BIO HAZRD
街消えゆく時………




第二章「彷徨う者達」


 新聞社を出た一行は、周りに注意をしながらハワードの家に向かう為、ルートを東に取った。

「ハワード、お前の家は東側にあるんだな?」
「ああ。さっきも言ったが、そんなに時間は掛からないはずだ。大通りは避けて、路地から行こう」

大通りではゾンビの大群と遭遇する可能性が高かったが、路地ならその確立は低いと思ってのことだった。
路地といっても、車2台がすれ違って通って通れる余裕があるくらい広かった。
ライアンを先頭に、ハワード、ダン、シェイル、ウェン、リックとほぼ縦一列になって辺りを警戒しながら路地を移動していく。
特に十字路などの分岐地点では細心の注意を払って進んだ。無防備に進んでゾンビに襲われたら目も当てられないだろう。
3つ目の十字路を過ぎたあたりでウェンが誰に言うでもなく呟いた。

「随分と人気がないっすねぇ。これじゃまるで、ゴーストタウンみたいだ」
「みたいじゃなくてそうなの。それにゴーストタウンって言うよりも、ゾンビタウンのほうが合っているわ」

ウェンの言葉をシェイルがすぐに訂正をした。

「ゾンビか。まだ、信じられない言葉だよ。まるで、映画の中に入ってるみたいっすよ」
「何をノンキなこと言ってるのよ。あんたはアレを見てないからそんな事が言えるのよ」
「そう言われても……」
「だいたいアンタ、考え事しながら来たから周りの様子がわからなかったなんて言ってたけど、ちょっとおかしいんじゃない?」
「えっと、その……」

シェイルの言葉にだんだんとトゲが入ってきた。

「だいたい、周りが見えなかったってことは注意力が足りないって事でしょ?よく記者なんて仕事が出来るわねぇ」
「まだ見習いなもので……」
「それでも異常よ。ゾンビに襲われなかったのが不思議でしょうがないわ。アンタ、記者って仕事は向いてないんじゃないの?」
「………」
「まぁまぁ、落ち着いて。シェイル、まだ会ってからそんなに経ってないのにちょっと言いすぎだよ」

さすがに見かねて、ダンが助け船を出す。

「あら、時間なんて関係ないわよ。私はただ事実を言っただけよ」
「そうだとしても言いすぎだよ。そういうのはもっとベールに包んで言わなきゃ」

どうやらダンは言い方に対してだけ注意をしているようだ。

「ダン、キミもそう思ってるんだ……」
「えっ!あ、いや、そうじゃなくて。その、誰しも得意・不得意があるから別に気にしなくていいと思うよ」
「はぁ、フォローになってないわよダン」
「……まるで緊張感がないな」

一連の会話を最後尾で聞いていたリックが呆れたように呟いた。おそらくは先頭にいる2人も同じことを思っているだろうと考えたときだった。

”カン!カラカラカラ……”

少し先にあるT字通路から空き缶が右から左へと転がっていった。そして遅れて足跡らしき音も聞こえ、その音に混ざって、”あ”とも”う”ともわからない声も聞こえてきた。全員に緊張が走る。

「ハワード、どっちだと思う?」
「恐らく奴らだろう。普通の人間はあんな声を出しては歩かないだろう」

ハワードが話し終えるのと同時にそれは姿を現し、こちらにゆっくりと顔を向けた。それはまさにゾンビと呼ぶのに相応しい姿をしていた。
顔の皮膚は腐り落ちて右目がなく、左目は白濁色に濁っている。衣服もボロボロで大量の血が付着し、破れた箇所からは顔と同じように腐った皮膚が見え隠れしている。他のゾンビにでも噛まれたのか、所々が不自然に欠落し筋肉どころか内臓や骨までが見える。

「うっ!酷い……」

この時ゾンビを初めて見たウェンは、あまりにも酷い状態に嘔吐感を覚えて目を逸らし必死に堪えていた。
他のメンバーは一度は見ているので、それほど驚いた様子は見られなかった。

「どうする、逃げるか?」
「いや、1体だけだから倒して先へ進もう。俺の家は奴が来た方向にあるからな」

そういってハワードがゆっくりとこちらに向かってくるゾンビにデザートイーグルを向けて発砲した。50AE弾ならではの重い音が響いてゾンビの頭を吹っ飛ばし、残った体はゆっくりと崩れ落ちた

「行こう。もう少しで家に着く」

一行が再び進もうとしたときだった。

”カン!カラカラカラ……”

先程の空き缶が今度は左から右へと転がっていった。そして直ぐに別のゾンビが姿を現した。今度は1体のみならず2体、3体と数を増やしていく。

「嘘でしょ……」

シェイルの声が震えて聞こえた。姿を現したのは30体近くはいる集団で、あっという間に進行方向を埋め尽くしてゆっくりと近づいてくる。

「今度は聞くまでもないよな」
「ああ、弾が足りない。引き返して別の道を探そう」

ハワードの装備しているデザートイーグルは50AE(アクション・エクスプレス)弾を使用しており、威力が高く貫通力があるが反動が大きく装弾数が7発と少ない。
一方ライアンの装備しているベレッタは極一般的な9mm×19mm弾(通称パラベラム弾)を使用しており、使い勝手がよく反動も小さい。装弾数は15発と多いが威力が低く、ゾンビ相手にどのくらい効くのかがわからなかった。それに手持ちの弾薬も多くはないので、交戦は避けるべきだと判断した。
先頭の2人が銃を構えながらジリジリと後退してくる。ふと、1番後ろにいたリックが後ろを向いたときに異変に気づいた。

「後ろにもいるぞ!」

いつの間にか、後ろからも20体近くのゾンビの集団が近づいてくる。まだ距離はあるものの今いる場所には左右に道がなく、あるのは少し前方のT字通路と遥か後方の十字路だけ。このままでは挟み撃ちにあってしまう。
ウェンが震えながら後ろの集団にベレッタを向けた。

「くそ!退路を絶たれたか!」

ライアンが悪態をつきながら前方のゾンビに続けざまに発砲した。腹や胸に当たるものの、まったく怯む様子は見られず平然と近づいてくる。3発、4発と撃っていき5発目でようやく倒れたが、すぐに立ち上がって歩き始めた。

「ちっ、パラベラムじゃ効かないのか!」
「構わないから撃て。少しでも時間を稼ぐんだ」

ハワードも狙いを定めながら発砲していく。一気に2体のゾンビの肩が吹き飛ぶが、やはり平然と近づいてくる。ハワードはもう一度慎重に狙いを定めて引き金を引く。今度は3体のゾンビの胸部が一気に吹き飛び、吹き飛ばされたゾンビは倒れて2度と起き上がることはなかった。しかし、他のソンビは倒れたゾンビに見向きもせず、こちらにむかって一直線に進んでくる。
その時、辺りを見回していたダンがあることに気がついた。

「あの窓から中に逃げられないかな?」

ダンが指差した右側の壁には、人1人が通れるくらいの大きさの窓が3つほど並んでいた。
場所は後方にいるゾンビ集団から20メートルも離れていなかった。

「一か八かだ。皆急いで窓の所まで行くんだ!」

ライアンとハワードが応戦しながら下がり、残りの4人は窓まで走っていった。
まず最初にリックが辿り着き、窓を開けようと力を込めた。窓は上に引き上げるタイプで、枠が歪んでいるのか思うように上がらない。

「くっ!上がれ〜!」

しかし窓はほんの僅かに上がっただけで止まってしまう。

「駄目だ。そっちの窓は?」
「駄目、鍵が掛かってて開かないわ!」

左隣の窓を開けようとしていたシェイルが答える。するとさらに左隣の窓を調べていたダンが叫んだ。

「こっちの窓が開いた!」
「中の様子はどうだ?」
「暗くて分からない。けど、ここにいるよりは安全かもしれない。先に入って確かめてくるよ」
「ちょっと待ちなさいよダン!」

シェイルの声を無視してダンは中に入っていった。
中は入ると足元にはペンキ缶が転がっており、家具にはビニールが掛けられている。恐らくは壁や天井の塗り替えをしようとしていたのだろうか、隅には足場を作るための鉄パイプや板が置いてある。
ざっと見た限りではゾンビはいないようだ。

「大丈夫、中にはいないみたいだ。さ、早く入ってくるんだ」

ダンが声を掛けたときには、後方ゾンビ集団との距離が10メートルを切っていた。前方にいたっては5メートル程しか離れていなかった。
ダンが中から引っ張るようにシェイル、ウェンと入っていく。

「ライアン、ハワード!早く来るんだ!」

そう言いながらリックが窓の中に入る。
2人が窓に着いたときには後方にいたゾンビ集団が5メートル程の距離に近づいていた。後方集団に2人同時に発砲し、2発撃ったところでハワードのデザートイーグルのスライドが後退したままとなり弾切れを起こす。

「ハワード、先に入るんだ!」

それに気づいたライアンが先に入るよう指示をし自分に注意を向けるよう続けざまに発砲をするが、4発目を撃ったところでスライドが後退したままとなる。

「ちっ!」
「ライアンさん!早くこっちへ!!」

ウェンが窓から呼びかける。それに反応し、ライアンは窓まで走り寄った。ゾンビの集団は前後とも、すぐそこまで迫ってきていた。
慌てて中に入ろうと頭から飛び込むように跳躍したが、体が膝ほどまで入ったところで急に失速して体を床に打ちつけてしまった。
見てみると、1体のゾンビによって足首を掴まれて入ることが出来なかったのだ。

「くそ!放しやがれ!!」

足を動かして逃れようと試みるが、体勢が悪く思うように動かない。それに、見かけからは想像できないくらいの力があり逃れることは出来なかった。
そうこうしているうちに、他のゾンビ達もライアンの足を捕まえて外に引きずり出そうとする。

「う、うわ!」
「ライアンさん!」

とっさにウェンがライアンの腕を掴みそれを防いだが、中には引っ張れそうにはなかった。それを見てダンとハワードもライアンを中に入れようと加勢するが、さほど状況は変わらなかった。

「おい、ウェン!お前銃持ってるんだから撃てよ!」
「は、はいっす!」

ライアンに言われて自分が銃を持っていたことを思い出したウェンは、慌てて足を掴んでいるゾンビに銃を向けてトリガーを引いた。

”カチッ”

しかし弾は出ることはなく、乾いた金属音が響いただけだった。

「えっ?」

”カチッ、カチッ、カチッ”

何度トリガーを引いても結果は同じで、乾いた金属音が虚しく響くだけだった。
急いでマガジンを抜いて確かめてみると、弾は1発も入っていなかった。

「弾が……」
「何をやっていいるんだ!弾が入ってるかいないかぐらい確かめて…て、うわ!やめろ!」

見てみると、今にもゾンビがライアンの足に噛み付こうとしているところだった。
ライアンが痛みを覚悟したとき、何かがゾンビの目に突き刺さった。視線を反対側に向けるとリックが立っていて、持っているのは足場を組み立てるのに使用する鉄パイプだった。鉄パイプを引き抜くとゾンビはゆっくりと崩れ落ちた。
そのままリックはライアンの足を掴んでいるゾンビ達の腕や胸に続けざまに突きを繰り出し、呪縛から開放していく。
それに伴いライアンの体は徐々に中に入っていき、数秒後には完全に中に入ることが出来た。

「だ、大丈夫か?」
「ああ、助かったよ。ありがとな」
「礼は後だ。早くここから離れよう」

すでにゾンビ達が開いた窓から入ってこようと群がってきていた。お互いの体が邪魔して思うように入れないみたいだが、いつ中になだれ込んでくるかわからない状況だった。また、他の空いていない窓にもゾンビが群がり、激しくガラスを叩いていた。こちらもいつ割れて中に入ってくるかわからない状況だった。すでに1つはヒビが入りはじめていた。
ライアンは空になったマガジンを交換し、残りの1つをウェンに渡した。受け取ったウェンも慌ててマガジンを交換した。

「それしかないから大事に使えよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「よし、行くぞ。」

ハワードが先頭に立ち、部屋を出て行く。それに他のメンバーも続いていく。
ウェンが最後に部屋を出ようとしたとき、足に何かが当たった。視線を足元に向けるとペンキ缶だった。おもむろにそれを持ち上げると、未だに開いている窓から中に入れないゾンビに向かって投げつけた。

”グシャ”

なんともいえない音を立てて右端にいたゾンビの顔に命中し、そのままドミノ倒しのように何体かのゾンビを巻き込んで倒れた。

「やた、ストライク!」

しかし、それがまずかった。
お互いの体が邪魔して入れなかったのが、数体倒れたことにより邪魔するものがなくなって中に入り始めたのだ。しかもそれを合図とするかのように、他の窓を突き破って中に入ってくるゾンビも出始めた。

「やばいかも……」
「何を余計な事してるんだよお前は!!さっさと来い!!」

ライアンに引っ張られるように連れて行かれるウェン。すでに他のメンバーは外に出て待っていた。

「何かあったのか?」

ハワードが辺りを警戒しながら尋ねてくる。
家の外はブティックやコンビニ、カフェなどの店が並ぶ通りに面していたようだ。中央の大通り程ではないが、それなりに大きい通りだった。
平時であれば買い物客でそれなりに賑わっているであろうが、買い物客どころか人さえ見当たらなかった。目に入るのは、横転して炎上している車や店に突っ込んだトラックだけだった。

「ああ、ゾンビ共が中に入って追いかけてきやがった。急いでこの場から離れよう」
「わかった、俺が先頭を行く。ライアン、お前は最後尾を頼む」
「任せな!おっと来たぞ。さぁ、息が続く限り走るんだ!走れば連中も追いつけないはずだ!」

家の奥から次々とゾンビが出てくるのを見て、一行は走り出した。
また、通りの店や車の中といった場所からゾンビ達が出始めたが、走っていればまず捕まることはなかった。
だがゾンビの数はどんどん増えていき、捕まることはなくても振り切ることはできなかった。
その上、ずっと走っている訳にはいかなかった。体力の問題もあるが、このままだと最初の目的地であるハワードの家から遠ざかってしまうばかりだ。


「はぁはぁ。ねぇ、この、状況、はぁはぁ、何とか、ならない、の?」
「が、頑張って、はぁ、はぁ、シェイル、荷物は、はぁ、はぁ、僕が、持つから」
「はぁ、はぁ、もう、持って、もらってる、わよ」

もうどのくらい走っただろうか、すでにダンとシェイルの息がかなり上がってきている。
他のメンバーはまだ持ちそうだが、この2人が倒れてしまっては医療関係がまったくわからなくなる。
そう考えたリックはある提案をだした。

「なぁハワード、このままだと2人が持たない。どこかでやり過ごさないか?」
「それは構わないが、問題はどうやるかだな」

通りに面しているだけあって家等はたくさんあるので隠れる場所には事欠かない。中に入ってやり過ごしたり、裏口から逃げればいい。
しかし問題はゾンビの視界に全員が入っていることだ。もし隠れる所を見られたら、そこに大群で押し寄せてくる可能性がある。
白濁色に濁った目を見る限りゾンビが視界だけに頼ってるとは思えないが、現に一行を捉えて追いかけてきてるのだ。見られるのはかなりの危険を伴うだろう。
少しでも危険は回避するべきだ。

「見られなければいいんだ」
「それが出来たら苦労はしてない」
「まぁ、聞けって。幸いなことに周りには事故車が沢山あるんだ。それに入っているガソリンを外に出して引火させれば、炎で俺達の姿は見えなくなるはずだ」
「なるほど、その手があったか。よし、やってみよう」
「なら、あの赤い車と灰色のワゴン車でやろう。ちょうどいい感じに道も塞いでいるしな」

リックが示した場所には正面衝突したのか、通りの真ん中を塞ぐように横転している2台の車があった。
すぐにリックとハワードがガソリンを外に出す為の作業を始めた。

「おい、何をしてるんだ?早く行くぞ!」

計画を聞いていないライアンは、突然止まって車をいじり始めた2人を引っ張って行こうとする。
他の3人も何事かと足を止めて成り行きを見ている。
リックは自分の考えを手短に説明した。

「確かに、それはいい考えだ。で、俺は何をすればいい?足止めか?」
「いや、ライアンにはそこのアパートの安全を確認してきてほしいんだ」

リックが示したのは、入口がちょうどワゴン車の陰になっている4階建てのアパートだった。

「あそこなら隠れる場所も沢山あるだろうからな。最悪、出入口だけでも確保しといてくれ」
「わかった」

ライアンは頷くとアパートに向かって走っていった。

「ウェン、すまないがダンとシェイルを頼む」
「はいっす」

ウェンは2人をリック達とアパートのちょうど中間あたりに連れて行き休ませた。

「2人とも、大丈夫っすか?」
「はぁはぁ、ええ、何とかね、はぁはぁ。」
「ぼ、僕も、はぁはぁ、まだ、なんとか、はぁはぁ、平気、だよ」

2人共かなり疲弊していたが、動けない程ではないようだ。
数十秒程休んで呼吸が整ったところで、作業を終えたリック達がウェン達のところへ来た。
2台の車からはガソリンが流れ出して辺りに広がっていく。

「こっちの準備は出来た。後は、ライアンだけなんだが」

リックがアパートへ顔を向けた時、ちょうどライアンが出てきたところだった。

「大丈夫だ、中にはゾンビはいない」
「よし、後は実行するだけだな。ライアン、ガソリンの広がってるところに1発叩き込んでくれ」

全員がアパートの入口に集まったのを確認してから、慎重に狙いを定めてトリガーを引いた。
瞬間的に炎が広がり、近くにいたゾンビをも巻き込んで激しく燃え出した。

「よし、成功だ!今のうちに中へ!」

一行は急ぎアパートの中に入っていった。
中は思っていたよりも狭く左側に部屋が3部屋、右側には階段と少し手前に郵便受けがあり入口とちょうど正反対の位置に裏口があるだけだっった。
郵便受けを見る限り部屋は各階ごとに3部屋ずつしかなく、4階建てにしては少々小さめの造りとなっているようだ。

「とりあえず、3階の1番奥の部屋に行こう。あそこなら安全は確認済みだ」
「他の部屋はどうなんっすか?」
「大丈夫だ、そこ以外は鍵が掛かっていたからな」

そう言って無防備に2階に上がっていくライアンを見て安心したのか、皆すぐに後に続いていった。
3階1番奥の303号室に入りしっかりと鍵を掛けたところで、ダンとシェイルが床に座り込んだ。

「2人とも、休むなら奥にソファがあるからそこに行け」

その言葉を聞いてゆっくりと立ち上がって奥に入っていく2人は、ゾンビの動きに似ていなくもなかった。
それを見てから残りのメンバーも奥へ入っていた。
部屋の中は狭いながらも奇麗に片付いており、中央には大きなソファが2つ置いてあった。もっとも、その2つのソファが部屋の半分近くを占めていたが。
ソファはダンとシェイルが使って座れない為、残った4人は床に座ることにした。

「さてと、これからどうするかだな」
「そうだな、ハワードの家からは大分離れてしまったようだが?」

そういいながら、リックは持ってきた地図を広げた。

「ええと、俺達がいるのがここのアパートだな。で、ハワードの家は?」
「ここだ」

今いる場所とハワードが示した場所に円を書き、直線で結ぶ。

「だいたい、直線距離で1キロ。歩くと2キロくらいだな」
「そんなに離れちゃったんっすか?」
「ああ。しかし困ったな、また通りに出る訳にはいかないしな」
「下が駄目なら上って言いたいっすけど、鳥じゃないから飛べないしなぁ」
「おい、ウェン。今何て言った?」
「へ?下が駄目なら上って…」
「それだ!!」

ウェンの言葉を聞いたリックは突然叫び、地図を目を皿のようにして見ていく。
リックの声に驚いて何事かと、ダンとシェイルがこちらに視線を向けている。

「行ける、これなら行けるぞ。」
「な、何がっすか先輩?」
「ウェン、キミが言ったように下が駄目なら上ってことさ」
「????」

一同の頭の上に?が浮かぶ。

「いいか、この大きく書いた円を見てくれ。」

リックは地図に今いる辺りからハワードの家辺りを大きく円で囲んだ。

「この円の中一体は多少高低差はあるが、今いるアパートと同じくらいの高さしかないんだ。これがどういうことか、わかるか?」
「屋上や屋根を伝って移動できる…」
「そう、その通りだ。家に行くには路地1本を挟んでいるが、近くまでは上を通って行けば安全に行けるはずだ」

今度は先程引いた直線とは別の線をL字に引く。

「は、ははは。決断力といい発想力といい、さっきの事も含めて何て事を考える奴だ。記者にしておくのはもったいないぜ。どうだ?この際、警察に入らないか?」
「いや、遠慮しておく。俺は記者としての自分に誇りをもっているからな」
「そうか、もったいない逸材だよ」
「お褒めのお言葉をありがとよ。それじゃ、休憩も含めて1時間後に出発しよう」


 1時間後アパート屋上

「うわぁ、本当にほとんどが同じ高さっすねぇ。若干の差はありますけど、これなら行けそうっすね」
「確かに。隣の建物との隙間もあまり大きくないようだしね。あっ、シェイル!一応荷物は僕が持つよ。移動する場所が場所だから身軽なほうがいいよ」
「あら、ありがとダン。でも大丈夫よ。あなただって持ってるんだし、さっきと違って走るわけじゃないから」
「そうかい?辛かったら言ってね。いつでも請け負うからさ」
「………。」

ダンのシェイルに対する態度を見て、ウェンは頭に閃くものがあった。

(ダンってもしかして……)
「ん?どうかしたかいウェン?」
「いえいえ、何でもないっすよ。」
「???」

視線に気づきダンが問いかけるが、ウェンは今考えていた事を口には出さずにはぐらかす。

「よし、おしゃべりはそこまでだ。建物同士の隙間はそんなに広くはないが、注意して行くように」

一行は2キロ程の距離を屋根や屋上を使い、元来た方向へ進んでいく。
自分達より低い位置は飛び降り、逆に高い位置は先に昇った人の手を借りて昇り進んでいく。
そんな事を繰り返しながら2時間近く掛けて進み、ゾンビ達の襲撃を受けたT字通路まで戻ってきた。






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