第九章 クリムゾンヘッド


人と怪物の狭間で



第九章 クリムゾンヘッド


検問所までの行程は残り四分の三、
距離で言うと5kmほどで現在の時刻は一六三○、
残りの弾は当初の四分の一もない、
マイクの9mmはたった2発だけ
M60の残弾は100にも満たない、
M4A1用の5.56mmは90発、
明彦は9mmの残りが30発、5.56mmは60発、
グレネードは全て撃ちつくしてしまいかなり厳しい状況と言えた。
「弾はマイクに全部くれてやって自分は格闘戦に徹しようか?」との考えが浮かぶ、
それでは戦力が偏ってしまっていざという時の危険が考えられた、
どうすべきか判断に悩むが次々と現れるゾンビによって思考は中断される、
これだけのゾンビが出て来ると言うことはかなり汚染が進んでいるらしい、
これではラクーンシティ消滅事件と同様の措置が取られると見ていいだろう、
BC兵器の汚染除去用として気が狂うほどの熱量を発生する特殊焼夷弾での絨毯爆撃となるか、
もしくは中性子爆弾をいくつか落として焼き尽くすことになるだろう、
そのどちらにしてもその前に明菜や麗を検問所まで送り届ける必要があった、
そして検査にパスさせなくてはならない、どのくらいの時間で爆撃機が飛んでくるのか?
飛んでくるとしても作戦が決定したのはいつか?それがわからない以上は急ぐ必要もある、
できるだけ早く検問所へ行くために歩くペースを速めていた。
少し進んできたところで一体のゾンビの死体に気づく、
離れた場所からでは目立った外傷が見当たらない、
慎重に近付いて確認しようとしたのだが突如としてそのゾンビは起き上がる、
起き上がったゾンビの体色は赤く変色していてその手には鋭い鉤爪が生えていた。

「ガッデム!クリムゾンヘッドだ!」

マイクが先ほどの様子を見て叫び声を上げる、
クリムゾンヘッドとは変異型Tウイルスに感染してゾンビ化した個体が頭部を破壊されたり、
体を焼かれたりしないまま活動を停止するとウイルスが身体を再構成して復活し、
特徴的な赤い頭部を持つことからクリムゾンヘッドと呼ばれていた。
全身の体色は赤色へと変貌していて瞬発力や筋力がハンター並みに向上して復活する、
だが耐久力自体は元のゾンビと大した変化はない、落ち着いて戦えばじゅうぶん勝てる相手だ、
しかし起き上がったクリムゾンヘッドは最初に目の合った麗を獲物に定め、
再構成された身体の筋力を生かしてものすごいスピードで走り出す、
その迫り来る威圧感から麗は動けなかった。

「助けて」

目をつぶって強く願った、
クリムゾンヘッドが右腕を振りかざして首を落とそうと寸前まで鉤爪が迫る、
だがその攻撃は猛烈なタックルをかましたマイクにより中断された。

「ヘイ、ファッキンモンスター!この子には指一本触れさせねぇぞ!」

強い口調でクリムゾンヘッドを威嚇するマイク、
その手にはM60が握られ、いつでも発射できる態勢が整えられていた、
攻撃目標をマイクへと変えたクリムゾンヘッドは
自分へ強烈な突撃をしてきた目の前の敵に飛び掛るタイミングを見計らう、
その様子を明彦の後ろへ隠れながら見守る明菜と彼女を守るように立ちふさがり、
いつでも銃を発射できる態勢で構えている明彦、
そしてマイクに助けられ明菜と一緒に様子を見守る麗、
三人が視線を送っているクリムゾンヘッドとマイクはしばし膠着状態へと陥った。
じりじりと時間が過ぎて行く、
膠着状態となって一分程度の時間が経過するが
マイクには数十分にも感じられる長い時間が過ぎていた、
どちらかが出ればどちらかが迎撃を行う、
それがわかりきっている以上は迂闊な攻撃は命取りだ、距離を詰めるに詰められず、
かといって離すに離せずといった状態である、
向こうの有効打撃圏の外にいてこちらの方が有効な攻撃を持っている、
しかしそれを過信するわけには行かない、
引き金を引く瞬間に飛び掛られる可能性があるため、
そうなってはこちらの不利となる可能性が高かった。
どうすべきか考えあぐねていたマイクだが踏んでしまった小石に気を取られ、
わずかに体制を崩すがそれを見逃さなかったクリムゾンヘッドは飛び掛り、
マイクの首筋へ噛み付こうと口を開いた。

「マイク!」

三人の叫び声が木霊する、
かのマイクはM60でその攻撃をガードするが飛び掛ってきた勢いに押され地面に倒されてしまう、
そこへ明彦が援護射撃をしようとするが射線とマイクが重なってしまい、
下手に撃つとマイクごと撃ち抜いてしまう恐れがあった。
銃を構えた明彦を見たマイクは「手を出すな!これはおれの戦いだ!」との怒声をあげる、
それには明彦も黙るしかなく、手を出さずに見守るだけだった。
明菜も黙ってマイクの戦いを見ており、マイクに助けられた麗は彼の無事を願っていた。
噛み付こうとするクリムゾンヘッドの頭をM60を盾に必死で抑えるマイク、
しかし「かっこつけるんじゃなかったな。」と先ほどの言葉を後悔していた。
このまま持久戦になってはあっちに分がある、
しかしこの状況で打開策といえるものはない、
今の状況から脱出するためにどうすべきか考えた。

「・・・・・めんどくせぇ、いちいち考えてられっか!」

そう思ったマイクは自慢の背筋力を発揮し、
無理矢理に拘束から逃れると横っ飛びしてSP2009を片ヒザで構える、
急に目の前の敵がいなくなったクリムゾンヘッド、
しばし辺りを探すものの改めて目標にしていたマイクを見つけると肘を軽く曲げ、
小ぶりな動きで確実に首を刈り取れる軌道を飛び掛った。

「地獄へ落ちやがれ、化け物が!」

飛び掛るクリムゾンヘッドの心臓部と眉間に一発ずつ、最後に残った二発の9mm弾を撃ち込んだ、
脳と心臓と言う二箇所の急所を狙う射撃術で撃たれたクリムゾンヘッド、
地面に倒れるとほんのわずかに痙攣して動かなくなると完全に沈黙した。
銃をしまってクリムゾンヘッドが動かないことを確認したマイクは麗へと近寄り

「やりましたよ、お姫。」

などと少しおどけてみせるが下を向いて震えていた麗は顔を上げてキッと睨みつけ、
マイクの頬へ渾身の力を込めた平手をくらわせるのだった。
「バチーン。」と辺りにいい音が響き渡る、
平手の音が響き渡るのと「なんで?」とのうめき声が漏れるのはほぼ同時だった。
この行為には二人して目を丸くしている明彦と明菜だが麗は構うことなく
「せっかく援護しようとしてたのにそれを断ってどうするつもりだったの?
もう少しで死ぬかもしれなかったじゃないの!」と怒鳴り散らしていた、
これにはマイクも反省して何も言えないでいたのだが、
麗も悪いと思ったのか「バカ!ほんとに心配したんだから!ありがとう・・・マイク」と抱きついた、
マイクは抱きついてきた彼女の頭を優しく撫でながら唇を重ねていた。
それを見た明菜は先を越された気がして明彦の頬へキスをした、
これにはビックリして驚いた顔で明菜を見るのだが、
「ちゃんとしたキスは脱出してからね。」と言われる、
マイクに先を越されて自分もお預けをくらい、ほんの少し残念な気持ちとなった明彦でもあった。


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