二章 突入


二章 突入




 ―――――細井は、震えながらも右足に力を込め精一杯アクセルを踏んでいた。

「そこ左!!」

 布施が叫ぶ。

「わかってる!」

 細井が応えハンドルを大きく左に切る。
 すると、可愛い黄色の車は大きく揺れながら弧を描き角を左に曲がった。

「なんだ? あれは………」

 松永が驚愕の表情を浮かべ呟く。
 細井の右足から力が抜けアクセルから右足が離れ車はゆっくりと停止した。
 三人の目の前には、逃げ惑う人。
 それを追うゾンビ、炎上する車、大きな爆発音や悲鳴―――――高校で見た物とは次元が違う地獄絵図が広がっていた。

「マジでバイオハザードだな……」

 布施が珍しく大人しい声で言った。
 その時、三人の耳に犬の鳴き声が聞こえた。
 三人が鳴き声のした方を見るとそこには昔の面影をわずかに残しながらも右半分の頭部は崩れ、脇腹からは臓物の垂れ下がっているあきらかにこの世の物とは思えない物が吼えていた。

「ゾンビ犬!」

 細井が叫ぶ。すると奥からもぞろぞろと似た姿をした物が四、五匹出てきていつのまにか車の周りを取り囲んでいた。

「くそ! 群れで来やがるか!!」

 布施が叫んだ。その時、車の前に居た一匹が車のフロントガラス目掛けて飛び掛ってきた。

「!?」

 三人が驚いて声にもならないような声を出す。
 が、フロントガラスには軽くヒビが入っただけだった。

「ふぅ」
「ビックリした」
「驚かせるなよ」

 三人が安堵の表情を浮かべていると車の後ろの方から大きく、そして沢山の鳴き声が聞こえてきた。
 布施がハッとして後ろを確認するとそこには見えるだけで十匹以上のゾンビ犬と高校から追ってきたゾンビ達の群れがあった。
 が、ゾンビ達の先頭に立っていたはずの友人、松川のゾンビの姿は無かった……

「ちくしょう!! あんなに沢山いやがる! オマケにゾンビ共も追いついて来やがった! 細井ぃ!」

 布施が細井に向かって怒鳴ると、細井は慌てずバックミラーで後方を確認し、

「わかった。任せろ!」

 大きな声を上げ右足にを込めてアクセルを踏んだ。車は急激にスピードを上げ前に居たゾンビ犬を空高く跳ね上げた。
 跳ね上げられたゾンビ犬が地面に落ちると同時に逃げていく獲物を追おうとしていたゾンビ犬達は歩を止めその落ちてきたゾンビ犬に喰らいついた。

「共喰いか……」

 松永が呟きながら前方を確認すると、角を曲がって出てきた所から百メートル程の場所で大きなバスが横転し道路のほとんどが塞がれその右端にわずかに軽自動車が通れるぐらいの隙間があるだけだった……

「二人共! しっかり捕まってて!!」

 細井が松永から道路が塞がれているのを聞かされると叫びながら強くハンドルを握り締め華麗なハンドルさばきでそのわずかに残った隙間に車を滑り込ませる。
 車は両側をバスのフロントや住宅の壁にこすりつけながらなんとか通り抜けた。

「やるじゃねぇか、細井」

 布施が感心した眼差しを細井に向けながら呟く。

「だいぶ慣れてきた、レーシングゲームとあんま変わらない」

 軽く微笑みながら細井が言う、その時バスから漏れたガソリンに引火してバスは大爆発を起こし炎上した。
 爆風で揺れる車の中で松永が荒げた呼吸を整えながら言った。

「間一髪だったな。でも、これで時間稼ぎにはなるか?」
「そうだね、デパートに急ごうか?」

 細井が言うとゆっくりと右足に力を込めアクセルを踏み車はゆっくりと高校の近くにある大型デパートに向かって走り出した……

「そこ左に曲がればもうすぐだな」

 松永が安心した顔で言い、先程からずっと後方を警戒していた布施が叫ぶ。

「おぃ! あいつらまた来やがった! 細井、急げ!!」

 車の後方には住宅街の中の細い路地を抜けてきたゾンビ犬が数匹追ってきていた。
 その中の一匹はバスの爆発のせいで体に炎がついてるにも関わらずに獲物を追ってきていた。
 それを見た布施が呆れながら言う。

「あいつ、てめぇの体に火がついてるのに追って来やがるとはな。そこまでして俺らを喰いたいってか?」

 すると松永が細井に激を飛ばす。

「貴史急いで! あっち側の飲食店街の方から中に入ろう!」
「ウェイ!!」

 またも細井は特撮番組の主人公の使う独特な返事をする。
 しかし、先程までは車と百メートル程の距離にいたゾンビ犬達がいつの間にか半分の五十メートル程の距離にまで追いついていた。

「あいつら、早すぎる。追いつかれるのも時間の問題か」

 布施が半分諦めかけた時体に炎を纏ったゾンビ犬が力つき道路に倒れ込んだ……
 すると他のゾンビ犬達はまた獲物を追う歩を止め、その力尽きた「仲間」とまでは呼べないかもしれないが先程まで同じ獲物を追っていた獣に喰らいつく。

「よしっ! あいつらまた共喰い始めやがった!! 細井、今のうちだ!!」

 布施が力強く拳を握り締めながら細井に言うと細井が車をデパートの飲食店街側の入り口に向かわせた。
 しかし、次の瞬間三人の顔が凍りつく。
 そこには既に十数体のゾンビが群がっていた……

「どうする?」

 珍しく松永が細井に尋ねた。

「突っ込むから掴まってて……」

 細井が深呼吸しながらハンドルを握り締め言った。

「いいねぇ。面白くなってきた。布施! 突っ込むぞ掴まれ!」

 松永が布施に叫ぶ。

「突っ込む!?」

 布施が状況を把握できないまま細井が妙に慣れた手つきでまずアクセルから足を離しハンドルを左に切りながらサイドブレーキを引いた。
 すると車の後輪はすべりながら丁度レーシングゲームでよく使うドリフトの様になりながら車の右側をデパートの前に群がるゾンビ達にぶつけながら自動ドアを破り停止した。

「ふぅ……」

 細井が深いため息をついた。
 すると、布施が後部座席から細井の肩を叩きながら言った。

「やるじゃねぇか細井、見直したぜ。でも、次からはもっと早く教えてくれ」

 布施が頭をどこかにぶつけたのか手で押さえながら珍しく人を褒めた。

「どうも……」

 細井が疲れきった態度で返答する。
 その時いつも嗅ぎ慣れた、しかし鼻につく匂いが車の中に漂う。

「やば! ガソリン漏れてるぞ!」

 松永がいち早く気づき二人に言った。

「本当だ!! ガソリンが空になってる!」

 細井がハンドルの奥に並んだ計器の内の一つのメーターを見ながら言った。

「爆発するかもしれねぇ! さっさっと降りるぞ!!」

 布施がそう言うと、横に置いてあったアーチェリー一式を細井に渡し、金属バットを片手に後部座席から無理矢理に飛び降りる。
 辺りにゾンビ達が居ないかざっと見渡して見当たらないのを確認してからまだ車の中に残っていた二人に向かって叫ぶ。

「奴らは見当たらねぇ! 来い!!」
「「わかった」」

 二人は同時に返事をすると、まず運転席に居た細井が降り、手に持っていたアーチェリー一式を布施に手渡し

「よし、翔平も」

 松永に手を差し伸べようとした時、その手と共に声も止まる……

「ん?」

 松永が疑問符を浮かべる。

「松永! 後ろだ!!」
 
 布施が言うのとほぼ同時に松永が振り向くと助手席の窓に一体のゾンビが張り付いていた。

「うわぁ!!」

 目の前にあったゾンビの腐敗しきった顔に驚きながら松永がすぐに車から出ようとするが彼の体はしっかりと固定され動かなかった……

―――――シートベルト締めてて

 松永の頭の中に細井の言葉が蘇る。
 そして自分の腹の方に目を向けるとそこにはしっかりとシートベルトが締められていた。

「普段は絶対に締めないのにな」

 苦笑いしながら松永は呟くと細井の叫び声が響く。

「翔平!!」

 それに驚いた松永は自分の左に居るゾンビが助手席の窓を割ろうとしているのに気づく。

「くそっ!」

 松永はそう吐き捨てて慌てずにシートベルトを外した。
 シートベルトがするすると心地いい音を立てて元の位置に収まった。
 シートベルトが元の位置に収まると同時に松永は自分の傍らに置いていたほうきを手に取り運転席の方へ這いながら移動し始めた。

「翔平、早く!」

 松永がそう言いながら右手を差し伸べた。
 松永が細井の右手に自分の右手を伸ばそうとした時に助手席の窓が軽い乾いた音を出して割れた。

「!?」

 外の二人が驚き車の中を覗き込む、松永の左足がゾンビの右腕に掴まれていた。

「この野郎、放しやがれ!!」

 そう言いながら松永が右足でゾンビの頭を蹴り飛ばした。
 すると意外にも簡単にゾンビの右腕が松永の左足から離れ、しばらく呆気にとられていた松永を細井が急かす。

「早く!!」
「お、おう」

 松永が言葉に詰まりながら返事をして細井の右手を掴み転がるようにしてボロボロの車から脱出した。

「ふぅ……」

 松永が深いため息をつく。

「のんびりすんな! 早く車から離れるぞ!!」

 次の瞬間、布施が一喝して店内に向けて走り出した。

「お、おう」
「わかった」

 細井と松永も布施の後を追い布施よりも送れて店内に逃げようとした瞬間、大きな爆発音と共に爆風と衝撃が襲う。

「うわぁ!!」

 二人は車から十メートル程吹き飛ばされ布施の前方の地面に叩きつけられ激痛に襲われた。

「ぐぅ……」
 
 二人が声にならない声を上げる。
 爆風から逃れる為にその場に身を伏せていた布施が立ち上がり二人の方へ駆け寄り声をかける。

「おぃ! 大丈夫か?」

 布施の問いに先に答えたのは松永だった。

「俺はなんとか」

 ゆっくりと体を起こしながら力の無い声で言った。

「貴史は! 大丈夫?」

 松永が自分から二メートル程離れた所に飛ばされていた細井に近づきながら言った。

「……」

 細井から返事は無い……
 すると、細井に松永が駆け寄る。

「おい! 貴史返事しろっ!」

 細井を抱きかかえながら言った。

「おい! 細井、寝てる場合じゃないだろ!」

 布施も松永に続いて言った。

「……」

 それでも、細井から返事はない……

「貴史!!」
 
 松永が涙ぐみながら細井を抱きしめて叫んだ。
 松永の叫び声がデパートの店内に虚しく響く。
 布施は右手に持った金属バットを床に落とした……
 ―――――それから、何分経ったのだろう

「く、苦しい」

 松永の腕の中からかすかに聞こえたのはとても小さかったが間違いなく細井の声だった。

「貴史!?」

 松永が驚きながらも嬉しそうに腕の中の細井を見ながら名前を呼んだ。

「ごめん。ちょっと気絶してたみたい……」

 苦笑いしながら細井は言った。

「心配かけさせやがって」

 松永は細井の頭を軽く殴りながら言った。

「だから寝てる場合じゃねぇって言っただろぉが!」

 布施が落とした金属バットを拾いながら言った。
 言葉は乱暴だったがそこには「友」を心配する一人の男の顔があった。
 しばらくその場を和やかな雰囲気が漂う……
 しかし、それは三人が入ってきた入り口とは反対側の入り口のドアをゾンビ達が叩く音で終わりを告げた。

「パーティはこれからみたいだな」

 松永が立ち上がりながらゾンビ達を睨みつけ言った。

「メインディッシュはなんだろうな? 細井動けるか??」
 
 右手に持った金属バットを握り締めながら左手に持っていたアーチェリー一式を細井に投げ渡しながら言った。

「俺はデザートの方が気になるかな」

 細井は布施から投げ渡されたアーチェリー一式を受け取りながら言った。

「そんじゃぁ、ま、殺りますか」

 松永が苦笑いしながら言った。


三人がデパートに突入する十分前 首相官邸―――――


「首相!!」

 一人の秘書が部屋に駆け込んで来る。

「どうした?」

 日本の内閣総理大臣《合田 元》が尋ねる。

「我が国が大変な事に! 世界各地で起こったバイオハザードと同様の事件が日本海沿岸の地域で多発しています」

 秘書が慌てふためきながら言った。

「君は今更なにを言っているんだ?」

 合田は軽く秘書を笑い飛ばしながら言った。

「来たまえ」

 そう言うと合田は椅子から立ち上がり奥の部屋へと進んでいく……
 秘書は黙って合田の後をついていく……
 ―――――しばらく歩くと大きな扉の前にたどり着いた。

「こんなものがあったのですか?」
 
 秘書が尋ねる。

「……」

 合田は無言のまま手のひらを扉の横にあるセンサーにかざした。
 「ピッ」っと短い電子音が鳴り、続いて扉の中心部から緑色の細いレーザーが合田の眼球目掛けて照射された。
 「ピピッ」短い電子音が二度鳴り、重い扉がゆっくりと開きだす。
 そして、扉が開いた時あとをついてきた秘書は驚愕する。
 そこには、おびただしい数のパソコンや機械、白衣を着た研究員とおぼしき人物達、そして中央には大きなモニターが設置されそこには日本地図が映し出されていた。
 その日本地図の北陸地方は赤く点滅している……

「入りたまえ」

 合田はそう秘書に言うと、スタスタと中に入っていった。恐る恐る秘書も中に入る。

「報道管制の方は?」

 合田が一人の男に尋ねる

「はい。問題ありません。ただ……」
 
 男が言葉に詰まる。

「警視庁か?」

 合田が尋ねる。

「はい、独断で日本海沿岸へと部隊を派遣しております」

 男が控えめに言った。

「放っておけ、奴らでは手も足も出まい」

 合田の顔がにやける。

「はっ!」

 男は軽く敬礼をして、返事をした。

「ウィルスは?」

 また、合田が尋ねる。

「はい、北陸地方の石川県に降下しました。予定通りです」

 合田が続いて尋ねる。

「そうか、彼との定時連絡は?」
「はい、あと十分といった所です」

 男が答えた、その様子を黙って見ていた秘書がやっと重い口を開く。

「首相、これはどういうことです?」

 合田が彼の方へ振り向きながら言った。

「まだ、わからんのか? 我々日本政府は《アンブレラ》と手を結んだのだよ」
「《アンブレラ》ってあの《洋館事件》や一連のバイオハザード事件の原因を作った?」

 秘書が驚愕の表情を浮かべ合田に問う。

「そうだ、あの《アンブレラ》だよ」
 
 合田は軽く返事をする。

「そんな馬鹿な! 何故《アンブレラ》なんかとっ!」

 秘書が血相を変え合田を問いただす。

「ふふ、この《T-ウイルス》と《B.O.W.》さえあれば他の国の軍隊など目でもない。なにしろ《B.O.W.》はたったの百体で百万人を軽く越える多国籍軍を壊滅寸前にまで追い詰めたんだからな。日本は最強の国になるぞ。そこでだ、これの実験データ回収の為に我々は北陸地方をあいつらにやったのさ。もちろん、我々にもそのデータと《T-ウイルス》を分け与えるという条件でな」

 合田は軽々と言ってのけた。

「じゃあ、軍備増強の為に国の一部を売ったのですか? そこに住む市民も巻き添えにして! T-ウィルスのせいで世界を巻き込む戦争だって起こったんですよ! それに、あのアンブレラがそうも素直に条件を飲むとは思えません!」

 秘書が血相を変え合田に迫る。

「軍備増強? ふっ、そんな甘い物じゃないんだよコレは、これ一つで何でも出来る様になる。不老不死や世界征服だって夢ではない。これは、人類最高の発明だ!」
 
 合田の不気味な笑い声が部屋に響き渡る。

「ダメです! そんなこと! 私利私欲の為に国民を犠牲にするなんて! 今すぐにでも報道管制を解い……」
 
 乾いた音がすると同時に秘書の眉間には一つの小さな穴が開いていた……

「君は優秀だと思ったのだがね」

 合田の手には一丁のリボルバーが握られていた。

「片付けろ」

 そう言うと周りの研究員達が秘書の死体を部屋の外へと運んだ。
 その時、男が大きな声で叫ぶ。

「首相! 定時連絡の時間です!!」
「よし、繋げ」

 合田は拳銃を腰のホルスターにしまいながら言った。

『やあ、ごきげんよう合田君』

 部屋の中央にある大きなモニターにはアンブレラの社長《オズウェル=E=スペンサー》が映し出されていた。

「これはこれはスペンサー卿」

 合田が言った。

『して、ウイルスの方は?』

 オズウェルが尋ねる。

「えぇ順調に進んでおります。すでに金沢市全域は屍達の縄張りかと」

 合田が淡々と状況を報告する。

『こちらの情報ではゾンビに襲われたハイスクールの中から三人の生徒が脱出した様だが?』

 オズウェルがまた尋ねる。

「はい、こちらでも確認しております。その中の一人は彼女の息子だそうで。おまけに裏切り者の息子も一人」

 合田淡々と報告する。

『ほう、彼女の息子に裏切り者の息子か、それは面白い事になってきたな。《S.T.A.R.S.》の連中もそれを知ってか知らずか彼らと接触しようとしているそうだ』

 オズウェルが言うと合田は少し取り乱して言った。

「《S.T.A.R.S.》がっ!?」
『そう、驚く事でもあるまいこれは許容範囲内だ。《S.T.A.R.S.》からは奴が日本に渡ったらしい。こちらの輸送機に潜入してな。可愛い手土産も置いて行ってくれたそうだ……』

 合田はまたも取り乱して言う。

「奴ということは一人だけですか?」

 今度は合田が尋ねる。

『あぁ、そのようだ我々も大陸全土にウィルスを散布したからな戦力を分散させるしかないのだろう。世界中に同胞を分散させたのが仇となったな。これならば『B.O.W.』を送り込む必要もなかったか』

 オズウェルが笑いながら言った。

「《B.O.W.》ですか。それを日本へ送り込まれたのですか?」

 合田が尋ねる。

『あぁ、何か問題でも? 我々は少しでも多くの実験データが欲しいのだよ。その為の取引であろう?』

 オズウェルが威圧的な態度で合田に迫る。

「はい、問題はありません……」

 合田が恐縮しながら返答する。

「首相、失礼します。高校を脱出した生徒三人が、先程高校の近くにある大型デパートに避難したそうです」

 研究員が二人の会話に入ってきた。
 オズウェルが言った。

『ほぅ、その周辺には念のためにケルベロス数匹とハンターを一匹忍び込ませておいたはずだ。彼女の息子がどう動くか? だな……』

 オズウェルは不敵な笑みを浮かべる。

「いくら、彼女の息子でもまだ高校生です。ケルベロス、ましてやハンター相手じゃ何も出来ないでしょう。金沢市周辺の市町村も屍達が占拠し始めたそうです。作戦は至って順調です」
『そうか、それはいい事だ。しかし、日本の警察が独断で石川県に部隊を送り込んでいるそうではないか!! 今回の実験は軍隊との戦闘データは必要ないんだよ! 過去の戦争でウンザリするほど採取できたからな。今回は戦闘能力の無い一般市民達への感染力とその他諸々のデータ採取が目的なのだ! 君はわかっているのかね?』

 血相を変えたオズウェルが言うと、合田は唇を震わせながら答えた。

「はい、その件はこちらですでに対処の準備にとりかかっております。奴らには邪魔はさせないのでどうかご安心を……」
『当たり前だ。まぁよい、約束通りウィルスの情報はそちらに転送した。現物はこちらでしっかりとデータを採取できてからだ……また連絡する』

 オズウェルが一方的に通信を切り、メインモニターにはまた日本地図が映し出される。

「首相?」

 研究員が合田に近づく。

「すぐに防衛庁に連絡を取れ! 陸自を動かして警察共を止めるぞ。それと転送されたデータを私のパソコンに送っておいてくれ」
 
 合田が血相を変えて研究員に指示する。

「はい!」

 研究員はそそくさと部屋を後にした。

「やっとここまで来た、《T-ウィルス》のデータさえあれば現物などどうでもいい。ここまで来て誰にも邪魔はさせない……」

 合田の額に一筋の汗が流れた―――――



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