BIOHAZARD
TemptFate

第八章 一時の平穏


イギリスのロンドン郊外に古い北欧風の館が建っていた。
長い間放置されていたために木造の館のあちこちが腐っており、窓も何箇所か割れて使い物にならなくなっていた。
そんな屋敷の前に大型の軍用トラック二台がディーゼルエンジン特有の力強い音共に屋敷の敷地の中に入って来た。
正面玄関の近くで二台は横に並ぶ形で止まり、運転席と荷台から男女が降りてきた。

「ん〜疲れた〜」

ジャックは体を伸ばしながら言った。
クリス達一行はアメリカで得たデータをレベッカ達に解析してもらうべく、イギリスの本拠地に来ていた。

「しかし・・・まさかこいつを運ぶ手配までしてくれるとは・・・すごいなジャックの両親は」

クリスはここまで来るまでの道中を思い返していた。
クリス達がジャックの両親から(かなり一方的に)送られた武器弾薬をどうするか悩んでいたところ、ジャックが「親父に頼んでみる」と言って両親に電話を掛けた。
ジャックは両親と何時でも連絡が取れるようにと、衛星電話を一台携帯していた(この電話も武器と一緒に送られてきていたもの)。
電話はすぐに繋がり、ジャックは詳しい状況を説明した。
事情を知ったジャックの父親は「そんなことか、まかせろ」と言うと一方的に電話を切った。
約三十分後再び電話がかかってきて、バクリー空軍基地に専用機を一台用意したからそれを使えと連絡が入り、クリス達STARSのメンバーはヘリを使ってトラックに武器弾薬の入ったコンテナを二台に分けて載せると、空港に向かって出発した。
ヘリはもう使わなくなったたため、途中にあった小さな飛行場に置き去りにしたのを後日ジャックの父親の会社の人間に回収してもらう事になった。
そこからトラックで五時間ほど走ったところで目的地であるバクリー空軍基地に到着した。
検問所で守備兵にジャックの父親の名を出すと、すんなりと中に通された。
基地の司令室に通された一行は、そこで司令官であるドミニク大佐に会った。

「君達がSTARSだね?」
「そうです、初めまして。リーダーのクリス・レッドフィールドです」
「ドミニク・バッカード大佐だ」

クリスはドミニクと握手した。

「ところで、ジャック・シュトラウス君はどちらに?」
「あ、お・俺です」

ジャックは急に名前を呼ばれて慌てて手を上げた。

「君がミハエルの息子か、大きくなったな」
「え?どこかでお会いになりましたか?」
「会ったといっても君が五歳の時以来だがね」

そこでクリスは、ドミニク大佐に質問をした。

「ジャックの父親とはどうゆう関係なのですか?」
「MIT以来の友人でね、今回あいつの息子が困っていると聞いてね、協力してやる事にしたんだ」

ドミニク大佐によると、今から五時間ほど前にジャックの父から息子達を武器弾薬と一緒にイギリスへ連れて行ってやって欲しいと頼まれたそうだ。

「君達のことはいろいろと聞いている、私も君達の活動がいつか実を結ぶ事を祈っているよ」
「ありがとうございます」
「では行こうか」

ドミニク大佐を先頭にメンバーは外に出た。
その後、大佐と共にトラックで飛行場に移動した。
そこで、メンバーは今回自分達をイギリスまで乗っていく機体をみて愕然とした。

「ロ・ロッキードC−5ギャラクシー・・・」

飛行場の真ん中にあったのはアメリカの大型輸送機計画(CX-4)にもとずいてロッキード社が開発した機体であるロッキードC-5ギャラクシーがその翼を休めていた。
この機体は二階建て構造になっており、一階の貨物室は8レーン分のボーリング場に匹敵し、一度に100トン以上の貨物を輸送する事が可能で、二階部分はキャビンになっており兵士75名が搭乗可能になっている。
アメリカの全輸送機中最大の機体である。

「大袈裟すぎません?」
「これしかなくてね」

クリスの質問に、ドミニク大佐は特に気にする様子もなくたんたんとしていた。
何はともあれ武器弾薬が運べるのだから文句も言わずに全員が搭乗を開始した。

「ヒースロー空港に着いたらこの書類を係官に見せてくれ」
「わかりました」

手渡されたファイルには入国に必要な書類などがすべて入っていた。

「・・・私の娘はラクーンシティで死んだ」
「え?」

ドミニク大佐の突然の告白に驚きつつもクリスは大佐の話に耳を傾けた。

「ラクーンがなくなる二ヶ月ほど前に私は離婚していてね、妻に引き取られた娘から今はラクーンで楽しく過ごしていると連絡が入った。娘は別れたあとも私に気を掛けてくれていてね、定期的に電話をしてくれたり手紙を送ってくれたりもしてくれた・・・」

そこで大佐は言葉を区切り、一呼吸おいたあと再び話し始めた。

「だが、ラクーンでのバイオハザードで娘は・・・」

大佐の目には涙が浮かんでいた。

「・・・なぜ死んだと言い切れるんですか?」

クリスはまずい事だと知りつつも質問した。

「娘が死ぬ直前に私の自宅の電話に入れた留守電で知った、『パパ、先にこの世を去る私を許して・・・パパ愛してるわ・・・』このメッセージのあと銃声が聞こえた」

クリスはどう声を掛けていいのか分からなかった。
その時、積み込み作業を終えたのかネイシーが会話に割り込んできた。

「私の両親も電話の向こうで死にました。ゾンビに襲われて」
『え!』

二人はネイシーに視線を移した。

「私の両親はラクーンで小さな診療所を開いていたんです、事件が起きた日も診療所でけが人の手当てをしていました」

ネイシーはクリス達を見ず、遠くを見つめていた。

「私は大学の部室で徹夜で作業をしていました、その時両親から私の携帯に電話が掛かって、急いで町を出ろと言われました。理由を聞こうとしら何かが壊れる音がして、そのすぐあとに両親の悲鳴が聞こえました」

ネイシーはその時のことを思い出したのか目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
しばしの沈黙がその場を制した。

「大佐、私はあなたの気持ちがよくわかります。だから、私はあなたの娘さんの分まで奴らに・・・アンブレラに仕返しをしてやりますよ!」

ネイシーは大佐に親指を立てて見せた。
大佐はこの行動にすこし戸惑っていた。

「ネイシーの言うとおりです。私達に任せてください」

大佐はかぶっていた帽子を目深にかぶり目元を隠した。
少しの間をおいて大佐は顔を上げた。

「娘のためにも、あの事件で死んだ人々のためにも頼んだぞ」

大佐は敬意を込めて敬礼をした。
クリスとネイシーもそれに答えて返礼した。
そこへパイロットであるニッケル少佐が近づいてきた。

「大佐、準備が整いました」
「そうか、では君達も早くキャビンに行きたまえ」
『はい! 』

ネイシーとクリスは駆け足でキャビンへと向かって行った。
キャビンに着いた二人は各々の席に着くと、シートベルトで体を固定した。

「大佐と何を話してたんだ?」

バリーがクリスに聞いた。

「世間話さ」
「そうか・・・」

その直後ニッケル少佐からのアナウンスが入った。

『みなさん、左の窓から外を見てください』

全員が一旦シートベルトを外して窓に駆け寄った。
そこには、管制官を除く基地の軍人全員が敬礼していた。

『必ず任務を成功させてくれ。だそうです』
「もちろんだ、なぁみんな!」
『おー!』

そして、ネイシー達を乗せたロッキードはイギリスへ向けて出発した。
そして再び、イギリス郊外にあるSTARSアジト。
トラックが到着してすぐに、屋敷の中から女性が二人と男性が一人出てきた。
その中の一人の少女がトラックから降りてきたクレアに向かって走りよって行き、思いきり抱きついた。

「おかえりクレア!」

「シェ、シェリーただいま」

いきなり抱きつかれたためクレアはバランスを崩して倒れそうになるが、クリスが支えてそれを防いだ。

「ありがとう」
「どういたしまして」
「クレアが今日帰ってくるって言ったら急に落ち着きがなくなっちゃって大変でした」

屋敷から出てきた女性レベッカ・チェンバースは苦笑混じりに言った。

「だってなかなか会えないんだもん!」

シェリーは頬を膨らませてレベッカを見た。

「確かに大変だった。『まだかなまだかな』って昨日からそればっかり言ってたぜ」

屋敷から出てきた男性アーク・トンプソンも呆れ顔になりながら言った。

「アーク、久しぶりだな」

レオンが久しぶりに会う親友の顔を見ていった。

「久しぶりだなレオン。積もる話もあるがまた後でな」
「ああ」

簡単な話を終えた後メンバーは早速積み荷を降ろす作業に取り掛かった。
ここでメンバーは2チームに別れて作業をする事になった。
クリス、カルロス、シーバス、レオンは銃器および弾薬をトラックから降ろす作業を行い、バリー、ジャック、ネイシー、ジル、クレアは銃器の点検とクリーニングを行う事になった。
ナカムラはアジトの中でレベッカとアークと共にディスクの解析と情報交換を行う事にしてもらった。
しかし、いざ荷物を降ろそうとした時、一つ問題が起きた。
コンテナを二台に分けて乗せたまではいいのだが、コンテナを二個載せたトラックのコンテナの蓋が手前のコンテナのせいで開けれない状態だったため、中の武器弾薬が降ろせなくなっていた。

「・・・どうする?」
「どうするって言われても・・・」

メンバーが試行錯誤しているなか、ジャックはコンテナの上部に上って何かを調べていた。

「ジャックどうした?」

カルロスに呼ばれてジャックは顔を上げた。

「このコンテナ確か上に入り口があった気が・・・あ、あったあった」

ジャックはコンテナ上部に設置されていた取っ手を引っ張った。

「便利だなこれ」

かなりご都合主義的なコンテナの構造に苦笑しつつもメンバーは作業を開始した。
作業はランチャー系の重火器から始まって軽機関銃から拳銃と降ろして点検して屋敷の地下倉庫に運ぶといった単純作業を延々と繰り返していた。

「お〜い、この銃の分解の仕方教えてくれ」
「これはまずこうして・・・・」
「ゆっくり降ろせよ・・・ゆっくりだぞ・・・」

作業をしていると、シェリーとレベッカが缶ジュースを持って屋敷から出てきた。

「休憩にしませんか〜」
「そうだな、全員いったん休憩!」
『りょ〜か〜い』

つかれ切った返事が同時に返ってきた。

「はいどうぞ」
「ども」

ネイシーはジュースを受け取ると一息に飲み込んだ。

「ふ〜」

メンバーはそれぞれ地面に座ってジュースを飲んでいた。

ネイシーは隣のレベッカに話しかけた。

「どうでした?ディスクの中身は?」
「かなり良かったですよ。あのディスクがあればワクチンの製造は簡単にできるようになりますよ」
「そう、よかった〜」

そう言うとネイシーは寝転がった。

「ところでレベッカ見つかったの?例の人は?」

レベッカは首を横に振った。

「ううん・・・まだ・・・なかなか難航してるみたい」
「そう・・・」

そこでレベッカは話題を変えた。

「そうそう、ナカムラさんの情報からアンブレラの最重要研究施設の場所が判明しました」

「え!どこ!」

思わずレベッカに詰め寄るネイシー。

「オ・オーストラリア、だそうです・・・」

あまりの迫力にビビリながら答えるレベッカ。

「オーストラリアか・・・」
「あと、もう一つ・・・」
「まだあるの?」
「ええ、なんでもそこの研究所そこいらの研究所とは比べ物にならないほど危険で恐ろしい実験をしていると言う噂があって、研究員の間ではこう呼ばれてるそうです」
「なんて呼ばれてるの」

レベッカはここで一息入れてから答えた。

「ヘルズゲートとよばれているそうです」

その言葉を聴いた瞬間、ネイシーの背筋に悪寒が走った。

(ヘルズゲート・・・なるほどね・・・ )

ネイシーは三年前に誓った約束を果たす日が近づいてきている事をなんとなく予感していた。

「じゃあ、とっととそこを潰しに行かなくちゃ・・・ね!」

ネイシーはそう言うと缶を上へと放り投げ、落ちてきた缶を腰に下げている愛刀「蛍雪」で両断した。

「待ってなさいよ!アンブレラ!」

ネイシーは刀を高々と上げて叫んだ。
しかし、この時ネイシーやレベッカ達は気づいていなかった。

彼女らの命を奪うべく差し向けられた刺客の存在に・・・







NEXT
小説トップへ

INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.