四章 交戦


四章 交戦



同時刻 大型デパート食品売り場側入り口前―――――

「目標地点に到着。敵は見当たらない」

 そこには全身真っ黒なタクティカルスーツを身に纏った一人の男が立っていた。

『衛星からその周辺で高エネルギー反応が確認されたんだけど、そっちからは何かわかる?』

 男は自分のインカムから聞こえた問いに答える。

「あぁ、こいつはすげぇ、半分近く吹っ飛んだ食品売り場とゾンビ共の破片があちこちにある」

 男はその光景をじっと見ながら言った。
 そこには「あの」三人が作った手製爆弾の爆発の跡があった。
 それを見ながら男がインカムに向かって喋りだす。

「さすが彼女の息子とその友達だな。俺が助けなくてもいいんじゃないのか?」

 男が苦笑いしながらインカムに向かって言う。

『バカ言わないの、彼らはまだ高校生なのよ!? 早く助けてあげて』

 インカムから少し力の無い声が聞こえてくる。

「オーケー、オーケー、任せとけって」

 男は自信満々な表情を浮かべて笑い飛ばしながら言う。

『お願いね。それと、あなたも気をつけてディック』

 インカムから聞こえる声の主は男の名前を呼んだ。
 そう、その男は《T-ウィルス》と共に日本に降下してきた《S.T.A.R.S.》の隊員《ディック=ブラン》である。

「ルナ、心配はいらねぇよ。お前を一人にはしねぇ、俺がいないと料理だってまともに作れないってのに」

 冗談まじりにディックが言うとインカムから聞こえる声の主《ルナ=エステル》は少し怒りながら言った。

『余計なお世話!そんな事はどうでもいいから任務に集中!!』
「そんな事って、俺にとっちゃかなり重要な事なんだがな。了解、任務を続行する」

 ディックはそう呟きながらデパートの中へと足を踏み入れて行った……


 ―――――三人は音のした場所の近くの壁に張り付き壁の向こうの様子を伺っていた。

「俺と松永が一気に飛び出すから何かあったら頼むぞ」

 布施が松永に目配せしながら細井に向かって言った。

「わかった、気をつけて」

 細井は弓を握り締めながら頷く。

「よし、行くか」

 松永が薙刀を構えながら布施に言う。

「おう」

 布施も有刺鉄線を巻きつけた金属バットを握り締め答える。
 そして、先頭に布施が立ちそのすぐ後ろに松永が立った。

「3、2、1……」

 布施と松永が同時にカウントしていく―――――

「「0!」」

 それと同時に一気に二人が通路の方へ飛び出し壁の向こうの様子を伺う。
 が、そこには何もなかった。

「おかしいな?確かに音がしたのに」

 松永が面食らった態度で首をかしげながら言った。

「奥の様子を見てくる。細井はそこで見張りやってろ」

 布施が細井に言う。

「え!?俺、一人で?」

 細井が布施の言葉に戸惑いながら答える。

「当たり前だろ!」

 布施が細井に向かって怒鳴る。

「―――――わかったよ」

 細井が力の無い返事をする。

「頼むな」

 松永が細井に言いながら通路の奥の薬局の中に入って行った……
 二人はゆっくりと辺りを警戒しながら薬局の中を調べて行く。

「お、おい、これ」

 松永が小声で布施を呼び止める。

「ん? なんだ!?」

 布施が松永の指差した方を見て驚く、そこにはつい最近ついた様な真っ赤な血の跡があった。

「ゾンビか?」
「そうかもしれねぇけど、怪我をした人間かもしれねぇ……」

 松永が布施に小声で尋ね、布施がバットを握り締めながら言う。

「そうだな。でも、普通の人間が居る様な気配は無いけど」

 松永も薙刀を力強く構えながら言った。
 そして二人はゆっくりとその血の跡を辿っていく。
 ゆっくりと一歩一歩確実に歩を進めていくと血の跡の続く先でさっき三人が聞いた物と同じ音が聞こえた。
 布施と松永は互いの顔を見て黙って頷くとゆっくりとまた、血の跡を辿りだした。
 二人は曲がり角に近づいていく。
 血の跡は曲がり角に沿って続いている……

「行くぞ」
「わかった」

 松永が布施に言い布施が間髪入れずに返事をする。

「よし、行くぞ!!」

 松永が最初に飛び出しその後に布施が続く。
 しかし、次の瞬間二人は呆気に取られる。
 二人が飛び込んだ先にあるはずの血の跡は無く綺麗さっぱり消えていた―――――
 二人は首を捻り顔を上げ、お互いの顔を見た瞬間、二人の顔に驚愕の表情が浮かぶ。

「布施!」
「松永!」
「「後ろだ!!」」

 二人の声が重なる。
 二人共自分の武器を振り上げ松永は布施に、布施は松永に向かって走り出す。
 二人はいつの間にか2体のゾンビに挟まれていた。
 そして、お互いの体がすれ違う瞬間2人はゾンビに向かって飛ぶ。

「はぁぁぁっ」

 松永がゆっくりと息を吐き出しながら唸る。

「うぉぉぉ!」

 布施は大きく雄叫びを上げる。
 二人は同じタイミングで着地し、また同じタイミングで振り上げた武器をゾンビに向けて力一杯振り下ろす。
 松永の振り下ろした薙刀はゾンビを頭から股上まで綺麗に二つに切り裂きゾンビは真っ赤な血を噴き出す。
 それとは対照的に布施の振り下ろした有刺鉄線の巻かれた金属バットはゾンビの頭を粉々に砕く。
 ゾンビの頭からは脳髄と赤黒い血が飛び散っていた。
 そして、二体のゾンビは同時に地面に倒れ込む。
 それを見届けた二人はゆっくりとそのまま後ずさりして、お互いの背中が触れ合うとそのまま地面に座り込んだ。

「罠だったのか!?」

 布施が驚愕の表情を浮かべながら松永に言った。

「偶然だろ。こいつらにそんな頭ないだろうしな」

 松永が冷静に布施の考えを否定する。

「そうだよな」

 布施は納得した様なしてない様な顔で頷いた。
 そのまましばらく二人が呼吸を整えているとそこに見張りをしていた細井の声が聞こえてきた。

「ゾンビ共が来た! 二人共早く!!」

 その声はとても慌てていた。

「くそっ! こいつらよりも先にデパートに入ってた奴らがいやがったのかっ!?」

 布施がゾンビの脳髄と血液のまとわりついた金属バットを右手に持ち、左手をつきながら立ち上がり叫ぶ。

「そりゃそうだろ。買い物客とかな」

 松永が薙刀の刃についた血を、近くにあったトイレットペーパーで拭いながら落ち落ち着いた様子で話す。

「早くしろ! 細井を助けに行くぞっ!」

 布施が未だに地面に座り薙刀の手入れをしている松永の様子を見て腹を立て怒鳴る。
 そして、松永を置いて一足先に細井の元へ走っていった。

「だから、早い男は嫌われるって」

 松永は布施の背中を見ながら言いゆっくりと立ち上がり薙刀を構え直し、それから細井の元へ走っていった。

「細井! 撃てよ!!」

 布施が、自分に向かってくるゾンビ達に何もせずただその様子を見ているだけの細井を見て怒鳴る。

「わ、わかった」

 細井は慌てて返事をして、ゆっくりと手にしていた弓に矢を装填し弦を引き始めた。
 アーチェリーに装備されているサイトの中心にある赤い点を、ゾンビの眉間に合わせて狙いを定める。

「早く!」

 細井の隣に来た布施が細井の肩を叩きながら急かす。
 そのせいで狙いがそれたのか細井のアーチェリーから放たれた矢は狙いを定めていたはずのゾンビのはるか後方に向かって飛んでいった……

「何やってんだ! 外れたじゃなぇかっ!!」

 布施が細井に向かって怒鳴る。

「お前が急かすからだろ」

 布施に遅れて細井の元に来た松永が布施に言う。

「そりゃせかすだろ! 目の前にいるんだぞっ!」

 布施が今度は松永に向かって怒鳴る。
 すると松永は構えていた薙刀を大きく振り上げ布施に向かって走り出した。

「お、おい、ちょっと待てって。俺が悪かったよ!」

 布施がいつになく真剣な表情を浮かべながら、薙刀を振り上げ自分に向かって走ってくる松永に向かって言う。
 しかし、松永が止まる気配はない。
 そして、布施の目の前で松永は思いきり薙刀を振り下ろす。

「うわぁぁ!」

 布施が似合いもしない悲鳴を上げる。
 その時、布施の後ろで血しぶきを上げながら倒れ込む一体のゾンビがいた。

「そうだ、目の前にいるんだよ。だからこそ、小さな事で言い争ってる暇はないだろ」

 松永が薙刀を構え直しながら布施を諭す様に言った。

「あ、あぁ、そうだな。わりぃ」

 布施は自分が大人気なく叫び声を上げてしまった事を気にしながら返事をした。
 そんな布施の様子を気にすることなく松永が続けて言う。

「今みたいに近くまで来た奴は俺と布施で、まだ遠くにいる奴は貴史が殺る。貴史は安心して遠くにいる奴らを頼む。落ち着いてやれば出来るから。そうだよな?」

 静かな落ち着いた態度で細井に向かって言う。

「ウェイ!!」

 細井が聞きなれたいつもの独特な返事をしてまた弓に矢を装填し弦を引く。
 それと同時に松永が布施に目配せし、細井の右側に松永が、左側に布施が立ちお互い背を向け合い武器を構える。

「ショータイムだな」

 布施が先程とはうって変わった態度で2人に言う。

「そうだな」

 そんな布施の様子を見て笑いながら松永が言った。
 その横で細井が、先程仕留め損ねたゾンビの眉間に再び狙いを定めながら呟く。

「今度は外さない」

 そう言うと細井が力強く弦を引いていた右手を離す。
 と、同時に音も立てず目にも止まらぬ速さで弓から矢が放たれた。
 矢が放たれたのと同時に細井の前にいたゾンビの眉間に一本の銀色に鈍く光る棒が刺さっていた。
 そして、そのゾンビはゆっくりとその場に倒れこんだ……
 
「ほら、やれば出来るじゃないか!」

 それを見た松永が細井の肩を叩きながら言う。

「その調子で頼むぞ」

 布施が松永に続いて小さな声で言った。

「ウェイ!」

 細井はそう返事をするとまた弓に矢を装填し先程と同じ要領でまた一体のゾンビに狙いを定めて矢を放つ。
 が、その矢はゾンビの右肩に命中してゾンビを少しふらつかせるだけだった。

「くそ……」

 細井が舌打ちをしながら弓に矢を装填し直す。

「落ち着いて」

 松永が慌てている細井の様子を見て言った。

「うん。わかってる、大丈夫だよ」

 細井はそう力強く返事をするとゆっくり弓を構えた。
 そして弓から放たれた矢が今度はしっかりとゾンビの眉間に突き刺さりそのゾンビは倒れた。

「やるじゃねぇかよ、細井。このままなら楽勝だな」

 布施が笑いながら言った。

「そうそう楽にはいかないみたいだぜ」

 松永がそう言いながら顎で細井の真後ろの方を指す。
 布施がそんな松永の様子に疑問符を浮かべながらもその方向を見ると、そこには三人に向かって歩いてくる十体近くのゾンビの群れがあった。

「マジかよ」

 布施がため息混じりに呟くと同時に

「貴史! そっちは頼むぞ!!」

 松永が細井に向かって叫びながらゾンビの群れに向かって薙刀を構えながら走っていく。
 布施がその無謀とも言える松永の行動に呆気に取られながらも

「一人でいい格好させてたまるかっ!」

 そう吐き捨てながら金属バット片手に松永の後を追っていく。

「はぁぁぁぁ」

 また、松永がゆっくりと息を吐きながら先頭に立っていたゾンビに向かって薙刀を振り下ろす。
 と、ゾンビは綺麗に二つに切り裂かれた―――――

「あと、九匹……」

 松永が呟き体勢を整えようとすると、二つに裂かれ血しぶきを上げながら左右に分かれていくゾンビの体の間からもう一体ゾンビが松永に向かって襲いかかってきた。

「ちっ」

 松永はそれを体勢を崩しながらのバックステップでかわす。
 すると後ろから

「松永! さっきの礼だっ!」

 布施がバットを構えながら松永に向かって走ってくる。

「せっかちでオマケに正直じゃないってか」

 松永がそんな布施の様子を見ながら苦笑いして言うとその場に伏せる。
 布施のフルスイングしたバットは松永に襲い掛かろうとしていたゾンビの頭を粉々に吹き飛ばした。
 その場に伏せていた松永はすぐに立ち上がり、ゾンビ達に向けて薙刀を構えながら布施に言った。

「助かったよ」

 布施は苦笑いしながら答える。

「気にするな。それよりも、来るぞ!」

 二人の目の前にはまだ八体ものゾンビ達がうめき声を上げながら二人に襲いかかろうとしていた。

「かかってこい!」

 松永は自分に気合を入れる為とゾンビ達をひるませる為に大声で叫ぶ。
 が、思考能力が欠如しただ1つの欲望にのみ従うゾンビ達がひるむわけもなくゆっくりと2人に近づいてくる……


同時刻、大型デパート二階寝具売り場―――――


 軽やかな音を立てながらエレベーターの横にある階段をゆっくりと上ってくる一人の男の姿があった。
 その男は全身黒ずくめで背中には銀色の《S.T.A.R.S.》という文字が輝いている。

『ディック、大丈夫?』

 ディックのインカムからルナの心配そうな声が聞こえてくる。

「大丈夫に決まってんだろ。俺を誰だと思っ―――」
 
 ディックの声が途切れる。
 ちょうどディックがエレベータの横にある階段を上り終えエレベーターの前に置いてある椅子に片足を乗せ、靴ひもを縛り直そうとしていた時だった。
 目の前の寝具売り場に置いてある大きなベットがきしむ音が聞こえた。

「何かいるな」

 ディックが呟くとルナがろりめきながらディックに尋ねる。

『え!? 何がいるの? 大丈夫?』

 ディックはそれに落ち着いた声で答える。

「静かにしろ。さぁて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 ディックは靴ひもから手を離し腰の後ろに装備されているホルスターから一丁の拳銃を取り出す。
 その拳銃の名前はM92Fカスタム《SAMURAI EDGE》(サムライエッジ)と言う、《S.T.A.R.S.》隊員が一人一丁ずつ装備しているラクーンシティにある鉄砲店のオーナー《ジョー=ケンド》が製作した、《S.T.A.R.S.》の為の特注のハンドメイドの銃である。
 ”洋館事件”の際にS.T.A.R.S.初期メンバーが使用し、その性能が認められ《S.T.A.R.S.》内で量産され、今ではアンブレラに対する《反抗の証》として《S.T.A.R.S.》入隊と共に隊員達に支給されている物である。
 ディックの持っているサムライエッジは、それにサイレンサーと《Laser Aiming Module》通称《L.A.M.》と呼ばれるレーザーポインターを装着した彼専用のカスタムである。

「新型を試すいい機会だしな」

 ディックはサムライエッジを両手で握り銃口を下に向け、セーフティを解除しながらそう呟くと、ゆっくりと音のした方へ向かって歩き始めた。
 そして、音のしたベットの前に立ちディックが左手でベットを動かそうとした瞬間、ベットの脇から3体ものゾンビの群れがディック目掛けて襲い掛かってきた。

「おっと!」

 ディックはゾンビの攻撃を華麗なバックステップでかわし、右手に持っていたサムライエッジの銃口を先頭に立っていたゾンビの眉間に向ける。
 そして、ディックがトリガーに指をかけると銃口の下に装備された《L.A.M.》から綺麗な赤いレーザーが照射され、ゾンビの眉間に小さな赤い点が浮かび上がる。

「コレでも喰らってろ……」

 ディックが呟きながらトリガーを引こうとした瞬間、右の方からゾンビのうめき声が聞こえてくる。

「!?」

 ディックが目の前のゾンビに銃口を向けたままうめき声のした方に顔を向ける。
 そこには四体のゾンビがディックに向かってゆっくりと歩いている姿があった。

「ちっ!」

 ディックが舌打ちをすると、反対の方からもゾンビ達の声が聞こえすぐにディックが振り向き確認する。
 そこにも同じく四体のゾンビ達がディックに向かって歩いてきた。

「囲まれたか」

 ディックがそう呟き後ずさりしようと右足を一歩後退させると、後ろでエレベーターが止まった音がした。
 ゆっくりとエレベーターのドアが開く……
 またディックが顔だけを振り向かせ確認すると、そこには五体ものゾンビがひしめきあっていた。
 ゾンビ達はディックの存在を認識するとディックに向かって一斉に襲い掛かってくる。

『ど、どうしたのディック!? 聞こえてる??』

 インカムからルナの声が漏れてくる。
 が、ディックはその声が聞こえないかのように一人で呟く。

「こっちが先か!」

 そう言うと、先程まで狙いを定めていたゾンビから銃口を外し右足を軸に回転し、自分の真後ろにいるゾンビ達の群れに向けてポインティングする。
 先頭に立っていたゾンビの眉間に、赤い小さな点が浮かび上がると同時にそこに小さな風穴が開き、サムライエッジのスライドは後退して空の薬莢を排出し前進、次の弾を装填する。
 すると、そのゾンビの頭は小刻みに振動し、排出された空の薬莢が地面に落ちると同時にそのゾンビは倒れた。
 薬莢の落ちた甲高い音とゾンビの倒れこんだ重低音がデパートの店内に響きわたる。

「よし、イケるみたいだな!」

 ディックが自信に満ちた表情で言い、残りの四体のゾンビに向けて銃口を向けると三体の眉間に同時に穴が開く。
 三発分の空の薬莢がサムライエッジから排出され、
 ゾンビ達は一体目と同様に頭を小刻みに振動させながら倒れていく。
 スライドが前進し次弾が装填されるのを確認したディックが言う。

「もう、一丁!」

 残った一体にディックが銃口を向けトリガーを引く。
 小さな発砲音と共にゾンビの頭に風穴が開き、そして倒れた。

「残りは九体!」

 ディックはそう言いながらまた反転し一番最初に襲い掛かってきたゾンビに一発銃弾を放ち、左右にいたゾンビにも一発ずつ発砲。
 そして、そのゾンビが倒れるのを見届けることなく、右に振り向き四体のゾンビに向けて一発ずつ発砲。
 また、反転し四体のゾンビに向けて発砲した。サムライエッジの銃口からは白い煙が上がり、スライドは後退したままで残弾が無い事をディックに告げる。
 空の薬莢達が空を舞い地面に次々と落ちて華麗なメロディを奏でる。
 ディックが軽いため息と同時にサムライエッジから空のマガジンを排出する。
 空のマガジンが地面に落ちると同時に眉間に風穴が開き、頭を小刻みに震わせていたゾンビ達が地面に倒れこんだ……

『―――――ねぇ! ディック、大丈夫なの!!』

 間もなくルナの怒声がディックのインカムから聞こえてきた。

「あぁ、どうやら先客がいてな、手厚い歓迎を受けただけさ」

 ディックが苦笑いしながらサムライエッジに新しいマガジンを入れ、スライドを戻し初弾を装填しセーフティーをかけ腰のホルスターに戻しながら答えた。

『もう! こっちは本気で心配してんだから!!』

 ルナが先程よりも更に大きな声で叫ぶ。

「おぃおぃ、そんなに怒るなよ。だいた―――」

 ディックがルナに返答しようとすると通信の途絶える音が聞こえた。

「あいつ、切りやがったな。それにしてもこいつら本当に懲りない連中だな。丸腰で俺に勝てるとでも思ってんのかよ。まぁ、屍共で武器使える奴なんて《ネメシス》ぐらいだろうけどな……」

 ディックはそう呟くと少し笑いながらゾンビ達を見下ろし、そして中央通路の中心にあるエスカレーターと階段のある場所へゆっくりと歩き出した。


「はぁぁぁ!!」
「うぉぉぉ!!」

 松永はゆっくりと息を吐き出しながら、布施は大きな雄叫びを上げながらゾンビの群れに突進していく。

「これでも喰らえ!!」

 松永の薙刀の刃がゾンビの頭に突き刺さり、ゾンビの動きを止める。
 そして、そのまま松永は右足を上げゾンビに正面からミドルキックを放ち蹴り飛ばした。
 するとそのゾンビは後ろに立っていたゾンビ数体を巻き込みながら地面に倒れる。

「あと、七匹」

 松永が呟く。
 松永の少し前方では布施がバットを真上に大きく振りかぶり、そのままゾンビの頭目掛けて真下にバットを振り下ろす。
 するとゾンビは腰を中心に折れ曲がり、バットで叩き潰された頭からは脳髄を、折れ曲がった腰からは大量の血を撒き散らしながら頭から地面に倒れ込んだ。

「よっしゃ!!」

 布施が左手でガッツポーズを取って喜ぶ。

「なにが、『よっしゃ!』だよっ!まだあと六匹残ってるんだぞ。それにゾンビに近づきすぎだ。噛まれたりしたらどうする?」

 松永が一喝する。

「大丈夫、大丈夫。この俺がゾンビごときに負けてたまるかよ」

 布施はそう言い返し両手でバットを構え、残ったゾンビ達を睨みつけた。

「ったく。どうなっても知らねぇぞ」

 松永はあきれながら布施に言うとまたゾンビ達に向かって走り出した。
 そして、起き上がろうとしていたゾンビの内の一体に狙いを定め、薙刀を振り下ろす為に足を広げ踏ん張ろうとする。

「!?」

 布施が倒したゾンビの頭から流れ出した脳髄や血で真っ赤に染まった通路のせいで、足を滑らせあろうことかその場に尻をついて転んでしまった。
 その衝撃で右手から薙刀が離れ三メートル程離れた場所に転がって行ってしまった。

「やべぇ!」

 松永が叫ぶとそのゾンビが松永の左足を掴み松永は身動きできなくなってしまった。

「松永!?今、助けてやる!!」

 その様子を見ていた布施が松永を助けようと松永に向かって走り出した時、三体のゾンビ達が布施の目の前に現れる。

「畜生!」

 布施がそう叫びながら左手で正面にいたゾンビの顔面目掛けて左ストレートを放つ。
 布施の左ストレートを喰らったゾンビは四メートル程後ろに飛ばされ地面に倒れ込んだ。

「こんな所でっ!」

 次に布施は右側にいたゾンビに正面から右足でミドルキックを放ち動きを止め、上から両手で構えたバットを思い切り振り下ろす。
 すると、そのゾンビの頭は吹き飛び辺りに脳髄と血を撒き散らしながら地面に倒れた。

「お前らなんかにかまってられねぇんだよっ!!」

 振り下ろしたバットを、倒れ込んだゾンビの後ろに立っていたゾンビの顎目掛けて振り上げる。
 それを喰らったゾンビがよろめいている隙に、バットをしっかりと握り締め大きく振りかぶり、またティーバッティングの要領でフルスイングした。
 バットについた返り血で滑ったせいか今度はゾンビの頭は吹き飛ばず首の骨が折れる音が聞こえ、ゾンビはゆっくりとその場に倒れ込む。
 時を同じくして、松永は必死に右足でゾンビの頭を蹴飛ばしながら掴まんでいる手を離そうとしていた。
 が、いっこうに放れる気配は無い……

「くそっ! いい加減放しやがれ!!」

 松永は怒鳴りながら腰のベルトの右側に差しておいた果物ナイフを一本取り出し、逆手に持つとゾンビの頭頂部目掛けて一気に振り下ろした。
 果物ナイフから手を放して間もなく、自分の左足を掴んでいたゾンビの手から力が抜けたのに松永は気づきすぐに立ち上がり、転がっていった薙刀を取りにいった。
 その時、ちょうどゾンビ三体を蹴散らした布施が松永に向かって叫んだ。

「大丈夫か?」

 松永は大きく深呼吸して答える。

「あぁ、なんとかな、それよりあと二匹も残ってるぞ」

 松永が叫び布施の方へ向かって走り出し布施が松永の無事を確認すると、目の前にいる二体のゾンビに向けてバットを構えた。
 そして、松永が布施の元へ来ると同時にゾンビが襲い掛かってきた。

「ちっ」

 布施が舌打ちをしてバットを振りかぶった時

「まぁ、落ち着けって」

 松永が右手で布施の胸の辺りを押さえ布施を制止する。
 と、次の瞬間薙刀を両手でしっかりと握り、目の前まで迫ってきたゾンビ達に向けて草を薙ぎ払う様に薙刀を振るった。
 次の瞬間ゾンビ達はくるぶしを境に上下に二分され、バランスを保てなくなり大きく弧を描きながら後ろに倒れる―――――

「ほら、な?」

 松永が布施の方を見て自信気に少し笑いながら言う。

「さすがだな」

 布施がそう返事をすると二人はゆっくりと歩き出しゾンビ達の頭の方へ回り込む。
 すると、ゾンビ達は足が無くて立ち上がれずに手だけで這いずり二人に向かってきた。

「いい加減観念したらどうだ」
 
 布施が呟き

「ふぅ」

 松永がため息を吐く。
 そして、二人は右足を高く上げ、それぞれゾンビの頭目掛けて足を振り下ろした。
 同時に二体のゾンビの頭は砕け、血と脳髄が辺りに広がり、間もなくゾンビ達は動かなくなった―――――

「なんとか、なったかな?」

 松永が荒げた息を整えながら布施に言った。

「そうだな。細井が心配だ。さっさと戻るぞ!」

 布施は吐き捨てるように松永に言うと細井の下へ走って行った。

「あいつが、人を心配するなんてな」

 松永は少し驚きつつも感心した表情を浮かべ布施の後を追いかけていった。



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