スーパーロボッコ大戦
EP20


「バクテリアン、殲滅率80%突破しました! しかし、ワームには今だ有効なダメージが与えられていません!」
「主砲、徹甲榴弾装填。射線上を開けるよう通達」
「了解…ワーム、潜行を開始しました!」
「なんだと!?」
『ワームから高エネルギー反応! スプレッドビーム来ます!』
『総員、防御体勢を!』

 攻龍のブリッジでオペレーターの七恵が戦況を継げる中、カルナとエルナーの警告が通信越しに響き渡る。

「面舵いっぱい、急速回頭」
「はい!」

 慌てて攻龍が舵を切る中、水中から発射された高出力ビームが上空に舞い上がり、そこから無数に拡散して降り注ぐ。

「総員ショック体勢!」
「避けきれねえ!」

 副長と冬后がそのあまりの数の多さに、攻龍への被弾を覚悟するが、周辺の海面に無数の着弾で波が立つ以外は、なぜかビームは攻龍に落ちてこない。

「何だ? 避けられたのか?」
「いや。助けられたようだ」
「上です!」

 冬后も首を傾げる中、状況を理解した艦長が頷き、タクミがブリッジの窓越しに上を見た。

「ま、間に合った………」
「サンキュー、宮藤!」「芳佳すごーい!」「ありがとう芳佳ちゃん!」

 攻龍の上空、攻龍と脱出艦を全て覆い尽くす程のシールドを展開させていた芳佳に、攻龍護衛に当たっていたウイッチ達が手を振る。

「なんと巨大なシールドだ………こんなウイッチもいるのか」
「ウイッチのシールドは魔力と呼ばれる生体エネルギーの総量に比例して大きくなる、だとしたら彼女の魔力は桁違いと考えるべきね」
「なるほど、興味深いですね」

 副長が唖然とする中、ブリッジに紀里子と緋月が姿を現す。

「即興ですが、送られてきた戦闘データの解析が終わりました」
「正直、データその物を疑いたい内容でしたが、この現状を見る限り、信じるしかないでしょう」
「ご苦労」

 二人から渡された解析データを、艦長が素早く目を通していく。

「艦首をワームへ向けて回頭、艦首魚雷発射準備」
「了解!」

 艦長が解析データを元に素早く戦術を構築、ワームを水中からおびき出すために魚雷攻撃を試みる。

「魚雷照準しました!」
「一番二番、発射」
「発射します!」

 攻龍の艦首発射管から魚雷が二発発射、航跡を描いて命中するが、ワームは水中から出てくる気配が無い。

「一番二番命中、しかしダメージありません!」
「なんて奴だ! N弾頭魚雷を用意!」
「待て、あれは周辺への被害が大き過ぎる」
「しかし艦長!」

 副長が対大型ワーム用の殲滅魚雷を用意させようとするが、艦長が制止、そこでブリッジの外からエリカがノックをしていた。
 何かこちらに向けて話しかけるが、分厚い対爆ウインドゥ越しでは聞こえるはずもなく、七恵が慌てて手振りで聞こえない事を教える。

「そちらの人が何か言ってますが、通信プロトコルをあわせられますか?」
『今やってます! よしこれで』

 タクミからの要請にエルナーが急いで通信を繋げ、エリカの顔が攻龍の通信ウィンドゥに現れる。

『よろしいかしら? この船、爆雷とか積んでませんの?』
「対潜用のテトラPODがあるが、有効距離まで近付く前に、先程の拡散ビームを食らう可能性がある! 使いたくても使えん!」

 窓の外から話しかけてきたエリカに、副長が怒鳴るように返す。
 そこでエリカが少し考えて、何かを思いつく。

『その爆雷、ショックで破裂とかします?』
「余程の衝撃ならともかく、それ以外はワームにしか反応しないように設計されている。何をするつもりだ?」
『届かないなら、こちらで届かせますわ。バルクホルンさん、こちらで私の家でやったアレ、またやってくれます?』
「アレってなんですか?」

 何を思いついたのか分からない七恵が思わず問い返すが、エリカは構わずエリカ7に指示を出す。

「マミ、ルイ、アコ、マコ、あの下品なエビ、あぶりだしますわよ!」
『はい、エリカ様!』
「なるほど、戦艦なら積んでるだろうからな」

 何をする気か悟ったバルクホルンが、銃をスリングで背負って両手を鳴らす。

『爆雷発射、お願いできます?』
「おい、何を……」
「テトラPOD発射」
「テトラPOD発射します」

 副長が問い質す前に、艦長がテトラPOD発射を指示、攻龍の艦首左右から次々と発射される。

「ふん!」
「はあ!」

 弧を描いて発射されたテトラPODが落下するより前に、バルクホルンが固有魔法の怪力で、エリカが念動力でテトラPODを更に上へと跳ね上げさせる。

「な……」
「おいおい………」
「あの、まさか……」

 予想外の事にブリッジ内の誰もが驚く中、その後の行動は更に皆の度肝を抜いた。

「おらあ!」「とりゃあ!」

 上で待ち構えていたマミのバットとルイのキックが、バルクホルンの跳ね上げたテトラPODを打ち出し、ワームのそばへと着水、勢い余ってワームに激突しながら爆砕する。

「いくわよマコちゃん!」「OKアコちゃん!」『サイクロンカット!』

 更にエリカが跳ね上げたテトラPODをアコとマコのラケットが同時に打ち、旋風を伴ってワームに直撃、爆砕させる。

「これはすごいわね」「非常識とも言いますが」
『次、どんどんよこしなさい!』
「あの、艦長……」
「テトラPOD、順次発射」

 紀里子と緋月も感心、絶句する中、エリカの要請にしたがってテトラPODが次々発射、それを受け止め、ワームへと打ち出していく。

「面白そうな事やってんじゃない、アタシにもやらせなさい! そうれホールインワン!」
「RV各機、ワームにミサイル攻撃開始!」

 テトラPOD打ちに舞も面白がって加わり、そこへRVが水中のワームに向けて降下ミサイルを雨あられと降り注がせる。

「ワーム、回避行動に移ってます!」
「効いてるな! 通常魚雷も追尾発射!」
「効いてはいますが、自切分離までには至ってません。結合率だけでなく、衝撃を受け流す特性もあるようですね。もっと強烈な打撃が必要です」

 七恵の報告に副長が更なる攻撃を指示するが、そこに紀里子がワームへのダメージを計算し、いやな現状を導き出す。

「これ以上強烈となると、N弾頭を使うしか……」
『待って欲しい。衝撃を受け流すという事は、直接打撃ならどうだ?』

 話を聞いていた美緒の問いに、紀里子は少し考える。

「ワームに有効な直接打撃を与える方法がそちらに存在するの?」
『ああ、シャーリー、ルッキーニ、あれはいけるか?』
『坂本少佐、こっちはOK!』『よおし、びゅ〜んて行くよ〜』
「片面では受け流されるかもしれないわ。出来れば両面から同レベルの直接打撃を与えなければ」
『む、両面か………』
『こちらに考えがあります! ユーリィこちらに! エグゼリカ、こちらに来れますか!』
『はいですぅ!』
『分かりました、姉さんこっちはお願い!』
『作戦概要を送ります! タイミングを合わせてください!』
「な、こんな戦法が可能なのか!?」
「ほう、これは興味深い」
「………全データリンクを密にせよ。作戦概要を各自に転送。主砲発射態勢のまま待機、ワームに照準固定」
「了解!」

 エルナーから送られてきた作戦に、攻龍のブリッジ内で副長が驚き、緋月が感心する中、艦長は即座にそれを実行に移すべく準備に入らせる。

「ソニックダイバー隊にクアドラフォーメーション準備!」
『ペリーヌ、ワームが水面下から出ると同時に固有魔法を使え! 他電撃を扱える者も全員前へ!』
『了解しました少佐!』
『……応急処置が終わりました。飛鳥、お姉様のサポートにつきます』
『爆雷もっとありませんの!』
「今ので最後だ」
「何ですって!?」

 もう少しで勝機が見えそうな所で、テトラPODの残弾が尽きた事にエリカが怒号と悲鳴が入り混じった声を上げる。

「それなら、ハルトマン来い!」
「何か考えあるの?」

 それを聞いていたバルクホルンが、ハルトマンを伴って攻龍の格納庫へと飛び込んでくる。

「おわ!」
「こんなとこに飛びこむなんて危ないで!」
「そやそや!」
「すまん、だが非常時だ。あの大型ユニットの装備で何か使える物はあるか!」
「ソニックダイバーの装備って、持てんのか?」

 いきなり飛び込んできた二人のウイッチに整備員達が声を荒げるが、更なる無茶な要求に顔を引きつらせる。

「一応予備のガトリングを手動起動可能にした物と、機械式信管のミサイルが………」
「だが大丈夫か?」

 ウイッチにも使用可能を前提として改造した大型ガトリングポッドと、無数のミサイルを遼平が指差すが、どう見ても手に余りそうな代物になっている事に改造を主導した大戸自身が問いかける。

「借りる!」
「持ってくね〜」

 生身で背負うには巨大すぎるガトリングポッドを、バルクホルンがためらい無く背負い、ハルトマンがミサイルをありったけ両腕で掴む。

「あれで飛べるんかいな………」
「確かあのガトリング総重量200kgは超えてるはずや…」
「ふん!」

 嵐子と晴子の不安を他所に、バルクホルンは気合と共に魔力を込め、足元の魔法陣が浮かび有るとそのまま巨大なガトリングポッドを背に再度空へと舞い上がっていく。

「……88mm担いだウイッチってあの人じゃないのか?」
「違うよ、トゥルーデの最高は50mm」
「50………」

 大砲としか言いようのない装備を聞いた遼平が凍りつく中、バルクホルンの後を追ってハルトマンも再度飛び立っていく。

「……ウチに来た連中、大人しい方やったんやな」
「……比較対照間違えてると思うわ、多分」
「すいません、弾が切れちゃいました! 口径合う弾か代わりの銃ありますか!?」

 嵐子と晴子が呆然と見送った所で、今度は艦の護衛に当たっていたリーネが飛び込んでくる。

「え〜と、ソニックダイバー用試作アンチマテリアルライフルあったよな」
「向こうのコンテナだ。FCSの調整がまだだが、あんたらはいらないんだったな」
「すいません、お借りします! う、重い……」

 リーネが一礼して自分の背丈よりも長い試作アンチマテリアルライフルを少しよたつきながら抱えていく。

「…後使えそうな物あったら全部出してこい」
「はい!」
「何でも持ってきたい奴は持っていけ。それで嬢ちゃん達が勝てる、いや死ななくてすむならな」

 慌しくなる格納庫内で、大戸の呟きを聞いている者はいなかった。


「うわ! それソニックダイバーの機銃じゃン! 大尉よく持ってきたナ〜」
「さすがにこのユニットでは馬力が足りん! 高機動が出来んから、先導を頼む!」
「了解しました、バルクホルンさん」
「トゥルーデ欲張りすぎ」

 重武装して攻龍から発進してきたバルクホルンをエイラとサーニャが驚いた目で見るが、やはり無理があったのか、機敏性に欠ける事を自覚したバルクホルンが二人に露払いを頼み込む。

「来ます」「真下ダ!」

 感知能力と未来予知の二つの固有魔法を持つペアの指摘に、バルクホルンとハルトマンが普段ほどではないが機敏に真下から振り上げられたヒゲを回避する。

「右から」「水平ニ!」
「くっ!」「おわっ!」

 振りあがったヒゲが弧を描いて真横から来るのを、バルクホルンが上に、ハルトマンが下に回避し、大型ワームへと接近する。

「ハルトマン! 後ろから狙え! 私は頭を抑える!」
「OK〜」
「私らはここで注意を引くゾ!」
「うんエイラ」

 バルクホルンとハルトマンが素早く左右に分かれると、エイラとサーニャがその場に静止して弾幕で大型ワームを牽制。

「うぉおおぉぉぉ!」
「食らえ〜シュトルム!」

 そこへ水中の大型ワームの頭部で魔力を込めた20mmの斉射が襲い掛かり、後部から魔力を込めたミサイルが固有魔法で叩きつけられて誘爆する。

「今よ、目標後部に攻撃集中!」
「モードセレクト、LASER!」「C・LASER!」「R‐PUNCH!」「A・LASER」「SHADOW!」

 更に急降下しながらのRV全機による一斉攻撃が命中、とうとうこらえられなくなったのか、水中から大型ワームが一気に海面上へと踊り出す。

「危ない、逃ゲロ!」
「うひゃあ!」
「く!」

 更なる攻撃を加えようとした所で、エイラの声で大型ワームの周囲にいた者達が一斉に回避行動に入り、それを追う様に双方のハサミとヒゲが縦横に振るわれる。

「そこです!」「レ〜ザ〜発射〜」

 右のハサミにリーネの大口径の狙撃が、左のハサミに詩織のフルパワー砲撃が炸裂し、その動きが大きく反れる。

「まだよ! もっと上空に誘導させて!」
『ペリーヌ!』
「分かりましたわ少佐、トネール!」「しびれえちゃえ!」「スタンオール!」「プラズマリッガー!」

 瑛花の指摘に、美緒の指示の元にペリーヌを先頭として電撃が次々と大型ワームへと集中していく。

『シャーリー、エグゼリカ、今です!』
「カウント開始します!」
「カウント受諾、お姉様、3、2、」
「1! ディアフェンド、フルスイング!」
「行っけ〜、ルッキーニ!」「うじゅ!」
「頼みます!」「みんな、行くですぅ!」

 電撃で身もだえする大型ワームの両面に向けて、シャーリーの固有魔法で加速して射出されたルッキーニが固有魔法の多重シールドを展開、反対側からエグゼリカのアンカーで発射されたユーリィが無数の分身体を生み出し、一斉に突撃していく。
 ウイッチの中でも有数の攻撃力を誇るルッキーニの多重シールドアタックと、ユーリィの無数の分身を伴った一斉攻撃、双方に大型ワームは挟み込まれ、すさまじい轟音が周辺に轟く。

「うわあ、すご〜い!」
「ユーリィちゃん、あんな奥の手が有ったんですか」

 予想以上の破壊力に、ユナが声をあげ、芳佳も呆然とする。

「今の攻撃で、ワームのセル結合率が弱まりました!」
「射線確保、主砲発射!」
「射線確保確認、主砲発射します!」
『皆さん、一斉攻撃です!』

 その瞬間を待っていた攻龍の62口径76mm全自動砲が大型ワームに向けて連続発射され、エルナーの声に全員が一斉に大型ワームへと攻撃を集中させる。

『一気に決めるぞ! 残弾を惜しむな!』
「瑛花さん達とジオールさん達はトドメの準備をお願い!」
「了解、クアドラフォーメション準備!」
「D・バースト、用意はいい!?」

 美緒とミーナの声が飛び交う中、ソニックダイバー隊と天使達がそれぞれ準備に入る。

「エグゼリカ、二つ目のハサミが落ちたらアンカーを! ミラージュの方に座標転送は!?」
「了解です。カルナ、座標の転送とタイミングのリンクは?」
『どちらもすぐに行けます!』

 ポリリーナの指摘にエグゼリカがアンカーを準備し、カルナは順次データを転送させていく。
 総員の猛攻に晒され、上昇していく大型ワームから右側のハサミが落ちる。

「右鋏部、自切確認!」
「撃ち方止め! カウントダウン準備!」
『自切部位に向けてD・バースト発射準備!』
「カウントダウン開始! クアドラフォーメーション!」

 七恵からの報告に艦長とジオールの準備を知らせる声が重なり、冬后の声が作戦開始を告げると同時にカウントが表示された。

「行くわよ! クアドラフォーメーション!」
「「クアドラ・ロック」座標固定位置、送りますっ!!」
「501小隊、ソニックダイバー隊を援護!」
「音羽ちゃん達の邪魔はさせない!」

 瑛花の号令に、四機のソニックダイバーが編隊を組みながら上昇、それをミーナの指示とユナの号令で一斉に援護射撃が行われ、支援を受けながらソニックダイバーは大型ワームの直上を取ると、散開して急降下しながら四方を取り囲む。

「行くよゼロ!」

 零神が単騎で突撃、大型ワームにMVソードを突き刺すが、それに反応するように左側のハサミも落ちていく。

『エグゼリカ!』
「行って、ディアフェンド! カルナ!」
「永遠のプリンセス号に座標送信開始!」
『座標確認、ミラージュキャノン発射用意! カウントリンク確認します!』

 それを待っていたエグゼリカのアンカーが再生を始めるよりも早くキャプチャー、カルナを通じて座標が送信、ミラージュが砲撃体勢に入る。

「座標、固定OKっ!!」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『クアドラロック!』


「へえ、あれがあの方達の必殺技かしら?」
「すごいですわ」
「完全に決まりましたわね」
「まだだ」

 攻龍の甲板で四機のソニックダイバーが発生させた人工重力場に大型ワームが取り込まれていくのを、エリカとエリカ7が見つめる中、突然後方下から声をかけられる。

「うわ!」
「いつからそこに!?」

 いつからいたのか、甲板上にいる褐色の少女、アイーシャにマミとルイが同時に声を上げる。

「お待ちなさい。まだってどういう意味かしら?」
「あのワームはまだ奥の手を残してる。私には分かる」
「なんですって!? エルナー!! あいつはまだ、切り札が…」

 アイーシャの言葉に、エリカは声が裏返りそうになりながらも、エルナーにその事を告げようとした時だった。
 人工重力場に全て捕らわれる直前、大型ワームの体の一部が、更に自切して海面へと落ちていった。

「なに!?」
「シッポを切り離した!?」
『電気信号確認! あれも再生部位です!』

 予期してなかった三箇所目の自切に、攻龍ブリッジ内に同様が走り、素早く信号を確認したカルナの悲鳴のような声が響き渡る。

「主砲、対ワーム用弾頭で斉射…」
「ダメです! 射線上に他の部位破壊班が重なってます!」
「誰か、誰かあれを破壊できる者はいないのか!」

 艦長が素早く攻龍主砲で攻撃しようとするが、運悪くその軌道上にRVが重なっており、副長の叫びが、通信を介して総員に伝わっていた。



「そんな、ここまで来て…」
「カウントダウンまであと10秒、時間が…」

 プリティー・バルキリー号のブリッジで、エルナーと宮藤博士も何か手を打とうとするが、時間がそれを許さない。
 だがそこで、脱兎の勢いで美緒がブリッジを飛び出していた。

「待て、美緒君…」

 制止の声も聞かず、美緒は全力で艦内を走りながら、懐からミサキにもらったサイキックブースターの無針アンプルを取り出し、首筋に叩きつけるように打ち込む。

「く、ぐ!」

 全身を興奮と不快感が同時に遅い、美緒の口から苦悶が洩れるが、構わず格納庫に飛び込み、己のストライカーユニットに足を突っ込み、魔力を全力で注ぎ込む。

「坂本少佐!?」

 ウルスラが驚く中、美緒は烈風丸を抜き身で持ちながら、一気に空へと飛び出した。

「マスター」
「アーンヴァル、カウントを!」

 いつからいたのか、肩に止まっているアーンヴァルにカウント報告を命じながら、美緒は増強された魔力を総動員させ、一気に虚空を飛ぶ。

「どけえええぇぇ!」
「美緒!?」「坂本さん!?」

 響いてきた声にウイッチ達が振り向き、そこに烈風丸から膨大な魔力を噴出させながら向かってくる美緒に全員が仰天する。

「カウント続行! 総員攻撃準備!」
「カウント続行! 残る一つはこちらでなんとかします!」

 美緒が叫びながら烈風丸を大上段に構え、ミーナが慌ててその事を攻龍に伝える。

「カウント5、セル転移強制固定、確認っ!!」
『4、ミラージュキャノン、発射態勢!』
「3、ドラマチック・バースト、用意!」
「2、マスター!」
「烈・風・斬!!」
「アタック!!」
『ドラマチック……バースト!!』
『ミラージュキャノン、ファイアー!』
「総攻撃!」


 美緒の烈風斬が大型ワームの尾を両断、四機のソニックダイバーが人工重力場内でセル組成が急激崩壊していく大型ワームに全火器を掃射、五機のRVから強力なレーザーやボムの一斉斉射が、上空から永遠のプリンセス号の主砲が、そして全員が残った全ての力で攻撃を全ての部位に叩き込み、そして四つの部位全てが、立て続けに爆発、完全に消滅する。

「状況は」
「ワーム殲滅、確認しました!」

 七恵からの通信に、少女達が一斉に歓喜の声を上げる。

「やったか………」「マスター!」
「美緒!」「テレポート!」

 その声を聞きながら、余力を全て使い果たした美緒が使い魔の耳すら消えて海面へと落下していく。
 それに気付いたミーナが悲鳴を上げるが、予見していたミサキがテレポートでとっさに救い上げた。

「無茶するな〜、アーンヴァルのマスター」
「早く美緒を医務室へ!」

 ストラーフも呆気に取られる中、ミーナが慌てふためきながらも美緒の元へと向かっていった。

「あっちは!?」
『まだ戦闘中です!』

 エグゼリカが上を見ると、そこには今だ激戦を繰り広げる二つの赤い閃光の姿が確認できた。


「ちぇっ、下はやられちゃったみたいね」
「残念ね、ついでにあんたもやられなさい!」

 舌打ちするイミテイトに、フェインティアはガルシリーズの砲口双門を向ける。

「もう切り札は無いはずよ、覚悟なさい!」
「今降伏するなら、士官待遇を上層部に具申する」

 クルエルティアもカルノバーンの砲口を向け、ムルメルティアもインターメラル 3.5mm主砲の狙いを定める。

「潮時って奴かしらね〜」
「逃がすか〜! ガルクアード!」
「カルノバーン・ヴィス!」

 転進しようとするイミテイトに、二つのアンカーが飛ぶが、そのどちらもがイミテイトのナノマシンコーティングに弾かれる。

「油断大敵だ、とくと味わうがいい!」
「!?」

 だがアンカーの影に潜んでいたムルメルティアが、インターメラル 超硬タングステン鋼芯をイミテイトの胴体へと突き立てる。

「がはっ! これは……!」
「マイスター!」「ガルクアード!」

 ムルメルティアの一撃がナノマシンを崩壊させていき、そこに狙い済ましたアンカーが突き立てられる。

「トドメよ!」
「うあ…」

 ガルシリーズの高出力レーザーが直撃する直前、突然イミテイトの背後に渦が出現し、イミテイトを飲み込んでいく。

「ああ!」「く……」

 レーザーがかすめたかどうかで、イミテイトが渦の中に消える。
 アンカーが飲み込まれかけたのを戻しながら、フェインティア、クルエルティア双方が思わず声を漏らす。

「こちらクルエルティア、フェインティア・イミテイトの殲滅には失敗。これより帰投します」
「あともうちょっとだったのに!」
「仕方ないマイスター。再戦の機会はすぐに訪れる」
「その時は絶対倒してやるんだから!」

 怒声を喚き散らすフェインティアと共に、クルエルティアはカルナダインへと向かう。

「それじゃあフェインティア、そちらで何があったか、データをもらえる?」
「……いいけど、多分信用性に欠けるような内容よ?」
「こちらも同じような物ね、きっと」

 こちらに向かって手を振っているスカイガールズやウイッチ達の姿を見たトリガーハート達は、苦笑しながら降下していった。



「やったよ亜弥乎ちゃん!」
「うん! ありがとうユナ!」

 歓喜の声を上げて抱き合う二人に、皆も喝采を上げたり抱き合って互いの奮戦を労う。

「あの〜………喜んでる最中あれなんですけど」
「え、なあに?」
「ここってどこですか? オペレッタとのリンクも切れちゃってて現在地不明なんですけど」
「ここは亜弥乎ちゃん達機械人の人達の星、機械化惑星だよ」

 恐る恐る声をかけてきた亜乃亜に、ユナは気さくに答えた所で、Gの天使達が顔を見合わせる。

「機械化惑星だって、聞いた事ある?」
「私は無いわ」
「私も〜」
「ティタは聞いた事あるかもないかも」
「弱ったわね、どうやらGの管轄外の時空に転移したみたい」
「ちょっと待った! じゃあここって地球じゃないの!?」

 天使達の会話に音羽が慌てて割り込み、光の戦士達が全員頷く。

「改めて聞くけど、貴方達はいつのどこから来たの?」
「………さっきまで西暦2084年の太平洋にいたわ」
「じゃあ芳佳達よりは近いわね。今は西暦2300年だから」
「うそ………」
「2300年!?」

 ポリリーナの問いに瑛花が恐る恐る答え、帰ってきた答えにスカイガールズ全員が絶句する。

「大佐、あの信じがたい話なのですが………」
『今こっちでも聞いてるよ。取り合えず全員帰艦、これからどうするかはそれからだ』
「……了解」
「今度は、私達が別の世界に来ちゃったんだ……」
「あの、これからどうなるんでしょう?」
「エリーゼに聞かないで!」

 驚愕、不安入り混じった顔をしながら、ソニックダイバーが攻龍へと戻っていく。

「え〜と、ルッキーニはどっちに戻ればいい?」
「そういやそうか、って中佐は?」
「坂本少佐連れてこっちの宇宙船に戻って行ったよ」
「じゃあ501はあちらが旗艦という事になるか。その前にこれを返してこよう」
「え〜と、宇宙船っテあの宇宙船カ? 小説とかの?」
「フェインティアの船に少し似てるね」
「まあ、色々あったから」

 ウイッチ達もプリティーバルキリー号に戻ろうとした時、空中に巨大なウィンドゥが表示される。

「なんだ!?」
「あ、あれって………」

 思わずバルクホルンがガトリングを構えようとするが、そこに陰陽マークを模した帽子を被った、白い装束の柔和な女性の姿が映し出される。

『この星を救ってくださり、本当にありがとうございました、ユナさん、そして多くの戦士の方々』
「玉華(ユイファー)さん!」
『どこから来たのかは存じませんが、ユナさんに協力し、危機を救ってくれた戦艦の方々にも心からお礼を申します。私は白皇帝・玉華、この機械化帝国を治める者です』

 頭を下げる玉華の姿に、攻龍のブリッジ内にもざわめきが起きていた。

「全チャンネル及び外部スピーカーをオープン、こちらからも呼びかける。マイクをこちらに」
「了解、全チャンネル及び外部スピーカーをオープン」
『こちら統合人類軍 極東方面大隊 特務艦 攻龍、艦長の門脇だ。この特務艦 攻龍はワーム殲滅特務のため、先程のワームと交戦、これを殲滅した。だが、現状を把握しきれていない。現状把握のため、そちらとの会談を求める』
『分かりました。迎えの者を向かわせますので、しばらくお待ち下さい。もし皆さんが来るのがもう少し遅ければ、私達はこの惑星から脱出する所でした』
『了承した』

 通信を終えた所で、副長が思わず重い息を漏らす。

「何がどうなっているのか、果たして把握できますかな」
「把握せねばならん。ここが地球でないとしても、ワームが現れたという事実だけは変えようが無い」
「た、確かに」
「ソニックダイバー隊、全機帰艦しました。RV隊も帰艦、ウイッチ隊は別艦に帰艦した模様です」
「あちらとの会談の前に他の艦との情報交換を。どうやら向こうも複数勢力の混合部隊のようだ」
「それぞれの代表にこちらに来る様に連絡、それと攻龍のダメージチェックを急げ」
「ソニックダイバー隊はしばらく準待機、まああれだけ大物が出てきたら、しばらくは何も出てこないと思うがな」
「そうだといいのですが」

 艦長と副長の指示が飛び交う中、冬后の呟きに緋月が小さく呟く。

「艦長、技術相談のために向こうの艦に行ってみたいのですが、許可をいただけますか?」
「許可する」
「よろしいので?」
「そちらも急務だ。今後の補給の問題もある」
「……確かに。先程の戦闘で、大分装備を消費しましたからな」

 周王の提案に即答した艦長に、副長が問い返すが、もっともな問題に副長も思わず顔をしかめて唸る。

「宇宙船が目の前を飛んでて、ここはどうやら機械の星、もう頭がおかしくなりそうです………」
「ミーナさん達もそんな気持ちだったんですかね………」

 タクミと七恵の言葉は、ある意味現状をもっとも表現していた。



「向こうの技術者が来たいそうだけど、何か迎えに出せる物はあるかな?」
「ああ、整備用の小型ポッドがあります。それを出しましょう。あと玉華との面談にこちらからも代表を出してほしいそうですから、私とポリリーナが行きましょう。ウイッチからも誰かを」
「話しておこう。まずは美緒君の状態が心配だ」
「白香が診てくれるそうです。任せておいて大丈夫でしょう」

 プリティーバルキリー号のブリッジで宮藤博士とエルナーがてきぱきと今後の事を決めていく。

「それにしても、対ワーム部隊が今この場に現れるとはね」
「出来すぎ、と考えるべきか、それとも………」
「それとも?」
「いえ、まだ確証が無いので」

 言葉を濁すエルナーが、先程の戦闘データをチェック、その中で零神を駆る音羽と、ビックバイパーを駆る亜乃亜の姿をピックアップする。

(間違いありません。この二人はかつての光の救世主のパラレル存在。だが、どうして………)






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