第八章 変わり果てた父


人と怪物の狭間で



第八章 変わり果てた父


「お父さん?」

二人同時に声が出た。
母を逃がすために自ら盾となった父、
その人物がゾンビとなって目の前に現れた、
まだあまり腐敗が進んでいる様子はなく顔色も悪いという感じではない、
腹部こそ所々穴が開き咽喉の辺りが食い破られているものの顔は綺麗なまま、
はっきりとかつて父だったと認識できるほどのものだった。
銃を構えたままで撃たない明彦を見たマイクは「おまえ何やってんだ!」と怒鳴り声を上げる、
しかし怒鳴られたにも関わらず明菜と明彦は二人とも体が震え始めていた、
母をかばうために化け物の仲間入りをしてしまい、
今は姿こそ父と似てはいても優しかった父の面影はなく、
かつての父は生肉を欲する化け物に変わり果て、倒すべき敵の一体となっていた、
明彦は引き金を引こうとするがどうしても引けなかった。
自分たちをバイクの後ろに乗せて色んなところへと連れて行ってくれた、
キャンプへ行った時などは張り切ってテントを張るのだが、
飯盒でご飯を炊くのに失敗して真っ黒に焦がしたこともある、
自分や明菜が病気をした時などは付きっきりで看病してくれた、
お母さんには内緒だぞと二人におもちゃを買ってくれたことだってある、
そんな思い出がフラッシュバックしてしまい人差し指に力が入らなかった、
見かねたマイクがゾンビを撃とうとするのだが、
明彦のM4A1を強引に奪った明菜がフルオートで父を撃っていた。
銃を撃ったことのない明菜は反動に耐えられず、数発が体に命中しただけで後方へ倒れてしまう、
その行動に冷静さを取り戻した明彦はSP2009で父の鼻っ柱を撃ちぬいた、
鼻っ柱から進入した弾丸は延髄と小脳を破壊して後頭部からそれらをぶちまける、
急所を破壊されたかつての父の面影を残したゾンビは力を失うとその場に倒れた。
かつての父が動かなくなるまでを見届けた明彦は明菜へと手を差し出す、
差し出された手をつかんで立ち上がった明菜は明彦の胸に顔を沈めて泣き出した。
明菜を優しく抱えると自身も自然に泣き出す明彦、とても優しくて怒ることなど一度もなかった父、
バイクを運転している姿は誰にも負けないくらいのかっこよさがあった、
たまに料理をすればいつも失敗して母に怒られ、改めて母が作り直した、
そして毎回「うまいうまい」と母の料理を本当においしそうに食べている、
そのような光景が思い出され、数々の思い出が頭の中を駆け抜けていった。
敬天愛人だった父を思いながら泣き続け、
しばらくして落ち着いた二人は近くの車からガソリンを拝借し、
その辺にあった木材など燃えそうなものをかき集めて
バイクを燃やしたように父の亡骸へガソリンをかけて火葬した。
天国にいる母のそばへ父の魂を送り届け、
新婚時代かそれとも付き合い始めたばかりの頃の楽しそうな二人と
その隣にバイクがある光景を想像しながら冥福を祈っている四人であった。


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