BIO HAZRD
街消えゆく時………




第四章「新たな仲間」」


 ハワード家リビング
ライアンが死んでから既に30分近く経っているが、未だに誰も口を開かない。今、彼の死体はリビング隅に毛布を被されて静かに横たわっている。ほんの僅かの時間ではあるが一緒にいた仲間が得体の知れない化け物に襲われ殺されてしまったのだ。皆、一様にショックを受けているようだ。
そんな中、ウェンが口を開いた。

「ねぇダン、ライアンさんはどんな化け物にやられたんすか?ゾンビじゃないんすよね?どんな奴か教えてもらいないっすか?」
「そうだな、俺もその事を知りたい。どんな奴かわかれば遭った時にすぐに逃げられるからな」

リックもその事について知りたいようだ。
ライアンの負った傷は大きな爪痕のような裂傷が左肩から右腹部へと斜めにあり、腹部には直径にして5センチ程の穴が開いて背中へと貫通していた。ゾンビが負わせた傷でないのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。ダンはゆっくりと話始めた。
診療所に行く道は事故車があったりして回り道をしたりしたが、比較的に順調に進んだ。診療所に到着して中にいたゾンビ達は、ハワードとライアンの2人が倒したので問題なく治療に必要な物を集め始めることができた。そして集め終えて戻ろうと外に出たときに1番後ろにいたライアンが襲われたのだという。

「気がついた時にはもうライアンさんがやられていたんだ。特徴は全身が赤くて大きな爪と異常に長い舌、それと露出した脳。爪は見た目通りに使ってくるんだけど、問題はその長い舌なんだ。まるで槍のように物凄い速さで突き出してくるんだ。1体だけだったからハワードさんがすぐに倒したけど、もしあんなのが沢山いたら……」

それっきりダンは黙ってしまった。再び沈黙がリビングを支配する。
どのくらい時間が経ったのだろうか、ウェンが再び口を開いた。

「あの、そろそろ出発したほうがよくないっすか?戻ってエディさんの治療をしなきゃいけないんっすよね?」

時計を見てみるとすでに23時を回っていた。しかし、ウェンの言葉を聞いて動こうとしていたメンバーをハワードが止めた。

「いや、駄目だ。今夜はここに泊まって、明け方に出発する」
「そんな、エディさんを見殺しにするって言うんっすか!?」

ハワードの言葉を聞いたウェンが抗議の声を上げた。エディの体力は持って明け方までしか持たない。それなのにハワードは明け方に出発すると言っているのだ。

「落ち着け、そうとは言ってない。こんな暗い中を出て行ってもゾンビに襲われてやられるのは目に見えている。ましてや診療所に出てきた化け物が襲ってきたら、それこそお終いだ。今までの苦労が無駄になる」

確かにハワードの言っている事は正しかった。自分達はハワードとは違って特別な訓練を受けた訳ではないので、この暗闇の中で銃を撃つのは危険だ。ましてや弱点とわかっている頭部に撃つのは不可能だ。

「それに少しはしっかりと休んでおかないと、肝心な時に体が動かないなんて状況になりかねない。2階にある部屋をどこでもいいから使って休め」
「出発時間はどうする?」

リックの問いにハワードはシェイルに視線を向けた。

「容態に変化がなければ5時くらいまでは持つはずよ」
「ならその1時間前の4時に出発だ。その時間なら少しは明るくなっている」
「わかった。あと大丈夫だとは思うけど、念の為に見張りをやらないか?用心しておくのに越したことはないからな」

リックの提案にハワードは頷いた。
見張りはシェイルを抜いた4人でやることとなり、始めはダンからで1時間置きにウェン、リックの順番で交代し出発の1時間前には全員が起きていることとなった。ちなみにハワードは何かあった時の為に常に見張りと一緒に起きている事になった。
その後簡単な食事を取り、見張りを残してウェンとリックは2階の部屋へ上がっていった。シェイルはダンと話をするから先に休んでいてと1階に残った。

部屋に入ったウェンは直ぐにベットで横になった。自分でも気づかないうちに疲れていたのだろう、横になって直ぐ眠気がきた。その眠気に身を任せて目を閉じる。
今日はあまりにも色んな出来事がありすぎた。街の異変、ゾンビの出現、ライアンの死……。

(これからどうなるんだろう?)

無事に救助されて街を出るのか、それともゾンビや正体不明の化け物の餌食になるのか?それ以前に救助活動は行われているのか、自分や仲間がもしゾンビになってしまったら?
そんな事を考えながら、ウェンは眠りの世界へと入っていった。



 9月28日
「……きて、……ウェン。起きてウェン、交替の時間だよ」

ウェンは誰かに声を掛けられて目を覚ました。少しボンヤリとしていたが、次第に意識がしっかりとしてきた。

「ウェン、起きたかい?」
「ダン、おはようっす」
「おはようって言ってもまだ夜中だけどね」

ウェンを起こしたのはダンだった。時間は1時で先程決めた見張りの順番がきたのだ。
ダンにベットを譲り、リックを起こさないように部屋から出た。シェイルは女性なので隣の部屋で眠っている。
階段を下りてリビングへ入っていくと、ハワードが銃を机の上に置き点検をしていた。ウェンが入ってきたのを感じてか、一瞬視線をこちらに向けて直ぐに銃の点検をやり始めた。

「あ、えっと、お疲れさまっす」
「……ああ」
「………」
「……立ってないで座ったらどうだ?」
「そ、それもそうっすね」

ハワードに指摘されソファに座るが、何をすればいいのかがわからずキョロキョロと辺りを見回し、ハワードに声を掛ける。

「あの、見張りって何をすればいいんっすか?」
「……何かあったらその時の状況に合わせて行動する。それだけだ。それ以外は何をしてもいいが、寝るなよ」
「わかりましたっす」

しばらくは銃の点検作業を見ていたが、だんだんと眠くなってきたので眠気ざましにコーヒーを入れることにした。ハワードにコーヒーのある場所を聞き、キッチンへと向かう。今いる2人以外の人が起きてきた時に飲めるよう大量のコーヒーを入れてまたリビングへと戻る。
戻る途中でライアンの死体が目に入り、慌てて目を逸らす。一応毛布を被せてあるが、見てしまうと”もしかしたら自分も”と恐怖が湧いてきてしまうので見ないようにした。
ウェンが目を逸らした直後、ライアンの指がピクリと動いたが彼は気づかなかった。

ウェンが見張りについてからもう少しで1時間が経とうとしていた。特に異変はなくハワードも銃の点検を終えていた。

「そろそろ時間だ。リックを起こして交替してこい」
「はいっす」

そう言ってウェンが立ち上がった時、視界の隅で同じく立ち上がる影があった。ハワードではない。彼は今、ウェンの正面に座っているのだ。

(そんな、まさか……)

恐る恐るそちらに顔を向け、見た瞬間に心拍数が一気に跳ね上がった。そこに立っていたのは間違いなく死んだはずのライアンだった。

「ひっ!」

ウェンの声にハワードも気づき、そちらに顔を向けると驚きのあまり固まった。ライアンは完全にゾンビ化していた。ゾンビ自体はもう見慣れてしまったから見ても驚きはしないが、問題は彼はゾンビに噛まれた訳ではないのにゾンビ化していたからだ。ゾンビとなったライアンはゆっくりと歩を進めてきた。
それを見て固まっていたハワードは我に返り、太腿に装備していた2丁のグロックを抜き、素早く頭部に狙いを定め引き金を引いた。2発の弾丸がライアンの額と目を撃ち抜き、そのまま仰向けに倒れて動かなくなった。それと同時に2階から誰かが勢いよく降りてきた。

「おい、何があった!?」

降りてきた勢いのままリックがリビングへと入ってきた。先程の銃声を聞いたのか、手には銃が握られている。だが、2人はリックの問いかけには答えずに床を眺めているだけだ。その視線の先にはライアンの死体があった。

「ん、なんでライアンの死体がこっちに?」
「それが、ライアンさんがゾンビになって……」
「なんだって!?ゾンビには噛まれていないんだろ?なのに何でゾンビに?」

その時、玄関の扉や窓を激しく叩く音が聞こえてきた。同時に呻き声らしきものも聞こえてくる。

「……ゾンビか」

そう呟くとハワードは玄関に向かい、少し遅れて2人も続いて行く。扉の手前では、すでにハワードがショットガンを構えて様子を伺っている。扉は外からの圧力で叩かれる度に少しずつ歪んできているようだ。

「……まずいな。このままだと中に雪崩れ込んで来るな」
「なら、余ってる机とかで補強しよう」
「ああ。だが、それでもあまり持たないぞ。残りの奴らを起こしてここを出る準備をしておけ」
「わかった。ウェンは上の2人を起こしてきてくれ。多分まだ寝ていると思う」
「はいっす」

ウェンは2階へ駆け上がり、リックはリビングへと向かっていった。
2階に上がったウェンは、まずダンを起こしにいった。勢いよく部屋に入ると、ちょうど出てこうようとしていたダンと派手に正面衝突した。

「うわっ!」
「いで!」
「ウ、ウェン、どうしたんだい?さっきから下が騒がしいみたいだけど」
「ダン、起きてたっすか。説明は後っす。急いでここを出る準備をしてくださいっす」
「あ、ああ、わかった。」

ダンに用件を伝えると、今度はシェイルを起こすために隣の部屋へ向かった。一応ノックをしたが、返事がなかったので部屋へ入り電気を点ける。
この事態にはまだ気づいていないようで、まだぐっすりと寝ていた。

「シェイル、シェイル!起きてくださいっす!」
「ん、何?何かあったの?」

上半身を起こしながらしっかりとした返事を返してきた。寝起きはしっかりしているらしい。

「説明している時間はないっす。急いでここを出る準備をしてくださいっす」
「………。わかったわ、すぐに準備して下に行くわ」

少しの沈黙の後、1階から聞こえる音とウェンの言葉から事情を理解したのか、シェイルは素早く準備に取り掛かった。ウェンはバリケードを作っているリックを手伝う為に1階へ走り戻った。
1階に戻るとすでに玄関の扉は机や椅子で塞がれていたが、扉自体は先程より歪みが酷くなっていた。もういつ壊れてゾンビが雪崩れ込んでくるか、わからない状態だった。ハワードは扉から少し離れた位置でいつでも撃てるようにショットガンを構えていた。

「……そろそろヤバイな」
「もし雪崩れ込んで来たらどうすればいいっすか?」
「俺が注意を引き付けておくから、お前達は裏口から外へ逃げろ。今、リックが確認しに行っている」
「引き付けるって、そんな危険な!」
「俺は元軍人だ。あんな奴らにやられるほど弱くはないし、やられるつもりは毛頭ない」

確かに今のハワードの装備からすればゾンビにやられるなんてことはない。だが、引き付ける=この場に残る、又は別行動を取るという事だ。ライアンを欠いた残りのメンバーでは、一時的にとはいえ戦闘力の高いハワードと離れて行動するのはかなりの不安が残る。出来ればそれは避けたいが、だからといって別の案があるわけでもない。唯一別行動を取らない方法は、雪崩れ込んでくる前にここを出発するしかない。しかし、上の2人はまだ降りてきていないし、リックも裏口の確認から戻ってきていない。

「俺、裏口に行った先輩の様子を見てくるっす」
「いいだろう。何かあったら呼べ」

ウェンはすぐさま裏口へと向かっていった。裏口は玄関からちょうど反対側にあるが、行くにはリビングとは反対の部屋から入ってグルっと回って行かなければならなかった。裏口に着くと扉は開きっぱなしになっており、リックの姿はそこにはなかった。急いで扉に近寄って外を覗いてみるが、暗闇に支配されていて何も見ることができなかった。

「先輩!どこにいるんっすか!?」
「そんな大きな声を出さなくても聞こえてるよ」

試しに呼んでみると、ほぼ真横から返事が返ってきた。

「先輩、何をやってたんっすか?心配したんっすよ」
「すまん。念の為にと思って、すぐそこまで様子を見てきたんだ」
「1人で行くなんて危険っすよ。何かあったらどうするんっすか?」

そこまで言った時、玄関から銃声が聞こえてきた。ハワードのショットガンだ。2人は顔を見合わせて急ぎ玄関へ戻った。
部屋を戻り玄関の方を見ると扉は壊れており、ゾンビが雪崩れ込んできていた。この位置からはハワードの姿は見えないが、階段の辺りから銃声が聞こえるので無事のようだ。銃声が響く度にゾンビが吹き飛ばされて倒れていく。

「ハワード!!」

リックがハワードに声を掛けたが向こうからの返事はなく、逆に何体かのゾンビがその声に反応し2人に向かってくる。
2人共武器を持っているとはいえ、数が多いだけあって今出てきた部屋に戻って扉を閉めて残り少ない家具で扉を塞いだ。それとほぼ同時にゾンビ達が扉を叩き始めた。
だが、玄関の扉と違ってあまり長くは持たないようだ。すでに蝶番(ちょうつがい)が壊れかかっている。
その時、リックが持っていたトランシーバーから通信が入った。

『リックさん、聞こえますか?こちらダンです』
「ダン、無事だったか!ああ、よく聞こえてるぞ」
『はい、ハワードさんが何とか食い止めているのでこっちは無事です。それで重要な事をお伝えします』
「なんだ?」
『2人は先にここを脱出してください。集合場所は新聞社ですが、場合によっては変更しますから注意してください』
「え?」

一瞬、ダンの言ったことがわからなかった。
いくらハワードでも防ぎきれる数ではない。銃声はもう階段からではなく、ほぼ真上の2階から聞こえてくる。それだけ押されているのだろう。
それなのに自分達だけ先に逃げろと言っているのだ。

『大丈夫です、こっちにはハワードさんがいますから』
「だが、どうやって逃げるんだ!?かなりの数のゾンビがいるんだぞ!?」
『こっちは2階ですから屋根を伝って逃げることができます。ですが、そちらはそうもいかないでしょう?』

確かにダンの言う通りだ。今も目の前で扉が軋みを上げており、もう持ちそうにない。だが今のうちに裏口から逃げてしまえば、ゾンビの足の速さから考えて十分逃げ切ることが出来る。

『もう一度言いますけど、こっちにはハワードさんがいますから大丈夫です。むしろそっちの2人の方が危険なのですから十分気をつけてください』
「わかった、ここで押し問答していても仕方がない。俺達は先に行かせてもらう。だが、約束してくれ」
『何ですか?』
「必ず生きて再会しよう。絶対だぞ?」
『わかりました、必ず』

通信を切り、ウェンに目配せをして裏口に向かった。念の為中から周りにゾンビがいないか確認したあと、まだ夜明け前の街に飛び出した。
何処に向かうかは決めていない。最終的には新聞社だが、今はゾンビから逃げる為にウェン達はひたすら走った。
どのくらい走っただろうか、気が付くとウェンはリックとはぐれてしまっていた。

「せ、先輩?何処っすか、先輩?」

一応呼んでみたが1人の上、迂闊に大声で叫ぶとゾンビに気づかれる可能性があるので必然的に声が小さくなる。当然ながら返事はなく、ただ遠くから犬の遠吠えが聞こえるだけであった。

(先輩はトランシーバーを持っているから皆に連絡が取れるけど、自分は持ってないから連絡が取れない。あぁ、どうすればいいんだ?)

周りを見渡しても特に珍しいものがある訳でもなく、夜明け前の薄暗く閑散とした風景が視界に入ってくるだけだった。唯一の救いは近くにゾンビがいないということだけである。

(今はとにかく新聞社に行こう。そうすれば誰かに会えるはず)

ウェンは武器を構え、頭の中にある地図を頼りに集合場所である新聞社へ向かおうとした瞬間、いきなり後ろから羽交い絞めにされて脇道へ連れ込まれた。

「音を立てるな」

小さな声で耳元で呟いて口を塞がれた。連れ込んだのはどうやら人間で声からして男のようだが、後ろから組み付かれているので確認できない。
抵抗しようとしたが、下手に動くと首の骨を折られそうな状態な上、音を立てるなと言われたのでおとなしく従うことにした。
しばらくすると、何かの音が聞こえてきた。

”ズシッ、ズシッ、ズシッ”

耳を澄まして聞くと靴音のようだが、やけに力強く重たげに響いてくる。そして段々とこちらに近づいてきているのがわかる。
それは数分もしないうちに耳を澄ませる必要のない程に近づいてきた。そして目の前の街灯の下に申し合わせたかのように止まり、姿がはっきりと浮かんだ。その姿はゾンビでも、ましてや人間でもなかった。
身長が2メートルはあり全身が黒衣に覆われて、首や肩付近になにやら紫色のパイプらしき物が見える。たったそれだけでも十分印象的だが、そいつの顔のほうがとても印象的だった。頭髪のない頭部から右側に向けて大きな手術痕があってそれにより右目がない。左目はあるようだがその色は白く、見えているのかわからない。そして唇のない剥き出しの歯からたった一言呟いた。

「S.T.A.R.S.……」

その声はまるで地の底から聞こえてきそうな声で、ウェンはそれを聞いた瞬間恐怖で体が震えた。
そいつはしばらく辺りを見回したあと、重たげな足音を残して何処かへ去っていった。
ウェンはそいつが去っていった後も震えが止まらなかった。

(人間じゃなかったし、ゾンビでもなかった。今のは一体何者なんだ?)
「ネメシスか。もう既に行動を開始していたか」

ウェンの疑問に答えるように後ろから声が聞こえた。音を立てるなと言った本人が声を出しているので、もう平気だと思って動こうとしたら自分がまだ組み付かれている事を思い出し、腕を叩いて放してもらうように講義する。

「ああ、悪かった。でも、念の為あまり大きな音や声を出すなよ」

その事に頷き、放してもらってようやく相手を見ることが出来た。
同じアメリカ人で40代くらいだろうか、何処となく威厳のある顔で頬には3本の切り傷が縦に走っていた。緑のタクティカルスーツの上から黒い多機能ベストを着て、右手には中折れ式のグレネードランチャーと背中にM4A1アサルトライフルを背負っている。腰には鉈(なた)のような2本の大型ナイフに1丁のハンドガンを装備していた。

「あなたは誰っすか?見たところ、軍人ぽいっすけど?」
「私はロイ・アンカース。キミのような一般市民を助ける為に投入された特殊部隊の者だ。キミの名前は?」
「あ、自分はウェン・リッヒマン。この街にある新聞社の新入り記者っす」

ウェンが新聞記者と名乗ったとき、一瞬だがロイの目が鋭くなったがすぐに元に戻った。

「そうか。それで、ウェンは1人だけなのか?」
「いえ、他にもいるっす。けど、ゾンビの大群に襲われて逃げている内にはぐれてしまって」
「何人だ?」
「えっと、一緒に行動していたのが4人。あと新聞社に怪我人を含めて4人。自分を含めて9人っす。本当はもう1人警官の人がいたんっすけど……」
「食われた、もしくはゾンビになったか。さて、残りが8人か。どうしたものか」

ロイは何か考えるように腕を組んで下を向いていたが、直ぐに顔を上げた。

「まずは新聞社にいる4人を保護するとしよう。場所、案内してくれるか?」
「それは構わないっすけど、はぐれてしまった人達を先に探さなくていいんっすか?」
「……悪いが居場所のわからない連中を探すよりも、わかってる連中を先に保護させてもらう」
「そんな!見殺しにするって言うんっすか?!」
「そうは言っていない。だが、現状では迂闊に動いて身を危険にさらすのは避けるべきだ。キミだってわかるはずだ」
「………」

確かにロイの言っている事は正しい。闇雲に探しても、お互い移動しているのだから行き違いになったりする可能性は大いにある。

「それに、投入されたのは何も私1人ではないのだ。他の誰かに助けてもらっている可能性だってある。だから、今は居場所のわかる奴から救助させてもらう」
「わかったっす。案内は任せてください。それによく考えれば、集合場所が新聞社にしてあるっすから皆そこを目指してるはずっす」
「なら、余計にそこへ行かなくてはな。では、頼む」

ウェンとロイは並んで新聞社への道を取った。


 同時刻 ダン、シェイル
「どう?連絡とれた?」
「……いや、2人とも応答がない。範囲内にいないみたいだ」
「まずいことに、見事にバラバラね」

ダンとシェイルは今、事故により動かなくなった大型バスの中に隠れていた。
ウェンとリックが裏口から出て行った後、残りのメンバーも窓から脱出し何とか逃げ出すことに成功していた。
だがこの辺り一帯のゾンビが集まってきたのか、外にもかなりの数のゾンビがいたのだ。ハワードが1番後ろに付き2人の援護をしながら一緒に逃げていたのだが、気が付いた時には既にはぐれてしまっていた。仕方なく何処かに隠れて連絡を取って合流しようとこのバスに隠れたのだ。

「過ぎたことは仕方ないさ。今は連絡を取り続けるしかないよ。それにしても、さっきは驚いたよ。曲がったらほとんど目の前にいたんだからさ」
「その割には、結構冷静に動いてたように見えたわよ?」
「うん、自分でもビックリだよ」

2人は途中で何度かゾンビに遭遇したが、ダンが不慣れながらも2丁のイングラムを使って撃退してきた。もっとも、撃退出来たのは遭遇したゾンビ達の数が少なかったのとマシンガンの連射力があってのことだと2人は考えていた。

「とりあえず、これからどうする?時間も1時間程しかないし」
「連絡がつかないなら自分達で戻るしかないじゃない?かなりのリスクを背負うけどね」
「だね。怪我人がいる以上、一刻も早く戻らなくちゃ」

空は未だ曇っているものの、少しずつ明るくなってきていた。2人は荷物の確認をし、確認後直ぐに新聞社へ向けて出発した。
だが、この時の2人は少々急ぎすぎていた。周りの安全確認を怠ってバスの外に出てしまい、ゾンビの大群がいたことに気づくのが遅れた。気づいた時には既に囲まれた状況だった。

「何だか、よく大群に出くわすのは気のせいかな?」
「本当ね。いっその事、全部が夢であってほしいわ」

その数は50体はいて、囲まれているので逃げ道は何処にもない。2人は武器を構えて撃つが、シェイルはうまく照準を合わせられずほとんど当たらない。ダンはこの状況に焦ってしまい頭を狙えず、肩や胸ばかりに当たってしまう。2〜3体倒した所で2人の銃は弾切れになり、急いでマガジンを交換しようとするが焦ってしまいなかなか入らない。
ゾンビ達はその間にも包囲を縮め、ほぼ目前に迫った時、横から連続してけたたましい音が聞こえて近くにいたゾンビが突然倒れた。
その音が鳴り響く度にゾンビ達が次々と倒れていき、2人はそれが銃声だと気づくのに遅れた。
視線を音のする方へ向けると、ちょうど2丁のMP5A5サブマシンガンを持った日系の男が路地から飛び出してきた。それに少し遅れてもう1人の男が飛び出してきた。こっちはアメリカ人のようで、手にM4A1アサルトライフルを持っている。
アメリカ人の方は出てきた路地入り口付近で止まり、左右にいるゾンビ達の頭部を正確に撃ち抜いていく。日系の男はそのままダン達の元まで一気に走り抜けてきて、反対側に回り込んでいたゾンビ達に弾幕を張った。

「ほら、早く俺の来たほうに逃げろ!」

流暢に英語を話し、自分が来た方向へ逃げるように促してきた。
2人はその言葉に従ってすぐに走り出した。一部のゾンビはそれに反応して襲ってこようとしたが、アメリカ人の射撃により頭部を撃ち抜かれてそれは出来なかった。
2人が路地に辿り着いたのを確認してアメリカ人が日系の男に声を掛けた。

「いいぞトオル!戻ってくるんだ!」
「OK!」

トオルと呼ばれた男は名前からして日本人のようだ。
トオルはまだ20体以上いるゾンビ達の間をすり抜けるように戻ってきた。

「よっしゃ!グレン、やっちまってくれ!」
「よし、2人を連れて離れていてくれ」

アメリカ人の男はグレンと言うらしい。
グレンは3人が路地に入ったのを確認してから手榴弾を取り出してピンを抜き、ちょうどゾンビ達の中心へ投げ込み、3人に遅れて路地へと入っていった。
数秒後、轟音を響かせて手榴弾が爆発した。
4人が路地から出てくると、ほとんどのゾンビが爆発で吹き飛んでいた。まだ4〜5体は生きていたが、ダメージはあるようでトオルとグレンがすぐに止めを刺した。
ゾンビに止めを刺した後、グレンが2人へ向き直った。

「まずは自己紹介といきたいが、まずはここを離れよう。今の音でまた群がってきても困るからな」

グレンの出した意見に従い、4人はすぐにこの場を離れていった。






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