PART61 DARK AND SYADOW(後編)


真・女神転生クロス

PART61 DARK AND SYADOW(後編)





『己の闇すら上回る我を持つか………それもまた人の可能性か………』
「何なんやこいつ! 攻撃効いてるんか!?」
「ダメージは与えてるであります。ただ…」
「タフ過ぎる!」

 こちらを睥睨してるかのようなアメノサギリに、ロボ三姉妹が先頭に立って攻撃を加えているが、効果はあまり見られないでいた。

「まずい、こいつ半端じゃなく強い………」
「こんなのが足立さんに憑いてたなんて………!」

 啓人と悠も下手なペルソナ攻撃も効かないアメノサギリに愕然としていた。

「ゆかりっち! 風花ともっと下がれ! チドリも!」
「分かった! 風花こっち!」
「アメノサギリ、エネルギー値増大してます! 注意して!」
「私は大丈夫。順平のサポートに徹する」

 順平もただならぬ相手と感じ、女子陣に下がるように促す。

「みんなオレの後ろに! オレとオレのペルソナなら多少は問題ねえ!」
「悪いけど、そうさせてもらうね!」
「なんなのあの目玉!」
「とんでもない存在なのだけ確かです!」

 完二が己のペルソナと併用して壁となる中、雪子、千枝、直斗が言葉に甘えつつ、ペルソナでなんとか援護攻撃を試みていた。

「あいつは、やべえ………」
「無理をするな! その体では!」
「あいにく、一般人よりは頑丈なんで………」

 回復魔法でかろうじて傷を塞いだ修二が立ち上がるのを美鶴は止めようとするが、無視して修二は悪魔のタフさ頼みで立ち上がり、アメノサギリへと向けて構える。

「すごいタフさだな。まだ10カウントまでは響いてないか」
「カウント数えてくれる程、余裕のある世界じゃねえぞここ………」
「ああ、そのようだ」

 明彦が修二をサポートするように隣に立ち、拳を構えながらもアメノサギリを睨みつける。

「山岸、下はどうなってる?」
「は、はい! 久慈川さん! こちらマヨナカテレビの元凶と戦闘中! そちらはどうなって…」

 八雲からの質問に風花が慌てて確認するが、帰ってきたのは半ば絶叫だった。

『何がどうなってるの!? 上からすごい大量のシャドウが押し寄せてきてる! こっから下もヨスガとシャドウと混ざってすごい混戦状態! ここに攻められないようにするのが限界だって!』
「だそうです!」
「予想通りか。早く倒さないと、ここがこいつに侵食される。最悪はカグツチごとな」
「そ、それってどうなるんです!?」
「それはお前らの方が知ってるだろ」

 悠が思わず聞くのに八雲は平然と答えながら、ソーコムピストルを速射、全弾をアメノサギリに叩き込む。

「やっぱこの程度じゃ効かねえか………オレ相手に手持ちを使い過ぎた」
「八雲さん! その怪我じゃ直接戦闘は無理です! 私達が前に出ますから!」

 気を取り直したカチーヤが青ざめた顔で八雲の失われた手を見ながら、自ら前へと出る。

「マグネタイトもだいぶ食っちまった。あとどれくらい持つか………」

仲魔のリターンを考える八雲だったが、そこでアメノサギリの目が燐光を蓄え始めた事に気付く。

「アメノサギリ、エネルギーをチャージしてます!」
「全員最大防御! やばい!」

 風花の報告に八雲の絶叫に近い警告が重なる。

「カチーヤちゃん!」
「はい!」
「私も!」

 ネミッサがとっさにカチーヤに憑依し、何をするか悟った美鶴も加わって最大出力で氷結魔法で氷壁を構築していく。

「順平! ペルソナを最大出力だ!」
「了解っす真田先輩!」
「伏せて風花! 天田君とコロちゃんも!」
「コロマル、こっち!」
「ワンワン!」
「チドリさんも!」
「無茶しないで順平」

 明彦と順平が女性陣の前に立ち、召喚機を連射し、女性陣+小柄な一人と一匹は更に自分達のペルソナで防御しつつ備える。

「全員伏せとき! あんたらじゃ耐えきれへん!」
「出力最大、対ショック体勢!」
「あんたらは姉さんのついで!」

 ロボ三姉妹がフォーメーションを組んで特別調査隊の前に立つ。

「ちょ、幾らなんでもロボとは言え女の子に…」
「後です! こちらも防御を!」
「オレならなんとか!」
「クマだって!」
「無茶したらダメだよ!?」
「来る!」

 洋介が前に出ようするのを直斗が慌てて抑え、完二とクマが代わりに前へと出て女性陣は慌てて他に習って伏せる。

『ネブラオルクス』

 皆の準備がギリギリ整った瞬間、アメノサギリの巨大な瞳から強烈な閃光が放たれ、辺りを蹂躙していく。

「くっ」
「うわあっ!」
「きゃあっ!」

 思わず漏れる苦悶や悲鳴もかき消した後、閃光は途切れる。
 周辺をきな臭い匂いが漂う中、なんとかこらえた者達は動き出す。

「大丈夫ですか召喚士殿!」
「助かったジャンヌ、全員生きてるか!?」

 ジャンヌ・ダルクのガードでなんとか耐えきった八雲が声を張り上げる。

「は、はい! 皆さん無傷じゃありませんが無事です!」
「待ってて、今回復する!」

 風花が慌てて全員の状態を確認する中、ゆかりが回復魔法を発動させる。

「人修羅、悪いけど限界………」
「ご武運を………」
「ああ、下がってろ」

 クイーンメイヴとクー・フーリンのガードでなんとか乗り切った修二が、呼吸を荒くしながらも構える。

「なんとか持った………はい………」
「これ程とは………」

 ネミッサinカチーヤと美鶴が息を荒げ、とっさに構築した氷壁の残骸がもろくも砕け崩れていく。

「美鶴達が防いでこれか………」
「あの目玉すげえやべえ………」
「二人共一度下がってください! ボク達が出ます!」
「ワンワン!」

 余波でもダメージを多少食らった明彦と順平の前にほぼノーダメージだった乾とコロマルが飛び出す。

「無事か!?」
「はいラビリス姉さん」
「なんて威力………」
「た、確かにオレらじゃ持たなかったかも………」
「すごい事になってるクマ………」
「情けねえけどちがいねえ………」

 ロボ三姉妹に守られた形となった特別調査隊が周辺の惨状を見て顔色を変える。

「あの威力、そう連発はできないはずです! 次を撃たれる前に反撃を!」
「分かった! 千枝!」
「行くよ雪子!」

 直斗の指摘に、ガードの奥にいてほぼ無傷だった女性陣を中心に、皆が一斉に反撃に転ずる。

「カーラ・ネミ!」『ジオダイン!』
「アオーン!」『アギダイン!』

 真っ先に飛び出した乾とコロマルの魔法攻撃がアメノサギリに叩き込まれる。

「コノハナサクヤ!」『アギラオ』
「トモエ!」『ブフーラ!』

 続けて雪子と千枝の魔法攻撃が叩き込まれるが、連続の魔法攻撃にアメノサギリは大したダメージを負っていなかった。

「効いてない!?」
「違います、HPが多すぎるんです!」
「だったら、削っていくしかありません! スクナヒコナ!」『メギドラ!』

 思わず千枝が声を上げたのを、アナライズしていた風花が訂正、直斗も自らのペルソナで攻撃するが、それも大きなダメージにはならない。

「さすがマヨナカテレビの主、強い………」
「だが、放置は出来ない! タナトス!」『ジーザス・ペイン(神の刻印)!』

 悠が愕然とするが、啓人は前へと出て自らのペルソナの最大攻撃をアメノサギリへと叩き込む。
 無数の剣がアメノサギリへと突き刺さるが、アメノサギリは身じろぎもしなかった。

「アレでもダメか!?」
「構わない、次々行くぞ! カエサル!」『カイザーフィスト!』
「カーラ・ネミ!」『イマキュレト・グングニル!』
「アオーン!」『ヘルズ・ゲート!』

 順平が思わず弱音を漏らす中、明彦を先頭に課外活動部のペルソナ使い達が次々と己が放てる最大級の攻撃を炸裂させていく。

「よし、オレ達も…」
「待ってください! アメノサギリに変化あり! 何かしてきます!」

 順平も続けと召喚機を構えるが、そこで風花の警告が響く。
 警告通り、アメノサギリの全体が突然振動を始めたかと思うと、伸びる筒から突然濃霧が吹き出す。

「下がれ! まさか毒霧か!?」

 八雲が叫びながら飛び退りつつもソーコムピストルを連射するが、そこである異常に気付く。

「ネミッサ、カチーヤ! 魔法攻撃を!」
『アブソリュート・ゼロ!』

 八雲の指示にネミッサinカチーヤが強烈な氷結魔法を放つが、それがアメノサギリから吹き出した霧に全て阻まれる。

「! さっき勇が使ってたのと同じ!」
「霧の絶対防御壁か! しかも規模がデカい!」

 銃弾も魔法攻撃も阻む霧に、修二は勇との戦いを思い出すが、八雲はその量と範囲が段違いな事を悟る。

「てりゃああ!」
「おらあ!」

 そこへラビリスが巨大トマホークを、順平が両手剣をアメノサギリへと叩き込むが、大質量のトマホークも鋭い両手剣も霧に沈み込んだかと思うと食い止められる。

「なんやこれ!?」
「気持ち悪っ!」

 予想外の手応えに、二人共慌てて得物を引き抜いて離れる。

「なら隙間から! スクナヒコナ!」

 直斗が小柄なペルソナで霧の隙間をかいくぐらせようとするが、即座に霧は範囲を狭めてブロックする。

「くっ!」
「どうすんだよこれ! 手も足も出せねえぞ!」

 直斗が慌ててペルソナを戻す中、洋介がどうすればいいか分からず悪態をつく。

「八雲! 八雲さん!」
「分かってる。この状況で守りに入ったという事は何か次の手を打ってくる準備って事だ。やるとしたらその瞬間だ」

 ネミッサinカチーヤに促され、八雲は鎮痛剤で消しきれない腕の痛みに耐えながら状況を解析していく。

「向こうが体制を整えてる間にこちらも整えろ! 霧が晴れると同時に一斉攻撃だ!」
「回復魔法と回復アイテム! それと補助魔法!」
「オレ達じゃ力不足だ! サポートに徹しよう!」

 八雲の指示に、啓人と悠も慌てて指示を出す。

「アメノサギリ、自分に補助魔法を使ってます!」
「このままだとまずい。私のペルソナならあの霧を解除出来るかもしれない」
「まさかアレかチドリ!? また前みたいな事になったら…」
「だったらサポートすればいいのよ!」

 風花のアナライズにチドリが前へと出ようとするのを順平が止めようとするが、ゆかりがチドリの隣で召喚機片手にサポートに入る。

「構わん、やれ!」

 八雲が片手でGUMPのトリガーを強く引いて仲魔を一斉帰還させながら叫び、それを確認したチドリがペルソナを発動させる。

「メーディア」『インサイン・エスケープ…』

 強力なジャミング能力がアメノサギリの周囲を覆う絶対防御の霧へと繰り出される。
 霧が各所でモザイクのように乱れるが、拮抗しているのかなかなか晴れない。

「もっと………」
「無理するなチドリ! オレの力も使え!」

 更に力を強めようとするチドリに、順平が肩に手を置きながら召喚機のトリガーを引き、自らのペルソナの力もチドリに注ぎ込む。

「すげえ………」
「あれいいな………」

 何か男性陣と女性陣で違う意見を持っている特別調査隊だったが、絶対防御の霧が薄れ始めたのに気付くと身構える。

「どけ! 巻き込むぞ!」

 そこで突然修二の声が響き、何人かが振り向いてそこで残った力の全てを拳に収束させている修二の姿が気付く。

「もうじき晴れる………今」
「うおおおおぉぉ!」

 チドリがこじ開けた霧の僅かな隙間に、修二が残った力の全てを魔弾として撃ち込み、そのまま倒れ伏す。

「英草!」
「大丈夫か!?」
「構うな………今だ!」

 明彦と美鶴が思わず近寄ろうとするが、修二はそれを拒む。
 人修羅の全力が込められた魔弾の直撃を食らったアメノサギリの巨体が大きく鳴動する。

『人ならず悪魔ならずの者が、ここまで可能性を示すか………』

 流石に効いたのか、アメノサギリの絶対防御の霧が晴れていく。

「総攻撃だ!」

 啓人の指示と同時に、課外活動部のメンバー達が一斉にペルソナ攻撃を叩き込む。

『アグヤネストラ』
「防御を!」

 アメノサギリも負けじと無数の隕石を降らせてくるが、悠の指示と同時に特別調査隊のメンバー達が降り注ぐ隕石をペルソナで弾き、防いでいく。

「こっちも行くよ! はい!」『アブソリュート・ゼロ クリスタリゼーション!』

 カチーヤ(inネミッサ)が最大級の氷結魔法を解き放ち、アメノサギリの一部を凍結させていく。

「アイギス、ラビリス、メティス! 畳みかけろ!」
「はい啓人さん!」
「オルギア」
「発動!」

 啓人の指示でロボ三姉妹が同時にオルギアを発動、高速でアメノサギリに連続攻撃を叩き込んでいく。

「とにかく目や! 目潰しとき!」
「ラビリス姉さん、目標は全体的に目です!」
「じゃあ全体潰せばいい!」

 ラビリスが巨大トマホークのジェット噴射を利用し、回転しながらの連続斬撃を叩き込みがら叫び、アイギスが高速移動しながら両手のマシンガンを撃ち込み続け、メティスがトマホークを突き刺してアメノサギリの体を横切るようにえぐっていく。

「まとめていくで! アリアドネ!」「アテナ!」「プシュケイ!」
『スチール・ノルン!』

 ロボ三姉妹のペルソナが同時発動、同調した三体のペルソナが一つとなり、巨大なハルバードをアメノサギリへと振り下ろした。

『人ならざる者が、ここまでの可能性を示すか………』

 アメノサギリに大ダメージを与えた所で、ロボ三姉妹が同時にオルギアを停止、そろってその場に擱座する。

「アイギス!」
「大丈夫です。オルギアによるオーバーヒート、強制冷却に入ります」
「すまへん、しばらく動けんのや」
「後は頼みます」
「誰か冷却出来るのがいたら頼む!」
「はい、トモエ!」『ブフーラ!』

 啓人が思わず状態を確認するが、三人とも一応大丈夫だと返答してくる。
 美鶴が特別調査隊にサポートを依頼しつつ、自ら率先してレイピア片手にアメノサギリに向かい、千枝が慌てて冷却を開始する。

『愚者のささや…』

 アメノサギリが畳み掛けられる攻撃に、魔封攻撃で反撃しようとするが、そこに弾丸が次々叩き込まれ、逆に魔封状態にされる。

「やっぱそう来るな。葛葉特性魔封弾、取っておきだったんだが………」

 八雲が切り札の一つをためらいなく使い切り、空になったマガジンをイジェクトする。

「一気に方つけろ。調子崩してる今がチャンスだ」
「はい! 悠、君とオレのペルソナは恐らく同質だ! 合わせて!」
「やってみます!」
「タナトス!」「イザナギ!」
『DL・ブリンガー!』

 死と生の対極するペルソナの力が、黒と白の二色で構成された巨大な剣となってアメノサギリを貫く。
 アメノサギリの全身が大きく鳴動したかと思うと、突然沈黙する。

『なるほど………強い力だ。人と人と交わりし者の可能性をお前達は示したのだ………いいだろう、お前達の世界の霧を晴らそう』
「本当か!?」

 アメノサギリの突然の宣言に、悠は驚く。
 だが、何人か怪訝な顔をしていた。

「待ちな。その世界ってのはどこの事だ?」
「言われてみれば………」
「だよな?」

 八雲の質問に、啓人と修二は顔を見合わる。

「そもそもあんたはなんでここに来た? この世界は創世を巡ってとんでもないカオスになってる。あんたの依り代がまともなコトワリを持ってるようには見えねえ。そんな半端な人間が守護を呼んで創世出来るとは思えないがな」
『悪魔を従えし者よ………己のシャドウすら退ける力に応じ、答えよう………私は守護にあらず………この世界はあらゆる因果が集い、神も魔も創世の主足りえんとしている………心せよ………』
「お前が関係ないって分かっただけで収穫だ。だからとっとと失せろ」
『人が望む限り、私はいつでも現れよう…私はいつでもすぐ傍にいる…』
「分かりきった事言うな。こちとらそんなの日常茶飯事だ」
『その力をこの世界の主に示せ…新たな可能性の子らよ…』

 そう告げると、アメノサギリの体が無数の光の粒子となって、その場から消えていく。
 そして、その場に足立が倒れ伏していた。

「足立さん…アイツに操られてたのかな?」
「さあ…望んでた面もあったと思いますが…」
「…なんだよ…これで終わりか…」

 千枝と直斗が呟く中、倒れ伏したままの足立が顔だけを起こすと呆然と口を開く。
 その足立に近寄る者がいた。

「ああ、終わりだ」

 八雲はそれだけ告げると、足立に銃口を向ける。

「ちょ…」
「ま、待った!」

 無抵抗に見える足立に銃を突きつける八雲に、ペルソナ使い達が慌てる。

「何だ、何か言っておく事でもあるのか?」
「そいつには今までの事件の真相を言ってもらわないと!」
「そして生きて裁きを…」
「お前達の世界にはペルソナ使いを罰する法律があるのか?」

 呆れたように八雲が告げると、ペルソナ使い達は言葉に詰まる。

「悪魔もペルソナも、常人には感知出来ない。常人の常識の外にある者は常人には裁けない。だから、オレのようなデビルサマナーがいる」
「そうか………じゃああんたの仕事をしたらどうだい?」
「そうだな」
「待った…」

 悠の制止も聞かず、八雲はトリガーを引く。だが空の薬室を叩く乾いた音が響いただけだった。

「………え?」
「弾切れ?」

 予想外の事態に、ペルソナ使い達は僅かに胸をなでおろす。

「なんのつもりだ………あの子らに感化されたか………」
「いや、一つ教えておかなきゃならない事があるからな」
「何?」

 倒れたままの足立も訝しむ中、八雲はソーコムピストルのマガジンをイジェクトする。

「そもそもお前がマヨナカテレビで好き勝手出来たのは、アメノサギリの加護があったからだ。だがアメノサギリは去り、その加護は失われた」
「………それが?」
「お前はそっちでもこっちでも、その力を振るい過ぎた。最早お前は完全にこの世界の異物となった。それが意味するのは…」

 八雲は告げながらGUMPを抜いて、エネミーソナーを確認する。
 迫ってきている存在をチェックするために。

「こ、これは!? 皆さん注意してください!」

 さらに風花もそれに気付き、やがて皆の耳にも響いてくる。
 そこかしこから響く、鎖の音に。

「おい、これって!」
「やばい!」

 それが意味する事を知っていたペルソナ使い達が慌てて構える。
 程なく、周囲から多数の刈り取る者が姿を表し、皆を包囲する。

「なんて数!」
「まずい、今の状態じゃ…」
「大丈夫、目的は私達じゃない」

 啓人も悠も多数の刈り取る者に愕然とするが、チドリが首を左右に降る。

「ど、どういう意味だチドリ?」
「あれは、異物を刈り取りに来た」
「異物…」

 順平が問う中、刈り取る者は全身の鎖を解き、それを一斉に投じる。
 四方八方から投じられた鎖は、倒れていた足立の手足のみならず全身を絡め取っていた。

「な、何だこれ!?」
「言っただろ。お前は異物だ、そしてこいつらはその掃除人」
「掃除人って………」
「小さな異物はその場で処理されるだろうが、大きい異物はちゃんと持ち帰って処理される」

 ペルソナ使い達がどう反応すれば分からず困惑する中、全身を鎖に絡め取られた足立が刈り取る者に引きずられていく。

「ひ………あ………」
「安心しろ、すぐに死ねるような事は無いだろうからな。お前がマヨナカテレビでしてきた所業全てを、今度はお前が味わう番だ」
「た……すけ………」

 八雲の説明に、足立は涙しながら助けをこおうとするが、足立を引きずっていく刈り取る者の前に出現した闇の中に、一緒に飲み込まれていく。

「この業界の一番大事な事だ。人を呪わば、穴二つ、ってな」
「………!」

 闇に完全に飲み込まれる瞬間、足立が何かを叫んだ気がしたが、届く事なくその体は完全に闇に飲み込まれ、そして闇は霧散していく。
 誰もが呆然としている中、八雲がその場に崩れ落ちる。

「八雲!」「八雲さん!」

 ネミッサがカチーヤの体から抜け出し、二人で慌てて八雲へと駆け寄る。

「少しばかりハードだったな………」
「少しじゃないって!」
「今鎮痛剤の追加を…」
「これ以上キメると頭が回らなくなる。それよりも学生連中、被害状況は?」
「修二さんがちょっとダメージ深いです。他の人達も負傷者は出てますけど、それほど申告ではありません」
「しかし強敵との連戦、特に先程のアメノサギリ戦で回復アイテムの大多数を使用してしまいました」

 風花と直斗の報告に、八雲は舌打ちする。

「一気に上まで行く気だったが、予想以上にダメージがデカいな………」
「八雲さんが一番デカいです!」
「その、痛くないんですか?」
「そんな訳ねえだろ。腕が千切れたみてえに痛え」
『ホントに千切れてます!』

 ボヤく八雲に啓人と悠が恐る恐る聞くが、その後の比喩に思わず全員が突っ込む。

「突っ込む余力があるならまだ大丈夫か」
「八雲、なんか汗すごいよ?」
「脂汗かいてます! やっぱり鎮痛剤!」
「それよりいっそ凍らせてくれ。そうすりゃ痛みも薄くなる」
「分かった! 今全力で…」
「それやったら全身凍っちゃいます!」
「早くしてくれ。それと山岸、下の状態確認、撤退も考慮する」
「は、はい! 久慈川さん! こちらはなんとか敵の撃破に成功しましたが、八雲さんが重傷! 他負傷者も出てます! そちらは!?」
『やったの!? それでか、シャドウがいきなりほとんど消えたって! 今上にいた人達が戻ってきて下に向かってる! そっちはなんとか持ちこたえてるけど………』
「ダンテの旦那と喰奴連中がいて防衛戦が精一杯か………だがこの状態じゃ上に向かうのは無謀だろうな」
「どうする、ダメージの少ないメンバーだけで隊を再編するか?」
「けれど、ここでこれだけ強いの出てきたなら、上はもっとすごいのがいてもおかしくないんじゃ?」

 八雲が悩む中、美鶴の提案に雪子が難色を示す。

「有り得るな。カグツチ狙ってどんなのが来てるか分かったモンじゃねえ。またあんなのが来たら、勝てる気がしねえ………」
「恐らくこの中で一番タフな修二がこの状態だ。確かに無理は出来ないだろう」
「つうかまたあんなの来たらオレら死んじまいそうだ………」

 修二と明彦の意見に、洋介がうなだれるように頷く。

「オレはまだ大丈夫! ガタイには自信あるんで!」
「あの、血止まってませんよ?」
「ワンワン!」

 完二が力んでみせるが、乾とコロスケがまだ回復しきってない傷を指差す。

「冷却完了、起動率75%いう所や」
「私も似たような物ですが、残弾が40%を切っています」
「雑魚ならともかく、大物相手は難しい」
「ダメージはともかく、残弾が少ないのは厳しいか………」

 ロボ三姉妹からの報告に、美鶴が顎に手を当てて唸る。

「やはり一度撤退するしかないか? 体勢の立て直しが必要だろうし、代わりの腕もいる」
「代わりって、あるんですか?」
「ヴィクトルの所か、レッドスプライト号に義手くらいあるだろ」

 千切れた腕の断面を凍結させ、強引に手当した八雲が呟くのを、啓人が心配そうに聞くが当人はむしろ淡々としていた。

「問題は今どこも激戦の最中って事か………珠阯レ市の方も状態は落ち着いてないだろうし………な………」

 最後まで言う前に八雲が今度こそ倒れそうになって残った手を地面につく。

「ちょ、八雲!」
「無理したらダメです!」
「ち、アドレナリンが切れてきたか………血も少し足りないみてえだ」
「撤退! 撤退して病院!」
「誰か119番! 救急車!」
「来る訳ねえだろ………」

 ネミッサとカチーヤが慌てて支える中、八雲のダメージがかなり深刻な事に気付いたペルソナ使い達が慌てだし、中にスマホで本当に119番する者まで出だして八雲は苦笑する。

「ホントに来た!」
「は?」「マジ?」

 順平が向こうからくるパトライトに気付き、皆が思わずそちらに振り向く。
 確かに向こうから見慣れた白地の救急車、ただしなんでかデコトラがごとく派手な原色ライトで飾り立てられた珍妙な救急車がこちらまで来ると、バックドアではなくサイドがキッチンカーの用に開く。

「Hi! 渡る世間はGIVE&TAKE、トリッシュの泉 移動店にようこそ。御用はなあに?」

 救急車の中にいる妖精トリッシュに、皆が目を点にする。

「これも変質か………まあちょうどいい。どこまで出来る?」
「無論MONEY次第♪ あ、でもその腕までは無理かな?」

 トリッシュの事を知っていた八雲がいち早く反応するが、トリッシュからは相変わらずの返答が来る。

「治せるとこまででいい。すぐやれ」
「OK、しめて…ふぎゃ!?」

 返事を聞かずに、八雲が財布をトリッシュの顔面に叩きつける。
 一瞬間抜けな声を上げるトリッシュだったが、文句より先に叩きつけられた財布の中身を確認する。

「さあどうぞ! そっちの悪魔のお兄さんも一緒に!」
「なんちゅう現金な………」
「治療してくれるのか。この際こちらもやってもらおう。カードは使えるか?」
「ねえ今幾ら持ってる?」
「え〜と………」

 ぼったくりだが治療してくれると知ったペルソナ使い達が慌てて財布を取り出して中身を確認していく。

「ウチはMoney前払いオンリーだからね〜」
「現金過ぎる………」
「マッカでよければ貸すぞ?」
「背に腹は変えられないって奴か」

 なんとか全員分の回復代を工面した所で、いち早く治療を終えた八雲が改めて移動トリッシュの泉を見る。

「回復はともかく、装備の消耗はどうしようもない。全員回復したら一度退こう。トリッシュも来い、怪我人が下に多数出てるはずだ」
「へ〜、そんだけいっぱいのMoneyあるの?」
「………確かイザボーは貴族筋だか言ってたな」
「元とつくらしいが。金策は必要に応じてどうにかしよう」

 八雲の提案に、多少イザボー当人から話を聞いていた美鶴が修正案を出す。

「あ、これは…」

 そこで風花が何かに気付き、皆がそちらを見ると、先程まで何も無かった場所に光が生じたかと思うと、転移ポートが出現する。

「これで戻るのも楽になったか。最悪、下の手勢全部連れて登頂する事になるかもしれんが」
「渋滞しそうだな………」
「通勤ラッシュ並にね………」

 八雲の言う最悪の展開に、啓人と悠は思わず顔を見合わせてうなずく。

「念の為、オレはここに残る」
「オレも! まだ行けるっす!」
「アナライズ役も必要ね。順平は大丈夫?」
「チドリだけ残せるわけねえだろ。じゃあ早めに」


 明彦を先頭に、完二とチドリと順平が残留を申し出、皆が一度体制を立て直すために転移ポートへと向かう。

「最大の問題はこれか………」

 治療で痛みはほとんど引いているが、半ばから消失した己の片腕を見ながら、八雲は今後の戦いをどうすべきか思考していた………


 己の闇と霧の奥に潜んでいた真実を解き明かした糸達。
 だがその代償は小さく無かった。
 この先に向かうためにすべき事は、果たして………





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