安田しん二レコーディング日記
私、安田しん二のスタジオ、FAB ROCKS REC. HOUSEでの奮戦記です。
FAB ROCKS REC. HOUSEはNon DIGITALにこだわった、
ANALOG専門のレコーディング・スタジオです。


 

2005年1月8日土曜日
 あけましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い致します。

 今年はBANANASのレコーディング以外でも、このプロジェクトでレコーディングする事が多くなると思います。現に、この正月からイデア・サウンドの『hanare』と言うプリプロ用スタジオで、曲書きとデモ・テープの制作を連日行ってました。

 昨日(と言うか今日ですね)、都内の『hanare』を出てから、よすおさんの運転する車で夜中に移動し、伊豆のFAB ROCKS REC. HOUSEに着いたのは、真夜中の3時を過ぎてました。で、結局寝たのは朝の6時近く……。それでも、今日はお昼には起きて、いきなり録音開始です(張り切り過ぎてて、大丈夫かな?)。

 先ずは「ひとり」、よすおさんがマーチン000−28でアコースティック・ギターのストロークです。これは意外とあっさりと録り終えてしまいました。さい先良いです。

 続いて「いつまでも」、先ほどよすおさんが弾いたマーチン000−28を使って。今度は私がコード・ストロークしました。録音マイクや機材もさっきと同じものを使いましたが、マイクの立て位置は微妙に変え、トーンや音の距離感をこのオケに合う様、調整して行きました。

 夕方、外に出掛け、食事と数日分の食料の買い出しを済ませ、FAB ROCKS REC. HOUSEに戻って来るなり、「いつまでも」のコーラスを録りました。この曲は、既にコーラスが入ってるのですが、それとは別の場所に入れました。今回も録音しながらフレーズや和音の積みを考えたのですが、今日はまだ昨夜の移動の疲れが残っていたので、無理せずに切りの良いところでレコーディングは終了しました。

2005年1月9日日曜日
 今日は「ひとり」にメロトロンのパッド(和音)を入れようと思います。
 メロトロンの音色はストリングスを使います。これを4トラックに分け、録音して行きます。そうです、単に「パッド」と言うのではなく、4つのパートがそれぞれのメロを奏で、オーケストラのストリングスの様な感じにするのです。ですから最後はトラック節約の為、いつもの様にトラックをピンポンしてまとめるのですが、今回はステレオでピンポンし、パートをLとRに振り分けたのです。
 実はスコアとかもプレイする直前に書き上げるので、けっこうそちらに時間が掛かってしまいました。特に私が使ってる五線紙の目が細かいので、読むのにも苦労します。普段は五線紙と言えど、コードとキメ、それからMTR用のカウンター・ナンバーくらいしか書いてないのですが、今度はそれ用の五線紙を特注しようかと思ってます。因みに現在使ってる五線紙も私の特注で(名前とかは入ってません)、それは全18段で3段譜に分け、線が入ってる仕様です。これには表面も裏面も有るのですが、今度は裏側だけをもっと目の大きいものにしたいと思ってます。

 17時30分、青ちゃんがFAB ROCKS REC. HOUSEに登場。青ちゃん、へとへとです。これには理由が有って、実は青ちゃんの予定では、道路の空いてる昨夜の夜中に移動してここへ来る予定になってたのですが、私が注文してたギター・アンプが今日の午前中私の自宅に届く事になってたので、それをピック・アップして貰う為、道の混んでるこの時間の移動になってしまったのです。それから私、着替えも家に忘れて来てしまったので、それも青ちゃんにお願いしました……。

 早速、私は青ちゃんが持って来てくれたアンプを試奏し、とても“ご満悦”でした。青ちゃんはこころなしか顔色が悪い様な…。で、疲れを取るため、今日はこれから露天風呂に入りに行く事にしました。今日のレコーディングはこれでおしまいです。メロトロンをステレオ・ピンポンしたので、結局今日は2トラックしか埋まってない事になります。でも、なんだか凄く沢山演った様な気がするんだけど……。

2005年1月10日月曜日
 
今日もメロトロンを録ります。
 ここではもう何度も書いたと思いますが、メロトロンと言う楽器はとても扱い難く、しかしその本領を発揮すると、ノスタルジー感溢れる独特の雰囲気で多くの人々を魅了します。それは「デジタルのサンプラーなどでは決して表現出来るものではない」と断言できます。これはかえって楽器が完璧ではない為なのか、「苦労する分だけ、その使う人の個々の味が出る」とでも申しましょうか、……不思議な楽器であります。
 今日も私が朝一番に起き、家中のストーブに着火し、機材の電源を入れ、メロトロンの電源も入れて置きました。メロトロンは電源が入ってから暫く経たないとモーターの回転が安定せず、私の場合、約1時間をその目安にしてます。
 メロトロンの電源が安定するのを待つ間、朝食をとったり、今日演る曲のメロトロンのスコアを書いたりしてました。そして、やっと録音開始。時計を見ると既に夕方近くになってました。

 先ずは「そっと I THINK SO」。今回は「当時私が創ったデモ・テープ(当時の本チャンのアレンジはほぼ同じです)に近い形でアレンジし、更にそれを“打ち込み&デジタル”ではなく、「“生演奏&アナログ”で演る」と言うコンセプトで演る事にしました。
 この曲の作曲&アレンジをした頃の事は、かなり昔ではあるのに、実はアレンジのどこにこだわったのか結構憶えてるのであります。デモ・テープも4回くらい録り直したはずです。と言っても、打ち込みのデモ・テープ4回など、生で演る1回に比べれば楽なもんです。
 と、ごたくを並べてる間に「そっと I THINK SO」のメロトロンも入り、早速ステレオ・ピンポンを済ませました(スコアにしたので、和音を一度に弾いたのではなく、一音一音単音で重ねて行きました)。

 今日は「そっと I THINK SO」のスコアだけではなく、「肩の力を抜いて」の一部のスコアも書いたので疲れました。この後、青ちゃんは東京に「ひとり」のラフ・ミックスを持って帰る事になっています。ですから、そのラフ・ミックスを創ったら今日は終わりにしようかと思いました。
 ラフ・ミックスは青ちゃんに任し、私とよすおさんは夕食の支度を始めました。しかし、コントロール・ルームから聴こえて来るのは、なんと「道」。ドラムの音をいじったりったりして、きっと青ちゃん、思うところが有ったのでしょう。
 しかし青ちゃんったら、暫くしてもまだ「道」を流しています。と言うか、段々バランスが取れて行ってる感じがします。私は台所からコントロール・ルームに出向き、「青ちゃん、何演ってんの?」と聞くと、青ちゃんは「ラフ・ミックスだって言ったでしょ!!!」と強い口調、私は「「ひとり」を演るんじゃなかったの?」と冷たく言うと、青ちゃんは「あっ!!!………」。きっと、昨日私がアンプと着替えのピック・アップを頼んだばかりに、渋滞にハマってしまい、その疲れも重なって、頭がウニ状態になってたのでしょう。「しょうがないなぁ〜…。青ちゃん、せっかくだから「道」にメロトロン入れよう!いいから…」。青ちゃんが間違えて「道」のラフ・ミックスを創った事で、なんだか変な創作意欲が湧いて来てしまいました。そして、結局「道」にもメロトロンは入ったのでした。と言っても単音での裏メロですが…。んで、どうなったかと言いますと……、それが良いんです。何が幸いするか分りませんね、ホント。これだからアナログ・レコーディングは止められません。

 結局、「道」に続いて「ひとり」のラフ・ミックスを創り、夜遅くに青ちゃんは東京に帰って行きました。

2005年1月11日火曜日
 
「いつまでも」にメロトロンを入れようと思います。朝起きて、早速メロトロンの電源を入れて置きました。電源が安定するまでの間、朝飯の支度をしたり食べたりし、その後私がコーヒーなどを飲みながらスコアを書きます。今回も単音で4パートのストリングスを入れて厚みを持たそうと思います。いつもですと台所か、録音ブースのメロトロンのところかピアノの前 でスコアを書くのですが、今回はコントロール・ルームへ行き、MTRのロケーターを操作しオケを聴きながら書きました。その時、ヤマハのストリングス・キーボード、SS−30をミキサーの上に置き(うっ、乱暴だ!でも、狭いから…)、それを弾いたり、浮かんだフレーズを口ずさみながらオケに合わせて行きました。こうする事で、一つ一つのパートがよりメロウになるのです。実際にオケを聴いて浮かぶフレーズですのでバッチリなはずですが、しかし、音域によっては和音とぶつかってしまう事もあります。コードにない音が出て来る時、上手くテンションの音になってくれるくれる時と、音が濁ってしまう時があるのです。それは実際に音を出して判断するのが一番早いんです。普段は、なるべくコードから外れない様にもしますが、こればかりですと、音は濁らずとも広がりはあまりありません。と言うわけで、とりあえずスコアは書けました。一旦ストリングス・キーボードを元の位置にかたづけて、メロトロンの置いてあるブースへ行って録音開始です。あとは実際にメロトロンの音色で入れてみて、録音と同時に確認と訂正をして行きたいと思います。
 ところどころ音符を入れ替えながらもメロトロンのストリングスの録音は完了。後はコントロール・ルームへ行き、録れたパートのバランスをミキサー上でとって確認し、ピンポンしておしまい……と行きたいところでしたが、もうちょっとだけ明るさが出る様にと、さっき使ってたストリングス・キーボードの音で更にトップ・パートを重ねました。メロトロンの音で明るさを出すと言うのは難しいです。もともとメロトロンってのはウエットな音色が売りですので…。それに対して、ヤマハのストリングス・キーボード、SS−30では明るさが出し易いです……と言うよりも、明るくしかならないのです。これを調子に乗って使い過ぎると、恐ろしく取り返しのつかない事になってしまいます…(あ〜、ソリーナが欲しい……。状態の良いのないかなぁ…)。「取り扱い注意」とはこの事を言うのだと思います。そうだ、今度ステッカー貼っちゃおうっと。
 さて、ストリングスのバランスを取ってピンポンしたのですが、どうもメロトロンの方のトップの音色が強いんです。ですから、トップの音のフェーダーを下げぎみにしてミックスします。それでもまだ音が浮いてる感じがします。でも、フレーズが浮いてるって事はないと思います。何故なら、あのただでさえ浮きやすいSS−30の方はちゃんと馴染んでいるからです。ま、いいかぁ。それにしても随分フェーダーで下げちゃったなぁ…。なんだか残念です。もしかしたら私の耳が疲れていて変に聞こえてるって事も有るので、元のトラックは消さずに置き、後日もう一度ピンポンのミックス・バランスを確認したいと思います(普段はピンポン後、直ちに元トラックを消す事になります)。
 続いてもメロトロン。今度はコーラスの音色でさきほどのストリングスの音に和音の厚みを足します。もちろん、同じスコアでは音が広がらないので、スコアを新たに書き足します。と、これでようやくさっきのストリングスのトップが多少馴染んだ気がしました(それでも100%満足したわけではないのです。私の耳が疲れてるから満足出来ないのかなぁ)。
 ここで、さっきのストリングスとは別トラックにピンポンし、この曲のメロトロンはこれでホントに終わりです。

 続いては「肩の力を抜いて」のメロトロンです。たまたまさっきの曲と同じチャンネルにメロトロンを重ねて行ったのですが、ここでもやはり1パートが浮いてるのです。これは絶対におかしい!ってよく見ると、ミキサーのEQのスイッチがオンになってるではありませんかぁ!しかもトリムまで上がってる。私は普段はEQは使う習慣がないので油断してましたが、考えてみたら、昨日ラフ・ミックスを創った時に青ちゃんが創ったセッティングがそのまま残ってたのでした。これはお恥ずかしい凡ミスです。結局、この曲の録音&ピンポンの後に、「いつまでも」のピンポンを演り直しました。それにしても不幸中の幸い、元のトラックを消さないで良かったです。

2005年1月12日水曜日
 今日もお昼近くに始まりました。「先ずは、お昼ご飯の前に1トラックでも録ってしまおう」と言うことで、「いつまでも」のギターから始めます。
 最初は私のパートから始めます。
 実は、今年に入ってから、ミニ・アンプを3台も買ってしまいました。1台は私が買ったVOXのブライアン・メイ・モデル(青ちゃんに先日、私の自宅からピック・アップして来て貰った、例のアンプがこれ)。それから正月、私と青ちゃん、よすおさんとで都内の楽器屋さんに行った時に、たまたま“お正月特価”で出ていたので、「こりゃ安い!!」と青ちゃんが買ったVOXのミニ・アンプ(トランジスタ。ここでの1日分の酒飯代よりも安かった…)。それから私とよすおさんとで買った、60wのVOXベース・アンプ(まだここへは持って来ていません)。今回のギターはこの2台のギター・アンプを使ってレコーディングするつもりです。

 続いて、今度はよすおさんがエレキ・ギターを弾きました。途中、私の弾いたパートの音色が気に入らなくなり(ちょっと歪み過ぎた)、代わりに別の音でよすおさんに弾き直して貰ったり、よすおさん大活躍です。途中、遅いランチを取り、弾き終わったのが夕方になってました。「先ずは、お昼ご飯の前に1トラックでも録ってしまおう」と始めたギター・ダビングでしたが、実験的な事にも挑戦し、ついつい熱が入りすぎてしまった様です。

 さて、時計の針を見ますとあと数十分で17時になります。「それまでにタンバリン、それからカスタネットを3トラックほど録ってしまおう!」と言う事となり、今度こそはセッティングも素早く、テイク1〜2で全て録り終えてしまいました。カスタネットは棒の先にカスタネットが付いたやつで……、あれは正式名称なんて言うんでしょうかね?ま、「カスタネット」には違いないんですが…、てな事を考えながらトラック・シートに書き込みをしてたら、タンバリンのところに「カスタネット」と書き込んでしまい、よすおさんにツッコミを入れられてしまいました。「お前、これは“カスタネット”とは言わないぞ!“タンバリン”だぞ!」と言うので、「えっ?でも、たまにはそう言わないか?」と言い返すと、「言わない」、「んじゃあぁ、昔はそう言ってたろ?」と更に言いますと、「言わない、言わない」、「この辺りじゃあ、そう言うだろぉ〜?」、「言わねえよ!」、「関西でもそう言わねえかぁ?」、「言うわけないだろぉ!」、「いや、言ってたよ。俺、言ってるの聞いた事有るもん!」、「言わない!!!!」、「………んじゃあ、これからはそう言おう!」、「ダメだよ!!」……と言う感じでしばらく押し問答が続きましたが、どうやっても私のブが悪いので、いい加減で諦める事にしました。

 何故だか解らないのですが、今日は露天風呂にでも行って暖まりたい気分です。18時には閉まってしまうと言うお風呂屋さんに急いで行って、ひとっ風呂浴びて来ましたが、その時、膝がとても痛いのに気付きました。見るとタンバリン……じゃない、カスタネットの形のアザが出来てるではありませんかぁ!おかしいなぁ、こんなところにタトゥーを入れた覚えは無いんだけどぉ……、あっ!さっきプレイした時に、カスタネットを膝に打ち付けて鳴らしてたからだぁ!

 風呂から帰って来て、普通ですとここで録音は終わってしまうはずなのですが、テスコのエレキでソロと前奏、オブリを録る事にしました。風呂上がりにギターなんて弾くと指先の薄皮が剥けてしまうのは承知してますが、「後で紙ヤスリで磨きゃあ良いかぁ」てなもんで、気にせずプレイ開始してしまいました。案の定、薄皮はギザギザになってしまいましたが、なかなか満足なソロが入り、嬉しくなりました。
 この曲にはメロトロンがバンバンに入っているのですが、しかし、それだけだと詞のイメージが一定方向にしか広がらないところ、このテスコのギターが入った事で、詞のイメージだけでなく、サウンド面でも広がりが出た気がします。

 と、これで「いつまでも」の録音は全て完了……と行きたいところですが、歌の直しをしたくなってしまいました。と言うのは、これを録った時、風邪が直った直後で、声がもの凄い鼻声なのであります。特に最後のサビのところがそうで、始めは、よすおさんや青ちゃんは「ん〜、鼻声だなぁ」と言ってたのですが、私自身はそれほど気にはしてなかったのです。声自体は良く出てる事もあって、「まぁ、それも味だよぉ!」と思ってたのですが、ここに来てオケが厚くなるにつれて、それが目立つようになってしまったのであります。とりあえず、元のテイクはそのままに、サビ・ハモの上パート(これが主旋律)のダブリング分として、もう1テイク録る事にしました。
 怪我の功名か、主旋律をダブルにした事で、雰囲気が更に良くなった気がします。ところが、やっぱり元のテイクが気に入らなくなり、結局はそれも録り直す事になってしまいました。

 今日は随分トラックを埋めました。夜、よすおさんと飲んでる時、膝のアザが痛みを増して行くのであります。ズボンの裾をまくり上げてまじまじと見てみますと、オバQの弟のO次郎の様な…(妹のP子ちゃんの方が更に近いか?)、アザになってしまってました。アザが「バケラッタ〜」とかって言いそうで怖くなったので、直ぐにズボンを戻し、酒を飲み直すのでありました。

2005年1月13日木曜日
 「そっと I THINK SO」のギターを私とよすおさんで4トラック入れ、その後ソロ・パートを私が2トラック、よすおさんが1トラック入れました。ソロは、私がテスコ、ES−335で演り、よすおさんには、リッケンバッカーの330の12弦で演って貰いました。よすおさんのソロは、始め私が演るつもりでしたが、ここは「弾き手が替わった方が面白い」と思い、よすおさんにお願いしました。よすおさんもなんだか嬉しそうです。私達のギター・ソロは、テクニックや即興性よりもメロを大切にする傾向があります。たいていの場合、録音しながらフレーズを構築して行って、決まったら本番と言うパターンが多いので、私達の間では「ギター・ソロ」と言うよりは、「リード・ギター」と呼ぶ事が多いのです。ですから、今回もそのフレーズを私が歌ってよすおさんに説明し、たまによすおさんがポロっと弾くフレーズを「あっ、それそれ、そのフレーズを次のところに入れて」なんて言って入れたりし、フレーズを構築して行きました。しかしもちろん、即興でパァ〜と録ってしまう事も多々有りますが…。

 今日の最後は、「ひとり」にティン・ホイッスルを入れました。これは短い序曲のところ、イントロ、間奏、オブリ、エンディング、それにソロ…と言う具合に出て来る場所が多いです。元々、浅香唯ちゃんのレコーディングの時には、私がシンセで演ったフレーズなのですが、そのフレーズのままティン・ホイッスルで演るわけです。鍵盤の手癖をそのまま笛で演るとなると、かなり難しいです。ケーナもそうですが、このティン・ホイッスルも吹く強さでオクターヴを変えます。指使いは、ラの音と上のドの音を行き交う時がとても難しいのです。シャープやフラットなど出て来た時はかなり参ります。ここで愚痴を言ってもしょうがないのですが、プレイし終わった時はグッタリと疲れてしまいました。

 私とよすおさんは、明日には一度東京の『イデア・サウンド・スタジオ』に戻って、「クエスチョンズ67&68」のギター(ゲスト)を入れなくてはいけません。それが終わったら、またここに戻って来るのです。とても忙しいですが、根性入れて頑張るしかありません(でも、なんだか楽しいのだ)。あっ、明日は私の誕生日だ!!1つ歳をとる前に家に帰りた〜〜い!!
 私とよすおさんは後かたづけを分担し、帰り支度を急いでし、よすおさんの運手する車に乗って伊豆を後にしました。

2005年1月14日金曜日 at『イデア・サウンド・スタジオ』
 
今日は19時から「クエスチョンズ67&68」のギターを入れます(これはゲストにお願いする事になってます)。ですが、その前に、もう一つのイデア・サウンドのスタジオ、『hanare』にて、他のプロジェクトのデモ・テープを2パターン創る事になってます。

 デモの方は、「クエスチョンズ67&68」のギター録りの時間までに間に合うように、なんとかミックス前までの状態までし、『hanare』から『イデア・サウンド・スタジオ』に移動して来ました。

 さて、いよいよレコーディング開始です。ギタリストは青ちゃんの昔からの知り合いの某氏で、私達と会うのはこれで2度目です。宜しくお願いします。
 使用ギターはストラトキャスターを3本持って来て貰い、この曲の2カ所で登場する早弾きソロを弾いて貰いました。アンプとファズに関しては、私達で用意。アンプは青ちゃんの持ってたフェンダー・デラックス・リヴァーブを使い、ファズは音を創るに際して何度も替えながらイメージに近づけて行きました。
 結局、音を創ったりするのにも時間を擁してしまい、再び『hanare』に戻って所用を済ませると、終電のない時間になり、青ちゃんに車で自宅まで送って貰いました(感謝)。家に着くともう日付が変わっており、私の誕生日はあっけなく終わってたのでした。

2005年1月18日火曜日
 前回のクールで録った、「ひとり」のティン・ホイッスルのソロですが、出だしのところのフレーズを直す事にしました。これは元々、私が浅香唯ちゃんのヴァージョンを録ってた時に、シンセで演ったフレーズでした。しかし、先週はそれと同じフレーズを演ったつもりだったのですが、家でラフ・ミックスを聴いた時もなんだかしっくり来てなかったので、ここへ来て改めてそのソロを聴いてみると、私の憶え間違えで、出だしがちょっと違う事が判明(しっかりしなさい…ってか?)。元のフレーズに固執する事もないのですが、やはりそっちの方が良いので、二度手間にはなってしまいましたが、演り直ししました。
 演り直したものを聴いても、やはり直した方が良かったと確信出来ました。よかった、よかった……、ホッ。

 私が行うレコーディング、演り直しなんて言うのはしょっちゅうあります。それを演る事自体、あまりスマートな事だとは思いませんが、演り直しをしてイヤな思いはその時だけです。その作品は一生残ります。それは、「重箱の隅を突っつく様な事」をするつもりはなく、ミス・トーンやリズムのヨレなどの場合は、「それも味」と解釈する事も多々あります(勿論、その逆も有りますが…)。
 昔、実家を建てる時に、その大工さんがうちの両親に、「気に入らないところが有ったら遠慮無く言って下さい。勿論、私達はいい気はしませんが、でもそれはその時だけですから……。その家に住む人達にとっては、それは一生ついて回る事ですから…」と言うのを盗み聞きした時、子供ながら凄く感動した事が有りました。私はその時の言葉を、私がレコーディングする時に、「音楽も同じだ」といつも肝に銘じているのです。10数年前酒の席で、先輩のミュージシャンにその話をしたら、「お前はバカか?」と言われてしまった事が有りましたが、その時の悔しさ(?)も有ったから余計にか、今でも頑としてそのポリシーを貫いてるつもりなのですぅ。

 今回初登場のグロッケンです。これは「ひとり」と「そっと I THINK SO」、両曲続けて録音します
 グロッケンはその鍵盤を叩いた後、もう一方の手でミュートしながら演りました。これには結構コツがいります。
 マイクはノイマンUー47fetを使い、コンプを掛けずに録りました。

 続いてはギターの音だけ創って、ラーメンを食べに『福々亭』へ。今日も『福々亭』のラーメンは美味かったです。スープまで全部飲んでしまいました(太るぞぉ!)。
 その後は夕飯の食材を買いにスーパーへ行きました。

 食事から戻り、「ひとり」のオブリをギターで入れます。これはよすおさんにプレイして貰いました。それが終わると、ジャズっぽい(オクターヴ奏法で)オブリも入れて貰いました。フレーズやそれの入る場所などは譜面ではなく、口頭で伝え、音色もなかなか良い感じに決まりました。この曲の雰囲気にピッタリだと思います。

 さてお次はいよいよ、私達が「ド・イントロ」と呼んでる部分に、何か入れなくてはいけません。浅香唯ちゃんのヴァージョンではシーケンス・フレーズが入ってたのですが、まさか「オール・アナログ=ノン・デジタル」を信条としてるBANANASのレコーディングで、シーケンスのシンセを入れるわけには行きません。始めはサンポーニャを使って、それらしいフレーズを入れようかと思ってたのですが、先ほどよすおさんが弾いたオクターヴ奏法のギターが良い様な気がして来ましたので、「それで行こう!」となりました。はっきり言って、私の気まぐれ以外の何者でも無いです…。
 このオクターヴ奏法、これでそのまま例のフレーズを弾いても雰囲気はとらえる事が出来ません。私達はこれを一音一音別トラックに録音し、それをエフェクター類は一切無しで何度かダビング、色々演ってるうちに、まるでオルゴールの様な不思議な音になってしまいました。ここでまたまた、「棚からぼた餅」的な成果が出ました。

 今日はよすおさんに頑張って貰います。先ほどのセッティングのまま、ティン・ホイッスルに合わせ、同じフレーズでギターを重ねて貰いました。私が「ここのフレーズはこんなノリ、あそこは少しだけこんな風に…」と細かく注文を出しますが、流石に長年の付き合いです。私が納得ところまで演ってくれました、それも完璧に(他のギタリストだと、そこまでは演ってくれないし、演れないかも…)……と言っても、そんなに時間が掛かったと言うわけでは有りません。

2005年1月19日水曜日
 
「ひとり」のド・イントロにチャランゴ、ワライチョ、ロンロコを入れました。これらは南米はフォルクローレの楽器ですが、不思議とこのド・イントロの雰囲気を盛り上げてくれます。

 さて、「ひとり」の最後はグレッチのギターです。私がサラっとサイド・ギターを弾きましたが、昨日よすおさんが一部のフレーズも「グレッチの音で録り直してみよう」と言う事になりました。決してよすおさんのプレイが悪いわけでは有りません。あくまでも音色に関してこちらの方が良いと判断したのです。勿論、よすおさんも同意見、録った後も「良くなったね」と納得してました。

 ご飯の後、「肩の力を抜いて」のワライチョ、ロンロコを録りました。やはり、この曲の途中のリズム楽器がなくなるところ(インター)での登場です。不思議と同じ様な楽器の構成でアレンジされていても、「ひとり」のド・イントロとは雰囲気が違います。

 続いてグレッチ・ギターを2トラック演って、ピンポンしました。

 グレッチ・ギターの録りが終わって直ぐに風呂に行って戻って来ましたが、今度は先日、私がストラトのアームを使って録ったフレーズをグレッチで演り直しました。これも2トラック使ってオクターヴを録り、それをピンポンしました。

 やっぱり、「ひとり」と同じ様にベースのディストーション・サウンドをインターの部分に録りました。ここはメロトロンの音域の下にあたる部分に低音楽器を入れる必要性を感じたからです。

 同じ様にインターのメロトロンの上にあたる部分にはヤマハSS−30ストリングス・キーボードをダビングしました。これでインターはそうとう厚みが出ました。この曲の曲中はロカビリー風ですので、この様なプログレっぽいサウンドにチェンジされるとなかなか面白いのではないかと思います。

 さて、その曲中のロカビリー風のところを更にそれっぽくする為、サイド・スティックを入れました。入れ終わると、それは思った以上にロカビリー風の雰囲気を出すのには効果的だと感じました。因みにサイド・スティックとは、ドラムのリムや胴をスティックで叩く奏法の事で、それ自体が楽器と言うわけでは有りません。

2005年1月20日木曜日
 今日のスタートは、肩の力を抜いて」のインターにケナーチョを入れる事から始めました。
 ケナーチョはケーナのお兄さんみたいな楽器です。ケーナがG管であるの対し、ケナーチョはそれよりか3音ほど低い、D管と言うのが一般的で、実はこの曲のキーがDと言う事も有り、ケーナではなくケナーチョを使う事にしたのです。ここで録ったケナーチョは、普段使うケーナよりも落ち着きの有る音色で、フルートの様な響きをしていました。
 ケナーチョを録り終え、この曲のFAB ROCKS REC. HOUSEでの録音は、とりあえずここで終わりです。後は都内の『イデア・サウンド・スタジオ』に戻って、チューブラ・ベルズを入れるつもりです。

 先月から始まった今回のBANANASのレコーディング、実は予定ではあと1曲演らなくてはいけません。それはその昔、合谷羊生くんに提供した、「いつだって君を想ってる」と言うナンバーです。つまりこれもセルフ・カヴァーですが、今回私達が他に取り上げた、森高千里、浅香唯、久松史奈と言った人達に比べると、合谷くんの名前を知ってる人は少ないかもしれません。
 先日、『hanare』で昔のデモ・テープを整理してた時、この曲の当時のデモ・テープも聴く事が出来ました。実は、私が「自称、作曲家」として、最後に人に提供したのがこの曲でした。それ以降、「これからは自分のCDが出るまでは、自分が歌う為にだけ曲を書く!!」と大口を叩いて宣言し、今日に至ってるわけです。そんな事を宣言してしまったが為に……と後悔しても、あれから早10数年が経ちました。「何故そんな事を宣言してしまったか」と言う事に関しては、いずれまた何かの機会に書く事にして、実はここのところようやくBANANASの方の活動も活発になって来た事で、やっと他アーティストにも曲を提供する気持ちになれました。ですから、少しずつではありますが、それもやって行こうかとは思ってるのです。
 と、まあ話しは逸れましたが、「何故この曲をセルフ・カヴァーに加えたのか?」と言うと、率直に言うと、「アレンジを自分で演りたかったから…」なのであります。当時の私のデモ・テープは、当然打ち込みでしたが、ドラム、ベース、コード・パッド、それにシンセのソロと言う、最小限アレンジのデモ・テープらしいオケでした。これに歌詞のない歌とコーラスが入ってたのですが、私自身結構気入ってた作品でした。当時は他のアレンジャーが、これを歌謡フュージョン風(?)にアレンジしてくれましたが、今回は「もしも“BANANAS”の安田しん二がアレンジしたら…」と言うコンセプトでチャレンジしたいと思ったのであります。

 今日は青ちゃんが来る事になってますが、まだここFAB ROCKS REC. HOUSEには到着してません。それまでの間、次にレコーディングする曲、「いつだって君を想ってる」のアレンジをして、私がチャラン・ギター(チャランゴとガット・ギターのダブル・ネック)、よすおさんがガット・ギターを持って2人でとセッションをしました。途中で私がチャランゴに持ち替え、セッションをしながら「ここはこんな風に…」と言う感じに打ち合わせて行きました。この曲のツボはテンポだと思います。レコーディングでもドンカマなどのクリック類を使わず、テンポが気持ちによってどんどん変化していく様に、2人でノリを合わせて行きました。
 結局、この曲の間奏部分にあたるところに別の曲を付ける事にしました。これは先日、ここFAB ROCKS REC. HOUSEで書いた曲で、フォルクローレ調の小曲です。いずれはこの小曲も一つの楽曲として、完成させたいと思ってます。

 そろそろお腹も空いてきたので、私とよすおさんとで行きつけの定食屋さんへ行き、その後、ウォーキングをしに某場所へ向かいました。そろそろ青ちゃんからも「もうすぐ着くよ」と携帯に連絡が入る頃です……と思ってたらタイミング良く連絡が来たので、青ちゃんには私達がウォーキングしてるところまで来て貰う事にました。
 青ちゃんと合流後、そのまま一緒にウォーキングをしました。ウォーキング途中、先日録った「クエスチョンズ67&68」のギターの事で、青ちゃんに「ねえ、あれってどうかなぁ?」と言うと、「んっ!!?それ以上言わないで…」とバツが悪そうです。まあ、こういう時の青ちゃんって、結局は私が満足出来る様にいろいろ考えてくれてるんで、私とよすおさんは余裕で待つ事にしました。でも、それでも一応、「私とよすおさんでギターを弾く」と言う案も用意はして有りますが…。

 ウォーキングから戻り、「いつだって君を想ってる」のレコーディングに入りました。私がチャランゴ、よすおさんがガット・ギターを弾き、同時に録音して行こうとなりました。マイクのセッティングもその様にして貰いました。途中の歌の一部もチャランゴのマイクから録ってしまいましたが、そこで歌を入れないと、次に楽器を弾くタイミングが取れなくなってしまうので、後から録るわけには行かず、やむなく入れたのです。で、どうせなら、チャランゴのマイクに回り込んでる音の方が雰囲気が有ると思ったので、あえて歌用のマイクを使わずに(本当は一応立てたが…)その音で良しとしたのです。
 私とよすおさんの同時レコーディングは、テイク1でOK。とてもノリ良く演奏出来ました。ですが、よすおさんが1カ所、私も1カ所間違えてしまいました。たとえ間違えても、このテイク1のノリを何度も出せるとは考えません。やはりテイク1ならではの緊張感も有りますし、これを何度も演ると、かえってだれたノリになる様な気がしてならないのです。
 私の方は、コードの押さえ方が悪かったのか濁った音が出てしまい、それを1小節だけ録り直して無事解決。よすおさんの方は、途中で1度だけコードを忘れてしまい、動揺したのかその直前リズムが早くなってました。私はその時はチャランゴをかき鳴らしてたので、回り込む音の関係上、同じ部分をよすおさんと一緒に弾き直しました。と言うわけで、コードだけ直し、リズムの方は今更そこを変えると次とのつじつまが合わなくなるので、そのままのリズムで押し通しました(後でそのリズムに合わせて他の楽器をプレイする事でなんとかなるだろうと……)。ところが、意外とこれが後で問題を生むことに……。

 この時点で、青ちゃんは「この曲のサウンドはどうなるのだろう?」と思ってたらしいのですが、ロンロコ、ワライチョとダビングをして行くうちに方向が見えて来た様でした。
 先ほどのリズムの直しですが、ロンロコ、ワライチョの方を、ガット・ギターのリズムに合わせて行きました。でも一向にリズムのヨレが感じなくなったかと言うとそうではなく、帰ってそれが強調された様な気がしました。これは困ったぞ…。

2005年1月21日金曜日
 
「いつだって君を想ってる」にチャフチャスを入れます。チャフチャスとはフォルクローレで使う鳴り物(パーカッション)で、山羊の爪を集めた物です。
 昨日録ったチャランゴ、ワライチョ、ロンロコ、ギターに合わせ、後からパーカッション系の楽器を入れると言うのは、レコーディングではタブーの様ですが、まだ身体が昨日のリズムを憶えてるうちに演ってしまえば、意外と良いノリが出るはずです。
 録りの方は問題なく、良い感じの音が録れましたが、プレイする時は大変でした。この爪の破片が細かい大鋸屑状態となって空気中に舞うのです。しかも終わった後は私の身体いっぱいにこの大鋸屑状の破片が……。「よすおさ〜〜ん、掃除機持って来てぇ〜〜〜」と、私は身動き一つとれない状態になってました。

 続いては、やはりフォルクローレのパーカッションのボンボです。この楽器の大きさと形状は、フロア・タムに似てますが、それに比べるとかなり軽いです。しかし、スタンド類は無く、私の場合、肩から掛けるか、又は座って股の間に挟むかして叩いてます。今回は股の間に挟んで叩いたのですが、録ってる途中、2度ほど大きな痙攣が有り、「何かに取り憑かれたのではないか」と、とても焦りました。
 いろいろ有りましたが、ボンボも無事終わり、「昼飯前にドラムをセッティングしよう」と言う事となりました。

 ドラムのセッティングをして、マイクも立て、ちょっとだけ叩いてみましたが、一度だけ試し録りの後、プレイ・バックもろくに聴かず、『福々亭』へ行きました。急がないと、休憩時間に入ってしまう為、3人とも気が気ではありません。こんな状態では「音がどうのこうの」だなんて言って、それを判断する事は先ず不可能です(ダメな私達です)。

 『福々亭』に行く直前の話しです。「ねえ、この曲、ケーナとか入れるつもりなんだけど、僕も吹けるけど、この曲に関しては名手のHさんに吹いて貰いたいなぁ〜」と言うと、青ちゃん「呼ぶかい?」と言うので、「イエ〜イイ!ピース!」って感じになりました。
 早速『福々亭』へ向かう車の中からHさんに電話し、快く来てくれる事になりました。これで更にこの曲に磨きが掛かるかと思うと嬉しくなり、つい車内で盛り上がる私でした。

 『福々亭』のラーメン、美味かった!!私も青ちゃんもよすおさんも上機嫌です。私もいよいよレコーディングに対してのやる気が出て来てます。
 FAB ROCKS REC. HOUSEに戻り、早速ドラムの音を創りました。今回のこの曲は、私流のマイクロフォンの立て方で録ることにしました。勿論、コンプやテープへの入力などの細かい判断は、青ちゃんに任せて有りますが、私の方からの注文も、手短にでは有りますが多めに出してます。
と、普通ですと、ここでかなり時間が掛かりそうですが、私と青ちゃんのコンビ、アッと言う間にイメージの音にたどり着きました。
 プレイ・バックを聴いて思った事ですが、別曲に変わるところがとてもロックなリズムです。これですと、せっかくフォルクローレの雰囲気を出したのが死んでしまいます。と言うわけで、ここの部分はドラムを入れるのを止め、ドラムは何処に入れるべきか、よく考えてみました。結局、主にサビの部分に入れる事になったのですが、最初はチャフチャスが入ってるので、ハイハットを抜こうかと思いましたが、プレイ・バックを聴くと、ハイハットとチャフチャスがケンカしてるわけではなかったので、ハイハットも入れる事にしました。それから、途中のところがクリックがないと演り難いので、ガイドのクリック代わりにカウベルを録り、それを聴きながらチャランゴやワライチョなどにリズムを合わせて行きました。カウベルは、ドラムスを録ったら直ぐにバイアスを掛けました(消去・イレースする事)。

 さて、なんとなくダラダラと演って来ましたが、最後はベースです。今回は新しく購入したVOXのベース・アンプを使う事にしました。実は、これが今回の楽しみでも有ったのです。
 3人でベース・アンプの周りに集まり、「あ〜でもない、こ〜でもない」と、まぁ、いつもの事ですが、始まってしまいました。
 3人の共通の意見は、「使えるよぉ〜、コレ」でした。よすおさんのヘフナーのベース(キャバーン・ベースではなく、オールドの方)はゲインが低いので、プリ・アンプをかましましたが、それでも音が悪くなったと言う事は有りませんでした。いつも使ってるフェンダー・ベースマンも良いですが、これもかなり良く、今後頻繁にレコーディングに登場してくれそうです。

2005年1月22日土曜日
 今日はいよいよ「いつだって君を想ってる」の歌録りです。普段は私達の場合、歌は最後ではなく、なるべくそのレコーディングの序盤で録りあげてしまう事が多いのですが、今回はこの様になってしまいました。
 何故最初に録ってしまいたいかと言いますと、「歌に合わせたピッチや音色で楽器をダビング出来るから」、「仮歌を歌わないで済むから」等々色々と理由は有ります。特に古い楽器や民族楽器などはピッチ感がまちまちで、歌を歌う時には「どの楽器にピッチを合わせるか」と言う事で悩む事もよく有るのです。今回はチャランゴやワライチョ、ロンロコなどのピッチの怪しい(?)楽器が多いので、出来れば最初に歌を録っておきたかったのですが、それも出来なかったので、仮のコードを入れてしまう事にしました。
 歌用の仮コードは、出来るだけ倍音の少ない楽器で演るのが私の理想です。今回はFAB ROCKS REC. HOUSEに置いてある、DX−7のソフト・パッドの音で録りました。私は歌う時、この仮コード、ドラム又はパーカッション、それにベースをモニターしながら歌います。因みにチャランゴやロンロコ、ワライチョなどはモニターするにはしますが、リズムのノリだけを聴く様にかなり小さい音量にしておきました。

 実は仮コードを録った後、直ぐに歌を録ろうかと思いましたが、「まだ喉が起きてない状態」だったので、それまでサイド・ギターなどを録り、それでもまだ「喉が起きてなかった」のでウォーキングをして、身体を温める事にしました。

 ウォーキングから戻り、「さぁ〜、演るかぁ」とモチベーションを高めて行きました。時計を見ると既に17時30分になってます。それで焦ったのか、はたまたモチベーションが上がったのか、喉のウォーミング・アップも含めて、3〜40分で歌録りは終わっちゃいました。
 今回は、1コーラス目、2コーラス目、そして最後のサビと、声の出し方を徐々に変えて歌って行きました。ですから、歌い出しを1小節ほど聴いたところでテープを早送りして、曲の最後の方を聴くと、かなり声や歌い方が違ってます。まあ、これは私のレコーディングではよく演る事なのですが…。

 やはり歌を歌うとお腹が空きます。ここで夕食のカレーライスを食べました(美味かった!)。これは青ちゃんが前日からコトコトと煮込んでた物です。青ちゃんはレコーディングをする傍ら、このカレーの鍋の状態をチェックする事にも必死です。こう言う事は、ここFAB ROCKS REC. HOUSEでは青ちゃんだけではなく、私やよすおさんなどもよくやります。私達は3人とも料理を作るのですが、そのメニューや誰が作るかと言うのは、別にキメ事は無く、ただなんとなくその時の気分や成り行きで担当が決まって行くのです。作る人は、食べる人のリクエストにも多少応えます。今回は私が「ココナツ・ミルク少し入れてよぉ」と言うと青ちゃん、「僕のカレーはココナツは入らないのっ!メッ!!」と言う風に、駄目出しされてしまいましたが、カレーを食べるとちゃんとココナツの香りがしました。青ちゃん「いつもワガママ言う人がいるから……」と言ってました。これ、青ちゃんの最近の口癖です(レコーディングでもよく言ってる)。「ワガママ言う人……」、これって誰の事かは解りませんが、あしからず…。

 さてお腹が一杯になって、コーヒーなどを飲んで一息し、いよいよコーラスです。コーラスは3回出てくるサビに入りますが、1回目はユニゾンでダブリング、2回目は3声のダブル(=6声)、3回目はなんと、4声をダブルダブル(これってなんて言えば良いのでしょうか?“フォグ”かなぁ?つまり4×4=16声)で演りました。勿論、16トラックもトラックはないので、ピンポンを何度もしました。ピンポンは1回だけですとそれほど音は変わりませんか、2回目以降からはガラッと変わって来ます。今回は一番上と下が目立つ様になってしまい(つまり真ん中辺りが引っ込んでしまった)、後日ここは更にダビングし、足そうと言う事になりました(凄いコーラスになりそうだぁ〜。結局、リード・ヴォーカルとそのダブリング分を含めると、22声の大合唱団になりま〜す)。

 今日の最後はメロトロンのコーラスとストリングスをダビングし、これで終了。後は『イデア・サウンド・スタジオ』でのダビングを残すのみです。

2004年1月29日土曜日 at『イデア・サウンド・スタジオ』
 今日からは場所をFAB ROCKS REC. HOUSEから『イデア・サウンド・スタジオ』に移し、レコーディングの大詰め、そしてミックス・ダウンです。

 「いつだって君を想ってる」にケーナとシーク(サンポーニャの本場ボリビア、現地語での呼び方)を入れる為、ゲスト・ミュージシャンの菱本幸二さんをお呼びしました。菱本さんは、あのボリビアのフォルクローレ・グループ、ムシカ・デ・マエストロスのメンバーでもあり、ソロ活動も活発に行ってる、日本屈指のケーナ&シーク奏者です。ケーナやシークの演奏スタイルは、まさしく本場ボリビアを感じさせ、その素晴らしい音色とメロディーを奏でる時の説得力は圧巻です。
 菱本さんがスタジオに到着し、一通り挨拶を済ませ、暫くは団らんの時間です。その間、菱本さんは楽器をさすり、管を暖めてました。
 私が菱本さんに曲の説明をして、吹いて貰いたいメロディーの一部をよすおさんに譜面にして貰ってから、いよいよ菱本さんがブースに入ります。
 今回立てるマイクは、ケーナにはノイマンのU269、シークにはAKGのC12と、いずれも真空管マイクの銘記達です。
 普通は、ディレクションをする立場の人はコントロール・ルームでプレイをチェックするのですが、今回はそれを青ちゃんとよすおさんに任せ、私は菱本さんと一緒にブースに入りました。そして、ヘッド・フォンの片耳を外して、楽器本体から出る生の音をチェックして行きました。これはプレイヤーとのコミュニケーションも取り易く、私がよくやる方法です。
 菱本さんには、ボリビア風のアドリブも披露して貰い、それによってもの凄く世界観が広がりました。

 さて、「いつだって君を想ってる」は本来これでダビング終了の予定ですが、コーラスがピンポンの繰り返しにより、バランスが変わってしまったので、抜けてしまった中音部に2声のダブル、つまり4トラックのコーラスを録音しました。これが「棚からぼた餅」になり、とてつもなく分厚いコーラスになりました。

 この曲のラフ・ミックスを創り、「いつだって君を想ってる」の録音はこれでホントに完了です。

 今日はディーガンのチューブラ・ベルズをスタジオに用意して貰いました。しかし、こいつがピッチ感が悪く、結局今日のところはチューブラ・ベルズはNGになりました。

2005年1月30日日曜日 at『イデア・サウンド・スタジオ』
 今日は「クエスチョンズ67&68」のギターを録り直しをします。この曲は何度か色々なギタリストを呼び録音したのですが、今度のギタリストは、伝説のギタリスト、S.Sさんです。S.Sさんのお名前は「CDが出るまでのお楽しみ」と言う事でお願いします。
 それにしてもあの難しいフレーズを完コピしてしまったS.Sさん、凄すぎます。おまけに「気」が入ってます。それもそのはず、この仕事をお願いする時、青ちゃんは「気が入ってないと浮いちゃうんで、Sさん以外考えられないんです」と言ってました。これがスーパー・ギタリストSさんの心に火を着けてしまったのでしょうか?始めは「完コピでお願いします」と天下のSさんに対して失礼な事を言ってしまったと思い、私は「もしなんだったら、完コピでなくても結構ですよ」と言うと、「いや、頑張るので完コピで演らして下さい」と…。凄いプロの意地を見ました。
 何でもこの曲のフレーズは、「人間業ではない」と言うほど凄いのです。先ずは音色を創って行くのですが、私と青ちゃんはその音を聴いた時点で、「今回は行けるかも!」と期待感が膨らんで行きました。「後は本人に任せよう」となり、テープのオペレイトを「ミュージシャン同士の方が良いだろう」と言う事で、アシスタントではなく(もちろんイデアのアシスタントは優秀なので、ホントは大丈夫なのですが…)、よすおさんが演る事になりました。
 それからはもうSとよすおさんの「2人の世界」です。途中、「あれ?ここんところ、フィードバックしてるねぇ〜」となり、それも再現。間奏後のギター・ソロは、アーム・ダウンを普通にスライド・ダウンで演ったのですが、それが同じでないのが気に入らなかったSさん、本来普段アームを付けてない自分のストラトにアームを付ける事に…。それからドライバーを持って来たりして色々演りましたが、合うアームが無く、結局青ちゃんが家に帰り(歩いて行けます)、アームを持って来て、その部分をプレイしました。ここまで演って貰って私達も感激、もちろんプレイもサイコーです。その後私達はハッピーになり、Sさんも誘ってみんなで食事に出掛け、「アナログ話し」に花が咲き、すっかり意気投合してしまいました。

 さてさて、昨日チューニングが悪かったチューブラ・ベルズ。ディーガンからパールへ楽器をチェンジし、今日再チャレンジです。ディーガンの物は倍音が複雑で、ここのブースの広さではピッチ感が変に聴こえてしまうのでした。
 数曲にベルを入れましたが、「どうせなら」と、今回とは関係ない曲のチューブラ・ベルズも入れてしまいました。

 さて、これで今回のオーヴァー・ダビングは全て終了です。明日からはいよいよミックスです!

2005年1月31日月曜日 at『イデア・サウンド・スタジオ』
 
今日からいよいよミックスが始まります。先ずは「クエスチョンズ67&68」から演りたいと思います。
 この曲のミックスは青ちゃんを中心に行って行きました。私は青ちゃんと一緒にシカゴの方のバージョンに近づける様に音のチェックをし、それ以外は青ちゃんの方法論に任せました。事実、この曲の録りも、リード・ヴォーカル以外は全て青ちゃんが行いました。
 この曲を録った時のエピソードは幾つか有ります。実はほとんどのトラックは数年前に録ったもので、実はこれが青ちゃんと私達の初セッションでした。
 最初にスタジオに入ったのは、ドラムス(ラディック。シカゴのダニー・セラフィンはスリンガーランドで演ったのかな?)の私、ベース(ギブソンEBーIII)がよすおさん、それにピアノ(ベーゼンドルファー。ロバート・ラムは何使ったんだろう?スタインウエイかな?)が西本明さん、と言う3リズムでした。
 思えば、このセッションの数週間前、場所は山梨にある『シェップ』と言うスタジオで、このレコーディングをするに当たって、私が「出来るだけシカゴと同じ様な音で(歌詞だけは日本語ヴァージョンで)録ると言うコンセプトなんだけど、青野さん、録ってみる?勿論、デジタル使用禁止だよ」と聞くと、「やる!」と即答が返って来ました。この一言から私と青ちゃんの今日の関係が始まったのかもしれません(実は青ちゃんは、この日はただスタジオに遊びに来てただけなのです)。今から考えると、まだ私達のコラボレーションとしては初期の録音の為、試行錯誤の部分も多いですが、それでも良い録音だったと思います。青ちゃんは1970年代初頭からエンジニアとしてのキャリアを積で来た大ベテランですが、多分あの日からレコーディング当日に至るまで、ずうっとこの曲の録音の事ばかり考えてたんだなと思います。もしかしたら、本人は否定するかもしれませんが、私の知ってる青ちゃんってそんな人なんです。
 シカゴ(この頃は、実は“シカゴ”と言うグループ名ではなく、“シカゴ・トランジット・オーソリティー”と言う、実際に存在する鉄道会社と同じ長い名前がついてたのです。多分、クレームが来たのかな?その後“シカゴ”と改名したのでした)の本家ヴァージョン、ピアノにもの凄いコンプが掛かってます。何故こんな凄いコンプを掛けてるのか、今でしたらその理由も解らなくはありませんが、この頃はそれを録りの段階で掛けてるのだと信じ込み、3リズムの録りの段階で私達はこの「強力コンプ」を掛けたのでした。私達と青ちゃんは、「西本さん、悪いんだけど、弾き難くてもがんばってその音で演って」と無理な注文を出すのでした。「分かった……」、仕方なく異常に長く掛かったコンプの音をモニタリングしながらプレイした西本さん、それ故凄くクールなピアノを弾いてた様でした。リズム隊を下からしっかり支えてるそのいぶし銀の演奏は、ロバート・ラムのそれにそっくりです。卓越したプレイと言い、センスと言い、流石は西本さんでした。西本さんはこの後スタジオにずっと居て、よすおさん達と仲良くなって、結局予定外の他の曲のピアノまで弾いて帰って行きました。

 3リズムを録った翌日、私は自宅で歌を録音して来ました。実は4トラックほど歌を録り、自分の好きなところをセレクトしたのですが、これをピンポンする時、当時のアシスタントのOが繋ぎ間違えをしてたのでした。実は4トラック録ったと言っても、聴くとほとんど一緒で、歌った私じゃないとその違いが解らないところも有るのですが、どうもおかしいと思った私はOに確認すると、「絶対間違えていない!!」と言い張るのです。そこまで言われてしまえばしょうがない、私はOの言葉を信用する事にしましたが、先日トラックを確かめると、見事に違っててたのでした。「“おかしい!”と思ったら、たとえそれが他人の領域でも、自ら確認せよ!」……これも教訓です……と言ってしまえばそうなんですが…。

 さて、歌も入り、ブラスのダビングの日がやって参りました。ブラスのパートはよすおさんがシカゴのCDからコピーして、とても丁寧な譜面にして来て有りました。ブラス隊はトランペットに数原晋さん、サックスが平原まことさん(娘さんはメジャー・ヒットを飛ばした、あの歌手だとか…)、トロンボーンは中川英二郎さんの3人です。ブラス隊リーダーの数原さんが譜面を見て、「ええっ!!これってシカゴの?」と言うので、「そうです。出来るだけ本物に近づける様に演りたいんですよ」と言うと、「分かりました。1時間時間下さい。ミーティングしますから」と言うので、「どうぞ、どうぞ、何時間でも…」となり、ブラス隊の皆さんはシカゴのテープを聴きながら、ミーティングに入ってしまいました。それから1時間強、「お待たせしました」と言ってさっそうとした顔つきで再びスタジオに現れて、気合い充分で録りが始まりました。ブラス隊がスタジオには入ると、普段はひとりにつき1本ずつ立ってるはずのマイクが1本しか有りません。青ちゃんが「スイマセン。多分この頃のシカゴもそうだったと思うので、1本でお願いしま〜っす。バランスはそちらで取って下さ〜い」。これで天下の数原さん率いるブラス隊が燃えないはずがありません。「本家シカゴに負けてなるものか」と、「もしかしたらラッパの先から火でも吹くんじゃないだろうか」と言うほどの気合いのこもった凄いプレイでした。感動、流石です。
 録音が終わると、「この譜面、貰って行っていい?」と、普段はスタジオ・ミュージシャンは譜面は持って帰らないのですが、珍しくおみやげ(?)をお持ち帰りです。「今度はBS&Tかチェイスを演ろう!!」と固い約束をして帰って行きました。未だにその約束は果たして無く、私は申し訳ない気持ちでいっぱいですが、必ずやまた、「コピー・シリーズ」でBS&Tかチェイスを演ろうと思ってるのであります。

 「クエスチョンズ67&68」の後は、「いつまでも」です。
 こちらの曲は、私と青ちゃんとでミックスしました。私達の演り方は、先ずは私がドラムとかの音を創って行きます。その後、自分が確実に出来そうなところを次々に音を創ったりバランスを取ったりしまして、飽きたら「はい、選手交代!!」と青ちゃんに任せます。お互いにそんな感じで2〜3回繰り返してるとミックスが出来てると言う感じです。2人とも飽きた時は恒例の休憩タイムです。何もしないで馬鹿話だけしてる時間がかなり有ります。
 最後だけは、2人でコンソールの前に座り、バランスの微調整をします。不思議な事に、お互いに目指すところがよく見えてるので、意見がぶつかると言う事はほとんど無いのです。それだけに信頼関係も強いのであります。

 「いつまでも」が終わると、3〜40分ほど掛けて明日の予習です。明日は「道」です。この曲のバランスを簡単に取り、ドラムだけは音を創っておきました。

 本来は1月中に7曲のミックスまで終わる予定だったのですが……、明日からは2月。あと5曲有ります。それに現在、BANANASと同じスタッフで他のアーティストの別プロジェクトも有るので、結局は予定を大幅に遅れてしまいそうです(予想はされてましたが…)。


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