BIO HAZRD
街消えゆく時………




第一章「異変」


 9月27日
ピリリリリリ ピリリリリリ
ラクーンシティの郊外より少し中心側の場所にある一軒家。電話のコール音でウェンは目を覚ました。

(うぅぅ、頭が痛い。昨日は少し飲みすぎたよ)

時計をチラリと見たら、すでに11時を回っていた。そのまま窓に近づいて外を見ると、今にも雨が降り出しそうな天気だった。

(ん〜、なんか雨降りそうな天気だな。もっとも今日は休みで一日中家にいるつもりだから関係ないか)

などと考えていたが、電話が鳴っているのに気づき慌てて出た。

「はい、もしも……」
「ウェンか!?俺だ、リックだ!!」

電話に出るといきなりリックの怒鳴るような声が聞こえてきた。

「あ、おはようございます先輩。どうしたんですか?何か事件でもあ・・」
「のんきに喋ってる暇はない、急いで社に来るんだ!それと、銃を持っていたらそれを持ってくるんだ!なければ武器になるような物を持ってくるんだ!」
「えっ?銃か武器になるような物が必要って、どういうことなんですか?」
「詳しいことは社で話すから早く来い!それと大通りは通るんじゃないぞ!わかったか!?」

普段は温厚な彼からは考えられない怒鳴りながらの口調になにかを感じ取ったのか、ウェンの体に緊張が走った。

「わ、わかりました。すぐ社に行きます。」
「必ず来るんだぞ!待っているからな!!」

そう言い残し、電話は切れた。

「えぇっと確か、護身用の銃があったはずだけど」

それからウェンは急いで身支度をし、リックに言われた通りに護身用の銃を持って家を出て初めて異変に気が付いた。

(? 妙に静かだな)

いくら郊外寄りとはいえ、近所がここまで静かなのは初めてだ。しかしそれとは裏腹に、街の中心の方からはしきりと音が聞こえてくる。

(これは銃声!事件があったのか!?)

銃声はほぼ途絶えることなく聞こえ、時折悲鳴じみた声もかすかに聞こえてもくる。

(これは間違いなく大事件だ!先輩はこの事を言っていたんだな。急いで社に行かなきゃ!)

ウェンは慌てて新聞社に行こうとして、

(とと、大通りは通るなって言ってたっけ。仕方ない、回り道をするか)

直前でリックの言葉を思い出し、普段はあまり使わない回り道を通りながらウェンは考えた。

(一体、どんな事件が起こったんだ?聞こえてくる音からして、かなり大規模な事件みたいだけど……)

考えごとをしていた為にウェンは気づいていなかったが、彼以外の人は周りにはいなかった。



「ふぅ、やっと着いたよ。大通りを通らないとこんなにも時間が掛かるんだな。」
家を出てから40分程掛けてウェンは新聞社に到着した。社に入るといつもと違った雰囲気に包まれていた。

(あれ?受付に誰もいない。いつもなら誰かいるはずなんだけど……それに随分と静かだな)

そう思いながら自分の職場である3Fへ行こうと階段に向かおうとした瞬間、受付テーブルの影から男性が出てきて突然銃を向けられた。

「誰だ!?」
「うおうわ!!」

突然の出来事にウェンは驚き、変な声を出しながら尻餅をついた。

「ん?君は人間か。てっきりゾンビかと思ったよ」

そういうと男は銃をベルトのホルスターに戻し、近寄ってきて手を差し伸べてきた。よくよく見ると、彼は地元警察の制服を着ていた。

「すまなかったな。てっきりゾンビが入ってきたのかと思ってね。君は逃げ遅れの市民かい?」
「あ、あの話がよくわからないのですが。ゾンビとか逃げ遅れたとか……何なんですか一体?」

ウェンは手を借りて立ち上がりながら質問をした。

「君は街で起こっていることを知らないのか?」
「ええ。事件らしきことが起こっているのはわかるんですけど、何が起こっているのかはさっぱりで……」
「そうか。詳しいことは後で話すから、とりあえず3Fに行ってくれないか?ここの社員や逃げ遅れた人が数名いるぞ」
「わかりました。もともと上に行くつもりでしたから丁度いいっすね。あなたは?」
「俺は少し付近の様子を見てから行く。もしかしたら誰か来るかもしれんからな。」

そう言って警官は辺りを警戒しながら外へ出ていった。残されたウェンは足早に階段を上がっていった。


3Fの部屋に入ると中には5人の男女がいて、一斉にウェンの方に顔を向けてきた。初老の男性や20歳位の男女、それよりも若いと思われる男性もいる。その目は、いきなり入ってきたウェンに対しての驚きと戸惑い、そして警戒を表す光が宿っていた。

「あ、あの、えっと、その……」

様々な目でいきなり注目されたウェンは、緊張したのか言葉が出てこなかった。

「……人間か?」

一番手前で警戒の目を向けていた30歳前後の屈強そうな男性が質問してきた。手には銃が握られている。

「い、一応は人間ですけど。」
「一応?」

ウェンの答えに男性が銃を向けようとしたのを見て、ウェンが慌てて訂正をした。

「いえ、間違いなく人間です!」
「噛まれたりはしてないな?」
「噛まれてはいませんけど、何に噛まれるんですか?」

自分の質問に的外れな答えを返されて、男性は銃を降ろした。

「……大丈夫のようだな。意識もしっかりしている」

彼が警戒を解くと、他の4人も警戒を解いたのがわかった。

「???」

ウェンにはさっぱり訳がわからなかった。すると奥の資料室から資料と思われるファイルの束を持ってリックが出てきた。

「あ、リック先輩」
「ウェン!?無事だったのか!!」
「はい、無事っていえば無事ですけど。一体何があったんだすか?」
「ああ、ちょっと待て。下に警官の人がいただろ?あの人が来てから話をしよう。現状を把握してるし、そのほうがわかりやすいからな」

そう言って手に持っていた資料を机の上に置き、また資料室へと戻っていった。会話の区切りを見計らって一番奥にいた22〜3歳くらいの女性が声を掛けてきた。

「ねぇ、外の様子はどんな感じだった?」
「えっと、考え事しながら来たので周りはよく見てきていないっす。あ、大通りの方からは銃声とかが聞こえていたのは覚えています」
「はぁ、使えない男ねぇ。」

溜め息をつきウェンに興味をなくしたのか、近くにあった雑誌を読み始めた。

(かなり失礼なことを言われたような気がするのは、ボクだけかな?)

もっとも、周りの様子をしっかりと見ていなかった彼にも落ち度はあるのだろうけど。
すると今度は、その女性と同じくらいの年齢の穏やかな感じの男性が近づいてきて声を掛けてきた。

「や、すまないね。彼女はいつもこんな感じにぶっきらぼうでね、気を悪くしないでくれ」
「ふん、余計なお世話よ。」

さっきの女性が雑誌から目を離さずに答えてきた。

「あ、別に気にしてませんからいいですよ。2人は知り合いなんですか?」
「ああ、彼女とは同じラクーン大学の医学部に在籍していてね。よく話はするんだ」
「そうなんですか。あっ、自己紹介が遅れました。ウェン・リッヒマン、この新聞社の新入り記者です」
「僕はダン、ダン・クランプス。よろしくウェン」
「こちらこそよろしく、ダン」

ウェンとダンが自己紹介をしていると、また扉が開いて新たに3人の男性が入ってきた。1人は先ほどの警官で、同僚と思われるかなり太った警官に肩を貸している。どうやらケガをしているらしく、体の各所から大量の血をながしている。もう1人は営業マンらしく、スーツをしっかりと着ていて反対側から肩を貸している。

「シェイル!」
「わかってる!」

ダンが先程の女性に声を掛けながらケガをしている警官に近寄り、寝かせるように指示をだした。シェイルと呼ばれた女性は持参してきたと思われるカバンから救急箱を取り出し、傷の具合を診ながら止血し包帯を巻いていく。二人とも無駄な動きは一切なかった。

 治療を終えて落ち着いたところでリックが皆を呼び、集まった人達は空いている椅子へと座った。

「さて、皆揃っているみたいだね。まずは対策を練りたいところだが、現状を把握していない人もいるみたいだから最初から順を追って話そう。まずは」
「あ、ちょっと待ってください」

リックが話すのを制してウェンが割り込んできた。

「ん、なんだウェン?」
「まずは自己紹介をしませんか?俺、まだ全員の名前がわからないんで」
「……それもそうだな。よし、俺から始めて時計回りで自己紹介をしていこう。皆もそれでいいかな?」

特に反対する人もいなかったので、各々が自己紹介をしていく。リックから時計回りでウェン、ダンと続いていく。

「シェイル・ニアキンス。ダンと一緒でラクーン大学医学生よ」
「ハワード・ラインハルト。建築作業員だ」
「へぇ、ハワードさんっていうんですか。さっきは銃を向けられそうになってビックリしましたよ」
「ウェン、まだ全員終わってないんだから後で喋れ」
「すいません……」

途中ウェンがハワードに話しかけたが、リックに注意されてすぐに黙った。
この時、ウェンに対して皆が同じことを考えていた。

(緊張感のない男だ…)

そのまま自己紹介が続いていき、ハワードの隣からは初老の男性がシーバ、高校生のリッキー、営業マンのダグラス、警官であるライアンと名乗っていった。負傷して寝ているのはエディだとライアンが代わりに紹介した。

「全員回ったな。それじゃ簡単に現状を説明しよう。まず昨日の夜に警察署が少数ながら化け物に襲撃された。それを合図とするかのように街の各所で化け物が出始め、市民を襲い始めた。
それで警察は暴徒が発生して危険とのウソの情報を流し、市民の避難誘導を始めたんだ。だが化け物は刻々と数を増やしていき、被害が増える一方だったんだ。
そして今日、警察は特別機動班と避難誘導している警官を除いてほぼ全ての戦力を集めて大通りに集結、化け物を迎え撃ってる。残念ながら今現在の状況は不明だ。」
「ああ、ちょっといいかい?」

ライアンが説明していると、ダグラスが話しに割り込んできた。

「何だ?」
「その大通りに集結した警察の人達のことなんだがな、全滅してたよ」

一瞬、場の空気が凍りついた。

「まぁ、驚くのも無理ないんだが事実だよ。証拠もあるし」

そう言ってダグラスは使い捨てカメラを取り出しリックに渡した。

「俺も化け物に襲われそうになって無我夢中で逃げてたんだが、気が付いたら大通りに出てたんだ。で、慌てて周りを見たらその光景が目に入ってきたんだ。まさに死屍累々って言葉が当てはまる状況だったよ」
「何故カメラで撮ったんだ?」
「さぁな。何故撮ろうと思ったのかは自分でもわからない」
「そうか」
「で、何処かに逃げようとしたらエディっていったっけ?その人がケガしてるけど生きてるのが目に入ったんで、連れてこっちの方に逃げてきたんだ」
「さっき聞きそびれたが、他に生存者はいなかったのか?」

すると今度はライアンが会話に入ってきた。
エディが重傷を負って助けられたという事や彼ら2人しか逃げてこなかった事を考えれば、あらかた想像は出来ているのだが聞かずにはいられなかった。

「少なくとも見える範囲にはいなかったな」
「何故もっと探さなかった!?」
「冗談言うなよ。いつまた化け物が襲ってくるかわからないのに、そんな悠長なことしてられないさ」
「もしかしたらまだ生存者がいたかもしれないだろ!!」
「そう思うんだったら今からあんたが行ってくればいいさ。俺はご免だがね」
「貴様ぁ!!」

ライアンが立ち上がりダグラスに殴りかかろうとしダグラスも迎え撃とうとしたが、ダンとシーバが間に入って止めた。

「ライアンさん、落ち着いてください!今ここで彼を責めたって意味はないですよ。彼だって必死にここまで逃げてきたんですから」
「そうじゃ。それにお前さんは警官なのだろう?こういうときにこそ冷静に対処せんといかんよ」
「……そうだな、すまなかった」
「いや、こっちも言いすぎた。悪かったよ」

お互い謝りながら元の位置へと戻って座った。止めに入った2人も安堵しながら戻った。
ここでウェンが今まで疑問に思っていたことを口にした。

「質問なんですけど、化け物って一体何なんですか?」
「そうか、ウェンはまだ見ていないんだっけな。」

ウェンの問いにリックは少し間を置いてから答えた。

「”ゾンビ”だ。」

リックの答えにウェンは驚いて目を見開いた。

「まさか、そんなことあるわけないじゃないですか。だって、あれは実在するものじゃないんですよ!」

ウェンは自分に言い聞かせる様に言いながら周りを見たが、自分以外の全ての人が沈痛な表情をしていた。その顔はリックが言ったことが本当だと証明しているようだった。
 ゾンビとは、死んだ人間(動物の場合もある)が何らかの原因で蘇って生きてる人間を襲いその肉を食べ、襲った人間も自分と同じ存在にするという架空の怪物である。

「ウェン、残念だが紛れもない事実なんだよ。ゾンビが市民を襲い、被害が広がってるんだ」
「それじゃ、噛まれた人がゾンビになるっていうのは?」
「それも事実だ。実際に俺が見たって訳じゃないが、ハワードが見たそうだ」

全員が一斉にハワードに視線を向けた。

「ああ、間違いない。噛まれて逃げてきた仕事仲間がゾンビになるのをこの目で見た」
「それで僕が入ってきたときに噛まれたかどうかを確認したんですね」
「そういう事だ。ところで、エディはどうだったんだ?かなり重傷のようだったが?」

ハワードはダンとシェイルに視線を向けた。

「大丈夫、噛まれた形跡はなかったわ。傷の具合からして、流れ弾に当たったからみたいね」

全員が安心した表情をしたが、ダンがその後を続ける。

「ただ、かなりの数が当たったみたいで傷が多いんだ。ほとんどは貫通してるみたいだが何発か体内に残ってるし、出血も酷い状態だ。輸血しないとそんなに長くは持たないし、持ったとしても弾の摘出手術をしないと危険だ」
「残念だけど、手持ちの道具だと応急処置で精一杯よ。それに、摘出手術をするにしても道具や機器が足りないわ。このままだと明日の明け方くらいまでしか持たないわ」

2人の話を聞いてリックがしばし考えた後、しゃべり始めた。

「道具と機器さえあれば助けられるんだな?」
「ええ。それまで持てばね」
「よし、調達しにいこう」

全員がリックの言葉に驚愕した。

「ちょ、ちょっとあんた本気かい!?」
「ああ。このまま放ってはおけないだろう」
「だからって、わざわざゾンビがいる外に出ていこうなんて自殺行為だ。悪いことは言わない、やめておけよ」

ダグラスが止めようとするが、リックは首を横に振った。

「そういう訳にもいかない。それに身を守るための武器も必要だ。皆が持っている武器を出してくれ」

そういって出てきたのがライアンとウェンが持っていた2丁のベレッタ、それとハワードが持っていたデザートイーグル1丁だけだった。

「……確かにこれだけでは不安だな。俺のは威力はあるが予備の弾が少ない」

そう言ってマガジンを1本取り出した。

「しかし、何故デザートイーグルなんて威力のあるものを持っているんだハワード?」

そう言いながらライアンも予備のマガジンを2本取り出した。

「……元陸軍だ。除隊した時に記念として貰ったものだ」

ライアンの問いに憮然と答えながらハワードが続けて話をした。

「武器を調達するのなら俺の家がここから歩いて15分くらいのところにある。そこで調達すればいい」
「どのぐらいあるんだ?」
「最低でも1人につき1丁分は確実にある。弾薬もあるから平気だ」
「なら、まずはハワードの家に行き、そこで武器を調達してから医療道具や機器を調達しよう。ついでに脱出手段とかも探しておけばいいだろう」
「よし、決まりだ。で、誰が行くってことだが、俺とハワードは決まりだな」

ライアンの言葉にハワードが頷く。

「あと、ダンかシェイルのどちらかが来てくれ。医療関係がわかるのは2人だけだからな」
「なら2人共行くわ」
「エディはどうするんだ?治療できるのはお前達2人だけなんだぞ」
「言ったはずよ、応急処置しか出来ないって。つまり、もう何も出来ないのよ。それに2人で手分けして探したほうが効率がいいわ」
「わかった、そうしてくれ。じゃ、メンバーは決まりでいいな」
「ちょっと待ったライアン。言い出した俺が行かないわけにはいかないだろう」

そういってリックが名乗りでてきた。

「それに俺のカンだが、この事件には何かあるって感じてるんだ。記者としてそれを知りたい」
「先輩がいくなら僕も行きますよ。荷物持ちにもなりますし」
「はぁ、好きにしてくれ。では、今から30分後に出発しよう」


30分後
ウェン、リック、ダン、シェイル、ハワード、ライアンが武器・医療品の調達及び脱出手段の捜索。ダグラス、シーバ、リッキー、負傷して動けないエディが待機することとなった。

「それじゃ、早めに調達して戻ってくるからここは頼むぞ」
「一応1階の階段のところのシャッターは下ろしていくからゾンビどもは入って来れないはずだ」
「もし、入ってきたら?」

今までそれといって発言をしていなかったリッキーが、青い顔をしながら唐突に質問してきた。発疹でもあるのか、しきりに体のあちこちを掻いている。

「そっちに非常階段があるから、そこから逃げるといいよ」

ウェンの言葉を聞いて場所を確かめた後、リッキーはまた黙ってしまった。

(無理もないか。彼が一番若いんだし、不安だよねぇ。)

ウェンはゾンビを見てないので、まだ気が楽だった。

「おい、ウェン。出発するぞ」
「あ、待ってくださいよ先輩〜」

慌てて一行の後をウェンは追いかけていった。

「あんなんで大丈夫かよ?」

そんなダグラスの呟きが室内に響いた。



下の階の様子を窺いながら降りていき、全員が降りたのを確認してからシャッターを閉めた。

「よし、周りに注意しながら進むんだぞ」

ライアンを先頭に、一行は新聞社の外へと踏み出していった。

運命の歯車が動き出した……





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