第十二章 必殺技


人と怪物の狭間で



第十二章 必殺技


「これだけ打ち込んでも立っているとはさすがタイラントと言ったところか」

腐ってもタイラントと言える耐久力を蜘蛛型タイラントは持っていた、
あれだけの攻撃を打ち込めば大抵のBOWは完璧にノックアウトできるのだが、
耐久力が低いとはいえ蜘蛛型タイラント相手ではダメージだけに留まっている、
それでも効いてはいるようで動きは鈍ってきているようだった。
距離を取ろうとしたところでタイラントからの攻撃がくる、
背中から生えた四本の腕を含めた六本の腕による猛攻、
次々と繰り出される高速で重い一撃はすさまじいの一言、
一本一本の腕が空を切る「ブオン」と言ったすさまじい音をたてていた。
六本の腕による同時攻撃を受け流すのは非常に困難で回避し損ねた数発の攻撃を受けてしまった。

「手数はあっちが上、一撃の強さもあっちが上、こっちが勝てるのはパワーとスピードか・・・・」

手数の多さと一撃の強さが相まった攻撃、
一般的な人間が相手であれば瞬く間に死の世界行きの招待券を受け取ることになるだろう、
連続して受けてしまうと明彦でもただでは済まない攻撃であるため、
回避を続けつつ攻撃を加えなければならない、
そんな状態にも関わらず迫り来る猛攻をしのぎつつ、
手刀で背中から生えている腕を二本立て続けにへし折った。
腕をへし折られた蜘蛛型タイラントは一歩下がり腹部から糸の塊を発射、咄嗟にそれを回避する明彦、
その先では蜘蛛型タイラントの口から吐き出された液体が待ち構えていた、
回避不能と判断した明彦は左腕でそれを受け止めた、
だが液体を受け止めた装備が泡を立てて溶け始めるのだった、
緊急排除のボタンを押してそれを外すが地面に落ちると跡形もなくなってしまう。

「こいつはやられたぜ、これじゃ迂闊に近寄れないな」

距離を取って睨み合いを始める両者、
ギリギリあの液体の射程圏外に離れるがこれでは攻撃もできない、
蜘蛛なのだから腹部から吐き出す糸はまだわかる、
それに加えて溶解液とはとんでもない隠し玉を持っているものだ、
それもかけられた物体をあっという間に溶解させるほど強力なもの、
そのような飛び道具を持っている相手に対してどのように攻撃を仕掛けるか考えていた明彦だが、
対する蜘蛛型タイラントは猛スピードで走り出して明彦の目前まで迫ってきた。

「なっ・・・・」

あまりにも急な行動に構える間もなく強烈なボディーブローをくらう、
強力な一撃を受けて呼吸が一瞬だけ止まってしまい、
その隙を突かれて両腕両足を拘束されてしまった。

「やられた・・・・」

両手両足を拘束され、全ての攻撃手段を封じられた状態となり、いまや形勢は完全に逆転していた、
明彦を自らの目の前に持ち上げた蜘蛛型タイラントは悠々と構え
装備をあっという間に溶かしたあの液体を吐き出そうと息を吸い込む、
この角度から判断すると狙いは頭、だがこの状態ではどうすることもできない、
覚悟を決めた明彦は明菜の家族のことを考えていた、

「お父さん、お母さん、それに明菜、守りきれなくてごめん」そう思い目を閉じる。

だがいつまでもやってこない最期と戒めを開放された足に違和感を覚えて「うん!?」と目を開けた。
そこには数人の自衛隊員が銃剣を手に持ち、
明彦を拘束していた腕を切断している光景が目に入ってきた。
自衛隊の連中のおかげで背中に残っていた腕の二本を切断され、
ターゲットを変更した蜘蛛型タイラントはひとまず明彦をその辺に放り投げ、
斬りつけてきた数人を残っていた腕で殴り飛ばす、
だが少々離れた場所にいたマイクはM60を構えて銃撃を加え続けていた。
あまり残弾の多くなかったM60の弾はすぐに尽きてしまう、
しかしそれでもダメージを与えるにはじゅうぶんであり、
蜘蛛型タイラントの動きもかなり弱っていた、
それでもなおマイクの元へ突進し殴り飛ばす蜘蛛型タイラント、
咄嗟にM60でガードするも真っ二つに破壊されマイクの武装はなくなってしまった、
殴り飛ばされ地面に倒れたマイクや自衛隊員だが皆が明彦に顔を向け、
「今だ!早くトドメをさせ!」と視線を送ってきた。

「みんなのおかげで助かった、ありがとう、みんなのためにも次の一撃でこの化け物を仕留める!」

腰のベルトに吊り下げておいた小型ロケット弾に手を伸ばす、
それを右足下腿部の装備へ取り付けると蜘蛛型タイラントへ向けて走り出した。

「うぉりゃあああぁぁぁぁ」

走った勢いをつけたまま飛び上がり、前方宙返りから右足を突き出すとロケット弾は発射された。
ロケット弾が胸部へ突き刺さり、驚愕の表情で明彦を見る蜘蛛型タイラント、
飛び蹴りが命中するのと着弾したロケット弾が炸裂するのはほぼ同時、
蜘蛛型タイラントの胸部へ突き刺さったロケット弾は爆発によりその身体を四散させる、
爆発の衝撃で飛ばされる明彦だがゆっくりと立ち上がり、
沈み行く夕焼けを背にして元の姿へ戻るとその場に崩れ落ちる、
そこへマイクが駆け寄り今にも倒れそうだった明彦の体を支えた。

「よくやったよ、お前はヒーローだ」

すでに意識を失っていた明彦の体を支え、彼の顔を見つめながら讃辞の言葉を送ったマイク、
背中に明彦を背負うとヘリを待機させている場所へ共に援護を行った数人の自衛隊員と走り出した。


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