第十三章 脱出


人と怪物の狭間で



第十三章 脱出


「早く来て、もう爆撃まで一分もないよ!」

すぐにでも飛び立てる状態になっていたヘリから明菜の声が聞こえる、
あと一分もすれば爆撃機が飛んできてナパームの絨毯爆撃を行うこととなる、
それを聞いたマイクや数人の自衛隊員は慌ててヘリに乗りすぐにハッチを閉めてその場を飛び立った、
ヘリが飛び立ったところでマイクが自衛隊員へ声をかけた。

「なぁ、なんで待っててくれたんだ?」
「そちらの中島明菜さんが彼を連れて行かないのなら自分独りだけでも残るって言ってたのだよ、
いつの間にか持ってた拳銃を自分の頭に突きつけるなんてこともしてね、
まったくえらい肝っ玉の据わったお嬢さんだ」

自衛隊員の言葉を聞き納得するマイク、さすがに自分の命の恩人を残しては帰れないだろう、
だが明彦や明菜の二人の間にはそれ以上のものがあるということか、
それは行動している中で二人を見ていると理解できた、
アンブレラの特殊部隊に在籍していると言っていた明彦だが、
明菜とはそれ以前からの知り合いなのかもしれない、
そして明菜は恩人を残しては行かないと頭に拳銃を突きつけてヘリを残させると言う暴挙に出た、
そんな彼女の行動力に半ばあきれつつマイクは麗の隣へ座ることにした。

「彼は大丈夫なの?」

ヘリに収容した明彦をずっと診ていた衛生課の隊員へ明菜が質問する、
マイクが連れてきた時からずっと意識はない、
「もしかしてかなり酷くやられて危険な状態になってるのかも」
と言った不安な気持ちが出てきたせいもあった。
それを察した衛生課の隊員は努めて優しく明菜に答えた。

「何らかのショックのせいで一時的に気を失ってるだけだと思う、そのうち目が覚めると思うよ」
「そうですか、ありがとうございました」

明彦を寝かせている場所へ近寄り手を取る明菜、
その後ろで様子を見守る麗とマイクや最後まで残っていた自衛隊員、
自衛隊員にとっては明彦がいなかったらどれだけの被害が出ていたのか、
それはわからないが確実に死者が出ていたとだけは言えた、
あれだけの化け物相手では89式や64式小銃だけで足りるはずもなく、
最低でも重機関銃に加え無反動砲か個人携帯対戦車榴弾、
40mm自動擲弾銃などがなければ確実に死者が出ていた、
それだけの化け物をたった一人で倒してしまった、
自衛隊員たちは怪物を倒した明彦の活躍に敬意を払い全員で敬礼を送っていた。

「何やってるの?彼はまだ死んでないんだよ!それなのに死んだみたいに敬礼送ったりしないで!」

麗が敬礼を送った自衛隊員たちに対して怒鳴りつける、
自分たちを守ってくれた相手に敬礼をすることは理解できる、
しかし戦死した人へ敬礼を送っていると思えたせいで怒らずにいられなかった、
それには自衛隊員たちも少々困った顔になってしまう、
そこでマイクが背後から麗の肩を叩き、彼女が振り向いたところでマイクは頭を左右に動かしていた。
マイクが何を言おうとしているのか理解した麗はもじもじした様子で怒るのをやめて彼の隣に座った、
そこで自衛隊員全員は敬礼をやめて自分の場所へ戻った。

明彦の手を握っていた明菜が彼から手を離すと立ち上がってヘリの窓から外を見る、
そこには今まで自分たちの住んでいた町へ投下された夥しい量の爆弾がたくさんの火柱を上げ、
町を焼き尽くしている光景が広がっていた。
「とうとう始まったんだ」と漏らしたところで
「もう始まったのか」との声が聞こえてくる、
それにビックリした明菜はどこから声が聞こえてきたのか辺りを見回すと
「ここだよ」との声が聞こえてきた、
声の聞こえてきた方向を向くと明彦が目を覚ましていた。

「何度も心配させないでよね・・・・」
「ごめん」
「もう離れないでよ」
「ごめん、ちょっと話しつけないといけない場所があるんだ、そうしたら今度こそ離れないから」
「約束だよ」
「約束する」

一連のやり取りが済んで明菜は明彦の顔に近づくとそっと唇を重ね合わせた、
それを見ていた麗とマイクは肩を抱き合い寄り添って二人の様子を眺めていた、
そして自衛隊員たちは全員が肩を落として恨めしそうにしょんぼりしていたのであった。

「この辺で降ろしてほしいんだけど」

少し休んで体力の回復した明彦とマイクが自衛隊員へ声をかける。

「そうか、さっき言ってた話をつけなくちゃいけないってやつか?」
「まぁ、そんなとこさ」

声をかけられた隊員が操縦士へ連絡に行き、
ヘリが着地できそうな場所を見つけると着地させた、
明彦とマイクが降りようとしたところで明菜や麗がそれぞれに声をかけ、
「これ、携帯だから」とメモを手渡した、
「話がついたら連絡する」とだけ言い残して二人は外に出るとハッチを閉めた、
二人が離れたのを確認すると操縦士はヘリを飛び立たせる、
飛び立ったヘリからは明菜と麗が手を振っていて、
それを見つけたマイクと明彦の二人は手を振り返していた。


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