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真・女神転生クロス

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「……これは一体?」
「さあな」

 かつての城址跡に作られたという本丸公園に、異様な集団が集まっていた。
 私服や制服、スーツなどと種々の格好をした男女が集まっているが、その誰もが白塗りに目の部分だけ穴が空いた仮面を付けている。
 そのような仮面を付けた老若男女が集っている様は、異様としか言いようが無かった。
 やがて、その集団の脇から、仮面を付けてない風変わりな格好、というかコスプレ衣装のような物を着た褐色の健康そうな少女が前へと歩み出た。

「ヤイル・カメ〜ン!」
『ヤイル・カメ〜ン!』

 その少女が右手を斜め上に上げ、変わった掛け声を上げると、仮面の集団が一斉に続く。

「じゃあこれから仮面党、定例集会始めるよ〜!」

 少女、かつてはイシュキックと名乗り、仮面党の巫女として暗躍(?)した人物、星 あかりが集会の開催を宣言した。
 ジョーカーによって願いを適えられた者達からなる組織《仮面党》、噂によって一時凶悪なテロ集団と化した仮面党だったが、噂の沈静化と外界の滅亡により、その性質はまったく異なる物へと変貌していた。
 かつてのテロ集団から、カルト兼自警団と化した仮面党は新たなリーダーの下、再度結束を強めていた。

「こういう物は時代が変わってもあまり変わらないな」
「未来において科学技術が進めば、宗教は衰退するという説は間違いだったようだ」
「技術が進めば進む程、むしろカルトが横行する。その手の事件は増える一方だ」

 ライドウとその肩に留まっているゴウトの呟きを聞いた克哉が、一人と一羽の意見を補足する。

「過去でも未来でも、異端は存在する、か」
「だから君や僕のような者が存在する。たとえそれもまた異端でもな」
「それじゃ杏奈お姉ちゃん……じゃなくてレイディ・スコルピオンから」

 二人と一羽の声が聞こえてないのか、元気そうなあかりの声と共に、仮面党幹部四天王の唯一の生き残りにして、現仮面党の実質リーダーのレイディ・スコルピオンこと吉栄 杏奈が党員達の前へと出た。

「みんなも気付いてるはずだ。ここ最近のこの町の不安定さを。市民達は、皆何か起きるのではと不安に思っている」
「その通りです。レイディ」

 党員の一人が前へと進み出ると、一つの報告書を差し出す。
 それを受け取った杏奈がそれに目を通す。そこに書かれていたのは、最近の仮面党と町に起こり始めた異変との戦闘記録だった。

「ラスト・バタリオンの残党のみならず、正体不明の敵も出現しているのは知っているだろう。今こそ、我らは力を合わせなければならない」
『ヤイル・カメ〜ン!』

 杏奈の宣言と共に、党員達が掛け声を上げる。

「これから正体不明の敵への説明がある。総員、謹聴せよ」
「いや、そんなにかしこまられても………」

 党員達が姿勢を正す中、多忙を極める克哉署長の代理というか影武者として来た克哉警部補と、説明役のライドウがホワイトボードを手に前へと進み出る。

「現在、確認されている新しい敵は二種、一つはシャドウと呼ばれる存在、特徴はこの仮面だ」

 ホワイトボードに張られた写真を指示棒で克哉が指す。

「その特徴は極めて多岐に渡り、その判別は極めて困難だ。もし交戦状態に陥った場合、決して油断しない事、そして不利な状況になった場合、すぐに退避して警察の特殊対策部隊に連絡する事。問題はもう片方だ」

 克哉が別の写真、悪魔の姿をした異形を指す。

「こちらは喰奴と呼ばれる存在。こちらは極めて厄介な事に、人間へと変身する力を持っている」

 混乱を防ぐため、あえて逆の説明をしながら、克哉は進めた。

「特徴は人間状態だとアートマと呼ばれるタトゥーのような物が体のどこかにある事。そして最悪な事に、こいつらは悪魔および人間すらも捕食する」

 その言葉に党員達に衝撃が走り、その場がざわめいていく。

「静かにして! 大事な事話してるから!」

 あかりの一言で、党員達は一斉に沈黙した。

「理性的なタイプもいるらしいが、逆に完全に理性を失っている危険なタイプも存在する。これら喰奴との戦闘は、絶対に行わないように! 文字通り、食われる」
「食い殺されたくなかったら、警察署もしくは警邏中の特殊対策部隊に知らせろ。すぐに駆けつける」
「あの………」

 克哉の説明にライドウが補足した所で、党員の一人が手を上げる。

「何か?」
「特殊対策部隊に、その喰奴がいるのを見たって奴が………」
「オレも聞いた」
「いや、実際見たわよ………」

 その一人を始めに皆が口々に騒ぎ始める。
 それを見ていた克哉とライドウは、目配せするとライドウが管を一本取り出しつつ、呪文を唱える。
 通常よりも多くのマグネタイトを消費し、完全に実体化した雷電族 トールが党員達の前に姿を現した。
 突然の事に、党員達が驚く中、ライドウがあらかじめ用意しておいた嘘の説明を始めた。

「ある種の術で、制御下に置く事が出来る。ただし、簡単に出来る事ではない。間違っても試みようと思うな」

 トールが手にしたハンマーを持ち上げ、振り下ろす。
 轟音と共に地響きが響き渡り、党員達の体を揺らす。
 驚き過ぎて党員達が硬直する中、ライドウがトールを管へと戻す。

「くれぐれも、無理をして犠牲者を出さないように。運のいい事に、署に対処できる人間が集まっている」
「自分達が出来る事をわきまえる事だ。オレ達は戦う。が、市民を守るのはお前達だ。以上」
「総員、心せよ。殉死者を無駄に増やす事を私は望まない」
『ヤイル・カメ〜ン!!』
「それじゃあ、今日はここで解さ〜ん。マジックカード残り少ない人は、もらってって」

 皆が仮面を外しながら解散していく中、残った克哉はため息を吐いた。

「協力してくれるのは結構だが、一般人ばかりではな………」
「仕方が無い、幹部で残ったのは私とあかりだけだ」
「こんな子供をか」
「なんだと〜! イシュキックは結構強いんだぞ!」

 怒るあかりをライドウが片手で止めつつ、仮面党の戦闘記録に目を通す。

「このような状況下で、一番怖いのは混乱だ。いかな形であれ、一般人の避難誘導や遅滞戦闘を行える人材がいるのは好都合だ」
「警察官でも似たような状態のようだからな………なんとしてでも原因を突き止めなくては」
「分かった事があれば、すぐに知らせます」
「頼む。それと君自身も無理をしないように」
「お前が死ねば、仮面党とやらは瓦解する可能性が高い。支えが崩れれば、後はあらゆる物を巻き込んで一気に崩壊するだけだ」
「あかりだっているよ! この陰険コスプレマント!」
「……コスプレとはどういう意味だ?」
「……後で教えよう」

 まだ若い二人でかろうじて持っている仮面党の状況に僅かな危惧を覚えつつ、克哉とライドウは顔を見合わせた。



「今戻った。それとこれを」
「仮面党とやらの戦闘記録か」

 警察署の会議室で、色々なデータを比較検討していたゲイルが、受け取った仮面党の戦闘記録に目を通していく。

「Mapをこちらに」
「ポイントを絞り込めれば……」

 比較検討に協力していた元エミルン学園ペルソナ使いにして有数のオカルトマニア、エリーこと桐島 英理子とたまきが目撃記録や戦闘記録をPCに入力していく。

「こういう時、小岩の奴がいればな………」
「それって、八雲の事? そっちにもいるの?」
「ああ、葛葉からの出向でな。性格と行動と倫理に問題はあるが、優秀なサマナーなのは確かだ」
「こっちのとまったくそのままね。まあこっちのは外界の崩壊に巻き込まれただろうけど」
「それで死ぬような奴かな………」
「Oh、出来ましたわ」

 PCのディスプレイに、珠阯レ町の地図と種々の敵の目撃および戦闘記録が表示されていく。

「一見散逸して見えるが、中央区画が多いな」
「蓮華台付近か……この世界だと何がある?」
「七姉妹学園の鳴羅門石から、シバルバー中枢部へと続く天の川が」

 会議室内へと入ってきた黒須 淳が、蓮華台の中央の七姉妹学園を指差す。

「けど、あれって悪用されないようにって封印したわよ? 私と所長で」
「その存在を知ってるのは?」
「イン・ラケチの噂で色々広まってるから、詳しい事は………セブンズの生徒だったら結構知ってるはず」
「Oh、ひょっとしたら、私達が気付いてないByroadがあるかもしれませんわ」
「抜け道、か…………」
「探索班を組織し、この周辺を重点的に探索するべきだ」
「それはそうだが、藪を突付いて蛇を出してしまっては問題だ。戦闘能力を持つ者達で組織しよう」
「それも腕の立つ連中でだ。喰奴らしき目撃例もあるが、暴走もしくは敵対の可能性は極めて高い」

 ゲイルと克哉が探索班について論議する中、エリーとたまき、淳がMapをにらめっこして可能性を絞り込もうとする。

「DATAが少な過ぎますわ………」
「あとで仲魔で巡回してみるしかないわね〜」
「真田君の仲間に、探索能力に秀でたペルソナ使いがいるらしいけど、こちらにも一人くらいいれば………」

 そこで、いきなり署内に甲高い警報が鳴り響いた。

『緊急連絡! 蓮華台近辺にて大規模なシャドウ多数発生を確認! 全署員の武装許可! 至急市民の誘導に当たられたし! 特殊対策班は総員出動せよ! 繰り返す!』

 周防署長の緊迫した声が響き渡る。
 それを聞いたサマナー、ペルソナ使い、喰奴達は即座に己の得物を握り締めていた。

「車を回せ!」
「XX―1は出撃可能か!?」
「何とか!」
「パトロール中のみんなを呼び戻して!」
「すでに連絡はいってる!」
「弾をありったけ出せ!」
「住民の避難を最優先!」

 蜂の巣を突付いたような騒ぎの中、全パトカーがサイレンを鳴らし、現場へと急行していった。



「カメ〜ン!」
「カメ〜ン!」

 つい先程まで自分達が集会を行っていた場所で、仮面党の党員達がエンブレムの掲げられたクロスロッドとマジックカードを手に、湧き出してくるシャドウとの激戦を繰り広げていた。

「すぐに警察の特殊対策部隊が来る! それまでこいつらを一体も出すな!」
「いっくぞー! パリカー!」『マハガルーラ!』

 杏奈が党員達に指示を出す隣で、あかりが自らのペルソナ、ゾロアスター教で流星と同一視される美しい女魔パリカーを呼び出し、疾風魔法を放つ。

「やったか!?」
「いや、まだ来るぞ!」

 小型シャドウの間から、一際大きい中型シャドウも迫ってくる。

「アエーシェマ!」『アクアダイン!』

 杏奈も自らのペルソナ、ゾロアスター教で凶暴を現し、人を酔わせ暴力へ誘う悪魔アエーシェマを呼び出して水撃魔法を放って中型シャドウを押し流す。

「大丈夫だ! 倒す事は出来なくても、力を合わせれば防ぐ事くらいは…」
「なんだあれは!?」

 党員を鼓舞しようとした所で、党員の一人が驚愕の声を上げる。
 皆が思わずそちらを見た所で、驚愕の理由を知った。
 まず聞こえたのが何かを食いちぎるような咀嚼音、続けて何か液体が滴る音。
 その場所では、一体の悪魔が先程杏奈のペルソナの攻撃で押し流された中型シャドウを、食っていた。

「く、食ってる………」
「喰奴だ!」
「攻撃を集中させろ! あれは危険過ぎる!」
「せ、戦闘は避けろって話じゃ?」
「特殊対策部隊が来るまでの間、こいつを徘徊させる訳にはいかん!」

 杏奈の声と同時に、仮面党の攻撃が喰奴へと集中する。

「喰、喰うー!!」
「弱点を見つけ出せ! 喰奴は強い個体でも弱点を持っている、という話だ!」

 迫る喰奴、髪の毛の一本一本と下半身が蛇というギリシア神話の怪物、龍族 ゴルゴンに向けて無数のマジックカードがかざされ、魔法の集中放火の前にさすがに動きが止まり、そして打ち倒される。

「よ、よし倒せない相手じゃないな………」
「やりましょうレイディ!」
「油断するな! さらに強い奴もいるかもしれない!」
「その通りよ」

 突如頭上から響いてきた声に、皆が慌ててそちらを向いた。

「あいつも喰奴か!」
「カメーン!」

 党員達がかざすマジックカードから放たれた魔法が、頭上の喰奴へと命中するが、相手はまったく怯まない。

「魔法耐性だ! 離れろ!」

 その喰奴、ドレスをまとった女性の姿をした月夜の森の支配者にして、妖精王の后たる魔族 ティターニアがその美しい顔を醜悪に歪める。

『マハラギダイン!』
「しまっ…」

 放たれた大規模な火炎魔法に、杏奈は自らのペルソナを盾に党員達の前に立ちはだかった。

「レイディ!」「スコルピオン様!」「杏奈お姉ちゃん!」

 皆が声を上げる中、なんとか党員達を守りきった杏奈が、全身から焦げた匂いを漂わせつつ、その場に片膝をついた。

「こ、このレイディ・スコルピオンの前で………みんなに手は出させない………」
「別に構いませんわ。あなたが一番おいしそうですし」
「させるかぁ!」
「スコルピオン様をお守りしろ!」
「悪の悪魔め! このイシュキックが相手だ!」

 党員達が杏奈を守ろうとして周囲を取り囲み、あかりがその先頭に立つ。

「あら、その子もおいしそう」
「逃げろあかり! お前じゃ勝てない!」
「やだ!」
「では、二人そろっていただきますわ!」

 退こうとしないあかりに、ティターニアが襲い掛かる。
 それでもその場から動かず、ペルソナを発動させようとしたあかりだったが、その背後から光る何かが飛来した。

「ぎ、ぎゃあああぁぁーー!!」
「あれ?」

 突如ティターニアの絶叫が響き渡る。
 その目には、一振りの日本刀が突き刺さっていた。
 続けて背後から跳び出した影が、手にした剣の一閃でティターニアの胴を両断、二つに分かれたティターニアの体が石と化したかと思うと、次の瞬間には炎と共に爆砕した。

「すげぇ………」
「何あれ………」

 いきなりの事に仮面党の全員が呆然とする中、彼らの背後から歩みだした男が、地面に落ちた日本刀を拾う。

「あ、陰険コスプレマント!」
「先程の言葉を撤回しよう」

 愛刀・陰陽葛葉を手にしたライドウが、あかりの方を見て告げる。

「よく今まで持ち応えた。お前は十分に強い」
「当たり前だ! イシュキックは正義の転生戦士だ!」

 あかりが吼える中、ライドウは陰陽葛葉を押し寄せるシャドウへと向ける。

「あとは任せろ」

 手にしたヒノカグツチでティターニアを両断した男、アレフが背後すら見ずに告げる。

「ヒロコ、負傷者の手当てとそいつらの撤退の援護を」
「分かったわ。気をつけて、あの喰奴は明らかに無差別みたいだから」
「撤退って……」
「二人だけで戦う気!?」

 アレフのパートナー、ヒロコが杏奈に肩を貸しながら立たせると、そのまま後ろへ下がろうとするが、あかりが反論する。

「幾らあんた達が強くても、二人じゃ無理だよ!」
『二人?』

 ライドウとアレフが同時に答えつつ、己の得物をなぜか仕舞う。
 そしてライドウは両手に管を構えて詠唱を始め、アレフの指が腕のアームターミナルをタイプする。
 ライドウの管から光が溢れ、アレフのバイザーが次々と空間にグリッドを描いていく。
 そして、あかりの目の前で二人の仲魔達が姿を現した。

「心配は必要ない。手早く片付けねばならんしな」

 外法属 リリス、蛮力属 ショウテン、技芸属 クダン、雷電属 トール、紅蓮属 ムスッペル、銀氷属 オオヤマツミ、疾風属 パワーをまとめて召喚したライドウが、あかりへと告げる。

「あとはオレ達が引き受ける」

 堕天使 アガレス、日本神話でも有数の力を誇る荒々しい男神である破壊神 スサノオ、インド神話のナーガ族の王で千の頭を持つ巨大な蛇である龍神 アナンタ、インド神話で好戦的な四本腕の漆黒の女神である地母神 カーリー、インド神話で幸運と反映を司る蓮の女神 ラクシュミを続けて召喚したアレフが、再度剣を抜いた。

『行くぞ』
『オォ!』

 二人の召喚士が飛び出すと同時に、仲魔達も一斉にシャドウへと襲い掛かる。
 瞬く間にシャドウは倒され、襲い掛かる喰奴すらも剣の前に散っていく。

「そこの子! ここは任せておいて、撤退を手伝って!」
「か、かっこいい………」

 ヒロコの言葉も届かず、あかりは壮絶な強さを誇る二人を見つめていた。



「早く校舎に入るんだよ! すぐそこまで来てる!」

 蓮華台の中央部にある七姉妹学園、通称セブンスにも、シャドウの大群が押し寄せてきていた。
 この学校の教師である高見 冴子が中心となって、逃げる市民達を校舎へと匿っていた。

「うわっ!」

 校門から入ってきたばかりの男子生徒が、足をもつれさせて転倒し、そこにシャドウが群がろうとする。

「わああぁ!」
『熱血ドリル!』

 そこへ顔に傷跡のある初老にさしかかった教師が立ちはだかり、全身にドリルの生えた奇妙なペルソナでシャドウを蹴散らした。

「校長先生!」
「さあ、ここは私が受け持つ! 早く逃げなさい!」

 噂の多重効果で己の理想から生徒の理想像へと変化したハンニャ校長こと反谷 孝志校長が、自らの教育観を具現化させた無名で異形なペルソナを発動させつつ、校門前に仁王立ちする。

「来るなら来なさい! この私がいる限り、生徒達に指一本触れさせはせん!」

 だがそこで、校門からはるか離れた壁がいきなり吹き飛び、そこから喰奴が敷地内へと進入する。

「ぬ、しまった!」
「校長先生! 向こうからも!」

 また別の個所の壁も吹き飛び、そこから戦車型の中型シャドウも進入してくる。

「早く校舎に入るんだ!」
「でも校長先生が!」
「早くっ!」

 冴子先生が残った生徒や市民を校舎に押しこもうとする中、喰奴と戦車型シャドウが同時にハンニャ校長へと襲い掛かる。

「このっ…」
『ハイッ!』

 襲い掛かろうとした喰奴が、二つの跳び蹴りを同時に食らって吹っ飛ぶ。
 代わりにそこへ金髪碧眼の女性と、ピンク色のパワードスーツが降り立つ。

「おお、君は!」
『セイッ!』

 今度は剣を手にしたクールな雰囲気の男と赤いパワードスーツが戦車型シャドウの仮面に剣を突き立てる。

「シルバーマン君に周防君か! 来てくれたのか!」
「……なんでハンニャ校長が生きてて熱血キャラになってるの?」
「……あとで説明するわ」

《rosa》機のリサが問い、ペルソナ使いのリサが適当にはぐらかしながら、二人で背中合わせになるようにしつつ同じカンフーの構えを取る。

「今に増援が来る。全員校舎の中へ」
「いや、卒業生とはいえ、教え子達だけに闘わせるわけにはいかん! ここは私の大事な学校だ!」
「……変われば変わる物だな」

 ペルソナ使いの達哉とハンニャ校長のやりとりを、《Rot》機の達哉が密かに首をかしげつつ聞きながら、ヒートブレードを構える。
 こちらに向かってくる敵と味方の反応をペルソナとレーダーで感じながら、二人のリサと二人の達哉は、己の母校を守るために敵へと向かっていった。



「ひぃよええぇぇ………」

 蓮華台の中にある小さなアラヤ神社の境内で、一人の老婆が腰を抜かしていた。
 境内はシャドウで溢れ、喰奴達の姿も有る。
 いきなりの事に参拝にきていた老婆は腰を抜かし、か細い悲鳴を上げながら身動きできなくなっていた。

「なんだババアか………」
「しばらく食ってないからな。不味そうだが我慢しようぜ」

 老婆の姿を見つけた二体の喰奴、ソロモン72柱の魔神の一人で、赤い馬に乗った騎士の姿をした魔族 ベリスとギリシア神話で地底界タルタロスに幽閉された青銅の鎧兜をまとった原初の巨人族、鬼族 ティターンが老婆の方へと歩み寄る。

「じゃあ食わせろ」
「ひいぃぃぃ……」

 よだれを垂らしながら襲い掛かろうとしたティターンの顔に、突如として蹴りが叩き込まれる。

「がはっ!」
「ひっ……」

 蹴りを入れた相手を見た老婆が、更に悲鳴を上げる。
 そこにいたのは、頭頂部から顔の半ばまで頭部を両断するような口を持ち、両腕の代わりに羽根とも皮膚とも取れない物を持った異形だった。

「ここもか」

 その異形、アートマ・ツイスターの力でインド神話の風神 ヴァーユへと変身したゲイルが、足の先から出ていた刃を引っ込める。

「早く退避しろ」
「ああ、く、食わないで………」
「こっちへ!」

 ゲイルを見て半ば呆然自失としている老婆を、ゲイルの後から駆け寄ってきた明彦が背負って避難させる。

「貴様、アスラAIか!」
「それを知っているという事は、カルマ協会の者か。なぜここにいる」

 ゲイルの問いに答えず、二体の喰奴は同時に襲い掛かってきた。
 だがそこに、メカユニットが付随した槍と、大口径のライフル弾が飛来し、襲いかかろうとした喰奴を弾き飛ばす。

「がっ!」
「ぐはぁっ!」

 弾かれた二体の喰奴が片方は木に、片方は石灯籠に激突する。

「あまり勝手に動いてんじゃねえ!」
「ライドウさんがいない所で暴走したらどうするつもりです」

 槍を投じた黒のXX―1《schwarz》機を駆る三浦 陽介が乱雑な口調でゲイルにがなり立て、白のXX―1《weis》機を駆る子烏 俊樹も丁寧な口調でたしなめる。

「アスラAIだけでなく、機動装甲ユニットだと!?」
「意外か? オレ達以外にもこういう者達がいる事が」
「こいつら、お前達の世界の人間か」
「喰奴ですけどね」

《schwarz》機が槍を拾って構えなおし、《weis》機がライフルを照準させる。
 そこで周囲のシャドウが襲い掛かってくるが、攻撃が当たる前に強力な地変魔法と火炎魔法がシャドウ達を返り討ちにする。
 三人の背後から、アートマ・サイズミックウェーブでインド神話の大地の女神 プリティヴィーに変身して地変魔法を放ったアルジラと、アグニに変身した火炎魔法を放ったヒートが姿を現す。

「カルマ協会ですって?」
「なんでこんな所にいやがる」
「分からん。だが、何か知っている事は確かのようだ」

 都合五人の周囲に、シャドウ達が再び集まり始める。

「また増えてるような……」
「ちっ、ぞろぞろと………」
「雑魚がうざいな。まとめていくぞ」
「それが効率的だ」
「……仕方ないわね。あんた達は後ろにいて」

 一斉に襲い掛かろうとするシャドウ達に、喰奴三人が互いの力を共鳴させ、リンケージとして発動させる。

『Lトリスアギオン!』

 三人の力で放たれたすさまじいまでの業火が周辺を荒れ狂い、石灯籠や木々まで巻き込んで周辺を焼き尽くす。
 それが止んだ時には、シャドウはほとんど全滅していた。

「強烈だな」
「さすがですね」

 周辺に延焼する間も無く、範囲内を焼き尽くしたすさまじい力を目の当たりにした陽介と俊樹は感心するが、対してカルマ協会の喰奴は明らかに怯えていた。

「つ、強い………」
「ここは撤退を…」

 喰奴が退こうとした所で、いきなりベリスの胸から爪が、腹から槍の穂先が生える。

「がっ……しまっ………ぎゃああぁぁ!」

 業火の向こうからヒートと《schwarz》機が接近していた事に気づいてなかった事にベリスが悔やんだ次の瞬間には、その喉笛にヒートが食らいついていた。

「AI風情がっ…!」

 捨て台詞を言いながら逃げようとしたティターンの足に、アルジラの腕から伸びた触手が絡みつく。

『ニューロクランチ!』
「うがあっ!」

 ゲイルの神経魔法を食らったティターンの体が麻痺し、動きが止まる。

「食わないのか」
「一人は残す。貴重な情報源だ」
「他の所も大分片付いてきてるみたいです」

 残ったシャドウを片付けつつ、俊樹が呟いた所で、ふとアルジラが境内にある物が置いてある事に気付いた。

「ゲイル! ちょっとこっち来て!」
「なにかあったか」

 変身を解いてアラヤ神社の社から失敬した注連縄(しめなわ)でティターンを縛り上げていたゲイルが、アルジラの示す方向を見た。

「これは…………」



「現状の完全沈静を確認、一般警官による残務処理の申請が来てます」

 報告を受けた周防署長が、予想よりも大分早く片付いた事を感じつつ、まず大事な事を問う。

「被害状況は?」
「現在確認されている市民の死亡者は5名、負傷者は37名、周辺施設への被害状況はまだ調査中です」
「思ってたよりも少なく済んだか………」
「彼らのお陰です。まあ少し変わった人達ばかりですが………ああ、それと今回の騒動の被疑者の確保に成功したそうです」
「なに?」



珠阯レ警察署(仮)・取調室

「う〜!」
「よし、これで大丈夫だ」

 狭い取調室の中で、異様な光景が繰り広げられていた。
 取調べを受ける者と行う者、その二者であるのは確かだったが、その状況は通常とはまるで違っていた。
 取調べを受ける者は若い男で、全身を白のボディスーツとプロテクターでまとい、更に全身が注連縄でがんじがらめにされてイスに縛り上げられている。
 その上、その足元には梵字などで構成された和風の魔法陣が描かれ、その中央に男は座らされていた。

「な、なんだこれは!」

 準備が終わるまで猿轡までかまされていた男が、それらの準備をしたライドウと太った割に妙に眼光が鋭い中年男、葛葉探偵事務所所長にして、サマナー組織葛葉の重鎮、轟を睨み付けるが、二人は平然とそれを睨み返した。

「神封じの結界を張っておいた」
「この中にいる限り、お前はただの人間だ」
「な!? そんな事が!」

 男が自らのアートマを発動させようとするが、アートマは僅かに発光するがその体が悪魔へと変わる事は無かった。

「く、くそ………」
「さて、まずは平石と三角木を用意させて」
「そんな物はここには無い。そんな事をしなくても、指の四本も」
「何か不穏な事を言ってないか?」

 準備が出来たと聞いてきた克哉警部補が、ライドウの肩で時代がかった事を言うゴウトと更に危険な事を言う轟に冷たい視線を送りつつ、被疑者の反対側の席へと座る。

「その中だと克哉警部補もペルソナ使えないし、私達の仲魔も入れないから気をつけてね」
「分かっている」
「それじゃ、後は頼んだ」

 轟が出て行った代わりに、用心して部屋の外にはたまきが、室内でライドウが待機する中、取り調べが始まった。

「さて、まずは名前と年齢、身分を教えてもらおうか」
「くっ………」
「そんな物聞いても無駄だ。情報だけしゃべらせればいいだろう。まずは荒縄と桶に水を」
「今は江戸時代じゃないのだが」

 しゃべろうとしない男に、ゴウトが150年以上前の取り調べを推奨するが、克哉はそれを否定。

「君はヒート君達がいた時代で、その世界を統治する《カルマ協会》とやらの関係者らしいが、なぜそれがここで市民を襲う?」
「………」
「おい、畳針とロウソクを」
「だから今は21世紀だ。警察がそういう事を行う時代じゃない」

 顔を横に向けて視線すら合わせず、男は沈黙を守り続ける。

「……お前達のリーダーはなんという奴だ?」
「………」

 ライドウが変わって問うが、それでも男は何もしゃべらない。

「集団犯罪を起こしながら、現行犯逮捕の実行犯が何もしゃべらない。つまり、余計な情報を与えるなという事を命令できるだけの権力者が上にいるんじゃないのか?」
「………」

 克哉の仮説に男は沈黙のままだが、その頬を一筋の汗が流れていく。
 それは、克哉の仮説が正しい事の証明でもあった。

「今回の事件の、目的と首謀者は?」

 それでも、男の口から何一つ語られなかった。



同時刻 珠阯レ警察署(仮)・車両整備室

「こいつは………」
「何だ?」

 持ち込まれた同じ作りの機械三つに、皆の視線が注目する。
 それはドラム缶位の大きさで、複雑な機械で構成され、中央に赤い花とも太陽とも取れる紋章がある見た事も無い物体だった。

「ターミナルの一種か?」
「カルマ端末だ」

 アレフの言葉を、ゲイルが修正する。

「端末? これが?」
「随分と複雑だが………」

 一つの分解を試みていた二人の達哉が、内部にみっしりと詰まった見た事もない複雑な電子機器に悪戦苦闘している。

「これは情報端末というだけでなく、オレ達のスキルの元となるマントラの取得や、端末間の転送機能も備えている」
「つまり、情報端末にベルベットルームとワープ装置を組み合わせたような物、って事か」

 尚也の説明にかろうじて納得したらしい皆が見つめる中、ようやく中枢ユニットらしき物が取り外された。

「な、なあ爆発とかしねえよな?」
「まさか〜」

 二人のミッシェルの言葉に二人の達哉の手と全員の動きが止まり、皆がゆっくりと距離を取っていく。

「ねえ情人、爆破物処理班とか呼んだ方が………」
「No,Magic SYSTEMだとしたら、むしろDangerですわ」

 リサとエリーが呟く中、達哉の手にしたドライバーがユニットへと伸びる。

「ま、待てたっちゃん!」
「すげえヤな予感が!」

 ミッシェルの警告も聞かず、ドライバーがユニットへと取り掛かる。
 気の早い者達はすでに手近のパトカーやXX―1の陰に隠れるが、そのユニットにはネジ穴一つ無かった。

「貸せ。アポロ!」

 ペルソナ使いの達哉がそのユニットを手に取ると、いきなり己のペルソナで強引にユニトをこじ開けようとしていく。

「待て待て待て待て!」
「情人それは無茶過ぎ!」
「もうちょっと丁寧に扱いなさい!」
「何を騒いでおる」

 全員が一斉に講義の声を上げる中、ゴウトの声が響いてアポロの動きが止まる。
 ゴウトを肩に留まらせたまま、ライドウがその場に姿を現した。

「あれ、取調べは?」
「何もしゃべらない。こちらに何か糸口はないかと思ってな」
「糸口って言っても………」

 分解されたカルマ端末と、分解できない中枢ユニットに皆の視線が集中する。

「それは?」
「分からない。だが何かある」
「貸せ」

 達哉からユニットを受け取ったライドウが、それを軽く宙へと放ると、腰の愛刀に手が伸びた。
 鞘なりの音と共に、抜かれた刃が銀弧を描く。
 床に落ちる前にライドウはユニットを手に取ると、それを再度達哉に手渡す。
 手渡されると同時に、それは二つに割れた。

「すご………」
「大正生まれは一味違うぜ……」

 皆が唖然とする中、両断されたユニットが開かれる。
 その中には、青い輝きを持った羽根のような物体が有った。

「キレ〜」
「でもなんだこれ?」
「初めて見る物体だ」
「何か力を持っているのは確かだが………」
「今戻りました」
「まだ有ったぜ」

 そこへ、残敵の確認に出ていた明彦とヒートが新たなカルマ端末を手に戻ってくる。

「そうだ、お前達はこれを見た事があるか?」
「なんだこりゃ?」
「な、これは!?」

 開きになったユニットを見たヒートが首をかしげる中、明彦の顔色が変わる。

「知っているのか?」
「これは《黄昏の羽》、影時間に干渉できる唯一の物体だ!」

 明彦が自分の召喚器を取り出すと、そのグリップ部分を開く。
 そこには、ユニットの物よりも随分と小さいが、同じ物が埋め込まれていた。

「なぜこれがここに!?」
「それを持ち込んだ人間と、埋め込んだ人間がいる。違う世界の技術を融合できる程の知識と技術を持った天才が」

 そう呟いたゲイルの脳裏に、ある人物が思い浮かんでいた。
 その条件に符合する、ある天才の姿が…………



 あまたの混乱と混沌の中、僅かな僅かに糸の端が見え隠れする
 その先にある物は、果たして………





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