
「私も」
「そ、それはよか・・・」

ジャックもネイシー同様ディアスの顔を見て絶句した。

「アディス!生きてたのか!」
「・・・俺はディアスだといってるだろう。人違いだよ」
「本当に?」

ネイシーは信じられないといった顔をしていた。

「本当だよ」
「そう・・・」

ネイシーの顔には悲しみが浮かんでいた。
そこでクリスが口を挟んだ。

「まだ俺達と戦うか?」

その言葉に全員に緊張が張り詰めた。
しかし、ディアスは時計で時間を確認した後首を横に振った。

「いや・・・今回は引き上げるよ」

同じように時間を確認したキースがさらに付け加えた。

「時間もないしな」

クリスがどういう意味か聞こうとしたとき、それに答えるかのように警報が鳴り響き、コンピューター音声のアナウンスが流れてきた。

『自爆装置が作動しました。全ロックを解除。全所員は三十分以内に安全区域まで脱出してください。停止させる事は出来ません。繰り返します・・・』

『なにーーー!』

ディアスとキース以外の声が見事に重なった。

「そういうことだ!急げ!」

敵味方関係なく全員が一斉に来た道を可能な限りの速度で戻り始めた。

階段を上り地下一階に来たところで仕留め損ねていたゾンビが五体通路に立ちふさがっていた。

『邪魔!』

ネイシーとディアスの声が見事に重なり、それと同時に二人の銃が一斉に火を噴いた。
ネイシーの45口径が3発づつ左側二体の頭に当たり頭を吹き飛ばし、ディアスの5・7ミリが右側二体を穴だらけにした。一瞬にして四体が倒された。
二人は真ん中にいる最後の一体を狙うが、二人の銃は同時に弾切れを起こしていた。
銃を仕舞い、二人は刀を素早く抜くと同時にゾンビに切りかかった。
ネイシーとディアスの刀がコンマ数秒の違いでゾンビの体をXを描くように交差した。
ゾンビは立ったまま動かなくなったと思うと、体がバラバラになって床に落ちていった。
ネイシーとディアスは走りながらマガジンを交換した。
階段をすべて上りきり、廊下を右へ左へと息もたえたえになりながらも全力疾走した。

「出口だ!」

目の前に正面玄関の扉が見えた。
しかし、たどり着く直前になってリッカー三体が立ちふさがった。

「最後の最後にリッカーかよ!」

体力はピークに達しており、全員が肩で息をしていたがそれでも最後の力を振り絞りながら銃を構えるとリッカー三体に向けて発砲した。

「ピギャアー!」

三体の内一体が、全身に弾丸を受けて血まみれになったあと甲高い断末魔の声を上げて絶命した。
しかし、残り二体は横に飛んで弾を避けた後、壁を伝いながら猛スピードでクリス達に襲い掛かった。
天井と右側の壁に張り付いている二体が同時に伸ばしてきた舌を全員が伏せて避ける中、ディアスは冷静に軌道を見切って上体の動きだけで舌を避けた後二本の舌を半ばから切り落とした。

『ピギャ!』

リッカーは舌を切られた痛みに声を上げるが、舌を瞬時に戻した。

少しの間をおいた後、天井にいた一匹が猫のように回転しながら地面に着地した後、後ろ足に力を込めて大きくジャンプすると、右腕の爪で切りかかった。

「シャァアーー!」

しかし、クリス達は冷静に狙いをつけると一斉に発砲。
リッカーは顔面に大量の弾を受けたため頭が粉々に吹き飛び、さらに両腕も大量の弾丸を浴びて吹き飛ばされてしまい見るも無残な死体と化した。
最後の一体に全員が銃を向けるが壁から壁へ猛スピードで飛び移りながら進んできたため当てる事が出来なかった。
そして、リッカーは先頭にいたネイシーとディアスに両腕の爪で同時に切りかかる。
しかし、リッカーの腕は振り上げた直後に振るわれた二人の刀によって切り飛ばされ、さらにネイシーが頭の脳みそ部分を切り飛ばし、ディアスが首を切断した。
駄目押しで二人は首から股に掛けて刀を走らせて体を縦に二等分にした。
全員が安堵したのも束の間、アナウンスが残り時間が少ない事を告げた。

『自爆装置作動まであと五分。全所員は直ちに避難してください。繰り返します・・・』

疲れた体にムチを打って無理やり走った。
全員が一斉に外に出たと同時に、ヘリが二機急降下してきた。
そして、二機ともほぼ同時に正面広場に着地した。

「クリス!無事!」

クレアがドアを開けながら叫んだ。
クレアは見慣れない三人が一緒にいるのに気がついた。しかし、三人の内の一人に視線が釘付けになった。

「え・・・スティーブ?なんで・・・」

するともう片方のヘリのドアからも叫び声がした。

「キース、ディアス急いで乗れ!撤退するぞ!」

その声にクリスとジルが同時に反応した。

『ウェスカー!』
「あいつが・・・」

二人は銃口を向けるがキースとディアスが射線をさえぎった。

「クリスにジルか。悪いが時間がないんでね、君達の相手は次の機会に」

キースとディアスを収容するとウェスカーの乗ったヘリは急上昇して離れていった。

「くそ!」

クリスは悪態をつくが、すぐに気持ちを切り替える。

「急いで乗り込め!」

続々とヘリにメンバーが乗り込み、全員が乗ったのを確認すると

「バリー!」
「分かった!」

ヘリは最大出力で急上昇した。
全員、戦闘による疲れとヘリまでの全力ダッシュの疲れが一気に押し寄せてきたため全員肩で息をしていた。

「た、助かった・・・」
「し・し・死ぬ・・・」

その時、下から何かかが壁を突き破るような音が響いたかと思うと、突然研究所の屋上の一部が吹き飛び、中からタイラントが飛び出してきた。
タイラントの体中にひびの様な傷が広がっていた。

「おいおい三ラウンド目があるなんて聞いてないぞ!」
「クリス!そのランチャーを使え!」

バリーの視線の先、天井部分に細い筒のような形をした一丁のロケットランチャーがかかっていた。

「わかった!」

クリスはランチャーを持った状態で体を備え付けのロープで固定してヘリから身を乗り出して構えた。
ジャックはクリスの持っているランチャーを見て驚愕した。

「げっ!あれは!」
「今度こそ終わりだ。くたばれバケモノ!」
「まってそれは・・・」

クリスはジャックの言葉を無視してターゲットをロックし引き金を引いた。
ロケット弾は真っ直ぐタイラントに向かっていった。

「バリー!急いでここから離れろ!急げ!」

ジャックは顔面蒼白になりながら叫んだ。

「わ、わかった!」

バリーは慌てて操縦桿を思い切り倒して全力でその場から離れた。
クリスは振り落とされまいと必死にロープを掴んでいた。
タイラントがクリスの視界から消える瞬間、ロケット弾からガスのようなものが噴出されたのが見えた。
ヘリが研究所から離れ始めた瞬間、ヘリの周辺の空間が一瞬夜から昼に変わり次に爆音が轟き、さらに衝撃波がヘリに襲い掛かった。

「うお!」
「いてぇ!」
「ひぃいい!」
「わぁあ!」

ヘリはバランスを崩して不安定になったが、バリーの必死の操縦によって徐々に安定を取り戻した。

「まだ自爆まで時間があったはずだが・・・」
「原因はあのランチャーだよ」

ジャックが断言した。

『え?』

「あ、あのランチャーのな、名前はTX−A5通称「アークブレイク」といってな。き、気化した燃料を爆発させて爆発範囲内のものを破壊するいわゆる気化爆弾だ。で、あれはそのランチャー版だ」

荒い息を落ち着けながらジャックは説明をした。

「何に使うんだあれ?」
「一応対戦車用らしいんだけど」
「それにしては威力がありすぎるだろ・・・」

あまりの威力にタイラントどころか建物がほぼ半壊していた。
そして約三分後、研究所に仕掛けられていた爆弾が一斉に点火し、研究所のあちこちで爆発が起こり、最後はすべてを飲み込む大爆発が起き、研究所は完全にその姿を消した。

「ところで、この人だれ?」

クレアがナカムラを見ていった。

「ケンジ・ナカムラです。よろしく」
「兄さん達と一緒にいたってことは仲間になって協力してくれるって事かしら?」
「もちろんだ。仲間達のためにも会社にそれ相応の罰を受けてもらう」

クレアはナカムラの言葉に嘘がないことを確認すると微笑んだ。

「私はクレア、クレア・レッドフィールド。クリスの妹よ」
「バリー・バートンだ」

バリーがヘリを操縦しながら自己紹介した。

「クリス、これからどこに行く?」
「レベッカ達のところにナカムラのディスクの解析を頼みに行く」
「じゃあイギリスに渡るのか?」
「そうなるな」
「よし、じゃあとりあえずテントで荷をまとめたらすぐに出発しよう」

バリーの言葉を最後に全員が沈黙した。
全員息もたえたえの状態だった。
カルロスとジャックは傷口に消毒薬を塗り、その上にガーゼを乗せて包帯を巻いてしっかりとした応急処置をし、クリスとジルはお互い寄り添う形で座って眠っていた。
シーバスとナカムラはパソコンの中のデータをまとめていた。
ネイシーとクレアは窓の外を眺めながら何か考え事をしていた。
不思議と二人とも同じ考えをしているようだった。
・・・あれは人違い?それとも・・・
ヘリはアジトに向けて飛び続けた。



ウェスカーは二人の部下の報告をヘリの中で聞いていた。

「どうだね?彼らは?」

いきなりの質問にも瞬時にディアスは答えた。

「予想以上に強いですよ彼らは、特にネイシーと言う女性はクリスと並ぶ戦闘力があります」
「お前がそこまで言うのならよっぽどの人物なんだろう」
「キースはどうだった?」
「一人一人ならば苦労掛けずに始末は出来ますが、集団となるとさすがに一筋縄ではいきません」
「システムの方は?」
「問題なく働きました。なので実戦に投入しても問題ありません」
「そうか・・・」

そこでウェスカーはしばし沈黙した。
そしてゆっくりと口を開いた。

「よし、二人は本部で治療を受けたのち、オーストラリアに向かえ」
「オーストラリアと言うとあの研究所にですか?」
「そうだ。恐らく奴らは今回得た資料と今までに集めた資料を証拠として国連およびICPOに提出し大規模作戦を実行してくるだろうからな」
「了解しました。治療完了後直ちに向かいます」
「頼んだぞ」

そこでキースが質問した。

「隊長はどうするんですか?」
「私はイギリスに行かねばならなくなった」
「・・・了解」

ウェスカーの意図を察したのか、キースは深くは聞かなかった。

「ところで、何でSTARSのメンバーと一緒に行動していたんだ?」

キースは慌てたが、ディアスは冷静に言葉を選んで答えた。

「彼らがワクチンを持っていたので協力して倒すしか方法がありませんでした」
「・・・奴らから奪う事は出来なかったのか?」
「あの状況では不可能でした」

ウェスカーはディアスをしばし見つめた後に多少声に凄みをきかせて言った。

「そうか・・・今回だけは大目に見よう。だが、次はないぞ」
「ありがとうございます」
「本部に着くまでは休養をとっておけ」
『はっ』

それからは終始無言となった。
ディアスは窓の外の景色を眺めながら何かを思い出そうとしていた。
あの時一瞬だけ頭に浮かんだ光景はなんだったんだ・・・
深く考えようとするたびに頭痛がした。
なんとか痛みを無視してディアスは必死に思い出そうと努力したが、結局思い出すまでには至らずに終わった。






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