十六章 殺戮


十六章 殺戮




「やつらには近づきすぎるなよっ!一定の距離を保って――――」

 ディックが走りながら叫ぶが、松永がそれを聞いている様子は無かった。
 松永は先陣を切り、二体のタイラントに向かって突進していくと、一体のタイラントが標的を認識し、その豪腕を素早く振り下ろす。
 しかし、その豪腕が直撃する寸前に松永は地面を強く踏み込み、空に舞う。
 タイラントは標的を見失い、顔を上げると、そこに二体の新たな標的が武器を構え自分を睨みつけているのを認識する。
 次の瞬間、二体の標的、布施と細井が構えていたベネリと、クルツのトリガーを振り絞り、全ての弾薬を使いきるまで撃ち続ける。
 全ての弾薬が撃ち尽されタイラントが土煙に包まれた瞬間、空に舞っていた松永が刀を垂直に振り下ろしながらタイラントの背後に降り立つ。

「殺ったか?」

 松永が呟く。

「そんなんじゃまだまだぞっ!そっちは四人に任せるからなっ」

 ディックが叫ぶと、もう一体のタイラントの正面に立ち、背中を向け、《S.T.A.R.S.》のエンブレムをこれ見よがしにタイラントへ見せ付ける。
 タイラントはその人物が最も憎むべき相手《S.T.A.R.S.》の人間だと認識し、その標的に向かって駆け出す。

「タイラントは最優先に《S.T.A.R.S.》の連中を狙うようにセットしてある!俺が囮になるから奴の頭部を狙え!あのコートは耐圧、防弾、なんでもありだ!」

 ディックが充実や芳和達に叫びながら、タイラントの振り下ろす豪腕を避けながら、松永達から距離を置こうと駆ける。

「有輝は友達の援護に回りなさい」

 芳和が珍しく息子に優しく言うと、ディックを追うタイラントの後ろに回り込み、次々と散弾を撃ち込んでいく。
 充実がM4をフルオートでタイラントの胴体に向けて乱射しながらあとを追うと、竹中もそれに続き、隊員達も続いて駆け出す。
  
「貴史!タイラントはどうやって仕留める?」
「あのコートはなんでも防ぐから、頭吹き飛ばすとか、何とかしてコート破ってむき出しになってる心臓に一撃喰らわせる!」
「任せろ!」

 松永がしびれた腕を振りながら片手で刀をタイラントに向け構えながら、細井に叫ぶ。
 細井の指示を聞いた布施がベネリに装弾し終え、フォアエンドをスライドさせながらタイラントに向かって突進していく。

「布施!どういうつもりだ!」
「近距離から撃ち込みゃコートも破れるだろ!」

 松永が布施に怒鳴るが、布施は聞かずにタイラントへ向かって突進を続ける。
 タイラントが標的が間合いに入ったのを確認し素早く右腕を振り下ろす。
 が、標的はそれを横に飛び、華麗にかわすと、手にしていたベネリをタイラントの腹部につきつけ、連続してトリガーを引く。
 タイラントは首をかしげ、その攻撃が脅威でないと感じると、左腕を標的に向けて振るう。
 その攻撃でびくともしないタイラントに驚愕していた標的は、その左腕を回避できずに、脇腹に直撃を許してしまい、数十メートル離れた地面に叩きつけられた。

「布施!」
「言わんこっちゃねぇ!」

 細井が布施に駆け寄り、松永が刀を両手で握り締めながら叫び、タイラントに向かって駆け出す。

「おい、布施、大丈夫かよ」

 地面に叩きつけられた布施に手を差し伸べたのは宮鍋だった。

「少し、油断しただけだっ!次こそ、仕留めてやる」

 布施は脇腹を押さえながら宮鍋の手を引き、ゆっくりと立ち上がる。

「有輝さん!援護に?翔平が一人で相手してるから早くっ」

 布施の元に駆けつけた細井が宮鍋と布施に向かって叫ぶ。

「言われなくても!」
「負けてたまるかっ」

 宮鍋と布施は駆けていった細井のあとを全速力で追う。
 松永は後ろから三人が迫ってくるのを背中で感じながらタイラントと対峙している。
 その額には汗が滲み出してきていた。
 汗が地面に滴り落ちる瞬間、松永が地面を蹴り、後ろから来た三人が各々の銃のトリガーを引く。
 松永より先に銃口から放たれた弾丸の群れがタイラントを襲うが、その完璧なまでの防弾仕様のコートには無意味だった。
 松永が、右足を踏み込み、素早く刀を振り上げる。
 タイラントは上半身を捻り、斬撃をかわそうとするが間に合わず、右腕の付け根の部分に斬撃を受ける。
 しかし、その斬撃もコートの表面をわずかに切り裂くだけだった。

「中にあんなに装甲が……」

 松永が呟きながら、タイラントの距離を取る。

「あいつのコートは無敵だな」
「そりゃそうだよ、生半可な攻撃で破壊されちゃ意味が無い」
「お前どっちの味方なんだよ」

 布施が立ち止まり、ゆっくりと歩いてくるタイラントに向かって呟くと、その横で細井が自慢げに話、宮鍋が苦笑いしながら呟く。

「俺に考えがある。三人は手ぇ出さずに見ててくれ、もしもの事があったらあとは頼む」

 三人のいる場所まで下がってきた松永が3人に向かって呟くと、また一人でタイラントに向かって駆け出した。

「おい、ちょっと待てよ」
「翔平!」

 布施と細井が叫ぶが、松永がそれを耳にすることは無かった。
 タイラントが標的に向かって一直線に右ストレートを繰り出す。
 松永は上半身を捻りそれを交わすと、地面を蹴り上げ、タイラントの右腕を右足で踏み込み、さらに高く空に舞い上がる。
 タイラントが上を見上げると、刀を垂直に素早く振り下ろす、標的の姿があった。
 松永が地面に着地すると、タイラントの分厚いコートの表面が切り裂かれ、内部があらわになるが、タイラント本体へのダメージは皆無だった。

「やっぱりダメじゃねぇか!」
「ったく……」

 布施と、宮鍋がタイラントへ向かって駆け出す。

「まだまだぁ!」

 松永は叫ぶと、振り下ろした刀の刃を反転させ、素早く振り上げる。
 その刃は先程切り裂いた箇所から一ミリもずれる事無く、コートを切り裂く。
 次の瞬間、コートは綺麗に両断され、中からタイラントの肉体がむき出しになる。
 その肉体さえ切り裂かれ、傷口からは真っ赤な鮮血が噴き出す。

「翔平、凄いじゃん!」

 細井が弾んだ声を出しながら駆け出す。

「お袋もこんな風に戦ってたんかな?」

 松永は呟きながら左手で刀を持つと、右手でデザートイーグルを引き抜き、苦しみながらも左ストレートを放とうとするタイラントの胸部へと銃口を突きつける。
 銃口を放さずに放たれた左ストレートを体を捻り、かわすとゆっくりとトリガーを引いた。
 心臓から大量の血液を噴き出し、辺りを血の海に変えながら暴君はゆっくりと地面に倒れこんだ。

「よし、ディックさんの所へ行こう!」

 集まった三人に向かって言うと、松永は刀についた血を振り払い、鞘に収めデザートイーグルの代わりにサムライエッジを構えながらディックが駆けて行った方へと走り出す。
 
「自分ばっかいい格好しやがって」
「それは布施の実力が足りないんだろ?」

 布施が呟くと、宮鍋が笑いながら言い、そそくさと走り去った。

「てめぇ!宮鍋、待ちやがれ!」

 布施は怒鳴りながら宮鍋のあとを追う。

「心臓は撃ちぬいたからリミッターは外れないよね……」

 細井が動かなくなったタイラントを見ながら呟くと、遅れてディック達のもとへと駆け出した―――――
 タイラントが後方から銃撃を繰り返してくる雑魚達に対して片足を挙げ綺麗な回し蹴りを放つ。
 雑魚達の頭部はタイラントの右足の踵に叩き潰され次々と地面に倒れこんでいく。
 タイラントはその場で立ち止まり、反転すると最優先任務を一時中断し、任務の邪魔になる雑魚の排除を選択する。
 
「なんだ!?タイラントはあの人を……」

 タイラントが目標を変え自分達に向かって突進してくる姿を見ながら、陸自の兵士が呟くが、次の瞬間隊員の頭部は粉砕される。

「全員、撃てぇ!!」

 充実が叫ぶと、兵士達が一斉にタイラントに向かってトリガーを引く。
 しかし、タイラントに損傷は無く、逆に防弾コートで跳弾した弾頭が前方で構えていた兵士達に次々と命中していく。
 陸自の兵士達が地面に倒れていくと、その後方から芳和が率いる警官隊がタイラントに対してありったけの銃火器から弾丸を放つ。
 タイラントはその場でしゃがみ込み、空高く跳躍し弾丸の群れを回避すると芳和の正面に着地する。
 
「なめるなよ、化け物ぉ!」

 芳和がタイラントに怒鳴りながらMPのトリガーを振り絞る。
 が、タイラントの防弾コートの前にはその攻撃は意味を持たなかった。
 芳和はタイラントの右フックを浴び、数メートル先へと飛ばされた。

「親父!大丈夫かよ!?」

 そこに、遅れて駆けてきた少年達の中から宮鍋が1人飛び出し、父親の元へ駆けつけ声をかける。

「お前達、もう一匹は?」
「松永達が仕留めたさ……」

 芳和が予想を遥かに上回る速度で自分たちに合流した子ども達を見ながら宮鍋に尋ねる。
 宮鍋が間髪入れずに答え、自分の父親が腹部から血を流してるのを発見し、声を詰まらせる。

「有輝!お前は親父さんと負傷した人達を装甲車に乗せて県外の病院に搬送する準備をっ!」
「あいつは俺らが仕留めてやる!」

 本来は片側三車線のとても広い八号線を足の踏み場も無い程の負傷者が埋め尽くしている惨状を見ながら松永が宮鍋に叫ぶ。
 その後をついてきた布施が一台の装甲車の鍵を宮鍋に投げつけながら叫び、タイラントに向かって突進していく。
 
「……わかった!こっちは任せろ、あの化け物を頼む!」

 宮鍋は布施から鍵を受け取り、一瞬戸惑いながらも2人に返事をし、目の前にあった装甲車の後部へと父親を担いで行く。
 その三人のやりとりを聞いていた負傷者達は自分で動ける人間は自力で装甲車へと這いながら、片足を引きずりながら向かっていく。
 しかし、その数はほんのわずかである、理由は誰が見ても明らかだった、タイラントの一撃は素早く重い、喰らえば確実に死へと追いやられるからである。
 数少ない動ける人間というのは、タイラントの一撃で吹き飛ばされた人間の体が直撃したり、跳弾を喰らって戦闘力を失い、タイラントに相手にされなくなった人間達だった。
 
「有輝さん、その人達は頼みましたよ!」

 最後に大きなライフルを抱えているせいか三人より遅れて来た細井が運転席のドアを叩きながら宮鍋に言う。
 宮鍋は細井に向かって右手でピースをすると、鍵を捻り、装甲車のエンジンをかけ、松永達とは反対の石川県の隣の富山県へと向け装甲車を発進させた。
  
「警官隊と陸自の八割は全滅か……」

 ディックが振り返り、タイラントの暴れた後を見ながら呟くと、今度は自らタイラントへと向かって駆け出す。
 充実の指示でタイラントへと一斉にトリガーを振り絞っていた兵士達も残りわずかとなり、弾丸も底を突きかけていた。
 タイラントはそれを待っていたかのように動き出し、一人の陸自の兵士の頭を掴むと、少数で陣取っていた兵士達へと投げつける。
 投げつけられた兵士は腰を抜かし、頭の割れた仲間の姿を見た兵士はその場で失禁し、動けなくなる。
 そこに一歩一歩確実にタイラントが歩み寄っていく。

「竹中ぁ!最後の一発だ外すなよ!」
「わかってます」

 そのタイラントの背後から充実の怒鳴り声が聞こえ、竹中の静かな返事が返ると同時にRPG7から一発の砲弾がタイラントへと向かって発射される。
 タイラントは素早く振り向くと、砲弾を右手で掴み群がっている兵士達へと投げつけた。

「んな馬鹿な!?」

 竹中が叫び、充実が自分の判断ミスで部下、いや仲間を殺してしまったことを悔やみながら舌打ちをすると、竹中をその場に待機させ一人でタイラントに駆け出す。

「ジュウジツさん、無茶はすんなよな!」

 ディックがすぐに追いつき、二人でタイラントに向かってトリガーを振り絞り、タイラントはディックに向かって駆け出す。
 タイラントの右ストレートをディックがかわすと、隙の出来た反対側から充実がM4の弾丸を叩き込む。
 しかし、防弾コートに阻まれ効果的なダメージは与えられない。
 充実が舌打ちをしながらマガジンを交換し、M4を構え直そうとした瞬間、道路に倒れこんでいる仲間の屍骸につまづき、体勢を崩す。
 今度は逆にタイラントがその隙を逃さず、充実に向かって左腕を振り下ろす。
 充実が諦め、眼を閉じた瞬間、息子の声が響く。

「親父!大丈夫か?」
 
 布施が放った散弾はタイラントの左腕に直撃し、充実への攻撃を強制的に止めた。

「フセ!?そっちは終ったのか?他の連中は?」
「こっちは片付きました!他の連中は有輝が県外の病院に搬送中です!」

 ディックの問いに答えたのは松永だった。
 松永はディックに答えると、跳躍しタイラントとの距離を一気に詰め、サムライエッジをタイラントの頭部に撃ち込む。
 しかし、九ミリ程度では致命傷は与えられるはずもなく、タイラントは松永に右アッパーを放つ。
 松永はそれを刀で防ごうとするが、衝撃までは防げずにその場から吹き飛ばされる。
 布施はベネリの弾丸を使いきり、左手でサムライエッジを構えながら右手ではベネリにショットセルを装填する。
 
「フセ!」

 ディックが叫ぶ、タイラントは布施に向かって右腕を振り下ろそうとするが、布施はその場を動こうとはしない、布施の後ろにはまだ立ち上がれない自分の父親がいたからだ。

「大将……」
「くそぉ!くたばりやがれぇ!」

 充実が呟き、布施が叫びながら弾丸の尽きたサムライエッジをホルスターに収め、ベネリを構え直し、タイラントの頭部へ向けて構え、トリガーに指をかける。
 布施がトリガーを引くよりも早く、タイラントの拳が布施の頭部へと届きそうな瞬間、その場に大きな銃声が響く。
 タイラントの眉間には大きな風穴が空き、暴君は空を仰ぎながら地面に倒れこんだ。

「ん?俺はまだ撃ってねぇぞ?」
「布施、あんまり無茶はすんなよー」

 布施が驚きながら銃声のした方へ顔を向けると、そこにはバーレットを構えながら布施に向かって呟く細井の姿があった。

「タカフミか、よくやるようになったじゃないか」
「すげぇな貴史!」

 ディックがG36Cを下ろし、細井に向かって歩き出すと、松永もゆっくりと立ち上がり、歩き出す。
 布施は充実を見下ろし、黙って右腕を差し伸べた。
 充実は黙って布施の右腕を掴むと、ゆっくりと立ち上がる。

「大将、すまなかったな……今まで迷惑をかけて……」
「俺は過去の事をとやかく言うほど心の狭い男には育ってないぜ」

 布施は充実の言葉を聞き、少し笑うと細井の元へと歩き出した。

「隊長、よかったですね、息子さんも許してくれてるみたいじゃないです―――」

 竹中が充実に歩み寄り、笑いながら言うと、その言葉が不自然に途切れる。
 充実が不思議に思いながら振り向くと、そこには先程倒したはずの暴君が起き上がり左腕から生えた鋭利な刃物で竹中の腹部を突き刺している姿があった。

「畜生!」
「スーパータイラント!」

 ディックと細井が叫びながら蘇ったタイラントに向かって駆け出す。
 それに続いて振り返った松永と布施が二人に少し遅れて駆け出しながら武器を構える。

「布施の親父さん!逃げてっ」

 細井が叫び、MP5のトリガーを振り絞り、タイラントをひきつけ、ディックが充実を自分の方へを引き寄せる。

「親父、俺の成長したとこ見てろよっ」

 布施が充実に言いながらタイラントに向かってベネリのトリガーを引くと、タイラントは目標を布施に変え、歩き出す。
 タイラントは布施からかなり離れた位置で立ち止まり、左腕をゆっくりと持ち上げる。

「ん?そんな所から何する気だ?」

 布施が首をかしげると、ディックと細井が同時に叫ぶ

「「逃げろっ!」」

 布施が二人の方へを振り向き、すぐにタイラントへ視線を向けると、眼前に鈍く光るタイラントの左腕から生えたた刃物が迫っていた。
 また、布施の目の前が鮮血で染まった……

「―――大丈夫か?」

 布施の目の前には口から血を噴き出しながら息子を心配する充実の姿があった。

「親父、何してんだよ……」
「最後ぐらい父親らしいことが出来てよかった。だが、またお前を一人にしてしまうな……」
「馬鹿やろう、何言ってんだよ!何が最後だよ!また一人にするだよ!死ぬんじゃねぇ!」
 
 倒れこむ充実を抱えながら布施が地面に座り込む。
 タイラントは一組の親子の最後の会話など気にもせず、充実に止めを刺そうとする。

「最後ぐらい静かに逝かせてやれ……」
 
 タイラントの刃物を松永が呟きながら刀でしっかりと受け止め、歯軋りをする。

「させるかよっ」

 細井がまたバーレットのトリガーを引く、弾丸はタイラントの頭部に直撃し、粉々に吹き飛ばすが、タイラントがその活動を止めることは無かった。

「やはり、心臓部か……」

 ディックが呟き、布施と充実のもとへ歩み寄る。

「大将、あとのことは頼んだぞ」
「親父、俺まだあんたと話さなきゃいけない事が山程あるんだよっ!」
「悪いが全部は聞いてあげられそうにない……」
「わかった。一つだけ伝える。お袋からだ」
「あぁ、聞かせてくれ……」
「『あなたと逢えて、大将を産めて幸せだった』と、伝えてくれと……」
「俺の事を許してくれたのか、大将これを……」

 充実が布施に自分の左薬指から指輪を外し、布施に手渡す。
 布施はそれを黙って受け取ると、はめていたネックレスを外し、そこに受け取った指輪をつけ、ネックレスをつけ直す。
 そのネックレスには二つの指輪が光輝いている……

「親父、お袋、二人で仲良くな……俺はまだそっちには行けそうにないけど」 
「フセ……」

 布施が力の抜けた充実の両腕を胸の前で組ませると、ゆっくりと立ち上がり、ディックから一丁のM4を受け取る。
 それを握り締め、布施が叫び、タイラントに向かって駆け出す。

「うぉぉぉぉ!!」
「よし、貴史、任せるぞ!」
「ウェイ!」

 ディックが布施を援護射撃しながら共に突進し、それを見た松永がそれまで押さえ込んでいたタイラントの左腕を刀を微振動させ切断する。
 タイラントが左腕から鮮血を撒き散らしながら悶絶すると、細井が分厚い防弾コートで覆われたタイラントの心臓部へ向かってバーレットのマガジン内に残った全弾を撃ち込む。
 タイラントの叫び声と、銃声が鳴り響き、防弾コートの隙間から真っ赤に躍動するタイラントの心臓が覗き込む。

「布施、殺れぇ!!」

 松永が叫ぶと、布施がタイラントの懐へと潜り込み、M4の銃口を防弾コートの隙間に突き刺す。
 タイラントが叫びながら残った右腕を布施に振り下ろす。
 
「親父、とりあえずの仇は取ったぜ」

 しかし、布施がトリガーを引く方が早く、次々とタイラントの心臓へと五.五六ミリ弾が撃ち込まれていく。
 撃ち込まれる度にタイラントの体は痙攣を起こし、マガジンが空になる頃にはタイラントは動かなくなっていた。
 そして、布施が最後にM4本体のトリガーとは独立しているトリガーを引くと、グレネード弾が発射され、タイラントの体は飛ばされ、地面に落ちると同時に炎上する―――――

「これでもう蘇らないだろ?」
「フセ、よくやったな」
「残ったのは俺達だけになっちゃった」
「さぁ、県庁に乗り込もう」

 布施が呟き、ディックが布施の肩を叩きながら言うと、細井が傍らで呟き、それを励ますように松永が言う。
 松永が刀を鞘に納め、自分の武器の残弾を確認し、県庁へと歩きだす。
 ディックと布施は力尽きた仲間達から五.五六ミリ弾の詰まったマガジンを受け取りながら松永の後を追う。
 細井は、バーレットに新しいマガジンを装填すると背中に回し、MP5を両手でしっかりと構えながら3人の後を追い、駆け出す。
 
「さて、これからが本番?」

 一番最初に県庁の前へとたどり着いた松永があとから来たディックに向かって尋ねる。
 
「あぁ、そうだな。今から最上階まで行き、《T−ウィルス》の入ったポッドを爆破する」
『さっきのタイラントは二体だけなの?』

 ディックが呟くと、ルナの声が三人に届き、三人は不思議な安心感を覚える。

「えぇ、俺達を襲ってきたのは二体だけです」
「やっぱ女の人の声って安心出来るよねぇ」
「細井、お前気持ち悪りぃぞ……」
 
 松永がルナに答えると細井が呟き、布施がツッコミを入れる。

『タカフミ君ありがと。ディック、今からが最後の詰めよ。ここでミスったら今までの犠牲が全て無駄になるんだからね?』
「あぁ、わかってるよ、次こそはミスなんてしねぇ、俺の命に代えてでも……」
『縁起でもないこと言わないで』
「あぁ、悪い、これより最終任務へ移行する」

 ルナが細井に軽く礼を入れると、すぐにディックへと専用回線で話しかけ、ディックが静かに答える。
 松永にはその会話が聞こえていた、ディックからは他の二人よりも離れていたのにしっかりと聞こえていた。
 松永は自分で感じでいた、自分の体には常人とは違う力が秘められている事を・・・
 それが母親の血のせいかどうかはわからない、だが事実他の三人よりも身体能力や思考能力がたくましく、敏感になっていた。
 松永は右手を握り締め、拳を胸に軽くたたきつけると、三人より一歩早く踏み出した。

「みんな、行こう。俺達の手で俺達の未来を護るんだ」

松永の言葉に細井が続き、その後ろを護るようにディックと布施が続いた―――――



NEXT
小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.