十九章 爆破


十九章 爆破




首相官邸―――――

 主任と呼ばれた男が額に汗を浮かべながら腕を組み立っている……

「投影機が破壊されましたね、どうなると思います?」
「あのプロジェクトが成功しているのならデストロイでも難しいかもしれん……あいつはまだ不完全だからな……」
「今のところ反応はまだありますけど」
「まぁ、いいそのままモニターを続けてくれ」
「はい、わかりました」

 男は椅子に腰掛け右の親指の爪を噛みながら一人呟く……

「ポッドを破壊すれば次はおそらく……」

県庁・北側階段―――――

 三人は今までに無いぐらいの全速力で階段を駆け上がっていた。

「急げ!本当に時間がねぇぞっ!」
「急いでんじゃねぇかよ!」
「翔平、大丈夫だよね……」

 ディックの声に布施は答えるが、細井は答える余裕などなく、置いてきた松永の身を案じながら階段を上り続けている。
 ディックが十九階につき、ドアを開けようとした瞬間警報が鳴り出す。

「なんだ!?」
「ちっ!電子ロックだと?」

 布施が慌ててM4を構え、ディックが舌打ちしながら文句を言う。

『パソコンを接続して!こっちで解析するからっ』
「了解」

 ルナから通信が入り、ディックが病院で使っていたパソコンを取り出し、接続端子を電子ロックの装置に繋ぐ。

『ダメ、複雑すぎる、解読まで一時間は―――』
「くそっ!そんなに待てねぇ!」

 ルナがため息をつきながら弱音を漏らすと、ディックが怒鳴り、ロックされている扉を蹴飛ばす。

「俺がぶっ飛ばしてやる!」

 布施がベネリを構え、ドアノブに狙いを定めると布施の眼前に細井の右手が現れる。

「細井!何しやがる!」
「落ち着いて、俺がやる……」

 布施が怒鳴りつけるが、細井は冷めた態度で布施に言うとディックに左手を差し伸べ、PCを受け取った。

「おい、専門のルナでも一時間以上かかるんだぞ?」
「大丈夫です。あのプロジェクトで生まれたのは翔平だけじゃない……」
「細井、お前もなのか?」

 ディックが細井に尋ね、細井が呟くと、布施がベネリからM4に持ち替えながら細井に更に尋ねる。

「そゆこと、俺もあのプロジェクトで生まれたんだよ。プロジェクトの基本的な構想は翔平みたいに身体能力を飛躍的に向上させ、前線で戦闘をするためのフォワードを作る《Hf》ってウィルスと、そのフォワードをバックアップするためのバックスを作る《Hb》ってウィルスの2つがあるんだ……俺は後者」
「バックス?それとこれに何の関係が?」

 細井が淡々と布施に説明すると、布施よりも先に話を理解したディックがまた尋ねる。

「バックスはナビゲートなんかが主任務ですから電子機器の操作が容易に出来るように脳をちょこちょこっとね」
「頭がいいってことか?」

 今度はディックよりも早く布施が尋ね返した。

「そういうこと、集中するから少し静かに……」

 細井が軽く笑いながら言うと、静かにするように注意を促し、ゆっくりと目を閉じ、息を吸う。
 そして、息を吐きながら目を開けると、細井の瞳が松永とは違う綺麗な蒼色に染まり淡い光を放つ―――――

「おいおいSFなんて信じねぇぞ?」
『これだけゾンビと戦ってるのに?』

 ディックが呟き、ルナがディックをからかいながら言う。
 布施はその光景をただ黙って見ている……

「―――――よし、開くよ」

 それから間もなく、細井が口を開くと、十九階へと続くドアが開いていく……
 その先はただただ暗闇が続いているだけだった。

「ここからメインシステムにアクセスしてここの階だけでも電力を復旧させるから……」

 細井が続いて呟き、パソコンのキーボードをディックとは比べ物にならない速度でタイプしていく。
 三十秒もしないうちに十九階の内部が無機質な光で満たされていく、と同時にその空間に存在する屍達の姿が浮かび上がる。

「くそっ」

 布施が呟き、M4を構える。

「ディック!ここは俺と布施が突破口を開く!ディックは先行してポッドの破壊を!」
「わかった、任せるぞ、そのパソコンはタカフミにやる、こっちのライフルはショウヘイに渡してくれ……」
「え?大丈夫ですか?」
「俺にはサムライエッジがありゃ十分だからな、それに少しでも軽い方が脱出もしやすいし……それじゃあ頼むぞ!」
「わかりました、布施!お前は右翼、俺は主翼と左翼を殺る!」
「っしゃぁ!行くぞぉ!」

 細井がディックに指示をすると、ディックがG36Cを細井に渡しながら言い、受け取った細井は続いて布施に指示し、それを聞いた布施が叫び、ゾンビの群れに突っ込んでいく。
 布施がベネリを構え、中央通路から右側にいるゾンビ達に向かってトリガーを引き蹴散らすと、細井は右手にクルツを左手にMP5を構え、正面と左側にいるゾンビの頭部へと正確に弾丸を撃ち込んでいく、それは先程までとは比べ物にならない命中率である。

「タカフミの奴……よし、二人ともそのまま頼むぞ!」

 ディックが感心しながら呟き、一呼吸すると、二人に言いながら開かれた突破口を駆け抜けていく。
 十九階を半分ほど抜け、東側へとディックが方向を変えるとその先にはまたあの電子ロックのかけられた扉が見えた。

「また電子ロックか……」
「大丈夫!さっきついでに解除したから!」
「お、そうか?ありがとな」

 ディックが舌打ちをすると細井が笑いながら言い、クルツのマガジンを素早く交換、群がるゾンビに更なる銃弾の雨を降らせる。
 布施もその横でM4のグレネードを放ち、ゾンビ達を炎上させると、ベネリにショットシェルを装填していく。

「よし、二人ともここまでで大丈夫だ、あとは俺一人で行く……」
「なに?ここまで連れてきて置いて今更お留守番か?」
「布施、そう言わないの、何分待てばいい?」
「そうだな十分か、それ以上は……」

 ディックが最上階へと続く階段があるフロアへのドアに手をかけ呟くと、布施がディックに向かって文句を言う。
 が、細井がそれを制止しディックに尋ね、ディックが落ち着いた声で呟く。

「了解、その時は先に脱出するよ」
「なんだって?」

 細井がうなずき、布施が疑問符を浮かべディックを見る。

「あぁ、頼む、ショウヘイによろしくな」

 ディックは細井に向かって呟くと、ドアを開け一気に最上階へと階段を駆け上って行く……
 ドアが閉まると同時にロック音が鳴り、布施が納得できずに後を追おうとするのを妨害する。

「細井、てめぇなんのつもりだ?ディックを一人で行かせて大丈夫なのかよ!」
「大丈夫じゃなかったら俺達だけで脱出するだけだよ」
「んな薄情な真似出来るかよ!」

 布施が細井のタクティカルスーツの襟元を掴み、怒鳴りつけ、細井が細々とした声で呟くと、更に布施が怒鳴りつける。
 しかし、次の瞬間、布施と細井の立場が逆転する。

「今はそんな事言ってられる状況じゃないだろっ!俺達はここでディックに邪魔が入らないようにゾンビ達を食い止めるしかない!この反応を見ろっ!タイラントが近くにいるんだよっ!」

 パソコンのディスプレイを布施に見せつけながら細井が怒鳴る。
 細井が始めて友人に向かって怒鳴った瞬間だった。

「タイラントがまだいるのか?」
「しかもリミットが解除されてる……」

 布施が細井の手を振り解き、M4を構えながら呟くと、細井が2丁のMP5を握り締めながら中央通路の先にいるタイラントを睨みつけながら呟く・・・・・・ 
 次の瞬間、タイラントが2人との距離を一気に詰めてくる。

「布施、右っ!」
「俺に指図するなっ!」

 細井が左に飛び、タイラントを交わしながら布施に言うと、布施が怒鳴りながら右に飛び、細井と同じくタイラントを交わす。
 廊下に着地するとタイラントはすぐに右腕を振るい細井を狙う。
 しかし、細井はそれを伏せてかわすと両手で構えたMP5のトリガーを振り絞りタイラントへと九ミリ弾を撃ち込んでいき、その反対側では布施が五.五六ミリ弾を撃ち込む。
 が、防弾コートに弾き返された弾頭が跳弾し、辺りに弾痕を刻んでいく。

「くそっ!細井、どうすりゃいい?」
「狙うのは頭と心臓!さっきみたいに俺が隙を作るから心臓を撃ち抜いてっ!」

 布施がタイラントと距離を取りながらM4のマガジンを交換しながら細井に指示を乞い、それに細井が応える。
 タイラントは左右に散った獲物を左右の目で捕らえ分析し、外見的に戦闘能力の劣っていると思われる細井一人に狙いを絞った。

「ほら見ろ、でも外見だけで判断しちゃダメだよ?」

 細井が笑みを浮かべながらMP5を廊下に向け、トリガーを引く。
 すると、廊下から飛び散ったコンクリート片が噴煙をあげタイラントの視界を一瞬奪う。
 タイラントが視覚を肉眼から熱反応に切り替えた瞬間には既に熱源はその場にいなかった。
 宙に舞った細井はタイラントの頭頂部へと狙いを定め、トリガーを振り絞っていた。
 九ミリ弾がタイラントの頭頂部へと命中すると、そこでタイラントは目標が自分の頭上にいることを認識し、顔を上げる。
 目の前まで迫った獲物を右手で捕らえようとするが、その右腕は獲物を捕らえる瞬間にタイラントのコントロール下から離れる。
 布施がベネリをタイラントに向けながら連続でトリガーを引いていた。

「ウグワァァ!!」

 タイラントがうめき声を上げながらその場で回転し、後ろにいた布施に向け左の拳で殴りつけ弾き飛ばす。
 布施が壁へと叩きつけられると同時に細井がMP5でタイラントを殴りつける。

「お前の相手は俺だっての!」

 折れ曲がったMP5を廊下に投げ捨て、タイラントへと背を向け細井が走り出す。
 タイラントはそれを追い、布施がその後ろでゆっくりと立ち上がる。

「松永だけじゃなく、細井までも……俺だけ仲間外れかよ」

 布施は細井や松永と違い自分には何も特別な力が無いことに腹を立て歯軋りをしながらタイラントの後を追い出す。
 ―――――細井の目の前には壁が立ち塞がりそこが行き止まりであることを示している。
 しかし、細井は構わず走り続け、タイラントが背後まで近づいたのを確認しながら壁を蹴り上げ垂直に駆け上がりながら宙に舞いタイラントの背後を取りクルツのトリガーを振り絞る。
 タイラントは壁にぶつかり、その背中に九ミリ弾が降り注ぐが、それほどのダメージは無い。

「布施の奴遅いな……」

 クルツを背中に回しながらバーレットを構え、タイラントの頭部へと狙いを定めながら細井が呟く。
 タイラントが残った左拳で細井に殴りかかろうとするが頭部を吹き飛ばされた勢いで再度壁に叩きつけられ体勢を崩す。
 壁にぶつかった反動で起き上がったタイラントの体に細井が続けて十二.七ミリ弾を撃ち込み、壁に叩きつける。
 それを繰り返し、タイラントの左腕から力が抜けたのを確認した細井がバーレットのマガジンを排出しながらため息をつくと振り返り、来た道を戻りだす。

「ふぅ、さすがのタイラントもこれだけ撃ち込めば……」

 細井の言葉が銃声でかき消される。

「あれ?まだ生きてたのか、しぶといなぁ」
「細井!油断してんなよっ!」

 布施が構えていたM4を下ろしながら、細井に駆け寄っていく。

「ははは……ごめんごめん」

 細井が笑いながら言うと、細井の瞳は下の色へと戻っていた。

「あれから何分だ?」
「もう七、八分でしょ……」
「戻ってこないな」
「とりあえず階段の方へ……」

 布施が細井に尋ねると、細井が答えながらディックと別れた場所まで歩き出す―――――
 
アンブレラ本社―――――

 オズウェルが満足した表情で一人しゃべりだす。

「まさかあのプロジェクトがここまでの力を持っていたとは……早いうちに摘み取っておいてよかったが興味深いな、実に興味深い」
『またタイラントが一体撃破されました!』

 研究員がスピーカーごしにオズウェルに状況を報告する。

「わかっておる、好きにさせておけ、政府の動きはどうなっている?」
『はっ!政府の方は未だに動きは見えませんね、合田も相変わらず応答なしです』
「そうか、不完全であったデストロイに《T》のデータを……楽しみだな」
『はぁ、モニターを続けますか?残りの一体が《S.T.A.R.S.》と接触しましたが……』
「あぁ、続けてデータを収集しろ」
『了解です!』

 オズウェルが研究員に言うと、研究員は改まった口調でオズウェルに返答すると、通信を切った。
 オズウェルは笑いながらまたPCのキーを叩きだす―――――

首相官邸・地下施設―――――

 男が口を開く。

「《S.T.A.R.S.》の男は最上階へ?」
「はい」
「映像を」
「メインに映します」

 研究員が答え、男が指示をすると研究員が間髪いれずに答えメインモニターに最上階にいるディックの姿が映し出される。

「よもやこんな事態になろうとは……しかし、データさえあれば我々の計画は問題ないわけだが」
「この男本気でポッドを爆破する気なんでしょうか?今更やっても無駄でしょうに……」
「まぁ、最後まで悪あがきするのが好きなようだな、無事に破壊できるかは彼の実力次第だ」

県庁・最上階―――――

「こちらディック最終目標の目の前だ指示を」

 県庁最上階、《T−ウィルス》が満々に満ちているポッドの目の前でディックが呟く。
 その体はポッドから放たれる綺麗な青い光で照らされている……

『任務内容に変更はなし、ワクチン投薬後、爆破して下さい』

 ルナが落ち着いた声でディックに指示を出す。

「了解」

 ディックは一言返事をすると、パウチの一つから緑色の液体の入ったカプセルを取り出し、別のパウチから取り出した投薬器へとカプセルを取り付ける。
 投薬器の先端をポッドへと押し付けながらディックが呟き、投薬器のトリガーをゆっくりと引く。

「これで終わりだ……」

 その瞬間、投薬器の先端から圧縮空気で特殊合金製の針が射出されポッド内部へと侵入し、カプセルから緑色の液体が流れ込む。
 青色のウィルスと緑色のワクチンが混ざりあった箇所から順に赤色へと変化していき、ポッド下部に取り付けられたディスプレイから警報が鳴り響く。

「よし、五分で準備完了、その三分後に爆破する」
『三分!?間に合うの?』
「間に合わせる、時間がないんだよ、それまで暴れん坊のお相手をしてやらなきゃいけないみたいだからな!」

 ディックが呟くと、ルナが慌ててディックに尋ね、ディックは振り返りながら力強く答え、タイラントの初段をバックステップでかわす。

「スーパータイラントと接触、ワクチンの効果が現れるまでの間相手をしてその後爆発に巻き込ませて活動を停止させる……」
『了解!絶対に死なないでよ!』
「オペレーターが縁起でもないこと言うな!俺はいいからショウヘイ達の脱出をサポートしろ!いいな!」
『ごめんなさい、わかったわ、それじゃあまた……』
「了解」

 ディックが両腿のホルスターから愛用のトンファーを引き抜きながら呟く。
 タイラントがゆっくりとディックとの距離を詰めていく。

「お前とはシュミレーションで何度戦った事か……いい加減うんざりなんだよっ!」

 それとは正反対にディックは一気にタイラントとの距離を詰めていく。
 タイラントが振り下ろした右腕をトンファーをクロスさせ受け止めると柄を握り締め、刃を展開させ一気にトンファーを振りタイラントの右腕を切り裂きながら振り払う。
 タイラントはうめき声を上げながら左ストレートをディックに繰り出すが、ディックはそれすらも余裕で交わし、タイラントの背後を取る。
 ディックが握り締めたトンファーを交互にタイラントの背中へと突き刺していく。
 タイラントが裏拳を繰り出しディックを振り払うと背中の筋肉を収縮させ出血を抑えると右腕から刃を伸ばす。

「お?あんなのデータに無いけど……あと三分か」

 ディックが首をかしげながら呟き、投薬器に装備されている小さなディスプレイに表示されているタイマーを確認する。
 タイラントが再度ディックに向かって突進し、ディックが身構える。
 タイラントの刃をディックがかわすとカウンターを繰り出す。
 しかし、それはタイラントの背中から生えた補助腕に防がれる。

「ふざけん―――」

 ディックが愚痴を漏らした瞬間、次々と生えてくる補助腕が繰り出すストレートが直撃し、地面に叩きつけられる。
 すぐに飛び上がると目の前には阿修羅のように六本の腕を生やしたタイラントがディックに向かって歩き出していた。
 ディックがタイラントの何倍もの速度で移動し、タイラントの背後を取ると新たに生えた補助腕を根元から切断しようとする。
 しかし、一本の補助腕を切断しようとすると他の五本の補助腕がディックを襲う。

「隙がねぇ、こんなタイプ初めてだぞ……あと一分で準備完了か、さっさと終わらせる!」

 ディックがまたタイマーを確認し、呟くと次の瞬間タイラントが攻撃に転じ、一気にディックとの距離を詰めてきた。
 ディックはそれを見ると笑みを浮かべトンファーをしっかりと握り締め、身構える。
 両足でステップを踏みながらタイラントが距離を詰めるのをじっと待ち構え、タイラントがその六本の腕を一斉にディックへと放った瞬間、ディックが動く。
 六本の腕から繰り出されたストレートをしゃがみこみかわすと、右腕で弧を描き補助腕を切り裂き、続けて左腕で弧を描いて更に補助腕を切り裂く。
 タイラントがひるみ弱点である大きな心臓を露出させた瞬間、トンファーを逆手に持ち替えながら両腕を後ろに大きく引き、そして一気に前方へと突き出す。
 トンファーがタイラントの心臓へと柄の部分まで突き刺さり、心臓からは血潮が噴き出す。
 ディックはトンファーから手を離すとタイラントを蹴飛ばし、タイラントへ背を向け、ポッドへと向かい爆弾を仕掛ける。

「よし、あとは脱出するだけだな……あとは日本政府をどうにかしないと。まぁ、クリス達に報告してからになるだろうが……」

 ディックが小言を言いながら立ち上がり脱出のため階段の方へと足を向けるとその背後で物音がした。

「おいおい、冗談はよしてくれよ……」

 ディックの視線の先には先程倒したはずのタイラントが更に体を巨大化させ切り下ろされた腕よりも更に大きな腕を生やしてディックを待ち構えている姿があった。

「覚悟決めますか!」

 ディックが呟き、タイラントへと駆け出して行く―――――
 
県庁・十九階―――――

 布施はM4を構え辺りを警戒し、細井はひたすらパソコンのディスプレイを眺めている。
 その時、細井が口を開き、立ち上がる。

「よし、十分だ。脱出しよう」
「おい、本気なのか?もう少し待とうぜ?」
「ディックさんの意志を尊重しよう、ディックさんなら大丈夫だよきっと」
「『きっと』ってなんだよっ!だいたいな――――」

 布施が細井が冷静にディックを置いて脱出しようとするのを見て制止するが細井はそれを聞かない。
 布施がなおも制止しようとすると二人の耳に何者かの足音が近付いて来る……

「誰?」
「タイラントか?」
「それにしちゃぁ音が軽すぎる」

 細井が首をかしげると布施が細井に尋ね、細いがそれに答える。
 次の瞬間、声の主が二人の目の前に現れる。

「おい!二人とも!無事か!!」

 そこには二人が倒したゾンビの体を軽々と飛び越えながら近付いてくる松永の姿があった。

「松永!」
「翔平!こっちは大丈夫そっちは?」
「そうだ!松川はどうした?仇は!?」

 布施が最初に反応し、細井は自分達の無事を松永に伝え松永の心配をする。
 布施は思い出したかのようにデストロイのことを尋ねる。

「デストロイは始末した。松川は……」

 松永が首を横に振りながら呟く……

「そっか」
「松川の野郎、先に逝っちまいやがったか……」

 細井と布施も肩を落とし、呟く。
 細井の瞳には涙が浮かぶ。

「でも、形見ももらった。お前達にもっ」

 松永が狼牙を握り締めながら呟くと、二人に一つずつ松川の制服から剥ぎ取ったボタンを投げ渡す。

「これは?」
「あいつの制服のか?」

 細井と布施が松永に尋ねる。

「そうだよ、ほらこいつのメダリオンと同じサイズだ、交換しなよ」
「おぉ、本当だ!俺も早速、これでいつでも松川と一緒だね!」

 松永がサムライエッジのグリップに本来装着されている《S.T.A.R.S.》のメダリオンの代わりにボタンをはめ込んだ物を二人に見せながら言うと、細井もそれを真似しながら腰の鞘からナイフを取り出し、メダリオンとボタンを交換し始める。
 が、布施は快い顔はしていない……

「んな恥ずかしい真似できるかっての!」
「いいから貸せよ!」

 布施が言うと、松永が布施からサムライエッジとボタンを取り上げ慣れた手つきでメダリオンとボタンを交換する。

「おい、松永!」
「いいじゃないか、な?」

 松永が布施に笑いながらそっとサムライエッジを手渡す。

「くそ!仕方なくだからなっ!」

 布施はサムライエッジを乱暴に受け取り、腰のホルスターに収め、松永はそれを見て笑いながら細井に尋ねる。

「ディックさんは?」
「最上階だよ……」
「そうか、それじゃあ早く脱出を!」
「うん。それとこれディックから」
「あぁ、わかった」

 松永は細井からG36Cを受け取るとすぐに振り返り来た道を戻ろうとする。
 が、それをまた布施が制止する。

「おい、松永お前までディックを見捨てるのか!」
「お前も聞き分けないな!見捨てるわけじゃ―――」

 松永が布施に反論しようとした瞬間、大きな爆発音が辺りを包み、県庁全体が震えだす。

「うそでしょ!早くない!?」
「畜生!さっさと脱出だ!行くぞ布施!」
「くそったれぇ!!」

 三人は揺れる県庁から脱出するため来た道を戻り、階段へと駆け出した。
 県庁の最上階は粉々に吹き飛び、その余波で県庁全体が崩壊を始めていた―――――



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