二十章 脱出


二十章 脱出




 県庁の揺れは収まるわけもなく三人を襲い続ける。
 天井から落ちてくるコンクリート片が頭に降り注ぐ中、三人はひたすら階段を駆け下りていた。

「おい、階段が壊れてっぞ!」

 布施が声をあげる。
 三人の先には五階から四階へと続く踊り場から下が崩れた階段があった。

「貴史、他に道は?」
「どうやら五階より下に行くには別の階段が使えるみたい、東西南北に一つずつ……」
「よし、西から行くぞ!」

 布施の言葉を聞いた松永が細井に尋ね、細井はパソコンのディスプレイに表示されている県庁の内部地図を見ながら呟く。
 細井の呟きを聞いた松永は急停止し、五階へと続くドアを蹴破り内部へ突入、布施が続くと、最後に細井が五階に入っていく―――――
 そこは十九階と同じく大量の屍達で溢れていた。

「こんな所にまでいやがる!」
「弾は無駄に使うなよ!」
「百メートル先、左に曲がって後は直進……」

 布施がベネリを構えながら愚痴を漏らすと、松永が布施を見ながら言うと細井からの指示を聞き、狼牙に手をかけ、ゾンビの群れへと駆け出す。
 布施が首を捻りながら松永に続き、左右から近付いてくるゾンビ達に向けトリガーを引いていく。
 細井はクルツを片手にディスプレイを逐一確認しながらゾンビの眉間へと九ミリ弾を放つ。
 再び朱色に染まった瞳でゾンビの群れを睨みつけながら走りながら抜刀する。
 次の瞬間、松永の前方にいたゾンビ達の頭部が次々と廊下へ転がり落ちる。

「松永、すげぇじゃねぇか!」
「これぐらい……」
「そこ左!」

 布施が感心しながら松永に言うと松永が照れながら返事をし、細井が指示を出しながら一足先に廊下を曲がり西側へと向かう。
 それに少し、遅れながら二人が続く。
 二人が細井に追いつき、三人で一緒に走っていると天井から崩れた一際大きな瓦礫が布施の頭に直撃する。

「痛ってぇ!」

 布施が頭を抑えながらその場に伏せる。
 細井が心配して駆け寄ると、追い討ちをかけるかのように瓦礫の群れが二人を襲う。
 細井が眼を閉じ、布施が舌打ちをする。
 しかし、二人に降り注いだのは粉々に砕かれた粉状の瓦礫だった。

「おい、立ち止まってる暇はないだろう?」

 狼牙を鞘に収めながら二人の前に着地した松永が笑いながら話しかける。
 布施と細井は互いに顔を見合わせ少し笑うと素早く立ち上がり、駆け出す。
 が、松永はその場から動こうとはしない……

「おい、松永何やってる!置いてくぞ!」
「ああ、そうしてくれ、殿はまかせろ!」

 布施の方を見ながら松永が呟き、顔を正面に戻すと狼牙を引き抜きながら叫ぶ。

「わかった!でも絶対に死んじゃだめだからね!」

 細井が松永の方を見るとその先にはハンターやリッカー達《B.O.W.》の群れが確認できた。
 松永は二人に右手をあげ早く逃げるように催促すると化け物達の群れへと駆け出す。
 それを見た二人も階段へのドアを開け、急いで駆け下りていく。
 松永が狼牙を一振りすると、先頭に立っていたハンターの頭が吹き飛ぶ。
 それを見た化け物達は一斉に松永から距離を取ろうとする。
 しかし、一体のハンターはその長い舌を松永の右足に踏まれ地面に叩きつけられた。
 
「自慢の武器が仇となったな……」

 松永が呟きながら狼牙を逆手に持ち替えリッカーの頭部へと突き立てる。
 その背後にハンターが回りこみ大きな右腕を振るう。
 松永は狼牙を引き抜きながら跳躍し、それを交わすと空中で反転しながらそのハンターの背後を取る。
 狼牙を左手で持ち、腰を落とし右手を開き気味のまま構え、ハンターへと掌打を喰らわす。
 次の瞬間ハンターの腹部は粉微塵に吹き飛び、辺りに臓物と血液を撒き散らしながら廊下へと倒れた。
 続いてハンターが松永へと突進してくる。
 松永は狼牙を鞘に収め、居合いの構えを取る。
 が、天井が大きく崩れ、ハンターは落ちてきた瓦礫の下敷きになった。

「そろそろ、脱出しないとやばいよな……」

 松永は呟きながら狼牙から手を離す。
 その背後に一際大きなハンターが聳え立っている。
 松永はその気配に気がつくと、反転しながら飛び距離を取る。
 そのハンターの背中からは補助腕が伸び、胸部も一際硬く硬質化しており、急所の心臓部をしっかりと防護している。

「突然変異?まあ、そんなことはどうでもいい……」

 松永が呟きながらハンターへと突進していく。
 二人は松永と別れた後は特にゾンビ達と遭遇することもなく無事―――――とは言いがたいがなんとか一階に到着していた。

「ああ、痛い」
「布施、大丈夫?」
「なんで俺の頭にばっかり落ちてくるんだよ!」
「俺に言わないでよ……」

 布施が頭を抑えながら愚痴り、細井は苦笑いしながら、受付カウンターにあったパソコンから情報を引き出そうとしていた。
 布施がパソコンのディスプレイを覗き込むが、そこはめまぐるしい速度で幾重にも重なりあったウインドウが表示されており、布施にはまったく理解できなかった。

「おい、細井、まだロックは解除できないのか?」

 布施が話しかけるが、細井が返事を返すことはない。

「おい!」

 布施が細井の耳元で怒鳴る。

「え?ああ、今解除するよ、デストロイの情報とか無いかな?と思って調べてたんだけどね」

 細井が驚きながら布施に話すと、正面玄関のロックが解除される。
 四人が乗り込んだときには開いていたはずのドアが二人が一階に着いたときには何故かロックされていたのだ。

「それで情報は?」
「ここには無い、どうやら官邸に実験施設があるらしいけど――」

 大きな爆発音で細井の言葉はかき消される。
 布施が慌てながら正面玄関の方へと走り出すと、細井も上の階の様子を伺いながら布施の後追って行く。
 なんとか外に脱出した布施が県庁を見ながら呆然としている。
 県庁の十九階から上は吹き飛び、原型は留めていなかったし、その下の階も爆発の反動で次々と崩れ始めていたからだ……
 続いて出てきた細井が心配そうな眼差しで松永が残って殿を務めている五階を見つめる。
 次の瞬間、五階の窓ガラスの一部が割れそこから巨大なハンターとそのハンターの顔に狼牙を突き立てながら松永が落ちてきた。

「松永!」
「翔平!」

 二人が叫ぶと同時に五階から爆炎が噴き出し、残っていた全ての窓ガラスが吹き飛ぶ。
 松永がハンターの顔からゆっくりと狼牙を抜きながら立ち上がる。
 二人が松永に駆け寄ろうとするが、松永がそれを制止し、二人は顔を見合わせながら立ち止まる。
 松永が二人を見ながら笑うと松永の背後で県庁が轟音と共に崩れ落ちていき、辺りを噴煙で真っ白にしていく……

「あ〜あ大金かけて作ったのに」
「翔平、そんなことより大丈夫なの?」

 松永が笑いながら崩れていく県庁を眺めていると細井が駆け寄りながら声をかける。

「俺は大丈夫、二人こそ大丈夫なのか?ディックさんは?」
「俺らは無事だ、ディックには会ってない……」
 
 松永の問いに答えたのは布施だった。
 布施はうつむきながら呟くとそのまま地面へと座り込む。

「そうか、ルナさん脱出は完了しました。ディックさんの生死は不明。通信も出来ません」
『ええ、あなた達が無事で良かったわ。ディックも最後までそれを心配してたから……今そっちに《S.T.A.R.S.》の部隊が向かっているから合流してから石川県を脱出してちょうだい』

 松永は布施の肩に手を置き、慰めるように一言言うとインカムを使いルナへと状況を報告、ルナは松永へ指示を出した。
 しかし、松永はルナの指示には応じなかった。

「いえ、俺はこれから行く、いや行かなければならない場所があるので……」 
『え?まさか――』
「はい、官邸に乗り込みます。貴史が研究施設はそこにあることを突き止めてくれたので」
『止めても聞かないわね、あなた達は私達の指揮下にはないから好きなように行動して下さい』
「ありがとうございます」

 松永はルナとの通信をひとまず切り、細井に向かって合図をすると布施へと語りかける。

「布施、お前はどうする?」
「今更、はいそうですかって俺だけ逃げるわけにはいかねぇ、親父の仇もまだ正確には取れてないからな、決着をつけてやる」
「そう言うと思ったさ」

 松永が笑いながら呟き、布施に手を差し伸べ、布施がゆっくりと立ち上がる。
 立ち上がった二人は細井から声をかけられ、置き去られた装甲車の方へと歩いていく……
 細井は既に運転席へ座っており、パソコンを使い官邸までの最短距離を導き出していた。
 その様子を見た二人はそれぞれ助手席と後部座席へと乗り込み、後部座席へと乗り込んだ布施が他の二人の武器を受け取り、整備を始める。

「貴史、どれくらいでつく?」
「すぐに出発するよ、高速飛ばして日の出ぐらいにはつけるようにする」
「了解、布施銃器の方は問題ないか?」
「あぁ、少しクリーニングすりゃまだまだ使える。弾薬も車の中に大量にあったしな」

 松永が二人に状況を聞き、ほっと溜息をつく。

「それじゃあ出発するよ」
「ああ、政府にどでかいカウンターパンチを喰らわせに行きますか」
「今度は政治家と戦うのか?そりゃ楽しみだ」

 細井が二人に向かって言うと、松永が呟き、布施が笑いながら言う。
 細井がいつかと同じ様に右足に力を込めアクセルを踏むと装甲車がゆっくりと死体だらけの道路を走りだした―――――



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