PART14 WATCH BBS


真・女神転生クロス

PART14 WATCH BBS



珠阯レ警察署(仮)会議室

「要塞……だと?」

 本丸公園で異常ありの報を受け、対策会議のためにあつまった警察及び各デビルバスター達の前に、驚愕すべき事実がもたらされていた。

「信じられん………」

 今出来上がったばかりの写真を見た周防署長は、そこに映し出されている強固な外壁に覆われた巨大な建造物を見て絶句した。

「こいつはまた………」
「こちらでは同じ場所に城が出現したが、これは更に厄介そうだ………」

 尚也と克哉警部補が二人で渡された写真を覗き込んで考え込む。

「これって……」
「間違いない。ソリッドのシタデルだ」

 それが見覚えのある物にそっくりな事にアルジラとゲイルが顔を見合わせる。

「知っているのか!」
「ジャンクヤードにあった物と外見上は一致する。内部構造までは情報が無いので判断できない」
「つまり、君達同様データが実体化した物という事か?」
「オレ達の実体化はテクノシャーマンたるセラの力だが、恐らく幾度かの実験で同様の現象を再現した物と推測する」

 二人の克哉の言葉に、ゲイルが自論を展開。

「現場封鎖に当たった者の話だと、この要塞はまるで不安定なテレビのようにたまに不確かに見えるらしい」
「つまり、完全に実体化している訳ではないという事か?」
「どっちにしても、危険そうだって事は確かだね」

 尚也の言葉が、まさしく的を射ている事に居並ぶ警察関係者が息を飲む。

「今たまき君とライドウ君が詳細情報を持ってこちらに向かってきているらしい。彼らが帰ってきてから対策を協議する形になるが………」
「それまで現場を完全封鎖しなくてはな。すでにこちらの機動班とペルソナ使い達が向かっている」
「対策が決まるまで絶対に仕掛けさせるな。あのシタデルは半端な攻撃では微動だにせん鉄壁の要塞だ。内部構造が同じなら攻略法はあるが………」
「こういう時、山岸がいてくれればな」

 会議室の隅でシタデルの写真を見ていた明彦がポツリと呟く。

「そう言えば僕達以降、別の世界から飛ばされてきた人間はいないな」
「八雲さんやカチーヤさんがいればこういう時心強いしね」
「一体、他のみんなはどこにいるんだろうか………」



ボルテクス界 業魔殿内部

「くちゅん!」
「風花大丈夫? 風邪でもひいてない?」
「あ、うん大丈夫だよゆかりちゃん。よく眠れたし」
「あたしもよく寝た〜ちゃんと寝たのどれくらいぶりだろ?」
「色々あったからね〜」
「しかも継続中、ヤになっちゃうわよね〜」

 与えられた部屋で十分に休息を取った風花とゆかりは、顔を洗いながら今まであった事を思い出していた。

「ニュクス倒して世界救うはずが、なんでこんな変な異世界なんて来ちゃうかな〜」
「仕方ないよ、他にも色んな人来てるし」
「そいや、美鶴先輩は?」
「交代でここの警備だって。他にもやる事いっぱいあるから、十分に休んでおけって言ってたよ。覚えてない?」
「う〜ん、全然………」
「ゆかりちゃん疲れてたからね〜。ここの時間で8時になったら昨日のレストランに全員集合だってさ」
「8時ね。ここだと時計は動くんだ」

 壁にかかっていた時計と自分の腕時計の時間を合わせたゆかりは、軽く伸びをすると身支度を整える。

「とりあえず、啓人や順平達起こして朝ご飯食べよ」
「そうだね」



所定の時間 業魔殿レストラン《Table Diabolique》

「さて、そろったかしら」
「ゴ〜」
「グ〜」
「スピ〜」

 レイホゥの言葉に、三つのいびきが答える。

「起きろ伊織!」
「そろそろ時間だぞ修二」
「いいかげんにしろネミッサ!」

 美鶴、小次郎、八雲の三人がいびきの主をたたき起こし、メアリとアリサが全員にコーヒーか紅茶を配っていく。

「あ〜、なんかまだ寝たりねえ……」
「順平だけだって」
「オレもベッドで寝るなんて久しぶりだったしな〜」
「ま、ここは一応安全と言えるからな。まずは自己紹介と行くか」

 用意されたパーティー用の長テーブルの端に陣取ったキョウジが立ち上がると、葛葉のメンバーもそれに続く。

「話は聞いてるかもしれんが、改めて。オレ達は悪魔がらみの事件を解決を目的として、古代から続く悪魔使いの一門《葛葉》。オレはそこのサマナー筆頭の葛葉 キョウジだ」
「同じく術者代表、レイ レイホゥよ」
「所属サマナー、小岩 八雲だ」
「所属術者で八雲さんのパートナー、カチーヤ・音葉です」
「ついでにこれが葛葉に入る前のパートナーで地獄から迷い出てきたネミッサだ」
「八雲なにそれ〜? ゾンビじゃないんだから」

 ネミッサが口を尖らせる中、葛葉の者達が席に座る。
 続けて美鶴が立ち上がると、ペルソナ使い達も後に続く。

「月光館学園、特別課外活動部 部長の桐条 美鶴だ」
「戦闘班リーダー、不破 啓人」
「オレは伊織 順平」
「岳羽 ゆかり、よろしく」
「山岸 風花です」
「天田 乾、こっちはコロマルです」
「ワン!」
「その犬も部員か?」
「ああ。立派なペルソナ使いだ」
「退魔犬って訳か。オレは相馬 小次郎。フリーのデビルバスターだ」
「パートナーの八神 咲よ。よろしくね」

 どこか怪訝な顔をしながら小次郎と咲が名乗る。
 続けて修二も立ち上がった。

「英草 修二、ここじゃ人修羅って呼ばれてる」
「高尾 裕子。東京がこうなる前は彼の担任教師だったわ」

 二人が座ると、今度はオレンジのペイントを施した者達が立ち上がる。

「サーフ、エンブリオンのリーダー」
「オレはローカパーラ二代目リーダー、ロアルドだ。今はエンブリオンと共に行動している」
「これでだいたい全員か?」
「あ、いやまだ来てない者が」
「なんだまた増えたか」

 全員の顔を見回した八雲と美鶴の言葉に、若い男の声が重なる。

「あ、てめえは!」
「お前も来たのか少年」

 それは銀髪で鋭い目つきの若い男で、見るも鮮やかな赤いコートを身にまとい、背には巨大な剣の柄が覗き、腰にはこれまた大型拳銃が左右にぶら下がっていた。

「紹介しておくわ。彼は」
「……ハンター・ダンテ」

 彼の姿を見た八雲が、呆然と呟く。

「知り合いなのか?」
「知ってるも何も、業界の有名人だ。《悪魔も逃げ出す》デビルハンター、ダンテ。アメリカの方じゃ並ぶ者がいない最強ハンター。オレなんかじゃ比べ物にならねえ………」
「買いかぶり過ぎだな。一応お前もクズノハの人間だろう?」
「オレは葛葉じゃ三下でね。まさかあんた程の人まで巻き込まれてるとはな………」

 不適な笑みを浮かべるダンテに、八雲はややたじろぎ、彼の事を詳しく知らない者達が小声で囁(ささや)きあう。

「そこまで有名人だったとは……」
「美鶴先輩が助けられたってあの人ですよね?」
「ものすごく強い力を感じます。一対一なら誰も適わないかもしれません……」
「マジかよ!?」
「確かにすごい強そうだよ………」

 その最中、修二がこそこそとテーブルの陰に隠れる。

「どうした?」
「しっ、オレあいつに何度も追い回されてんだよ………」
「安心しな少年。どうやらお前を追い回してる余裕も無くなったようだからな」

 ダンテは修二の方を見てそう言い放ちながら、空いていた席にどっかりと座り込む。

「おっと、遅れちまったかな?」

 そこに、タイトなボディスーツに腹部にオレンジのペインティングが施された水色のドレッドヘアの少年が姿を現す。

「オレはシエロ、トライブ・エンブリオンのアタッカーだぜ。よろしくブラザー!」
「……あれも喰奴か?」
「ああそうだ。喰奴はむしろ感情の発露が激しくなる兆候がある。サーフのようなパターンがむしろ珍しい」

 サーフやロアルドと違い、やたらと陽気なシエロに八雲がロアルドに思わず問う。

「現在確認されている者達はこれで全員のようだな。改めて業魔殿へヨーソロー。私がこの船の船長で悪魔研究家のヴィクトルだ」
「助手兼メイドのメアリと申します」
「アリサだよ、よろしく!」
「当レストランのシェフにして、武器職人を営んでおりますムラマサです。よろしく」

 最後に業魔殿の従業員達が紹介を済ませ、全員がそろった。

「さて、まずは現状の確認ね」
「それは私がします」

 議長をするレイホゥに、祐子が名乗りを上げる。

「まずはこの世界の説明から始めるわ。この世界はボルテクス界。東京受胎と呼ばれる現象を起因として作られた、新たな世界の雛型よ」
「その東京受胎とは?」
「事の起こりはガイア教の幹部、氷川という男が預言書《ミロク経典》を解読した事に始まるわ」
「ガイア教、この世界にもあったのか………」

 自分がいた東京とはまた違う混沌の状況に、小次郎が小さく呟く中、祐子の説明は続く。

「それに記された世界創造の秘法、彼はその解析に成功したの。そして新たな世界を作り出すために、秘法執行に選ばれた巫女が私。秘法は成功し、この世界的に例を見ない魔術都市である東京を媒介に、このボルテクス界が作られたの」
「にわかには信じられないが、その新たな世界を作り出す方法とは?」
「《コトワリ》と《守護》がいるわ」

 ロアルドの問いに、祐子はその方法を口にし始めた。

「新たな世界の中核となる絶対のルール、それが《コトワリ》、そしてその絶対なる守護者たる神、それが《守護》よ。新たな世界を作り出そうとする者は、この世界に溢れる《マガツヒ》と呼ばれるエネルギーを集め、《守護》を召喚。その二つを持ってこの世界の中心にある《カグツチ》を開放する。それが新たな世界の創造方法よ」
「……なあ、分かるか?」
「実を言うと全然」

 順平が密かに当事者の一人であるはずの修二に聞くが、当人は小さく首を横に振る。

「マガツヒという票と守護という後援者を持って行う力任せの選挙と言った所だな。もしそうなら、今どれくらいのコトワリがあるのだ?」

 理解したらしい美鶴の問いに、祐子は三つのコトワリを述べる。

「一つは、氷川が説く静寂なる世界《シジマ》、次が私の教え子だった千晶さんが説いた力のみを絶対とする《ヨスガ》、最後に同じく私の教え子の勇君が説いた絶対孤独の《ムスビ》。この三つがそろぞれの勢力を従えた壮絶な争いを繰り広げてるわ」
「………え〜と」
「分かるような分からないような………」
「ダンマリに弱肉強食、オマケにヒッキーの世界か。どれも好みじゃねえな」

 何人もが頭を抱え込む中、八雲が要約してため息をもらす。

「それで、あんたはどれに俗してるんだ?」
「私は…」

 何かを告げようとした裕子が、突然ケイレンを始める。
 まるで彼女のみが大地震にでも見舞われているような異常なケイレンに続き、その頭部が異常な動きで回り始める。

『!!』

 ほぼ全員が、一斉に何かに気付いて己の得物やCOMP、召喚器を構える。
 そこで異常な動きが止まった裕子の顔面に、まるで蛍光塗料でもぶち撒けたかのような異様な物が張り付いていた。

『異なる世界の迷い子達よ。汝らこの世界に何を見る? 己の力で己の世界を変えんと欲す勇敢なる愚か者達よ! これより数多の争いと災いが汝らを襲う! 恐れ目を背けるも、勇猛に立ち向かうも自由なり! 我もまた、行くは女と共に。自らを由とせよ。これ、我の真なり』

 裕子の物とは違う、野太い男とも甲高い女とも聞こえるような声が、心に直接響くように食堂内に轟く。
 一方的な宣言が終わると、再度裕子をケイレンが襲い、そしてそれが終わると普通の顔の彼女がその場に立っていた。

「……今のがあんたの守護か」
「ええ、アラディアの神。でもまだコトワリは授けてくれない………」

 今のが《神託》である事を悟ったキョウジが呆然と呟く。

「また変な神様降ろしてるわね………」
「でも、私にとってはアラディアの神は絶対よ」
「嫌な事ばっかほざいていきやがったし」
「つまり、まだ色々起きるって事?」
「多分な」

 レイホゥもまた呆然と呟くが、八雲と啓人がしかめ面でぼやく。

「まあ、大体この世界の状況は分かった。つまりこちらの逆だ」
「そうなんですか?」
「こっちに聞かないでよ……」
「多分そうじゃないかな〜、と思うけど…………」

 美鶴の宣言に、乾、ゆかり、風花の三人が影で呟く。

「私達の世界では、影時間と呼ばれる今日と明日の狭間に常人には感知できない時間があった。その世界にのみ存在する異形《シャドウ》と戦い、影時間の中枢である塔《タルタロス》を昇り、全ての元凶であり、世界に滅びをもたらそうとする《ニュクス》を撃破する。それが月光館学園、特別課外活動部の目的だ」
「世界救済部か。たいそうな事だな。オレ達のいた世界だと、一度世界は滅んでいる」

 小次郎の言葉に、全員の視線が向けられる。

「1999年、世界情勢の背後に潜んだロウとカオスの争いは、東京への核攻撃を起因として、世界を神と悪魔が闊歩する混沌へと変えた。神に盲従する法を唱える《メシア教》と力と混沌を全てとする《ガイア教》。この二つを主軸とした争いの世界に、オレ達はそのどちらにもつかず、人々のみの手によるニュートラルの世界にするために闘った」
「で、戦いが終わって安定化するかと思った矢先にここに飛ばされたって訳」
「なるほど、確かにどこも似たような物だ」

 ロアルドが苦笑しつつ、立ち上がる。

「我々の世界では、また違う意味で世界は滅びかけている。その要因もまた神だ。数多の研究により、太陽が膨大な情報から構成された神である事に気付いた科学者達が、その神から情報を得るための研究を進めた。その結果、神との交信を可能にした《テクノ・シャーマン》の開発に成功した。それがセラだ。だが、ある事件を機にセラは神を暴走させてしまう。その結果、太陽は漆黒に姿を変え、その光を浴びた物は体の構成情報を固着・結晶化され石と化してしまう《キュヴィエ症候群》を発症する」
「人間が、石に?」
「マジかよ………」
「派手な日焼けだな」

 ロアルドの語る世界に疑惑や畏怖を感じる声が響く中、言葉は続く。

「それらを起因とする戦乱の混乱の後に、キュヴィエ症候群を研究していた団体を中心とした人類存続を目的としたエリート思想に凝り固まった《カルマ協会》が設立された。それに対抗するために作られたのが《ローカパーラ》だ。やがて、カルマ協会はキュヴィエ症候群への対処と人類存続のために、とんでもない対処法を考案した。それがかつての太陽暴走の際に確認された悪魔化現象を人為的に起こす、《悪魔化ウイルス》だ」
「ちょ、ちょっと待った! 人間を悪魔にする!?」
「そんな事できんのか!?」
「ここに一人いんだけど………」
「お前は例外」

 あまりに途方も無い話に、啓人や順平が疑問の声を上げる。
 こっそり手を上げる修二に小次郎がその手を下げさせる。

「ありえない話じゃないわ。魔術や仙術の奥義に、己の体に神仏を降ろしてその神仏その物に変化する〈法神変化〉という物があるわ。あなた達のペルソナ能力も似たような物よ。それが科学的にできたってのは驚きだけどね」

 レイホゥの説明に、ペルソナ使い達が顔を見合わせる。

「そしてカルマ協会は、その悪魔化ウイルスの実験に、当時進められていた戦闘AI開発計画《ジャンクヤード計画》のAI達を選んだ。それがサーフ達だ」
「は?」
「AI、だと?」

 更に突拍子も無い話に、皆の視線がサーフやシエロに向けられる。

「その実験を止めさせるためにセラはジャンクヤードにダイブし、そして彼らをこの世界に実体化させた」
「…………マジ?」
「いやオレもそう言われても実感ねえんだよな、これが」
「情報の実体化ならここにも実例がいるぞ。多分どっかでその影響拾ったな」
「え〜、だってネミッサ元から悪魔だよ」

 自分の事ながら首を傾げるシエロに、八雲はネミッサを指差す。

「問題はその先だ。悪魔化した者は、その安定化のための特殊な食料を求める」
「マグネタイトだな、しかも相当膨大な。そしてそれを多量に含むのは………」
「人間だな」

 キョウジと小次郎の言葉に、全員が絶句する。

「悪魔化した者達は《喰奴》と呼ばれ、ジャクヤードでは飢えを満たし、力を求めて互いを食らい合う地獄が展開されたそうだ。トライブ《エンブリオン》はその地獄を、勝ち抜いてきた」
「じゃあ何か? サーフの奴がいきなり襲い掛かってきたのは、腹が減ってただけか」
「……飢えは全てを狂わせる。それを防げるのはセラの《歌》だけだ」

 それまでずっと無言だったサーフが、ようやく口を開く。

「あのさ、じゃあひょっとしたらあの時私達……」
「食べられてたかもしれない?」

 ゆかりと風花の問いに、サーフは頷く。
 次の瞬間、ペルソナ使いとあとなぜか人修羅までもが一斉にサーフ達から離れた。

「安心しろ、ここならマグネタイトは安定供給できる。だろ、おっさん」
「ああ、実際シエロとロアルドには安定化したマグネタイトを供給する事で飢えは沈静化している」
「ついで言うと、悪魔が人食いするのは当たり前だろ」
「違いない」

 ヴィクトルの説明に八雲が余計な一言を追加、挙句にダンテまでもがそれを肯定する。

「では続けよう。ジャンクヤードから彼らと共に帰還したセラを巡って、カルマ協会内部とローカパーラで奪い合いが起きた。その結果、エンブリオン内部でも離反者が出、その結果サーフがその者に致命傷を追わされた。それを見たセラが再度神を暴走、どうやらその結果我々はこの世界に飛ばされたらしい」
「でも兄貴ピンピンしてるぜ?」
「外部から何者かが力を貸したんだろう。ここに飛ばされる時、誰かに何か言われなかったか?」
「………」

 八雲の問いに、サーフがしばし考える。

「……猫だ」
「猫?」
「ジャンクヤードにいた猫が、ここに導いた。輪廻の輪を乱す者がいる。全ての情報を乱す者、仲間と共にそれを見定めろ、と」
「やっぱ、この件には何かとんでもなくデカイ存在が動いてやがるな」
「ファントム・ソサエティか?」
「いや、それよりもっと上の………それを阻止しようと動いてる連中が、オレらをここに集めさせたって寸法だろうな」

 八雲とキョウジの言葉に、啓人が自分が飛ばされた時に会ったイゴールの言葉を思い出す。

「つまり、その幾つもの世界をおかしくしてる〈何か〉と闘わなきゃならないって事?」
「最終的にはな。だがまず問題はこれからどうするかだ」
「とりあえずの方針を決めておかないとね」
「ま、聞くまでもねえだろが、全員元の世界に帰りたい。そだろ?」

 レイホゥとキョウジの問いに、全員が頷く。

「こんなネットサーフもハックもできないトコじゃ、面白くもないしな」
「タルタロスが、ニュクスがどうなったのかを見極めないと……」
「ロウもカオスも主力を失った世界を、ほっておく事は出来ない」
「……エンブリオンの仲間を見つけたい」
「じゃ、どうするんだ? どこかのコトワリに入るか?」

 修二の言葉に、皆が顔を見合わせ、悩む。

「どこかの勢力につくってのは確かに方法の一つだ。だが、正直にこっちの状況話したらどうなる? とても協力してくれるとは思えねえ」
「同意見ね」
「ここでの争いはかなり苛烈な物のようだ。サマナー、ペルソナ、喰奴、どの能力を持ってしても彼らには魅力的で、絶対手放したくはないだろう」

 キョウジ、裕子の意見をロアルドが補正、それに対し皆がざわめく。

「あの、私達の事はここの人、というか悪魔達はどう思ってるんです?」
「ここに来てすぐ襲われたし………」
「今んとこ、あまり注目されてないな。妙な勢力が秋葉原にあるって話はぽちぽち出回ってるが」

 不安そうに問う風花とゆかりに、修二が首の角の付け根なぞかきながら応える。

「ならば、むしろ目立つ事は控えた方がいいだろう。目をつけられれば、狙われる」
「だが、情報収集は必要だろうな。どこかに特異点があるだろうし」
「でもかなり広いですよここ……」
「でも、やるしかねえだろな………」

 ロアルド、八雲の提案に、啓人と順平がどこかうんざりした声を上げる。

「それじゃあ、中立を保ちつつここを拠点に幾つかのチームに分かれて情報収集及び特異点の発見。そういう事でいい?」
「了解」
「いいだろう」
「私達もそれで構わない」
「つまり、あまりやる事変わらねえ〜」

 レイホゥの最終決定に、八雲、小次郎、美鶴が賛同し、修二がぼやく。

「一つ聞くぜ。最終決定権は誰が持つんだ?」
「誰も」

 ダンテの問いに、キョウジが笑みを浮かべて答える。

「どうせ烏合の衆だ。やりたくなかったら止めればいいし、出て行きたかったら出てけばいい。あんた程の腕だったら、一人でもやっていけるだろ?」
「ふっ……」

 ダンテも笑みを浮かべつつ、コインをコートのポケットから取り出す。

「表なら、協力する。裏なら、好きなようにさせてもらう」
「そんな適当な………」
「いや、この人それでやってけるくらいの人だから」

 啓人の呟きを聞いた修二がぼそぼそとささやく中、コインがダンテの手から弾かれる。
 それを空中で掴み取ったダンテは、そっとそれをテーブルの上に置いた。

「表だ」
「それじゃ、よろしく頼むぜ」
「ああ」

 ダンテとキョウジが笑みを浮かべ、誰からともなく、異世界から来た仲間へと手を差し出す。
 幾つもの手が握られた所で八雲がキョウジとヴィクトルへと視線を向けた。

「まず、4番倉庫を開けてもらうか」
「ああ、そうだな」
「倉庫?」



業魔殿 4番倉庫

〈関係者以外立ち入り禁止〉と書いたプレートが張られ、やけに厳重なロックがかかった大きな扉が開かれていく。
 開くと同時に倉庫内に明りがともされ、そこに並んでいる物が照らし出された。

「げっ!?」
「うわあ…………」
「こいつはすげえ………」

 そこには、無数の刀剣、銃火器、防具などがずらりと並び、室内燈の下で鈍い光を放っていた。

「前にこいつで派手な出入りをやった事があってな。それ以来、ここを臨時の武器庫に使わせてもらってるんだ」
「テロか戦争でも始める気か?」
「今の状況だと、どうやってもテロか戦争だろ」
「違いない」

 八雲の説明に、美鶴が顔をしかめ、ロアルドが苦笑。

「どれでも好きな奴貸してやる。自由に選べ」
「どれでもって………」
「こんなに………」
「剣の予備とアサルトライフルが欲しい」
「レールガンの弾あるかしら? 20mmね」
「45口径の予備弾、対悪魔用」

 呆然とする順平と乾の両脇を、やけに手馴れた様子で小次郎や咲、サーフが武器を選んでいく。

「好きなだけいいんだな」
「横流しするとこもないだろ」

 ダンテに至ってはショットガンやサブマシンガン、グレネードランチャーに果てはロケットランチャーまで、どういう仕組みかコートの背中に次々と仕舞っていく。

「ほらお前らも」
「いや、銃は召喚器と誤射しそうなんで」
「お〜啓人、この剣なんてよさそうじゃね?」
「こっちの槍いいですか?」
「ふむ、これとこれ、どちらがいいだろうか………」

 ペルソナ使い達もそれにならい、思い思いの武器を手に取って品定めする。

「あれえ、これネミッサのじゃん!」

 そんな中、嬉々として銃火器を漁っていたネミッサが、倉庫の隅のショーケースに飾られた装備一式を発見した。

「……もう使わないだろうって事で、そこに置いといたんだがな」
「え〜、まさかサビさせてないよね?」
「たまに手入れしてましたから、大丈夫ですよ」

 そちらに背を向けたまま呟く八雲だったが、カチーヤがショーケースに近寄るとかかっていたロックを解除する。

「実を言うと、これ八雲さん以外触れるの私だけなんです」
「え、そう? なんで?」
「嫌がるんですよ、メアリさん達にすら触らせてないですから………」

 皆に聞こえないように小声で呟きながらカチーヤが中身を取り出す。
 二匹の蛇が絡まった姿をした槍、神獣 アヌビスの魔晶武器カドゥケウスをネミッサが手に取り、軽く振り回してみる。

「よっし、ネミッサはこれでOK♪ 八雲弾取って〜」
「そっちの冷蔵庫に入ってるから自分で取って来い」
「あ、9パラでしたよね?」
「サンキュ、カチーヤちゃん」

 カチーヤが取ってきた弾丸を古めかしいスーツケースに内臓されたサブマシンガン、堕天使 ビフロンスの魔晶武器アールズロックにネミッサは無造作に装填していく。

「用心して予備武器は必ず用意しとけよ〜」
「予備ってすげえいっぱいあるっすよ……」
「その中から自分が使いやすそうなのを選ぶんだよ。武器なんざしょせん消耗品だからな」

 ふとそこで、八雲は風花が周囲を見回すばかりで何も手に取ろうとしない事に気付く。

「山岸、お前も護身用くらいもっとけ」
「あ、いえ私は……」
「これなんかどうだ」
「え、あ……」

 小次郎が見かねて手近に有ったMP5A1マシンガンを手渡すが、取り回しが効くように折りたたみストックになっているサブマシンガンを風花が両手で支えているのに気付いて眉根を寄せる。

「ちょっと失礼」

 怪訝(けげん)に思った咲が風花の袖を捲り上げ、それが歴戦とは縁遠い細く繊細な腕な事に沈黙する。

「ペルソナ使いって、体力無くても出来るの?」
「いや、風花は……」
「そいつはサーチャーだ。感知、補助能力に特化してる分、攻撃力は無いに等しいらしい」

 咲の問いに啓人より先に八雲が応える。

「有効範囲は?」
「ここなら、半径分くらいはなんとか………ただ精密探査は6〜700mくらいです」
「それで、今まで危険にあった事は?」
「一度に大人数把握できる訳じゃないから、みんなで交代してタルタロスのロビーにいたからそれでなんとか」
「戦場でまず狙われるのは目と耳だ」
「だな。それでこいつはその両方を持っている」

 無口なサーフが珍しく呟いた事に、八雲も賛同する。

「それって……」
「この先どこかの派閥とドンパチやらかす羽目になった時、お前の存在がバレたら、いの一番に狙われるって事だ」
「確かに、戦術の鉄則だな」
「え? マジ!?」
「そう言えばそうかも……」
「シャドウってそんな行動取ってきた事なかったしね……」
「じゃあ、どうするんです? 誰か風花さんのそばに始終ついてるとか」

 ようやく事態が飲み込めたペルソナ使い達に、八雲が思案を巡らせる。

「出来ればそうしたいが、ペルソナ使いの能力はできれば前線に向けたいしな」
「ガードユニットのような物はここにはないのか?」
「そこまで科学技術進んでねえ」
「じゃあ私がガードに」
「カチーヤの魔力は強過ぎる。混線の可能性が高い」
「じゃあネミッサ?」
「お前はつまらなかったら絶対持ち場フケるだろうが」
「ならば仲魔の中で使えそうなのをつけとけばいいだろう」
「そうはしたいが、これからの状況を考えると……」

 様々な意見が出るが、決定案に欠いていた。

「ヒ〜ホ〜! デビルバスターバスターズ参上!」
「おいら達にも銃よこすホ!」

 そこへいきなり登場したジャックフロストとジャックランタンのコンビを見た八雲が、手を一つ叩いた。

「お前ら、一つ取引だ」
「なんだ、契約かホ?」
「オイラ達はデビルバスターの手先になんてならないホ!」
「だから取引なんだよ。お前達の腕を見込んで雇いたい。ここの銃を好きなだけ使っていいかわり、彼女に四六時中張り付いてボディガードをしてくれ」
「ヒホ? ボディガード?」
「あのキャベツ頭のかホ?」
「キャベ……」
「彼女は極めて貴重な人材だ。だからこそお前らのような腕利きが必要なんだ。頼めるか?」
「腕利き?」
「おいら達が?」

 ジャックコンビがお互い顔を見合わせると、大きく胸を叩く。

「分かったホ! 任せるホ!」
「ボディガードやるホ! よろしくだホ!」
「え〜と、よろしくね」

 何か微妙な笑みを浮かべつつ、風花がジャックコンビの手を握る。

「あれ、頼りになんスか?」
「逃げ足だけは速い連中だ。ああ言っておけば何かあれば彼女を連れて真っ先に逃げる」
「なるほど、重要なのは危険に晒さない事だしな」
「いいのかな〜」

 八雲と小次郎の意見に順平と啓人が顔を引きつらせる。

「みんなそろそろいいかしら?」
「あ、もうちょっと」
「おいら達ボディガードだホ!」
「ガードだホ!」
「そう? じゃあお願いね」

 顔を見せたレイホゥが、思い思いの武装に身を固めていく一同を見回す。

「それが終わったら早速仕事に取り掛かってもらうから」
「おっしゃあ! バッチリっすよ!」
「問題ない」

 気合の入っている順平と、装弾が終えたサーフを見たレイホゥが見えないように笑みを浮かべる。

「それじゃあ………」



「あれ?」

 順平が手渡されたツルハシを呆然と見つめる。
 頭には安全第一と印刷された、おなじみの黄色いヘルメットが被さっている。

「え〜と……」

 啓人も呆然として周囲を見回す。
 その周囲では、フード付きのコートとも囚人服とも見える、奇妙な格好をした表情が薄い人影が、同じようにヘルメットにツルハシを持って忙しそうに働いている。

「来たか。早速だがこれを……」
「ちょっと待った」
「なんで工事仕事?」

 同じくヘルメット姿で図面を手にあれこれ指示していたロアルドが近寄ってきた所で、二人は問い質す。

「この業魔殿とかいう飛行船の発掘を手伝ってもらう。次元間跳躍の影響か、ビルと完全に融合している。そこをはがしている最中だ」
「爆破とかで一遍にできねえんすか?」
「内部構造物まで完全に融合している。爆破すれば船体が折れる」
「少しずつ剥がして修復してくしかない訳か………ところであの人達は?」
「《マネカタ》、精神エネルギーでもあるマガツヒを絞るために、泥から作り出された魔術的人造人間だそうだ」
「じ、人造人間!?」

 啓人が思わずまじまじとマネカタの方を見る。

「全然そうは見えねえ……」
「外見的には人間と全く変わらないらしい。ただ苦痛を搾り取られるためだけに作られた家畜、この世界ではそういう扱いだ。そこから逃げ出してきた者達を保護する代わりに、ここの作業を手伝ってもらっている」
「で、オレ達にも手伝えと」
「そうだ。まずあの個所から」

 ロアルドが淡々と指示を出す中、順平と啓人ががっくりと肩を落とす。

「そういや、他の連中は?」
「美鶴先輩やゆかりはキョウジさん達と周囲の探索、乾とコロマルはダンテさんと修二さんのチームで、八雲さんは小次郎さんとCOMPの調整、風花はカチーヤさんと裕子先生とで大規模探査システムの構築だってさ」
「で、オレらは土方仕事かよ………なんか扱いひどくね?」
「何言ってんだブラザー、このアジト飛んだらかっこいいだろ」

 二人の背後で、同じくメットにツルハシ姿のシエロが陽気に語りかけてくる。

「ウチのリーダーはやる気満々だぜ」
「……まあ確かに」

 シエロが指差した先では、悪魔化したサーフが鉄骨とコンクリが融合している部分を、腕の刃で斬り裂いている。
 だがそこには、そこはかとなく殺気のような物が漂っていた。

「………なんか荒んでね?」
「ああ、さっきセラの治療はもうしばらくかかるって言われたし………」
「とりあえず、こっちもやろうか」

 啓人がロアルドに指定された場所に向かうと、そこには巨大な岩とセメントの塊が鎮座していた。

「え〜と」
「どうしろってんだコレ………」
「君達の能力は聞いている。それなら可能なはずだ」
「それってつまり……」

 なぜか用意するようにと言われていた召喚器を手に取った啓人が、何か微妙な表情でそれをこめかみに当てる。

「タナトス!」『五月雨斬り!』
「な〜るほど、トリスメギストス!」『アギダイン!』

 啓人のペルソナが塊に無数の切れ目を入れた所で、順平のペルソナが火炎魔法を繰り出す。
 続けての攻撃に耐え切れず、塊は無数の破片となって崩れ落ちた。

「お〜!」
「すごいよすごいよ!」
「へへ、どうも」

 周辺で作業していたマネカタ達が一時手を止めて、二人に拍手を送る。

「まさかペルソナで工事とはね………」
「それ言うんじゃねえよ」

 ぼそりと呟いた啓人に、マネカタに手を振っていた順平の動きが止まる。

「よし、次は向こうの資材の切断と溶接を」
「へいへい……」
「なんだかな………」

 次々と指示を出すロアルドに、啓人と順平は苦笑いしつつ、作業へと取り掛かる。

「早くこの飛行船の機動性を確保したい。何かが起きる前に」
「何かって何だ?」
「さあ?」
「しばらく勘弁してほしい………」



「なんだありゃ………」

 遠くに見える何かに、双眼鏡を向けたキョウジが絶句する。

「え……」
「あ、あれは!?」

 そちらを観察したレイホゥと美鶴も絶句する。

「まさか、あれ全部悪魔!?」

 ゆかりが指差した先、そこには〈軍勢〉と呼べる程の多数の悪魔が、ある方向へと向かって進軍していた。

「始まったか、ヨスガの侵攻が………」

 つい先程悪魔から聞き出したばかりの情報が、すでに現実の物となっている事にキョウジは顔をしかめる。

「あの方向は……浅草か!」

 とんでもない数の悪魔を前に、四人はただ絶句していた………



 糸と糸とが紡がれ、新たな誓いの前に数多の争いが現れる。
 争いを前に、彼らが行うは、果たして………





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