スーパーロボッコ大戦
EP5



「それで、一度スオムスに戻ったんだケド、大慌てで戻ってきてみたら501の皆が戦闘中でサ」
「占いで?」
「当たるのそれ?」
「エイラの占いは当たるよ、それなりに」
「サーニャ、それなりって……」
「私も後で占ってもらっていいですか〜? 恋愛運とか」
「シャーリーのいる所!」
「う〜ん、タロット持って出撃はしなかったカラな〜」

 今夜の寝床を確保するべく、物置と化した部屋をソニックダイバー隊、ミーナを除くウイッチ、亜乃亜の計八人がかりで急ピッチで掃除していた。

「ねえねえ見て! これブウブウ言って面白〜い♪」
「なんだヨ、あれ?」
「掃除機見た事……無いか」
「もっと大きいのなら見た事ある」
「やっぱり未来なんダナ。これなんダ?」
「予備の端末だよ、持ってたら? 使い方教えるから」
「そうですね。整備班の人達に頼んで皆さんの分用意してきましょう」
「亜乃亜は自前の持ってます」
「……何か変なボタンいっぱいついてない?」
「支給品、機能いっぱいで覚えるの大へ〜ん」
「便利なのか不便なのか分かんないナ」
「皆さん片付きました?」

 そこへタクミが様子を見に来る。

「タクミさん、もうちょっと掛かりそうです」
「あれ、一人足りなくありません?」
「ミーナ隊長なら士官だから個室だってサ」
「あれ、空きの士官室って冬后さんが魚拓製作場に使ってたような?」
「ありゃ、それはマズイんじゃ……」
「消臭剤ありましたっけ?」
「ともあれ、片付いたら皆さんの分の夕飯用意してるんで来てくださいね」
『は〜い』



「あ〜、ちょっと生臭いが勘弁してくれ」
「いえ、士官個室が貸してもらえるとは思ってませんでしたから」
「そうか」
「幾ら空いている部屋とはいえ、妙な使用は困りますね」

 墨だの刷毛だの、更にはこの時代では貴重品の和紙まで用意してある部屋を冬后、ミーナ、紀里子の三人で手早く片付けた所で、締め切った部屋で三人が向かい合って座る。

「さて、じゃあ始めるとするか」
「ウイッチについて、ね。さてどこから説明すればいいのかしら?」
「私も技術者だからね。ウイッチの能力については興味があるわ」
「それに、どんな力持ってるか分からん連中をほいほい乗せておくのも問題があるからな」
「確かに。この世界のワームの侵攻は13年前からだそうだけど、私達の世界の敵 《ネウロイ》の出現は、紀元暦の29年頃が一番古い記録とされてるわ」
「な!? じゃあ1000年以上も戦ってるのか!?」
「いえ、あくまで最初は散発的な物だったらしいわ。そして、ウイッチの魔力がネウロイにもっとも効果的と分かって以来、ウイッチ達が秘密裏に対処するようになった。けれど1939年、全世界でネウロイの一斉侵攻が開始、世界中の都市が次々と陥落する中、扶桑の天才科学者、宮藤 一郎博士がかねてより開発していたウイッチの能力を引き出し、ネウロイとの決戦兵器となりうるストライカーユニットをロールアウト。これにより、全世界でウイッチ達とネウロイの全面戦闘となった。それが今の私達よ」
「なるほどね。ある意味、ソニックダイバーも似たような物かしら」
「全くだ。もっともこっちは全世界で使える程数は無いけどな」
「一度、その宮藤博士とお会いしてみたいわね」
「残念ながら亡くなられました、正確には研究所がネウロイの襲撃を受けて行方不明になられたそうよ……実は501には宮藤博士の娘さんがいて、父親の遺志を次いで一緒に戦ってるわ」
「……本当にそっくりね」
「確かに。で、そのネウロイってのの特徴は…」

 三人の士官の話し合いは、深夜遅くまで続いた。



 満天の星の輝く中、攻龍の後部甲板に佇むサーニャの姿があった。
 その口からは静かに歌が紡がれ、水面へと消えていく。
 波の音に紛れて流れる歌が、不意に途切れた。
 歌うのを止めたサーニャが振り返ると、そこにアイーシャが立っている。

「……何?」
「歌が聞こえた。ずっと歌っていたのか?」
「うん。みんながどこかにいるかもしれないと思って……」

 まだどこか警戒しながら、サーニャはアイーシャの問いに答える。

「どこで歌っていても、お前の歌は私の中に響いてくる」
「迷惑?」
「いや」

 アイーシャがサーニャの隣に来ると、そこで夜空を見上げる。

「ずっと同じ歌を歌っている。なぜ?」
「これは、お父様が私に作ってくれた歌なの」
「そうか」

 アイーシャはサーニャを少し見ると、また夜空を見上げる。

「私のこの体も、お父様が作ってくれた」
「え……?」
「生まれつき、難病に冒されていた私を助けるため、お父様は医療用ナノマシン開発に腐心した。結果、私の命は救われたが、世間はそれを人体実験だと言って、私とお父様は社会を追われた」
「そう、なんだ……」
「けれど、お父様の手を離れた医療用ナノマシンは、システム増大の結果、ワームとなって人類を襲い始めた。ワーム出現の可能性をお父様は誰よりも早く気付いてたが、誰も信じなかった。そして、お父様は人類の未来を私に託した。この体はそのための物、私はお父様の遺志を継いで今ここにいる」

 アイーシャの話をじっと聞いていたサーニャだったが、アイーシャと同じく夜空を見上げる。

「「その力、多くの人を守るために」ストライカーユニットを作った、芳佳ちゃんのお父さんの口癖だって。芳佳ちゃんも、その言葉を守るために一緒に戦ってる」
「そうか。その人も多分お父様と同じだったんだろうな」

 そこで会話が途切れ、二人は黙って夜空を見上げていた。

「あ、いた! サーニャ! ってお前、サーニャに何してるんダ!」
「あれ、アイーシャも一緒?」

 姿が見当たらないサーニャを探しに来たエイラと音羽が、慌しくこちらへと向かってくる。

「エイラ、少し彼女と話してた」
「そうなのカ?」
「アイーシャと? この子すごい無口なんだけど……」
「少し気になった事があったから」

 口数の少ない二人の取り合わせに、エイラと音羽は首を傾げる。

「とにかく、明日他にも反応が無いか問い合わせてみるって亜乃亜が言ってたカラ、今晩はもう寝ようサーニャ」
「うん」
「アイーシャも、夜更かしして倒れたら周王さんに起こられるから」
「分かった」

 四人がそう言いながら船内へと引っ込んでいく。
 あとには静かな空と海だけが残る。
 静か過ぎる、空と海が………



『合同演習?』

 朝食が済んだ所で、全員が作戦会議室に集められて告げられた言葉に、疑問符を浮かべる。

「正確には、演習というかデータ採取ね」
「上で何があったか知らんが、しばらく行動を共にするとのお達しがあってな。何かあった時のために、そっち側のデータを取っておく事になった」

 ミーナと冬后の言葉に、皆がそれぞれ(普段の夜間時間から抜け出せずにうたた寝気味のサーニャ除く)思案を巡らす。

「あの、冬后さん。私達もですか?」
「まあな。もっともデータを欲しがってるのはそっちのウイッチ達だが」
「貴方達の乗るソニックダイバーの特性を見ておきたいのよ」
「それは、彼女達も共にワームと戦う、と取っていいのでしょうか?」
「……分からん」

 音羽の質問への応答を聞いた瑛花も質問を投げかけるが、冬后は珍しく真剣な顔で首を左右に振る。

「え〜と、亜乃亜もですか? 何をすればいいんでしょう?」
「メニューはフォーメーション飛行と実弾演習、もっともダミーをそんなに積んできたわけじゃないからな」
「弾薬の余裕も無いし……この船に積んでいる銃とは規格が微妙に違うのよね」
「ともあれ、午後からだから昼飯までに準備しとけ」
「あの、フォーメーション飛行って何すれば……」
「こっちで指示するから、機体の準備だけしておけ」
「はあ……」

 軍隊式のデモ飛行なぞ全く知らない亜乃亜が首を傾げるが、ともあれそれぞれのチームで演習の内容が決められていく。

「そう言えば、ソニックダイバーって奴、五機なかったカ?」
「でも、四人しかいないよ?」
「ああ、もう一機はアイーシャさんの使ってたプロトタイプのカスタム機だそうよ。特別な運用をするらしくて、滅多に使わないそうだけど」
「ふ〜ん」
「アイーシャは飛ばないの?」
「体力的にそうそう簡単に飛べないらしいわ」
「昨夜言ってた。お父さんが難病を治してくれたって」

 まだどこか重たいまぶたを開きながら、サーニャが呟く。

「さて、四人だけと言っても、ストライクウィッチーズの名に恥じないようにするわよ」
『了解!』


「この演習って、誰が言い出したんです?」
「周王だ。オレも賛同したがな」
「じゃあやっぱり……」
「でもあの人達、使い物になるの?」
「エリーゼ、そういう話はちょっと……」
「昨夜ウイッチについては説明してもらったが、この目で見ない事にはオレも何も言えん。向こうも同じ考えのようだからな。何でも、少し前に実験機のテストを部隊内でも有数のベテランにやらせたそうだが、欠陥機で危ない事になった前例があるそうだ」
「得体の知れない相手と簡単に共同前線は張れない、という事ですか?」
「お互いにな。お前らも恥かかないようにな」
『了解!』



「始まります」

 七恵の声と同時に、攻龍の後部甲板から四人のウイッチが飛び立つ。
 同時に、攻龍の全センサーが一斉にウイッチ達の解析に取り掛かる。

「ウイッチの体表面に力場発生を確認」
「これが魔力って奴ね。ナノスキンの代わりを自前で発生させている……」
「飛行もかなり独特ですね。ストライカーユニットから発生したエネルギーをユニットだけでなく、体全体で制御してます」
「面白いわね、文字通り体その物が機体という訳……」

 七恵と紀里子が二人がかりで次々と集められたデータを解析していく。

「ソニックダイバーを初めて見た時、非常識な機体だと思った物だが、これは更にその上を行っているな」
「向こうもそう思ってるでしょう」

 宙を縦横無尽に飛び回るウイッチ達を見ながらの副長の呟きに、冬后も思わず返す。

「そろそろ、実弾演習を」
「了解」

 技術の違いで通信が送れない事から、発光信号でその事を伝え、ウイッチ達が銃を構えた所を確認してターゲット用ダミーバルーンが攻龍から射出される。
 虚空でダミーバルーンが広がったかと思う間も無く、四つのダミーバルーンが瞬時に破壊される。

「早っ!?」
「かなり実戦慣れしてるわね。射撃データ取れた?」
「一応。発射された弾丸にも体表面と同質と思われる力場が確認されました。ただ、エネルギー量はかなり違いますね」
「これなら、それなりの破壊力になりそうね……と言っても破壊力を測定できるようなダミーまで用意してなかったわね」
「さて、次はこっちの番だ」
「ソニックダイバー隊、発進してください」


 ウイッチ達が宙で見守る中、四機のソニックダイバーが発進していく。

「速〜い♪」
「最高速度はマッハ2以上、ナノスキンと言われる物を体に塗布して最適化する事で、パイロットの防護をするって聞いたわ」
「シールドとか無いノカ?」
「エイラ、あの人達ウイッチじゃないから」
「ただ、21分32秒しか持たないから、その前に帰らないと危ないって話よ」
「う〜ん微妙〜」

 空に雲を引きながら、ソニックダイバーが見事なフォーメーションを描いていく。

「いい動きしてるわね。大分訓練してるわ」
「訓練ならこっちも負けてないゾ」
「実弾演習に入るみたい」

 放たれたダミーを、ソニックダイバー各機が次々と撃ち抜いていく。
 最後には、零神が手にしたMVソードでダミーを一刀両断する。

「ウワ、坂本少佐みたいダ」
「ここでも、ああいう戦い方する人いるんだ……」
「エリーゼはランスが得意って言ってた〜」

 ウイッチ達が感心する中、ソニックダイバーが帰投し、代わりにライディングバイパーが上がってくる。


「え〜と、どうすればいいんですか?」
『さっきみたいに飛んでみてくれ。無理に真似しないで、自由に飛んでいいから』
「分かりました! 行くわよ〜!」

 冬后からの指示で、ライディングバイパーが急加速する。

「そ〜れ!」

 ややたどたどしいながらも、亜乃亜のビックバイパーが虚空を飛び回る。

「こんな感じ?」

 他の面々に比べて流麗とは言えないが、ライディングバイパーの性能を出すべく亜乃亜は力を込める。

『よし、実弾演習に入る』
「いっけー!」

 放たれたダミーバルーンに向けて、強力な一撃が発射。
 破壊どころか半ば蒸発する形でダミーバルーンが霧散する。

『……すげえ威力。よし、帰投してくれ』
「は〜い」



「なかなかやるな」
「そちらこそ」

 演習が終わり、少女達が全員浴室で汗を流していた。

「はあ〜、なんか緊張した〜」
「空羽ももうちょっと訓練した方いいゾ」
「じ〜………」
「ウイッチの皆さんも結構すごいですね」
「みんないたらもっとすごいよ♪」
「エリーゼ達だって実戦ならもっとすごいんだから!」
「じ〜……」

 皆がはしゃぐ中、音羽は湯船の中で何故か静かに皆のある一点を見つめていた。
 やがておもむろに拳を握り締める。

「よし、規格外はいない」
「あの、何の話ですか? 音羽さん」
「いや〜、七恵さん以上の怪物がいるって聞いたから、他の人もまさかとは思ったけど……」
「それって、これの事?」

 ルッキーニがいたずらっぽい笑みを浮かべ、音羽の胸を後ろからわしづかみにする。

「きゃあっ!?」
「う〜ん、ちょっと残念賞」
「あの、ルッキーニちゃん?」

 いきなりの事に音羽が悲鳴を上げるが、ルッキーニはすこし顔をしかめ、隣にいた可憐に視線を向ける。

「そっちはどう〜かな〜?」
「きゃああっ!」

 思わず悲鳴を上げる可憐にルッキーニが容赦なく襲い掛かる。
 とっさに潜ってルッキーニの魔手から可憐は逃げおおせるが、ルッキーニの手は向こうにいたエリーゼの胸へと当たる。

「ちょっ! 何して……」
「……ものすごい残念賞」
「え、エリーゼだってこれからなんだから!」

 すごく残念そうな顔をするルッキーニにエリーゼは思わず食ってかかる。

「貴方達、もうちょっと静かに…」
「こっちはどうかな?」

 髪を洗い終え、注意をしながら湯船に入ろうとした瑛花の胸をもルッキーニは容赦なく掴む。

「キ、キャアアアァァ!」
「お、これはこれで……」
「な、何するのよ!」

 一番過敏な反応を見せて瑛花がタオルで胸をかばいながらルッキーニから離れる。

「ごめんなさいね。どうにもルッキーニさんはまだ甘えたい年頃らしくて……」
「セクハラよこれ!」
「セクハラ? 何だソレ?」
「あの、いつもやってるんですか?」

 ウイッチ達が呆れと苦笑を浮かべる中、可憐が何気に問い質す。

「う〜ん、いつもはシャーリーと一緒だからナ」
「たまにふざけてやるくらいだよ」
「どんだけ規格外なの、そのシャーリーって人」
「シャーリーも大きいけど、リーネはその次に大きいよ。七恵はその次かな〜?」

 ルッキーニの一言に、音羽とエリーゼが凍りつく。

「二人? 規格外が二人も?」
「そんな……ウイッチって一体? でもひょっとしてすごい太ってるとか……」
「リーネは大きいの胸だけだゾ。普段は気も小さいシ」
「大人しいよね。胸以外」
「「………」」

 エイラとサーニャの追加意見に、音羽とエリーゼが湯船の隅で影を背負う。

「それじゃあ、私は先に…」

 亜乃亜が上がろうとした所で、ルッキーニの目が獲物を狙うように亜乃亜の胸へと突き刺さる。

「え、あの……」
「うじゅ〜〜!!」
「キャアアアアアア!」



『原さん、牛乳ちょうだい!』
「お、おお」

 風呂から上がってくると同時に、食堂でどこか鬼気迫る表情の音羽とエリーゼに、料理長はどこかたじろぎながら長期保存用牛乳のパックを二本差し出し、二人はそれをラッパで飲んでいく。

「何があった?」
「あの、なんて言うか……」
「女の事情よ」

 いぶかしがる料理長に可憐は言葉を濁すが、瑛花は一言で終わらせる。

「そんなに気にすんなヨ〜」
「大分気にしてたみたい………」
「ルッキーニさん、あまり無闇にやっちゃダメよ?」
「うじゅ〜……」

 牛乳を一気飲みしている二人にウイッチ達が声をかけるが、届いていないのか牛乳を嚥下する音だけが響いてくる。

「えと、あまり一気に飲むとお腹壊すよ?」

 亜乃亜が恐る恐る声をかけるが、そこで音羽は飲むのを一度止めて鋭い視線で亜乃亜の胸を一瞥、その視線でそのまま亜乃亜の顔を睨む。

「裏切り者!」
「そうくるんですか!?」

 ちょっと涙が出そうな目をこらえ、音羽はびびる亜乃亜を指差すと再度牛乳に取り掛かる。
 そこで複数の端末が同時に鳴り、送られてきたメールをソニックダイバー隊が確認する。

「15分後に全員作戦会議室に集合。演習についての反省会だそうよ」
「あれだけで何か分かったのかしら?」
「お互い、飛んでいる所は奇妙にしか見えないからね。何言われても怒らないで」
「無理難題言われるのは慣れてるわ………」

 瑛花とミーナが先頭になりぞろぞろと作戦会議室へと向かう。
 途中で抜け出そうとしたルッキーニをエイラとサーニャが両脇を掴んで作戦会議室へと入ると、あれこれ準備している冬后と紀里子が待っていた。

「来たな、適当に座ってくれ」
「ちょっと長くなりそうだから」
「ルッキーニ長いのイヤ〜」
「コラそういう事堂々と言うナ」
「オレも長々とした会議は嫌いだが、時と場合に…」

 冬后が頭をかきながら始めようとした時、突然サーニャの頭に耳と魔導針が出現し、その色が変わる。

「……来る」
「ネウロイか!?」
「違う、これは…」

 ウイッチ達がそれの意味する事に気付くと同時に、けたたましいサイレンが攻龍内に響き渡る。

『ワーム接近中! 各員は第一種戦闘態勢に入ってください! 繰り返します! ワーム接近中! 各員は…』
「ちっ、長話の邪魔か!? ソニックダイバー隊、出撃準備!」
『了解!』
「貴方達はここで待ってて! 戦闘状況はモニターするから!」

 慌しく戦闘態勢に入っていく中、取り残されたウイッチと亜乃亜が顔を見合わせる。

「こっちは出撃しなくていいノカ?」
「え〜と、あまり軍との戦闘に関わるなって言われてて」
「この世界の敵が何か、見ておく必要はあるわ」



「飛行外骨格『零神』。桜野。RWUR、MLDS、『パッシブリカバリーシステム、オールグリーン』っ!」
「飛行外骨格『風神』。園宮。『バイオフィードバック』接続っ!」
「飛行外骨格『雷神』、一条、ID承認。声紋認識。『ナノスキンシステム』、同期開始っ!」
「『バッハシュテルツェ』、エリーゼ。『バイオフィードバック』接続っ!」
『ソニックダイバー隊、発進してください』

 七恵のナビゲートに続いて、ソニックダイバー各機がリニアカタパルトで次々発進していく。

『実戦でのお前らの戦い方、お客さん方に教えるいいチャンスだ。かっこよく頼むぞ』
「了解!」
「よ〜し、やるぞ〜!」
「お〜!」
「皆さん無理しないでくださいね」

 冬后の指示に皆が気合を入れる中、ソニックダイバー隊は編隊を組んでワームへと向かっていった。



 作戦会議室で手持ち無沙汰に皆が待つ中、壁の大型ディスプレイに映像が現れる。

「うわ、何これ映画?」
「外の様子映してるんだけど」
「こうやって見れるのカ、便利だナ」
「今出撃した」

 サーニャが言う通り、海の上を来る影に向かってソニックダイバーが出撃していく。
 程なくして攻龍の望遠カメラとソニックダイバーのライブカメラから敵の姿が映し出される。

「お魚?」
「イルカだゾ、あれ………」
「ワームは、発生した時そばにいた生物に擬態するって聞いてたけど」
「どうやらそのようね……」
「感覚はネウロイに似てる」
「始まるゾ!」



『目標はB−クラス、本艦に向けて高速接近中!』
『遠距離からの攻撃でセルをなるべく潰せ! 園宮、相手の行動パターン解析を急げ!』
「了解!」
「アタック!」

 先手を切って瑛花の雷神から大型ビーム砲の一閃が伸びるが、イルカ型ワームは泳ぐような動きで機敏にかわす。

「速い!」
「回避パターン予測、行きます!」

 続けて可憐の風神から飛滞空ミサイルがまとめて発射されるが、イルカ型ワームの口から発射されたリング状のビームで撃墜されていく。

「遠距離からじゃ無理ね。エリーゼ、音羽、足を止めて!」
「了解! MVソード!」
「MVランス!」

 音羽の零神とエリーゼのバッハシュテルツェV―1が近接戦闘用の分子振動剣と分子振動槍を取り出し、突撃していった。



「なかなかやるナ」
「すご〜い」
「ルッキーニも行きた〜い」
「動きは生物的だけど、戦闘方法はネウロイと似てるようね」

 映し出されるソニックダイバー隊の闘いに、皆がそれぞれ感想を述べる。
 だが、サーニャは静かに固有魔法を発動し続けていた。

「もう一体いる」
「なんですって!?」



「レーダーに反応! 海面下にもう一体います!」
「下!?」

 可憐の通信に、思わず真下を見た瑛花の目に、水面下から一気に踊りだしてこちらを狙う同型のイルカ型ワームが飛び込んでくる。

「くっ!」

 とっさに回避させようとするが、かわしきれずに僅かに引っ掛けられ、雷神が大きく揺らぐ。

「瑛花さん!」
「大丈夫! こっちは私と可憐で…」

 体勢を立て直し、反撃に転じた瑛花だったが、相手の動きの速さになかなか対応しきれない。

(まずい、ロックには最低三機必要。けれど一機だけでこれは止められない!)
『無理をするな一条! 攻龍で援護するから、こちらに誘導しろ!』
「やってみます!」
「うわあ!」
「きゃあ!」

 なんとか誘導を試みるが、二体のイルカ型ワームは互いにコンビネーションを組むかのような動きで、逆に攻龍からどんどん遠ざけられていく。

「どうすれば………」

 リーダーとしてどう戦えばいいか、瑛花は必死に思考を巡らせるが、相手はその時間すら与えてくれそうになかった。



「押されてるゾ!」
「あああ、どうしよう!?」
「ミーナ中佐!」
「…………」

 苦戦してる様をリアルに見せられ、ウイッチ達と亜乃亜に動揺が走る。
 無言でその光景を見ていたミーナだったが、やがて目に決意が宿る。

「501小隊、出撃!」
『了解!』



「一条! 桜野! 園宮! エリーゼ! 何とか退け!」
『そ、それが!』
『相手のコンビネーションは完璧です! 撤退の機会がありません!』
「なんとかならないんですか!」

 悲鳴に近い通信に、タクミが思わず叫ぶ。
 ブリッジ内に緊張した空気が満ち、誰もが状況打開の方法を必死になって模索していた。
 その時、不意に格納庫から通信が入る。

『タクミ、チャンネル8から11まで繋いでくれ』
「僚平さん? 何を……」
『予備インカムを貸したんでな』

 不思議に思いながらタクミがチャンネルを開いた所で、それぞれのチャンネルにウイッチ達の顔が表示される。

「あんたら…」
『ストライクウィッチーズ、ソニックダイバー隊援護のため、出撃します!』
『亜乃亜も行きます! デストロイ・ゼム・オール!!』

 冬后が何かを言う前に、ウイッチ達とライディングバイパーが攻龍から飛び立っていく。

「な、外部の人間を戦闘に参加させるなぞ……」
「どうこう言ってられる状況じゃないでしょう、島副長」
「しかし……」
「戦えるのかね、彼女達はワームと」
「恐らくは」

 艦長の問いに、ブリッジに姿を現した紀里子が応える。

「先程のデータと、私の予想が適合するのなら、彼女達は大きな力になってくれるでしょう」

 遠ざかっていく者達の姿を見つめながら、紀里子は小さく微笑んだ。



「このおっ!」

 全開で振り回したMVソードが、何かに食い込んで止まる。

「あっ!」

 刃筋を通し損ねた事に音羽が気付いた時、イルカ型ワームの背びれから発射した小型のセルミサイルがこちらへと向かってきていた。
 だがセルミサイルは飛来した光線に次々と撃墜され、事なきを得た。

「助けに来たよ! 今ウイッチの人達も向かってきてる!」
「亜乃亜さん!」

 駆けつけた亜乃亜が戦線に加わり、戦闘はなんとか拮抗状態になっていく。

「なんとかこいつらのフォーメーションを崩せば……」
『それじゃあ、一体はこちらで受け持つわ』

 突然響いてきた通信に瑛花が驚くと、こちらに向かってくるウイッチ達の姿が視界に飛び込んでくる。

「待て、その火力では無理だ!」
「時間稼ぎくらいにはなると思うわ。最低でも」
「それ〜!」

 先陣を切ってルッキーニのブローニングM1919A6が銃火を吐き出し、かなりの速度で動き回っていたイルカ型ワームに全弾が命中、その体が揺らぐ。

「十発十中だよ! すごいでしょー!?」
「え?」
「効いてます! 彼女達の攻撃はワームに効いてます!」
「ウソ、あの口径で?」

 目の前で起きた事と、可憐からの報告に瑛花は双方を思わず疑った。



「どういう事だ?」
「彼女達ウイッチが《魔力》と呼んでいる力、それがワームのセルに局所的ですが過負荷を与え、破壊してるんです。これなら口径の違いは関係ありません」
「信じられん……」
「だが、行ける!」

 紀里子の説明に、ブリッジは半信半疑だったが、事実ウイッチ達の攻撃はワームに確実にダメージを与えていた。

「片方は501に回せ! 一体を総動員で倒せ! 以上!」
『了解!』



「ワームはネウロイと違ってコアを持ってないわ。過剰攻撃で破壊するしかないそうよ」
「めんどくさいナ〜」
「エイラさんとサーニャさんで頭上を押さえて! ルッキーニさんは左翼、私は右翼から攻撃!」
「行くよ〜!」
「行くゾサーニャ!」
「うん!」

 ミーナの指揮でウイッチがそれぞれの位置に向かおうとするが、させじとイルカ型ワームがリングビームを放ってくる。
 即座にルッキーニとミーナがシールドを展開し、それを防いだ。

「何だそれは!?」
「ウイッチのシールドよ。言ってなかったかしら?」
「聞いてない!」
「すご〜い! ゼロにも欲しい!」

 瑛花の驚いたような声に音羽の歓声が重なり、ミーナは思わず笑みを浮かべるが、即座に真剣な顔になるとMG42機関銃を構えて攻撃を開始する。

「ここで釘付けにするわ!」
「了解! それ〜!」

 ウイッチ達の一斉攻撃がイルカ型ワームに突き刺さり、構成セルを潰していく。
 だが、徐々にだが再生していき、致命傷になりえない。

「うげ、こんなとこだけネウロイ並カヨ……」
「エイラ、来る」
「ソウダナ」

 前方に居るエイラとサーニャに向かって、セルミサイルが一斉発射される。
 それぞれが複雑な機動を描きながら向かってくる中、エイラは平然と前へと踊りだす。

「危ない…」
「♪」

 可憐が思わず叫ぶが、エイラは鼻歌交じりに次々とセルミサイルをかわし、撃墜していく。

「え? パターン解析も無しに……」
「私の固有魔法は『未来予知』。こんなのかわすの朝飯前なんだナ」
「よ、予知能力!?」
「エイラ」
「おう」

 サーニャの声にひらりと避けたエイラの影から、フリーガーハマーから放たれた20mmロケット弾が飛来、背びれを粉砕する。

「これでしばらくさっきのは来ないゾ」
「うん」
「それ〜!」

 ルッキーニが縦横に飛び回りながら、イルカ型ネウロイを蜂の巣にするが、ネウロイと違ってコアの無い相手に致命傷を与えられない。

「倒れな〜い!」
「あっちはどうやって倒してんだヨ!?」
「ナノマシンのテロメア効果とか言われたんだけど、何が何やら………」
「うじゅ〜〜、シャーリーが居ればビュ〜ってしてドッカーンって出来るのに〜」
「ビュ〜ってしてドッカーン?」

 通信を聞いていた亜乃亜がしばし考え、やがて何かを思いついたのか顔が明るくなる。

「ビュ〜ってしてドッカーン、ね?」
「分かったのかヨ?」
「ビックバイパー、モードセレクト《IDATEN》モード! スキャン全開、エネルギーコアサーチ!」

 エイラの突っ込みも無視して、亜乃亜はビクバイパーのモードを変更、更にワームの全身をスキャンしてエネルギーの高い部位をサーチしていく。

「発見! そこ!」
「援護するわ」

 亜乃亜が何かをするつもりらしいと気付いたミーナが、イルカ型ワームに突撃する亜乃亜の軌道を確保するべく、援護射撃に入る。
 援護を受けながら亜乃亜はエネルギーの高い部位のセルを見つけ出すと、攻撃してその部位を切り離し、回収するとそのエネルギーを吸収していく。

「ゲ〜ット! これなら! スピード最大、ミサイルゲーット、オプションもらい!」

 セルから吸収したエネルギーを元に、ビックバイパーの兵装が次々と強化されていく。

「セルのエネルギーを吸収してます!」
「できるのそんな事!?」
「どういう仕組みよ」

 ソニックダイバー隊が唖然とする中、ビックバイパーのバーニアが噴煙を増し、複数のオプションが出現していく。

「あっちもすごいナ」
「うん」
「亜乃亜いっきまーす!」

 ウイッチ達も感心する中、先程とは比べ物にならない高速でビックバイパーがイルカ型ワームの周囲を旋回し、小型ミサイルと貫通レーザーを叩き込んでいく。

「よ〜し、掴まってルッキーニちゃん!」
「了〜解!」

 銃を背負ったルッキーニが亜乃亜の足に掴まり、二人が急加速してイルカ型ワームに突撃していく。

「いっちゃえ!」
「え〜い!」

 加速しながら亜乃亜から発進したルッキーニが己の固有魔法の光熱多重シールドを展開。
 そのまま体当たりしてして一気に大量のセルを破壊していく。

「トドメ行くわよ! どいて!」
「うじゅ〜〜♪」
「ドラマチック……バーストー!」

 亜乃亜のプラトニックパワーを最大に取り込んだビックバイパーから、無数のサーチレーザーが放たれ、イルカ型ワームを貫く。

「一斉攻撃!」
『了解!』

 セルの再生が始まる前に、ウイッチ達の一斉射撃が次々とイルカ型ワームへと突き刺さる。

『セル破壊率、70、75、80%! 構成限界突破します!』
「崩壊と同時に爆発するそうよ! 防御を!」
「こっちだサーニャ!」

 連続の強力な攻撃の前に、とうとう限界に達したイルカ型ワームが崩壊、大爆発を起こして消滅する。
 前もってその事を聞いていたミーナの声に反応してそれぞれがシールドを張り、エイラはサーニャを連れて爆発範囲から素早く待避する。

「やったよ!」
「敵、破壊を確認!」


「……倒しちゃった」
「信じられません……」
「こっちも行くわよ! クアドラフォーメーション!」
「「クアドラ・ロック」座標固定位置、送りますっ!!」

 負けじと四機のソニックダイバーがイルカ型ワームの直上を取ると、急降下しながら取り囲む。

「行くよゼロ!」

 他の三機が援護射撃する中零神が突撃し、イルカ型ワームにMVソードを突き刺す。

「座標、固定OKっ!!」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『クアドラロック!』

 四機のソニックダイバーがリンクして人工重力場を発生、イルカ型ワームを囲むと同時にMVソードからナノマシンと融合中のナノマシンデータを直接送り込み、ホメロス効果を強制的に発動させる。

「セル転移強制固定、確認っ!!」
「アタック!!」

 瑛花の号令と同時に、人工重力場内でセル組成が急激崩壊していくイルカ型ワームに全火器を発射。
 限界に達したイルカ型ワームはとうとう爆発して完全崩壊した。



『こちら雷神 一条。ワーム殲滅を確認』
「よくやった。全員戻って…」
『まだいる』 

 帰投指示を冬后が出そうとした時、サーニャの呟きにブリッジがざわめいた。

「園宮!」
『レーダーには何の反応も……』
『来る』
『散開!』

 ミーナの指示で全員が散る中、海面から何かが飛び出したかのような水しぶきが上がった。



「何かいる!」
「どこ? どこ?」
「何も見えないよ!?」
「そこ!」

 敵の姿が見えない中、唯一サーニャだけが反応して20mmロケット弾を放つ。
 噴煙を上げて飛来したロケット弾が何かに命中し、画像がぶれるようにヒラメと思われる平べったい異様な姿のワームを数秒だけ映し出す。

「ワーム!?」
「今少しだけ反応が……光学、電子両方の迷彩機能を持ってます!」
「亜乃亜!」
「はい!?」

 サーニャの呼びかけにその場を動いた亜乃亜の髪の先端を、高速で通り過ぎた何かが千切る。

「きゃああ! 髪が!」
「見えた?」
「私の未来予知も、相手が見えないと分からないゾ!」
「動体、赤外線、速すぎて捕らえられません!」

 完全に透明なヒラメ型ワームに、全員がたじろぐ。

「サイズは恐らくC−。けど……」
「そこか! そこか!」
「出てきなさい! 卑怯者〜!」
「円陣を組んで弾幕を! サーニャさん指示を!」

 闇雲にMVソードを振りまくる音羽やデタラメにレーザーを撃ちまくるエリーゼに、ミーナが鋭く指示を出す。

「全員背中合わせに! 死角を作らないで!」
「サーニャさんを中央に! 分かるのは彼女だけよ!」

 瑛花とミーナの指示に基づき、全員がサーニャを守るように背中合わせに円陣を組む。

「どこ! ワームはどこに!?」
「9時の方向、離れてる。今こっちに……潜った」
「え〜ん、分かんな〜い」

 全員がかりで周囲全てに視線を巡らせるが、姿が全く見えない相手に異常なまでの緊張が続く。

『大丈夫か!?』
「敵の位置が全く分かりません。サーニャの力に頼るしか……」
「私もやってみるわ」

 未知の能力を持つワーム相手に冬后も瑛花も打つべき手が分からず、ミーナも己の能力でワームを見つけるべく固有魔法を発動させる。

「危ない!」
「真下!?」

 まるで能力発動で無防備になる瞬間を待っていたかのように、ヒラメ型ワームが姿を消したまま海面から飛び出し、その口から無数の半透明の触手がミーナへと襲い掛かる。

(シールド、この数では間に合わない!)

 相手の攻撃が自分の四方から同時に来る事が分かるが、防御が間に合わない事を悟ったミーナの眼前に、半透明の触手が襲い掛かる。

(美緒!)

 思わずこの場にいない副官の事を思った時、突然半透明の触手の先端が弾け飛ぶ。

「え?」

 四方から迫ってきていたはずの触手の先端が次々と弾け飛び、のみならず触手その物にまで次々と穴が開いていく。

「攻撃か! 誰だ!」
「私じゃない!」
「私でもないゾ!」
「そもそも、誰も撃ってません!」

 何が起きているのかまったく分からない者達が叫ぶ中、サーニャと可憐がその何かの存在を掴んだ。

「何か、小さな物がワームを攻撃しています!」
「すごく小さい……感じるのがやっとだけど、大きな力を感じる」
『一体何が起きている!』
「そ、それが……」

 伸びてきていた触手全てが無数の穴で千切り飛ばされ、ダメージで僅かに姿を晒したヒラメ型ワームが再度海面下へと潜っていく。
 そして、高速で動き回りながらワームを攻撃していた物が、動きを止めてミーナの前に姿を現した。

「次元転移反応確認。指定条件に全項目一致。今からあんたが、ボクのマスターだよ」
「人形!?」

 それは、全長が15cmくらいの少女の姿をし、灰色のボディスーツに漆黒の戦闘用アームを装着した、奇妙な存在だった。



「何ですかアレ!?」
「知らん!」
「まさか……武装神姫、だと?」

 カメラに映し出された、小さな応援の姿にブリッジ内が騒然とする中、島副長がポツリと呟く。

「島副長、知っているのかね?」
「いや、私が若い頃に、従兄弟が熱中していたオモチャに似てるのです。ただ、それはただのオモチャだったはず………」
「だが、あれはどう見ても兵器だ」

 艦長の言葉通り、ワームと戦える程の力を持った黒の武装神姫の姿に、二の句を告げる者はいなかった。



「ボクは武装神姫・悪魔型MMSストラーフ、あんたは?」
「ストライクウイッチーズ隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐よ」
「ふ〜ん、って後だね。また来るよ!」

 ストラーフの言葉通りに、海面からまた何かが飛び上がる。

「そこ!?」
「アタック!」

 姿は見えないが、大体の位置を予測して皆が撃ちまくる。

「違うって! もうあっちにいったよ!」
「何で分かるんですか!? 風神のセンサーでも捕らえられないのに?」
「そこ」

 ストラーフが指差した方向に、サーニャの自分でも感知した場所と重ねて攻撃するが、わずかに外れてロケット弾はそのまま飛んでいく。

「ストラーフ、だったわね。相手の位置が教えられる?」
「もっといい方法あるよ!」

 ミーナの問いかけに、ストラーフは笑みを浮かべて飛び出していく。

「地獄の門を、ノックするよ!」

 ストラーフは格闘戦用大型武装腕GA4“チーグル”アームパーツを振り回し、そこにある物を殴りつける。
 オモチャサイズとしか思えないはずの格闘腕が殴りつけると、まるで巨人にでも殴られたかのような衝撃で、透明だったヒラメ型ワームが姿を現す。

「もう潜らせたりしないよ!」

 水中に逃げる暇すら与えず、連続しての左右の打撃が炸裂すると、その度にヒラメ型ワームの体が歪み、轟音が響く。
 ヒラメ型ワームの動きが完全に止まり、そこにダメ押しでシュラム・RvGNDランチャーのグレネード弾が叩き込まれる。

「きゃはははっ!」

 爪楊枝の先端程のグレネード弾が、まるで強力な爆発物でも食らわしたかのような爆発を起こし、皆が驚愕する。
 ストラーフの小さな体とは裏腹の破壊力に、ヒラメ型ワームの透明化は完全に消え、セル修復のために動きが止まっていた。

「今の内! クアドラフォーメーション!」

 その隙を逃さず、ソニックダイバーがフォーメーションを展開、クアドラロックで相手を捕らえた。

「アタック!」
「攻撃!」
「お返し!」

 瑛花の号令と同時に、ソニックダイバー隊だけでなくウイッチと亜乃亜も一斉攻撃を開始。
 過剰砲火の前になす術も無く、ヒラメ型ワームは爆散した。

「やったぁ!」
「倒した〜♪」
「敵殲滅を確認!」
「負傷者0、上出来ね」
「ふぅ、作戦完了!」

 音羽とルッキーニが歓声を上げ、瑛花とミーナが素早く現状を報告。

『全員よくやった。すぐに帰投しろ』
「了解」
「助かったわ、ありがとうストラーフ」
「えっと……これからよろしくマスター!」
「これから?」

 ストラーフの言葉に、ミーナが微かに違和感を覚えた時だった。
 ソニックダイバーとビックバイパーが同時に甲高い警報を鳴らす。

「なんダ!?」
「異常磁力反応確認! これは、ミーナさん達が現れた時と同じです!」
「間違いない、転移反応! 何か来る!」
『今度は何だ!?』
「……来る!」
「え、何ダァ!?」

 全員が騒然とする中、サーニャが上空を見つめる。
 つられてそちらを見たエイラが、そこに見える予知に絶句した。
 そこに、ウイッチ達が飛ばされた時と同じ渦が出現すると、中央から巨大な影が飛び出してくる。

「な、何あれ!?」
「ミサイル!?」
「違うわ! でも一体何!?」
「飛行機でも船舶でもありません!」
「まさか、宇宙船!?」

 奇妙に尖ったシルエットを持った、見た事も無い機影を持ったそれは、亜乃亜が思わず叫んだような、SF映画に出てくるような宇宙船のような姿をしていた。

「待って、中に誰か乗ってる……けど、人間じゃない!?」
「どういう事!?」
『何が起きている! 状況を報告しろ!』
「謎の大型機体が突如として出現! 中に何かが乗っている模様!」
『何かってなんだ!?』
『待ってください! 出現した機体から通信を傍受しました!』

 ミーナの固有魔法解析が更なる混乱をもたらす中、タクミが更なる情報をもたらすのだった……


『ティア、フェイン…ティア、フェインティア聞こえていますか?』
「聞こえてるわよ!! ここ何処? どーなたの!?」
『それは、私に対する質問ですか?』
「ちーがーうー!! …ってまあ、質問には違いないか」
『状況の整理を提案します、フェインティア』
「はあ、…続けてちょうだい」
『我々は脱出直後に、何らかの手段で超長距離転送されたと思われます。今のところ、それしか分かりません』
「わかんない? ここ未知の宙域なの? 計画されてた掃討戦はどうなったのかしら。私たちも脱出したはいいけど、帰還できないこんな状況なんて。マズったわね。こちらTH44 FAINTEAR! 現在宙域不明! ここは、どこ!?」






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