十五章 暴君


十五章 暴君




「―――――やっとこれだけになったか」

 ディックがG36Cを構えトリガーを振り絞りながら呟く。
 陸上自衛隊とディック達が、県庁前の広い道路で円陣を組み、近寄ってくる全てのゾンビに対して弾丸の雨を降らせそこに屍の山を築いていた。
 その群がるゾンビの数も残りわずかとなり、自衛隊員の中に気を抜く者が出始めた時、ディックや細井達の反対側の地面に倒れたゾンビ達が、一斉に起き上がり、目の前に立っていた気を抜いている自衛隊員に喰らいつく。
 
「うわ―――」
「なんだこいつら!?蘇りやがった!」

 自衛隊員はそのあっという間の出来事に対処できずに次々とクリムゾンヘッドに捕食されていく。

「嘘でしょ?こんな所にもクリムゾンヘッドが!!」

 細井が振り返り、MP5を両手に持ち、トリガーを振り絞り、クリムゾンヘッドの群れへ向けて弾丸を放つ。
 細胞が活性化し、身体能力が飛躍的に向上したクリムゾンヘッドにはその小さな弾丸では頭部を狙わない限り、致命傷は与えられなかった。
 細井がそれを確認し、MP5を両手で構え直し、一体のクリムゾンヘッドの頭部に向けて照準を合わせた時、一人の男の声が辺りに響く。

「伏せろっ!」

 その声を聞いた細井が声の主を確認し、素早く地面に伏せる。
 それに続いて近くにいた自衛隊員も伏せていく。
 ディック達は、それも気にせずひたすらゾンビ達に向けて弾丸を放つ。
 間もなく、大きな爆発音と共にクリムゾンヘッドの群れは爆炎に包まれた。

「焼夷弾?何処の連中だ?」

 ディックが呟きながら後ろを振り向くと、そこには様々な国の様々な種類の銃火器で武装した警官隊が並んでいた。
 その先頭には一組の親子が立っている。

「援護に来た!こっちは我々に任せろ!」

 芳和が叫びながら円陣に向かって駆け出すと、その後ろから警官隊が続き、円陣に加わり、残りわずかになったゾンビ達に向かって素早く、かつ正確に弾丸を撃ち込んでいく。
 
「よう、細井、また会ったな」
「有輝さん!ありがとうございます」

 細井の横に陣取った宮鍋が細井に言うと、細井は大きな声で宮鍋に礼を言う。

「んなこたぁ、どうでもいいんだけどよ、これ、お前がディックから貰ったんだろ?もっと大事にしろよな」

 宮鍋が呆れながら言うと、手にしていたクルツを細井に手渡す。

「あ、申し訳ないです、じゃあこっちは有輝さんが……」

 細井はうつむきながらクルツを受け取ると持っていたMP5A5を宮鍋に手渡した。
 宮鍋はMP5A5を受け取ると、素早くゾンビに向けてサイティングし、トリガーを引く。

「まさか、警官隊が応援に来てくれるとは思わなかったよ」

 充実が隣にいた芳和に語りかける。

「ほぉ、あんたが陸自の司令官か、宮鍋芳和だ。よろしく頼む。過ぎた事は言ってても始まらない、問題はこれからでしょう?」
「いや、しかし我々は……」
「同じ人間同士だ、仲良くやりましょうや」

 充実が芳和への返答に戸惑っていると、芳和が呟き、ゾンビに向かって散弾を放っていく。
 
「これで最後だっ!」

 それから間もなく、細井が叫びながら一体のゾンビの頭部に九ミリ弾を打ち込み、ガッツポーズを取る。
 細井の声を聞いた陸上自衛隊や、警官隊、の隊員たちが地面に座り込んでいく。
 円陣の中央では、細井、ディック、芳和、宮鍋、充実、竹中の六人が各々の武器に弾薬を装填している。

「君達はこれから県庁の中へ行くんだろう?我々も援護するよ……」
「俺達警官隊はここで県庁にゾンビが入らないように待機する」

 充実が口を開くと、それに続いて芳和が言った。

「はい、二人が合流したらすぐに乗り込みます。ヨシカズさん達はここで待機、ジュウジツさん達も待機していてください」
「私達じゃ力不足かね?」
「力があるこそ、ここで護っていただきたいんですよ」

 ディックが答えると充実が呟き、ディックが充実の肩を叩きながら言った。 

「君達がそう言うならしかたあるまい……」
「しかし、弾薬もあまり多くはありませんよ?」
「竹中、すぐに彼らが決着をつけてくれるのだから、心配はいらんだろ」

 充実がディックの顔を見ながらまた呟くと、横から竹中の震えた声が聞こえる。
 充実は自信満々な表情を浮かべ、ディックを見ながら竹中に向かって言う。

「まぁ、そういう事ですね」
「「ディック!」」

 ディックが苦笑いしながら答えると、装弾を終え大人達の会話に入れずに辺りを警戒していた宮鍋と細井が同時に叫ぶ。
 その声に反応した四人が銃を構え次々と起き上がるゾンビ達に向けてサイティングする。

「こいつら、全部クリムゾンヘッド」
「全員、早く迎撃だ!」

 ディックが呟き、芳和が叫ぶ。
 しかし、クリムゾンヘッドの動きは素早く、円陣の端にいた隊員達のほとんどが捕食され、隊員の半分は動けなくなってしまった。

「さっきからこいつらは一体なんなんだ!」

 一人の隊員が立ち上がりながらクリムゾンヘッドの腹部へ向けてM4を乱射する。
 が、クリムゾンヘッドの勢いは止まること無く、隊員の喉に喰らいつこうとする。

「うわぁぁ!!」

 隊員が叫びながらM4を手放し、手を顔の前で交差させる。
 次の瞬間、血潮を噴き出しながら倒れたのはクリムゾンヘッドの方だった。

「本職のあんたらが高校生のガキに助けられてどうするよ?」 

 布施がフォアエンドをスライドさせながらあきれた顔で隊員に向かって言う。
 その時、布施の後ろに立っていたクリムゾンヘッドの頭が胴体から離れ、鈍い音を立てながら地面に落ちる。

「布施、あまり調子に乗るなよ」

 松永が刀を鞘に収め、地面に落ちたM4を隊員に手渡しながら言った。

「やっと、合流か、通信ぐらい入れろっての……何の為のインカムだ」
『合流できたからいいじゃない』
「お前なぁ、通信の仕方ぐらい教えてやれよ」
『ちょっと調べ物があってね』
「調べ物?」

 二人を見ながらディックが呟くと、インカムからルナの声が聞こえてくる。

「翔平!布施もっ!何やってたんだよっ」
「リッカーを一匹狩ってきた所だ」
「え!?」

 細井が布施と松永に近寄りながら、大きな声で話しかける。
 布施がクリムゾンヘッドの頭部に散弾を撃ち込みながら呟くと、細井が驚く。

「貴史、驚いてるのはあと、先にこいつら片付けるよ!」

 松永が細井に言うと、刀を抜きクリムゾンヘッドの群れへ向かって駆け出した。

「ちょっと!翔平!」

 細井が叫びながら松永のあとを追おうとすると、布施が細井を制止する。

「見てろって、あいつの実力を……」

 布施が呟く。
 松永は二人の事など気にもせずクリムゾンヘッドの群れに向かって飛ぶ。
 群れの中心に降り立った瞬間、刀を振り、クリムゾンヘッド達の頭部を胴体から切り離す。
 そのクリムゾンヘッドが地面に倒れこむ前に、次の獲物に向かって駆け出す。

「翔平、いつの間にあんな風に?」
「さぁ?さっきも変な化け物を一匹殺ったみたいだぜ」
「化け物?」
「あいつが言うには俺らの学校を襲った奴らしい、右肩から刃のついた腕が伸びてたんだとよ」
「そうなんだ……」

 細井が松永の動きに驚きながらも、冷静にクリムゾンヘッドの頭部へ九ミリ弾を撃ち込みながら呟く。
 布施も細井と会話しながら、次々とクリムゾンヘッドを地面に沈めていく―――――

「お前らいつからそんなに動けるようになったんだ?」
「俺は元から……」
「俺だって最初から強かったディス!」

 宮鍋がマガジンを交換しながら二人に話しかける。
 布施がショットシェルをベネリに装填しながら呟くと、その横で細井が慌てながら叫ぶ。
 その光景を見ながら四人の大人達は声を揃えて呟く。

「「最近の子どもは恐ろしい」」

 四人の子ども達が蘇ったクリムゾンヘッド達すらあらかた始末し終え、残りわずかとなったクリムゾンヘッド達の始末を隊員達に任せ、道路の中央に陣取り、その場に座る。
 
「さて、これから県庁に乗り込むって大仕事が残ってるんだけど」
「けど?どうかしたの?」

 松永が呟き、細井が尋ねる。

「ちょっち、気になることがあってね、俺らの学校を襲った奴のこと」
「あの、右腕から刃が生えてる化け物だろ?」

 松永が細井に向かって言うと、横から布施が割って入る。

「俺には、関係なさそうな話だから、親父の所にいってくら」

 宮鍋は笑いながら言うと、クリムゾンヘッドを駆逐している芳和に向かって駆けて行った。

「有輝の奴どうしたんだろ?まぁ、いいや、それで俺達の学校を襲ったかもしれない奴なんだけど、もしかしたらアンブレラの化け物じゃないかも」
「どういう事だそりゃ?」

 松永は有輝の行動を気にしながらも話を続け、布施が松永の言葉に疑問を持ち尋ねる。

「ルナさんにも調べてもらったけど、前例が無いみたいだし、貴史は知ってるか?身体組織が壊死するどころか逆に発達して、右肩から刃のついた腕が伸びてる奴なんてさ」
「《G》じゃないの?」
「ルナさんはそれとも違うって言ってたよ、だから俺が勝手に想像したんだけどさ……」
「想像?」

 松永が細井に尋ねるが、満足する答えを得られずに自分の考えを言おうとすると、布施が尋ねた。

「あくまでも想像ね、あの化物が日本政府の作った《B.O.W.》だとしたらって」
「「はぁ!?」」

 松永の発した言葉に二人が同時に声をあげる。

「ルナの読みと同じか……」

 G36Cに新しいマガジンを装填し、ルナから調べ物の内容を聞きながら、三人の会話を盗み聞きしていたディックが呟く。

『やっぱり彼女の息子さんね、それで、日本政府とアンブレラの繋がり、調べてみるわね。なんで独自に《B.O.W.》を開発できる力があるのにアンブレラと組む必要があるのか』
「あぁ、よろしく頼む。まさか、自分の国で《B.O.W.》のテストをするとはな、しかも高校生を対象に……」
『ショウヘイ君も言ってるけどあくまで仮定の話よ?もしかしたらただの突然変異かもしれないし』
「あぁ、わかってる。それじゃあ」
『了解、またね』

 ディックがルナとの通信を切り、松永達に向かってゆっくりと歩き出す。

「まず、なんで日本政府が《B.O.W.》を開発してたら?なんて思ったんだよ」

 布施が松永に説明を求める。

「日本でバイオハザードが起こった原因を考えてたら、政府が《T−ウィルス》との交換を条件に土地と資金を与えたって結論が俺の中で出ただけ」
「なんで、《T−ウィルス》がそんなに欲しいのかな?」
「そりゃ、お前の方が知ってんだろ!」

 松永が説明し出すと横から細井が割って入り、それが布施の気に障ったのか、布施が細井に向かって怒鳴りながら拳を振り下ろす。

「想像の話だよ、政府が開発している《B.O.W.》がまだ不完全でそれを補う為に《T》のデータが必要だったのかもしれない」
「なんで不完全だと思う?松永だって多少は苦戦したんだろ?」

 松永の肩を叩きながら呟き、布施が更に尋ねる。

「だって、俺達の高校にあいつを放ったのに、あいつと似た形になった奴は一人も居なかったんだぜ?感染、もしくは繁殖力が不安定な証拠」
「それに比べて《T》は《タイラント》って化物を量産できるほど安定してるから、そのデータが必要だってか?」
「俺の考えではね……」

 松永の説明の途中で布施が言うと、松永はその布施の意見を否定せずに呟くと、立ち上がりながら近づいてきたディックに向かって歩き出す。

「ルナもショウヘイと似たような事を言っていた。今からそれを確かめに行くぞ」
「ほぉ、さすが松永だな、本職の連中と変わりねぇじゃん」

 ディックが三人に向かって言うと、布施が松永に感心しながら立ち上がり、ベネリをしっかりと握り締める。

「ただの想像だってば、貴史立てるか?今から県庁に乗り込むんだってさ……」
「ウェイ・・・」

 松永が少し照れながら細井に手を差し伸べる。
 細井は松永の手を借りながらゆっくりと立ち上がり、1人で県庁へ向かって歩き出す。

「おい、タカフミ、突撃の前に最後の補給だ。ヨシカズさん達が用意してくれてる」
「ウェイ……」

 ディックが細井に言うと、細井はディックの方を見ながら芳和達が円陣を組んで待機している場所へ向かって歩き出す。
 
「あいつ、大丈夫か?」
「ちょっと疲れただけじゃないかな?」

 布施が首をかしげながら呟くと、松永が苦笑いしながら細井のあとに続く―――――

「今からが本番だってのに」

 ディックが一人呟くと、ディックの呟きをかき消すように一機のヘリのローターの回転音と共に突風がディックを襲う。

「嘘だろ?アンブレラの輸送ヘリ!」

 ディックはヘリの胴体に光り輝く「傘」のエンブレムを見つけると、叫びながら芳和達のいる場所へと向かって駆け出す。

「ディクさん?」
「ディック!」
「ウェイ?」

 三人が後ろから物凄い勢いで駆け抜けていく、ディックに驚きながらも急を要する事態である事を察知し、ディックのあとを追い駆けていく。

アンブレラ輸送ヘリ内部―――――

「目標を確認、ポッドの投下準備に入る」
 
 ヘリの操縦桿を握っている一人のアメリカ人が英語で状況を報告すると、横にある装置に電源を入れる。
 ヘリの貨物エリアには五つの大きなポッドが並べられている。
 電源が入ると同時に、ポッドに光が灯り、中に大きな人型のシルエットが浮かび上がる。

「さっきのジャップは最後までサムライだったが、こいつらはどうだろうな?」

 電源を入れた兵士の隣でもう一人の兵士が言う。

「さっきのジャップが相手してたのは数は多くても所詮ゾンビだ。こいつとは比較にならねぇだろうよ」
 
 兵士が言い終わると同時に、ポッドの下部に取り付けられている液晶パネルに「COMPLETE」の文字が浮かび上がる。

「準備完了、ポッドを投下する」

 兵士が呟き、装置の電源を下にあるカバーの取り付けられた赤いスイッチを殴る。
 輸送ヘリの後部ハッチが開き、大きなポッドが県庁前の道路へ、松永達の集まっている道路へと投下されていく……
 
 ヘリの中で兵士が話していた《ジャップ》とはまさしく、東側検問所で友の為に力の限り殿を務め、ゾンビ共を駆逐していた近藤の事であった。
 近藤はゾンビに囲まれたあとも確実に一体ずつ仕留めていき、弾薬が尽きると地面に転がった殉職者達の武器を拾い上げ、またゾンビを仕留める。
 それを繰り返し、それでもまだ倒しきれなかったゾンビに対して、左腕が折れているにも構わず、接近し、次々とゾンビの首の骨を折り、息の根を止めていった。
 最後のゾンビの首をへし折り、近藤が辺りを見回すと、そこには動かなくなったゾンビの体が幾千にも重なりあって横たわっていた……
 幸い、そのゾンビ達がクリムゾンヘッドとなることは無かったが、その時、近藤の体にはゾンビ達から受けた無数の傷があった。
 近藤は動かなくなった右足を引きずり、親友「真田」の元へたどり着くと、その場に横たわり自分の額にMPの銃口を突きつけ、トリガーを引いた―――――
 兵士達はその光景を見ながら、その状況を報告すると、県庁へ向かって飛んで行ったのである。
 
 ディックが芳和達の下へたどり着くのと、ヘリから一つ目のポッドが投下され、地面に着地するのはほぼ同時だった。

「ヘリを落とせる武器はあるか?」

 ディックが叫ぶ。 
 それを聞いた芳和がわずかに残った警官に指示すると、警官が一台だけ残った装甲車の中から長大なライフルを取り出してきた。

「これでいいんですか?」
 
 警官が戸惑いながらもそれをディックに手渡す。

「バーレットM82A1か……こんなもんどこから仕入れてきたんだよ」
「うぉ!?でけぇ!それ俺に撃たせてくれんのか?」
「バカか?フセでもこいつは無理だろう、なんせ俺でも好きじゃないからな対物ライフルってのは……」

<バーレットM82A1と呼ばれる物は「アンチ・マテリアルライフル」(対物ライフル)と呼ばれる五十口径の十二.七ミリの弾頭を使用する長大な対物狙撃銃である。十発もの連続発射が可能であるがそのおかげで重量が増し、反動も大きく取り回しが容易ではない銃である>

 ディックに追いついた布施がディックの手にしている巨大な対物ライフルを見つけ、声をあげると、ディックがバーレットを宙を舞うヘリに向かって構えながら呟く。
 布施に続き、松永と、細井が追いつき、ディックに話しかけようとするが、ディックがバーレットを構えているのを見て、絶句する。

「でけぇ」
「俺も撃ってみたいなー」

 二人の言葉など気にもせずに、ディックはゆっくりとバーレットのトリガーを引いた。
 大きな銃声と共にマズルブレーキが作動し、反動を抑える代わりに、辺りに埃が舞い上がる。
 その銃口から放たれた十二.七ミリ弾はヘリに命中することなく暗くなりだした空へと消えていった。

「外れたか!もう一発!!」
「狙撃なら俺に任せて!」

 ディックが舌打ちをしながら次弾が装填されたのを確認し、再度スコープを覗き込むと、横から細井がバーレットをディックから取り上げ、構えた。

「タカフミ!今は、冗談やってる場合じゃ―――」

 ディックが一瞬の出来事に対応できずにバーレットを細井に取られ、動揺しながら怒鳴る。
 が、次の瞬間バーレットは大きな銃声と共に十二.七弾を放っていた。
 放たれた弾丸は見事にヘリのコクピット部分に命中し、窓のガラスを貫通し副操縦士の頭部を打ち砕いていた。

「反動がすごいねこれ……」

 細井が呟きながら次弾が装填されたのを確認し、スコープを覗き込む。
 ディックはその光景を口を開けながら黙ってみていた。

「貴史にこんな才能があったなんて」
「細井は後方支援だな……」

 松永と布施も細井の狙撃の腕と、その強大な反動を抑えるだけの筋力に感心しながら呟いた。
 と、同時にヘリの燃料タンクらしき場所に大きな風穴が空き、そこから燃料が流れてきた。
 
「畜生!あのガキ当ててきやがった!あと一つだけ投下して残りは県庁内部で起動させる!くそぉ、ローターまでやられた!」

 ヘリに乗っていた兵士が慌しい口調で言うと、二つ目のポッドを投下し、ヘリを県庁へと向かわせる。
 しかし、ヘリは燃料タンクを破壊され、連続して放たれた弾丸にローターまでも破壊され、蛇行しながら県庁の中央部へと突っ込み、爆発、炎上した。
 細井がそれを見届けるとバーレットを両手で持ち上げスリングを使い背中に担ぎながらディックに尋ねる。

「ディック、これもらってもいいかな?」
「俺が持ってるよりいいだろ、弾はこれだ。腕は大丈夫なのか?」
「ありがとうございます。特に問題ないですよ、柔な鍛え方されてませんから」

 細井が笑みを浮かべながらディックに弾薬を受け取り、パウチにせっせと詰め出す。

「ところでディックさん、あのポッドは?」
「やべぇ、既に起動準備に――――全員落ちてきた二つのポッドへ向かってありったけの弾丸を撃ち込め!」

 ディックが松永に言われ、舌打ちしながら叫ぶと、G36Cをポッドへ向けて構えトリガーを引く。
 松永や布施も戸惑いながらポッドへ向けて弾丸を放っていく―――――
 全員が弾薬を使いきり、マガジンを交換したり、新しい弾薬を装填していると、ポッドを包んでいた土煙が晴れていく……
 土煙が晴れると、ポッドの上部ハッチが開き、強化ガラスで出来た部分が左右にわかれ、中から綺麗な青色の液体があふれ出してくる。
 そこには二体の巨人がたたずんでいた。

「間に合わなかったか、二体とはちょっと手間がかかるな……」

 ディックが呟くと、その二体の巨人が右足を一歩踏み出し、ポッドから地面へと降り立った。
 その巨人は外見こそ人間となんら変わりは無いが、その目からはまったく生気が感じ取れず、表情も無い。
 この季節には不釣合いな程の分厚い濃緑のコートに身を包んだその姿はまさしく、《B.O.W.》の頂点に君臨する《タイラント》(暴君)と呼ばれる者であった。

「あれがタイラントか、さすがに実物は迫力が……」
「《T−ウィルス》ってのは半ばあいつを作る為に存在してたわけでもあるからねぇ」

 松永が呟き、右手で刀を握り締めると、横で細井が苦笑いしながらクルツを構えた。

「これがアンブレラの《B.O.W.》の完全体か……」
「我々で相手になるのでしょうか?」
「やるしかなかろう」

 充実がM4を構え言うと、竹中が怯えながら呟き、芳和が励ますように竹中に言いながらスパスを構えた。

「ふぅ、リッカーよりは楽しめそうだ」
「布施はいいよなそんな風に考えられてさ」

 布施が満足気な表情を浮かべながらベネリを構え、ゆっくりと歩き出すと、宮鍋が呟きながらMP5を構え布施に続く。

「よし!さっさと蹴散らすぞ!」

 そんな中、松永が一人大声を上げ、二体のタイラントへ向けて駆け出した。
 呆気に取られていたディックが細井と布施に合図を送ると、ディックを間に挟んで右側に布施が、左側に細井が並び松永に少し遅れて駆け出す。
 充実は竹中に指示し、竹中は残った十数人の自衛隊員に指示し、四人のあとを追う。
 芳和は無言で駆け出し、警官隊が同じく無言で芳和についていく。

「みんな、死ぬ気で行くぞっ!」

 最後に宮鍋が《S.A.T.》の隊員達に激を飛ばしながら駆け出し、隊員達も雄叫びを上げながら宮鍋に続いた。

 日は沈み、月明かりが二体のタイラントを不気味に照らし出していた―――――



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