PART40 SURPRISING ASSASSIN


真・女神転生クロス

PART40 SURPRISING ASSASSIN




「なるほど、やはりメティスを作ったのは貴様だったか」
「まあね、と言っても手伝ってもらったりもしたけど」

 予想はしていたとはいえ、自分達を裏切り、父を殺した相手に、美鶴は憤怒の視線で睨みつける。
 それに対し、幾月は活動部メンバーに馴染みのある、今となってはそれが取り繕った物だと分かる笑顔で答えた。

「それにしても、一度は死んでみる物だね。随分と勉強にもなった。少し手法を変えるだけで、こんなにも簡単に量産出来るんだから」

 幾月がそう言いながら片手を上げると、周囲のメティス達が一斉に構える。

「こっちだって、そう簡単にはやられない」

 啓人が構えると、課外活動部メンバー達も得物や召喚器を構えるが、それを遮るようにダンテとキョウジが前に出る。

「その仮面みてえな笑顔、どうにも好きになれねえな」
「未成年相手に大人げ無さ過ぎるぜ、オッサン」
「ハンター・ダンテに葛葉キョウジ。なるほどこれは厄介だ。フォーメーションPに変更、先頭の二人を優先」
「了解」「了解」「了解」

 幾月のボイスコマンドに応じ、メティス達が一斉にダンテとキョウジへと襲いかかる。

「パーティーの仕切り直しと洒落こもうぜ!」
「嫌味な仮面パーティーだがな!」

 リベリオンと七支刀を構えて応戦するダンテとキョウジに、課外活動部メンバーも参戦する。

「おい、気付いてるか」
「何がですか?」

 振り下ろされるトマホークを受け流すキョウジが囁いて来た事に、召喚器を構えながら啓人が返す。

「あのオッサンの隣にいるの、オリジナルだ。多分アイツを潰せば、こいつらの戦闘力が多少落ちるかもしれねえ」
「!」

 メティス達が次々襲ってくる中、一体だけ幾月の隣から動こうとしないのがいる事に、啓人も遅ればせながら気付く。

「と言った所で、相変わらず無駄にフォーメーションいいけどな、やれ!」
「メギドラ!」「大切断!」「ブレインバースト!」「業火召喚!」

 メティス達が集まってきた所で、キョウジの命に従って仲魔達が一斉に攻撃を叩き込む。
 メティス達は即座に陣形を組んでペルソナ発動でそれを防ごうとするが、高レベル悪魔の攻撃を防ぎ切れず、何体も弾け飛ぶ。
 それでもなお、新手のメティス達が押し寄せてくる。

「よおし、今度こそ終わらせてやる!」

 闘志を奮い立たせ、啓人は召喚器のトリガーを引いた。



「が、はっ………」

 まともに腹に蹴りを食らったライドウが、かろうじて後ろに跳びながら体勢を立て直す。

「ライドウ! なんじゃ今の蹴りは!」

 体を大きく沈み込ませながら旋回し、見た事もない軌道で放たれた蹴り技にゴウトは驚愕する。

「カポエラか、このような所で見るケースとは………」
「おや、知ってマシたか」

 ゲイリンがかつてアメリカでの修行中に見た事のある蹴り技に、それを使ってきた黒人神父を睨みつける。

「ふふ、ライドウにゲイリン。葛葉四天王二人相手でハ、こちらも全力デいかせてもらいマ〜ス」

 シドがそう言いながら全身に魔力を漲らせると、その体が膨張し、異様なまでに屈強な体へと変貌する。

「神父姿で黒人のダークサマナー、シド・デイビスか。五代目葛葉キョウジを呪殺した男と聞いている」
「キョウジを? それは並々ならぬエネミーだな」

 口元に溢れてきた胃液を拭いつつ、ライドウが刀を構え直す。

「それデハ、コロシ合うとしまショウ。もっとも私はスデに死んでマスが」
「それは私もだ。だからこそ、パーフェクトに眠ってもらうセオリーだ」
「祀ろわぬ死者に永久の安らぎを与えるも、葛葉の仕事だ」
「ノーサンキューで〜す。SUMMON!」
「来るぞライドウ!」「分かっている」

 シドは黒い笑みを浮かべながら、手にした聖書型COMPを起動、それに相対するように、ゲイリンとライドウも管を抜き放つ。
 双方が呼び出した仲魔を従え、激突した。



『くりからの黒龍!』
「ちっ!」「召喚士殿!」

 ナオミの管から繰り出された龍炎に、八雲の前にジャンヌ・ダルクが防護に入る。

「く、あああぁ!」「RETURN!」

 その強力な炎に、ジャンヌ・ダルクが苦悶を上げ、体が限界に達する前に八雲はGUMPに強制帰還させる。

「何よアレ!」「すごい威力………」
「仲魔の具現召喚じゃなくて術式召喚、単発だが、威力は桁違いだ。召喚プログラムが一般化して廃れた技の一つだ」

 かつてビジョンクエストで、そして一度マダムが使っているのを見た事のある八雲が、ナオミ一人に三人+仲魔を総動員しても押されている状況に内心焦りを感じていた。

「こんなのが今の葛葉とはね。がっかりだわ」
「悪いが、オレはスカウト組でね。正規の修行も受けてない三下サマナーだよ」
「ふうん、そこまで葛葉は人手不足なの」
「だから、オレみたいな男をこき使うんだよ」

 苦笑を浮かべつつ、八雲はナオミから見えないように、GUMPのトリガーを二回立て続けに引き、セットしておいた短縮プログラムが発動する。
 足元から聞こえてきた電子音に、ナオミは思わず足元を見ると、そこに先程ナオミの術を食らった拍子に八雲が取り落としたはずのHVナイフ、その柄にランプが灯っていた。

「こいつ…!」

 それが何を意味するかをナオミが悟った瞬間、柄に仕込まれていた爆薬が炸裂する。
 とっさに両腕を顔面でかざしながら横に飛んだナオミだったが、爆発を食らっても痛みを感じる体ではなかった事を思い出す。

(ダメージは?)

 痛みが無いのとダメージが無いのとは全く違う事を即座に理解し、ナオミは己の体を確かめようとした時だった。

「ガアアアァァ!」

 咆哮と共に、八雲の仲魔のケルベロスが大きく跳躍して襲い掛かってくる。

(安い手ね)

 慌てず、ナオミは腰のホルスターから拳銃を抜き放ち、ケルベロスの額に素早くポイントしてトリガーを引こうとした。

「RETURN!」

 八雲がそこで素早くケルベロスを帰還、ケルベロスが光の粒子となってGUMPに吸い込まれる影から、下段からカチーヤが穂先を向けて迫っていた。

「狡い手を…」

 後ろに下がりながら狙いをカチーヤに向けようとしたナオミが、いきなりバランスを崩す。
 そこでようやく、先程の爆発で足を負傷している事に気付いた。

(これくらい…!)

 バランスを崩しつつも、カチーヤに向けて銃口を定めたナオミだったが、今度はカチーヤの中から光球がいきなり飛び出してくる。

(今度は何!?)

 判断する間もなく、光球がナオミの脇を通り過ぎ、そしてそれはカドゥケウスを構えたネミッサの姿となる。

「カチーヤちゃん!」「はいネミッサさん!」『マハ・ブフーラ!』
「くっ!」

 前後から同時に放たれた氷結魔法に、ナオミは体勢を崩しながらも、半ば転がりながら魔法の効果範囲から逃れる。
 その直後、何かが地面に落ちる乾いた音が響いてきた。

「まさか!?」

 それが何の音か気付いたナオミが、とっさにその音の元、ネミッサにすれ違い様切り落とされたスリングからこぼれ落ちた管をとっさに掴むが、そのほとんどは放たれた氷結魔法で作られていく氷塊に閉じ込められていく。

「最初から、狙いは私じゃなく………」
「悪ぃな。あんた程の使い手、マトモにやったら勝ち目なんてありゃしないからな」

 片膝をつき、睨みつけてくるナオミに、八雲は悪びれず答える。

(この男、最初からマトモに戦おうなんて思っていない! 相手の戦い方を観察し、隙を突く事のみに特化したサマナー! レイホゥはこんなダークサマナー染みた奴を葛葉に入れたのか!?)

 とても葛葉に所属するサマナーとは思えない八雲の戦い方に、ナオミはある種戦慄を覚える。

「気をつけろ、そいつはアルゴン・スキャンダルで黒き魔女と共にマニトゥを鎮めた張本人だ。見た目で判断すると痛い目を見る」
「今思い知ったわ。葛葉も随分変わった物ね」

 ナオミの背後から響いてきた声に、ナオミは振り向きもせず返答する。
 だが、八雲の方はその声の主を無言で見つめていた。

「ああ! あんた!」
「久しいな、黒き魔女。そして若きサマナー」
「予想はしてたが、実際合うとショックでかいな、フィネガン」

 八雲の前に姿を現したサングラスをかけた男、かつてアルゴン・スキャンダルで幾度と無く死闘を繰り広げたダークサマナーの姿に、八雲は内心焦りを感じていた。

「あの時は決着をつけそこねたからな、まさか冥界でつけるチャンスが巡ってくるとは」
「こっちはそんな物付けたくもないんだがな」

 笑みを浮かべながらメリケンサック型COMPを構えるフィネガンに、八雲は予備のナイフを抜きながら、GUMPを起動させて召喚出来る仲魔を全て召喚する。

「カーリー、カチーヤとネミッサについてあの女の相手をしろ。ケルベロスとオベロンはオレのサポートにあたれ」
「分かったよ」「ワカッタ」「任されよ」

 DEAD状態の仲魔を蘇生させる隙をどうやって作るかを考えつつ、八雲はかつての宿敵と相対する。

「さあて、八雲は忙しいから、ネミッサ達が相手してあげる」
「管は封じました、先程のようには行きません」
「それは、どうかしらね?」

 前後に分かれて穂先を向けるネミッサとカチーヤに、ナオミは一つだけ残った管を弄びながら、ほくそ笑む。

「お互い忙しい身だ。手早く始めるとしよう」
「死人の癖にそういう所は変わらないな。だが、それには賛成するぜ」

 二人のサマナーが、過去につけられなかった決着をつけるべく、激突した。



「行けっ!」

 小次郎の号令と共に、仲魔達が一斉にライトニング号へと攻撃を叩き込む。

「ぶちかませっ!」

 続くように修二も仲魔に号令をかけながら、己も率先して拳を装甲へと叩き込む。
 魔力の篭った拳がライトニング号の装甲へと突き刺さる、かと思われたが、拳は装甲をわずかに凹ませただけだった。

「硬っえ〜!」
「レッド・スプライト号よりも強固な装甲材を使ってるな。攻撃を続行!」
「コジロウ、上ダ!」
「散開!」

 攻撃を続ける小次郎だったが、ケルベロスの警告に素早く仲魔を散らせ、直後に上空から機銃の弾幕が降り注ぐ。

「中身壊したんじゃなかったのかよ!」
「こういう大型機動兵器は制御システムが破壊されても、マニュアルで動くように大抵出来ている。ガルーダ、ケルプ、機銃を破壊しろ!」
「了解!」「心得た!」

 小次郎が素早く仲魔に機銃を破壊させるが、さらにそこへメティスの一団が迫ってくる。

「まだいんのかよ!」
「艦内部に研究・生産のためのシステムが入っているらしいからな。だが、早々すぐに量産は出来ないはずだ」
「やっかましいわ!」

 メティスへと向き直った修二と小次郎だったが、そこにやけに甲高い関西弁が怒鳴り返してきた。

「悪魔連れてるちゅう事は、ワレらデビルサマナーやな!? ぽんぽんとメティス破壊しくさってからに! 量産体勢整えるの、どんだけ苦労したか分かっとるんか!」

 声がした方向を見ると、メティス達の背後に、やけに顔面部分の中央が盛り上がった黒いデモニカをまとった、声からして中年男性らしき人物が、こちらを指さしながら怒鳴りまくっている。

「………なんだあいつ」
「話から察すれば、どうやらメティスの開発者のようだな………」
「コジロウ。アイツ、死臭シナイ」
「本当かパスカル!?」

 警戒する二人だったが、ケルベロスが鼻をならしながら呟いた言葉に、小次郎が顔色を変える。

「つまり………」
「あいつは、生者だ。しかもここの事をよく知っているな………」
「………なるほど」

 小次郎の言わんとする事を察した修二が、意地の悪い笑みを浮かべながら拳を鳴らす。

「貴重な情報源だ。総員、あの黒いデモニカの男を生きたまま確保」
「あの関西弁のおっさん、ふん捕まえるぞ」
「やったれメティス!」

 二人が仲魔に指示を出すと同時に、関西弁の男もメティス達に命令を下す。
 互いに思惑を持った両者が、激しく激突した。



「なんだって!?」
「どうした!」
「敵に生きてる奴が混じってるらしい! しかもあのゴスロリロボの開発者っぽいらしいぞ!」
「本当かそれ!」

 通信担当の機動班員が、つい先程届いた情報に声を荒らげ、そばで弾幕を張っていた他の機動班員達も驚きの声を上げる。

「ここでは、生者は長時間滞在すると死んでしまうと聞いていたが………」
「よく知らないけど、防ぐ方法はあるかもしれない。貴方達もまだ死んでないし」
「それはそうだが………」

 仁也の疑問にチドリがある仮定を話す。
 思わず仁也はカロンから渡された冥界の滞在許可証も兼ねるというコイン、実家からもらったお守り袋に入れておいたそれを握り締める。
 現作戦の発動前に確認したそれは、すでに輝きを失い、だいぶくすんでいた事から滞在時間がもうほとんど残されていない事を雄弁に物語っていた。

「小次郎と人修羅が今確保しようとしてるらしいが、上手くいきゃいいんだが………」
「どっちにしろ、ここをどうにかしねえと!」

 機動班員達の呟きに、アンソニーが思わず叫んだ所に、飛んできた銃弾がデモニカの頭部をかすっていく。

「危な!」
「まずいな、こう着状態だ………」

 ライトニング号の開閉ゲートのすぐ手前、仲魔達の手によって緊急で作られた塹壕の中で、ライトニング号の占拠を狙っていた急襲部隊だったが、内部からの激しい抵抗によって互いに動けなくなっていた。

「内部にもう強い反応は残っていない。いるのは雑魚ばかり」
「だが、こうも火線を集中されてはな」
「しかもきっちり対悪魔弾使ってやがる。内部の装備丸パクリしやがったな」

 内部からの銃撃で仲魔を撤退せざるをえなかったアンソニーが毒づく中、双方の激しい銃撃戦は未だ続いていた。

「前は傭兵ばかりで苦労したが、今度は全員悪魔使いで苦労するとは………」
「仲魔の使い方も魔法の対処もあっちの方が上だぜ。シュバルツバースでオレらも大分慣れたと思ってたが、年季が違うって奴か?」

 ここまで前進するのに重火器を使い果たし、アサルトライフルのような小口径火器だけになっていた事を悔やむ仁也とアンソニーだったが、周辺では双方の実力者同士がこちら以上の激戦を繰り広げており、撤退する事すら不可能な状態だった。

「ライトニング号の奪取は最優先事項だ。どうにか突破口を作らなければ」
「内部に縦深陣を張られてる! あの銃火を突破するのは無理だ! そういう事が出来そうな連中は全員手が塞がってやがるし」
「メティスは全て出払っている。それがせめてもの救い」
「つってもな、おわあ!」
「メーディア」『アギダイン!』

 アンソニーが飛んできたグレネード弾に思わず悲鳴を上げ、チドリがすかさずペルソナで迎撃、空中で爆発した火炎がこちらにまで飛んでくる。

「まずいな、どうやら重火器をかき集めてきたようだ」
「ロケット弾や携行ミサイル使われたらやばいぞ!」
「私が行こうか? 私のペルソナなら多少は防げるかもしれない」
「死人でペルソナ使いとはいえ、女の子に突撃なんて危ない真似、軍人がさせられるか!」
「自分が行こう。援護してくれ」
「無理だヒトナリ! デモニカでも耐えられないぞ!」
「あ」

 仁也が突撃体勢を取ろうとするのをアンソニーが必死に止める中、チドリが何かを思い出してポケットから梵字が刻まれた奇妙な石のような物を取り出す。

「前にゲイリンから危険な目にあったらこれを使えと言われてた。危ないから充分距離を取って投げろって」
「なんだこれは」
「おい、エネミーソナーがすげえ反応してるんだが」
「攻撃アイテムのような物だろうか? だがやってみよう。ハヌマーン」
「何か用か、ヒトナリ」
「これをあの中に入るように思いっきり投げてくれ」
「分かった」

 仲魔のインド神話の神通力を宿した神猿、幻魔ハヌマーンがその怪力を持って、全力で石をライトニング号のハッチの中へと叩き込む。

「何だこれは!」
「石!? いやこれは、うわあああぁぁ!」

 直後、凄まじい悲鳴が聞こえたかと思うと、ハッチの中から文字通りこの世の物とも思えない怨嗟の声が響き渡り、重なった悲鳴すらかき消されていく。

「なな、何だありゃ………」
「分からない………」

 思わずこちらも耳を塞ぐような怨嗟がしばらく続き、エネミーソナーが甲高い警告音を鳴り響かせ、やがてハッチの向こう側が静かになる。

「………どうなった?」
「動体反応が無くなったが………」
「死者すら殺す呪詛を込めたとか言ってた。冥界の亡者と瘴気を凝縮させたとか」
「………あの爺さん、とんでもない物持たせやがって」
「ヒトナリ、あのまま入るのは危ない」
「破魔系の魔法持ってる仲魔を集めろ! 清めないと入るのは危険だ!」
「ストックにいたかな………」
「デモニカの防護システム最大! 破魔系魔法発動と同時に突入!」

 機動班員達が手持ちから破魔系を使える仲魔を総動員させ、それらを戦闘にライトニング号へと突入していく。

「予定通り、二班に分かれてラボと動力炉を停止! 急げ!」
「これ以上ゴスロリロボ量産されてたまるか!」

 まだどこか怨嗟が聞こえてくる気がする艦内で、本来の物言わぬ死者となった躯を踏み越え、機動班員達は二手に別れる。

「気をつけて、まだ動ける死者が少し残ってる」
「他の戦闘が終わる前に作戦を完了させるんだ!」

 チドリの警告に、内外からの挟撃の可能性を示唆して仁也が先頭に立って動力炉へと向かっていく。

「こちらライトニング号、敵の再侵入を許しました! 戻ってきてください!」

 生き(?)残っていたサマナーが通信機に叫ぶのを合図にしたかのように、ライトニン号内部で、激しい戦闘が開始された。



「二度も侵入を許すとは………」
「諦めろ。母艦を落とされれば、勝機は無い」

 ユダが悪態を漏らすのを聞いたアレフは、流れがこちらに傾いてきたと判断、一気に押すべく更なる攻勢に転じる。

「く、これは………!」
「終わりだ」

 一瞬の隙を付き、アレフはヒノカグツチを袈裟懸けに一閃、デモニカごとユダの体を両断した。

「ユダさん!」
「自分の心配をなさい」

 実力者のユダがやられた事に動揺した他のサマナー達を、ヒロコが逃さず屠っていこうと槍を振るおうとした時だった。

「ふ、ふふふふ………」
「アレフ!」
「これは!」

 両断され、石化しながら爆散しかけていたユダの体が、突如として崩れたかと思うと、映像を逆再生するように両断された箇所が繋がっていく。

「再生、だと? 馬鹿な………」
「生憎と、死にたくとも死ねないのですよ。もう死んでるという点以上にね」

 そう言いながら、完全に再生したユダが、半ばから両断されたデモニカを無造作に脱ぎ捨てる。
 その胸に、奇妙な魔法陣が刻まれている事にアレフとヒロコは同時に気付いた。

「術式を埋め込まれているのか」
「その陣、見覚えが有るわ。魂を呪縛する禁忌の呪術よ」
「呪縛、そうかお前は………」



『満月の女王!』
「うわっ……」「くっ!」

 ナオミの残った一つだけの管、よりにもよって彼女の最強の召喚魔法で月と魔術の女王、魔王ヘカーテの力を発動、ネミッサとカチーヤは氷壁を構築して防ごうとするが、諸共吹き飛ばされる。

「あつつ………カチーヤちゃん無事?」「なんとか………」

 体があちこち痛むが、致命傷は防げた事を互いに確認した所で、同時に左右へと跳ぶ。
 先程まで二人がいた場所に一本の矢が突き刺さり、その矢じりにセットされていた爆薬が炸裂する。

「悪くない反応するわね」

 ライトニング号から持ちだしたのか、軍用のコンパウンドボウ(複合弓)に対装甲目標用のエクスプロージョンアロー(矢じりに爆薬をセットした物)をつがえたナオミが、狙いをカチーヤへと向ける。

「このぉ!」

 させまいとネミッサがアールズロックを乱射、ナオミは矢をつがえたままの腕で頭部をかばうが、そんな物で防げるわけがなく、体の各所に弾痕が穿たれていく。

「蜂の巣ってこれね!」
「待ってください!」

 一斉射を終えたネミッサが喝采をあげようとするが、そこでカチーヤが異常に気付いた。
 先程負傷したはずのナオミの足が普通に動いている事と、穿たれた弾痕や吹き飛んだ頭髪の一部が、ゆっくりと録画映像を巻き戻すように戻っていく事に。

「亡者なのに再生してる!?」
「そんな、まさか………魂の呪縛!?」
「そう、よく知ってるわね。レイホゥはそんな事まで教えたのかしら」

 ナオミは笑みを浮かべつつ、頭皮ごと吹き飛ばされた傷口から顔面に流れだした黒ずんだ血を無造作に拭う。
 拭った後には、すでに傷跡は完全に消えていた。

「死者を完全に隷属させ、輪廻転生から逸脱して術者が術を解除するまで偽りの不死を与え使役する。極めて高難易度の禁忌の術です………」
「よく分からないけど、どういうのかは分かったわ。つまり、こいつ誰かに仲魔みたいにされてるわけね?」
「その通りよ。今の私は、自分の意思で戦いを止める事も、輪廻の輪に戻る事も出来ないわ」

 自嘲的な笑みを浮かべながら、ナオミは銃撃で破けた衣服の下、胸に刻まれた術式が描かれた魔法陣を見せ付ける。

「けど、あの女の身内と戦えるなら、こんな体になったのを喜ぶべきなのかもしれないわね」
「死んでも死ねない体を? マニトゥはそれを嘆いて、ネミッサを生み出したっていうのに」
「そう、そういえば貴方は《滅びの歌ネミッサ》だったわね。私に滅びを与えられるのかしら?」
「魂を呪縛された死者は、術者を倒すしかありません! でも一体誰が………」
「考えるのは後!」

 カチーヤがレイホゥから教わっていた対処法を口にするが、ナオミは構わず再度矢を放ち、続けて管を手に取ったのを見たネミッサが叫ぶ。

「教えてもらえるかしら、滅びとやらを!」
「それこそがネミッサの本当の役目なんだから!」
「倒せなくても、なんとか封じられれば!」

 因縁と宿命、それぞれの理由を持って、両者は再度激突した。



「イシュキック!」『マグダイン!』
「そちらに行くセオリーです!」「OKナギ! アギダイン!」
「突出はしないで! たやすく孤立するわよ!」
「でもあの黒マッチョ!」「ライドウ先輩も師匠も苦戦しているセオリーです!」

 援護遊撃班として後方にいたあかりと凪、そして咲が状況不利と見て増援に向かおうとしていたが、周囲はファントムソサエティのサマナー達が呼び出した幽鬼や屍鬼に取り囲まれかけていた。

(相手の召喚する仲魔が予想以上に多い。しかもメティスもかなりの数が投入された。さらに呪縛術式で受体した実力者が複数、長引けば長引く程こちらは不利になっていく………)

 戦況悪化を肌で感じ取りながら、咲はこちらに向かってくる幽鬼と屍鬼の群れに、レールガンで的確にヘッドショットを叩き込んでいく。

『ライドウ、ゲイリン、魂の呪縛なんてやれるのはファントムの中でもそのエセ神父くらいだ! なるべく早くなんとかしてくれ! こっちはしばらく手が空かない!』
『こちらデモニカ機動班! ライトニング号内部で激しい抵抗にあっている!』
『カチーヤ、ネミッサ、あまり無茶はするな! 最悪逃げろ!』

 各所から苦戦の報告が届くが、部隊を分散していた事が災いし、互いに援護に行く事もままならない状態となっていた。

「ムドラ!」
「避けなさい!」

 そこに突如として繰り出された呪殺魔法に、咲は慌てて二人を下げさせる。

「あら、意外といい反応するのね、お嬢ちゃん達」

 虚空から、光学迷彩を解きながら現れたブラックデモニカ、その口調と手にした傘と棍棒を混ぜたような奇怪な得物に覚えがあった三人は、一気に警戒度を上げた。

「あんたあの時の!」
「確か、ミスマヨーネ」
「あら、誰から聞いたのかしら。もっとも覚えててもらう必要は無いわね。ここで彼らのお仲間になってもらうのだから」

 そう言うマヨーネの両脇に、従う幽鬼と屍鬼が群れ集う。

「そう簡単にはさせません」

 あかりと凪に相手させるには強すぎる、と判断した咲が前へと出ると、顔を緊張させた二人も両脇で軽金属大剣と小太刀を構える。

「一つ聞きます。貴方も魂を呪縛されてるの?」
「ああ、あれ? あんなのは組織から逸脱しようとした愚か者だけよ」
「それさえ分かれば充分」

 つまり倒せば倒せる、という確信を得た咲は攻撃魔法を放つべく、精神を集中させる。

「見くびらないで欲しいわね」

 マヨーネはそう言いながら得物を開く。
 文字通り傘のように展開した得物の表面に無数のルーンが浮かび上がり、先端部分には青白い光を放つ刃が出現した。

「あ、あのウェポンは一体!?」
「きな臭い………ひょっとしてレーザーブレード!」

 見たことも無い武器に凪が驚く中、あかりは漂ってくるイオン臭に、前にSFマンガで見た知識を思い出す。

「レーザーのブレード? それは?」
「よく斬れるエネルギーの刃って事! 触れたら危ないから!」

 首を傾げる凪に思わず怒鳴るように説明してしまったあかりが、しまったという顔をするが、マヨーネがこちらを見た事に背筋を悪寒が走り抜ける。

「妙な事に詳しいようね、小さいお嬢ちゃんは!」
「下がりなさい! ジオンガ!」

 あかりを危険と判断したのか、そちらに向かおうとしたマヨーネの進路を塞ぐようにした咲が、電撃魔法を繰り出す。
 だがマヨーネは無造作にルーンが浮かんだ傘でそれを受け止めたかと思うと、電撃魔法はそこで阻まれ、四散してしまう。

「魔術防壁!?」
「あの船は色々と作れて、便利ですわね」
「それならば!」

 凪が腰のホルスターから旧式リボルバーを抜き打ちで速射するが、放たれた弾丸も傘にあっさりと阻まれてしまう。

「魔術だけでなく物理もシールドのセオリーですか!?」
「それなら、イシュキック!」『マグダイン!』

 あかりが地変魔法で岩石をマヨーネへと降らせ、マヨーネが傘でそれを受け止めてる隙に大剣を横薙ぎに一閃させる。

「なってませんわね」

 胴体を両断するはずの一閃は、下へと伸縮した傘の柄、それも片手持ちのマヨーネにいともたやすく受け止められる。

「10年早いわよ、ジオンガ!」
「きゃあぁ!」

 至近距離で放たれた電撃魔法が直撃し、あかりの体が弾き飛ばされる。

「あかり!」
「だ、大丈夫!」

 凪が思わず駆け寄るが、ペルソナの加護で軽いダメージで済んだあかりはなんとか起き上がる。

「あちらの二人はてんで話になりませんわね」
「そうでもないと思いますけど」

 咲は火龍剣を抜くと、マヨーネへと斬りかかる。

「効かないと分からないのかしら」

 わずかに失望した声を出しながら、マヨーネは傘で斬撃を次々と受け止めていく。
 斬撃が当たるたびに、傘の表面に構築されたレーザーシールドが火花を散らし、咲の衣服や肌を焦がす。

「危ないよ! そんな攻撃じゃ…」
「いえ、そうでもないセオリーです」

 あかりが止めようとするが、ふとある事に気付いた凪があえて手出ししないで傍観に徹する。

「そろそろ、決着を付けさせてもらいましょう!」

 袈裟切りの一撃を傘を大きく振るって弾いたマヨーネが、体勢の崩れた咲の胴体に向って、レーザーブレードを突き刺す。

「咲!」「咲さん!」

 凪とあかりが思わず声を上げ、マヨーネが勝利を確信した時、マヨーネの喉を火龍剣が貫いた。

「な!?」

 確実に心臓を貫いたと思ったマヨーネが、思わぬ反撃に驚愕する。
 そのまま咲は刃を横に振るってマヨーネの首を半ばまで切断した。

「なぜ………?」
「レーザー武器は確かに有効な武器よ。けれど、エネルギー消費が激しいから、連続使用の際は定期的に停止させる必要がある。特に、防御に徹している時は」

 咲がそう言いながら光が消えたレーザーブレード、エネルギー不足で防具の胸元を焦がすだけに終わったそれを見つめる。

「そんな………欠点が………」
「最新の武器を持って浮かれていたのが貴方の敗因」

 断言する咲に、マヨーネは茫然とした顔のまま、目から光が消えた。

「よく分かりませんでしたが、なぜ弱点が分かったセオリーですか?」
「貴方達が攻撃する度にシールドが発光してたから、いつか限界が来るって分かったの。強力な攻撃程、反応が強くなってたからね」
「それで攻撃のエネルギーが無くなったって事?」

 シールドの発光には気付いていたが、今一理解出来ない凪と、かろうじて理解出来たあかりを見つつ、咲はマヨーネが使っていた傘を手に取り、幾つかチェックしてから二人へと手渡す。

「しばらくチャージすれば使えるはずよ。念のために持ってて」
「………ださいから要らない」
「かなり便利なウェポンですが? 一応持っておくセオリーです」

 にべもない理由で受け取りを拒否したあかりに変わり、凪はそれを受け取るとどうにか畳んで腰から吊るした。

「まだ敵は多いわ。油断はしないで」
「了解です」
「OK!」

 力強く返答する二人を伴い、咲は苦戦している場所へと救援に向かうべく、駆け出した。



「オルギア発動」「発動」「発動」
「ヤアーーハァ!」

 オルギアモードで襲い掛かってくる量産型メティスに、ダンテはためらいなく魔人化を発動、圧倒的な力で文字通り粉砕していく。

「なるほど。データは見たけど、これはすごい物だね」
「みんなダンテの旦那から離れろ! 巻き込まれるぞ!」
「なんであの人無駄に派手なんだ!」

 オルギアモードの量産型メティスをまとめて破壊するダンテを前に、幾月はなぜか落ちついてその光景を観察し、逆にキョウジの指示に従って啓人達が慌ててダンテから離れていく。

「オリジナルを狙います! こちらもオルギア発動許可を!」
「許可するが、無理はするな! 幾月は何か狙っている!」
「ぶっ倒れる前に止めろよ!」

 増援に駆けつけたアイギスの求めに応じ、美鶴とキョウジが発動許可を出すと、アイギスはメアリとアリサに目配せし、互いに頷く。

「Mリンクシステム、コンバート」
「マグネダイトリアクター、フル出力!」
「パピヨンハート、リミッター解除!」
『オルギア発動!』

 三人同時にオルギアを発動させ、高速の動きでオリジナルメティスを目指すが、量産型がその道を阻む。

「どいてください!」「アイギスの援護をします」「解ってるって姉さん!」
「ほほう、そちらの二体もオルギアを使えるとは。けど、戦闘用には見えないけどね」

 必死の勢いで迫るメイド服姿の三人と、量産型を次々蹴散らしてくるダンテを見ていた幾月の口がふと釣り上がるような笑みを浮かべた。

「! 下がれ!」

 何かをしでかすつもりだと悟ったキョウジが叫んだ時、幾月は片手を前へと差し出し、コマンドを呟いた。

「モードC、発動」

 コマンドと同時に手が握られ、幾月の顔が狂気の笑みに歪む。
 直後、量産型メティスの顔を覆っていたマスクが跳ね上がり、目に何かのプログラムが浮かび上がる。

「モードC発動」「発動」「発動」

 何かの発動を呟きながら、何故か量産型メティス達は手にしたトマホークを投げ捨て、ダンテへと襲いかかる。

(何か来やがるな)

 警戒しつつ、魔人化したまま、ダンテが手にした三氷根ケルベロスで迎え撃とうとした時だった。

「効果範囲確認」

 一番手前にいた量産型がそう呟きながら、ダンテの一撃を食らった直後、突然凄まじい爆炎を上げながら、爆発する。

「ちっ!」

 さすがに避けきれない距離でのまさかの自爆に、ダンテが吹き飛ばされる。

「おい、今いきなり爆発したぜ!?」
「まさか………!」
「総員退避だ! あれは、自爆モードだ!」

 突然の事に課外活動部メンバー達が騒然とする中、美鶴は顔色を変えながら叫ぶ。

「ウソでしょ!? なんでそんなのついてんのよ!」
「本来はついてないはずの機能だ! 幾月の奴、そんな物まで取り付けたのか!」
「まずい、追いつかれる! カエサル!」『ジオダイン!』

 無表情のまま、両手を広げて迫ってくる量産型メティス達に、誰もが恐怖しながら逃げ惑うが、明彦が迎え撃とうとペルソナで電撃魔法を放つ。
 だが電撃魔法が直撃したかと思うと、それすらトリガーなのか、予想よりも遥かに大きな爆発が生じ、爆炎と爆風が吹き乱れる。

「くっ!」
「真田先輩! こっちへ!」

 爆風に思わず両手で顔をガードした明彦を、啓人が何とか助け出す。

「攻撃しても爆発すんのか!?」
「距離を取って遠距離から攻撃を!」
「いや、速すぎます!」
「逃げるっきゃない!」

 逃げる以外の選択肢が思いつかない中、課外活動部の誰もが全力疾走で距離を取ろうとする。

(ヤバイヤバイヤバイヤバイ! どうすれば、あ)

 我先に走っていたゆかりだったが、ふとそこで父から渡されていた物を思い出す。

(ピンチになったら、押してみてくれ)
(今がそのピンチ!)

 ワラにもすがる思いで、ゆかりはポケットから取り出した装置のスイッチを押し込んだ。



「マーカー受信! 座標位置を特定する」
「調整は終わってる………後は、起動さえしてくれれば」

 出来れば来てほしくなかった、娘のピンチを知らせる信号に、詠一郎は実体を持たないはずの手が震えている事に気付く。

「プログラムは問題無いはずだけど、それ以外の要素はボクにもどうしようも無いからね。運を天に任せるという奴かな」
「死人が天に祈って、果たして効果が有るかどうか」

 雅弘がマーカーの位置を入力し終え、自分達が用意していた切り札の入っているポッドを見つめる。

「頼む、娘達を助けてくれ」

 祈りながら、詠一郎は起動スイッチを入れる。
 僅かな間を持って、封印されていたはずのそれは、目を見開いた。
 程なくして、冥界の空を貫くように、ブルージェット号から一つの影が飛び出していった。



「タナトス!」『メギドラ!』

 走りながら、啓人がペルソナの万能魔法で距離を取ろうとするが、突っ込んできた量産型メティスの爆風を消しきれず、弾き飛ばされる。

「啓人! 手出せ! 追いつかれっぞ!」
「すまない順平!」

 慌てて順平が助け起こし、更に迫ってくる量産型メティスから逃げ出す。

「皆は!?」
「バラバラでよく分からねえ! 風花がいてくれたら!」
「あっちで何か派手にやってるけど!」

 爆発が連続してる場所、恐らくはダンテがいる場所を指さしつつ、二人はまだ追ってくる量産型メティスから距離を取る。

「どうするよ! このままじゃヤベエ!」
「他の人達も手一杯で応援に来れないらしい! オレ達でどうにかするしか」
「どうするってどう…って来たぁ!」

 怒鳴り合ってる間に距離が迫った事に、順啓人と順平は無理やり速度を上げる。

「攻撃可能距離ギリギリで爆破させるしかない!」
「けど数が多過ぎる!」
「どうにか足止めを…」

 逃げるだけでは埒が明かない事は分かっていたが、量産型メティスの自爆影響範囲はかなり広い上にまだ数は多く、反撃に移れないでいた。
 そこへ、彼らの頭上を何かが飛び越えていく。

「何だぁ!?」
「人影?」

 わずかに見えたそれが、人間型のシルエットをしている事に、啓人は首を傾げた。



「アテナ!」『マハ・ラクカジャ!』
「近寄らせないでください」
「分かっとる! ガン・フォーン!」
「来るなぁ〜!」

 アイギスが防護魔法を張り巡らした隙に、メアリの指示で仲魔のレプラホーンとアリサが銃撃で近寄ってくる量産型メティスを迎撃する。

「来ます!」
「アリサ伏せてください」
「分かってるって!」

 銃撃を食らった量産型メティスが自爆するのを、アイギスがペルソナで防護し、メアリとアリサ、そしてレプラホーンがその影に入る。
 かろうじて爆風を防いだ後、彼女達の目の前に焼け焦げたメティスの片腕が落ちてくる。

「ひどい事するの」
「くっ………」

 レプラホーンの呟きに、アイギスは苦悶の表情を浮かべ、メアリとアリサは思わず互いの手を握り締める。

「もう、止めてください! どうしてここまで私達を使い捨てにするのですか!?」

 アイギスが晴れていく粉塵の向こうにいる幾月に向って叫ぶ。

「どうして? それはそのために造ったからだよ。他に何の意味があると思うんだい?」

 予想はしていた、だが聞きたくは無かった幾月の返答に、アイギスは更に表情を曇らせる。

「アイギス、私達がいます」「どうにかして、あいつを…」

 相次ぐ自爆攻撃の前に、仲魔がレプラホーンだけとなりつつも、メアリとアリサがアイギスを励ます。
 だがそれを、幾月の声が遮った。

「気付いてないのかい。どうして君達はそこに留まっていれるのかを」
『!?』

 その時になって、爆発でよく分からなかったが課外活動部のメンバー達は量産型メティスに追われて距離を取っており、キョウジやダンテと言った実力者は集中攻撃を食らってその場に釘付けにされていた。

「まさか………」
「私の野望を打ち砕いてくれたのはアイギス、君だったからね。破壊されるのを直接見ないと、気が済まないんだよ」
「なんという人なのですか」
「そう簡単に私達がやられるとでも!」

 メアリとアリサが憤慨する中、粉塵が晴れていくそこには、残った量産型メティス達を引き連れ、今まで動こうとしなかったオリジナルメティスを先頭に陣形が組まれていた。

『!!』
「さて、では復讐の開始としようか」
「行きます、姉さん」

 幾月とオリジナルメティスの冷酷な声が響き、メティス達が一斉に動こうとした時だった。
 突如として、巨大なトマホークが両者の間に叩き落とされる。
 轟音と共に落下してきたトマホークは地面へと深々突き刺さり、思わず双方の動きが止まる。

「あれは見覚えが?」
「一体あれは………」

 双方に戸惑う中、一つの人影がトマホークのそば、都合アイギス達の前になるように降り立つ。

「あれは………」「誰!?」

 その姿を見たメアリとアリサは同時に驚いた。
 それは水色の髪をポニーテールに結い上げ、なぜかセーラー服をまとった少女だった。
 だがその四肢は明らかに金属で、何より彼女の身の丈を超える巨大なトマホークを、片手で地面から抜くと、肩へと担ぐ。
 新たに現れた機械仕掛けの少女に、驚愕の間が過ぎた後、幾月は自嘲的な笑みを、アイギスは更なる驚きの表情を浮かべる。

「まさか、封印されてたはずのお前が出てくるとはね…」
「認識コード確認、対シャドウ特別制圧兵装 五式…」
『ラビリス!』

 二人の口から、同時にその少女の名が叫ばれた………


 混迷を極める冥府の死闘に、新たなる糸が舞い降りる。
 それが紬ぐ物語は、果たして………





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