三章 束の間の休息


三章 束の間の休息



 三人は飲食店の隅に隠れて作戦を練っていた。
 三人の入ってきた出入り口の反対側の入り口は今にも押し寄せてくるゾンビ達の重圧に耐え切れずにドアのガラスが割れそうだった。

「あれだけの数、一体どうするよ?」

 松永が二人に話しかける。
 二人とも首を捻りじっと黙り込んで考えていて返答はない……
 ―――――五分程経って松永が口を開いた。

「こうなりゃ突げ」 

 が、松永の言葉をかき消すように布施が喋りだす。

「爆弾でも作るか!」
「!?」

 それを聞いた二人は同時に布施の顔を覗き込む。

「爆弾だって?」
「どうやって作るの?」

 松永と細井が布施に同時に質問する。
 それを見た布施は少し笑うと二人の肩を叩きながら深く息を吸い呼吸を整えて喋りだした。

「いいか?俺らが今隠れてるのは飲食店だぞ?調理したりする時にはやっぱりガスだろ、ってことはだぞ、ガスボンベとかがそこいらにあるかもしれないだろ?」
「なぁるほどね」

 松永が納得した顔で言った。

「それに、火つければドカンだね」

 細井も松永に続いて笑いながら言った。
 そこで布施がまた喋りだした。

「そこでだ、今の季節花火とか売ってるだろ?その花火の火薬を着火剤にして導火線つけて火をつける。それをそこのショッピングカートであいつらに向かって投げる。そうすりゃ一発だ。だろ?」

 自慢げな表情を浮かべながら語る布施に松永が尋ねる。

「花火の分解なんて俺は出来ないぞ。お前がやるのか?」
「そうだ、ガキの頃からよくやってる。それと大して変わらんだろ」

 布施が答えると、松永が呆れながら言う。

「おぃおぃ、ガキの頃とは状況が違うんだぜ? 本当に大丈夫かよ……」

 その時、小さくガラスの割れる音がした。
 反対側のドアのガラスが少し割れて外にいたゾンビ達が隙間からデパートの店内へ入ってきた。
 その様子を見た細井が二人に向かって叫ぶ。

「やばい! あいつらが入って来たよっ! 早くしないと!!」

 布施が立ち上がり2人に向かって指示を飛ばす。

「よし! 俺はがスボンベを調達してくるから松永は花火をとりあえず大量に! 細井はあそこからショッピングカート持って来い!」

 そういうと布施は飲食店の厨房の奥へと向かって走って行った。

「やらないで死ぬよりもやってから死んだ方がいいな。貴史やるか?」

 松永は季節商品が置いてある場所へと向かって走っていく。

「俺はショッピングカートの調達かぁ、なんか地味だな……」

 細井は愚痴りながら松永より少し遅れて走り出した。


 一番最初に元の場所に戻ってきたのはショッピングカートを取りに行った細井だった。
 そしてすぐに布施もガスボンベを転がしながら戻ってきた。

「なんとかガスの沢山入った奴見つけてきたぜ。細井も準備Okみたいだな。」

 布施が少し息を切らしながら細井に言った。

「大丈夫? 翔平がまだ戻ってこないみたいだけど……」

 細井は布施と松永の心配をしながら言った。

「そうみたいだが、松永ならすぐに来るだろ。心配はいらない。それよりもまずはこいつをカートに乗せるの手伝え」

 布施は一人でガスボンベを立てながら細井に言った。

「そうだね、翔平なら心配いらないよね」

 呟きながら細井は布施を手伝うためにガスボンベに手を伸ばした。
 その会話の少し前、夏の季節商品売り場の前に到着した松永が息を少し切らしながら呟く。

「ねぇじゃねぇか……いつもはここに置いてあるのによぉ。別の所探すか?」

 そう愚痴ってまた松永は店内を走り出した。
 すでに店内には何体かのゾンビが忍び込んでおり、ゾンビ達のうめき声や足音が店内にも響いていた。
 幸い反対側の入り口のガラスが割れたのは狭い範囲だったので一気に大量のゾンビ達が店内に入り込んで来るのを防いでいた。
 が、そのガラスも全て割れるのはもはや時間の問題であった……

「松永の野郎遅いな……」

 布施がガスボンベをカートに積み終え地面に座りながら呟いた。

「そうだね、心配だ。俺、見てくる」

 そう言って布施と同じく疲れて座っていた細井が立とうとした瞬間

「馬鹿かお前!? それじゃ入れ違いになったりしたら元も子もねぇだろうが! 俺達は松永を信じて待つしかないんだよ」

 布施が細井の右腕を掴みながら言った。

「そうだったね。信じて待とうか」

 細井が納得してゆっくりと腰を下ろす。
 その頃、松永は食品売り場の方にある倉庫に向かっていた。

「はぁ、はぁ、倉庫に行けばさすがにあるだろ。」

 息を切らしながら全速力で倉庫の入り口を探していた。
 そこに関係者以外立ち入り禁止の文字が見えてくる、そこには銀色の両開きの扉があった。

「あれか」

 松永はそう言いながら《関係者以外立ち入り禁止》の文字を横目に倉庫のドアをくぐり薄暗い倉庫の中に入っていった。

「どこだ? どこに置いてある」

 倉庫の真ん中の通路を走りながら左右に目を配り花火セットを探しながら松永は走る。
 そしてようやく倉庫の一番奥にたどり着いた時松永の顔に安堵の表情が浮かぶ。

「ほら、やっぱりあるじゃねぇかもったいぶりやがって」

 そう言いながら、花火セットに手を伸ばそうとした時

「!?」

 犬の唸り声のような音が松永の耳に入って来た。

「またゾンビ犬か?」

 そう言いながら花火セットをゆっくり手にしながら辺りを見渡す。
 が、唸り声の主の姿を捉えることは出来なかった……

「空耳か? まぁ、今はとにかくこいつを早く持っていかないと!」

 そう言うと松永は、今来た道のりをまた全力で走り出した。
 そして、走りながら松永はさっき聞こえた犬の唸り声の事を考える。

(本当に空耳だったのか? もし、ゾンビ犬だったら車もないし襲われたらひとたまりもないぞ……)

 そうこうしている内にデパートの中央に位置する幅の広い通路に出る。
 そこから二人の待つ飲食店へは一直線になっている。
 通路に出て一息ついた松永が安心した表情で言う。

「よし、もう少しだな。頑張れよ、俺……」

 松永が自分を励ましていると後ろの方で大きなガラスの割れる音が聞こえた。
 振り返るとそこには群がるゾンビ達の重圧に耐え切れなくなり、粉々に砕け散ったガラスの破片とそこから店内に入ってくるおびただしい数のゾンビ達の姿があった。

「やべぇ!!」

 松永はそう言うと二人の待つ飲食店の方へ向けて走り出した。

「!?」

 その音は松永の帰りを待つ二人にもしっかりと聞こえた。
 音のした方へ細井が身を乗り出し状況を確認しようとする。

「翔平!!」

 そこには、こちらに向かって片手に花火セット片手にほうきを握り締め全力で走ってきている松永の姿が見えた。
 細井は松永が無事であった事に安心したが、すぐにそれは別の感情へと変わった。
 こちらに向かって走ってくる松永のその遥か後方に、入り口のガラスを粉々に砕き店内へと侵入してきたおびただしい数のゾンビが細井の視界に入ったのだ。

「……」

 細井は声も出せずに唖然とその光景を見ていた。
 その細井の様子を見て不思議がった布施が、自ら状況を確認する為に身を乗り出しその光景を見て怒鳴る

「松永! 急げ、ゾンビ共が中に入って来やがったぞ!!」
「わかってる! さっさと受け取れ!!」

 そう言うと、松永は走りながら右手に持っていた花火セットをボーリングの要領で布施に向かって地面を滑らせる。
 それは、真っ直ぐに布施の方へ滑って行った。

「ったく遅せぇんだよっ!」

 松永が滑らせた花火セットを受け取りながら、布施が言い終わるのとほぼ同時に細井が布施を急かす。

「早く!!」
「わかってる!」
 
 細井に急かされた布施がカートに乗せたガスボンベの方へ走りながら細井に叫ぶ。
 布施は叫びながら乱暴に花火セットの封を破り捨て、中から打ち上げ花火を二本取り出し慣れた手つきで分解しだした。

「おぉ、すごいすごい」
「出来た、火!!」
 
 細井が感心ながら呟くと、あっという間に手製の爆弾を完成させた布施が細井に向かって叫ぶ。

「え!?火?」

 急な布施の要求に細井が戸惑う。

「使え!」

 飲食店にたどり着いた松永が布施に向かってジッポを投げつけながら言った。

「なんでお前こんなもん持って……まさか吸ってるのか!?」

 布施が慌てつつもしっかりと松永が投げてきたジッポを受け取りながら松永に言った。

「バカ言え! じいちゃんの形見だ! そんな事より早く!!」

 松永が少し腹を立てながら布施を急かす。

「あぁ、悪りぃ、細井! カート押せ!」

 布施が細井に指示しながら松永から受け取ったジッポに火を着ける。

「準備はいいか?」

 布施が細井に尋ねる。

「いつでもどうぞ」

 細井が答える。

「よし、火ぃつけるぞ!3、2、1……」

 布施がカウントする。

「0!!」

 布施の声と共に細井は、全力でカートを群がるゾンビ達に向かって押しながら駆け出す。
 五メートル程助走をつけゆっくりとこちらに向かって歩いてくるゾンビ達に向かって狙いを定めカートから手を離しながら叫ぶ。

「いっけぇぇえ!!」

 カラカラと心地よい音を立てながらカートは真っ直ぐゾンビ達へ向かって走っていく……
 その心地よい音とゾンビ達のうめき声が交差する瞬間

「伏せて!」

 細井が言うのとほぼ同時にとてつもない爆音と爆風がデパートの店内へ広がる―――――

「殺ったか?」

 飲食店の壁際にうずくまっている三人の中から一番最初に口を開いたのは布施だった。

「どうかな?」

 松永はそう言うと様子を見る為にゆっくりと立ち上がり壁際から身を乗り出す。

「気をつけて」
「細井が松永を心配しながら言った。
「大丈夫みたいだ。こりゃデパートごとぶっ飛ばしそうな威力だな。さすが布施だよ」

 松永があきれながらも感心しながら布施を褒めた。
 その松永の言葉は、松永の後ろからゾンビ達が侵入してきた入り口の方を覗き込んだ二人にもすぐに理解できた。
 そこには、粉々になったゾンビや燃え盛るゾンビ、下半身が吹き飛ばされてなおもこちらに這って来ようとするゾンビ、食料品売り場の半分近くを巻き添えに群がっていたゾンビ達を蹴散らした跡だった。
 三人はその光景にしばらく見とれていた……
 その時細井がゆっくりと口を開いた。

「よし、二階に行って服とか武器とか調達しようか?」

 二人に言いながらアーチェリー一式を手に持ち、ゆっくりと通路の中央にある階段に向かって歩き出した。

「そうだな」
「その為にここに来たんだしな」

 細井の後に少し遅れて、右手にほうきを持った松永が、その後に金属バットを両手で持った布施が辺りを警戒しながら続いた。
 そして、細井が息を殺しながらゆっくりと通路の中央にある階段を上ろうと階段の一段目に足をかけようとしたその時

「こっちの方が早いぜ、貴史」

 松永が言った。
 細井が松永の方を振り向くと松永が階段の横にあるエスカレーターを指差している。

「う、うん。そうだね、そうしようか」

 少し呆気に取られつつも細井は返事をしながらエスカレーターに乗った。
 ゆっくりとエスカレーターが動いていき体勢を低くしていた細井の頭が二階を見渡せる位置まで上がってくる。

「じゃあ、ちょっち危ないけど各自服と靴を調達してあっちの金物売り場に集合でいいかな?」

 細井が二人に尋ねる。

「そうだなバラバラの方がかえって早く動けるだろう」
「そうだな、俺も賛成だ」

 布施が言い松永も賛同する。

「じゃあ、また後で!」

 一番最初に二階へ着いた細井はまっすぐ前へ走って行った。

「じゃあ、また後で逢おう」

 松永が言いながら布施と硬い握手を交わし右へ、布施が左へと走っていった。

「まずは靴!」

 細井と松永は今まで学校指定のスリッパで走っており、そのスリッパも血や泥でとても履けた状態じゃなかった。
 そして細井はまず靴売り場へ急いだ。

「洋服どうにかしないとな」

 ゾンビ相手に苦戦していた松永と細井両名は、服にゾンビの唾液とも言える粘液の様なものや返り血を浴びていた。
 制服はガチガチに乾き動きにくい状態だった。
 そのため松永は最初に服売り場へと向かった。
 幸い、布施は高校を出る時点で靴もちゃんと自分の物を履き、ゾンビとの戦闘も難なくこなしていたため服に返り血などもあまりついていなかったのですぐに武器の調達に向かった。

「よし、これでいいかな?」

 細井は靴売り場にあったつま先やかかとに金属の入ったコンバットブーツを手に取り、サイズを確かめそれを履き。
 しっかりと靴紐を結び次に洋服売り場に向かった。

「これと、これと」

 松永は洋服売り場で自分に合う服を物色していた。
 そしてズボンは少し大きめの《BADBOY》の刻印のあるズボン、上には黒のタンクトップの上にまた大きく背中に《BADBOY》と書かれた赤い半袖のジャケットを羽織った。
 そして靴を調達しに靴売り場に向かった。
 そこで松永の耳に自分の物とは違う足音が聞こえてきた。
 一瞬松永は立ち止まるが、すぐに歩き出した。
 その足音の主は靴を調達し洋服を探しに洋服売り場へと向かう細井だった。
 細井も松永と同様に立ち止まっていたが、相手が松永だと確認すると松永に向かって歩き出した。
 そして、二人がすれ違う瞬間無言のままお互いの手を合わせた。
 手と手が弾きあう音がデパートの店内に響き渡る。
 その音が鳴り終えた瞬間二人はお互いの目的の為に走り出した。

「お、いいもの発見」

 一足先に金物売り場に到着していた布施が言った。
 いつの間にか洋服を着替え下は最近の若者がよく穿いている。
 大き目のサイズのポケットのたくさんついた黒のズボンと上には半袖のTシャツの上に釣りの時に使うような沢山ポケットのついたベストを着ていた。
 そんな布施が見つけたものはよく柵の上に侵入者よけに巻いてある有刺鉄線だった。
 おもむろにそれを手に取ると持っていた金属バットに巻きだした。

「あいつら遅せぇなぁ」

 布施のは二人のことを心配しながら有刺鉄線をバットに巻きつけていた……
 その頃松永は靴売り場で自分にあったものを物色していた。

「どうせなら、うんと高い物にしてやる」
 そう言いながら松永が手にしたのは有名ブランド《NIKE》のエアーMAXの限定版だ。
 自分のサイズにあっているのを確認してそれを履きしっかりと靴紐を結びつま先で地面を叩き、集合場所へ向かった……
 一方、細井は洋服売り場で悩んでいた。
 何について悩んでいたかというと洋服の色である。
 下はすでに灰色の細井に対してはかなり大きめのズボンを穿いていた。
 上には半袖の真っ白なシャツを着て、両手には赤色のジャケットと青色のジャケットを持ち試着室の鏡の前で悩んでいた。

「赤にするか、青にするか」

 その顔はいつになく真剣だった。

「赤は翔平の好きな色だしかぶるといけないからこっちにしよう!」

 細井は淡い青色のジャケットを羽織ると集合場所へ走って行く……
 金属バットに有刺鉄線を巻き終え、強化したバットを握り締めながら二人を待っていた布施の耳に、駆け足で近づいてくる足音が聞こえてきた。

「細井か? 松永か? それともゾンビ犬!?」

 バットを握る手に無意識のうちに力がこもる。
 足音が静かにしそして確実に近づいてきた布施は足音のする方へ向けてバットを構えた。
 そして気配を感じ取った布施は思い切りバットを振りかぶった。

「ちょ、ちょっと待てって、俺だ俺」

 そこには真新しい服に身を包んだ松永が居た。

「驚かせるな……」

 振りかぶったバットを下ろしながら布施が言った。

「そりゃこっちの台詞だよ。貴史は?」

 松永が苦笑いしながら伏せに尋ねた。

「まだだ」

 布施がその場に座りながら言った。

「そか、武器になるようなもの探してくるわ」

 少し落ち込んだ様子で松永は言うと台所用品売り場へ歩いていった。
 松永の目的は一番簡単に手に入り一般家庭でも使わない家庭はない代物そう包丁である。
 松永は包丁がたくさん置いてある棚の前に立つ。

「さて、いっちょやりますか!」
 
 松永は言うと刃渡り三十センチメートルはある一際大きな包丁を手に取り、封を開け事前に手に入れていた二種類の瞬間接着剤と紐を取り出した。
 そして包丁の柄に粘度の高い瞬間接着剤を塗りほうきの先端に取り付けそれを紐でしっかりと固定した。
 それを乾かしている間に刃渡り十センチメートル程度の果物ナイフを腰のベルトに左右に二本ずつ差した。
 次に乾かしていたほうきを手に取り次ぎは紐で縛った部分に粘度の低い瞬間接着剤を流し込んだ。
 そして、ほうきを何度か振り包丁がほうきにしっかりと固定されたのを確かめる。

「よし!」

 松永は力強く言い布施の居る場所へ戻って行った。

「また、大層な物作ったじゃねぇか」
 
 布施が戻ってきた松永が手にしている物を見て言う。

「まぁな、薙刀だ。貴史はまだなのか、遅いな」

 松永がその場に細井がその場に居ないのを見て心配そうに呟く。

「そうだな。まぁ、その内来る」

 布施の言葉が足音が聞こえてきたと同時に止まる。

「貴史か?」
 
 松永が小声で布施に尋ねる。

「さぁな? だが、警戒しといて良いにこしたことはない」

 布施がゆっくりと立ち上がりバットを握り締めながら言った。

「そうだな」

 松永も立ち上がり先程作ったばかりの手製の「薙刀」を構えながら言った。
 足音が近づき、二人の間に緊張が走る。

「来るぞ!」

 二人が足音に向けて攻撃しようとした時

「俺だよ俺!まだ、噛まれてないって」

 細井が軽く冗談を混ぜ慌てながら二人を制止する。

「「遅い!」」

 二人が武器を下ろしながら細井を一喝する。

「ごめん、ごめん。二人共武器調達できたみたいじゃん?」

 細井が謝りながら二人の武器が強化されているのを見て言う。

「まぁな」

 松永が少しふてくされながら言いまた階段の方へ向かって歩き出した。

「どこに行く?」

 布施が尋ねた。
 細井も興味深そうに松永の顔を覗き込む。

「食料調達、一階の食品売り場は吹っ飛んじまったけど、三階の百円ショップにお菓子とぬるいジュースなんかがあったはずだ、だからさ」
 
 松永は最初に深いため息をつき呼吸を整えて二人に説明した。

「なるほど!」
「その通りだな」

 二人は納得すると松永の後をついていく。
 今度は松永が先頭に次に布施、細井が続いた。
 また姿勢を低くしながらエスカレーターに乗り込む。
 ゆっくりと松永の体が三階へと登っていき、頭だけで3階の様子をざっと確認した松永が先に三階へ出て二人に合図をする。
 その合図を確認した布施が三階へ出て細井がその後に続き、三階へ出た。
 三人の目の前に丁度リュックサックやかばんを売っている場所があった。

「ここでかばん貰っていくか」

 布施が言うと足早に一番近くにあったリュックサックに手をかけ

「俺は、これだ」

 そう言って値札を引き千切りそれを肩にかけ百円ショップに向かって走っていった。

「なんであんなにせっかちなんだよ、早い男は嫌われるぜ」

 松永が走っていく布施の背中を見ながら呟いた。

「俺はこれ!」

 細井がいつの間にかリュックサックを背負い布施の後を追っていく。
 細井の背負ったリュックサックには値札がついたままだった。

「あ? お、おい貴史!! ったくどいつもこいつも……」

 松永は愚痴りながらワンショルダータイプのリュックを手にし、値札を腰のベルトに差していた果物ナイフで手馴れた手つきで切り取り、ナイフを元に戻し二人の後を追っていった。

「さぁて、何から頂戴するかな?」

 一番最初に百円ショップにたどり着いた布施が言う。

「そうだねぇ〜」

 それに続いて少し遅れてきた細井が言った。
 二人がしばらく悩んでいると後ろの方から遅れてきた松永の声がした。

「体力ある布施が重たい飲み物入れて俺と貴史がお菓子入れるぞ。わかったか?」
「オーケー」
「わかった」
 
 松永の指示を聞いた二人はそれぞれ返事をし自分の分担の荷物をリュックに入れ始める。
 そしてあらかたリュックに荷物を入れ終えた三人が一息つく。

「はぁ、疲れた」

 細井がため息混じりに言った。

「おいおい貴史、まだまだこれからだぜ?」

 松永が軽く笑いながら言う。

「そうだぜ、まだまだこれ―――――」
 
 不自然な物音に布施の言葉は止まり、他の2人にも緊張が走る。

「いるな……」

 布施が立ち上がりバットを握り締めながら言った。

「貴史! アーチェリー!!」

 布施に続き薙刀を片手に立ち上がった松永が細井に言う。

「うん、わかった」

 細井はそう返事をすると慣れた手つきでアーチェリーを組み立てていく。
 布施と松永がゆっくりと通路に出た時にはずでにアーチェリーを組み終え立ち上がろうとしていた。

「早いな」

 布施が意外にも素早くアーチェリーを組み終えた細井に驚きながら言った。

「顧問に鍛えららてるからね」

 自慢げに細井は言いながら二人の間に歩いてきた。

「じゃあ、行くぞもしゾンビ達が出てきたら遠くに居る奴は貴史が弓で、近くに来た奴は俺と布施でなんとしてでも殺る。それでオーケーか?」

 松永が二人に尋ねる。

「ウェイ!」

 細井がまた独特な返事をする。

「本当に大丈夫かよ?」
 
 布施が細井を不安げに見つめながら言った。
 そして三人はゆっくりと音のした方へ向かって歩き出した―――――



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