六章 救世主


六章 救世主



「あれ?二人共何処に行った?」

 三人が別れた場所に一番最初に戻ってきた松永が呟く。
 その時、松永の耳に聞きなれた声が聞こえてくる。

「おーい翔平ー!」

 松永が声のした方に顔を向けるとそこには大きく手を振りながら歩いてくる細井と、そんな細井の様子を見てあきれながらバットを肩に担いで歩いてくる布施の姿があった―――――

「何してたんだ?二人共怪我は無いのか?」
「あぁ、俺は全然大丈夫だ。細井はギリギリだったみたいだがな……」

 松永の問いに布施が苦笑いしながら答える。
 横では細井が頭をかきながら下を向いて笑った。

「そうか、二人共無事ならそれでいい。貴史、矢はあと何本残ってるんだ?」

 松永は細井の右腰についているアーチェリーの矢を入れておく、《クイーバー》と呼ばれる物に入っている矢の本数が少ないのを見ると、細井に尋ねた。

「えっと、三本かな?さっきので結構使っちゃったから」

 細井が少しうつむきながら小さい声で言う。

「別に責めやしないさ。俺だってギリギリだったんだ。薙刀の切れ味も鈍ってきたし果物ナイフもあと二本しかない。布施はどうだ?まだそいつは使えるのか?」

 松永が落ち込む細井の肩に手を添え励ましながら、気を抜かずに辺りを警戒している布施に尋ねる。

「あぁ、俺のはまだまだ大丈夫だ。それよりも早くこんな所から出ようぜ。いつまたあんな化け物に襲われるかもわからねぇんだからよ」

 布施が松永の問いに答えると、バットを構えながら中央階段に向かって二人を置いて一人で歩き出した。

「あ、おい!ったく。貴史、行けるか?」

 松永がいつもと変わらずせっかちな布施の態度にあきれながら、未だに落ち込んでいる細井に聞くとゆっくりと薙刀を構え直した。

「うん、もう大丈夫。これからは無駄弾は使わないから……」

 細井がアーチェリーを左手で持ち右の拳を握り締めた。

「よし、じゃあ行こうか。布施ももう行っちゃったし」

 松永は笑いながらゆっくりと布施の後を追い、細井は松永の後を追い中央階段をゆっくりと降りていった―――――


「さっきの音はなんだったんだ?」
 
 ディックが先程自分がゾンビ達と戦闘したデパートの二階のエレベータ前の椅子に座り、自分の耳に聞こえた人の声と物音、そして獣の唸り声の事を考えながら呟いた。

『また、彼らが何かと戦ってたのかしら?』

 ディックのインカムからルナの呟きが聞こえてくる。

「お、機嫌直したのか?まあ、どっちが勝ったかは知らんが戦闘があったのは確かだろうな、今から確認に向かう」

 ディックは少し嬉しそうに言うと、椅子からゆっくりと腰を持ち上げ、サムライエッジをしっかりと握り締め物音のした方へ歩き出そうとする。

『もう、縁起の悪いこと言わないでよっ』
 
 ルナが声を荒立てて言う。
 だが、ディックは気にも留めずに歩き出す―――――

「ヒュー、こりゃまた派手に殺ったもんだな」

 ディックが物音のした場所へたどり着きその光景を見て呟く。

『何があったの?』

 ルナがディックの呟きを聞き漏らさずに尋ねる。

「爆発の次はケルベロスだ。少なくとも七匹は倒れてる。どいつも矢が刺さったり果物ナイフが刺さったり頭砕けてたりしてるから多分彼らが殺ったんだろ。さすがだよ、惚れ惚れするな」

 ディックが淡々と状況をルナに報告する。
 そしてまた三人分の足跡を見つけるとその足跡を辿っていく。


「もう少しで外に出られるな……」
 
 先頭を歩いていた布施が口を開く。
 布施の目の前には先程デパートに突入した後に三人で作った爆弾の爆発の後が広がっている―――――

「そうだな」
「ホントに長かったねぇ」

 布施の呟きに松永と細井が答えた。
 三人は縦に一列に並んで食品売り場の方へと歩いていた。

「『長かったねぇ』ってまだ終わってないよ。まだまだ、これからが本番だ」

 細井の言葉に松永が苦笑いしながら返す。

「まぁ、そうだけどさ一応これで一段落つくじゃんか」

 細井が少し慌てながら答えた。

「おい、そろそろ出口だ。何がいるかわからねぇんだから気をつけろ」

 布施が二人の会話に割って入り警戒を促す。

「あぁ、そうだなわりぃ」
「ウェイ」

 松永と細井は布施の言葉を聞き、会話を途中で止め互いに武器を構え、爆発でボロボロになった食品売り場方面の出入り口に背中をはりつける。
 そして、布施が右に松永が左にゆっくりと頭を出し辺りを確認する。
 二人の視界には敵となり得る存在は確認できなかった。

「「大丈夫だ」」

 二人の声が重なり三人の緊張の糸が切れる。
 三人は構えていた武器を降ろすと松永を先頭に細井、布施と並んでデパートの外に出た。
 三人は久しぶりの外の空気を吸う為に大きく深呼吸する。

「やっぱ、外の空気はおいしいねぇ」

 細井が両手を空高く上げながら大きく深呼吸し二人に話しかける。

「あぁ、まったくだ。夏の部活よりも疲れたぜ」
 
 布施が愚痴りながら右肩と左肩を交互にを大きく回しその場で軽いストレッチを始めた。
 松永が立ち止まって振り向き2人に話しかける。

「二人共ご苦労さん。これから俺の家まで歩いて三十分もかからないからそこまで行ったらゆっくり休もじゃないか―――!?」

 その時松永の視界の上方にかすかに動く物体が入った。
 松永が一度目を閉じ大きく深呼吸して目を開きデパートの屋上へ目をやった。
 そこには今まで見たことも無い様な形をした生き物が三人を見下ろしている姿があった―――――

「お、おい、あれ」

 松永がその方向を指差しながら二人に話しかける。

「ん?なんだよいきなり」
「翔平?どうかしたの??」

 細井と布施が松永の指差した方を見ながら返事をする。
 一瞬の間の後二人の顔に緊張が走る。

「おい、なんだよありゃ!」

 布施がストレッチを止め傍らに置いていた有刺鉄線つきの金属バットを右手に持ちながら立ち上がる。

「う、嘘でしょ!?」

 細井は他の二人よりも更に怯えながら震える手で弓に矢を装填しその生き物に向かって構えた。

「貴史、アレが何か知ってるのか?」

 細井の異常なまでの怯えように違和感を感じた松永が、細井の左肩を掴み自分の方向へ引き寄せながら尋ねる。

「う、うん。アレも《B.O.W.》の一つで中でもかなり完成度の高い化け物なんだ。名前はハンターって言って――――」
「来るぞ!!」

 細井の怯えながらの説明は布施の怒声にかき消された。
 デパートの屋上に居たハンターと呼ばれる物は布施が叫ぶと同時に空高く飛び上がり、一瞬三人の視界から消えた。

「何処に行った?」

 布施がハンターを見失い首を左右に大きく振りながら叫ぶ。

「上だ!!」
「何ぃ!?」

 後ろから松永の叫び声が聞こえ布施が一瞬松永の方へ振り返り、すぐに自分の前へ振り向くと同時に大きな揺れと音、それに衝撃が三人を襲った。

「なんなんだ一体!」

 布施がそう怒鳴りながら前を確認すると、そこには割れた地面の中心に軽く二メートルは超えるであろう巨大な化け物がそびえ立っていた。
 その化け物には頭があり、手足があり、胴体があり確かに人の体を構成するだけの部位は揃っていた。
 しかし、眼球は鋭く光り、体の表面は深々とした緑色で硬く、なおかつ妖しく光っており爬虫類の類を連想させるような皮膚をしている。
 そしてその広い肩から伸びる両腕は人間の何十倍もの太さをしており、指先は骨が露出しそのまま硬化しカギヅメ状になっている。
 さらに、デパートの屋上から飛び降りてもびくともせず逆に地面を抉り取る程の強度を誇る脚。
 それはまさしく《ハンター》(狩人)と呼ぶにふさわしい人とは似て非なる物だった―――――
 その光景に三人はただただ呆然としている。

「あいつには勝ち目が無い!早く逃げないと!!」

 そんな中、一番に口を開いたのは細井だった。

「逃げるったってあんな化け物から逃げ切れるわけないだろ!」

 布施が細井に向かって怒鳴る。
 が、その横で松永がとんでもない事を口にした。

「売られた喧嘩は買わなきゃな……」
 
 細井と布施が松永のその言葉に耳を疑った。

「何言ってんだ松永!あんな化け物に勝てるわけ無いだろ!」
「そうだよ、あいつは《B.O.W.》の中でもトップクラスの強さで―――――」

 布施と細井が松永に向かって怒鳴り出すが松永がそれを一喝する。

「だからどうした?今ここでこいつを殺らなきゃまだ他に生きてる人がいたら襲われる。それに逃げようとしてもどうせ逃げ切れないだろうし、敵に背を向けて逃げるなんて俺は嫌だ。無理にとは言わないさ。逃げたいなら早く逃げてくれ、俺一人でも時間稼ぎにはなる」

 松永が切れ味の鈍った薙刀を両手で強く構える。

「はぁ、お前には付き合ってられねぇぜ」
「翔平を置いて逃げるわけにはいかないよ」

 布施と細井は互いの顔を合わせ黙って頷くと布施はバットを握り締め、細井はゆっくりとアーチェリーをハンターに向かって構えた。

「いいのか?」

 松永が二人に問う。

「ここまで来たんだ今更逃げれるか。それにお前一人にいい格好させてたまるかよ」

 布施は笑いながら答えた。

「俺と翔平は親友だろ?いつでも一緒、死ぬ時も一緒さ」

 細井はいつになく真面目な顔で言った。

「二人共、ありがとう」

 そう言うと松永は目を閉じ、大きく息を吸い、吐き出しながらゆっくりと目を開く。
 そこには三人に向かってゆっくりと歩いてくるハンターの姿がある―――――


「なんだ!今度のはデカイぞっ」
 
 ディックが警戒しながら三人の足跡を追って階段をおりようとした時、デパートの外で大きな何かの落下音が聞こえた。

「やばいな、今のは外か?急ごう!」
『ディックなにがあったの?』
「外で大きな音がした。今度のはなんかヤバイ気がする」

 ルナの問いに間髪いれずにディックは答えると急いで階段を降りていき、一階まで降りると音のした方へと走り出した。
 しかし、次の瞬間ディックの足が止まる。
 ディックの目の前には数十体のゾンビ達が立っていた。

「おいおい、冗談はよしてくれ。今、お前達なんかにかまってる暇は無ぇんだよ!!」

 ディックは叫ぶとサムライエッジのセーフティを外し、ゾンビの大群に向けてひたすら発砲する。
 小さな銃声、ゾンビのうめき声、薬莢が地面に落ち奏でる甲高い音、幾つもの音がデパートの中に響き渡る。
 ディックの銃撃は乱暴に見えるがその銃弾は正確にゾンビ達の眉間を貫いていた。
 そしてディックのサムライエッジのスライドが後退しそのまま止まった。

「ちっ数が多すぎるな。外に置いてこなきゃよかったぜ」

 ディクは呟きながらすぐに空のマガジンを排出し、左手で腰のパウチに入れてある予備のマガジンを取り出す。
 そして、流れるような手馴れた手つきでサムライエッジにマガジンを装填し、スライドを引き初弾をチェンバーに送ると、すぐにゾンビの群れにサイティングする。
 しかし、ディックはトリガーに指をかけ首を捻るとそっとトリガーから指を離した。

「お前ら相手にこいつは勿体無いな。素手でも十分だっ!」
『ディック!?何言ってるの?そんな事したら危ないじゃない!』

 ディックの無謀な発言にルナが驚き怒鳴る。

「そんな事言ったって仕方ないだろ。実際、弾は残り少ないんだ。入り口まで取りに行かないともうマガジン一つとアレしかないんだから。大丈夫、心配するな俺はあんな屍共にゃ殺られないよ」

 ディックはルナに言い聞かせるとサムライエッジを腰のホルスターに収めゾンビの群れに向かって全速力で駆けていく。
 そして、ゾンビの群れの先頭集団の三メートル程手前でしっかりと踏ん張りゾンビの群れに向かって空高く飛び上がった。
 ゾンビ達の視界から一瞬ディックが消える。
 次の瞬間ディックはゾンビの群れの中心に着地した。
 そして素早く立ち上がると右足を上げ、上半身を右に捻りながら左足を軸に半回転しゾンビ達に鋭い回転蹴りを浴びせる。
 ディックの左側のゾンビ達が吹き飛ばされる。

「ひゃっほう!俺にはコッチの方が性に合ってるかもしれねぇな!」

 ディックはそう言いながら、今度は右足を軸に一回転し、後ろから襲い掛かってきたゾンビの顔面に裏拳を喰らわす。
 間髪入れずディックの右からゾンビが二体襲い掛かってくる。
 ディックは一瞬そのゾンビ達を睨むと、右足を軽く上げ二体に向けてほぼ同時に素早くミドルキックを放つ。
 そして、両足を肩幅に開くと両腿に収めていたトンファーを両手で一気に引き抜く。

「さぁ、これで終いにしようか……」

 ディックがトンファーのグリップを強く握り締めると、トンファーの両端から鋭く光る刃が飛び出した。
 ディックはその場で両手を地面と平行に挙げ右足を軸に一回転した。
 すると、ディックを取り囲んでいたゾンビ達の首に一筋の線が浮かび上がりディックの回転が止まると同時にゾンビ達の首が地面に落ち、次いで体が地面に倒れ込む。
 しかし、その倒れ込んだゾンビ達の上を更に大量のゾンビ達がディックに向かって歩いてくる。
 ディックは一度目を閉じ呼吸を整え目を開くとまたゾンビに向かって駆け出す。
 ゾンビ達の目の前まで来ると一体目には右ストレートを、二体目には左ストレートを放つ。
 二体のゾンビの顔面に青白い刃が突き刺さりそして抜ける―――――
 二体のゾンビはふらつきながらその場に倒れた。

「まだまだぁ!!」

 ディックは叫ぶとそのゾンビ達を踏み台にしまた空高く飛ぶ。
 倒れたゾンビ達の後ろから歩いていたゾンビ達が宙に舞うディックに視線を向ける。
 ディックは両腕を直角に曲げ、トンファーの後端の刃を下に向けそのゾンビの顔面目掛けて着地した。
 ゾンビは顔に刃が突き刺さり上からの衝撃に耐え切れずに腰の辺りから二つに折れ、辺りに血を撒き散らしながら動かなくなった。
 ディックが勢い良くゾンビの頭からトンファーを引き抜く。

「もう、これだけになっちまったのか?まだまだだなぁ」

 ディックはそう笑いながら言うとトンファーを逆手に持ち直し、左右からディックを挟み撃ちにしようとしたゾンビ達の頭にトンファーの刃を突き刺した。

「チェックメイト……」

 呟きながらディックはゆっくりとトンファーをゾンビの頭から引き抜くと、ゾンビ達が地面に倒れ込むと同時に刃をトンファーの中に収める。
 次いで素早く左右交互にトンファーを軽く回転させると、両腿のホルスターにトンファーを収めた……

「全員片付けたぜ、今から外に出る」

 ディックが少し息を荒立てながら、インカムの向こうで心配していたルナに話しかけ、デパートの外へと向かって歩き出した―――――


「まずは俺が先手を……」

 細井が呟きながら自分達に向かってゆっくりと歩いてくるハンターに向かって、アーチェリーに装備されているサイトの中心を合わせる。
 サイトの中心にハンターの額が重なると同時に、細井が右手から力を抜き限界まで引いていた弦から手を離す。

「よし!」

 細井が矢を放った後に確実にハンターに矢が刺さるのを確信し、ガッツポーズを取りながら言う。
 その確信は次の瞬間粉々に砕かれる事になった。
 ハンターに向かって一直線に飛んでいった矢は甲高い音を立て、ハンターのその硬い皮膚に弾かれ地面に落ちた。

「嘘でしょ!?」

 細井が驚き、松永と布施は横で黙ったその光景を見ていた。

「じゃあ、接近戦しかないか?」
「でも、矢も弾くような皮膚に切れ味鈍った薙刀と金属バットが効くのか?」

 布施と松永が二人で話をしながらハンターの方へ顔を向けた。

「「殺るしかねぇ!!」」

 二人は同時に叫ぶと無謀にもハンターに向かって走り出した。

「ちょ、二人共!」
 
 細井はその二人の無謀な行動に呆気にとられながらもまた弓に矢を装填しハンターに向かって弓を構えた。

「はぁぁぁぁ」
「うぉぉぉぉ」

 松永はゆっくりと息を吐きながら布施は大きな声を上げながら、自分たちよりも遥かに巨大なハンターに向かって駆けていく。
 そして松永はハンターのハンターの二メートル程手前で大きく飛び上がり、ハンターの頭上から薙刀を振り下ろしながら地面に着地する。
 布施はハンターの目の前で両足を大きく広げ、しっかりと踏ん張るとバットを両手で持ちハンターの腹部に向かってフルスイングした。
 次の瞬間二人に驚愕の表情が浮かぶ。
 松永の薙刀は、ほうきが辺りに木片を撒き散らしながら中ほどから砕け、先端の方は五メートル程弾き飛ばされてしまった。
 布施の金属バットは折れ曲がりとても使えるような状態ではなかった。

「ぐはっ」
「うぐぅ」

 二人が驚愕の表情を浮かべ呆気に取られていると、ハンターが両手を大きく振り上げ、自分に向かって「何か」をしてきた二人を吹き飛ばした。

「二人共!くそぉ―――」

 細井がまたハンターに向かって矢を放つが、ハンターの硬い皮膚に突き刺さるわけもなく虚しく音を立てながら地面に落ちた。

「やっぱり俺達なんかじゃ勝てるわけなかったんだ……」

 細井がその場に膝を着き力なく呟く。
 細井の目の前にはハンターがそびえ立っている。
 ハンターが大きく右手を振りかぶり細井があきらめかけた瞬間、細井の左半身に大きな衝撃が走り、細井は横に大きく飛ばされる。
 細井の視界からハンターが消え横で大きな地面をえぐる音がした。

「諦めたら勝てるわけないだろうが!あいつに弱点はないのかよっ!」

 細井が横に目をやるとそこには先程ハンターに殴られ吹き飛ばされ、細井を助ける為にヘッドスライディングの要領で飛び込み、怒鳴る布施の姿があった。

「えっと、あいつは攻撃の後に大きな隙が出来るからその……」

 細井の説明の途中で布施が叫ぶ。

「だそうだ。松永ぁ!」
「おぅ!」

 その布施の叫びを聞き松永が左腰から果物ナイフを抜き逆手に持つとまたハンターに向かって駆け出した。

「はぁぁぁ」

 松永は右手を大きく振り上げ、果物ナイフをハンターの大きな背中に突き刺そうとする。
 が、果物ナイフの刃は欠けハンターの皮膚に弾かれ松永の手から飛んでいく。

「くそ、なんで効かねぇんだ!」

 松永は振り向きざまに放たれたハンターの右腕に弾き飛ばされ地面に強く叩きつけられる。

「松永!」
「翔平!!」

 布施と細井が弾き飛ばされた松永に向かって叫び、布施は弾き飛ばした松永に止めを刺そうと歩いていくハンターに向かって駆けていき、細井は最後の一本になった矢を弓に装填し、ハンターに向けて構えた。

「うぉぉぉ!」

 布施が叫びながらハンターの背中に体当たりをする。
 するとハンターは布施を振りほどく為に立ち止まり上半身を捻り布施を掴んだ。

「今だ!」

 細井がハンターに向かって矢を放つ。
 次の瞬間、ハンターの左目に細井の放った矢が突き刺さった。

「よっしゃ!」

 細井が右手でガッツポーズを取りながら喜んでいると、ハンターが大きな唸り声を上げながら布施を空高く放り投げ、松永に向かって走り出し右腕を大きく振り上げ、素早くそして力強く振り下ろした。

「ぐはぁっ」
「翔平!!」

 布施は地面に叩きつけられ声にもならない声をあげ、細井は、松永に向かって叫ぶ。
 松永の倒れていた地面が深くえぐられていた。

「攻撃の後には隙が出来るんだったよな」

 そこには寝たまま横に転がりハンターの大きなツメを紙一重でかわし、最後の1本になった果物ナイフを右手で強く握り締めながらハンターに向かって言う松永の姿があった。
 ハンターは獲物を仕留め損ねたのを確認すると、次こそ確実に仕留める為に左手で松永を押し潰すように押さえ、右腕をまた大きく振り上げた。

「ぐはぁっ」

 松永が腹部を圧迫され声にならない声をあげた。
 しかし、その目はしっかりとハンターの顔に向けられている。
 ハンターが右腕を振り下ろす

「これでも、喰らえ!」

 松永がハンターの振り下ろす右腕より先に、右腕で握り締めた果物ナイフをハンターの右目に突き刺す。
 ハンターはまた大きな唸り声を上げ松永を押えつけていた左腕も振り上げ真下に振り下ろす。

「翔平!!」
「ま、松永ぁ!」

 その光景を黙って見ているしかない細井が叫び、気がついた布施がその光景を見て唖然としながらもすぐに殺られそうになっているのが松永だとわかり、名前を叫んだ。
 松永も半ば諦め両手で顔を隠し呟く。

「くそ、これで終わりか……」

 その時、大きな銃声が三人の耳に響く。
 ハンターは両腕を振り下ろすのを止め、背中に走った衝撃に驚きつつも銃声のした方へ振り向き、そちらの攻撃の方が脅威と感じたのか音のした方へ走り出す。

「44マグナムでも一発じゃ無理か?」

 そこにはS&W製のマグナムリボルバーを両手でしっかりと構えるディックの姿があった。
 ハンターが両眼が見えないにもかかわらずディックに向かって一直線に突進してくる。
 ディックは焦らずしっかりと銃口を自分に向かってくるハンターに向けトリガーを連続して引く。
 大きな銃声と共にハンターの頭に五つの風穴が空く。
 そして、ディックがシリンダーから空の薬莢を取り出し薬莢が地面に落ちると同時に、ディックの手前五メートル程でハンターも力尽き、大きな音を立てながら倒れた。

「ふぅ、やっと死んだか。しぶとい奴だ。まるでルナみたいだな」

 ディックが苦笑いしながら呟くとインカムからルナの怒声が響く

『バカ言わないで!そんな化け物なんかと一緒にしないでよ!!』
「ははは、悪い悪い。しかし、子供三人相手にハンターまで持ち出すとは、アンブレラの野郎何考えてやがる……」

 三人は、笑いながらインカムに向かって喋っているディックを、ただただ見ていた。
 自分達があれだけ苦戦した相手にいくら銃を使ったからと言っても簡単に勝ってしまったその男を―――――
 そして、ディックがふと松永の方へ目を向け、空になったリボルバーのシリンダーに弾丸を込めながら、松永に向かって歩き出す。

「しょ、翔平」
「松永!痛っ」

 細井は力なく呟き、布施は松永の方へ歩こうとしたが全身を襲う痛のせいで動けないでいた。

「な、なんだよ」

 松永が喉を震わせながら呟く……
 ディックが弾丸をすべて装填しシリンダーを元の位置に収めハンマーを起こし、松永に銃口を向けディックがゆっくりとトリガーを引く……

「翔平!!」
「松永ぁ!!」

 大きな銃声と共に細井と布施の叫び声がデパートの駐車場に響く。
 リボルバーの銃口からは白い煙が立ち昇っていた―――――



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