十章 突然変異 後編 十章 突然変異 後編


十章 突然変異 後編




「おらおらおら!!」

 ディックが休む暇も無くリッカーに向けてトリガーを引く。
 しかし、G36Cから放たれた五.五六ミリ弾はリッカーに当たることなく、病室の壁に弾痕を刻む。
 リッカーはディックの放った弾丸を天井に向かって跳躍し華麗にかわすと、ディックに向かって突進する。

「ちっ!よく動く!」

 ディックは横に飛びリッカーの突進をかわすと、腰のホルスターからサムライエッジを取り出し、セーフティを外すと同時にリッカーに向けてトリガーを引く。
 サムライエッジから放たれた弾丸がリッカーの右前足を貫く。

「キシャァァァアア!!」

 リッカーはまた奇声を上げると、右前足で周囲を薙ぎ払う。

「ぐっ―――」

 リッカーの薙ぎ払った前足が地面に着地したばかりのディックを直撃し、ディックは病室の壁に叩きつけられた。

『ちょっと!ディック、大丈夫なの!?』
「うるせぇ、邪魔だから通信切るぞ」
『え!?ちょ―――――』

 ルナが心配してディックに通信を入れるが、ディックはそうルナに冷たく言い放つと一方的に通信を切った。
 そして、ゆっくりと顔を上げ、リッカーを睨みつける。

「お前なんかに時間かけてる暇じゃねぇんだよ!かかってこい!!」

 ディックが立ち上がりながら叫ぶと、リッカーはまた跳躍しその長い舌をディックに向けて伸ばしながら突進してきた。
 次の瞬間、ディックが自分に向かって伸びてきた長い舌を、右手で掴み腕を回転させて自ら右腕にリッカーの舌を巻きつけ、一気に引く。
 右前腕部に装着している強化樹脂製のアーマーが軋む。
 リッカーがさらに加速してディックに向かって突進してくるが、ディックは焦ることなく左手に持っているG36Cの銃口をリッカーに向ける。
 リッカーが前方からの引力に引かれ、わけもわからずうろたえると自分の口の中に暖かい金属が突き刺された事を認識し、驚愕する。
 が、次の瞬間そのリッカーの思考は停止する……

「こういう戦い方は普段はやらないんだがな―――」

 右腕に巻きつけた長い舌をほどきながら、粉々に吹き飛んだリッカーの頭部からG36Cを抜きディックが呟く。
 その時、ディックの右肩に粘着質の液体が滴り落ちる……

「おぃおぃ、嘘だろ?」

 ディックが反転し後ろに飛びながらG36Cの銃口を天井に向けトリガーを引く。
 が、G36Cはカチンと軽い金属音を立てただけだった。

「くそっ、こんな時に弾切れかよ……」

 地面に背中をぶつけながらディックが呟くと、それを狙っていたかのように天井から長い舌が物凄い速度でディック目掛けて射出される。
 そう、この部屋にはもう一体リッカーが潜んでいたのだ。

「くそったれが!」

 ディックは吐き捨てながら左手からG36Cを投げ捨てると、寝たまま左に転がりリッカーが射出した舌を避け、そのまま飛び上がる。
 ディックの頭があった位置にリッカーの長い舌が辺りにコンクリート片を撒き散らしながら突き刺さる。
 次の瞬間にはディックが、右手に持っていたサムライエッジを天井のリッカーに向けてポインティングしていた。
 リッカーの脳髄に小さい赤い点が浮かび上がる。
 しかし、サムライエッジから放たれた弾丸はリッカーに当たる事なく天井に弾痕を刻む。
 地面に着地したリッカーに向かってさらにサムライエッジのトリガーを引く。
 が、一発弾丸を放った後スライドは後退したまま停止した。

「また、弾切れか……」

 ディックは呟くとサムライエッジを床に置き両腿に両手を伸ばす。
 リッカーが弾切れしたのを見計らいまた高速で舌を撃ち出す。
 その舌がディックに届くよりも早くディックが両腿からトンファーを抜き取り、グリップを握り締めながら胸の前で両腕を交差させるように振り上げる。
 リッカーの長い舌は、舌先がディックの鼻の頭につきそうな位置まで伸びながらもその場で切断され地面に落ちる。

「キシャァァァアア!!」

 リッカーは奇声を上げながら舌を口の中に収め、ディックに向かって突進してくる。

「さっきから突っ込んでくるしか出来ないのか?」

 ディックが首を軽く捻りながら呟くと、リッカーの突進を空高く舞い避け、宙で体を回転させながらリッカーに背を向けた状態で地面に着地する。
 と、同時に右足を上げ左足を軸にその場で回転する。
 リッカーがすぐに体を反転させディックに向かって吼えた瞬間、リッカーの右頬に硬いコンバットブーツの踵がめり込み、そのままリッカーは病室の壁に叩きつけられる。
 壁に叩きつけたリッカーに向かって今度はディックが突進して行く。
 よろめきながら起き上がったリッカーが、自分に突進してくる獲物に向かって左腕を突き刺そうとする。

「遅いんだよっ!」

 ディックは突き出されたリッカーの左腕を跳躍し右足で踏みつけると、踏み込みさらに高く舞い上がる。
 しかし、リッカーは先端が切り落とされた舌をディックの左足に向けて伸ばした。

「しまっ―――」

 ディックが呟く。
 と、同時にリッカーはディックを壁に叩きつけ大きく振り上げると次は地面に向かってディックを振り下ろした。

「調子に乗るなよ!」
 
 壁に叩きつけられ、続いて地面に叩きつけられそうになっているディックは叫ぶと、右腕でしっかりと握っているトンファーの刃でリッカーの舌を半ばから切断。
 宙で反転しながら地面に左手をつきながら着地する。
 そして、しっかりとその鋭い眼差しをリッカーに向ける……

「キシャァァァアア!!」
「うぉぉぉおお!!」

 リッカーとディックが同時に叫びながらお互いに向かって突進していく。
 リッカーが前足を踏み込み宙に舞う。
 と、同時にディックも右足を踏み込みリッカーに向かって飛び込む。


「掃討完了。今から四人と合流する」
『ディック!?無事だったのね!いきなり通信が途切れるから……』
「悪い、俺から切った。心配させてすまなかったな」
『ううん、あなたが無事ならそれでいいの』

 ディックがルナに通信を入れルナの返信にうつむきながら答え、トンファーの刃を収納しトンファーを回転させながら腿のホルスターに収める。
 ディックの背後では、外部にあらわに露出した脳髄から大量の血液を噴き出しながら病室の床に倒れこむリッカーの姿があった。

「じゃあ、早くあいつらのところに行ってやらなきゃいけねぇから、また後で通信入れる」
『了解、無事だといいわね』
「あいつらなら心配いらない、俺が保障する」
 
 ディックは笑いながら答え、地面に置いていたサムライエッジを拾う。
 そして、サムライエッジに新しいマガジンを装填し、スライドを後退、前進させ初弾をチェンバーに送り込むとセーフティはかけずにホルスターに収める。
 次に、入り口付近に飛ばされたG36Cを拾うと新しいマガジンを装填し、しっかりと両手で構え非常階段の方へ向かって駆け出した―――――

「ディックさん、大丈夫かな?」

 松永が階段を駆け降りながら呟く……

「ディックなら俺達の何倍も強いんだから俺達が心配することじゃない」
「そりゃ、そうだけど――――」

 宮鍋が松永に答えながら全速力で階段を駆け降りる。

「くそ!こんな時にぃ!!」

 その時、布施が叫ぶ。
 非常階段の二階の踊り場に数体のゾンビが群がっていた。
 布施がすかさずベネリのトリガーを引き、フォアエンドをスライドさせる。
 ゾンビ達の頭部は吹き飛び辺りに臓物を撒き散らしながら地面に倒れこむ。
 が、次々と奥からゾンビ達が現れてきた。

「キリがない!ここは俺と布施が相手するから二人は先に駐車場まで行け!」
 
 宮鍋がデザートイーグルのトリガーを引きながら叫ぶ。

「でも!」
「貴史!俺たちが居ても邪魔なだけだ!早く行こう!」

 松永はそう叫ぶと細井の腕を引き、階段を一階に向かって駆け降りていった―――――

「あんな事言って大丈夫なのか?」
「さぁな?でも、殺るしかないだろっ」

 布施がベネリのトリガーをスライドさせながら宮鍋に訪ねる。
 宮鍋は苦笑いしながら答えるとゾンビの群れに向かってデザートイーグルを発砲する。
 二人の目の前には数十体のゾンビの群れがうごめいていた―――――


「バラバラになっちゃった」
「すぐに合流できるさ」

 力なく呟く細井に松永が励ますように言う。

「そうだよね、まず俺達がしっかりしなきゃ」
「そうそう、早く駐車場まで行っていつでも出発できるように準備しないと!」

 細井がすぐに大きな声で叫ぶ。
 二人が一階までたどり着き、玄関まで一気に駆け抜けようとした時、松永がその足を止める……

「翔平?どうしたの?」
「静かに……」

 細井が松永に尋ねると、松永は呟きながら吹き抜けになっている一階ロビーの天井、つまり二階の天井を指差した。

「リッカー!!」
「しかも、二匹」

 細井が叫び、松永がまた呟く。
 そこには、獲物を捕らえる為に待ち構えていたかのように二人に向かって長い舌を伸ばす二体のリッカーの姿があった。
 次の瞬間、二体のリッカーは天井から飛び降りて二人に向かって突進してきた。

「散れ!」
「ウェイ!」

 松永が叫び、右に飛ぶと細井が返事をし松永とは逆の方向へ飛びリッカー達の突進を避ける。
 地面に着地したリッカー達はそれぞれ二体の獲物に向かって走り出す。

「さっきみたいな無様な真似はしないっ!!」

 細井が叫びながらクルツを構えセレクターレバーをフルオートに合わせ、自分に突進してくるリッカーに向けてトリガーを引く。

「かかってこいよ」

 松永は呟きながら両足を開き腰を落とし、左手で鞘をしっかりと握り締め、右手をそっと柄に添える―――――
 クルツから放たれた無数の弾丸がリッカーに直撃する。
 が、リッカーの速度は衰えることなく細井に向かって突進し続ける。

「くそっ」

 細井はクルツのトリガーから指を離し、横に転がりながらリッカーを避ける。

「はぁぁぁぁ」

 ゆっくりと息を吐きながら松永は右足を前に踏み込みリッカーに向けて素早く抜刀する。
 切っ先がリッカーの頭部にめり込む。
 しかし、リッカーはすぐに突進を止め息の根を止めるまでには至らなかった。
 松永はすぐさま左足を素早く前に踏み込み、刃を反転させ刀を大きく振り上げる。
 しかし、リッカーは素早くバックステップで松永の斬撃をかわす。

「早いな――」
「まだまだぁ!!」

 松永が呟く。
 と、細井が雄叫びを上げながらクルツをリッカーに向けてトリガーを引く。
 リッカーはそれを横に飛びかわすと長い舌を細井の足に向けて伸ばす。

「!?」

 細井が気づいた時には右足にしっかりとリッカーの舌が巻きついていた。
 次の瞬間、細井の体は宙に舞う。

「くそっ!なめるなよっ」

 細井は叫ぶとクルツから手を離し腰のホルスターからサムライエッジを引き抜き、セーフティを解除しながら自分の右足に巻きついているリッカーの舌に銃口を突きつけ、トリガーを振り絞る。
 リッカーの舌はサムライエッジの銃口を突きつけられた位置からはじけ飛ぶ。

「キシャァァァアア!!」

 リッカーが奇声を上げながら長い舌を口の中に収める。
 と、同時に細井が地面に叩きつけられる。

「いってぇ……」

 細井が腰に手をやり呟いていると、リッカーがその隙を突き細井に向かって右腕の爪を伸ばす。
 が、細井はすかさずサムライエッジを胸に当て、リッカーの爪の直撃を防いだ。

「ぐぅっ―――」
 
 しかし、衝撃で細井は唸りながら受付のカウンターまで吹き飛ばされ、サムライエッジは細井の手から離れる。

「貴史!?」

 松永が細井に向かって叫び目の前の敵から注意を逸らすと、リッカーはすかさず松永に向かって左腕のその巨大な爪を伸ばす。

「しまっ……」

 それに気づいた松永が呟きながら刀を目の前で構えて直撃を防ごうとする。
 自然に柄を握る手に力が入る。
 その時、小さな音を立てて刀の刃が小さく震え出す。
 リッカーの爪が松永の顔面に直撃するまさにその瞬間、その巨大な爪は紙切れ同然に切り裂かれた。

「キシャアア!!」
 
 リッカーは短く声をあげるとバックステップで松永と距離をあける。

「これがHVブレードの力なのか?」
 
 松永は微振動を続けている刃を見ながら呟いた。

「これなら、勝てる!」

 松永はまた呟くと刀をしっかりと構え直しリッカーにその鋭い眼差しを向けた。

「ったくさっきからなんで俺ばっかこんな目に逢わないといけないんだよ!」

 細井が愚痴りながら立ち上がる。
 目の前にはリッカーの爪が迫っていた。

「何度も当たってたまるか!」

 細井は叫びながら横に転がり、それを避けながらクルツを構えるとリッカーに向けてトリガーを引く。
 リッカーを九ミリパラベラム弾の群れが襲う。
 その一発がリッカーの脳髄に直撃しリッカーがよろめく。

「殺った?」

 細井がその様子を見てクルツのトリガーから指を離す。
 と、リッカーの爪がまた襲ってきた。

「まだ生きてんの!?」

 細井は、バックステップでなんとかそれをかわすと、またクルツのトリガーを引く。
 次の瞬間軽い金属音を立ててクルツの動きが止まった。

「んで、弾切れかよ!」

 細井が叫びながら腰のホルスターへ手を伸ばした。

「あ、さっき落としたんだった!」

 腰のホルスターにあるべき物が無い事に気づき、細井は先程自分が叩きつけられた受付のカウンターまで走り出した。

「キシャアアア!!」

 リッカーが大きな咆哮を上げ松永に向かって突進してくる。

「これで終わりにしてやる……」

 松永は呟き、柄を両手でしっかりと握る。
 しかし、リッカーは松永に突進する前に、その長い舌をまた松永に向けて伸ばしてきた。
 松永の顔面にそれが突き刺さる寸前に松永は上半身を捻り、かわすと柄から左手を離し唾液で濡れた舌をしっかりと握り締める。
 強化樹脂製のアーマーと一体になっている合革製の頑丈なグローブにリッカーの舌が食い込む。

「捕まえた」

 松永はなおも突進を続けてくるリッカーに向けて呟くと、右腕だけで刀を振り上げた。
 リッカーが口を無防備に開いたまま松永に向かって走っていき、松永の目の前で右腕の爪を突き出す。

「遅い!」
 
 松永はそれを横に飛びかわすと、左手で掴んでいたリッカーの舌を突き出されたリッカーの右腕に巻きつけ左手を離す。
 と、リッカーの舌の表面にびっしりと並んでいるとげのような物がリッカーの腕に食い込み、血が噴き出す。
 リッカーは予想外の松永の行動に戸惑いながら巻きつけられ自分の血で赤く染まった舌を口の中に収める。
 が、次の瞬間目の前に白い閃光が走った。
 リッカーの頭部は真っ二つに切り裂かれ辺りに血液を撒き散らしながらその巨体は倒れた。

「貴史、使え!」

 松永は叫びながら、リッカーの攻撃を必死に避けながらカウンターに向かって走る細井に向かってサムライエッジを投げつける。

「ありがとっ!」

 細井は叫び、松永から投げ渡されたサムライエッジを受け取りながら、カウンターに向かって飛び込み自分のサムライエッジを掴む。

「これでも喰らえぇ!!」

 細井は二丁のサムライエッジをリッカーに向けて構えながらトリガーを振り絞った。
 二丁のサムライエッジから九ミリパラベラム弾が交互に射出され、正確にリッカーの巨体に命中していく。
 しかし、九ミリ程度の口径では効かないのか、リッカーは突進の速度を弱める気配はない……

「くそったれぇぇ!!」

 細井が叫びながら叫びながらひたすらサムライエッジのトリガーを引き続ける。
 が、片方のサムライエッジのスライドが後退まま動かなくなった。

「貴史!!」

 松永がそれを見て細井に向かって駆けていく。
 次の瞬間もう片方のサムライエッジから青い弾頭が、リッカーの剥き出しになった脳髄に向かって放たれる。
 そのサムライエッジは松永が細井に投げ渡した物だった。
 リッカーの脳髄に弾頭がのめり込む。
 と、同時にリッカーの頭部は粉々に吹き飛び細井の体の上にその巨体が力なく落ちてきた。

「貴史!大丈夫か!?」
「なんとか大丈夫だけど……」

 細井の元に駆けつけた松永が細井に手を伸ばしながら言う。
 
「あ、先にコイツをどかさなきゃな」

 細井の妙な返事に気づいた松永が、細井の上に横たわる大きな化け物の死体を見ながら言った。

「うん、ありがと」

 松永が死体をどかし、ゆっくりと立ち上がった細井が呟く。

「気にすんなっていつもの事だ。それよりも早く車まで行こう」
「ウェイ」

 松永が笑いながら言うと、細井がいつもと変わらぬ独特な返事をし、二人は駐車場へ向かって走り出した。

「邪魔なんだよっ!」

 布施がベネリを肩で構え、しっかりとゾンビ達の頭部に狙いを定めトリガーを引く。
 ゾンビ達は頭部を木っ端微塵に吹き飛ばされその場に倒れこむ……

「時間は稼いだ!そろそろ俺達も―――」

 宮鍋が布施に向かって叫びながら、一階へと続く階段へ足を伸ばそうとした時、宮鍋の動きが止まった。

「どうした!?」
「下からも来やがった!それも半端じゃない量だぞ!」
「挟まれたか」

 宮鍋の言葉を聞いた布施がフォアエンドをスライドさせながら呟く。

「二階の方が数が少ない、突破してそこの吹き抜けから飛び降りるぞ。二階なら死にはしないだろ?」
「賛成だ!」

 続いて布施が叫ぶと、一階から吹き抜けになっている場所に向かって走り出す。
 宮鍋は布施に向かって叫ぶと、目の前に迫っていたゾンビの一体に向けトリガーを引き、スライドが後退し動かなくなったのを確認すると、反転しマガジンを排出させながら布施の後に続く。

「どけっ!」

 布施がベネリを肩で構えたまま走り、目の前に群がるゾンビの群れの中央に向け発砲。
 布施の目の前のゾンビ達の頭部は次々と吹き飛び、群れが真ん中から切り開かれていく。
 その時、フォアエンドをスライドさせ連続してトリガーを引いた布施が呟く。

「切れやがった」

 布施が急いで腰のホルスターからサムライエッジを抜こうとすると、その隙を逃さず一体のゾンビが布施に喰らいつこうとする。
 が、次の瞬間そのゾンビは頭部の右半分と脳髄を撒き散らしながら倒れた。

「気をつけろよな!」

 宮鍋がデザートイーグルに新しいマガジンを込め、ゾンビの群れに向かってトリガーを振り絞りながら叫ぶ。

「わりぃ、助かった!」

 布施がそう言いながらサムライエッジを引き抜くとゾンビ達の眉間に向かってポインティングし、トリガーを引く。
 二人の通った後にはゾンビと化した人間達の屍の山が築かれていく。

「そこの角を曲がれば!」
「嫌な予感がするぜ―――」

 宮鍋がデザートイーグルに最後のマガジンを装填しながら叫び、布施がサムライエッジを腰に収めベネリに弾を込めながら呟く。
 二人が曲がり角を曲がった瞬間、愕然とする―――――
 吹き抜けになっている場所までの五メートルもない距離の間に、数え切れないほどのゾンビが群がっていた。

「ほら見ろ……」
「病院だからしかたないじゃん?」

 布施が宮鍋に向かって頭をゾンビ達の方向へ向かって少し振りながら呟き、宮鍋が苦笑いしながら布施に言う。

「よし!布施ついてこい!!」

 宮鍋は大きく息を吐くと布施に言いながらゾンビの群れに向かって駆け出した。

「おい、どうしたってんだよ!?」
「飛ぶぞぉ」
「はぁ?」

 布施が宮鍋の台詞に呆れながら、群れに向かって駆けていった宮鍋の方へ目をやると、そこには既に地面から足を離し宙に浮いている宮鍋の姿があった。

「マジかよ」

 布施が呟くと宮鍋の姿は一階へと消えていった……

「しゃあねぇ、行くか……」

 そう呟くとベネリから手を離し全速力で宮鍋の後を追い駆け出す。
 次の瞬間、布施の目の前にいたゾンビが頭部に強い衝撃を受け後ろに飛ばされる。

「邪魔だって言ってんだろっ」

 布施が目の前にいるゾンビ達に向かって、手当たり次第に拳を放つ。
 周りのゾンビ達を巻き込みながら、倒れていくゾンビを見届けると布施はそのゾンビ達を踏みつけなんとか吹き抜けになっている場所までたどり着いた。

「おい!先に行くなよ。ってか、こっから飛び降りるのか!?」

 布施が1階に無事に降り立ち、自分に向かって手を振っている宮鍋に対して言い放つ。

「そーだよー、軽い軽い、早く飛び降りろって」

 宮鍋が大きく手を頭の上で振りながら声を弾ませて言う。

「軽いってお前、無茶言うなよ」
「体が丈夫なのがお前の取り柄だろ?―――後ろ!」

 宮鍋が布施に叫び、布施が素早く振りむくと、そこには頭部を真っ赤に染め上げた一体のクリムゾンヘッドが布施に襲い掛かろうとしていた。

「クリムゾンヘッド!?」

 布施が叫ぶと、布施の目の前が真っ赤に染まる―――――

「布施っ!!」

 宮鍋が叫ぶが、布施からの返事はない……


「大丈夫そうだな、飛ぶぞ!」
 
 G36Cを構えていたディックが叫ぶと、布施の体を突き飛ばし、無理矢理一階に落とし、その後を追って自分も飛び降りた。
 布施は尻から大きな音を立て一階に落ち、ディックがしっかりと両足で着地する。

「いってぇ!!何しやがる!?」
「せっかく助けたのにそれはないんじゃないか?それと、これで顔拭け、その顔で迫られちゃたまったもんじゃない」

 布施がディックの襟元を掴みながら怒鳴ると、ディックが笑いながら布施にハンドタオルを手渡す。
 ディックに怒鳴る布施の顔は、クリムゾンヘッドの頭部から噴き出した脳髄と血液で真っ赤に染まっていた―――――

「確かに、俺でも漏らしそうだ」

 宮鍋が腹を抱えて笑う。
 布施はディックからハンドタオルを受け取ると、それで念入りに顔を拭きその場に投げ捨てながら言った。

「うるせぇ!それよりもさっさと行くぞ!」
「わかってるよ。ってリッカー!?」

 宮鍋が一階ロビーに横たわっている二体のリッカーに気づき叫ぶ。

「今ままで気づかなかったのか?宮鍋こそどっか抜けてんじゃね?」
「んな事言ってる場合か!」

 布施が宮鍋の肩を叩きながら言い、宮鍋が布施に向かって怒鳴る。

「よく、見ろもう死んでる。あの二人が殺ったんだろう。早く駐車場まで行くぞ」

 ディックが呟きながら二人を置いて駐車場に向かって走り出す。

「おい、待てよ!」
「やばい!ゾンビが追いついてきた!!」
「なに!?喋ってる暇じゃねぇな!!」

 宮鍋と布施がディックの後を追い、玄関の自動ドアを抜ける―――――

「見えた!ディックだよっ!」
「お、やっぱ無事だったか?」
 
 ワゴン車に乗り込み、エンジンをかけ運転席からじっと病院の正面玄関を気にしていた細井が叫び、松永が助手席の窓から外を覗く。

「おーい、ディックー!!」

 細井が窓から上半身を乗り出しディックに向かって手を振る。

「ふざけてる場合じゃないぞっ!後ろからゾンビが迫ってる!」
「ウェイ!」

 ディックが細井に向かって言いながらワゴン車の後部座席へ乗り込む。

「二人は!?」
「すぐに来る!」

 松永が後部座席へ身を乗り出しディックに尋ねると、間髪入れずにディックが返す。

「いた!二人も無事だよっ!」

 また、細井が叫ぶ。
 すると、病院の正面玄関から大量のクリムゾンヘッド達に追いかけられている二人の姿があった。

「なんでこいつら走れるんだ!?」
「細胞が活性化してるからだろ?説明聞いてなかったのか!!」
「お前こそ聞いてなかったのになんで知ってるんだよ!?」
「どうでもいい!走れ」
「んだと、てめぇ!!」

 宮鍋と布施が怒鳴りあいながら、ワゴン車に向かって一直線に走ってくる。

「二人共早くしろ!」

 ディックがG36Cを構え、布施の肩に手をかけようとしていたクリムゾンヘッドの眉間に向かってトリガーを引きながら叫ぶ。

「「言われなくてもっ!」」

 二人は同時に叫ぶとワゴン車に辿り着き後部座席に飛び乗る。

「タカフミ、出せ!」
「ウェイ!!」

 ディックが叫ぶと、細井が力いっぱいアクセルを踏み込み、
 少し重たいハンドルを切りながら、病院の駐車場を抜け出した―――――

「三人共、大丈夫?」
「なんとかな・・・」
「尻がいてぇ」
「鍛え方がたりないんじゃないのか?」

 松永が後部座席の三人に向かって言うと、三人はそれぞれ答え、自分の武器に弾を装填し出した。

「やべぇ、もう五発しか残ってない」

 宮鍋がマガジンを取り出し呟いた。

「今から県庁に向かうんだ。警官隊から貰え」

 布施が宮鍋に向かって言うと、サムライエッジのセーフティをかけ、腰のホルスターに収める。

「それまで何もなければな……」

 ディックが呟きG36Cのセーフティをゆっくりとかける―――――



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