二十四章 決着


二十四章 決着




 布施がM4のトリガーを振り絞り、五.五六ミリ弾を放つ、松永もそれに続けG36Cのトリガーを引く。
 合田は椅子から天井近くまで跳躍し弾頭を避けると地面に着地すると同時に地面を蹴り加速、三人との距離を縮める。
 細井が二人に指示し、三人は散開するが、細井が合田の左肩から生えた大きな掌のついた補助腕に捕まる。
 松永が布施に合図し、二人で細井の首をへし折ろうとしている補助腕へと五.五六ミリ弾を放つ。
 補助腕の動きが一瞬鈍った隙に細井がバーレットの銃口を補助腕の付け根へ突きつけトリガーを引く。
 補助腕は吹き飛び、細井が首から動かなくなった掌を剥ぎ取りながら合田との距離を取る。
 布施が楽勝だと呟くと、合田が笑い、深呼吸する。
 深い溜息をゆっくりと吐いていくと、焼け焦げた箇所から新たな補助腕がゆっくりと生えてきた、その大きさは先程の補助腕とは比べ物にならない……
 続けざまに合田の背中が切り裂け、中から次々と触手が伸びそれが巨大な体を構築していく。
 三人はその光景に唖然とし身動きが取れなくなっていた。
 それから三十秒もしないうちに合田の体は完全に人間とは別の生物に変貌していた。
 その姿は三人が県庁で接触したデストロイに酷似していたが、大きさは一回りほど大きい……
 右腕の刃は一際大きく鈍く光り輝いており、左腕は掌はそれほど大きくは無いが左腕全体が硬質化している様子だった。
 松永がデストロイの頭部を見つめ軽く首を捻る。
 理由は一つ、自分が松川の体から成長したデストロイを仕留める際に破壊した結晶が合田が姿を変えたデストロイの額には無かったからだ。
 松永が二人にその事を伝えると細井がならば合田本体を破壊するしかないと呟く。
 すなわち、合田本体を破壊するためにはデストロイの破壊が先だということだ。
 三人がのんびりと会話をしていると合田が、いやデストロイが一気に距離を詰め三人へと攻撃を開始する。
 布施がデストロイの左腕の攻撃を避け、M4のトリガーを引くが左腕の硬い皮膚に弾かれ、辺りに空しく弾痕を刻む。
 松永は右腕の刃を狼牙で受け止めるがその刃は重く、松永は片膝を地面につけ必死に耐える。
 デストロイの右腕の付け根に十二.七ミリ弾が直撃するがデストロイはひるまず、背中から触手を伸ばすと細井を壁へと叩きつける。
 松永はその隙に重々しい刃から逃れ跳躍、デストロイの頭部へと狼牙の刃を向ける。
 しかし、右足を触手に捕まれそのまま地面へと叩きつけられ、狼牙が右手から離れる。
 布施は次々と伸びてくる触手をベネリで迎撃するがすぐに弾が無くなり、その大きな体を触手に巻きつかれ身動きが取れないまま天井近くまで持ち上げられる。
 布施が右手から離したベネリは二本の触手に捕まり引きちぎられ機能を果たせなくなった。
 松永がすぐに立ち上がり一旦狼牙を鞘へと収めG36Cを構え直し布施を捕らえている触手へと五.五六ミリ弾を撃ち込み触手を粉々にし、布施を救出する。
 布施はもうちょっと優しく扱えと怒鳴りつけるが松永はそれに答えている余裕は無い。
 そんな事を言っている布施のすぐ後ろに新たな触手が迫るが、布施の首へと巻きつく寸前に細井の放った九ミリパラベラム弾により砕け散る。
 細井に叱責された布施は舌打ちしながらM4を構え直すと、懲りずにデストロイの正面から突っ込む。
 仕方なく松永と細井が援護射撃をしながらデストロイとの距離を詰めるが、デストロイの振り下ろした左腕のせいで地面が砕け、前進を阻まれる。
 と同時に右腕の刃を振るい布施の両足を切断しようとする。
 しかし、布施もやられたままではなく、軽く跳躍するとその巨大な右腕に飛び乗り、一気に駆け上り、デストロイの頭部へと五.五六ミリ弾を放っていく。
 デストロイが驚き、一瞬動きが止まった瞬間、細井はデストロイの背中へと、松永は巨大な四本の足のうちの一本へと駆け出す。
 布施がデストロイから飛び降りながらM4のマガジンを交換する。
 布施が地面に着地すると同時に細井はバーレットのマガジン内に残っている全弾をデストロイの背中に撃ち込み、触手を全て破壊、デストロイの背中の肉を撃ち砕く。
 デストロイが咆哮をあげると、松永が狼牙を引き抜き右前足を切り裂く。
 さらに大きな咆哮をあげながら左後ろ足で細井を蹴り飛ばし、松永に右腕を振るう。
 松永は狼牙を体の横で構え刃を防ぐが、衝撃までは防げず数メートル離れた壁へと叩きつけられた。
 傷を負った獣は恐ろしい……その眼は黄金に光輝き、右腕の刃は白熱化し、左腕の先端には銃口のような物が出来ている。
 
「あの刃は危ないぞ、それに左腕の物も気になる……」

 松永が二人に告げるとG36Cに最後のマガジンを装填し、デストロイへと駆け出す。
 布施が援護射撃しながらそれに続くと、細井はデストロイの背後からクルツのトリガーを引きながら迫る。
 デストロイが前から迫る二人に向けゆっくりと左腕をあげる……
 次の瞬間、左腕の銃口らしき場所から眩い光のような物が照射される。
 松永が叫び布施が横に飛ぶ。
 二人の走っていた直線上にあった全ての物は焼き尽くされ、黒く焦げ煙を上げていた。

「レーザー兵器だと!?」

 いちいち驚くなと布施に怒鳴った松永はデストロイの前足を踏み台にデストロイの左腕の付け根へと狼牙を振り上げる。
 切り口から鮮血が噴き出すと共にデストロイは手当たり次第にレーザーを照射し施設内を火の海へと変えていく。
 着地した松永をデストロイが右腕の刃で狙うが、後頭部へ十二.七ミリ弾を撃ち込まれ狙いがそれる。
 その刃の先には布施が立っている……
 松永が叫ぶが、時既に遅し……布施の右腕は付け根から切断され布施の右腕と握られていたM4は地面に転がり、布施は声にならない声をあげ地面にうずくまる。
 細井がバーレットのトリガーを振り絞りデストロイをひきつけ、松永がその隙に布施へと駆け寄る。
 
『布施は大丈夫?』
「あの刃のおかげで切り口が焼けてて出血は少ない」
「左腕一本で十分!」

 細井が松永に通信を入れ、松永が状況を淡々と説明すると、布施が痛みをこらえながら自分の右腕の横に転がっているM4を左腕一本で構える。
 それを聞いた細井は勇気付けられ力を解放、デストロイの右目を素早くポインティング、バーレットのトリガーを引く。
 放たれた十二.七ミリ弾は右目へと吸い込まれるように直進し、命中。右頭部と共にデストロイの右目を吹き飛ばす。
 デストロイは地響きのような咆哮を上げながら反転するとすぐそこまで迫っていた二人に向けレーザーを照射する……
 布施が避けようとするが右腕に激痛が走り足が止まる。
 それを見た松永は布施の前へと回り込み狼牙を鞘に収め、レーザーが照射される瞬間、抜刀――――
 松永の目の前で爆炎が立ち上る……
 
「松永、大丈夫か?」
「余裕、余裕……」

 布施が声をかける、軽々と答える松永の瞳は朱色に染まり、それに伴って狼牙の刃も紅く光り輝いていた。
 松永は篭手も具足も捨て、ブーツも脱ぎ捨て体を極限まで軽くすると、狼牙を鞘へと収め、鞘ごと右手で握り締め左腕を地面につき姿勢を低くする。
 朱色に染まった瞳で睨まれ、不思議と身動きが取れないデストロイを見た布施と細井は同時に左腕へと狙いを定めトリガーを引きつつ前進……
 デストロイが左腕に走った痛みで全身の感覚を取り戻し、右腕を松永に向かって振り下ろす。
 刃が地面に突き刺さった――――しかし、その場に松永は既にいない。
 宙に舞っている松永が呟きながら左腕で抜刀する――――

「空牙爆炎斬!」

 デストロイの左肩から右腰にかけて刻まれた切り口から血潮と共に炎があがりデストロイの体は炎に包まれる。
 デストロイが咆哮をあげると左腕も付け根から砕け散り、鈍い音を立てながら地面へと転がり落ちる……
 狼牙を腰に収め、G36Cを構えなおした松永が二人に合図、残った右腕へと弾丸を射出する。
 五.五六ミリ弾と九ミリパラベラム弾で穴だらけにされた右腕に止めの十二.七ミリ弾が直撃、最後の武器の右腕も爆砕し地面へと転がる。
 三人が勝利を確信した瞬間、デストロイの体は分子レベルで崩壊、その巨大な体を三人の視界から消す。
 
「私は負けん!」

 合田の声が響き、松永の体を強い衝撃が襲う。
 デストロイから分離した合田の体からは二本の補助腕と背中から数本の触手が生えており、触手の先端には鋭利な刃物が備えてある。
 受身を取りつつ合田から離れた松永がG36Cを合田に向け構えるが、素早く伸びた触手に細切れにされる……
 舌打ちをしながら紅く輝く狼牙を引き抜くと迫る触手を次々と切り払う。
 背後から右腕を失った布施が迫るが、伸びた補助腕に阻まれ合田との距離を縮めることが出来ない。
 その横で細井がもう一本の補助腕をクルツで撃ち落し、合田の背中へとバーレットを突きつけ、トリガーを引く。
 しかし、放たれた弾頭は跳弾し、壁へと大きな穴を開けた。
 三人がその光景に驚いていると、細井が触手に捕まり瓦礫の山へと投げつけられクルツが手から離れる。
 瓦礫の山の中で細井が最後のマガジンをバーレットへと装填しながら作戦を考える……
 と、隣に布施が投げ飛ばされてくる。
 布施が俺もこれで最後だと片手でマガジンを交換しながら細井に言うと細井が松永に通信を入れる。

『翔平、俺達はもう弾が無い、あとはサムライエッジだけ、どうする?』
「作戦立案はバックスのお前だろ?俺がなんとか隙を作る。そしたらありったけの弾丸をプレゼントしてやれ!」

 松永が答えながら叫ぶと合田が無理だと叫びながら補助腕と触手を全て松永へと向かって放つ。
 松永はにやりと笑うと狼牙を鞘に収め、また技の名前を呟き、素早く抜刀を繰り返す。
 次々と地面に落ちていく触手や補助腕を踏みつけながら松永が合田との距離を詰めていく……
 合田にあと一歩と迫った瞬間、合田の口の中から鋭い刃が飛び出し、松永の眉間を狙う。
 松永は首を捻り紙一重でそれを避けると、合田の心臓部へと狼牙を突き立てた――
 松永の頬には一筋の切り傷が浮かび上がり、血が滴り落ちる。

「今だ!」

 松永の声と共に合田の体へありったけの弾頭が撃ちこまれる……
 合田の背中は狼牙が突き刺さった箇所からヒビが入っており、さらにそのヒビに弾頭が直撃、合田の背中は撃ち砕かれていく……

「何故だ……私が……何故お前ら等に……」
「俺達にあってお前にない物があるからだ!」

 合田の呟きに布施が答える。
 合田がさらにそれはなんなのかと尋ねる。

「あえて言うなら……」

 細井が答えに詰まる……

「友情とか?」

 松永が笑いながら答えると左手で構えたサムライエッジの銃口を合田の額へと突きつけトリガーを引く。
 合田の額に小さな風穴が開く、松永がゆっくりと狼牙を引き抜くと合田の体は地面へと倒れる。
 松永が指示すると細井は合田の座っていた椅子へと腰を下ろし、目の前にあるパソコンに自分のパソコンに繋ぎ、あるだけのデータを転送し始める。
 布施が溜息を吐きながら地面へと座り込み、松永が駆け寄る。

「親父、仇は取ったぞ」
「お疲れさん、腕は大丈夫か?」
「大丈夫なわけないだろ」

 布施が呟き、地面に寝転ぶ。
 松永は笑いながら細井の下へと駆け寄るとパソコンのディスプレイを覗き込む。
 細井が松永の顔を見ながらメインモニターに映像を映し出す。
 松永が尋ねながら映像を見る。
 衛星からの映像のようだが電波妨害でノイズがかかっており、鮮明と言える映像ではない。
 それを見た布施が寝たままでこれはなんだと細井に尋ねる。

「アメリカの核攻撃部隊……ステルス爆撃機に原子力潜水艦」

 布施が立ち上がり、二人の下へと駆け寄り状況の説明を乞う。

「アンブレラだろ、証拠隠滅のためにアメリカ動かしてさ……」

 松永がさらりと言うと細井に脱出経路を探すように指示する。
 と、同時に布施が核攻撃の規模を尋ねると細井は少し言葉に詰まりながら事実を述べる。

「ふざけんな!五キロトンを一区ずつだと!東京を消滅させる気かよっ!」

 布施が机を叩きながら怒鳴り、弾の無くなったM4を地面へと叩きつける。
 松永が東京全体がバイオハザードなのだから当たり前だろと呟き、細井に脱出できるのかと尋ねる。

「地上からは無理かも、隔離レベルが最大になってて区の境目に数十メートルの高さと厚さの隔壁があるから、あとは空からしか……」

 空からなど到底無理だろうと松永が呟くと三人のインカムに急にノイズが走る。 
 布施がインカムを投げ捨て、松永が細井に尋ねると細井は誰かがインカムに通信を入れようとしていると言い、インカムの周波数を切り替える。

「―――ちら――聞こえ――――ディッ――応答しろ!」

 二人がその声に驚き、声の主の名前を叫ぶと布施も慌ててインカムを拾い装着する。
 細井がインカムを調整する……

「こちらディック=ブランだ!官邸内の三人、聞こえたら応答しろ!」
「松永です!今まで何処に?」
「無事だったか!アメリカの核攻撃が始まるぞ」
「知ってます、しかし、脱出は困難で……」
「だから迎えに来てやったんだろ?官邸の屋上のヘリポートまでどうにかして上がって来い!」
「了解!」

 松永が細井に指示すると細井が屋上までの地図を左腕のパソコンのディスプレイに表示し、施設の壁へと駆け寄る。
 松永は布施に手を差し伸べ立ち上がらせると細井の下へと歩み寄る。
 細井が壁に手を押し当てると壁の一部が反転、端末が現れる。
 細井が軽くキーを叩くと施設の壁が上下左右に分離し開いていき、内部にある隔壁がゆっくりと開いていく……
 松永が舌打ちする、隔壁の向こう側には数十体のゾンビが蠢いていたのだ。
 布施が残された左腕でサムライエッジを握り締め、ゾンビの頭部へと弾頭を放ち切り込もうと足を踏み出すが松永がそれを制止、狼牙を素早く振りぬく。
 数メートル先までゾンビ達は切り捨てられ道が切り開ける。
 細井が先頭に立ち、ディスプレイを横目にゾンビの頭部へと弾頭を撃ち込みながら二人を先導していく……
 松永は布施の肩を担ぎながらサムライエッジを片手に細井に続く。
 布施も肩を借りてはいるものの左手にはしっかりとサムライエッジを握り締め、近付いてくるゾンビを迎撃する。
 しばらくすると細井のパソコンから警報が鳴る。
 松永が何事かと尋ねると、細井が核攻撃の開始が近いことを告げる。
 細井が駆け出すと目の前に新たな隔壁があり、道を塞いでいた。
 松永が後ろから布施を細井に担がせ、自身は地面を蹴り加速、隔壁の前で狼牙を引き抜き隔壁を両断し道を開く。
 もう怖い物なしだと布施が呟き、細井が笑いながらそこを右に曲がって階段を上がればすぐだと二人に告げる。
 松永が二人の後ろに回りこみ、先に階段を登れと指示、細井は松永の身を案じながらも布施を担いで急いで階段を駆け上る……
 ドアノブの鍵を布施が撃ち砕き、細井がドアを蹴破ると、二人に外界の少し蒸し暑い風が吹き付ける。
 二人の視界の先には蜃気楼で揺らぐ《S.T.A.R.S.》の戦闘ヘリが着陸していた、ヘリポートの回りは駐車場になっており、バイクや高級車が乗り捨てられている……
 ヘリから一人の若者が降り、二人に駆け寄る。

「フセ!?大丈夫か!」
「なわけないだろ……」

 ディックが布施の肩を担ぎながら尋ねると布施は力なく呟く、ディックに布施を任せた細井は松永に通信を入れようとする。
 が、その必要は無く、階段を駆け上ってきた松永が三人に向かって叫ぶ。

「あの野郎まだ生きてやがった!早くヘリへ!」

 松永の背後には二人には見慣れた触手が迫っていた。
 ディックが右手に持っていたM4で触手を撃ち落しながらあれはなんだと細井に尋ねつつヘリへと向かう。
 サムライエッジの弾丸を撃ちつくした細井が合田だと叫びヘリへと走る。

『四人とも急いで!もう核攻撃まで時間がない!』

 ヘリの運転席に座っている女性――ルナが四人に通信を入れる。
 三人は驚きながらもヘリへと駆け、一足先にヘリへ乗り込んだ細井が始めてみるルナの美貌に惚れ惚れしながらもディックに声をかけられ布施の体をヘリに引き上げる。
 ディックが援護射撃しつつ松永を急かすと、松永は傍らに停めてあるバイクを見つけ、先に飛べと叫ぶ。
 ディックは微笑しながらルナに離陸を指示、ルナは反論するが、後ろの二人にも言われ渋々ヘリを離陸させる……
 それを見た松永が踵を返し、狼牙を正面に構え呟く。

「いい加減あきらめろ」

 迫り来る触手を切り払いながら合田本体を見つけ狼牙の切っ先を合田の心臓部へと向ける――
 
「ウォォォオオ!!」
「光牙瞬獄突!」

 合田が咆哮を上げ松永に迫り、松永は叫びながら狼牙を合田めがけて突き出し、切っ先が合田の心臓部へと突き刺さった瞬間、柄から右手を離し、掌で柄尻を押し込む。
 心臓を貫かれた合田が口から大量の血を吐き出しながら地面へと伏すと松永にまとわり付いていた触手も力を失い地面へと落ちていく。
 狼牙を鞘に収めた松永は触手達を踏みつけながら先程眼をつけていたバイクへと駆け寄る。
 キーは無い、腰からナイフを取り出し外装をはがし配線を取り出す……
 ヘリのレーダーには攻撃態勢に入った爆撃機と原子力潜水艦が表示される。
 ヘリは既に宙に浮き、官邸から離れようとしている……
 急かす四人にはいはいと返事をしながら松永が配線をショートさせるとエンジンが唸りをあげる。
 松永はアクセルを振り絞り一気に加速させると官邸から離れたヘリに向かって一直線にバイクを走らせる。
 
「ミサイル第一波接触まで三十秒!」

 細井が叫ぶ。
 バイクは更に加速、官邸屋上から一気に飛び出す。
 だが、ヘリまでの距離は全く足りていない……
 布施と細井が叫ぶと松永はにやりと笑い、ハンドルから手を離すと、シートの上へ右足を乗せ、一気に跳躍――――
 バイクは地面に落ち炎上……松永は右手でしっかりとヘリの扉に捕まっていた。

「早く離れろっ!」

 ディックが叫びながら松永をヘリの中へと引きずり上げ扉を閉める。
 ルナが操縦桿を力一杯引くと、ヘリは急激に上昇、東京から距離を離す。
 核ミサイル群の第一波が東京へと接触、映画などで見慣れたきのこ雲をあげながら東京の街を破壊していく……
 衝撃波に襲われたヘリは大きく揺れる……
 続けざまに第二波、第三波と首都、東京はアメリカの核攻撃によって破壊されていく。
 衝撃波の範囲から逃れた戦闘ヘリは東京湾沖に浮かぶ、巨大な空母へと着陸する。
 ヘリから降りた布施はすぐに救護班によって船内の医務室へと運ばれ細井とルナがそれに付き添う。
 松永は甲板からいくつものきのこ雲が立ち上っている東京都を遠い眼で見ている。
 ディックが松永の肩を叩き、船内へと導く………………

アンブレラ本社――――

 オズウェルは満面の笑みを浮かべていた。
 《D》という興味深いウィルスのデータとサンプルも入手でき、なおかつ責任の所在は全て合田に押し付け、《T》の感染地域の石川県も自らで封鎖し感染の除去を始めている。
 東京はアメリカの感染拡大阻止の為の核攻撃で消滅、三人の少年の活躍も公には公開されずに世間一般的にはアメリカの株も上昇。
 オズウェルにとってはとても満足のいく結果に終わったわけだから笑いたくもなるであろう。
 これにより《アンブレラ》は更なる力を手に入れ、アメリカだけではなく全世界を支配しようと動き出す――――――

東京湾沖・戦闘空母艦内――――

 「まだ戦いは終わってない……」

 松永が呟く、布施が緊急手術を受けている医務室の隣で細井とディックと三人で椅子に腰を下ろしている……
 細井がまだ《アンブレラ》があるしねと呟くとそれは俺達の仕事だとディックが二人に言う。
 しかし、二人の意志は固かった。
 松永はディックへ《S.T.A.R.S.》への正式な入隊を希望し、細井は両親に、《T》やその他のウィルスへのワクチン開発を手伝ってくれと連絡する。
 手術室からとりあえずの治療を終えて出てきた布施は親父の跡を継ぎ、対バイオハザード特殊部隊を自衛隊内に作ってやると自信満々の表情で付き添っていたルナに言い、笑われている。
 四人の運命の歯車はここで止まることは無く、「新たなる目的」という潤滑油を注がれその動きはより一層なめらかとなりまわり続けた―――――― 



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