安田しん二レコーディング日記
私、安田しん二のスタジオ、FAB ROCKS REC. HOUSEでの奮戦記です。
FAB ROCKS REC. HOUSEはNon DIGITALにこだわった、
ANALOG専門のレコーディング・スタジオです。

2001年6月13日水曜日
 今日は、朝9時にタッキーに家まで迎えに来て貰い、途中、家系ラーメンの『吉田家』でラーメンを食べ、伊豆に向かいました。よすおさんは、もうすでに前日に行ってるので、私達は熱海あたりで電話を掛けてよすおさんを起こし、真空管の機材に電源を入れておいて貰います。そうしないと真空管が温まらず、着いてからすぐにレコーディング出来ないからで、今日はスタジオに着くなりすぐに録音する意気込みでいるのであります(結構めずらしいかも)。しかし、やっぱり思った通り、今日もレコーディングではなく、半田付けが始まっちまいました。そしてそれからなんと、マイクロフォン・チェックへと突入してしまったのです。

 マイク・チェックは、AKGのD12を2本(1本はタッキーのです。私ももう1本買ったのですが、それは今日自宅に届いたみたいです)とD12E、それとD19CとD19Eを聴き比べしました。感想は一言では語り難いですが、あえて言うとすると、D12とD12EではEの方が音の張り付きが良く、Eじゃない方が逆に音が太いかなと思いました。一概には言えませんが、どちらかと言うとEの方がヴォーカル、Eでない方がキックに向いてる(アタックを出したければEでもいいかも)のでしょうか?D19CとD19Eでは、Cの方がレンジが広くて張り付きが良く、Eの方が昔っぽい音って感じかな?

 さて、マイク・チェックを終え、やっと録音開始。曲は「ただそれだけさ」。先ず最初は、「前回録音したタンバリンの音が気に入らないので録り直そう!!」と言うことになり、それ用にマイクを立てます。そして、音が気に入る様になるまで、マイクを何度も取っ換え引っ換えします。そして、「これだ!」というマイクをセレクトしました。しかし、いつもタンバリンの時に使ってるマイク・プリ・アンプの方がどうも良い感じにならないので、それの真空管を換える事にしました。そこでまたまた時間を取り、一時中断します。真空管を取り換えて「これこれ」と、ようやく音が気に入って来たので録音開始。そこからはわずか数分で終わってしまいました。
 続いては、よすおさんのギターを録ります。これも以前録ったものの演り直しです。音を決め、録り始めるとあっと言う間に終わってしまいました。使用ギターは私のマーチン000−28です。音の方も結構なじみました。

 録音が終了すると、タッキーは都内で仕事があるので帰っていきました。翌日の夜にまた帰ってくる事になってます。タッキーお疲れ!

2001年6月14日木曜日
 今日は、久々にVOXのオルガンでも入れてみようかと思います。昨日のウチにオルガンをセットし、よすおさんがチューニングをA=440(私達は440に合わせてます。以前は441でしたが……)に合わせます。なにしろ、年代物の楽器なので、チューニングやメンテを含め、色々と大変です。
 大方の準備が出来たところで、いよいよレコーディング開始。曲は、昨日の続きで、「ただそれだけさ」。弾き手は勿論私。まだフレーズも固まってないので、暫くはテープ・レコーダーをイン・プットの状態(弾き音をモニターする状態で、実際には録音してない状態)で何度かプレイします。それから試しに録って、それを聴き、段々フレーズを固めて行きます。
 当然のことながら、私とよすおさん、2人きりでレコーディングしてる時は、私が弾く時はよすおさんがテープを回し、彼がディレクションもしなくてはいけません。しかし、よすおさんがまたポケ〜っとしてて、デレクションどころか、テープのレック・ボタンを押すタイミングが早かったり遅かったりで困ってしまいました(しっかりしておくれ〜)。よすおさん曰く、「俺はベーシトだもん」なんでしょうが、それじゃ困るんだけどなぁ(ちょっと愚痴っぽくなってきました。反省反省)。私達は結局、この“ポケ〜”のせいで、録ったトラックを消してしまうハメになってしまうのでした。私はショックで数分間口が利けず、よすおさんは「ごめん……」と言うばかり。消してしまったのはこのオルガンのパート、場所はギター・ソロをやってるところです。私は今更また同じ事をやる気が起きず、気を取り直す為に10分程休憩して、「よし!!オルガンは止め!そこはメロトロンを入れよう!」と方向転換するのでした。これもレコーディングのドキュメンタリーです。こんなハプニングがあって、作品は出来上がっていくモンです。打ち込みとはそこが違うんだよね、うんうん(と1人で納得)。
 さて、メロトロンを入れると言ったまでは良かったんだけど、このメロトロンの機嫌をとるのは、VOXのオルガンの機嫌をとるより数百倍も難しく、たかだか10数小節録るのに相当な時間を掛けます。なにしろ弾いてる最中にチューニングが変わっちゃうんだから……。特にここ最近は調子が悪いので、かなり大変。原因は“モーター・カード”なんでしょうか?でも、これをメンテ出来る人を私は知らないのです。誰かどなたか知らないでしょうか?知ってましたら是非教えて下さいm(_ _)m。

 よすおさんは、明日他の仕事が入ってるとかで(アルバイトで誰かのバック・バンドをやってます)、夕方帰って行きました。その間私はこの山荘に独りぼっち……。さ・さ・さみしい……。夜中の1時近く、やっとタッキーが帰って来てくれました。タッキー、逢いたかったよ〜〜。タッキーは私の自宅に寄って、私が留守中にウチに届いた荷物(新しく購入したマイクロフォン!!)を持って来てくれました(これも嬉しいかぎり!)。

2001年6月15日金曜日
 来週に行われる、「ただそれだけさ」と「憶えているかい?」のミックス・ダウンに向けてのレコーディングはほぼ終り、後はトラックをまとめたり、移したりしなくてはいけません。私のレコーディングではコンピュミックスはしないので、ピンポンは日常茶飯事に行われます。先ずは、プリ・ミックスをしてみます。タッキーと2人で、「ここがどうの……」だのという話をしてる中で、昨日録ったオルガンにリヴァーブを掛けて、まとめようという事になりました。最初はタッキーの持ってきたエレクトロ・ヴォイス社のスプリング・リヴァーブを掛けてみましたが、「もっと美味しいリヴァーブを持ってるよ!」と私はフェアチャイルドのスプリング・リヴァーブ“659”を引っ張り出してきました。タッキーは「こんなの持ってたんだぁ!」と驚いてましたが、実はこれを使いこなすのは大変なんです(また、大変かぁ!!)。何故なら半分イカレてるからです。先ずは、タッキーがこいつを分解して中を診ます。部品交換をいつかしようと言う事にはなりましたが、今回はこのままなんとか使ってみる事にしました。音の方は、やっぱり「グレート!!」としか言い様がない程、ゴキゲンなサウンドでした。ただ、レコーダーを止めてる時に、かすかに妙な音が聞こえ始めました。何だろうと耳を澄ますと、それは、このリヴァーブがどこかのAM局の電波を拾ってしまってたらしく、そこには“ザ・演歌”が!!!オイオイオイという感じですが、気にしないでピンポンを続けることにしました(これもそのドキュメント?)。
 プリ・ミックス・ダウンという事でラフに音を創ってますが、録り音の時点ですでに完成されているので、限りなく本チャンに近い形になってます。ただ、来週になりますと秘密兵器が登場しますので、それが来てから本チャンに挑もうと思ってるしだいです(ウキウキ楽しみだにゃ〜!)。

2001年6月16日土曜日
 今日は、またまたマイクロフォン・テストを行いました(スキだね〜、俺達も……)。タッキーと私のありったけのマイクをテストするのです。自分達のマイクロフォン・コレクション(?)をテストしてみましたが、始めから持ってる印象を裏切る事はほぼありませんでした。ただ意外だったのが、ほとんど同じ機種だと思ってたAKGのD190EとD190ESという2種類のマイク。この2つの違いはスイッチの有無だけかと思ってたのですが、なんと、音の方もかなり違うのでした。D190はあのD19の後継機種で、音気はやはりD19Cの流れを汲んでいます。ESは一応Eのオン・オフ・スイッチ付きバージョンと言う事ですが、D19の様な1960年代風の古くささはなく、この見た目からはとても想像つかない位、レンジが広いのです。もうちょっと詳しく言うと、EもESも、基本的な音の方向性は同じなのですが、レンジというか、ローの出方が違います。ESの方がローがよく出ています。一方、ローがあっさりしてる分、Eの方がESよりもD19Cに近く感じるのかもしれません。
 それから、ゼンハイザーのMD421も全部聴き比べてみましたが、同じクジラ(421の通称です)でも相当個体差があり、興味深かったです(白4本、黒1本)。曲とパートを選びますが、今のところやはり初期型スクリプト・ロゴ(最初のロットでかなりレアだと思います)の421が私の一番のお気に入りです。

2001年6月20日水曜日
 今週はいよいよミックス・ダウンです。実は前日にスタジオに行く予定でしたが、“秘密兵器”がまだ自宅に届かないのです。私の予感ではお昼頃届くと思うのですが……。“ピ〜〜〜ンポ〜〜〜ン!!”(この際チャイムの音は何でもいい!)、き・き・き・来た!!「や〜すださ〜〜〜ん、荷物でーーーす!」、ハイハイ、受け取りました荷物。急いでタッキーに電話して、「荷物来たから今から出発しよう!」と。それから数時間してタッキーはやって来ました。タッキーのペットのワンちゃん、“スヌ”を知人に預け、急いでスタジオへGO!!スタジオに着く頃には日が暮れていて、「今日はとりあえず温泉でも行って明日に備えよ〜!」と、先ずは風呂に入りに行きました(やる気あんのかねぇ〜)。それから、夜の飲み物を買い出しして、いよいよ荷物を開けます(実はもう自宅で開けてました)。この“秘密兵器”の正体は、あのビートルズさんご用達、“テレフンケンU73b”と言う、2台のコンプ・リミッターなのです!!ビートルズご用達のコンプと言えば、普通フェアチャイルドの660や670を思い出しますが、それは後期の話で、中期までは確実にテレフンケンU73bを使ってたと思われます。実はこのテレフンケンU73b、タッキーも2台購入したのでした(彼のは来週届きます)。つまり、私達は今後、最高4台のテレフンケンU73bを一度に用意する事が出来るのであります(これは凄い!!いよいよオタク!)。
 さてこの新兵器ですが、音を確認する前に、先ずは配線図に目を通し(そのままでは使えない)、半田付け作業をしなくてはいけません。今日はよすおさんはお休みなので、タッキーが半田係です。タッキー、早いとこ頼むよ!ウイ〜〜ッ……(すでに酔っぱらってる)。

2001年6月21日木曜日
 御楽しみの秘密兵器、テレフンケンU73bを使ってのミックス・ダウンは、先ずは「ただそれだけさ」からです。この曲のヴォーカルの音量調整をします。早速テレフンケンU73bを掛けてみますと、もうビックリ!!ホントにいい感じです。そして、コーラスのピンポンにもテレフンケンU73bを使用しましたが、バッチリではありませんかぁ!あんまり楽しいので、ミックスも忘れて、色々なトラックに試しに掛けてみることにしました。オモシロイ、オモシロイ!ただ、これはコンプのくせにメーターが無いのと、入力調整がこの機械では出来ないので、常識的には使い難いかもしれません。それでもその掛かり方や、音色は申し分ありません。なんと美味しいのでしょう!!美味いラーメン屋を発掘したのと同じくらいの感動が………。私とタッキーはこれのディスクリート版のU373aというコンプも持ってますが、U73bの方が遥かに感動的な音色です(流石、真空管!!でも、もちろんU373aもとっても良いです!)。
 U73bで遊ぶのも良いのですが、そろそろミックスを完成させなくては……。私達は我に戻り、あせってミックス・モードに気持ちを切り替えます。しかし、いったん始まると、あれよあれよという間に出来上がってしまいました。ミックスを終え、実際にはそれほど手こずる事もなかったのですが、なんだか集中しすぎたのか、疲れてしまい、「この後は温泉にでも行って労を労う事にしよう!!」と、レコーディングを早々と切り上げ、温泉に行く事にしました(のこりは明日!私は「明日があるさ」をご機嫌に大声で歌いながら、温泉へ行くのでありました)。

2001年6月22日金曜日
 今日は「憶えているかい」のミックスを2ヴァージョン演るつもりです。ひとつは、サビのところからほんの少しだけフィル・スペクターっぽくなる(でもモノではないです)リヴァーブ・ヴァージョンと、あくまでもドライなサウンドで行くドライ・ヴァージョンの2つです。よくフィル・スペクター・サウンドと言うと、ステレオでエコーを深〜〜〜く掛けて、「はい、出来ました」というプロの方々がいますが、私はそれには「ちょっと待て!!!」と言いたいですね。…………まあ、他人の事はどうでも良いんですが……。
 リヴァーブ・ヴァージョンの方は、バランスもまとまっています。しかしこの場合、あまり神経質にまとめすぎるとかえって音楽が面白くなくなるので要注意です。普通エンジニアの人って、やっぱりキレイにまとめすぎる傾向があるのですが、そこんとこはタッキーと何度もディスカッションしておきますので、私達の場合問題有りません。
 普段、タッキーと私のミックスでの役割分担は、バランスを私がとって方向性を定め、逆にタッキーには客観的な視点からサウンドを見ておらうようにしてます。たとえば、「ちょっとこれだと歌のサウンドが弱い」だとか、「そのバランスにするんだったら、こことここの音同士が干渉しあってるから、どちらかの音をいじったほうが良いよ」などと、細かく指摘してくれます。そして、そんなときはコンプなどのエフェクト類をいじったりもしてくれます(まあ、それだけじゃないけど、大まかにはそんな感じかな?)。
 ドライ・ヴァージョンの方は結構ラフですが、バランスはリヴァーブ・ヴァージョンのミックスを演ってる時にある程度出来上がってたので、結局1時間くらいで出来てしまいました。
 2つのヴァージョンともそれぞれ気に入ってますが、今更、なんだか自分の歌が気に入らなくなって来てしまいました。きっといずれ録り直すのだろうと、ひとり密かに思ってるわけであります(あ〜恐ろしや〜)。


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