BIOHAZARD
TemptFate

第九章 静かなる殺意



しばしの休憩の後、メンバーは再び作業を開始した。
途中でシーバスがコンテナから落ちて足を捻挫するということがあった以外は問題なく作業は進み、夕方ごろになって作業は終了した。
アジトに着いてすぐ休憩をあまり取らずに作業を行ったこともあり全員疲れきっていた。


「ふ〜やっとおわった〜」

ジャックが首を鳴らしながら呟いた。
全員汗だくの状態のまま屋敷の中に入っていった。
屋敷のホールの中心部分には机が置いてあり、その上には今まで集めた資料が散乱しており、それに埋もれるような状態でノートパソコンにデータ入力をしているレベッカの姿があった。
レベッカはクリス達の姿を見ると、作業をやめて顔を上げた。

「お疲れ様です」
「なにか分かった事は?」

クリスは単刀直入に聞いた。

「詳しい事はこのあとのブリーフィングで話しますので、とりあえず休んでいてください」
「わかった」

そう言うとクリスは自分の部屋に向かい、残りのメンバーも足早に各々の部屋に戻っていった。




ー搬入作業の終わる三十分ほど前ー

STARSのアジトを八百メートルほど離れたところにある納屋に潜んで監視するものがいた。
そいつは全身を黒いタクティカルスーツで身を包み、太もものホルスターにはマグナムリボルバーがさしてあり、グリップにはアンブレラの傘を模したピンがはめ込まれていた。
しばらくして、クリス達が屋敷に入るのを確認すると、脇においてあった通信機で報告を開始した。

「こちらハンター、クリス以下のメンバーがアジト到着後に武器の搬入を開始しました、オーバー」

通信機から低い声が質問を投げかけた。

『こちらバード、武器の量はどれくらいだ?オーバー』
「かなりの量が搬入されていました。武器は最新式のものが多く、中には見たこともない武器がありました、オーバー」
『むぅ・・・誰がそんな大量の武器を提供したんだ?オーバー』

「わかりません。しかし、どこかの兵器メーカーが加担しているのは間違いないでしょう、オーバー」

『わかった、それについてはこちらで調査する。お前は監視を続行せよ、オーバー』

「了解しました。ところで決行はいつに?オーバー」

『明日の夜明けと共に決行する、今から六時間後に今回の作戦に参加するメンバー五名をお前のいる納屋に送る、それまで監視を続行せよ、オーバー』

「メンバーは私のほかにだれが?オーバー」

『それは会って確かめてくれ、アウト』

通信が切れた後、暫く何かを考えていたがため息をつくと通信機を脇に置き再び監視を開始した。
暫くして、監視者の口から一言言葉が漏れた。

「レベッカ・・・」




武器の搬入作業が終わって二時間ほど経ったところで、レベッカからデータの解析の途中経過の報告とアークの調査結果を聞くためにメンバーは屋敷の食堂に集まった。
搬入作業の終わった後のため全員疲労が溜まっていて今にも寝てしまいそうな顔をしていた。

「じゃあ、まず私から報告を行います」

レベッカはPCを立ち上げて、なかの解析結果をまとめたレポートの内容を説明し始めた。

「まず、あの研究所ではTとG両方のウィルスに効果のあるワクチンの研究開発が行われていましたが、実は他の研究も行われていたんです」

その一言に全員が驚いた。

「資料室にはワクチンなどについての資料しかなかったが・・・」

「僕もワクチンの研究とその研究経過の記録しかやってなかったけどなぁ」
「実はさっきナカムラのディスクの中身を見ているときに偶然隠しファイルがあるのに気がついたの、それで開いてみたらあるBOWについての資料があったの」

全員に緊張が走った。

「それで?」
「そのBOWの研究は研究所の中でも極秘のものだったらしく、このことを知っていたのは一部の研究員だけだったみたいです」
「ナカムラに聞いても、ワクチンの研究以外の研究が行われていた形跡は無いらしい」

アークがそこに補足を加えた。

「そうか・・・」

「で、そのBOWはどんな奴なの?」

ネイシーはここで最も重要な質問を投げかけた。

「写真は無かったのですが、身体データからタイラントタイプのようです」

全員が沈黙してしまい、その場に重苦しい雰囲気が流れた。
その時、唐突にナカムラに一つの疑問が浮かんだ。

「しかし、この研究データは誰がこのディスクに入れたんだ?」
『え?』

全員の視線がナカムラへ向いた。

「お前が入れたんじゃないのか?」
「いや、僕はワクチンの研究データしか入力はしていないし、自分で入れたんならこの場ですぐに詳細を話すよ」
「だよな・・・」

全員が首をかしげていた。
ナカムラが入れたと思っていたデータは違う人間の手によって入れられていた。
全員がしばし考え込んでいたが誰も答えは出そうに無かった。
そこでアークが無理やり話題を変えた。

「考えてもしょうがない、次は俺からの報告を聞いてくれ」

全員が考えるのをやめ、視線をアークに集中させた。

「一部知っていると思うが、アンブレラの最重要研究施設の場所がオーストラリアにあることが判明した。オーストラリアのことはアンブレラの研究員の一部で囁かれていたらしい。ただ、オーストラリアのどこにあるかまでは未だ調査中だ」

「地域は絞れてるの?」

ネイシーの質問にアークは首を横に振った。

「いや、まだオーストラリアのどこかとしか・・・」

全員が残念な結果に顔をしかめた。
その後、今後の活動内容について話し合ったあと、解散することになった。
全員が席を立ち、各々の部屋に戻っていく中クレアとシェリーがネイシーを呼び止めた。

「寝る前に少し稽古に付き合ってもらっていい?」
「いいわよ」
「やったー!」

なぜかテンションの高いシェリーを先頭に屋敷のホールまで移動した。
ホールに到着すると、隅のほうに積み上げられていたマットを均等に引くと、三人は靴を脱いでマットの上に上がった。
その様子を見たレベッカが三人に声をかけた。

「なにをするんですか?」
「寝る前に少し格闘技の稽古を」

クレアとネイシーは共に格闘技の練習を日々重ねており、途中でシェリーも加わり三人で
実践に使えるように改良を加えながら技を磨いているのである。

「無理しないでくださいよ、あと怪我にも気をつけて」
「わかってる」

それだけ言うとレベッカは自分の部屋に戻っていった。

「じゃあまず私とクレアからやろっか」
「いいわよ」

二人は向かい合う形で並ぶと、各々自分にあった格闘技の構えをとる。
クレアはボクシングの構えをとり、ネイシーは右腕で首を、左手で心臓を守るような形の軍隊格闘技の構えを取った。

「シェリー、合図をお願い」
「わかったわ、クレア」

シェリーは二人から少し離れた位置で手を頭の位置まで上げた。

「二人ともいい?」
「いつでも」
「どうぞ」

そしてしばしの沈黙。

「・・・始め!」

始めに動いたのはクレアだった。
ボクシング特有のフットワークですばやく間合いを詰めると、強烈な右ストレートを放った。
ネイシーは素早く体を沈めてストレートを避けると、起き上がりざまにアッパーを放とうとするがクレアは素早くバックステップを行ってアッパーを回避し、続けざまにハイキックを顔面めがけて放つ、ネイシーはそれを左腕で防ごうとキックの軌道上に腕をかざすが、当たる寸前のところで起動が変化し、ハイキックから振り下ろす形のローキックへと変わった。
意表を突かれて反応が遅れ、ネイシーはローキックをもろにくらってしまった。

「クッ!」

ネイシーはバックステップで距離を置いた。

「つ〜また腕を上げたわね」
「あら?前にもこの蹴りが当たった時も同じこと言ってた気がするけど?」
「うっ・・・」

図星を指されネイシーは言葉に詰まった。
そのまま暫くお互い無言の状態が続いたが、その沈黙を破るようにネイシーが仕掛けた。
クレア目掛けて突進していくと、一歩手前のあたりで強く踏み込み足から腕へと力を伝達させ、その力を利用した強烈な掌底打を放った。
ガードは無意味と判断したクレアはとっさにサイドステップで横に避けると、カウンターの左のフックを放つ。
するとネイシーはあたる寸前に素早く戻した左手でクレアの手首を掴むと、そのままクレアの後ろに回って間接を極め、極めたままクレアの体を思いっきり前のめりになるように押した。
すると、クレアの体は肩を基点にして一回転して床にたたきつけられた。
咄嗟に立ち上がろうとするが、ネイシーのコブシがクレアの顔面に寸止めされた。

「負けました・・・」
「まだまだだね♪」

嬉々としているネイシーだが内心は気が気ではなかった。

やばかった・・・ふぅ〜

「次はわたしと勝負!」

シェリーが元気よく大きな声で言った。

「いいわよ!」

ネイシーも負けじと大声で答える。

「用意はいい?」

痛みの残る肩を抑えながらクレアは二人に聞いた。

「いつでもOK!」

そういうとシェリーはクレアと同じボクシングの構えを取る。

「私も!」

ネイシーも軍隊格闘技の構えを取る。

「始め!」

シェリーがその声に真っ先に反応して先制の左のフックを放つ。
ネイシーはそれを受け止めようと右手を軌道上にかざすが、シェリーは寸でのところでフックを止めると、一気に間合いをつめ渾身のアッパーを繰り出す。
ネイシーは体を後ろに倒れるように反らせて紙一重で交わすが、直後に放たれたジャブを腹に受けてしまった。

「グフッ!うぅぅ・・・」

ネイシーは呻きながらバックステップで距離を置く。

「シェリー凄いわ!」

クレアに褒められてシェリーは照れながら喜んだ。
一方ネイシーはそれどころではなく、予想以上に重かったジャブに苦しんでいた。
気持ち悪さと痛さのダブルのダメージに苦しまされていた。

う〜吐きそう・・・

シェリーの体はGウィルスの効果によって強化されていることがレベッカの調査で判明していた。
また、この効果はシェリーの精神と大きく関わっており、シェリーの感情が高ぶっているほど体の強化率がアップすることが判明している。

ちなみに、この効果が判明する切っ掛けとなったのは、以前ネイシーがシェリーをからかった時に、 シェリーが怒って思いっきり机を叩いた時にその机がこなごなに粉砕されたことがあったからである。それ以降シェリーを怒らすようなまねをするものが消えたのは言うまでも無い。

ネイシーはシェリーの体質を思い出しながら攻め方を考えていた。

「シェ、シェリー容赦ないわね・・・」

腹をさすりながらネイシーが言った。

「本気でやらないと勝てないんだもん!」

子供っぽく大声で叫ぶシェリー。
ちなみに今までのシェリーとネイシーの戦績は50戦中ネイシーが40勝と勝ち越しているが、最近はシェリーが自分の体の体質を最大限に利用した戦い方を極めつつあるためネイシーも必死である。

「じゃあ今度はこっちから!」

今度はネイシーが仕掛けた。
ネイシーはまず右ストレートを放つが、シェリーはそれを僅かに体をずらして避けるとカウンターの左のストレートを放つ。
咄嗟に右腕を引っ込めつつ屈んでカウンターをやり過ごすと、低い位置からのタックルを繰り出すがシェリーは咄嗟に飛び上がってネイシーの頭上を通過するという非常識な避け方をした後、振り向きざまにネイシーの背中目掛けて前蹴りを繰り出す。
ネイシーは避けれずもろに前蹴りをくらい、体がくの字の状態になったまま数メートル吹き飛んだ。

「はう!」

情けない声を立てながら数メートル転がって行くネイシーを見て、思わずクレアは笑ってしまった。

「まだやる?」

余裕の表情のシェリーが挑発するかのようにネイシーに聞いた。

「う〜、まい・・・らないわよ!」

そう言うとネイシーは素早く立ち上がって、全速力でシェリーに突っ込んで行き、数歩手前で飛び上がってシェリーにドロップキックを繰り出す。

「そんなの効かないもん!」

シェリーはネイシーを叩き落そうと拳を振り上げるが、その時ネイシーが突然足を開いた。

「へ?」

意味のわからない行動にシェリーの動きが一瞬鈍ったのをネイシーは見逃さなかった。
ネイシーはそのままシェリーの頭を足で挟むと、思い切りシェリーの後方目掛けて体を回転させた。
シェリーはなすすべも無くネイシーの得意技の一つであるフランケンシュタイナーを食らい、背中から思い切り床へと叩きつけられた。

「いたーい!」

声を上げるシェリーの右腕を取って今度は十字固めを極めた。

「まいったか!」

「いたい!いたい!ギブギブ!」

ギブと聞いて満足したのか、ネイシーは十字固めを解いた。
シェリーは右腕を摩りながら立ち上がった。

「危なかった〜」
「む〜」

シェリーは頬を膨らませながらネイシーを睨んだ。
ネイシーはというと一気にシェリーが自分との実力差を埋めつつあることに焦りを覚えていた。
その後、三人は各々のトレーニングを行った後シャワーを浴びてそれぞれの部屋に戻って行った。





その頃、ハンターの下に今回の作戦に参加するメンバー五名が姿を現していた。
全員が黒のタクティカルベストで全身を包んでおり、さらにほぼ全員が重武装をしているので、まさに激戦地へ赴く兵士を絵に描いたような格好となっていた。
しかし、五人のうち二人はサブマシンガン一丁とハンドガン一丁と他の三人に比べて軽装備だった。

「・・・まさかあなたが直々にこられるとは思いませんでした」

ハンターは直立不動の姿勢のまま、目の前にいるサングラスをかけた男に話しかけた。

「いろいろと因縁のある奴等だからな。私自ら始末しに来たのだよ」

サングラスをかけた男ウェスカーは冷徹な笑みを浮かべた。
ウェスカーの後ろには女性隊員が控えていた。

「隊長、そろそろ作戦の説明を」
「そうだな、では諸君今から作戦を説明するから聞いてもらいたい」

静かなる殺意がクリス達へとに牙を向け始めようとしていた。




クレアは夢の中で泣いていた。
クレアの手の中には少しずつだが確実に死に向かっている一人の少年がいた。

「スティーブ・・・死んじゃだめ・・・死んじゃだめだよ・・・」

クレアの目からは大粒の涙が止まることなく流れ続けていた。
スティーブと呼ばれた少年はゆっくりと目を開けた。
その顔に恐怖は無く、ただただ穏やかな表情があった。

「クレア・・・最後に君を助けることができてよかった・・・」

か細い声で喋るスティーブにクレアは首を振ることしかできなかった。

「最後だなんていわないで!兄さんが助けにくれたの!だから三人でここを脱出しようよ!」

「お兄さんが来てくれてよかったね・・・」

そこで沈黙がおり、二人は暫く見詰め合っていた。
そして、スティーブにとっての最後の言葉が発せられた。

「君のことが好きだった・・・もっと・・・早く・・・言えればよかったな・・・さよなら、クレア・・・・」

スティーブの体から力が抜け、いくら体を揺すっても声をかけても返事は帰ってこなかった。

「いやぁ!」

そこで目が覚めた。
クレアは叫んだつもりでいたため、慌てて隣で寝ているシェリーを見るが、起きた様子は無かったため、つぶやいた程度の声しか出していなかったのだろうと結論ずけた。

「・・・嫌な夢・・・」

クレアはベッドから降りると静かに部屋を出た。
部屋を出た後、まっすぐキッチンへ向かった。

「何か飲んで落ち着いたら寝よ・・・」

クレアは階段を下りてすぐ右のドアを開けた。
するとなぜかキッチンにはネイシーがいた。

「ネイシー?」

声をかけられたネイシーはコップを片手に持ったまま振り返った。

「どうしたの?クレア」
「こっちのセリフよ。どうしたの?」
「嫌な夢見ちゃって・・・」
「私も・・・ちょっとだけ話に付き合ってくれない?」
「いいわ・・・!」

その時、ネイシーの顔から笑みが消えた。

「・・・誰かがこっちに向かってくる・・・すごい殺気を放ってるわね」
クレアもネイシーの一言で気を引き締めた。

「みんなに知らせなきゃ」

二人は急いでその場を後にした。




「全員配置についたか?」

そう聞かれたハンターが無線で各チームに連絡を入れる。

「全チーム配置に着きました」
「『オペレーション・サイレントナイト』を開始せよ」

激しい戦い幕が静かに開かれた。







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