第一章 始まり


人と怪物の狭間で



第一章 始まり


「君にはバイオハザードが発生した街中における実戦データ収集のために
研究支部がある地方都市へ向かってもらいたい。」

タイラントなどが生命の危機に瀕した際、
爆発的に肉体が発達して復活するその特性を意図的に制御できないか、
そのコンセプトのもとに実験を進めていき、遂にそれの試作体が完成した。
それはXMRT−00と名づけられ、試作体とはいえ完成体第一号の人物である斉藤明彦、
そんな彼に体を改造されてから初めての任務が来た、
元々の彼はアンブレラの特殊部隊に在籍していて、
どんな困難な任務からでも生還する技術と非常に高い身体能力を持っていて、
その自信から人間をXMRTへ改造する実験に参加したほどである、
XMRT−00開発成功の裏側にはウイリアムバーキンが開発し、
アルバートウェスカーが自身へ投与したウイルスの存在があった。
バーキンウイルスと仮称されたウイルス、その作用は投与された個体を一度仮死状態へと誘い、
仮死状態から覚醒した後は以前よりも強靭な肉体へと変貌を遂げた体になるという特性があった、
それに加えて知能の低下は見られないという点に着目し、
残されていた僅かな研究データからバーキンウイルスの再現を行い、
データの蓄積を行ってからは改良型ウイルスの製作に取り掛かった。
完成体ができるまで数々の失敗例はあったものの、
以下の流れを見出したことで完成までの道のりを大いに進めることになるのだった。

「専用の調整措置を受け、完成したウイルスを投与された個体が体内のウイルスを活性化させ、
肉体を変化させることにより第二形態へと変身する。」

これらの流れを見出して何度か紆余曲折はありながらもようやく日の目を見たXMRT−00、
その能力は通常の状態でも人間を上回る高い身体能力を持ちながら、
変身後は暴走状態となったスーパータイラントを超える戦闘能力を発揮する、
XMRT−00に与えられる任務は敵地深くへの潜入及び破壊工作と拠点の襲撃、
そして残存兵力の殲滅という基本的にはタイラントと同様の物を命じられることが多かった。
開発実験に際して通常は前もって用意された被検体を使うことが多いのだが、実験体の死亡例が多く、
用意されたものでは足りない場合に被検体の志願を募る例も少なからず存在した、
今回の実験は特にその傾向が強く、不眠不休で実験を続けていたことから被検体の数が不足していた、
そんな中で志願したことから優先的に被検体へと選ばれた明彦だが開発に成功して異形の体となり、
数々の検査を受けてたくさんのデータを取られて行く中で、
次第に自分が生物学的な人間ではなくなったことが明らかになっていき、
実験前からそのことを覚悟していたものの苦悩する毎日だった。
いざ体を改造され、改造後も残っていた生物学的な人間だった頃そのままの記憶、
極め付けに早急に完成体を作りたかったプロジェクト主任の明彦の父親が行った披検体の人選で、
志願者は他にもいた中でわざわざ自分の息子を選び、
失敗ギリギリの非常に危険なバランスで子供の肉体を調整し、
無理矢理に完成へと持っていった数々のおぞましい事実の密告を受けた事から明彦は恐慌状態となり、
一番最初の変身をした後で父親を手にかけていた。

父は被検体の精神面を全く考慮しないやり方を取り、
実の息子の身体を人外の怪物へと作り変えた、
実父に裏切られ、裏切った親を手にかけ精神的に深く傷ついた明彦、
かつて父の同僚だった白岩玲子はそのことを知ると彼を不憫に思い、
カウンセラーになると志願した以降はそのまま定着していた。
明彦の様子を診ていく玲子は彼を実験体としてではなく、
弟のようにかわいがっているものでそんな彼女に一度だけこのような質問をしたことがある。

「おれは・・・あなたが作ってたような化け物と一緒なのになんでこんなことを・・・・」

玲子はその質問にこう答えていた。

「私には弟がいたの、生きてたらちょうど君と同じくらいのね、
それに君は弟とそっくりだからほっとけなくてね、だからこうさせて。」

質問に答えた玲子はその胸に明彦を抱きしめるといつしかその体は震え始めていた、
それには明彦も心を揺さぶられ、ただただ泣くことしか出来ず、
玲子の胸の中で何年かぶりに思いっきり泣いた、
その後は深く傷つきボロボロだった精神の均衡を取り戻して、
カウンセリングをしてくれた玲子を姉のように慕うこととなり、
数々の演習や実験にも耐えてきたのであった。

今でこそこのような状態の明彦だが、かつては普通の中学生であり、
アンブレラで働いていた父親が開発部長へと昇進したことから転属となり、
生まれてからずっと住んでいた町を失踪同然に離れたのだった、
母が病死してからの父は明彦を省みることはなく、
実験に興じている毎日で家に帰ることは稀であった、
いつも隣家の中島明菜の家にお泊りをして学校や幼稚園もそこから通った、
急な都合で町を離れ、交際していた明菜とも離ればなれになった明彦、
過去の全てを振り払うかのように特殊部隊へ入隊し、
日常は数多の戦場を渡り歩いていく血生臭い毎日へと変貌を遂げた、
事故の発生した研究所へ潜入し、施設内で研究開発されていたウイルスやデータの回収、
要人警護、または暗殺、武装勢力の支援とあらゆる戦場を渡り歩き、数々の任務を経験してきた、
それらの任務からすると街中を闊歩している化け物と戦うだけの今回の任務は至極簡単なもの、
簡単な任務ではあるが新開発の兵器にはそれもしょうがないことと言える、
兵器というものは何度も何度もあらゆる場面を想定したテストを繰り返し、
ようやく実戦配備となりうるもの、演習では数々のBOWと戦闘、
そして全てを血祭りにあげてきたのだが自然発生的に出てくる変異体との戦闘は未だない、
それらや他の研究支部で開発された未知の新型との戦闘データが上層部としてはほしいのだろう、
それらのことから考えて今回の任務はおそらく最終段階の試験と言えた。
「実戦以上にデータの取りやすい場所はない」という言葉から考えると今回の実戦は、
「とりあえず出してみよう」という形なのかもしれない。
自分の次に同じ思いをする人間が現れるのだろうかと思う事はあるが今は任務を優先し、
バイオハザードが発生した研究支部の存在する地方都市へ向かうためのヘリに乗り込んだ。


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