十八章 破壊者


十八章 破壊者




 怪物の目の前に四匹の獲物の姿が浮かび上がるが、不思議にも食欲はわかない……
 怪物はゆっくりとその大きな四本の足で歩き出す。

「おい、あれなんだよ」

 布施が浮かび上がってくる巨大なシルエットに少し怯えながら呟く。
 細井は布施の後ろに下がり唇を震わせている……

「さっき俺が戦った奴に似てるな、ただ左腕はあんなに大きくなかったし、サイズも人間サイズで足も二本だったけど」
「ってことはまた新種か?《G》の変異体って可能性も……」

 松永が呟くと、ディックが松永の方へ目を向け話しかける。
 松永が柄に手を添え、ディックがGCを構えると、それに遅れ布施と細井が銃を構える。
 次の瞬間三人の手から力が抜ける―――――

「「松川!?」」

 四人の目の前に現れた怪物、タイラントよりも倍近くある巨体に右腕からは刀状の爪が伸び、左腕は獲物を捕らえるために巨大化した掌が伸び、下半身は巨大な四本の足が生えている。
 足の先からも巨大な爪が伸び、地面に突き刺さっている。
 大きく口を開いた頭部の下には、三人の友人の……あのウィルスに感染してゾンビになってしまったはずの松川祐也の姿があった……
 松川の体には大きな心臓が取り付き、その化け物に血液を送り出していた―――――

「おい、松川!なんでそんなトコにいるんだよっ!」
「てめぇ、一体なんのつもりだ!」

 細井が松川に話しかけ、布施が怒鳴る。
 しかし、怪物の体に取り付いた松川からの返事は無い……

「二人共無駄だよ、意識が無いのは見ればわかるだろ?怪物が松川に取り付いてるってか、松川から怪物が生えてきた……みたいな感じですよね?」
「《G》に似てるが反応は陰性だぞ?」
『そのデータ転送して、こっちでも調べてみるから』

 松永が二人をなだめ、ディックを見ながら呟くと、ディックがそれに答える。
 ルナはディックから転送されたデータを解析し始める。
 布施と細井が落ち着いている二人を見ながらどうしていいのかわからず、叫びだす。

「なんで?なんで松川があんな化け物に!?」
「くそっ、あの時しっかり止めを刺しときゃよかったんだよ!」

 細井が頭を抱え座り込み、布施が怪物に向かって走り出す。

「おい、布施!」

 松永が静止しようとするが、布施はそれを振りほどき、構わず走り続ける。
 布施が怪物の手前十メートル程まで近づいた時、怪物と布施の間に一人の男が突然現れた。

「なんだてめぇは?頭吹っ飛ばすぞ!」

 布施が勢いを止められたのと、相手の正体がわからないのに腹を立てその男に向かってM4を構えトリガーを引いた。

「!?」

 布施の顔に驚愕の表情が浮かび上がる。
 M4から放たれた弾頭は男の頭を貫通し、廊下に当たると跳弾し、虚空へと消えていった。
 しかし、男の表情には変わりが無かった……

「「ホログラム……」」

 ディックと松永が同時に呟く、松永は頭を抱え座り込んでしまった細井に手を差し伸べる。

『やぁ、四人ともごきげんよう。私はこの状況を君達に説明しようと思って現れただけだ。敵意はない』

 ホログラムの男が口を開く。
 その声は人間の声を無理やり電子音に変換したような少し、ノイズがかかり聞き取りにくいものだった。

「何者だ?」

 ディックが呟きながらG36Cをホログラムではなく、その頭上にある投影機に向ける。
 横では細井が松永の手を掴みゆっくりと立ち上がる。

『日本政府の者だ。今は首相の代理といったところか……』

 その男はあの地下施設で「主任」と呼ばれていた男だった。

「代理?なら首相を出せ、お前に興味は無い」
『それは無理な要求だな』
「何故だ?」
『今、首相は自分のことで頭が一杯みたいだからな』

 ディック以外の三人は松川であり怪物である生物から距離を取りつつも武器を構え、ホログラムと会話しているディックをじっと見つめている。

『さぁ、手短に話そう、こいつの理性もそろそろ完全に崩壊するだろうしな』
「わかった、手短に頼もうか」
『ほぉ、話のわかる奴だな。こいつの正体から話そうか、こいつは我々日本政府が独自に開発した《B.O.W.》だ』

 男がディックの淡々とした態度に感心しながら話す。
 
「やっぱり……」
「んだと!?ふざけんじゃねぇ!親父は同じ日本人に殺されたってのか!」
「ちょっと布施落ち着いて!」

 松永呟くと、布施が暴れだし、細井がそれを制止する。

「それで?」

 ディックはただ一人落ち着いた様子で男に更なる説明を求める。

『こいつの名は《DESTROY》最強の《B.O.W.》になるはずだった存在だ』
「だけど不完全だった。だから《T》のデータが欲しかった?」

 男の説明に松永が尋ねる。

『その通り、コアの形成率が著しく低く自己繁殖していくまでには至らなかった。しかし、こいつは数少ない成功例だ。五百近い実験体の中でただ一つコアの形成に成功したんだからな』
「実験体だと!?」

 男は松永に感心しながら淡々と説明を続け、布施がその言葉に反応し、細井の制止を振りほどく。
 しかし、次はディックが制止する。

「フセ落ち着け、今はこいつの話を黙って聞いて状況を把握しなきゃならん……」
「くそっ!親父の仇がここにいるっていうのに―――」
「だからホログラムだって―――」
「うるせぇ!」

 ディックの制止を聞き布施が銃を下ろしながら呟くと、細井が横から口を挟み、布施に殴られる。

『本当にこいつがらタイラント達を?』
「関係ないだろ?それよりも松川は助かるのか?その化け物から助け出すことは?」
『松川?あぁ、この鉢のことか……残念だがそれは無理だな。デストロイを破壊すれば鉢も同時に破壊される』
「種を育てるための植木鉢って事か、それだけ聞けば十分ださっさと消えろ……」

 男が三人のやり取りにあきれ呟く。
 松永は三人のことなど気にせずホログラムに尋ね、男が答えるとまた呟き柄に手を添える。

「おい、ショウヘイ!ちょっと待てって!」
「三人は先に最上階へ、こいつは俺が……」
『さすが、《PROJECT−HOPE》の産物だな』
「何?」

 ディックの制止を聞かずに松永が刀を抜こうとすると、男が聞きなれぬ言葉を発し、ディックが手を止める。

『知らないのか?アンブレラで行われていた実験だよ』
「何だって?」
「そんな事は関係ない、今は友の仇を取るだけだ」
「おい、ショウヘイどういうことだ?そのプロジェクトホープってのはいったい?」
「俺が説明しますよ」

 男が得意げに話すと松永が一歩足を踏み込みながら呟き、ディックが状況を理解できずに松永の肩を掴みながら尋ねる。
 その時、横から細井が話し出す。

「プロジェクトホープってのは《T−ウィルス》を使った実験云々に反対してた連中、俺の両親達が極秘裏にやってた物だよ。《T》による汚染拡大などを防ぐために《H》ってウィルス使って兵士の戦闘能力を飛躍的に向上させようっていう……」
「それとショウヘイに何の関係が?」
「俺達はその産物だってあの男も言ったでしょ?」
「本当なのか!?」

 細井の説明にディックが更に尋ねると、松永がまた呟く。

「おい、どういうことだよ!俺は何も聞いてないぞ!」
「布施、しょうがないだろ、俺もその記憶はさっきまで無かったんだから」
「ごめん、俺は全部わかってたんだけど……」

 布施が怒鳴り、松永が布施に一言謝ると、細井が続いて謝る。

「細井!てめぇはまた隠し事かっ!」
「フセ!今はそんなことはどうでもいいだろうが!」

 布施が細井に掴みかかろうとするがディックが怒鳴りつけ、それを制止する。

『残念だがおしゃべりはここまでのようだな、デストロイが動き出すぞ』

 四人の行動をあきれながら見ていた男が呟くと、デストロイと呼ばれる怪物がその巨大な足を一歩前に踏み出す。
 大きな爪が地面をえぐり、辺りにコンクリート片を撒き散らす。

「三人共早く!ここは俺だけで大丈夫だからっ!」
「だが、子ども一人に任せてってのも……」
「時間が無いんでしょ!!貴史!二人を頼む!」
「わかった!行くよ二人とも!」

 松永が怒鳴りディックが反論すると、松永が細井に指示すると、細井はディックの腕を引っ張りながらデストロイの裏へと回りだす。

「布施、お前も最上階へ、俺のことは気にするな……」
「絶対に仇取れよ!」

 松永が残っている布施に言うと、布施は松永に叫びながら走って二人の後を追う。

『友を殺せるのか?』
「あんたが言ったんだろ?こいつはもう松川じゃねぇ、デストロイだ、その呪縛から松川を解き放つ――」
『お前に出来るのか?』

 男が松永に尋ねると、松永は男を睨みつけ答え、男が高笑いしながら言う。
 次の瞬間デストロイは背後に回り、十九階へと続く階段へ向かおうとしていた3人に向けその右腕を振るう。
 デストロイの筋肉の動きを読み取り、その行動を先読みした松永が右腕が振り下ろされるより早く回りこみ刀でそれを防ぐ。

「殺らせない……三人とも走れ!」
「ショウヘイ!絶対に死ぬなよっ!」
「松永、またあとでな!」
「二人は任せて」

 松永の言葉を聞いた三人は一言ずつ松永に激を飛ばすと階段へと一直線に走り出し、暗闇の中へと消えて行く。
 デストロイは全力で振り下ろしたはずの右腕をすんなりと受け止められてしまった事に戸惑っている。

『本当に殺すつもりなのか?友人殺しの罪を背負って生きていける――――』

 男がまた松永に尋ねようとした瞬間、ホログラムが消える。

「しつこいんだよ、自分の過去を思い出した瞬間から罪を背負って生きてくなんてのは覚悟してんだよ」

 松永が左手に握り締めたサムライエッジをホルスターに収めながら刀を構えなおす。

「さぁ、松川そっから助け出してやるからな……」
「ウォォォォ!!」

 松永が呟くと、それに答えるようにデストロイが雄叫びをあげ、松永に向かって突進しだす。
 それに続き、松永も一気に加速する。
 空中で刃と刃の弾きあう音が聞こえ、次の瞬間にはデストロイと松永の立ち位置が入れ替わっていた。
 デストロイの右上腕から血が流れ、松永の右頬にも血が伝う。

「本気出さないとやばいって感じ?」

 松永が呟きながら振り向くと、目の前にデストロイの大きな左の掌が迫っていた。
 松永は刀を素早く左手に持ち替え、右腕でデザートイーグルを引き抜くと、全弾を正確に撃ち込む。
 しかし、その50AE弾は掌を貫く事が出来ずに跳弾し、廊下や壁に弾痕を刻む。

「こいつも効かねぇのかよ」
 
 呟きながらデストロイの掌を右足で踏みつけ空高く舞い松永が距離を取る。
 しかし、デストロイも続いて跳躍し、松永の右足を掴んだ。

「身軽だな―――」

 松永が感心していると、次の瞬間一気に廊下へと叩きつけられ言葉を詰まらせる……
 デストロイが着地し、一気に止めを刺そうと刃を突き指そうと右腕を振り上げる。
 松永は叩きつけられた直後にデザートイーグルの空になったマガジンを排出させ片手でマグチェンジした後口でスライドを咥え、初弾をチェンバーに送り込んでいた。
 デストロイの刃を体をひねりながら交わすと、銃口をデストロイの方へと向け、トリガーを引こうとするが、その指が不意に止まる。
 その銃口の先には松川の頭があった。
 松永が舌打ちをしながらデストロイの両肩に狙いを変え、全弾を交互に撃ち込み、ひるんだ隙に飛び上がり体勢を整えながら呟く。

「畜生、何が覚悟決めてるだよ、トリガーも引けないじゃないか……」

 デザートイーグルのマガジンを全て使い切ってしまったのを確認するとデザートイーグルを地面に叩きつけ、刀を右手に持ち変える。
 デストロイはゆっくりと体勢を整えると、右腕に力を込める。
 一瞬デストロイの大きな心臓が大きく躍動すると、右腕の刃が燃え盛る炎のような赤色に染まった。

「燃えてる?」
「ウォォォオオ!!」

 松永が首をかしげると、デストロイが雄叫びを上げながら一気に加速し、右腕を振り上げ松永との距離を詰めてくる。
 一瞬の出来事を逃さず松永も地面を蹴り加速する。
 松永がデストロイの刃を交わすと刃はそのまま地面へと突き刺さる。
 次の瞬間コンクリートが一瞬にして溶け、穴が開き、下の階が丸見えになる。
 松永は足元を見てそれに驚くが、すぐに息を整えデストロイの太い首に浮き出している頚動脈らしき所を刀で切り裂くと、巨大な足のひざにあたる部分に足をかけ、跳躍しデストロイの背後にまわる。
 デストロイから大量の血液が噴き出し辺りを血の海にしていく……
 松永にもその血潮は降り注ぎ、整髪料でで整えた髪の毛はずぶ濡れになり垂れ下がり、体中が真っ赤になっていく……

「最悪だなあの刀、超高温で目標を切断ってか融解させるのか……」

 苦笑いしながら松永が呟くと、デストロイはゆっくりと向きを変えると首をひねり、筋肉を収縮させ噴き出す血潮を止める。

「あら?そう簡単にはいかないみたいだな」
「ウォォォオオ!!」

 デストロイはさらに雄叫びをあげ、右腕の刃をあたり構わず振り回し様々な物を粉々に切り刻んでいく・・・

「やばいな、県庁ごと壊しそうだ……じゃあこっちも本気出しますかね?」

 松永が真剣な眼差しで呟き、目を閉じる―――――
 次の瞬間、一気に目を開けると、松永の瞳がデストロイの刃と同じような燃え盛る炎のような真っ赤な朱色に染まっていた。
 それと同時に、松永の髪の毛は逆立ち、体中に浴びていた血潮がすべて弾け飛び、松永の体は淡く光輝いているようだった。

「ふぅ、これがあのプロジェクトの力なのか……体中の細胞が活性化してるって感じ」

 左手を握り締めたり開いたりの繰り返しをしながら呟く。
 そして右手に刀を鞘ごと持ち、腰を落とし左手を地面につけながら顔を見上げ一気にデストロイとの距離を詰める。
 デストロイはその一瞬の出来事に反応できずに防御が遅れ、松永が振るった一閃を避けきれずに左肩の付け根が切り裂かれる。

「ウォォオオオ!!」

 デストロイが苦しそうな声を上げ右腕を松永に向かって乱暴に振るう。
 が、そんな攻撃が松永にあたるわけも無く、松永はそれを交わしデストロイの背後に回りこむと、腰を落とし、刀を鞘に収め、居合いの構えを取る。
 デストロイが振り向いた瞬間すさまじい速度で抜刀が繰り返されデストロイに幾千もの刀傷が刻まれていく……

「絶牙百裂翔……」

 松永が呟きながら刀を鞘に収めると、デストロイの体に刻まれた刀傷から一斉に血潮が噴き出す。
 が、デストロイは力尽きる所か先程よりもさらに興奮して右腕を松永に向かって振り下ろす。
 松永は慌てずそれを刀で受け止める。
 しかし、刀はその刃の高温に耐え切れず、融解し、根元から切断されてしまう。

「しまった、忘れてた……」
 
 松永はまた舌打ちをしながら横に飛び、デストロイとの距離を取る。

「どうしよっかな、刀は使えないし、九ミリじゃ絶対無理だし……肉弾戦?嫌だな」

 松永が考えているとデストロイはそれに構うことなく突進してくる。
 デストロイが繰り出した左腕を体を捻りかわすと、松永はその巨大な右腕を左手で掴み、払うと、跳躍し、デストロイの眉間に右ストレートを浴びせる。
 そのデストロイの額には綺麗に輝く黄色の結晶があり、松永の拳がその結晶に当たった瞬間、デストロイが悶絶し、左手で宙に舞っていた松永を弾き飛ばす。
 松永はそれをしっかりとガードし、受身を取りながら着地し、デストロイの様子を観察、分析する・・・・

「あの結晶が弱点か?あれさえ砕ければ……俺の拳であれだけなら九ミリでも大丈夫だろうな……」

 今度は松永からデストロイへ突進していき、デストロイの目の前で跳躍し、右手でサムライエッジを握り締める。
 しかし、デストロイはすぐに左手で額を覆い右腕を松永に突き刺そうとする。
 松永は空中で体を捻り紙一重で刃を交わす、松永の羽織ったジャケットの左袖が焼け焦げ切れ端が廊下に落ちる。

「これで確実だな」

 松永がにやりと笑い、また駆け出す。
 デストロイはその巨大な左手を素早く振り下ろす、松永は不思議とそれを避けようとはしない……
 次の瞬間松永の体が廊下にめり込む。
 松永は下に向けていた掌を上に向け爪をデストロイの掌に突き立て、それを一気に切り裂く。

「残念だったな!」
「グゥゥオオオオ!!」

 松永が笑いながら切り裂いた掌の間から飛び出し、サムライエッジの銃口をデストロイの額にある結晶へと向け一気にトリガーを引く。
 デストロイが苦しみながらも右腕を振るうと九ミリ弾は結晶へ届く寸前で刃の熱で溶かされ廊下に落ちていく……
 廊下に着地した松永はあきらめずにデストロイへと再突進していき、デストロイもそれに反応し突進していく。
 松永がデストロイの刃を交わし、両拳で巨大四本の足のうちの一本を集中的に殴る。
 デストロイが体勢を崩すと続いて別の足を連続して殴りさらに体勢を崩させる……
 デストロイが両腕をつき廊下にひざまづいた瞬間、次こそ確実に仕留めるために結晶へとサムライエッジを向ける。
 松永がトリガーに指をかけた瞬間、デストロイは二つに切り裂かれた左手で薙ぎ払い、自身も廊下へと倒れこむ。
 
「嘘だろ!?」 

 松永は廊下へ倒れこむと同時にサムライエッジを手から滑らせサムライエッジは暴発、松永は慌ててそれを取りに走る。
 デストロイはすぐに立ち上がり、松永を追いかける。
 松永が飛び込みながらサムライエッジを右手で掴み、廊下に背中を向けながら滑り、両手でしっかりとサムライエッジを構えデストロイへと狙いをつける。
 それと同時にデストロイもその刃を松永の喉下へと突き立てる。
 デストロイが右腕を振り上げ、松永がサムライエッジのトリガーを引こうとする。
 しかし、サムライエッジは先程の暴発でジャムを起こし、次弾が発射できる状態ではなかった。

「本当についてねぇな……」

 松永があきらめ、喉下へと刃が届くその瞬間、刃の動きが止まる。

「なんだ?」

 松永が呟くとデストロイの胴体からかすかな声がもれてくる……

「ショウヘイサン……ハヤク……」
「松川!?」

 松川の口から漏れた声は弱々しかったが、確実に松永の下へと届いていた。
 松永は驚きながらも詰まった薬莢を手で取り出し、スライドを後退させ次弾をチェンバーへと送り込み、デストロイの結晶へとポインティングする。

「サイゴマデ……メイワクカケテ……ゴメン……」
「迷惑だなんて思っちゃいねぇよ……今だってお前に助けられた」
「フセトホソイニモヨロシクツタエテ……」
「あぁ、わかってるよ」
「ソレジャアハヤク……オレハサキニ……」
「あぁ、わかった、先に逝ってろ、俺達もそのうち行くからさ……」
「アリガト―――――」

 松永は松川とゆっくりと会話を交わすとトリガーを引いた。
 弾頭がデストロイの額の結晶へと届くと同時に廊下に一粒の涙が落ちる……
 結晶は弾頭がめり込むと同時に砕け散り、デストロイの体全体から力が抜け、次の瞬間、分子レベルにまで粉々になり消え、その場には力の抜けた松川の体が横たわっていた。
 
「松川ぁ!!」

 松永が駆け寄り、松川を抱き寄せる。

「翔平さん、刀壊してしまって……」
「ばぁか、そんなの気にすんなって」
「代わりになるかわからんけどアレを……」

 松川が力なく呟きながらデストロイの右腕があった場所を指差す。

「あれ?」

 そこにはデストロイの右腕から生えていた白熱化していた刃があった、表面は真っ黒に焦げており、とても使えそうな状態ではなかった。

「おい、松川、いくらなんでもあれはちょっと……おい!松川?」
「やっぱり助からないみた―――」
「松川!」

 松永が苦笑いしながら松川に言うと、松川の体はデストロイと同じく分子レベルでの崩壊が始まっていた……
 松永がそっと胸に十字架を描くと同時に松川の体は消え去り、そこには松川が着ていた高校の制服だけが残った・・・・
 松永の瞳は漆黒に戻り、逆立っていた髪の毛も垂れ下がり、前髪が松永の目を覆い隠す。

「畜生、なんで俺達がこんな目に遭わなきゃ……」

 松永が涙をこぼしながら呟くと、制服のブレザーについていた三つのボタンをすべて剥ぎ取り、握り締めると、真っ黒に焦げたデストロイの刃の下へと歩き出す。
 刃の前へ立ち止まり、右手をそっと刃の付け根へと伸ばす。
 刃と松永の右手が触れ合う瞬間、閉塞的な空間にもかかわらず松川の制服がある場所から暖かい風が吹き込む。

「あぁ、松川ありがとうな……あとは任せろ!」

 松永が手を止め松川の制服を見ながら呟き、少しの間をおいて力強く言いながら刃の根元を握り締める。
 すると、刃の表面を覆っていた焦げが一気に消え去り中から白銀に輝く綺麗な刃がその姿を現す。
 その形は偶然か綺麗に太刀の形を成していた……

「芯が残っていたのか?」

 松永は呟きながら刃を持ち上げると、根元から切り落とされた自分の刀の柄を左手で拾い上げ二つの形を照らし合わせる。

「おい、まさか!?」

 松永が座り込み、柄から鍔を取り外し、切り落とされた残りの部分を取り外すと、白銀に輝いている刃をゆっくりと柄にはめていく。
 静かな音が鳴ると同時にピタリと柄と刃が重なり合った。
 松永はそれを見ると少し笑いながら鍔をはめ、刀を鞘へと納める。
 これも偶然か必然か鞘の中に刃は綺麗に納まった・・・・。

「ふっ、松川……お前はすごいな……」

 松永が笑いながらズボンのポケットから松川の制服から剥ぎ取ったボタンを取り出し笑いながら松川に語りかけるように呟く。

「よし、こいつの銘は《狼牙》だよろしく頼むぜ」

 松永が狼牙を握り締めながら三人が走り抜けて行った方へとゆっくりと歩き出した―――――



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