第六章 父のバイク


人と怪物の狭間で



第六章 父のバイク


「この音はM60か、誰だ?」

ほんの少しできた余裕を逃さず新しいマガジンを装填させ、
新しいグレネードも装填しながら銃声が響いてきた方向を向く、
そこにはどういうわけかM60を越しだめに構えたアメリカ人らしい男がテンガロンハットをかぶり、
気でも違ったかのようにバリバリと発砲している姿があった、
それを見た明彦が首を傾げたところで「イーヤッホー、くたばりやがれ化け物ども!」
などと男は陽気な叫び声をあげていた。
それには頭を抱える明彦だが男の腕はなかなかのもの、
的確にリッカーを捕捉している銃口は瞬く間に蜂の巣へと変えていく、
二体とも沈黙したところで唖然としていた明菜と麗は男のほうへと振り向く、
釣られて明彦も振り向いたのだが背後には生き残りのゾンビ三体が迫っていた。

「気づいてないな」

それだけ言うとM4A1を構えて引き金を引き、三体とも頭部を撃ちぬいた、
自分に銃口を向けられ思いっきり焦った表情でM60の銃口を向けた男であるが、
背後から聞こえてきた音に気づくと振り返り、その場にゾンビが倒れていることを確認した、
ゾンビを確認した男の顔は安らいだ表情へ変わり、明彦のそばへと歩み寄って声をかけてきた。

「助かったぜ、兄弟」
「なあに、これで貸しはなしだ」
「ところであの二人は?」
「話したいのなら構わん、あんたのことは命の恩人と思ってるだろうから」
「サンキュー」

男は二人のところへ行くと何やら話し始めていた、
最初はいぶかしげな表情で男の話を聞いている二人だったが、
やがて明菜が笑い出し麗は少々ふくれた顔つきとなっている、

「何をしたのだあいつは?」

などと思っていた明彦だが話し終わったのか男はこちらへ戻ってきた。

「あっちの雨宮麗って子だけど気に入ったよ、あっさり断られたけどね」
「さっきのはそれか?」

またしても明彦は頭を抱えていた、
まさかこのような状況で女の子をナンパするなんて予想していなかった、
明菜や麗の命を助けてもらったのだから多少は大目に見るべきだが、
「有り得ない」との思いでいっぱいだった、
もしかしてこの男の先祖はイタリア移民なのかもしれない、
イタリア人の男は「女性をかけた戦いにおいて右に出る物はいない」という変な格言まで持つ民族で、
第二次大戦中でも女性を守ろうと奮闘したイタリア兵は少なからず存在する、
救助を求めている人を助けるということは力を持つ人間の義務でもあるが、
「イタリア人は女性が守る対象となるとメーターの針を一気に振り切ってしまう、
それほど凄まじいまでの勢いを持っているということだ」と考え無理やり納得することにした。

「まだ、名前を言ってなかったけどおれはマイクハルベルトだ」
「おれは斉藤明彦、あんたUBCSだろ?」
「そういうあんたはどうなんだい?」

マイクにだけ聞こえる声でたずねるが逆に質問で返される、
明彦自身はUBCSとは違い市民の救助を目的とせず、
研究成果の奪取や施設の破壊を目的とする特殊部隊に所属していた。
しかし今は極秘にデータを取るだけの試作品でしかない、
だが形だけは以前の特殊部隊に在籍したまま、
そのことを伝えるくらいならさして問題はないだろうと判断し、
「UBCSとは違う特殊部隊だ」とだけ伝えた。
腹の探り合いになっているのかもしれない今の状況である、
いささかおもしろいものであるが先ほどの言葉を聞いたマイクだが、
「そうか、所属はあんたの言う通りさ」とだけ答えていた。
UBCSの任務はバイオハザードが発生した街で生存者の救出をすること、
バイオハザードが発生した街の研究所で何が研究されていたかのデータを集めることの二つ、
今までにも何度かUBCSと合同で作戦を行っていたこともある、
今回はすでにUBCSが出ていると知らなかったとは言え久々の合同作戦となる、
一人で明菜や麗の二人を守りながら戦い続けるのは骨が折れると思っていた、
マイクがきたことで戦力が増えたことで戦術の幅が広がり、
障害を排除しつつお姫様二人を安全な場所へ送り届ける作戦も短時間で進められる、
そう考えていた明彦だがそこへマイクが新たに質問を投げかけた。

「なぁ明彦、見たところお前一人だけのようだが何しにここへ来たんだ」
「それは秘密なんでね」
「そうか、ならあの二人はどうするんだ?」
「これから検問所まで送り届ける、移動の途中で検問所を見たから警備の連中に任せれば安心だ」
「いいアイデアじゃねぇか、おれも手伝うぜ」
「助かるよ、元々おれはこの町の出身だから道は知ってる、おれは前方にするから後方を頼む」
「了解、そうと決まれば行こうぜ」

話がまとまったところで移動するべく明菜や麗にそのことを伝える、
そしてさきほど話し合った通りに隊列を組んで移動を開始する、
移動を始める前にバイクを見ると手榴弾やグレネードの破片を受けていて、
ガソリンタンクへ穴が開いた上にエンジンも損傷を受けていた。
バイクが壊れたことに気づいた明菜は悲しい顔になってしまう、
戦闘の影響とはいえ明彦も悲しい思いは同じだった、
過去には父親に連れられてモトクロスの練習場へ行き、バイクを華麗に操る父の姿を見ていた、
二人はもう二度とバイクが動く姿を見られないという事実に落胆していた。

「ごめん」
「しょうがないよ・・・・。」
「天国にいるお父さんやお母さんのところへ送ろうか」
「そうだね」

ガソリンタンクを開けて車体を横倒しにするとガソリンが漏れて地面に広がる、
少し離れたところで見ていたマイクはタバコを取り出すと火をつけ、
何度か煙を吸ったり吐いたりしてからバイクのそばへと投げた。
気化したガソリンはタバコの火に引火し、
小規模な爆発を起こすと炎は一瞬にしてバイクを包み込む、
父が練習場でいくつかのトリックを見せていたバイク、
それを受け継いで明菜を助けるために明彦はここまで乗ってきた、
父から受け継いだバイクが今、自分達の目の前で燃えている、
本来の持ち主の所へ返すべきとの判断からこうやって燃やした、
炎に焼かれるバイクを見ているとバイクに篭った魂が天に昇っている気がした、
長いこと乗っていたであろう明菜の父、
ほんの少しの短い時間であるがそれを受け継いだ明彦、
二人の乗り手を持ったバイクの魂は炎の勢いが小さくなり、
鎮火へ向かっていく炎と共に少しづつ昇天していったのかもしれない、
その様子を見届けた四人は検問所へ向かうべく歩き出した。


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