PART2 SYSTEM CHECK


真・女神転生クロス

PART2 SYSTEM CHECK


大正二十一年 東京 鳴海探偵社

「71年後の世界ね〜」

 周防 克哉の説明を聞いた鳴海がイスに背を預けながら、首を捻る。

「信じられないね、どうにも」
「だろうな」
「オレは信じる」

 色白の男、ライドウが克哉の言葉を平然と肯定した。

「オレも前に似たような事態に在った事がある」
「本当か!?」
「上手くいけば、同じ方法で元の時代に戻れるだろう」
「それはありがた…」

 そこで、克哉の口が止まってふと何かを考え込む。

「いや、ダメだ………もしかしたら僕は特異点かもしれない」
「特異点?」
「ああ、前に弟が似たような〈似て非なる世界〉の特異点になった事があった。その時、あちこちで問題が発生した。ここで似たような事が起きてないか?」
「いんや。今の所帝都は平和その物」
「これから起きるかもしれない。もしそれが僕が原因なら、それを修正しなくては………」
「多少ならオレが片付ける。それが帝都守護の任を受けた十四代目 葛葉 ライドウの仕事だ」

 力強く断言するライドウに、克哉は再度考え込む。

「いや、もし僕がいた〈未来〉が関係していたら、葛葉の人間でも対処しきれないかもしれない。しばらくここに残るよ。それと、僕がいた場所に僕以外に誰かいなかったか?」
「いや、お前だけだ。異界にノびてるのを見てさすがに少し焦ったぞ」
「そうか………二人、もしくはそれ以上の人間が同じように飛ばされた可能性があるんだが………」
「ま、焦ってもしょうがないでしょ」
「鳴海いる?」
「こんにちは」

 そこで、探偵社の扉が開き、そこから首からカメラを下げた活動的な女性と、あずき色の学生服姿の女学生が入ってくる。

「あら珍しい。依頼人?」
「あ、すいません。今お茶お出ししますね」

 カメラを持った女性が克哉を見る脇で、女学生が慌ててヤカンと急須を準備し始める。

「慌てなくていいよ伽耶ちゃん。ちょっと長くなりそうだから」
「私ぬるめにね」

 鳴海が女学生に声を掛ける中、カメラを持った女性がちゃっかり克哉の隣に座る。

「あっちはオレの秘書の大道寺 伽耶、こっちは知り合いで帝都新報の記者の朝倉 タエ」
「葵鳥よ! 朝倉 葵鳥!」

 女性、タエが鳴海のデスクに名刺を叩きつけ、そのショックで先程完成していたマッチ俸パスルがバラける。

「何すんの! せっかく作ったのに………」
「仕事もしないで何してんの……あ、あなたにも」

 克哉は手渡された名刺と、タエの顔を交互に見る。

「なに、あなたも女性が新聞記者なんて珍しいなんて口?」
「あ、いや知り合いに似てた者で………申し送れた、僕は周防 克哉。警察官だ」
「警察? また随分と洒落た格好してるのね」
「あ、ああよく言われるよ」

 適当に相槌を打ちつつ、克哉はタエをよく見た。

(確か、天野君の曾祖母が新聞記者をやっていたと聞いたが、まさか………)
「それで、その洒落者の刑事さんがこんな変わった探偵社に何の用? ここは普通の事件は扱わないわよ」
「そう、だろうね。君にも聞きたいんだが、最近この近辺で奇妙な事件が起きてないかね?」
「そう、それよ!」

 タエが懐から一枚の写真を応接用テーブルに置いた。

「昨夜、銀座で見かけられた謎の鎧武者、今これ探してるの」
「鎧? オレには手足付いた箱に見えるけど………」

 鳴海がピンぼけ気味の写真を凝視する。
 そこに僅かに映っている〈何か〉を見た克哉の目が見開かれた。

「まさか、XX―1!?」
「知ってるの!?」

 思わず叫んだ所で、タエがこちらを輝く目で見ている事に気付いた克哉が自分の失策を呪った。

「いや、何か見覚えのある………カラクリに似てるなと思って」
「それどういうの? どこの国で作られた奴? 製作者は?」

 矢継ぎ早の質問に、克哉がどう答えるか迷っている所に、お茶が差し出された。

「葵鳥さん、お客さん困ってるじゃないですか」
「そうだよ、まず落ち着こう」

 鳴海が率先して湯のみを手にとり、他の者達もそれに習う。
 克哉も湯飲みを手に取った所で、向かいのライドウがそっとマントの下の何かを取るのが見えた。

「トホカミヱヒタメ アイフヘモヲスシ……」

 それはペンくらいの太さと長さを持った細長い筒で、ライドウが小声で呪文を唱えると勝手に開いて中から淡い光が漏れる。
 その漏れた光が集まり、形となっていく。
 そしてそれは大蛇を携えた女性、聖書でアダムの最初の妻にして女悪魔の祖となった外法属 リリスとなった。

「いつものように」
「いいわ『ドルミナー』」

 小声で呟いたライドウの指示でリリスが手を突き出すと、そこから放たれた催眠魔法がタエを一撃で昏倒させる。

「話の続きを」
「……いいのかこれで」

 湯飲みを手に持ったまま、テーブルに突っ伏して気持ちよさそうに眠っているタエに克哉は苦い顔をする。

「いきなり悪魔呼び出して眠らせるとは………」
「見えるんですか?」

 伽耶が驚いた顔で克哉を見る。

「ああ、そうか完全にマテリアライズしてる訳じゃないのか」
「完全に実体を持たせるには膨大なマグネタイトを用いるか、異界で呼ぶかしかない。どうやらお前も只者じゃないようだ」

 やけに詳しい克哉に、ライドウが疑問を投げかける。
 克哉は胸のポケットから一枚のカードを取り出すと、それを眼前にかざす。

「僕はペルソナ使い、いや古い言い方だと神降ろしと言うんだったかな? その力が使える」
「しかも、相当実戦慣れしてる。違うかな?」

 鳴海の指摘に、克哉は頷いた。

「僕は同僚と共にある奇妙な消失事件を追っていた。建物の一部がかき消すように消えたり、人やその一部がいきなり消えたりするとんでもない事件だったが、ようやくその元凶を発見し、そこに乗り込んだ所で、その元と思われる機械が発動し、気付いたらこの時代にいた」
「この、時代?」
「彼は71年後から来たんだってさ。もっとも彼のいた所じゃ、大正は12年までだったそうだけど」

 鳴海の説明に、伽耶は首を傾げる。

「この写真に映ってる物だが、これは一緒にその現場に突入した機体、多分弟が乗っている機体だと思う」
「未来だとすごいので悪魔と戦うんだね〜」
「まあな。もっとも、一緒に乗り込んだ同僚の中には、ライドウ君のずっと後の後輩もいた」
「そこに葛葉はまだある訳か」
「……ちょっと問題ある奴だがな。サマナー、いや召喚士としては腕は立つ」
「一度会ってみたいな」
「未来に絶望したくなるから止めておいた方がいい」
「どういう方なんです?」

 伽耶の問いにあえて克哉は答えず、タエの持ってきた写真を仕舞いこんだ。

「銀座に行きたい。案内を頼めるだろうか?」
「それはいいが、行き先は銀座じゃない」
「え?」
「これは、異界の映像が偶然映りこんだ物だ。これは異界にいる。志乃田から異界送りで向かう必要がある」
「すまない。面倒をかけるようだな……」
「言ったはずだ。帝都の守護がオレの仕事。これはその一つだ」
(……小岩とえらい違いだ)

 脳内に浮かんだ事をあえて言わず、克哉は席を立つ。

「さて、達哉はここにいるようだが、小岩や音葉君はどこにいるんだろうか………」



2009年 港区 私立・月光館学園 特別課外活動部学生寮

「で、皆はどうするべきだと思う」
「どうするって言われても………」
「弱りました。タルタロスから出られない人なんて……」
「ほっておく訳にもいかないだろう」
「でも、信用できるんですか? 異世界から来たなんて言ってる人ですよ?」
「あんな化け物連れてる奴だぜ。信用できるわけねえだろよ」
「しかし、確かに放置できる存在ではありません」
「そうだね」

 特別課外活動部のペルソナ使い達が、ラウンジで真剣な顔で討論をしていた。
 議題はもちろん、タルタロスに現れた謎の男について。

「サマナーつったか? そんなの聞いた事もねえしな………」
「それなんだが、一応調べてみた。戦前までは確かに彼の所属しているという葛葉と呼ばれる陰陽師達の組織はあったらしい。戦争を境に消失したと記録にあったそうだ」

 帽子を被った陽気そうな少年、伊織 順平の言葉に、長い赤髪の気丈そうな少女、部長の桐条 美鶴がレポートをテーブルの上へと置いた。
 それを手にした絞り込まれた体型に鋭い目つきの男、真田 明彦が中身を確認してその目つきを更に鋭くさせた。

「存在しないはずの者、か………」
「まさか、人間の姿したシャドゥって事は………」
「いえ、彼は純粋な〈人間〉でした。シャドゥでもペルソナ使いでもありません」

 ショートヘアーで快活そうな少女、岳羽 ゆかりが抱いていた問いに、小柄で、いかにも気の弱そうな少女、山岸 風花がそれを否定。

「綾時さんみたいな存在って事は?」
「それも無いと思います。あの力はペルソナともシャドゥとも違う、完全に異質な物です」
「ワン!」

 短パン姿のマジメそうな少年、天田 乾の意見は、短い金髪に表情のとぼしい少女、対シャドゥ用兵器のアイギスが反論、その足元にいる中型犬、コロマルが肯定の意味か一声鳴いた。

「パラレルワールドから来た男、か………どうしたらいいだろ?」

 全員が一番悩んでいる事を、啓人が呟いた。
 その場にいる全員が、あごに手(もしくは前足)を当てて悩みこんだ。

「ただでさえ屋上目指して頑張ってたこの時期にだぜ? どうするって言われてもな…………」
「こちらに敵対する意思の無い限り、無下に扱う訳にもいくまい」
「ひょっとしたら、私達の力になってくれるかもしれませんし………」
「それは疑問だな。そもそも信用に値する男なのかどうかも分からん」
「じゃあ、どうします?」

 乾の言葉に、またも全員が悩みこむ。

「ともかく、一度彼と話し合ってみよう。それから決めればいい」
「それしかないでしょ。……ニュクスを肯定されたら困るけど」

 立ち上がった啓人に、ゆかりも続いて時計を見る。
 時刻は、あと30分で日付が変わるはずの時間だった。

「確かに、それしかないっしょ」
「そうだな。明彦、荷物を忘れないようにな」
「あの、一応あの人の分のお弁当も用意したんですけど」
「食料の提供はいい考えだと思います」
「なんだか野良犬の餌付けみたいですね………」
「ワンワンッ!」

30分後 私立・月光館学園前

 特別課外活動部の面々が、そろって自分達の母校の前に並ぶ。
 啓人が自分の腕時計を見ると、ちょうど日付が変わる瞬間だった。
 本来ならそこで次の日の時刻を刻むはずの腕時計が、日付が変わった瞬間に停止。
 同時に、町の明かりが瞬時にして消え、異様な空間が現れる。
《影時間》、そう呼ばれる、今日と明日、昨日と今日の狭間に一時間だけ現れる、謎の時間帯。
 その時間ではほとんどの人間が《象徴化》してしまい、その存在を認識できないはずの、時間。
 それに適正を持ち、なおかつ戦う力を持った者達を集められて作られた彼ら《特別課外活動部》が、自分達の母校があるはずの場所を見た。
 そこに、突如として異様な物が現れた。
 種々の建築物を常識を無視して融合させていったかのような、巨大な塔。
 それこそが、《タルタロス》だった。

「さて、大人しくしていればいいが………」
「死んでたりしないよね?」
「さあな……」

 タルタロスの扉に手を当て、皆がそれを開ける。
 そこには、見慣れたロビーがあった。
 だが、見慣れない物もあった。

「誰ですか!」

 鋭い誰何の声と共に、上階へと繋がる階段の隣に立っていた、甲冑姿の金髪の女性が腰の剣に手をかける。

「そういうお前こそ、何者だ?」

 何か背中に大荷物を持っている明彦が一歩前に出てその女性と対峙する。
 少し彼らを観察した金髪の女性が、剣から手を放すと姿勢を正して頭を下げた。

「失礼しました。特別課外活動部の方々ですね?」
「そうだが………」
「まさか、あんたも悪魔!?」
「はい、私は小岩召喚士に使える造魔、ジャンヌ・ダルクと申します。あなた方が来るまで、召喚士殿の警護を命じられてました」
「それで、当人は?」
「そちらに」

 ジャンヌ・ダルクが手で示した方向、上階に続く階段の外壁にもたれるようにして、八雲は寝息を立てていた。

「……寝てるぜ」
「……寝てるわね」
「……寝てます」
「……ぐっすりと」

 さすがにこれは予想外だったのか、特別課外活動部の面々も唖然とする。

「ここで平然と寝た奴はこいつが始めてだな」
「真次だってここまではしなかったな……」
「度胸ありますね」
「待ってください」

 三年生二人が呆れる中、近付こうとした乾をアイギスが止めた。

「彼の手を見てください」
「手?」

 言われた皆が八雲の手を見た。
 一見すると彼は腕を組んでいるだけに見えたが、その手は懐に入り、その下の何かを掴んでいる。

「恐らく左手は拳銃を、右手はGUMPと呼んでいた召喚器を持っています。彼は臨戦体制のまま休息を取っています」
「………マジ?」
「そうです。召喚士殿は用心深いお方ですので」
「小心者でね」

 そこで寝息を立てていたはずの八雲がいきなり言葉を発する。

「起きてたの?」
「今起こされた所だ」

 伸びをしながら、八雲が首を鳴らし、伸ばした腕を戻しながら腕時計を見た。

「一時間以上経っている、という事は一日空けたか。それでオレの処遇は決まったか?」

 いきなり核心を指摘され、特別課外活動部の部員達が身をすくませる。

「正直、どうすればいいか困ってるのが現状だ」
「だろうな。オレも立場が逆ならそうなる」

 苦笑した八雲が立ち上がって周囲を確かめる。

「それじゃあ、オレの提案を飲んでくれれば、お前達に協力するというのはどうだ?」

 可能性の一つとして考慮していた事を提案され、特別課外活動部全員が円陣を組んで小声で議論する。

「い、いきなりね……」
「どうするよ?」
「条件しだいだ」
「もしそれが妙な事だったら?」
「ど、どうしましょう?」
「とりあえず聞いてみるだけ聞いてみよう」
「それがいいかと思います」

 議論を終えた皆が円陣を解いた所で、啓人が八雲の前へと進む。

「提案の内容は?」
「あの後何度か確かめたが、オレはここからどうやっても出られない。だから、提案は二つ。外の情報収集と、オレの仲間の捜索。それが受け入れられれば、見返りにオレの持つ知識、技術、そして仲魔の力を提供する。簡単だろ?」
「……情報収集の内容は?」
「特異点の影響の有無の確認。具体的には、無いはずの過去の誤認、存在しないはずの物体の存在、用は違和感の調査だ。これは少し調べれば分かってくる」
「仲間ってのは人間?」
「一応。取りあえず最優先はオレの相棒を務める人物、カチーヤ・音葉の発見及びここへの誘導。残っている人物は優先順にリストを作るが、もし条件に合わなければこの世界の人間だ」
「……いいだろう。その提案を飲もう」

 美鶴の一声に、他の部員達が彼女の方を見た。

「いいんすか先輩?」
「彼の提案に少なくても大きなデメリットはない。だが条件がある」
「どういう?」
「私達には時間がない。今月末、正確には25日の間に我々はこのタルタロスの最上階に行かねばならん」
「……何が来る?」
「ニュクスと呼ばれる、この世界の滅びの導き手たる存在……だそうだ」
「……どこも似たようなモンだな」
「え?」
「どういう意味だ!?」

 啓人と美鶴の疑問に、八雲は頭をかきつつ遠くを見る。

「世界滅亡……とはストレートに行かなくても、バランスを崩しかねない存在とならオレは何度か戦った事がある。その度に死にそうな目に会ったけどな」
「マジ!?」
「ひょっとしてあんたすげぇ強い!?」

 露骨に驚いているゆかりと順平に、八雲は冷めた目を向ける。

「……あのな、お前らは一人で戦ってるわけじゃねえだろ?」
「え? ええ……」
「そうだけど…………」
「それと同じだ。オレも協力できる仲間と、仲魔がいたからなんとかできた。それはお前らだってそうだろ」
「その通りだ」
「確かにな」
「信頼できる奴がそれだけ集まってりゃ、ま、そのニュクスとやらもどうにかなるだろ」
「結構適当な人だな、あんた………」
「その通りだ」

 おどけた笑みを浮かべる八雲に、両者の間にあった緊張感が消えていく。

「とりあえず、オレが飛ばされた影響が何か、いや必ずここにあるはずだ。それを見つけないとな」
「それをどうにかすれば、あなたは戻れる?」
「多分。周防弟の時はそうだったらしい」
「参考に聞きたいんでけど、その前例の時は何が起きたんです?」
「機械の軍勢が攻めてきて街が空を飛んだそうだ。オレの先輩が巻き込まれてエライ目に会ったと言ってたな〜」
「……まさか、タルタロスが飛んだり、な〜んて事は………」
「運が良ければ無事降りれるらしいぞ。巻き添えで大分被害が出たそうだが」
『…………』

 本当にこの男と協力して大丈夫だろうか? と今更な疑問の視線が八雲に突き刺さる。

「データの交換がしたいんだが、データベースみたいな物はあるか?」
「あ、はい」

 風花が持参していた影時間用の処置が施されたノートPCを八雲に指し出し、八雲は自分のGUMPを起動させてノートPCとケーブルを繋ぐ。
 同様に伸ばしたケーブルを愛用のサングラスのジャックに繋ぎ、キーボードをタイプ。
 程なくして、GUMPのディスプレイとサングラス内の小型ディスプレイに大量のデータが映し出されていく。

「データの並列化にちとかかりそうだな………」
「じゃあオレ達は内部の調査にとりかかっていいか?」
「ああ。なんか見慣れない物や事があったら連絡を」
「そうだお弁当持ってきたんですけど」
「こいつもな」

 風花が可愛らしい弁当箱を取り出し、明彦が背中に背負っていたリュックサックから料理用の丸鳥を取り出す。

「お、わりいな。ケルベロスの機嫌もよくなるだろ」
「ガアアアァァ!」

 八雲がケルベロスを召喚すると、ケルベロスは一心不乱に丸のままの鶏肉を貪り始める。

「うわ、グロ〜」
「これ、いつもの事か?」
「まあ………」
「……鶏肉ですんでるだけマシか」

 骨ごと音を立てて鳥肉を貪るケルベロスから距離を取っていた部員達が、取りあえず今回の探索メンバーを選別を始める。

「こんだけメンバーいて、四人だけで行くのか?」
「その、私のペルソナの能力限界で………」
「あれだけ離れた場所で四人同時にサポートできるのだ。それで十分だろう」
「便利な話だ」
「それじゃあ、今回はその特異点とやらの調査が必要だから、美鶴先輩とアイギス、コロマルで」
「分かった」
「了解です」
「ワンワン!」
「どんな影響が出てるか分からんから気をつけろよ〜」

 それを見送りながら、八雲も渡された弁当箱を開くと、その中には極彩色のカオスが詰まっていた。

「これは………」
「確かに異世界のようだな」
「す、すいません! ちょっと失敗しちゃって……」

 その中身を見たジャンヌ・ダルクはたじろぎ、風花が頭を何べんも下げる。
 だが八雲は気にした風でも無く、平然と箸を付けた。

「ま、味は見た目ほどじゃないか」
「ど、どうも」
「……漢だな、あんた」

 探索メンバーに入らなかった順平が、平然とそのカオスの詰まった弁当を食べる八雲に感心した。

「悪魔が薦める食い物よりはマシだ。本気で何が入ってるか分からんからな」
「私はそのような物は作った事はありませんが」
「昔の話だよ。妙な饅頭だのチョコだの食わされたな……」
「それって無理に食べる必要はないんじゃないですか?」
「悪魔との交渉の一つだよ。信頼の証か、度胸試しか、ただの罠か。中に生きた××××が入ってた時はさすがに」
「げ〜……」

 同じく残っていた乾、ゆかりが八雲の話に顔を青くする。

「サマナーでしたっけ。やって長いんですか?」
「かれこれ五年か。お前らは?」
「ここにいるのはほとんど去年ペルソナ使いになった連中ばっかよ。先輩達とアイギスは違うけど」
「ああ、あのロボ娘か。雰囲気がオレの知り合いにそっくりだ。他人とのコミュニケーション苦手だろ?」
「よく分かんな」
「どんなプログラミングをしようと、経験がなけりゃ無意味だ。変な方向に経験積むと厄介だがな」
「色んな事知ってんな〜」
「まあな。さてカチーヤや周防はどこにいっかな………」


同時刻 タルタロス 230階

「何か変化はある?」
「いや、特には………」
「目立った異常は発見できないです」
「ク〜ン………」

 探索メンバーとしてきた啓人、美鶴、アイギス、コロマルは、八雲の言葉に従ってタルタロス内を探索してたが、そこには普段と変わらないタルタロスの姿が有った。

「風花、そっちは?」
『普段通り、皆さんとシャドウの反応だけです』
「ここには特異点の影響とやらは出ていないのか?」
『え〜と、すぐには出てくる訳でもないそうです』
「すぐには出てこないって言っても、約束の日までここじゃ一日しか過ぎないし………」
「むう……ともあれ、上を目指そう」
「その前に、来ました!」

 アイギスが両手に内臓されたマシンガンを向けた先に、シャドウ達が姿を現す。

『運命タイプのシャドウ! 氷結系が有効です!』
「分かった! アルテミシア!」

 美鶴が自らの額に当てた召喚器のトリガーを引いて自らのペルソナ、古代ギリシアの伝説の女将軍アルテミシアを呼び出す。

『マハブフーラ!』

 周辺を覆い尽くす氷結魔法がシャドウを軒並凍らせ、動きが止まった所でアイギスのマシンガン斉射を中心とし、啓人とコロマルの攻撃はシャドウを次々と屠っていく。
 最後の一体にコロマルがトドメを刺そうとするが、いきなりそのシャドウは反転して逃げ出し、通路の影に飛び込む。

「ワンワン!」
「待てコロマル!」
『いけない! コロちゃん戻って!』

 後を追おうとするコロマルを啓人が止めようとするが、直後に風花の警告が響く。

「キャウン!」
「どうしたコロマル!?」
『うそ、そんな事が……』

 コロマルの悲鳴に慌てて他の者達が続いて通路の影へと飛び込む。
 部屋上になっているその場所の周囲には、まるで待ち構えていたかのように大型のシャドウ達が並んでいた。

「ばかな、シャドウが待ち伏せだと!?」
「いや、さっきのもトラップだったんだ!」
「そのような戦闘記録はデータにありません……」

 一体ずつでも苦戦するような刑死者タイプのシャドウの大群が、一斉に探索メンバーを取り囲む。

「まずいな、この数は……」
「風花! すぐに戻せないか?」
『シャドウが近過ぎます! 無理で………あ!?』
「どうした!」
『タルタロス外にイレギュラーの反応が!』
「なんだって!?」

 相次ぐ危機的状況に、啓人は剣を構えながら脳内で打開策を思案する。
 その間にも、シャドウはこちらへと迫ってきていた。

「こっちはなんとかする! そっちはイレギュラーの対処を!」
『でも!』
「正確に位置を把握できるのは風花だけなんだ! 犠牲者が出る前に早く!」
「こちらは大丈夫だ! 急げ!」

 振り下ろされる巨腕の攻撃を掻い潜りながら、美鶴も叫ぶ。

『わ、分かりました! 隙を見て逃げ出して下さい!』

 その通信を最後に、風花とのデータリンクが途絶する。
 だが、状況はさして変わらなかった。

「私が引き受けます! 皆さんは退路を!」
「ダメだ、全部囲まれた!」
「なんだこれは!? 周囲のシャドウが寄ってきている!」
「ワオーン!」『ムドオン!』

 状況を打開しようと、コロマルが自らのペルソナ、八雲の仲魔とは少し姿が違うケルベロスを呼び出し、呪殺魔法を放つ。
 それを食らったシャドウが何体か倒れるが、後から湧いてきた別のシャドウがその穴を即座に塞ぐ。

「シャドウが陣形を組むだと………」
「明らかに戦術的フォーメーションです」
「そんな事が………」

己のペルソナを使ってなんとか善戦している探索メンバーだったが、徐々に追い詰められていく。

「伏せて! ミックスレイドを使う!」
「この数にできるか?」
「分からない、だが!」

 啓人は自らのこめかみに召喚器を当て、トリガーを連続して引いた。
 自らの中に眠るペルソナを2体同時に呼び出し、その力の同調を使って放たれる合体攻撃《ミックスレイド》が発動する。

『紅蓮華斬殺!』

 古代ギリシアの荒ぶる戦の神アレスと、ドイツの叙事詩・ニーベルンゲンの歌の主人公である英雄ジークフリートの力が同時に放たれ、無数の斬撃が取り囲むシャドウ達を切り刻む。

「やったか!?」
「いえ、ダメです! 耐え切られました!」

 ダメージを追いながらも立ち上がろうとするシャドウに、銃弾と斬撃、ペルソナによる追加攻撃を与えるが、その背後から更に別のシャドウ達が姿を現す。

「この階にいるシャドウが全て向かってくるだと? そんな事が………」
「啓人さん! オルギアの発動許可を!」
「ダメだアイギス! オーバーヒートしたら集中攻撃を食らう!」
「キャウン!」

 シャドウの攻撃を食らったコロマルが体勢を崩し、そこにシャドウ達が一斉に向かってきた。

「コロマルさん!」

 それを防ごうとアイギスがコロマルを守るために立ち塞がった時だった。

「目を閉じろ!」

 大声で誰かが叫ぶ。
 それを聞いた啓人と美鶴がまぶたを閉じ、アイギスが視覚素子を一時遮断してコロマルの目を手で閉じる。
 直後、シャドウの向こう側から飛んできた何かが炸裂し、眩いばかりの閃光が周囲を覆い尽くす。

「今だ! こっちに向かってまっすぐに来い!」

 目を開けた啓人が、その閃光で周囲のシャドウ達が怯んでいるのに気付く。

「みんなこっちへ!」
「攻撃を集中させろ!」
「了解です! アテナ!」『ヒートウェイブ!』

 アイギスのペルソナが、声のした方向のシャドウを薙ぎ払い、僅かに出来た道を啓人が先陣を切って突っ込む。

「急げ!」

 立ち上がろうとするシャドウ達を斬り捨て、突き刺し、撃ち倒して探索メンバーが包囲をどうにか突破する。

「逃げるぞ!」

 そこには、仲魔を従えた八雲が再度スタングレネードのピンを抜きながら身をひるがえす所だった。

「データの交換中とか言ってなかった?」
「そんな暇あるか! 他の連中はイレギュラーとやらを狩りに行かせたから、オレが来るしかなかったんだよ!」
「どうやら、早くも契約を実行してくれるようだな」
「お前らに何かあったら、オレはここで飢え死ぬ!」
「大丈夫です、約束の時まであと24日。ここでは一日しかありませんから、餓死する前に滅亡に巻き込まれます」
「……冷静な解説どうも」

 八雲がアイギスの方を冷たい目で見ながら、着ていたジャケットから次々とチャイカムTNTを落としていく。

「ケルベロス、ジャンヌ、逃走路を確保!」
「ガアアァァ!」
「心得ました召喚士殿!」

 行く手を塞ごうとするシャドウにケルベロスが牙を突き立て、ジャンヌが剣を振るう。

「追って来てる! すごい数が………」
「どうするつもりだ!」
「そこの角を曲がれ!」
「行き止まりだぞ!?」
「好都合!」

 八雲の指示どおり、全員がその角を曲がると同時に、八雲がGUMPをRETURN操作、シャドウと交戦していた仲魔が光となってGUMPに吸収されると、今度はエンターキーを押した。
 そこから発せられた起爆信号をチャイカムTNTのリモート信管が感知、その真上を通り過ぎようとしていたシャドウ達を巻き込み、一斉に爆発を起こす。

「なんと無茶な戦い方だ………」
「悪いが、オレはこういうの日常茶飯事でね」
「デビルサマナーとは私達よりも危険で過激な職業だと認識します」
「ワン!」
「ともあれ、今の内に逃げよう」

 啓人が懐からトラエストジェムを取り出して発動、淡い光に包まれた全員の姿がその場から掻き消えた。
 エントランスに戻ってきた一行は、そこで思わず座り込んだ、

「今のは危うかったな………」
「今までまったくない行動パターンであります」
「いったいどうなってるんだ?」
「クゥ〜ン………」

 ペルソナ使い達が首を傾げる中、八雲はGUMPを操作して風花が置いていったノートPCのデータと比較していく。

「明らかに戦術を持った集団戦闘か………前例は無し?」
「山岸、こちらは大丈夫だ。そちらは?」
『今イレギュラーの所に向かって………発見しました! 数はそれ程いませんから大丈夫だと思います』『行くぞっ!』『おりゃっ!』

 通信の向こうから戦闘の音が聞こえてくる中、美鶴は八雲の方を睨むように見た。

「これが《特異点》の影響か?」
「恐らくはな。シャドウの変質が始まったらしい」
「つまり、今後は似たような事が起こる可能性が高いという訳でしょうか?」
「多分な。だが、それ以上にやっかいかも………」
「あのような戦い方をするには、指揮官がいる。今まで大型のシャドウはいたが、戦術を組めるような存在は無かった………」
「じゃあ、このタルタロスのどこかに!」
「いるな、シャドウに命令できる指揮官が。恐らくそいつが特異点だ」
(だが………なぜ? 特異点の影響はまずその存在の身近にいる存在から影響が及ぶ。それは、オレに関係がある?)

 脳内に浮かんだ疑問を、八雲は口には出さず静かに思案していた………



 糸と糸、その絡んだ先には幾多の困難が待ち受ける。
 その先にある結び目は、果たして…………





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