二十三章 人形


二十三章 人形




 官邸の前に立つ人影、腐食した肌の下からは鈍く光る金属の肌を覗かせている……
 細井が装甲車の運転席から人影を確認すると松永に通信を入れ指示を乞う。
 インカムからは松永が助手席からは直接布施が同時に跳ね飛ばせと細井に言う。
 細井は二人にあきれながらアクセルを踏み込み、人影へと装甲車を突進させる。
 人影と装甲車が接触する瞬間、中に乗っていた二人に衝撃が襲う。
 人影はゆっくりと右腕を持ち上げ装甲車のフロントバンパーを掴み、装甲車の動きを封じていた。
 松永は後ろでそれを見ながら二人に飛べ、と一言放ちバイクを加速させる。
 松永に言われると同時に布施と細井は武器を握り締めながら装甲車から飛び降りる。
 人影は装甲車を軽々と持ち上げ数十メートル先まで投げ飛ばし炎上・爆発させた―――――
 二人が驚きながら立ち上がると後ろから爽快なバイクの駆動音が聞こえてくる。
 松永はバイクから飛び降りながらG36Cを構える。
 バイクは直進し、人影と接触、その瞬間ガソリンタンクに五.五六ミリ弾が命中爆砕した……
 
「これで問題ないだろ」

 松永が呟く、布施が先行し様子を伺おうとするがその必要は無かった。
 立ち上る噴煙の中から弾丸が次々と飛び三人を襲ってきた。
 細井の合図で三人は散開、攻撃を避けると武器を構える。
 細井は左腕に備え付けてあるパソコンで情報の分析を始める。

「ゾンビに銃器つけるなんて……《ネメシス》の反応も無いし、日本政府の新型?」

 細井が一人呟いていると、布施が松永に援護射撃を要請、人影へと突貫していく。
 松永はG36Cで人影を狙い布施の援護を、布施は援護射撃を背に人影との距離を一気に詰め近距離で散弾を放ち直撃させる。
 しかし、散弾は人影の硬い皮膚に弾かれ金属音を奏でながら跳弾辺りへ弾痕を刻む。
 布施が一瞬戸惑った隙を突き、人影は左腕で布施の首を掴み、持ち上げる。
 布施のつま先が地面から浮き、呼吸が困難になる……
 骨が軋む音が布施の耳に入り、さらに人影が力を加えようとすると、不意に衝撃に襲われ布施から手を離す。
 細井がバーレットを構えていた。
 
「あいつ、サイボーグだ……全部機械で出来てやがる……」

 乱れた呼吸を必死に整えながら布施が二人に自分の見たままを伝えた。
 松永はあきれ、細井は日本にそんな技術力があるのかと呟く……
 その時、サイボーグがゆっくりと立ち上がり言葉を発する。
 私は敵ではないお前達の案内役だと、その声は三人には聞き覚えのある声だった。
 布施がホログラムの声だと叫びM4の銃口を向けるが、松永に制止されトリガーから指を離す。
 県庁での二の舞は御免だと言わんばかりに布施を睨みつけた松永がサイボーグにじゃあ案内してもらおうかと一言告げる。
 サイボーグは鈍い金属音を立てながら反転するとゆっくりと官邸の中へと入って行く。
 松永を先頭に三人もそれに続き、最終目的地である官邸へと足を踏み入れる。
 三人の体が官邸内へと収まると全ての出入り口にシャッターが幾重にも重なって落ち三人を閉じ込める。
 しかし、三人は慌てるわけも無くサイボーグを睨む。
 サイボーグは三人の様子に戸惑いながらもまた言葉を発する。
 
「しかし、私は納得できない、お前達が何故合田に必要とされるのかを……私はお前達よりも優れている、それを合田に見せてやる」

 サイボーグは小さく呟くと右腕を変形させ銃に変えると銃口を松永に向ける。
 結局戦闘かと松永はあきれながら呟きターミネーターの倒し方なら布施が知ってるだろと先頭を布施に譲る。
 後ろでは細井が笑いながらクルツを構え戦闘体制に移っている。
 松永もそっとG36Cを握り締め、身構えサイボーグの様子を窺う。

「ヒステリックなサイボーグなんて御免だぜ?」

 布施の言葉をきっかけに三人とサイボーグの戦闘が始まった―――――
 サイボーグの先制攻撃を散開し避けながら布施が松永に指示を乞うが、松永は作戦立案は細井の役目だと言う。
 布施が感心しながら細井に指示を乞うと細井は布施が先行し撹乱、細井が大口径弾にて頭部を狙う。
 それで無理ならば松永の狼牙で一閃、という作戦だった。
 布施がM4が構えサイボーグに突貫、グレネードを発射し続けざまに五.五六ミリ弾を撃ち込む。
 サイボーグの反撃を横に飛び避けるとそのまま横移動しながらベネリを構え散弾を放ちつつ壁へと身を隠す。
 細井に弾丸では歯が立たないと布施が通信を入れ、細井は自信ありげにこれだけ大きければとバーレットのトリガーを引く。
 十二.七ミリ弾はサイボーグの頭部へと命中、その体を宙へと飛ばす。
 鈍い音を立てながら地面に落ちたサイボーグへ止めを刺すために松永が一気に近付く、がサイボーグは体を跳ね上げながら立ち上がり左腕を刃へと変え松永に振るう。
 松永は素早く狼牙を抜き刃を防ぐと、そのまま狼牙を振り上げ刃を切断左手で掌打を放ちサイボーグとの距離をとる。
 サイボーグの頭部は変形してはいるが機能にあまり支障は無いようだ。
 布施が腹を立て細井は落胆、松永はゆっくりと眼を閉じる……
 見開くと同時に駆け出し、狼牙を一振りサイボーグの左腕を切り落とす。
 サイボーグはふらつきながら右腕を上げ弾丸を速射、松永は軽くそれを回避すると細井に他にまだ方法はあるだろと通信を入れる。
 それを聞いた細井も力を解放し、サイボーグの裏へと回りこむ、布施は援護射撃ワンマガジン撃ち尽くす頃には細井は射撃位置についていた。
 細井は一人呟きながらバーレットのトリガーを引いていく。
 放たれた十二.七ミリ弾は唯一装甲の薄いはずのサイボーグの間接部へと直進していく。
 弾頭がサイボーグへと接触、サイボーグの残された手足を次々と爆砕する……
 胴体と変形した頭部だけが残ったサイボーグは一人呟く。

「やはり、私には力が……」
「使い方を間違えただけだ」

 松永がサイボーグに近付きながら呟くと、装甲の剥げ落ちた頭部と動力源らしき心臓部へと九ミリパラベラム弾を撃ち込み、機能を停止させた――
 布施が銃器に弾薬を補充している間に松永は狼牙の刃を綺麗に拭き、細井は官邸の受付にあるパソコンに自分のパソコンを繋ぎ、地下施設の場所を割り出し地図をダウンロードしている。
 細井が立ち上がり先頭に立つと、二人が後に続き官邸の奥へと進んでいく。
 途中いくつもの研究員や政治家達の死体を見ながら当然の報いだと呟く布施を見ると松永は彼らも合田の操り人形だったのだと布施に言う……
 細井の視界の中に一際大きな金属の扉が入る。
 無機質でひんやりと冷めている扉に触れながら合田が認証を行っていた端末へとパソコンを繋ぐ。
 認証をパスし扉を強制的に開放させようとキーを叩いた瞬間、遅れていた二人の背中ぎりぎりの所で隔壁が下りる。
 二人は驚き、細井の下へ駆け寄り何事かと尋ねると、細井は軽く謝りながらまた力を解放する……
 それから数分、もう少しで開放という所で解析速度が著しく低下する。
 布施が尋ねると、細井は攻勢防壁のせいで難しくなっていると呟く。
 次の瞬間、三人の遥か後方隔壁が降りた箇所の天井が開き、通路と同じ幅の重々しい鉄球が舞い降りてきた……

「インディジョーンズじゃねぇんだぞ」

 松永が呟き、布施がすかさずM4を鉄球に向け、トリガーを引くが弾頭は空しく跳弾し鉄球に傷一つつけられなかった。
 松永が細井を急かすが解析速度は変わらない、鉄球が徐々に速度を上げながら三人に向かってくる。
 布施が止めるしかないよなと松永に尋ね松永もうなずき二人で駆け出そうとした瞬間、鉄球から幾本ものトゲが飛び出し通路をえぐり更に速度を上げた。

「細井、早くしろ!」

 布施が怒鳴る。
 松永は腰を落とし右手を狼牙の柄に添え、布施は無駄だとわかりながらもベネリのトリガーを引く点
 二人の目の前まで鉄球が迫り松永が狼牙を引き抜こうとした瞬間、襟を掴まれ後ろに引っ張られる。
 松永が腰を落としひんやりとした通路に座り込んでいる、隣には布施、目の前にはトゲの生えた鉄球……
 襟を掴んでいるのは細井だ。

「時間かかっちゃった」

 細井が笑いながら軽く言うと布施が立ち上がりながら細井の頭を殴り、松永に道を尋ねる。
 松永はそんな二人を見て笑いながら地図は細井だと言うと布施が舌打ちをしながら細井に道を尋ねる。
 細井は謝りながらパソコンのディスプレイを覗き込み進むべき道を二人に示す。
 布施が先行し細井がその後に松永はG36Cを構えながら最後尾についた。
 数分進むとまた無機質な隔壁が道を塞いでいた。
 細井がまた開放しようとするが松永に制止させられる。
 松永が狼牙を一振りすると隔壁は音を立てながら崩れ落ちていく……
 布施が感心しながら先行すると、銃弾の雨に襲われ脇の通路に身を隠す。
 松永はG36Cの、細井はクルツのトリガーを振り絞りながら布施の隠れた脇道へと身を隠す。
 狭い通路には三体の警備ロボットが立っていた。
 先程のサイボーグよりは人間とかけ離れてはいるがシルエットは人間に近い。
 両足は逆間接になっており、機動性に富んでいるのがわかる。
 両腕の先は二門の銃口が光っており、両腰と頭部に鋭利な刃物が装備されている。
 細井が敵の手の内が読めないから各個撃破でいくと伝え珍しく先行しクルツで弾幕を張る。
 布施がそれに続きロボットの頭部へとM4を放つ、サイボーグとは違い装甲へと小さな穴が開きロボットは通路へと倒れこむ。
 左端に居たロボットが倒れ隙が出来ると細井は右端に居たロボットの後ろへと回りこむ。
 真ん中に残っていたロボットがそれを阻止しようとするが、松永に捕まり反対方向へと投げ飛ばされる。
 宙で反転しつつ地面に着地した瞬間には目の前に白刃が迫っていた。
 腰についている刃を体の前で交差させ防御しようとするがその刃は胴体ごと紙切れのように切り裂かれた……
 細井はロボットの背中へとバーレットの銃口を突きつけ、文字通り爆砕。
 ベネリの散弾をこれでもかとロボットに撃ち込んだ布施は日本の技術力に感心しながらロボットの頭を踏み砕く。
 細井が弾薬が少ないことを二人に告げると二人も弾薬を確認する。
 救出活動の際に思った以上に弾薬を消費したらしくこれ以上の戦闘は来るべき合田との決戦のために温存するべきだと決まった。
 全ての銃器にセーフティを掛け両手を空にした布施が少し不安になりながらも近接戦闘用に刀を持っている松永に羨ましいと言う。
 が、松永は金属バットでも持ってくるかと布施をからかい細井がパソコンのキーを叩きながらそれを聞き笑う。
 布施は松永に勝てないことなどはわかっているため怒りの矛先を細井へと向け拳を振り下ろす――
 が、ついに細井までもがそれを軽々とかわした。
 布施が深い溜息を吐き落胆していると細井がもうすぐ最深部だと呟く。
 他の二人の表情も硬くなる。
 布施と松永が閉ざされた扉を蹴破る――――
 そこには研究員のゾンビ達が蠢いていた。
 松永が狼牙を引き抜き、布施が右ストレートを放つ。
 その部屋の一番奥、ゆったりとした椅子にはあの合田が腰を下ろしてその光景を眺めていた……
 松永と細井はゾンビ達を迎撃しながらそれに気づくが布施にその余裕は無い。
 迎撃しているのは布施と松永だけで細井は合田の姿を見て松川――デストロイを思い出していた。
 布施が細井を怒鳴りつけるが自分はバックアップだと言われその怒りをゾンビ達へと向ける。
 松永は黙々とゾンビ達を切り捨てていく……
 布施が最後のゾンビの頚骨を折り活動を停止させるとやっと合田の存在に気づく。
 二人に馬鹿にされながら合田に仇を取らせてもらうと叫ぶと合田がゆっくりと椅子から腰を上げ三人に向かって言い放つ。

「ようこそ死者の都の、そして君達の終着点へ!」



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