第十章 変身!


人と怪物の狭間で



第十章 変身!


クリムゾンヘッドとの戦闘から一時間が経過して時刻も一七三○を周り、
ようやく検問所まで到達することができた、
ほぼ予定通りの時間帯に到着できて夕焼けも広がっている、
ようやくここまで来れた明菜と麗の二人であるが
今の二人は検問の通過をするためのチェックを受けている状態だ、
それはウイルスに感染していないかと職業や年齢などの実に簡単な物、
たいして長い時間を必要としていない、
感染のチェックは採取した血液の中に薬品を入れ、
ウイルスの反応がないかを調べる物で怪しい反応があれば要精密検査となり、
隔離場所へ連れて行かれ、改めて検査と言うことらしい、
幸い二人は異常もなく通過の許可はすんなりと出た、
しかし明彦とマイクの二人は少々面倒なことになっていた、
何せ武装しているのだから説明に苦労した。
「俺たちは秘密任務で来ているのだから名乗ることを許されていない。」
とは言っても所属部隊と階級及び認識番号や氏名を言えとの一点張り、
これ以外は話す必要のないビッグ4をこれでもかと聞かれた、
捕虜じゃないのにどういうことだ?

「この押し問答を繰り返している状態から早く抜け出したい」

明彦とマイクは同じことを思っているだろう、
いい加減に答えるのもうんざりしてきて何も言わないようにしようと決めた。
そのまま黙っているとヘリの近づく音が聞こえてくる、
ヘリ程度の音は気にしていないのだが何か大きな物の着地する音がして、
それが耳に入った明彦の体に力が入る、
そして一つや二つではない複数の連続した銃声が聞こえてきた。

「MP5系の音に近い」

直感で音を発生させた主を判断する明彦とマイク、
二人一緒に尋問を受けていたので隣同士で座っているのだが、
互いに顔を見合わせ音の主について確認する、そしてマイクが尋問をしていた人物へ問いかけた。

「サブマシンガンの音が聞こえてくるけど近くで交戦してるのか?」
「その通りだ、時々近くまで化け物が来るので・・・・」

尋問していた人物の言葉を遮るように全身黒ずくめで目出し帽をかぶった人物が飛ばされてくる、
その姿と装備を見て明彦とマイクの二人は「MP5−J・・・・SATか。」と呟いていた。
このように数メートルは吹っ飛ばされた人を見てこれだけのパワーを持つBOWの正体を考えていた。

「タイラントタイプ!」

明彦やマイク、そして警備に当たっていた自衛隊や警察の間に緊張が走る、
タイラントとの戦闘経験が豊富な明彦は武器を取らないまま音が聞こえてきた方向へと走っていった、
残ったマイクは尋問者に交渉して非常時ということから超法規的措置で武器を返してもらい、
タイラントタイプと戦闘しているであろう場所へと走った。
この様子を見ていた明菜や麗であるが何が起きたのか気になり、
検査は終ってもう街から脱出できたのだがみんなを追いかけていた。
明彦とマイクの二人が今まさにSATが戦闘している場所へ辿り着く、
そこでは集中砲火を受けていたタイラントが倒れるところだった、
倒れたやつをよく見ると大抵のタイラントは防弾コートを着用しているものだが、
倒れた者は珍しく未着用でその代わりに妙な戦闘服を着用していた、
それにこのタイラントは通常型よりも小柄で推定180〜190の身長しかなさそうだった、
このことから倒れたタイラントは従来型よりも小型の物だと言えた、
そのような事実よりもタイラントの特性を理解している明彦とマイクの二人は
「こいつは一度では死なない!」とぴったり重なった声で叫んでいた、
それに気づいたSATの隊員から「そんなことねぇよ」と聞こえてくる、
駆けつけた自衛隊の連中は事態を重く見ているのか89式小銃や64式小銃を構え、
警戒を解かないまま少しづつ倒れたタイラントに近づいていた、
マイクもM4A1を構え明彦は倒れたタイラントを見据えながら身構えていた。
時間にしてどのくらいだろうか?
ほんの僅かな時間をおいて鉛弾の洗礼により倒れたタイラントはより肉体を強化して復活した、
復活したそれの頭部は昆虫の複眼をもったものへと変化し、
背中からは節足に近い構造の腕が四本も生えていた、それに伴い体も虫に近い物へと変化していく、
肉体の変化を終えたタイラントの姿、それはまるで二足歩行をする蜘蛛というべき者へ変わっていた、
蜘蛛型タイラントと言うべき姿へと変化した今までに見たことのない、
全く新しいタイプのタイラントが目の前に現れる。
立ち上がった蜘蛛型タイラントへ向けて「撃て!」との号令により自衛隊員やSATの発砲が始まる、
発砲の対象にされた蜘蛛型タイラントだが銃弾の雨の中を通常型と比べ物にならないスピード動き、
銃を持つ相手に近づいては六本の腕を器用に使い次々と銃を破壊していった。
大抵のタイラントはパワー重視の設計であるのだが、
どうやらこのタイラントはスピード重視の設計らしい。

「おれみたいなものか」

一人納得する明彦だが彼以外は蜘蛛型タイラントの動きに反応もできない、
成す術もなく銃を破壊され、呆然と立ち尽くしていた。
どういうわけか蜘蛛型タイラントは人間に危害を加えていない、
持っている武器だけを破壊していく様子は
「何かを感じ取ったこの目の前の男と戦いたい、そのためにも邪魔なものを排除している」
そういった意思表示なのかもしれない、そのようなことを考えた明彦は
「みんな、下がっていてくれ」とだけ言った。
先頭に立って指揮を取っていた自衛隊員が全員を後退させる、
すると自然に蜘蛛型タイラントと明彦が一対一で相対している構図が作られた。
最初から構えを解くことなくずっと戦況を見据えていた明彦、
蜘蛛型タイラントは明彦をその目に捉えると奇怪な咆哮をあげる、
それはまるで「お前の本当の姿を見せてみろ」と言っているかのようだった、
意を決した明彦は息を大きく吸い込み腹にためると構えを解き、
一度体中の力を抜いた状態となってから両腕を腰だめに構え、
そのあとには右腕を伸ばしたところで両手の拳を強く握り「変身!」と叫んだ。
明彦の一連の行動にマイクだけが不思議な顔をし、
他のSATや自衛隊員は「まさか?」と言った顔つきへと変わる、
先ほど変身の掛け声を上げた明彦の体は変化を始めていき、
変化が終わる頃には黒色を基調としたダークヒーローと言える雰囲気を漂わせた姿になっていた。
その姿を見たSATや自衛隊員の人間はその昔、
テレビで特撮ヒーロー番組を見ていた時のことを思い出していた、
一人の男が怪物を前にして戦闘形態へと変身を遂げて戦う子供たちにとっては憧れを持つ番組、
そんな番組に出てくるヒーローのように自分たちの目の前で変身した男、
彼が変身前から着用していた戦闘服や両腕両足に着けていた妙な装備、
それに加えて変身した姿がまるでテレビの世界から出てきた変身ヒーローのように見えていた、
明菜や麗も変身していく過程を見ていたのだが不安になっていた、
自分たちをここまで運んでくる間は一度もこの姿にならず、ここに来て変身したのはなぜなのか?
そして彼は何が原因でこの姿になってしまったのか?
前者は今目の前で怪物と戦うためにこの姿になったということが考えられる、
しかし後者はなぜなのかまったくわからない、
自分たちを助けてくれた明彦は街で大暴れしていた化け物たちと一緒なのか?
考えがどうしても悪い方向へと偏ってしまう、
明彦に限ってそんなことはないと思っているがどうしても納得できなかった。
だけどここで暴れている怪物を倒せなければ自衛隊や警察の被害が大きくなる、
そうなってほしくないと思った明菜は何に祈るというわけでもなく「明彦を助けて」と願っていた。


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