DANCE WITH DARKNESS




5 PROSPERITY



 名乗ると同時に、レンは駆け出す。
《インプラント・タリスマン》がそれに反応するように明滅すると、そこに無数の五芒星を映し出した。
 そして、その五芒星が突然ディスプレイから飛び出すと、それは淡い光の獣となってレンへと襲い掛かる。

「陰陽師に式神が効くか!」

 それが陰陽師が使役する使い魔の式神だと判断したレンが、懐のショルダーホルスターから素早く銃を抜いた。
『SAMURAI SOULU』と刻印されたハンドメイドカスタムベレッタが、連続して45ACP弾を吐き出す。
 狙いたがわず弾丸は式神を撃ち抜き、それ霧散させるが、ベートは更に連続して式神を繰り出してきた。

「なめんじゃないわよ!『剣』!」
「CALL 《SAW FISH》」

 レンの放つ弾丸が、ユリの投じた呪符の変じた光の剣が、イーシャの召喚したマーティーが次々と式神を霧散させていくが、ベートの召喚は留まる事をしらない。

「一体、何体呼べるのよ!」
「他の連中はまだか!」
『ヘリからはもう出た言うてるで!』

 弾丸の尽きたサムライソウルUのマグチェンジをしている隙が無いと判断したレンがそれを仕舞うと、片手で刀を正眼に構え、空いた手を刀の峰に添える独自の構えを取る。

「我、五行相克の法にて水気を持ちて火気を克す、オン アビラウンケン!」

 空いている左手で高速で手印を結びながら呪文を唱え、刃に水気の属性を付与させたレンが、一気に間合いを詰めながら式神を次々と斬り捨てる。

「宝具・尾羽張(おはばり)!」

 髪の中、正確には自身と融合した神木のツタから作り出した短めの木刀二刀流でユリがそれに加勢するが、徐々に押されていく。

「ハアアアァァッ!」
「はっ!」

 レンの神速の連続斬撃が式神三体を一瞬で斬り捨て、ユリの二段刺突がレンの背後に迫っていた式神を貫き、イーシャのマーティーが二人を援護する。

「他の連中、やっぱ怖くなって逃げたんじゃないの!?」
「貴様らと一緒にするな」

 劣勢になっていく状態でユリが悪態をついた時、突然、星哉の声が聞こえたかと思うと、虚空から一本の槍が飛び出して式神を次々貫通し、向こう側のビルの外壁に式神三体を串刺しにして止まる。

「どこからだ?」
「ここだ」

 イーシャが振り向いた先、ちょうど槍が出現した空間に、突如として門が出現していく。
 その門の内側から鋭い爪とまばらな体毛の生えた文字通り鬼の腕が門をゆっくりと開いていくと、その中から星哉と槍を投擲した桜が姿を現した。

「ゴメンね、遅くなって」
「地気を定めるのに少し時間がかかった。まさか、本当に4000mから飛び降りるとは思ってもいなかったがな」

 二人が門から出ると同時に、鬼の腕が再度門を閉め、門は霞のように掻き消える。

「地気双門の術か」
「そういうのが有るんだったら、先に言いなさいよ!」
「くぐるには術の同期が必要だからな。陰陽五家の当主くらいしか通る事は不可能だ」

 しれっと言い放ち、星哉が刀印を結ぶ。

「それに、その程度でてこずる奴らにこの術はもったいない。オン アビラウンケン、来たれ!」

 呪文と同時に、星哉の影が盛り上がり、そこから古代中国の甲冑に身を包んだ十二体の魔神、最強の式神 十二神将が出現する。

「行け」

 命令と同時に、十二神将が闘っていた三人の横を通り抜け、式神達に肉薄する。
 それぞれが手にした二股の槍や鋼棍を一振るいすると、数体の式神がまとめて霧散する。

「すご………」
「これが、十二神将か…………」

 その凄まじい強さに、ユリとイーシャが絶句する中、瞬く間に式神を壊滅させた十二神将がベートへと迫る。
 だが、《インプラント・タリスマン》の明滅と同時に、突如としてその動きが静止した。

「縛呪だと、なめるなぁあ!」

 動きを封じられた十二神将を解くべく、星哉が念をこらすが、強固な縛呪はなかなか解けない。

「レン君!」
「はい!」

 そこへ、引き抜いた槍を手にした桜と、ベートを間に挟んで対峙するような形になったレンが双方構える。

「イヤアァ!」
「ハアァ!」

 気合と共に二種の刃の煌きを伴った疾風が交差し、通り過ぎる。

「光背流 双門技(そうもんぎ)」
「双刃光乱麻(そうじんこうらんま)」

 刹那の間に無数の縛呪を文字通り断ち切った両者が、向き直る。
 縛呪から逃れた十二神将は、一斉にベートへと襲い掛かるが、疾風のような速さでベートは都合十二の攻撃の間をかいくぐる。

「臨兵闘者皆陣列在前!克!」

 高速で九字を唱えながら手印を結んだ星哉が、右手を突き出す。
 放たれた力がベートへと迫るが、発動した《インプラント・タリスマン》が力を無効化。
そこへ容赦なくベートの牙が星哉を狙う。
 しかし、星哉の顔には笑みが浮かんでいた。

「縛!」

 跳ね上がるような勢いで、星哉の左手が違う印を結びつつベートへと突き付けられる。
 先程のお返しとばかりに、星哉の縛呪がベートを捕らえる。
 再度それを無効化するための《インプラント・タリスマン》が発動するが、その隙を皆は見逃さなかった。

「遅い!」
「弐式・闘技《双飛燕》!」
「ハアッ!」
「CALL」
「イヤアッ!」

 投じられた十二の得物が、二本の木刀から放たれた衝撃波が、大気を切り裂く音速超過の光背一刀流《閃光斬》が、短縮召喚されたマーティー《SKYCLAW》が、空間その物が穿たれるがごとき超高速の光背一振流《昇陽突・曙(しょうようとつ・あけぼの)》が、同時にベートを狙う。
 絶叫がその場に轟き、鮮血が宙へと舞う。
 しかし、宙へと待った鮮血が地へと落ちた時、ベートの姿はかき消えていた。

「空間転移!?」
「これは!」

 皆が驚愕する中、どこからともなく現れたベートが桜の背後から襲い掛かる。

「くっ!」

 とっさにレンが桜を抱え込むと、そのまま上へと跳ぶ。
 足元に小さなクレーターを穿ちつつ、二人の体が宙へと舞い、振り下ろされたベートの爪がその先端に僅かに衣服の断片を削り取る。

「地脈を渡った、だと?」
「私としては、こっちの方が不思議なんだけど」

 高跳びの世界記録を無視する高度まで上がった二人の体が、離れた場所に着地する。

「ちっ……」

 桜を抱え込んでいたレンの左腕が切り裂かれ、衣服の隙間からその下に着込まれた機械仕掛けのインナースーツと、鮮血の滴る傷口が露わになっていた。

「インナーアームドスーツか。実戦投入されているとは聞いた事はなかったがな」
「ツテがあってな」

 レンが腕を一振いすると、血と共にインナーアームドスーツの補修用ゲルが溢れて斬り裂かれた部分をふさいだ後に硬化する。

「そちらのタネは分かった。だが、こいつのタネは……」
「簡単だ。地気双門の術を知っていたが、使えなかった奴の知識と、お前が使った実物を見て、簡易版を作り出した。それだけだ」
「術の改良まで出来るの!?」
「……予想以上に成長が進んでいるようだな………」

 シュミレート以上のベートの成長に、イーシャの頬を疲労以外の汗が滲み出す。

「ならば、コピーしようのない術を使えばいいだけだ。オン!」

 レンの左手が瞬時にサムライソウルUを取り出し術を込めながらマガジンを交換して、ベートをポイントする。

「火気を持ちて金気を克す!」

 陰陽五行の火気の属性を付与された弾丸が、ベートへと放たれる。
 すかさず、《インプラント・タリスマン》が発動して障壁を発生させるが、障壁に当たった途端、弾丸内部から別の属性をあらかじめ付与されていた芯が飛び出し、ベートへと突き刺さる。

「下手に対抗術式を用いるため、二つの違う属性には対処出来ない。所詮は機械だ」
「なる程、ね」
「そうと分かれば!五行相克!」
「宝技、《楼鶴(ろうかく)》!」

 星哉の両手が目まぐるしく印を組んで十二神将それぞれに五行の属性をそれぞれ付加していき、ユリの両手に握られた木刀が澄んだ白い光を放った後、更にそれを黄色みを帯びた光が包んでいく。

「行け!」
「食らいなさい!」

 五色の光を帯びて生み出された十二の得物と、二種の光に包まれた木刀が、同時にベートへと襲い掛かる。
《インプラント・タリスマン》が即座に反応して結界を構成しようとするが、複数の属性に過敏に反応し、属性を決め兼ねぬままに攻撃を次々と食らう。
 ベートの絶叫が、周囲の空気を震わせて轟く。

「うっ!」
「くぅ………」

 衝撃さえ伴って発せられるベートの絶叫が、皆の鼓膜を強打する。耳を覆うような愚は犯さないが、追撃を架ける余裕も同時に失われていった。

「往生際が悪いわ!オン!」

 ただ一人、星哉が印を組み十二神将をベートの周囲へと配する。

「一黒、二赤、三青、四白、五黄、六黒、七赤、八青、九白、十黄!五行顕現、オン アビラウンケン!」
「ちょ、ちょっと!?」

 呪文と同時に、十二神将が光を発しはじめ、やがて互いを光で結んだ光の十二角形でベートを取り囲む。
 それが何か強力な術だと感じたユリが慌ててその光の魔法陣から外へと逃げ出す。

「このまま封じてくれる!祖は火気より生じ、水気を克さん、故に祖は土気なり!オン カカカ ビサンマイ ソワカ!」

 傷口から鮮血を垂れ流し、絶叫を上げるベートを、光の十二角形が包み、凝縮して地脈の中へと引きずり込もうとする。

「行けるか!?」
「包め!オン キリキリ バサラ ウンハッタ、オン キリキリ………」
「オン キリキリ バサラ……」
「宝具・羽衣!伍式・仏身(ごしき・ふしん)!」
「SPACE DECISION、FIREWALL RANKE5」

 星哉に続くようにレンと桜の呪文が重なり、ユリは髪の中から無数のムチで構成された宝具を取り出すと、それに伍式・仏身―気を完全なエネルギー体にまで変化して物質透過や精神体への直接攻撃を行う能力―を付与して光で構成された結界に潜り込ませて更にそれを強化し、その周囲を更にイーシャの結界が覆う。

「オン!オン!オン!五行相克の法にて地気へと帰り、闇へと封ぜん!克!」

 星哉の額に膨大な汗が浮かび、ベートの咆哮と《インプラント・タリスマン》の対抗術式に光の結界が壮絶なせめぎ合いを演じながら、ベートを徐々に地中へと引きずり込んでいく。

「五行、相・克!封!!!」

 ベートの体が光の結界に飲み込まれて地中へと没する寸前、ベートが一際大きな咆哮を発した。

「いいからとっとと!?」

 ベートが飲み込まれようとする地面から、突如として強力な力が昇ってくるのを全員が同時に感じた。

『何や!急に周辺の地熱が上がってるで?』
「引けっ!」
「やばい!?」
『逃げるんや、みんな!』

 一斉に術を解いて散ろうとする中、星哉一人が力の使い過ぎで片膝を地へと付ける。

「坊ちゃま!」
「間に合え!」

 レンがとっさにインナーアームドスーツの任意起動レベルをMAXにして星哉へ追いすがる。
 その目前で、地中に没しようとしていたベートの体が、下から吹き上げてきた何かに持ち上げれて彼らの頭上へと上がっていく。

「マ、マグマだと!」
「バカな、地脈を反転させたというのか!」

 ベートの体を持ち上げたのが、灼熱のマグマだというのに気付いた二人が、こちらへと噴出してくるマグマに向けて同時に構えた。

「克!」
「はあっ!」

 星哉の結界がマグマを阻み、レンの斬撃がマグマを両断する。
 それでもなお、噴出し続けるマグマが辺りを埋め尽くしていき、それに追い立てられて逃げ場が無くなっていく。
 噴出を続けるマグマの中央に、その超高温を無視して座するベートが、高く、咆哮した。

「『鏡』!」
「CALL 《INTERSEPTER》」

 ユリが投じた無数の呪符が変じて物質化した気の円盤に皆が飛び乗り、唯一イーシャだけが高速移動用マーティを召喚して宙へと舞い上がる。

『どうなってるんや!その辺一帯の地熱と地磁気が無茶苦茶になったで!?』
「地脈を操作して小さな火山を作り出したらしい」
『んなバカな!?』
「なんて非常識な奴なの!?」
「今更何を言っている!」
「後だ!早くこのマグマをどうにかしないと本物の火山になるぞ!」
「哲さんや徳さんがいてくれれば…………」
「地脈を封じる!手を…」

 星哉がマグマを押さえ込むべく印を結ぼうとした時、マグマの上を地面を駆けるのと変わらぬ勢いで駆けたベートが襲い掛かってくる。

「くっ!」
「坊ちゃま!」

しゃがみこんでベートの一撃をかわす星哉の背から引き裂かれた衣服の破片と血が飛び散る。

「まずい、これでは………」
「あと符はないのか!?」
「あるけど、一体幾つ作れるか………」

 四式・竜玉の連続使用の限界を計算しながら、ユリが符を投じようとした時、ベートが狙いをユリへと変えて襲い掛かる。

「CALL」

 イーシャが《SKYCLAW》を短縮召喚するが、《インプラント・タリスマン》で体に密着する形で結界を張ってマグマの上を移動していたベートには通じず、長大な牙がユリへと迫る。

「イヤアッ!」
「ハアアァァ!!」

 寸前の所で、横から飛んできた刺突波と斬撃波がベートを結界ごと弾き飛ばす。

「坊ちゃま!こちらであれは相手します!」
「早く地脈を封じるんだ!」

 己が信ずる得物を構えた二人の陰陽師が、その場から動く事すら適わぬ小さな足場を踏みしめ、魔獣王と相対する。
 しかし、結界を貫通した二種の攻撃を食らって傷口からおびただしい鮮血を流していたベートが、ふいに大きく跳躍する。
 それと同時に、《インプラント・タリスマン》が目まぐるしく起動する。

「来るか!」

 レンが刀をそのままに銃口を向けた時、足元がふらつく事に気付いた。

「!?」
「竜玉まで!?」

 足場と化していた気の円盤が、端から崩れていく。

「ユリ!」
「弐式・影燕!」

 上空から手を伸ばしたイーシャに、ユリが弐式・影燕の驚異的跳躍力で跳んでそれを掴む。

「宝具・羽衣!捕まって!」

 マグマからの熱で周辺は呼吸すらもおぼつかなくなってきている中、ユリが残った陰陽師に向けて天井からの蜘蛛の糸がごとくムチ状の宝具を伸ばす。

「やむをえん!」
「ありがとう!」

 星哉と桜がそれを掴んで崩壊寸前の円盤から飛び退く。だが、レンはそれを掴もうとしなかった。

「レン君!」
「何やってんの!死ぬ気!」
「勝機があるのに、なぜ死ぬ必要がある?」

 挑発的な笑みを浮かべながら、レンは消失寸前の円盤に、いきなり逆手に握った刀を突き刺す。

「そんな事したら!」
「五行、相克!オン!ハアアアアァァァァ!!!」

 消え去る円盤ごとマグマを大きく斬り裂き、吹き上げながら縦方向へと拡大していく大斬撃波、光背一刀流《波斬瞬天光》が宙にいるベートへと炸裂する。
 その効果を確かめもせず、自ら残った足場を破壊したレンの体がマグマへと倒れこもうとする。

「克」

 体がマグマに触れる寸前、肩越しにマグマへと弾丸が放たれ、呪文と共に弾丸を楔としてごく小さな結界が形勢され、その足一つ分しかない結界の上にレンは降り立つ。

「ウソ………」
「相変わらず非常識な闘い方ね〜」
「相手もだがな」

 再度マグマの上に降り立ったベートの体から吹き出した血が、マグマにしたたって蒸発する。
 ベートは憤怒のオーラを周囲に放ちつつ、低く唸ってレンへと狙いを定める。

「克、克、克」

 それに動じず、レンは立て続けに弾丸を放って足場を形成する。

「バカが。あんな手では……………」

 楔である弾丸がマグマの熱で溶けると同時に結界も失われていく。そうしたら新たに弾丸を撃ち込んで足場を作り、それに移動し、を繰り返して隙をうかがうが、さほど持たずにマガジン内の弾丸が尽きる。

「だが、悪くない!克!」

 宝具を掴んでいた手を自ら離した星哉が、落下しながらも無数の符を巻き、一度に数十の結界の足場を作り出す。

「一度に複数も術は使えない、ならばあいつを二度と跳ばせなければいいのだな?」
「上手くいけばな」
「簡単じゃない、宝具・真鹿児(まかこ)!」

 星哉に続いて足場へと降り立ったユリが、長弓状の宝具を作り出すと、それに矢の宝具を番え、上空へと放つ。

「ちゃんと避けてね、弐式 闘技・《影五月雨(かげさみだれ)》!」

 拍手と同時に、上空へと放たれた矢が無数の鋭利な雨となって一帯に降り注ぐ。

「四白金気を持ちて克す!」
「CALL 《BK WALL》」
「ヒュウウウゥゥ!」
「ハアアアァァ!」

 自らに向けても降り注ぐ矢の雨に、皆が結界で防いだり、次々と叩き落したりする中、ベートだけがあまりの攻撃量に動く事すら適わず、その場に釘付けにされる。

「やり過ぎだ!これではこちらも動けん!」
「そうでもない」

 空になったマガジンをイジェクトしたレンが、片手で矢を叩き切りながらスライドを口に咥えて懐から出したマガジンを素早くセット、そのまま口でスライドを引いて初弾をチェンバーに送る。
 そのまま連続してトリガーを引き、動けないベートの足を狙い撃つ。
 一発、二発、三発と弾丸はベートの体を覆う結界に阻まれるが、上空から降り続ける矢の雨と、立て続けの銃撃に徐々に結界に揺らぎが生じ始める。

「オン アビラウンケン、招鬼顕現!」
「CALL」

 矢の雨をかいくぐるように飛ぶ鳥の姿をした式神と、矢その物をエーテル分解しながら迫る《SKYCLAW》がベートの結界を更に綻びさせていく。

「そこ!」

 とどめとばかり、桜が全力で槍を投じる。砲弾のごとき勢いの槍が、結界を粉砕し、ベートの体を完全に貫いた。

「やった!」
「まだだ!」

 槍に貫かれて吹き飛びながらも、ベートがこちらを睨み、《インプラント・タリスマン》が目まぐるしく起動する。

「!退け!」

 それが、先程のユリの『鏡』を消去した物と似通ったパターンだという事に気付いたイーシャが手を伸ばすが、それより先にパターンが完成した。

「しまっ…」

 自らが作り出した結界が消失する感覚に、星哉が舌打ちする間もなく足場が唐突に消失する。

(間に合わない!)

 消失する寸前に弐式 影燕の跳躍力で何を逃れたユリが、新たに宝具を作り出す間もない事に愕然とする。
 そのまま、下に残った陰陽師達がマグマに飲まれるかと思った瞬間、どこからともなく一本のロッドが飛来し、マグマへと突き立つ。

「メス!」

 一言の呪文と共に、陰陽師達が飲み込まれるはずだったマグマが瞬時に凝結し、ただの岩の塊へと変貌した。

「これは!?」
「なんでオレ様が来る前におっ始めてやがる?」
「ルイス!」

 漆黒のマントをはためかせて、どこからともなく現れた魔法使いルイスが、ロッドの側へと降り立つ。

「今頃何しに来た、魔法使い!」
「助けてやったのに随分な言い草だな、陰陽師」
『遅いでルイスはん』
「助かった」
「ありがとうね」

 敵が増えたかのようにルイスを睨み付ける星哉と対照的に、レンと桜は素直に礼を述べる。

「どこ行ってたのよ!作戦会議にも来ないで!」
「こいつを作るのに手間取ってたんでな」

 冷え切ったマグマの上に降り立ちながら罵声を浴びせるユリに意味ありげな笑みを浮かべつつ、ルイスが指を一つ鳴らす。
 すると、虚空に巨大な光の球体が出現した。

「これは!?」

 それは、淡い光を放つ球体の内部で無数の光の帯が円状にゆっくりと旋回している、不思議な物体だった。
 よく見ると、その光の帯全てに無数のシジルやルーン文字が描かれている。

「魔法陣……なのか?」
「懐かしいだろう、魔獣王。二百六十年前お前を封印した、《永遠の始原たる終焉》の陣だ。名うての魔術師が十人がかりで作った代物を再現するのにはてこずらされたぜ」

 胴体に槍が突き刺さったまま、ベートが恐れるように宙に浮かぶ立体魔法陣を見ながら、低く唸る。

「遠慮するな、たっぷりと味わわせてやるよ。この世の終焉までな!」

 ルイスがロッドを引き抜き、天へと掲げる。
 それに呼応したように、内部の光の帯が目まぐるしく回転を早めていく。

「押さえろ!こいつを封印する!」
「貴様が命令するな!オン アビラウンケン、来たれ十二神将!」
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!縛!」
「いざ、参る!」
「参式 闘技・《鳳凰翔(ほうおうしょう)》!」
「CALL 《SAW FISH》」

 突き刺さったままの槍を媒介にして、桜の縛呪がベートを縛る。
 そこに業火をまとったミサイルのような宝具の矢が飛び、それに空飛ぶ骨魚が続く。
《インプラント・タリスマン》を使いつつ、力任せに縛呪を破ったベートが、毛並みを焦がされつつも業火の矢をかわすが、その後ろの骨魚に食いつかれ、さらに突撃したレンの斬撃がその体に新たな傷を刻む。

「ケテル、コクマー、ビナー、ケセド……」

 十二神将がベートに追撃を架ける中、ルイスの呪文に呼応して球体の光が増し、内部の光の帯はさらに回転を加速させる。

「CALL 《MACROPHAGE》、ATTACK・PATTERN D」

 半透明の巨大な地虫が、冷えて石と化したマグマを飲み込みながらベートの周囲を回り、その足場を崩していく。
 崩れていく足場を踏んで大きく跳んだベートが、咆哮しながら《インプラント・タリスマン》を起動、突き刺さったままの槍を見えない手で一気に引き抜く。

「ふっ!」

 呼気と共に、上空から急降下したイーシャのかかと落としがベートの頭部に突き刺さり、その体を地面へと叩きつける。

「イェソド、マルクト!我、セフィロトを示し、四元を産まん。イイイイイ・アアアアア・ウウウウウ・エエエエエ!」

 ルイスが神名を唱えながら、東に向かって土の召喚五芒星を指で描き、更に南に水の召喚五芒星、西に火の召喚五芒星、北に風の召喚五芒星を描き、魔法陣の力を発動させていく。

「まだか!」
「黙ってろ!術が乱れる!」

 手負いといえど、未だ頑強な抵抗を見せるベートに十二神将が吹き飛ばされ、レンの斬撃と槍を拾った桜の刺突がかわされる。

「宝具・十束!」

長大な木刀を構えたユリを交えた三人が近接戦でベートの動きを止めようとするが、《インプラント・タリスマン》から放たれた術が接近を拒み、ベートの牙と爪が得物を弾く。

「五秒でいい、動きを止めろ!」
「さっきからやっている!」
「簡単に言うな!」
「だが、動きを封じなければ封印はできないだろうな」

 マーティーを次々と召喚しながら、イーシャが脳内HiRAMユニットでベートを封じる方法を次々とシュミレートしていく。
 そして、一つの結果を算出した。

「勝美、グングニールはチャージ完了しているか」
『OKや、でも使うとあとでエライさんがうるさいで』
「構わない、回路を接続しろ。ターゲッティングをこちらへ」
『了解』

 即座に送られてきたターゲッティングプラグラムにイーシャは必要なデータを入力していく。

「上空飛行物 クリア、気象条件 クリア、自転周期 シーケンス…………クリア、ターゲット セット」
 イーシャの目が全身を朱に染めながらもなおその凶暴さが衰えない魔獣王を捕らえ、その位置情報を脳内HiRAMユニットで確定、通信デバイスを通じてダークバスターズのメインコンピューターに入力。入力されたデータはダイレクトにスクエア・カンパニー所有の情報収集人工衛星 オーディンに送られ、その内部に極秘裏に取り付けられた対地攻撃用高出力レーザー“グングニール”の制御用AIに入力された。

「来るぞ、退け!」
「何がだ!?」

 その言葉を即座に理解したユリが慌ててベートの側から逃げだし、なんとなくそれを察したレンと桜が星哉を引きずるように飛び退く。

「グングニール、シュート」

 天空から、衛星軌道使用型対地攻撃兵器プロトタイプ“グングニール“の閃光が一直線にベートへと襲い掛かる。

「きゃっ…」
「これは!?」
「衛星砲か!」

 周囲を全部白光で埋めつく程の閃光と、それに伴う振動、爆風に皆が慌てて顔を覆う。
 その閃光の向こうから、かすかにベートの絶叫が聞こえてくるが、その状態を確かめる術は無い。

「ルイス」
「分かっている!α!」

 ルイスがギリシアアルファベットの“始まり”を告げる呪文と共に途切れた閃光の爆心地へと光の立体魔法陣を送り出す。
 中心で静止した光の球体は、そのままそこにある物を内部へと取り込み始める。
 それに抗うかのように、魔獣王の咆哮が轟く。

「生きてやがる………」
「対要塞攻撃砲の直撃食らったのに……………」
「物騒なサポートですのね」
「これで、終わったか?」

 爆風がやんできつつあるその場所には、内部の光の帯が目まぐるしく動く光の立体魔法陣と、それに徐々に取り込まれつつあるベートの姿が露わになっていった。

「始原にして終焉、根源にして四元、永久の崩壊と再生を繰り返せ!」

 ロッドを振りかざし、ルイスはベートを完全に封印しようとする。
 ベートは壮絶な咆哮を上げながら、《インプラント・タリスマン》を目まぐるしく起動させるが、複数の系統の魔術で構成された魔法陣には追いつかず、胴体の上半分が取り込まれていった。

「終わったか?」
「このままならばな」

 光の中に分解されながら取り込まれていくベートを見ていたレンが、ふと《インプラント・タリスマン》が埋め込まれているのと反対側の胴体部に奇妙な物が出来てきつつあるのに気付いた。

(臓器か?だが、あんな物はどの生物にも…………)

 その丸く膨らみ、奇妙な光沢を持った臓物にも見える奇怪な物体に、血管のような物が浮かび上がる。そしてそれは、目まぐるしく入れ替わり、そしてそれは一つのシジルを浮かび上がらせる。

「!?」
「どうした?」
「反対側だ!」
「何あれ!?」

 レンの声に、全員が同時に異常に気付いた。
《インプラント・タリスマン》は流れる光の帯のルーン文字を流れとは逆に映し出し、その奇怪な臓物は光の帯のシジルを逆に浮かび上がらせていく。それは、正式な魔術解除に他ならなかった。

「魔法使い!あれがもう一つ出てきた!」
「何!?」
『そ、そんな………』
「ダメだ、解除される!」

 取り込まれていく時の逆再生を見るかのように、ベートの体が光から抜け出していく。
 同時に、光の帯のルーン文字やシジルが一つ、また一つと消えていき、その回転も遅くなっていく。

「くそっ!このままでは逆にあいつがあれを取り込む!」
「早く術を解け!」
「やっている!」

 光の帯が一本、また一本とベートに吸い込まれていくのを舌打ちしながら、ルイスの指が退去の五芒星を次々と描いていく。
 光の帯の三分の一がベートに取り込まれた時、光の魔法陣を急激的に光を失って宙へ掻き消えた。
 あとには、傷が全て消え失せ更に凶悪な姿へと変貌した魔獣王がその場にいた。

「………最悪」

 更に鋭さを増した牙を見たユリが、思わず呟く。

「どうする?封印する手も失われたぞ」
「じゃあ帰ってママの膝枕で寝てろ陰陽師。封印できないなら倒すまでだ」
「それしかないだろうな」

 ロッドを一振りして構えるルイスに、刀を正眼に構えたレンが続く。

「さっきのアレ、もう一回使えません?」
「無理だ、再チャージに20分は掛かる」

 槍を構える桜に、背のマーティーを解除したイーシャがその隣に降り立つ。

「今度は防御も二倍だ。どうする?」
「さあな、考えている暇もない!」

 先程の倍の数の式神が、一斉に全員に襲い掛かる。
 それに混じって、斬撃波や衝撃波といった術も飛んでくる。

「ハァッ!!」

 ベートの攻撃と同時に前へと飛び出したレンが、抜刀のモーションすら捕らえられない音速超過の居合い、光背一刀流《閃光斬》を繰り出す。
 一瞬後れて響いた音速超過を示す空気を斬り裂く高音と共に、式神達がまとめて砕け散る。
 しかし、その間を抜くように放たれた斬撃波がレンの肩を切り裂く。

「レン君!」
「大丈夫。さすが最新型だ、腕くらいは持っていかれるかと思ったが………」

 吹き出した鮮血をそのままに、傷口を補修用ゲルが覆うのを見たレンが再度構える。

「あんた、ひょっとしてM?」
「違う」

 再度飛んできた式神を迎撃しながら、ユリがレンの隣に並ぶ。

「じゃあ、少しはこっちに回して」
「そうだな」
「無理するのもお父さん似ね」

 桜の槍が斬撃波を弾き返しながら、前へと進み出る。

「未熟者でしてね」
「それもお父さんそっくり」
「………どういう親子よ…………」

 近接戦にたけた三人が、迫り来る無数の攻撃を迎え撃つが、そのあまりの多さに防戦一方に追い込まれる。

「五行相克!」
「メス!」
「BREAK」

 前の三人がさばき切れない分を三者三様で防いだ後衛の三人は、この状況を打開する手をそれぞれの脳内で思案する。

「勝美、勝也、分析は?」
『今やっとる!でもこんなんシュミレートにないで!』
『イーシャはん、手数は倍になっても相手の総合オーラ量が倍になった訳やないと思います!』
「体内オーラが切れるまでまつか?どう見てもこちらが先だろうがな」
『ウォリアー総員、出動態勢整ってます』
「雑魚は引っ込んでろ!自殺志願者と生前葬済みの奴は構わんが!」

 通信機に怒鳴り返しながら、ルイスがロッドを回転させて飛んできた術を弾く。

『出たで、作戦は変わらず。やけど、二割増しや』
「二割か………」

 激戦で疲弊している全員のオーラ量をSCANしたイーシャが、それが極めて難しい事を察する。

「陰陽寮の他の当主は来れないのか?」
「無理だ、向こうも鎮めようとしていた土地神が暴れ始めたと連絡がきている」
「こっちが力尽きるのが先か、向こうの種切れが先か…………あまり楽しい結果にゃなりそうにねえな………」

 彼らの目前で、とうとうさばききれなくなったユリと桜が攻撃を食らい、片膝をついた。

「ユリ!」
「桜!」
「くっ!」

 二人を守るように前へと出たレンが、再度《閃光斬》を繰り出す。
 しかし、迫ってきていた攻撃を全て切り裂いた瞬間、自ら迫ってきていたベートの牙がレンを狙う。

「壱式・蓬莱!」

 牙がレンの右腕を捉え、その顎が閉じられる瞬間、ユリの筋力倍加の拳がベートの横っ面を殴り飛ばす。

「悪いけど、あたし守られるのって嫌いなの」
「そうか」
「そうかしら?」

 クスリと笑いながら、桜が猛烈な突きの連続、光背一振流《烈光突》を繰り出す。
 回避不能とされる無数の穂先が、ベートが瞬時に作り出された結界に阻まれる。

「これでもダメ?」
「こちらの術式はほとんど解析されたらしい。下手な攻撃は効かない」
「物理攻撃も魔術攻撃もダメって事?」
「見せた奴はな」

 左手に握られたサムライソウルUの全弾をばら撒いたレンが、銃を懐に仕舞いながら後ろに下がる。

「五分だけ頼む」
「ちょっと!」
「奥の手があるならくたばる前に使っとけ!出し惜しみしてると死ぬぞ!」

 レンの下がった場所に進んだルイスが、ロッドを旋回させて式神や術を叩き落していく。

「使っている暇があればな。この攻撃量は異常すぎる!」
「術の制御は完全にAI任せだからな。我々の使う術とは使い方がまるで違う」
「AIならなんとか破壊出来ないか!?ウイルスを送るとか、高電圧を架けるとか」
「全部対処済みだ。そんなヤワな物を作るようなスタッフはいない」
「暴走してるだろうが!」

 十二神将とマーティーを組ませるようにして闘っていた星哉とイーシャの側まで下がったレンは、いきなり自らの手に刀の切っ先を突き刺す。
 そこから溢れ出す血を刃に塗りつけながら、指は無数の梵字を血文字として刃に描いていく。

「オン アビラウンケン」

 呪文を唱えながら、右手で刀を正眼に構え左手で無数の印を組んでいく。

「それを使うのか!」
「何でもいいから早く!」

 かわしきれなかった攻撃がユリの肩をかすめ、それに血しぶきが続く。

「祖は鋼、祖は御魂、総じて刃とならん。しばし我が命にてその御魂現さん。オン キリキリ オン キリキリ……」

精神を集中して呪文を唱えつづけるレンのコメカミを、迎撃から逃れた式神がかすめて血が滴りだす。それを気にもかけずに、レンは一心不乱に呪文を唱え続ける。

「臨!兵!闘!者!皆!陣!列!在!前!土気から生じ、火気から変じ、水気にて磨かれし刃よ!我が前にその御魂を現せ!」

 呪文の終了と共に、レンの刀が光りだす。それは無数の光を生み出し、そして徐々に形を取っていく。

「御神渡流陰陽術奥義、《剣神招来!》」

 光は、やがてクリスタルで作られたかのような半透明な鎧武者の姿を取ると、レンの体に重なっていく。
 レンのシルエットに完全に重なった半透明の鎧武者は、レンを覆うように合体してその半透明な鎧をレンへと纏わせる。

「あれは!」
「剣の魂と完全に融合する御神渡流の秘奥だ。刃の魂をも力に出来る代わり、刃のダメージも食らう危険な術だぞ!」
「ハアアアアァァァ!!」

 半透明の鎧を纏ったレンが、光の粒子を散らしながらベートへと突撃する。

「む、無茶よ!」
「一人ならね」

 無数の術を食らうがままに突撃するレンの背後につくような形で、桜が槍を振るってレンの援護をする。

「アアアアァァァァァ!!!!」

 突撃を阻むべく繰り出されたベートの爪が袖をスダレに切り裂く。
 攻撃を喰らった個所から、インナーアームドスーツの補修も追いつかず血が噴き出していく。
 それでもレンの勢いは止まらず、まっすぐにベートへと突っ込んでいく。

『水沢はん、いちかばちか《インプラント・タリスマン》への直接攻撃を!そのオーラ量なら破壊できるかもしれへん!』

勝美の言葉を受けた、レンの全身全霊を込めた刃が、複製された《インプラント・タリスマン》を貫いた。

「アアアアァァァァ!!」

 そのまま刃を捻って上へと向かせると、峰に左の拳を叩き込み、一気にベートの胴体ごと複製《インプラント・タリスマン》を斬り裂く。
 今までで最大級の咆哮が、ベートの口から放たれた。

(攻撃が止まった、今だ!)

 イーシャがのたうち回るベートへと一気に近寄ると、オリジナルの《インプラント・タリスマン》へと右手を伸ばし、それに触れる。

「ACCESS」

 自らの能力を使い、《インプラント・タリスマン》の制御AIに直接ダイブしたイーシャは、その構造を瞬く間に解析していく。

(シーケンス 解析、ルート 確定、セクタ 全確定)

 そこにある全てを解析したイーシャが、その全てを一気に否定する。

「BREAK」

《インプラント・タリスマン》がそのシステムを破壊され、火花と血しぶきを上げて砕ける。
 イーシャもただでは済まず、逆流したベートの妖気が彼女の内部シーケンスと体その物にダメージを与える。

「今だ!!」

 耳から血を流しながら、イーシャが叫ぶ。
 だが、ベートは最後の力を振り絞ってその場からの逃亡を図った。

「まずい!」
「間に合わな…」

 相手を追えるだけの余力が残っていない皆が消え去ろうとするベートの背を睨んだ時、突然ベートが悲鳴を上げる。
 どこからともなく飛来した一羽の大鷲が、その嘴でベートの片目を貫いていた。
 一瞬動きが止まったベートの体が、今度はそのまま後ろへと吹っ飛んでいく。

「!???」
「これは!」

 ベートと一緒に下の固まったマグマをえぐりながら、突如として現れた真横に吹く竜巻が、ベートの体を押し戻す。

「春気を持ちて雷気と成し、雷気を持ちて汝が在を禁ず!急々如律令!」

 さらに、天空からワイヤーの付いた錐型の刃とそれに貫かれた呪符がベートへと突き刺さり、呪符は雷と変じてベートを穿つ。

「トドメを!」
「誰!?」

 上空から響いてきた女性の声にユリがそちらを見た。
 いつからいたのか、上空には一機の小型戦闘機と、その機上に立つ金髪の若い女性と蒼く輝く右目を持った若い男性がこちらを見ていた。

「あいつらか!」
「知り合い?」
「後回しだ!一気に行くぞ!ケテル、コクマー……」
「臨!兵!闘!者!皆!陣!列!在!前!」

 彼らを見た星哉が叫ぶのを無視してルイスが呪文の詠唱に入ると、星哉もそれに続く。

「派手に行くわよ!参式・火鼠 奥義《火乃迦具土(ひのかぐつち)》!」

 ユリが拍手を二回叩くと同時に、その全身が火鼠の炎で覆われる。

「食らえ!」

 炎で覆われた拳が、立ち上がったベートの顎をアッパーカットで殴り上げ、同時に拳の炎がバックドラフトのごとき勢いでベートを宙へと浮かせる。

「五行…」
「相克!」

 レンの居合いと桜の刺突が、完全にベートの一部となって再生しつつあった《インプラント・タリスマン》を左右から胴体の半ばまで斬り裂き、貫く。

「アッシャー、メス!」
「克、破!」

 ルイスのカバラ魔術と星哉の陰陽術が、ベートの存在その物を崩壊させ、砂人形のようにベートの体が崩れていく。
 それでもなお魔獣王は余力を振り絞り、イーシャへと襲い掛かる。
 それをせり上がったイーシャの右足が捉え、その体を再度浮かび上がらせる。

「終わりだ、魔獣王。BREAK!」

 イーシャの手が、ベートの顔面に触れると同時にコマンドが実行される。
 無数の術で存在その物が崩壊しつつあったベートの体が、数瞬静止し、そしてゆっくりと崩壊していく。
 最後の力を振り絞った遠吠えが響く中、その体は崩れ、地面へと崩れ落ちる。
 後には、《インプラント・タリスマン》に使われていた物と思われる部品が散らばっているだけだった。

「BATTLE END」

 イーシャの呟きが、その場に響く。
 ふとユリが上空を見た時、そこにはすでに助けてくれた謎の二人と大鷲の姿は戦闘機ごと消えていた。

『こちらでも消滅を確認したで!勝ッたんやうちらが!』
『おおきに。みんな・・・』
「礼はいらん。成すすべき事をやっただけだ」
「しかし、でしゃばりおって、アドルの連中が………」
「勝てたんだ、よしとしとけ」
「そうだな。後はウォリアーにでも任せて、オレ様はどっかで飲んで寝る」
「それはいいわね」

 勝手な事を言いながらその場を去っていく者達を見送りながら、イーシャは消えた二人の姿を思い出す。

「アドル、それが彼らの組織か………」
「お礼も言ってる暇なかったわね」
「また会うだろう、どこかでな」
「そうね、あたし達も帰りましょ」
「ああ、さすがに疲れた」

 小さく微笑むと、イーシャはユリと共に、その場を立ち去った。

 静かな夜が、その場をゆっくりと覆っていった…………



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