二○○四年六月八日二十時五十七分 太平洋上空―――――
アメリカ中西部ラクーンシティ郊外から飛び立った一機の高性能輸送機が太平洋上空を飛行している……
外見は漆黒で夜空に溶け込み目視など到底不可能である。
静まり返った機内で漆黒の戦闘服に身を包んだ二人のパイロット達が会話をしている。
「なんで日本なんだ? 政府の連中が許さないだろ?」
「ばぁかだからやるんだよクソッタレウィリアムに一泡吹かせてやろうって魂胆なのさ。それに協力を申し立ててきたのはあっちだって話だ」
「いいのか? 大統領にそんな口聞いて。それにもうあいつらは一泡吹いてるだろ?大陸各地でバイオハザードをあれだけ発生させたんだぜ? その証拠にアメリカ政府はこっちに協力を申し出て、自国だけ感染から逃れたじゃないかバカみたいな額の金を払ってよ。それにしても恐ろしい物だぜ『T-ウィルス』か……」
しかし、その機内には招かれざる客が乗船していた。
パイロット達と似通った漆黒のタクティカルスーツに身を包んだ男が気配を悟られないように一人呟く。
「『アンブレラ』の連中め何をたくらんでいる? どうして日本でも散布を行う必要が……アメリカだけじゃ物足りない? やはり彼女とその家族がいるからか」
男の問いに答える女性の声が男が首に装着しているインカムから男の耳へと入ってくる。
『そうかもしれないわね。彼女は本当に素晴らしい人物だったからきっとそのご子息も。でも、今は余計な事考えずに任務に集中して』
「オーケー、オーケー。わかってるさ、仕事はきっちりやらせてもらう」
輸送機のパイロット達は男と女の会話には気づいていない……
「生物を進化させる大発明さ」
一人のパイロットが自慢げに言葉を漏らす。
「それのおかげであんな化け物が出来るのか?」
もう一人のパイロットが尋ねた。
「その化け物を生体兵器として運用して、世界征服でもするってのがお偉いさん方のシナリオだろうよ」
尋ねられたパイロットは笑いながら答える。
「生体兵器ねぇ。これってメリットはなんだ?」
「感染することじゃないか? 敵が一人死ねばそいつに感染してこっちは味方が増える万々歳だ」
「そうか、なるほど」
質問したパイロットは自信に満ちた同僚の回答を聞き、納得しながら目の前に悠然と並んでいる電子機器に眼をやる。
タクティカルスーツに身を包んだ男が物音を立てないようにゆっくりとその「T-ウィルス」の入ったポッドに近づく……
質問に答えたパイロットが電子機器を眺めている同僚を馬鹿にしながら言うと、言われた少し取り乱しながらパイロットは計器を見ながら時間だと告げる。
それを聞いた男が時間かと呟くとゆっくりとポッドに捕まり体を固定、苦笑いしながら愚痴をこぼす。
「こいつと一緒にスカイダイビングとはな」
『贅沢言わないの』
女ががからかいながら言う。
パイロットが何処かへと状況を報告しながら操縦桿の近くにある赤いボタンを押すと、機体の後部ハッチが開き大きなポッドが宙に舞う。
「可愛いプレゼントを用意しといてやったぜ、二人で楽しみな……」
男が笑いながら呟くとポッドと共に降下していく――――
そして、パイロットがポッドの排出を確認したことを報告しハッチを閉じた瞬間、機内に警報が鳴り響く。
パイロット達が慌てふためき電子機器に睨みつけると機体が制御不能に陥っていると判断し機体を破棄するために脱出用のレバーを引くが、軽い音を立ててレバーが引き抜けた。
一人が脱出装置も故障だと怒鳴りながら電子機器に拳を振り下ろし、もう一人は座席から立ち上がると、どうにか機体を制御できないものかと機体の後部へと移動する……
激しく蛇行し揺れ動く機体の中で必死に作業をしていたパイロットが呟き、操縦席に半ばあきらめかけて座り込んでいるパイロットを呼ぶ。
呼ばれたパイロットは苛立ちながらそのパイロットの指差す方を見ながら肩を落とし、呟いた。
「爆弾か……」
パイロットが爆弾にセットされているカウンターを見ると既に起爆まで十秒を切っていた。
「誰だ? 一体誰が潜入していたんだ!」
「きっと奴らだよ『S.T.A.R.S.』の連中だ」
「なるほど、やはり奴らも黙っちゃいないって――――」
パイロットが最後の言葉を発する前に大きな体をした輸送機は大きな炎を上げて爆発、日本海へ墜落した。
ポッドと共に下降している男はチェックメイトと墜落していく輸送機に人差し指を指しながら呟くと、ポッドから離れパラシュートを開き、先進国の内で数少ないバイオハザードの発生していない国「日本」へと降下して行った。
「第一任務完了、第二任務へ移行する」
そして、男から離れたポッドは日本のとある県の県庁に向かって一直線に降下していった。
アンブレラ本社―――――
「輸送機からの通信途絶えました!」
嫌に清潔感のある制服に身を包んだ研究員が不恰好なモニターを見ながら言った。
その研究員の上司にあたる男がポッドの現在位置を研究員に尋ねる。
「信号受信! 目的地に向かって降下中です!」
男は研究員に監視を続けるように指示しながら振り向き後ろに続く長い廊下を歩いていき、厳重に鍵をかけられた部屋の中に入っていった。
その部屋の真ん中には一人の男がゆったりとした椅子に腰かけている。
その男の名は「オズウェル=E=スペンサー」この製薬会社アンブレラの創設者である。
「無事にポッドは目的地へ投下いたしました」
「そうか、ご苦労下がれ」
「はっ! 失礼します」
男は敬礼をし一礼をした後そそくさと部屋を出て行った。
「まだまだこれからだ」
オズウェルが不気味な笑みを浮かべながら一人呟く………
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