安田しん二レコーディング日記
私、安田しん二のスタジオ、FAB ROCKS REC. HOUSEでの奮戦記です。
FAB ROCKS REC. HOUSEはNon DIGITALにこだわった、
ANALOG専門のレコーディング・スタジオです。

2002年2月前半
 さていよいよ今日は、よすおさんのギタロンと私の歌を録る日です。よすおさんは昨日から練習してますが、普段ギタロンの練習をサボってたせいもあり、結構厳しそうです(しっかりしてくれー!)。タッキーは、昨日の時点で一度ギタロンの音を聴き、マイクロフォンの選択、立て位置等を大まかに決めています(細かいことは、本番直前にもう一度)。現在、よすおさんとタッキーの頭はすっかりギタロンでイッパイで、「すでにもうそこからは離れられない」と言う状態なのですが、そんな事より問題は、な、な、なんと歌詞がまだ出来てないと言う事です(2人は知らない、そんな事)。結構ヤバイです。どうやら、人のギタロンの心配をするよりも、自分の心配をした方が良さそうです。
 ところでこのギタロンっていう楽器ですが、皆さんはご存知でしたか?簡単に説明しますと、これはメキシコのマリアッチなどで良く使われる民族楽器で、形はギターのスタイルをずんぐりむっくりさせた様な、ちょっと不格好なアコースティック・ベースだと思って下さい。弦は6本で、スチール3本、ナイロン(だと思う)3本と言う面白い構成で張られています。フレットは、ウッド・ベース同様有りませんで、弦がネックの指板から弦高(ゲンコウ)高くかなり浮いた感じとなっております。と言う事は、「相当弾き難い」と言う事です。しかし、音の方はその形からはとても想像出来ないのですが、以外にもウッド・ベースにとても良く似てます。
 よすおさんがギタロンを買ったのは1995年で、私と一緒にロスアンゼルスに初めて行った時(よすおさんはこの時が2度目)で、ロサンゼルスの「サンセット通り」と言う、ちょっと危ない所に楽器屋さんが沢山並んでいる通りに有るのですが、そこの一画に有るメキシコ系の楽器屋さん、『バルデス・ギター』と言うお店だったと思います。たしか、私とよすおさんの他にも、よすおさんのお友達で、当時ロサンゼルスに住んでいた元女子プロレスラーのMちゃん(現在はナント、超有名関取の奥様)、他にもやはり現地に住んでる私の友人など、大勢でそこへ行った憶えがあります。そこかどうかは忘れましたが、やはりその通りは、よく日本人が楽器を買いに来るみたいで、ちゃんと日本語で「イラッシャマセ」(“イ”の字が抜けてるぞ!)と入り口に書いてある楽器屋さんとかも有りました。
 ギタロンを日本に持って帰って来て暫くすると、異変に気が付きました。ケースを開けるたびにおが屑がふいているのであります。始めは、単なるカスがケースの中にまだ残ってると言う程度に思ってたのですが、毎回毎回、掃除をしてもおが屑が出てくるので、「これは変だぞ」と思ってると、案の定、木食い虫の様な虫が楽器の中にいたのでありました。よすおさんは、これをタンスの防虫剤で見事に駆除し、事無きを得ましたが、でもなんだか変な感じですね。

 さて、話はまたレコーディングに戻しましょう。
 よすおさんがギタロンを録音する前に、私としては歌を入れておきたいです。普通は楽器を録ってから歌を録るのが当たり前ですが、ギタロンの場合、チューニングと言うかピッチをとるのが容易ではありません。ですから、歌は他のピッチの良い楽器を聴きながら録音し、ピッチの悪い楽器は、あとから歌にピッチを合わせる様にしたいからです。ところが、先程書きました様に、歌を録りたくても「まだ歌詞が出来てな〜い!」なのです。困っちゃいました。これでは歌は勿論の事、ギタロンまで録る事が出来ません。この事をタッキーやよすおさんに言うと、「!!!!」………まあそうでしょう、ビックリするのも無理はありませんね。でも、ビックリしててもしょうがないので、午前中からマックの前に座りながら、歌詞を考える事にしました。正面にマック、横にはマーチンのアコースティック・ギターを置き、タッキーやよすおさんが“コトッ”と音をたてると、「うるさ〜〜〜い!!」と言います。自分が創って来なかったくせに、「俺って、かなり身勝手だなぁ」と思いながらも、そう思うのもほんの一瞬で、あとは詞を書く事に打ち込んで行きます。私の場合、曲やアレンジなどにしてもそうですが、乗るまでは凄く大変なのです。が、いったん乗ってしまえばあとはガンガン行けますので、最初、いかに集中して入り込んで行くかがカギなのです。私が詞を書く時にいつも大変だと思う事は、「何を、どんな事を詞にするか」と言う事をひねり出す事です。これは、いざ机の前に座って考えても、パッと出て来るものではありません。普段からずうっと心掛けておかないと、アイデアは浮かばないのです。自分が生活をして行く中で、ふと気付いた事や、ハッと思った事など、それを何処かに書き留めて置き、膨らまして行くのです。ただ私の場合、普段からこまめにメモを取る方ではないので、せっかくその様なアイデアが出ても、直ぐ忘れてしまったりします(あ〜あぁ)。が、実は今回はもうどんな事を詞にしようか、詞のトピックは練り上がってたので、いつもよりはとても気が楽でした。あとは言葉をはめる事だけで出来るのですから……。ただ、この「言葉をはめるだけ」と言うのも、結構大変なんです(なんだ、全部大変だと言ってるんじゃないかぁ!)。私は、言葉を曲に当てはめる場合、必ず歌ってはめて行きます。でないと、音としても美しくないからです。歌詞は詩でもありますが、歌として曲に乗っかってる以上、サウンドでもあるのです。よく作詞家に詞を付けて貰うと、がっかりする事があるのですが、その大半はサウンドとしてのノリが悪かったりするからです。これは、歌いながら書く人と、そうでない人の詞では、ノリが全然違い、作曲者の私には直ぐ分かってしまいます。私の場合、「“言葉”は頭で考えず、歌って決める」なのです。
 今の段階で、詞の最初の一節だけは出来てます。しかし、タッキーとよすおさんは、まさか出来てるのは最初の一節だけだとは思ってませんので、私もプレッシャーに感じます。そのくせ、書いてる途中で、彼らに「どれどれ」とか言って覗かれると、「覗くんじゃぁねぇーよー!」と言って怒ります。私は集中出来ない時には、無理やりに集中はしません。って言うと、とてもぐうたらに聞こえますが、無理に集中しようとすると、“煮詰まる”原因になってからなのです(私達ミュージシャンがよく使う、“煮詰まる”と言う言葉は、壁にぶち当たってしまう事で、それとよく似た言葉で“煮詰める”と言うのとは、意味が全然違います。因みに“煮詰める”と言うのは、アイデアを構築したり、まとめて行ったりする時に使います)。ですから、ちょっと煮詰まりそうになると、直ぐ他の事をして、また元に戻る、という事をしょっちゅうします。他の事というのが、30分や1時間の時もあれば、1〜2分位の時もあります。そして、いったん集中してしまうと、何時間でもそのモードに入り込め、普通は4、5時間位は簡単に集中します。例えば、2、3時間位なら、ずうっと同じ姿勢のままでいる事もザラで(例えば、ピアノを弾く時ならば、首の角度は、ずうっと斜め下を見る時の形)、そういう時は身体の何処かがおかしくなってしまったりします。今回は、ノルまで2〜3時間、ノリ始めたら、3〜40分で詞が書けてしまいました。変かもしれませんが、私の場合こう言う事が多い様です。
 詞が書き上がったら、直ぐに歌録りに入ります。私は歌録りをする際、自分でマイクを選び、調整し、そして自分でテープを回し録ります。そうです、普通の自宅録音の様に、1人でレコーディングするのです。その間、他の人達は何処か外へ出掛けます。今回も今まで同様の演り方で録りました。これには良いところと悪いところがあります。その説明はまた長くなるので、いつか機会がある時に致しましょう。それから、歌を録ってる時にも詞の直しはやります。実際、マイクに向かってから感じるところも多々あるからです。ギターを手に持って歌いながら言葉をはめても、実際にホントのオケに合わせてみると、ノリが合わかったり、イメージが違ってたりしますので、これは当然の事かもしれません。今回はリード・ヴォーカルの他に、バックグランド・ボーカルも沢山入れました。歌が録り終ると、「やれやれ」と言う感じになり、ギタロンのレコーディングは更に翌日にする事になりました。この後、近くの露天風呂へ直行し、身体を休めました。

 さて、翌日になっていよいよギタロンの登場です!!お待たせ致しました!!では早速録りましょうか。私がテープを回し、1コーラスが終ったところで、気が変わりました。「やっぱ止め!エレキ・ベースにしよう!」。よすおさんとタッキーは鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしてました。「なんだったんだ、今までのは!」と言う感じでしたが、私にはどうしてもギタロンのピッチが気になってしまうのでした。普段、例えばメロトロンにしろ、私はピッチの悪い楽器をイッパイ使ってるのですが、やはり、低音楽器がピッチが悪いと、どうしても気になります。それと「楽器が弾きにくい為、フレーズを少し変えなくてはならない」と言うのも、いけなかったのかもしれません。結局、リッケンの4001ベースとフェンダー・ベースマン100という組み合わせで録音しました。「ン〜〜、ばっちりじゃん。始めっからこれで行きゃあ良かった」。タッキー、よすおさん、怒っちゃだめよ。ねっ。

2002年2月19日火曜日
 今回はいよいよ次の曲、「R&Bちゃんちゃかちゃん(勿論、仮題!)」の録り直しをします。先ずは、今まで録ったところのトラックを聴き直します。ドラムス、アコースティック・ベース(byよすおさん)、メロトロン・ストリングス、エレキ・ギター・パート1、エレキ・ギター・パート2(byよすおさん)、ガット・ギター(byよすおさん)、ウーリッツァー・エレピ、ローズ・エレピ、コーラス(4パート)と録ってありますが、このうち、エレキ・ギター・パート2をアレンジし直して私が録り直し、ベースはよすおさんがヘフナーのヴァイオリン・ベースで弾き直しし、メロトロンもフレーズを変え、この他にアコースティック・ギターを入れる事にしました。
 1日目である今日は、いつものように予定だけ立ててそれで終り。メンバーは私の他にタッキーで、よすおさんは夜中にFAB ROCKS REC. HOUSEにやって来ました。

2002年2月20日水曜日
 「R&Bちゃんちゃかちゃん(勿論、仮題!)」の録り直し。先ずはエレキ・ギター・パート2の代わりに、2本ほどフレーズを変えたエレキ・ギターのパートを入れます。場所場所によって楽器を取り換えて録りました。その間よすおさんには、私のギブソンJ−160Eの弦を張り替えといて貰い、楽器に馴染ませておきます。私の好みですが、ギブソンのアコースティック・ギターには、張りたての弦ではない方が好きなんです。
 今日は結局、エレキ・ギターとアコースティック・ギターのパートのみで終ってしまったのですが、エレキ・ギターのパートは音創り(マイクや周辺機器選びと、マイクの立て位置の決定等)よりは、楽器選びの方で時間が掛かってしまいました。私のレコーディングは特に、元音が命です。当然、私は録る時にはイコライザーを使う事を嫌いますので、楽器や弦、ピックに至るまで慎重に選びます。そして、その後マイクロフォンや周辺機器を選び、最終的な音により近い音にして録っていきます。
 エレキ・ギターのパートが終ったら、今度はアコースティック・ギター、ギブソンJ−160Eの登場!今回はいつもとは違う弦を張って、音を録りました。
 最初、今までのアコースティック・ベース・パートは、音とフレーズを変える予定でしたが、エレキ・ギターとアコースティック・ギターを入れたら、「音色を変えるだけで、あとは今までのフレーズで良いのではないか」と思うようになりました。

2002年2月21日木曜日
 今日はよすおさんの誕生日です。だからと言って、ベース・パートを最初に録る何て事はしませんよ。今回は、よすおさんも弾く前から既にこの曲のグルーヴを捉えてる様です。ベースは、今日の最後のパートにして、気持ち良く終えたいです。
 昨日のギター・パートに、少し補強したい部分があったので、先ずはその準備から。ところが準備を終え、食事に出ると外は大渋滞で、結局は帰って来るのに相当な時間を要してしまいました。気を取り直し、ギター・パートを録り終えると、マルチのトラックを整理する必要が出て来ましたので、ギター・パートの数トラックをピンポンする事になりました。
 さて、“ピンポン”と言う言葉、レコーディングの場合、卓球の事を言うのではありませんよ。因に私のマルチ・テープ・レコーダー(MTRとかって言います)は24トラック・レコーダーなのですが、この「トラック」と言うのは、いったい幾つの楽器や歌を録音出来るのかという事を示します。例えば、24トラックと言えば、24パートと言う事です。ところが、幾つも録っていくと、24トラックでは足りなくなる事があります。そこで、録った幾つかのトラックを1つのトラックにまとめてしまうのです。これを“ピンポン”とか“トラック・ダウン”と言います。“トラック・ダウン”は“ミックス・ダウン”の意味でも使われますが、最終的に2トラック・レコーダーにミックスをする事を“ピンポン”とは言いません。これは、あくまで1つのMTRの内部でのトラックまとめの時にしか使わない言葉です。当然ですが、ピンポンをすると音質が劣化してしまうとされてるわけですが、私の場合、音質劣化とは考えず、音質変化と考えております。勿論、何度も何度もピンポンしてしまえば、音質劣化になるわけですが……。
 ピンポンをしてる所に、エンジニアのお友達、青ちゃんこと青野氏が現れました(彼は普段凄く忙しいんです)。青ちゃんをそのまま待たし、ベースのレコーディングに突入したのですが、よすおさんのノリも良かったのでアッと言う間に録り終えてしまい、飲み会に突入しました。青ちゃんは実に1年以上ここに現れなかったのですが、どうやら青ちゃん、私達の録った音に衝撃を受けてた様でした。ハハハハハ…………。


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