第七章 戦士たちへの手向け


人と怪物の狭間で



第七章 戦士たちへの手向け


マイクを仲間に加えた四人でこの街から脱出するべく、
警察や自衛隊が設けた検問へのルートを進んでいく御一行、
この街はマンハッタンのように水路によって外から隔絶されていて、
橋の数もさほど多くない事から比較的封鎖の楽な場所である、
設けられた検問所では一人一人が汚染されていないかチェックされており、
もし汚染されていたら隔離処置を取ると言った具合だ、
空から見た様子は検査待ちの人が長蛇の列を作っていると言う状況である、
街の人口は中堅の規模でさほど多いという印象はない。

「検査にどの程度の時間がかかるのかわからない、だがすぐに出せる簡易的なものだろう」
そんな感じで検査の見当を付けた。

ここまで大規模な怪物の群れに遭遇することもなく、
小規模な群れとの小競り合いを繰り返しながら進んできた。
弾薬の消費もほぼ順当なもので順調との言葉がぴったりである、
だが順調に行ってるからと言って油断は禁物だ。
ここから先はどのような変異体が出てくるかは不明なため、
弾薬の消費量については極めて重要な問題である。
「備えあれば憂いなし」ということわざにならい
必要最低限の消費で済ませなくてはならないだろう、
そんなことを考えていた明彦だが全行程の半分まで来た所で現時刻が気になりマイクへ声をかけた。

「今何時だ?」
「一五○○だ。」
「この調子だと検問所へ到達した頃には夕方か、ちょうどいいくらいだな」
「命をかけた逃避行の賞品は夕焼けってことか、いいもんだ」
「そういうことさ、おれは二人を届けたら本来の任務に戻らないといけないけどよ」
「おれも第二任務が待ってるわけだが」
「そのときは協力してやるさ、目標は似たようなもんだから」
「恩に着るよ・・・っと、話はここまでだ、また来たぜ」

話し声を聞きつけたのかハンターが三体現れる、
現れたのはβタイプと呼ばれる赤い体色の個体でαタイプよりも敏捷性を重視したタイプ、
フォーメーションを組んだ三体のうち二体に狙いをつけたマイクと明彦の二人だが、
M4A1で二体の頭部を狙って一体ずつ仕留めていた、残った一体が明彦へ飛び掛る、
反応が遅れた明彦は迎撃は不可能と判断して飛んできたハンターの腕をがっちり掴み、
飛び掛ってくる勢いを利用してハンターを地面に叩きつけた、
掴んでいる腕を動かせないようにしっかりと握り、
空いている右腕でSP2009をホルスターから抜く、
眉間に狙いをつけて発射しようとするのだが、
ハンターは掴んでない方の腕で銃を持っていた右腕を斬りつけてきた、
しかしそのようなことは意に介さず問答無用で引き金を引き、
ハンターを沈黙させたところでスライドが後退したまま停止する、
それに気づいた明彦はマガジンを取り出すと残弾を詰めていた。

「大丈夫?」
「これくらい平気だよ」

弾込めが終わったところで斬りつけられたことにより、
流血している腕を見た明菜が心配そうに声をかけてくる、
そんな明菜は持っていたバッグからハンカチを取り出して半分に折り、
応急処置として教わった方法を思い出しながら患部へきつめに巻いていた。
出血量がわりと多く、すぐに全体真っ赤な色に染まってしまうのだが、
そうやって出血の様子が目立たなくなる頃にはほぼ止まっていた、
こんなにも早く出血の止まった様子を感じた明彦、
彼は「こんな体じゃ治るのも早いか」となんとなくあきらめが入った口調で呟いていた、
それに対して明菜はきょとんとした表情になるがそれを見た明彦は
「言うべきではなかった」と反省してさっさと歩き始めた、
マイクも別段気にする様子もなくそれに続いたのだが麗だけは明彦のことを少々不審に思っていた。

「こんな体」

そのような言葉に込められた意味を考える麗、
だが考えたところでどんな意味があるのか皆目見当がつかない、
明彦は自分を助けてくれた人物ではあるのだが実際のところ彼のことをよく知らない、
明菜は彼のことを幼馴染と言っているがその彼がなぜ銃を持っているのか?
日本では銃を手に入れることができないのになぜ軍隊で使っているような物ばかり持っているのか?
それはマイクにも同じことが言えた。
彼は一見すると陽気なアメリカ人で会ってすぐに麗をナンパしてきたような女好き、
だが彼も同じく銃を持っている。
「二人は派遣された在日アメリカ軍の人たちなんだろう、映画に出てくるものばかり持ってるから」
そんな結論に達した麗は考えることをやめて先行した三人の後に続いた。

全行程も三分の二を過ぎたところで横たわっている五人ほどの遺体を見つけた、
マイクに明菜と麗を任せた明彦は倒れている遺体の検分を始める、
倒れている人物は服装や人数から判断するとUBCSの分隊らしい、
それに持っていたであろう弾はすでに全部使われていた。
遺体の周辺にはリッカーやハンター、ブレインサッカーやドレインディモス、大蜘蛛やゾンビに加え、
何らかの爬虫類と思われる変異体という夥しい数の死体が転がっていた。
検分を続けている中でふと目に入った一人、
彼はリッカーの舌が胸に突き刺さったままの状態で息絶えていて、
右手に弾の尽きたデザートイーグルを握りつつ壁に横たわっていた、
それに対してリッカーは半ばから舌を千切れて胴体には風穴を開けられている状態だった。
この状態から判断するに一対一の戦いで引き分けに終わったのかもしれない、
これだけの数を相手に奮闘して相打ちにまで持ち込んでいるUBCSの分隊、
彼らに敬意を覚えた明彦は自然と敬礼をしていた。
マイクも明彦の様子を見て命亡き分隊の連中へ敬礼を送る、
やがて二人はSP2009を手に持つと一人一人の頭を撃ち抜いていた、
その行動に体がビクッと反応する明菜と麗、
全員の処理が終わり銃をしまうと明彦はなぜこのようにしたかの説明を始めた。

「ゾンビに噛まれたらゾンビになることはわかってるよね?
これだけの闘いをした人たちだからそんなことになってほしくないんだ、
だから彼らの名誉と誇りを守るためにこういうことをした、
日本の侍が切腹をする時に待機してる人が刀でざっくりと行くよね?
それと同じだよ、おれたちは介錯人ってことだね」

少々の恐怖を覚えた明菜と麗であるが真剣な表情で見ている明彦とマイクを見て渋々理解する、
言っていることは理解できるのだが少しだけ納得はできない、
ゾンビに襲われるとゾンビの仲間入りしてしまうことは理解できる、
しかしこのように頭を撃つことは死者に鞭を打つ行為ではないのか?
そんなことを二人は考えていた。
死者に鞭を打つような人間にはなりたくない、
かといって死者が化け物になってほしくはない、
深い思考の渦へ陥るが「女の私たちにはこういうことは理解できないのかも」と思い、
明彦に続いて行こうとするのだがそこへ数体のゾンビが近寄ってくる、
咄嗟に明彦やマイクがM4A1で全てを始末するが物陰からもう一匹出てきた、
出てきたゾンビの姿を見た明彦や明菜が絶句する。


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