十三章 乱戦 十三章 乱戦


十三章 乱戦





 兵士の喉元に喰らいついていたゾンビの眉間に三つの風穴が空く。
 ゾンビは兵士の喉の肉を喰い千切りながら地面に倒れこむ……

「うぁぁ――」

 喉の肉を喰い千切られた兵士は、喉を押さえながらゾンビに続いて地面に倒れこむ。
 が、すぐにその手は喉から離れ細かく痙攣し出す。
 しかし、その痙攣もすぐに止まった。
 すると、その兵士の眉間にも三つの風穴が空く。
 辺りに頭から飛び散った脳髄と喉から吹き出した血が広がっていく―――――

「あんた、なんで撃ったんだ!?」

 それを見ていた一人の兵士が金髪の男の襟元を掴みながら怒鳴る。

「俺の名前はディック、ディック=ブランだ。あんたらもわかってんだろ?ウィルスの感染経路ぐらいは、それに今はそれどころじゃないぞ!」

 ディックは兵士に言うと、片手でG36Cを構え兵士の後ろに迫っていたゾンビの眉間に五.五六ミリ弾を撃ち込む。

「わかってるさ、そんなこと……」

 ディックに言われた兵士はそう呟くと反転しM4を構える。

「よし、全員よく聞け!ゾンビを殺るには頭を狙え、それだけだ。頭以外に撃ち込んでも意味は無い。それとセレクターレバーはセミに合わせろ、無駄弾は絶対に使うな!スリーマンセルで行動し、お互いの背後を護りながら戦え!ゾンビの動きが鈍いからって絶対に油断するなよっ!!」
 
 ディックが兵士達に向かって叫ぶ。
 すると、兵士達は誰一人反論することなくディックの言う通りにM4のセレクターレバーをセミに合わせたのを確認し、三人一組になると、互いに背を合わせ円陣を組みしっかりとM4を構えた。

「やれば出来るじゃないか。さぁて、来るぞ!!」

 ディックは兵士達の動きに関心しながら呟き、視界に路地裏から溢れ出て来るゾンビの群れが入ると叫び、G36Cを群れに向かって構え、トリガーを引く―――――

「これでも喰らいやがれ!」
「屍共がぁ!!」

 それに続き兵士達もゾンビの群れに向かってM4の銃口を向け、次々とトリガーを引く。
 先頭に立っていたゾンビ達の眉間や肩や手足に次々と五.五六ミリ弾が撃ち込まれていく……
 撃たれた箇所から血や臓物を垂らしながらもゾンビ達は、ゆっくりと確実にディック達との距離を詰めていく。

「よっしゃぁ!」

 一人の兵士がガッツポーズを取りながら叫ぶ。
 兵士の目線の先には頭部から脳髄を垂らしながら地面に倒れこむゾンビの姿があった。
 しかし、そのゾンビが倒れても奥から次々と新しいゾンビ達が溢れてくる。

「いちいち喜んでる暇はないぞ!」

 ディックがマガジンを交換しながらその兵士に向かって叫ぶ。
 と、ディックの後頭部を強い衝撃が襲った。

「くそっ!こんな所にも!」

 ディックがマガジンを交換し終え反転すると、ディックの後頭部に体当たりを食らわし、空中で反転しながら地面に着地するゾンビ犬の姿があった。
 ディックは叫びながら腰のホルスターからサムライエッジを抜くと、素早くゾンビ犬の小さな頭部に向けてポインティングする。
 ゾンビ犬の眉間に赤い光点が浮かぶと同時に風穴が空き、ゾンビ犬は小さな頭を小刻みに震わせながら地面に倒れ動かなくなる。

「う、うわぁああ!!」

 その時、ディックの遥か後方で一人の兵士の叫び声が聞こえてきた。

「なんだこいつはぁ!!」
「警察犬が感染したに違いねぇ!!」

 周りにいた二人の兵士が叫びながら、一人の兵士の喉元に喰らいついているゾンビ犬に向けて、M4のトリガーを引く。
 M4から放たれた五.五六ミリ弾はゾンビ犬の胴体に次々と命中していく。
 ゾンビ犬は体を震わせながらも兵士の喉元からその大きな口を離そうとはしない。
 喰いつかれた兵士の顔から血の気が引き、真っ青になっていく……

「いい加減にしやがれぇ!!」

 弾を撃ちつくした兵士が、M4から手を離し右足で思い切りゾンビ犬の右脇腹を蹴り上げる。
 すると、ゾンビ犬は口に兵士の肉を銜えながら空高く舞う、次の瞬間ゾンビ犬の顔面に大きなコンバットナイフが突き刺さる。

「なんて野郎だ、これだけ撃ち込んでも動くなんて」

 地面に鈍い音を立てながら落ちたゾンビ犬の顔から、コンバットナイフを抜きながら呟いたのは横に居たもう一人の兵士だった。

「ったく、ホントに化け物だぜ」

 それを見ながら兵士は新しいマガジンを装填しながら呟く。
 と、右足に鋭い痛みが走った。

「くそっ―――」

 兵士が唸りながら下を見ると、そこには腹部から臓物を垂れ流し、下半身を引きずりながら自分の足に噛み付くゾンビの姿があった。
 それを見たもう一人の兵士が駆け寄ろうとするが、噛み付かれた兵士はそれを制止する。

「馬鹿野郎!後ろだぁ!!」

 言われた兵士が振り向くと、そこには今まさに喰らいつこうとせんばかりに口を大きく開いたゾンビの姿があった。
 兵士が慌てて新しいマガジンを装填していると、ゾンビの頭が吹き飛び辺りを真っ赤に染めながら地面に倒れた。

「俺はもうダメだ、後は任せたぜ」

 その兵士がまた振り向くと、そこには足元に噛み付いていたゾンビの頭を粉々に吹き飛ばし、続いて仲間に襲い掛かろうとしていたゾンビの頭を吹き飛ばし、まだ熱いその銃口を下から顎に当て呟く兵士の姿があった。

「おい、やめ―――」

 兵士が手を伸ばすが、次の瞬間M4から放たれた三発の五.五六ミリ弾が兵士の頭を打ち抜き、兵士は頭部を砕かれながら地面に倒れる―――――

「くそったれぇ!!」

 それを見た兵士は倒れた兵士の手からM4を取り、新しいマガジンを装填したM4と同時に両手で構え、振り向くとすぐそこまで迫っていたゾンビの群れに向かって乱射する。
 二つのM4から放たれた弾丸は次々とゾンビの腹部に命中していくが、ゾンビ達の動きが止まる事は無い。

「なんで止まらないんだよぉ!!」

 兵士が諦めかけた瞬間、後ろから別の兵士の声が聞こえてくる。

「伏せろ!」

 兵士は振り向きながら伏せると、後ろで大きな爆発音と眩いほどの閃光が走った。

「大丈夫か!?早くこっちへ!」

 兵士がM4に取り付けられているグレネードランチャーに榴弾を装填しながら言った。

「すまない、助かった!」

 兵士はそう言いながら立ち上がると助けてくれた兵士達の円陣に加わる。
 兵士の後ろには粉々に吹き飛んだゾンビの破片が散らばっていた。

「うわぁぁぁ、来るなぁ!!」

 兵士が自分の目の前にまで迫ったゾンビを見て錯乱しM4を所構わず乱射する。

「くそぉ、こんなのに勝てるわけねぇ!!うわぁぁ―――」
 
 目の前で仲間達が喰い殺されていく光景を見ながら兵士は叫び、M4を投げ捨てその場から逃げようとするが路地から出てきたゾンビに喉元に喰らいつかれその場に倒れる。

「一人殺られると、脆いな……」
『目の前で殺されていくなんて初めてだろうから無理もないわよ』

 一人仲間が殺られる度に大きな声を上げ、M4を乱射し出す兵士や武器を捨てて逃げ出そうとする兵士達を見ながらディックが呟き、ルナがそれに答える。

「ったく世話の焼ける連中だ。ショウヘイ達の方がよっぽどましだぜ?」
『そう、愚痴らないの、せっかく協力してくれてるんだから助けてあげて』
「あぁ、わかってるさ」

 ディックはルナに返事をすると空になったマガジンを取り出し、仮設テントの方へ向かって走り出した。

「おい!ここに五.五六ミリはあるか?」

 ディックが仮設テントの中に潜り込みながら叫ぶ。

「はい!弾ならここにたっぷりあります!!」
「よし、装弾終るまで外の連中を頼む!」

 兵士が慌てて返事をすると、ディックは滑るように座り、五.五六ミリ弾の入った箱を開けパウチから空になったG36Cのマガジンを取り出し、急いで弾を込め始める。
 松永はひたすら走り続けた、顔にコンクリート片が当たって擦り傷が出来ても気にせずに、走り続けていた。

「さっきの俺達とは違うぞ!!」

 松永は叫びながら右足を踏み込み、空高く舞い上がる。ハンターはそれを捕らえる為に上を見上げ跳躍しようとする。
 が、腹部に強烈な痛みを感じ前へ向き直す。

「へっ、何処見てやがる?」

 布施が少し笑いながらベネリのフォアエンドをスライドさせる。
 ハンターは、布施に狙いを変え腹部から臓物を垂れ流しながら突進しようと右足を前に出す。
 次の瞬間そのハンターの動きが止まった。

「二兎を追う者は一兎も得ず、だ」

 松永が刀を振るい刃に付いた血や臓物を払いながら呟く。
 ハンターの体は大きく二つに裂け、血を噴き出しながら左右に分かれながら地面に倒れこむ。
 と、その後ろからまたハンターが現れ松永に向かってその大きな爪を振り下ろしてきた。
 松永はそれを黙ってバックステップでかわす。
 攻撃を外したハンターが再度腕を振り上げると、その腕に無数の弾痕が刻まれ、一気に血が噴き出す。

「お前達の特徴や習性ぐらいお見通しだ!」

 細井がMP5を両手でしっかりと構えながら叫ぶ。

「よし、分かれて戦おう!その方が早く片付く!!」

 松永はそう叫ぶと、正面に居たハンターの顔面に刀を突き刺し素早く抜くと、群れへと駆け出す。

「任せろ!」
「ウェイ!」

 返事をしながら布施は左へ細井は右へと駆け出していく。
 布施は走りながらベネリをしっかりと構え銃口をハンターの群れへ向け、ゆっくりとトリガーを引く。
 しかし、ハンター達は散弾が自らの体に着弾する寸前に左右に散り華麗にそれをかわした。

「ふぅ、結構素早いんだな。近距離で確実に当てる、か」

 布施はそう呟きながらフォアエンドをスライドさせ、空の薬莢を排出させる。
 先頭に立っていたハンターが、右腕を走ってくる布施に向かって振り下ろす。
 が、その獲物を狩る為に進化した巨大な爪は獲物を狩る事無く、コンクリートの地面をえぐる。

「早いけど、当たらねぇよ」

 爪を横にかわした布施は呟きながらハンターの右腕に乗り、その上を駆けていく。
 ハンターが素早く右腕を横に払うが、その時には既に布施は腕の上にはいなかった。
 布施は空中で反転しながら片手でベネリの銃口をハンターの後頭部へ突きつけ、トリガーを引く、と同時に布施の右腕に強い衝撃が加わる。
 銃口を突きつけられたハンターの頭部は粉々に砕け、布施が地面に着地し、フォアエンドをスライドさせると同時に地面に倒れこんだ。

「どうした?かかってこいよ!」

 気のせいか後ずさりしたように見えたハンター達に向かって布施が挑発するように言った。
 すると、ハンター達が一斉に布施に向かって突進してくる。
 一体目のハンターが布施に向かって左腕を振り下ろす、布施はそれを横に身をそらして、ギリギリの所で回避するとベネリをハンターの腹部に突きつけトリガーを引く。
 ハンターの腹部は吹き飛び、ハンターが布施に向かって倒れこんでくる。
 布施は倒れてきたハンターを左腕で支え右手で握っていたベネリを空中に投げ、フォアエンドを掴むとそのままスライドさせ、再度空中に投げ次はグリップを握る。
 そして、右に迫ったハンターの頭部に狙いを定めトリガーを引き、左から迫ったハンターに向かって
 支えていたハンターの体を投げつける。右から迫ったハンターは頭部を砕かれ地面に倒れこみ、左から迫ったハンターは仲間の死体のせいで動きが止まる。
 ハンターは味方の死体を振りほどき布施に向かって再度突進しようとする。
 が、次の瞬間にはハンターの思考は停止していた……

「よし、こっちは片付いた。細井の援護にでも回るか」

 布施はベネリに新しいショットシェルを装填しながら呟くと、細井の走っていった方へ向かって歩きだした。

「武田ぁ!!」
 
 1人の警官が叫ぶ、そこはまさしく地獄だった。街から溢れ出てくる生ける屍足達の群れ、それに向かって発砲する警官達・・・・・・
 しかし、日本の警官が装備しているニューナンブなどではたとえ頭部に命中しても生ける屍の行動を止めるのは容易ではない。
 そして警官達は次々と生ける屍達に捕食されていく・・・・・・

「くそぉ!俺達のリボルバーじゃ全然効かねぇじゃねぇか!!」
「真田さん!こっちにもゾンビ達が回り込んできました!」
「ちっ!所長が来るまで一時後退するぞっ!退け!」

 若い警官が、愚痴りながらニューナンブのトリガーを振り絞っていた《真田 一蹴》というこの検問所の責任者に向かって叫ぶと真田は各々に散らばり応戦していた警官達に向かって叫ぶ。
 が、全員、ゾンビ達に銃弾を浴びせるのに必死で真田の声が耳に入っていない様子だった。

「所長、いやせめて援軍だけでも来てくれれば……」

 真田がうつむきながら呟くと、後ろの方からエンジンの駆動音が聞こえてきた。

「どけどけぇ!」

 芳和は叫びながら白バイから飛び降りると、そのまま白バイをゾンビの群れの中心へ向かって滑り込ませ白バイが群れの中心と接触するのを見計らい、着地と同時にMP5を白バイのガソリンタンクに向け発砲する。
 MP5から放たれた九ミリパラベラム弾の群れは次々とガソリンタンクへ命中していく、すると、十発程ガソリンタンクに着弾した辺りで大きな爆音と共に白バイは爆発、炎上した。
 周りに居た大量のゾンビ達はバラバラに吹き飛び、燃え上がり、力尽き次々と地面に倒れこんでいく。

「真田ぁ、よくやった!これから指揮は俺が取る!」

 芳和はそう真田に向かって叫びながら燃え盛るゾンビの眉間に向けて銃弾を放つ。

「しょ、司令!来てくれたんですか!」

 真田が嬉しそうに声を弾ませ芳和に向かって叫ぶ。

「パトカーはそっちとあそこの路地につけろ!道を塞ぐんだ!俺達は正面から来るゾンビ達を蹴散らすぞ!」

 芳和がそう叫ぶと、芳和の白バイのあとをつけてきたパトカーの群れが、次々と小さな路地を塞いでいく。
 道を塞いだパトカーから警官たちが飛び降りると、そのままパトカーを盾にして、路地から出てくるゾンビ達に向かって《S.A.T.》から借りてきたMP5を構えトリガーを引く。
 一番最後に来た装甲車の中から警官たちが一斉に降り地面に片膝をつきしっかりとMP5を固定すると、大きく開かれた道路から迫ってくるゾンビの群れに向かってトリガーを引いていく。
 芳和は全員が指示通りに動いているのを確認し、自分が持っていたMP5を真田に向かって投げつける。

「真田はそれ使え、リボルバーだけでよくやったな」
「え!?しかし、司令は?」

 真田が慌てながらもMP5を受け取り芳和に尋ねる。

「俺にはこっちがあるから大丈夫だ、他にもあっちの装甲車の中に銃器は山程積んであるぞ」
「え、そんなもの一体どこで?」
「なぁに、《S.T.A.R.S.》の連中が土産に置いていってくれただけだ。それよりも、さっさと片付けちまうぞ!」

 芳和は真田との会話を早々と切り上げると正面から大量に歩み寄ってくるゾンビ達に向かって、構えていたフランキスパス12の銃口を向け次々とトリガーを引き、フォアエンドをスライドさせていく。
 それを横目に見ながら真田も受け取ったMP5を構え、フルオートでゾンビの群れに向かってトリガーを振り絞る。
 二つの銃口から放たれた弾丸の雨がゾンビ達の頭部に降り注いでいき、ゾンビ達は次々と力尽き地面に倒れこんでいく……

「ほぅ、真田ぁ、よくやるじゃないか」

 芳和が真田の射撃の腕に関心しながらスパスに新しいショットシェルを装填していく。

「いやいや、司令の腕には敵いませんよ」

 真田は少し照れながら呟くと、空になったマガジンをゾンビに向かって投げつけ新しいマガジンを素早く装填し、また銃弾をばら撒く。

「グレネードっ!!」

 その時、一人の警官の大きな叫び声が聞こえた。

「伏せろ!」
「はい!?」

 芳和が叫びながら真田の方を押さえつけ、無理矢理地面に伏せさせ、真田がわけもわからずに返事をすると同時に、小さな路地の方で爆音と共に大きな爆炎が立ち上る。
 真田が音のした方へ顔を向けると、粉々に吹き飛んだゾンビや体中が炎に包まれているゾンビの姿があった。

「グレネードランチャーまであるんですか!?」
「あぁ、それぐらいの火力がないとゾンビの群れは殲滅できないぞ、と言われたもんでな」

 真田が立ち上がりながら芳和に尋ね、芳和も続いて立ち上がりながら答える。

「司令!あっちのゾンビは九割殲滅完了ですっ」

 炎に包まれている路地の方から一人の警官が芳和に向かって走りながら叫ぶ。

「よし、最後の仕上げは後だ、こっちの援護に回ってくれっ」

 芳和がその警官に向かって言うと、警官は路地の方でMP5に新しいマガジンを装填している警官達に向かって右手で手招きをし、すぐに芳和達の戦線に加わる。

「これならすぐに片付きそうだな……」

 次々と銃弾の雨の中に倒れていくゾンビ達を見ながら芳和が誰にも聞こえないような声で呟いた―――――


「―――――五、六匹か」
 
 松永はハンターの群れに向かって駆けながら冷静に獲物の数を数えていた。
 松永のその鋭い眼差しはデパートでハンターと対峙した時とはまったく別のものであった。
 デパートの時には狩られる者だったが今は確実に狩る者へと変貌していた……
 先頭に立っていた一体がその大きな右腕を松永に向かって目にも止まらぬ速さで振り下ろす。
 が、松永がそれよりも更に速く刀を両手でしっかりと握しりめ地面に対して垂直にその白刃を振り下ろした。
 一瞬、眩い閃光が走り、ハンターの右腕は竹を割ったように綺麗に真っ二つに両断されていた。

「グワァァァ!!」

 ハンターはあまりの激痛に耐え切れず大きな口を開け叫び声をあげる。
 松永はその隙を逃さず、左手の親指と人差し指の間に刃を乗せ、ハンターの喉に向かって刀を一直線に向けると右手を強く握り締め思い切りなおかつ素早く押し込む。
 次の瞬間、刀はハンターの喉から入り、後頭部から突き出て、綺麗にハンターの頭部を貫通した。

「牙突……漫画見たときから色々真似てたけど、まさか真剣で、しかも化け物相手にやることになるとは……」

 松永は一人呟きながら刀を引き抜き、刃にまとわりついた血液と脳髄を振り払う。
 と、松永が気配に気づき顔を上げた瞬間には目の前までハンターが迫っていた。

「へぇ、速いじゃん?」

 松永は少し感心しながら刀を強く握り締めると、右足を倒れたハンターの頭に乗せしっかりと踏み込む。
 ハンターの固い頭蓋骨が軋む程踏み込んだ右足を一気に開放し、松永は天高く舞い上がった。
 視界から消えた獲物を必死にハンターが捕らえようとし、辺りを見渡しやっと天に舞った松永を捕らえたがその時には既に松永はハンターに向かって落下を始めていた。
 松永は落下が始まると同時に左手で腰からサムライエッジを引き抜き、ハンターの頭部に向かってポインティングし、戸惑うことなくトリガーを連続して引く。
 乾いた銃声と共にサムライエッジの銃口から九ミリパラベラム弾が射出され、スライドは後退し空の薬莢を排出する。
 放たれた九ミリパラベラム弾は吸い込まれるようにハンターの頭部へと命中していき、まだ熱い空の薬莢がハンターの大きな体に降り注いでいく。
 そして、サムライエッジのスライドが後退したまま動かなくなると、同時に松永はハンターの大きな肩に両足を広げて着地し、右手の掌の上で刀を反転させ逆手に持ち目にも止まらぬ速度でハンターの穴だらけになった頭部に止めの一撃を喰らわす。
 刀は刃の根元までしっかりと突き刺さりハンターの背骨に峰をあてながら腰の辺りまで貫いていた。
 松永はそれをあえて引き抜かずにそのまま刀で半円を描くように持ち上げ、ハンターの腹を大きく切り開く。
 ハンターは腹と頭から大量の血液を撒き散らしながらその場に倒れこむ。
 松永はハンターが倒れる前に肩から飛び降り、サムライエッジから空のマガジンを取り出し、スライドを口で咥えパウチから予備のマガジンを取り出し、装填するとそのまま首を捻り、スライドを前進させ初弾をチェンバーに送り込みながら、右手ではしっかりと刀を構え直した。

「グワァァァ!!」

 仲間が一瞬の間に二体も殺られてしまったのに愕然としながらもハンター達が怒りの咆哮を上げながら一斉に松永に向かって駆け出した。

「そうこなくっちゃ!」

 松永は弾んだ声で叫びながらサムライエッジを一体のハンターの眉間に向かって構え、トリガーを引いていく。
 しっかりと眉間に着弾しているにもかかわらず、ハンターはいっこうにその突進の速度を緩める様子はない……

「ほぉ、仲間が殺られて怒ってんのか?でも、俺も仲間を護らないといけないんでねっ」

 松永は首を捻り呟くと、サムライエッジを腰のホルスターに収め、刀を右手から左手に持ち替え左から迫ったハンターの腹部に向けて刃を上に向けて突き刺し、そのまま一気に振り上げる。
 ハンターは腹部から体を二分され大量の血液と艶かしい色をした臓物を撒き散らしながら倒れる。
 と、同時に松永は宮鍋から受け取ったデザートイーグルを太腿のホルスターから一気に引き抜き、正面から頭部から血を垂れ流しながら突進してくるハンターに向かって素早くポインティングし、ゆっくりとトリガーを引く。
 大きな発砲音と共に50AE弾がデザートイーグルの銃口から放たれ、デザートイーグルのスライドは後退し、空の薬莢を排出し松永の右腕を鋭い反動が襲う。

「くぅぅ、効くねぇ〜」

 松永デザートイーグルを持った右腕を軽く振りながら言うと、目の前にまで迫っていたハンターが、粉々に吹き飛んだ頭部から真っ赤な血を噴水の様に噴き出しながら地面に倒れこんだ。

「あとは二匹だけか」

 松永が呟くと同時に残った二体のハンターが左右から同時に松永に向かって飛び掛ってきた。
 松永は焦らずに素早く首を左右に振りハンター達との距離を測り、まず右側のハンターに向かってデザートイーグルを構えトリガーを引く。
 その弾が着弾する前に左に振り向き左手だけで刀を構えまた地面に対して垂直にかつ素早く振り下ろす。
 右側から迫ったハンターの頭部が吹き飛び、左側から迫ったハンターの体が綺麗に両断されるのは同時だった。
 六体のハンター達は健闘虚しく、一人たたずむ狩人に狩られ永遠にその眼を開く事はなかった―――――
 ハンターの体に蜂の巣のように無数の弾痕が刻まれていく……
 その弾痕からは鮮やかな色をした赤い液体が噴き出し、辺り一帯を真紅に染めていく。
 細井は二丁のMP5をしっかりと構えフルオートで小さな弾丸をハンターに向かって射出していた。

「やっぱりこの口径じゃ致命傷には中々ならないねぇ」

 細井は呟き、MP5が弾切れを起こしたのを確認すると、手を離し腰からサムライエッジを引き抜くとしっかりと右手で握り締めながら血を噴き出しているハンターに向かって走り出す。

「キシャァァ!!」

 ハンターが自分に向かって走ってくる馬鹿な獲物に向かって自慢の爪を素早く振り下ろす。
 しかし、細井はその爪を上半身を捻り交わすと、前転しハンターの目の前で立ち上がると同時に、ハンターの喉にサムライエッジの銃口を突きつけ、連続してトリガーを引く。
 サムライエッジの銃口から放たれた九ミリパラベラム弾は次々とハンターの脳天を貫き、辺りに脳髄を撒き散らしていく。
 そして、サムライエッジのスライドが後退したまま弾切れを細井に知らせると同時にハンターはその巨体を己の体から噴き出した血の海に沈める……

「ほら、俺だってやる時はやるんだ」

 細井は独り言を言いながらサムライエッジに新しいマガジンを装填し、初弾をチェンバーに送り込むと腰のホルスターに収め、入れ替わりにMP5に新しいマガジンを装填していく。
 一つ目のMP5に新しいマガジンを装填し終え、二つ目のMP5に手をかけた瞬間、細井の後ろで大きな声が聞こえた。

「少年!伏せろ!!」

 細井がその声に反応し、素早く振り向きながらその場に伏せると、その視線の先には肩にRPG7を担いだ竹中と充実の姿があった。

「よし、撃てぇ!!」

 充実が叫ぶと、竹中がRPG7のトリガーをゆっくりと引く。
 すると、RPG7から真っ白な煙を上げながら一発の砲弾が細井のすぐ近くにまで迫っていた三体のハンターの群れへと向かって直進する。
 そして、砲弾が一体のハンターに着弾すると同時に凄まじい爆音と豪炎が辺りを包んだ。

「うひょー、すげぇ威力だ……」

 細井がその光景を見ながら呟き、ゆっくりと立ち上がる。

「君は、確か細井君だったね?大丈夫だったかい?」
「えぇ、細井貴史ディス!助かりました、ありがとうございます」

 充実が細井に歩み寄りながら優しい口調で尋ね、細井はMP5に新しいマガジンを装填しながら答える。

「これで、こちら側の化け物は全て退治した、県庁の方へ戻ってディック君の応援に回ろうか?」

 充実が細井にまた尋ねる。

「ウェイ!俺がやれば出来るってのをディックに見せてやらないとっ!!」

 細井は大きな声で言うと、充実が制止するのも聞かずに一人で県庁の方に群がっているゾンビの群れに向かって駆け出した―――――

「くそぉ!!こいつらいくら撃ってもキリがねぇ!!」
 
 宮鍋が叫びながら細井が投げ捨てて行ったクルツを片手で群がってくるゾンビ達の群れに向かってトリガーを引いていた。
 ストックも何もないクルツを片手で撃つのは照準がぶれてしまい命中することは滅多にない。
 しかしデザートイーグルでさえ片手で扱える宮鍋にとってはクルツの反動はどうということはなく、確実にゾンビの眉間にその弾丸は命中していった。

「指揮官が愚痴ってちゃぁ、下の連中はついてこないぜ?」

 宮鍋の横でMP5R.A.S.を構えながらゾンビに向かってトリガーを引いている、《S.A.T.》の隊長《近藤 武》が言う。

「わかってますよ、ってかそれなら近藤さんが指揮とってくださいよっ」
「芳和はお前に頼んだんだ、お前が責任持ってしっかりやりな」

 宮鍋が近藤に向かって言うと、近藤は笑いながら宮鍋に言い、新しいマガジンを装填する。

「うわぁぁあ!!」

 次の瞬間、二人の後ろで叫び声が聞こえた。
 二人が素早く同時に振り向くと、そこには獲物を狩る狩人の姿があった……

「あれがハンターって奴かっ」
「ちょっ、近藤さん!!」

 近藤がハンターを睨みつけながら走り出し、宮鍋が近藤のあとを慌てて追う。

「お前らは下がれぇ!!」
「隊長!?」

 ハンターに向かって隊員達がMP5を乱射していると、近藤が叫び一人、的確にハンターの眉間に銃弾を浴びせる。
 すると、ハンターは近藤へ向かって突進しようとしたが、その前に力尽き、その場に倒れこんだ。

「さすが隊長ですねっ」

 一人の隊員が近藤に向かって歩み寄りながら言う。

「気を抜いてる場合じゃないぞっ!」

 宮鍋の怒声と共にクルツの乾いた大きな銃声が聞こえ隊員の後ろで一体のゾンビが倒れこんだ……

「すいません……」
「謝ってる暇があったら撃って!」
「その通りだ!!この本陣は死んでも護れよ!」

 隊員が宮鍋に向かって謝ると、宮鍋が怒鳴り、それに続いて近藤が大きな声で言い、すぐそこまで迫っていたゾンビの群れに向かってトリガーを引いていく。
 警官隊と自衛隊を襲った膨大な数のゾンビの群れも少しずつではあったが確実にその数を減らしつつあった―――――



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