第十一章 戦い


人と怪物の狭間で



第十一章 戦い


明彦がXMRT−00本来の姿へ変身して、
変身する過程を見届けていた蜘蛛型タイラントとは睨み合いが続いていた。
どちらにとっても初めて相対する未知の相手、
普通のタイラントは強力なパワーで大暴れする暴走特急のようなものに近い、
しかしこの蜘蛛型タイラントは今までのタイラントとは一線を画していた、
通常時は体格の小さなタイラントと言ったところなのだが今の姿は明彦のように変身した姿なのだ。
「もしかしたらこいつは自分と同じようなやつかもしれない」と明彦の頭に一つの考えがよぎる、
そこで「さっき倒れたのはわざとか?油断した隙をついて変身したのか?」との考えが浮かんだ、
その考えに至り自分の目の前にいる蜘蛛型タイラントの正体について一つの仮説に到達した、
「もしかしたらタイラントとして作るはずだったものを俺のような体にしたのか?」
そんな仮説が浮かんでくるとこの蜘蛛型タイラントはXMRTと同様に、
生命の危機に瀕したタイラントが肉体を爆発的に発達させ、
以前よりも強力な姿で復活する特性を制御できないかと言うコンセプトで作られていることが言えた。
XMRTのデータが他の研究所へも回され、
技術を応用することで第二号とも言えるものが完成したのだろう、
そしてこれが初の実戦ということになる、
この第二号は実験体として初めから用意されていた素体を使ったのかもしれない、
もしくは改造が済んだものへ洗脳や記憶操作を施したものかはわからない、
それがこのように一対一の戦いを要求してくる意思、
邪魔が入らないように外野の武器だけを確実に破壊する高い技術、
そして武器を武器と認識する高い知能を持たせている、
それだけのことが達成できているということはXMRTの到達点として考えられていた
「敵地深くへ潜入と破壊工作を行える高い知能と技術を持たせる」という目標に到達している、
これでは今まで戦ったタイラントの中で最強レベルと言っても過言ではない、
「この街にあった研究支部もとんでもねぇ怪物を作り上げたもんだ」と明彦は思っていた。
蜘蛛型タイラントにとっても明彦にとってもお互いの攻撃範囲外に構え、
双方共に攻撃するタイミングを図る、そこへマイクの声が聞こえてきた。

「おい明彦!この町は気が狂うほど強力な熱量を発生させるナパームで絨毯爆撃することになった!
そのための爆撃機がすでに飛んできてるそうだ、もう時間がないから自衛隊やSATは撤退を始めた、
明菜ちゃんと麗の二人もヘリに収容したらしい」
「わかった、だがこの化け物を野放しにはできない、おれはこいつを始末してから脱出する。」

やはり超高温ナパームで絨毯爆撃して焼き尽くす作戦に出てきた、
核のように強力な爆弾一つで吹き飛ばそうとすればどうしてもカバーできない範囲があり、
撒き散らす可能性もあることからかえって汚染拡大の恐れがあった、
それを防ぐには汚染の範囲を強力な爆弾を使った点での破壊ではなく、
一つ一つは核ほど破壊力の大きいものではないものを面単位で大量に投下し、
強力な熱でこれでもかというくらいに念には念を入れて全て焼き尽くすという方法しかない、
日本の自衛隊は作戦を行うのに必要な爆撃機を持っていない、
街の規模を考えるとアメリカのB−52みたいな戦略爆撃機が出てきて、
四機編隊くらいで大量のナパームを絨毯爆撃ということになる、
護衛の戦闘機も同じ物を積んでいてついでに落としていくのかもしれない、
在日、在韓アメリカ軍基地にもナパームを配達、
A−10やF−16、F/A−18などが同様の作戦を行うのだろう、
そしてB−52は恐らくグアム基地辺りから飛んでくるわけであり、
日本とグアムの距離から作戦の決定した時間を考えると、
だいたい三時間か四時間前には決定していた可能性がある、
そうなれば早めに決着をつけねばなるまい、
だが限定的にでも日本の国内が絨毯爆撃にさらされるのはWWU以来と言える、
作戦上とは言え東京大空襲などでたくさんの人が死に追いやられた、
今回はウイルスの滅菌作戦で当時とは比べ物にならない破壊力の物が自分の故郷へ投下される事実、
それには受け入れがたいものがあった。
通っていた幼稚園や小学校、明菜と二人で遊びに行った駄菓子屋、
それぞれの生まれ育った家やこの町に存在している思い出、
それら全てが焼き尽くされると思うと悲しくなった。
だがそうでもしないと汚染の除去はできないことは確かだった、
悲しいことであるがここは涙を呑んで耐えるしかない、
マイクの言葉を受けてそのような結論に至り、
考えながらずっと睨みつけていた蜘蛛型タイラントはその口元を綻ばせ、
一瞬だけニヤリと笑ったような気がした。
「このタイラントは感情表現が豊かだな」と思ったのだが、
蜘蛛型タイラントが動き出すとそれに続いて明彦も突撃を始めた、
まず互いの一撃をお見舞いして離れる。

「くっ・・・スピード重視とは言えど重みがないだけでパワーは十分だな」

パワーがあっても重みがなければ一撃の力に欠けている、向こうはこちらより体重がある分、
重みが十分に乗っていれば普通の人間だと一撃で死に至ることが考えられた、
その攻撃を受けると自分はダメージにはなるがそれだけだ、
大きな心配は要らない、「次はこちらから行くぞ」と声をあげタイラントへ向かって走り出す、
明彦が最も得意とする交戦距離に入ったところで一番の得意技を繰り出した。
改造人間となった肉体が生み出す強烈なパワーに加え、
硬く踏みしめた地面からの反力が組み合わさって発生する脅威的な破壊力を秘めた右ストレート、
まともに命中すれば車でさえ易々とスクラップに変える一撃が胸部に命中する、
胸部への強烈な一撃を受けた蜘蛛型タイラントは動きを止める、
ダメージを受けた様子は確認できるがお構いなしに背中の腕で殴りつけてきた、
背中の四本の腕と元からの二本の腕による高速の連続突き、
それをバックステップで避けるが掠めた一発で戦闘服の一部をちぎられた。

「思っていた以上に耐久力は低いらしい」

今の一撃でわかったことだが体格を小さくしてパワーを落とし、
スピードを上げるとなると必然的に体重を落とさなくてはならない、
そして体格が小さくなったことで筋肉や脂肪も少なくなってしまう、
それによりスピードの向上は果たせても相対的に耐久力は下がることとなり、
このタイラントはそれだけを見たら最低ランクに位置するだろうと思われた、
非常に面白い戦いとなりそうなこの相手に明彦は気分の高揚を感じていた。
ただのタイラントと言うのも変な言い方だが、
それらとは違うこのタイラントは戦っていて楽しいと感じさせる相手である、
今まで血祭りに上げていたタイラントとなると、
馬鹿力を持ったスキンヘッドの化け物と言う印象しかない、
一切の感情を顔に出すことのないつまらない相手でしかなかった、
それが今戦っている相手となるとどうだろうか、今の姿はスキンヘッドの化け物ではなく、
アニメか特撮にでも出てきそうな怪物といったところだ、
そして自分も特撮に出てきそうな変身ヒーローの姿をしている、
ということは今の自分はまさしくヒーローということになるだろう、
そんなかっこいいものはガラではない、
しかしここでこの街にヘリで移動してくる際にパイロットが話していた言葉、
「街のヒーローになって来い」という言葉が頭に浮かぶ、
半ば自嘲気味に笑った明彦だが、
「今は目の前の障害を排除するために全力で戦うのみ」とタイラントへ攻撃を仕掛け始めた。
ピンポイントで首や胸部の中心に加えみぞおちと言った急所を狙う拳の三連撃、
仕返しのように攻撃してきたタイラントからの四連フックをかわし、
右足、左足と連続する回し蹴りで頭部を攻撃、
少しふらついたところへ飛び上がる力を加えたアッパー掌底を命中させ、
飛び上がった後に落ちる力を利用したカカト落としを仕掛けてと連続した攻撃を加える、
しかし蜘蛛型タイラントにダメージはあるものの平然と立っている姿があった。


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